機動武闘伝
ナデシコ

 

 

 

 

 

 

 

 

「さて皆さん!ホウメイさんの裏切りを初めとして、ムヅラアーミー軍団の登場、

命を掛けてナオ達に称号を継承したシャッフル同盟!

思い起こせば様々な驚きを見せてきたここ新宿シティでの戦いも、

いよいよ最後の時がやって来た様です!

果たして今日こそ!デビルホクシンはその姿を現すのでしょうか!

そして、アイとアキトの対決は!

それでは!

ナデシコファイト・・・

レディィィ!ゴォォォゥ!」

 

 

 

 

 

 

 

第十六話

「最強最悪!

デビルホクシン現る」

 

 

 

 

 

 

ユリカは自己嫌悪と、慙愧の念に苦しめられていた。

「私・・なんてことをしちゃったの!?操られていたとは言え、みんなを護るべき私が・・・!

・・・こうなったら、私もマスターホウメイを倒すのに協力するよ!

そうでないと・・私達を命がけで助けてくれたシャッフルの人達に顔向けできない!

それまで、ナデシコファイトは一時休止しようと思うの。」

「でも・・・・貰ってからこんな事言うのもなんだけど・・・なんか実感湧かないのよねぇ。」

壁に寄りかかりながら舞歌。所在なげなその手には、クラブ・エースの紋章が光っている。

「・・・・・・・・」

無言でサングラスを直すナオ。

だが、その姿勢で「このままで済ます気はない」と言っている。

拳を撃ち合わせながらリョーコ。

「ブラック・ジョーカーなんて肩書きには興味が無いが、

俺を良い様に利用してくれた奴らには、きっちり礼をしないとな。

いいか、てめえら!俺の足手まといにはなるんじゃねえぞ!」

「たしかに、無能な味方は敵以上に脅威だな。」

皮肉っぽくナオが返す。

リョーコの表情が見る間に険悪になった。

「よさないか、ナオ。」

「リョーコちゃんもよしなよ。」

ナオが黙り込み、リョーコの肩に手を置いたサブロウタがアゴを粉砕されて倒れる。

どうしようもない、と言う風にリョーコが吐き捨てた。

「くそっ!こんなにどうしようもない苛つきは初めてだぜ・・・・!

そいつは、ここにいるおめぇらも同じだろう!?」

 

 

 

 

ガイが溜息をついた。

「・・・こんな事で大丈夫なのかね?マスターとの戦いを前に・・」

「いいや。俺の敵は師匠じゃない。倒すべきはデビルホクシンとアイだけだ。

連中達とは関係無い。」

「でもよ、戦うなら協力しないと駄目じゃねえのか?個別撃破されたんじゃ面白くねえぜ。」

「とにかく・・・」

アキトが何か言おうとした。

「・・・地震!?」

足の下から衝撃が突き抜ける。見る間に激しい横揺れへと変わった。

アキト、そして新たなるシャッフルの戦士達を大地の怒りが容赦無く翻弄する。

「でかいぞ!」

烈震だ。震度にしてみれば六を越えていようか。

ナデシコファイターを初めとするごくわずかな者以外は立っている事すら出来ない。

一分が過ぎ、二分が過ぎても揺れは沈静化する兆しを見せなかった。

「なんだよ、この地震は!ちっとも収まらねえぞ!?」

「これ、異常だよ!」

不意に、彼らの足元が陥没した。

アキト、ナオ、舞歌、ユリカ、リョーコ、そしてクルー達が大地の亀裂に呑み込まれて行く。

偶然かどうか、彼らの姿が見えなくなると地震は嘘の様に収まった。

 

 

 

 

 

何処とも知れぬ地の底で、異形のナデシコがうずくまっていた。

その肩に、小さな人影が腰を下ろしている。

その体が放つ赤い燐光がこの広い空間をおぼろげに照らしていた。

背の高い、鍛えぬいた肉体を持った影が夢見る様に呟く。

「フ・・・・もう少し、もう少しでここから出られるよ・・・!

そう、その時には新宿ともおさらばさ・・・フフフ・・・ハハハ!ハアッハハハハハハハハ!」

時折その目に赤い輝きが灯り、薄れて消える。

それを見たホウメイの哄笑がますます大きなものになる。

・・・・・・わずかに空気が揺らいだ。

東方不敗マスターホウメイでさえ気がつかないほどの、かすかな揺らぎ。

それはしばらくたゆたった後、薄れて消えた。

 

 

 

 

新宿の地下は暗い。電気などはもう通ってはいないし、地上までは余りに遠い。

その暗闇の中で先ほどの地震で崩れ落ちてきた瓦礫の山がもぞもぞ、と動く。

と、思ったらいきなり崩れてその中からむっくり、とガイが身を起した。

腰のツールポーチの中から小型のマグライトを取り出し、辺りを照らす。

「随分落ちてきたみたいだな・・・。みんなとはぐれちまったか。」

何事もなかったかのように歩き出すガイ。

数百キロのコンクリート塊の下敷きになっていた男のセリフでは、断じてない。

ないと思うのだが・・・・・・。ガイであるからしてしょうがない。

 

 

 

 

 

「きゃぁぁぁぁぁぁぁっ!」

後ろから肩を叩かれた途端、体が勝手に反応していた。

裏拳をみぞおちにクリーンヒットさせた後、そのままの勢いで体を回転させ、

その運動エネルギーを乗せた重い回し蹴りの一撃を脇腹にめり込ませる。

左右のコンビネーションで三発、顔面、ボディ、顎、と極めた後、踏みこんで膝蹴り。

腹を狙ったつもりだったが、身長差のせいか膝からはやけに柔らかい手応えが伝わってきた。

「いやあぁぁぁぁっ!変態ぃぃぃぃっ!」

それがなんであるか理解した瞬間、無数の往復ビンタを顔面に叩きこみ、とどめに突き飛ばす。

三分後、騒がしい声の聞こえる方向に走ってきたナオが見たのは、

泡を吹いて失神したガイと地べたに座りこんでキャアキャア言っているユリカだった。

さすがにあの膝蹴りは効いたらしい。

ガイが復活するのに十分かかった。長いと見るか、短いと見るかは人それぞれである。

 

 

 

 

 

闇の中に、エネルギーの鎖が淡い光を放ち、

リョーコ、九十九、サブロウタらの顔を浮かび上がらせた。

「みんな、怪我はないか?」

「テンカワアキトや他のファイター達とははぐれてしまったみたいですね。」

九十九の質問にサブロウタが答える。

元一郎とネオアメリカのクルー達もいた。

「大丈夫か、ミスター。」

ゴートが無表情のまま声を掛ける。

プロスペクターが、この男には珍しくはっきりわかるほどの汗を掻いていた。

「プロスペクターさん・・・どうしたんですか?」

「・・・思い出したのですよ・・・。」

なぜか、一同がシンと静まり返った。

「マスターホウメイに捕まった時見たもの。それを、思い出したのですよ。

地下にうずまっていた巨大なナデシコ。まるで、眠っている様でした。

・・・・・・皆さんも見ていらっしゃるのではありませんか?

そう、見ているはずです。

あれは、恐らく我々の気付かぬ所から常に我々を監視している・・・。

さっきの地震も、デスアーミーの大群も、きっとあのナデシコが・・・・

そして今にこれだけでは済まない、もっと大きな事が起こる・・・そんな気がするのです。」

喋りすぎた事に気がついたかのように、プロスペクターが口をつぐむ。

誰も口を開くものはなかった。

再び大地が揺れ、地下道が揺さぶられても、なお。

 

 

 

 

「・・・・また地震?本当、一体どうなっているのかしら。」

足元から伝わる震動を感じて舞歌が呟いた。

即席の松明を持ったアキトが隣を歩いている。

地下道は何処までもまっすぐ続いているように思われた。

実際、さっきから十分以上まっすぐ歩いている。

不意に前方から「群れ」の気配がした。

すぐにキイキイいう小さな声が聞こえ、その正体を直感した舞歌が顔を引きつらせる。

反射的に悲鳴を上げて隣のアキトに抱きつき、よじ登る。

慌てるアキトの足元を、ネズミの大群が駆け抜けていった。

「・・・・何かから逃げてるみたい。」

「・・・・。動物は危険から身を避ける本能を持っている・・・まさか!」

アキトがいきなり走り始める。

舞歌はまだ背中にしがみついたままだ。

「どうしたのよ、いきなり!」

「ガイ達と合流して、急いでここを出ます!・・・ところで、もうそろそろ降りてくれませんか。」

 

 

 

 

 

 

唐突に、アキトの足が止まった。

後ろを走っていた舞歌がぶつかりそうになり、文句を言いかけようとして・・・口を閉じた。

前方の闇の中に、巨大な気配がある。

「舞歌さん。先に行ってて下さい。・・・早くガイ達と合流して、脱出を!」

「・・・・武運を。」

舞歌が身を翻し、脇道を走ってゆく。

闇の中から殺気を帯びて一直線に飛んできた布を、アキトが右手で掴んだ。

ゆっくりと、ホウメイが姿を現す。

「師匠・・・デビルホクシンの居場所はわかったぞ!」

「フン・・・今更遅いよ。」

ホウメイが薄く笑った。

何回目かの震動が、地下道を揺るがす。

ホウメイがマスタークロスを引き戻し、スカーフに戻す。

「復活だ・・・・デビルホクシンのね!」

「何・・・!」

「そう・・・・あの御方が復活するのだ!」

 

 

 

九十九達のいる場所の天井にひびが入った。

「くそ!これも・・・」

「いや待て!あの手はネオジャパンのMSのものだ!」

そのカズシの言葉通り、「ノブッシ」の顔が天井の穴から九十九たちを覗きこんだ。

「ありがたい!助かったぞ!」

ほぼ同時に、ガイや舞歌たちも救出されていた。

ただ、アキトのみはいまだに見つからない。

 

 

 

「ふふふふ・・・そろそろ時が来たようだね・・・我らが王の、復活だよ!」

「何ぃっ!?」

天井が崩れ、破片が落ちる。

大きめの破片で影が隠れた、その一瞬でホウメイの姿はアキトの前から消えていた。

光の差し込む地下通路にホウメイの声だけが響く。

「フフッ・・・・ハハハハハッ!もう遅いよ、テンカワ!

さあ、わが王のお姿を見て、もう一度考えなおしな!

そして、アタシと共に歩もうじゃないか!」

 

 

 

 

震動が激しさを増す。

新宿都庁に、真中から大きなひび割れが走った。

赤い、邪悪な光が天に昇る。

都庁の建物が、割れて行く。

赤く、巨大な球体が姿を現す。高さはたった今二つに割れた都庁ほどもあろうか。

それの持つ弾力を示す様に、ややつぶれた球の形。まさしく山のような威圧感。

表面は間違いなく機械などの、金属の部品で構成されているのに

どくん、どくん、と心臓の如く脈打っている。

 

びりっ。

 

赤い球体の天頂が破れる。

そこから覗いたのは・・蜥蜴のような巨大な顔と、

その顔の天頂から生えた蛇腹に繋がる赤い機動兵器の上半身。

 

ガイを始め、先ほど救出されたばかりの各国のクルー全員が直感していた。

それは紛れもなく、デビルホクシンと呼ばれる存在である事を。

「あれは・・・・!」

「奴め、灯台下暗しとは、良くも言った物だな。」

「しかし、何故奴は今までこのシンジュクを襲っていたのだ?」

「説明しましょう!」

その言葉に反応したかのように、腕組みをしつつ唐突に出現する影が一つ。

目元以外を隠す黒、赤、黄の三色に塗り分けられた布の覆面。

その後頭部、垂れ下がった覆面の端にはボンボンがついている。

グラマラスで均整の取れた肢体にドイツ風の軍服を隙なく着こなし、

その上から何故か白衣を羽織っている。背中には一振りの日本刀。

「私はネオドイツのナデシコファイター、シュバルツ=シヴェスター!!」

「・・・・・貴方、一体どこから・・・」

「そんな事はどうでもいいわ!」

彼女の説明を要約すると、今デビルホクシンは「自己進化」の最中であり、

いわばあの赤い球体は「繭」の状態である事。

ホクシンアーミー達は新宿を襲っていたのではなく、

地下のデビルホクシンを守っていたのであり、それと同時に

デビルホクシンが進化を遂げる為の滋養、つまり「エサ」だったこと。

地下の『兵隊』達が新宿の人々であると言うこと。

そして、それら全てが恐らくはマスターの計算どおりであるということ。

しかし、ただ一つマスターにとって思いがけない事だったのは・・・

「アキト君がここへ来たことだったのよ!」

 

瓦礫の中から這い出すアキト。

その目は無言のまま、デビルホクシンへと注がれている。

その前にマスターナデシコが悠然と立っていた。

「余りの素晴らしさに言葉も出ないかい?

そう、アタシは他の奴らと違って操られてなんかいない。

このデビルホクシンの強さに魅せられて、自らその配下となったのさ!」

「そ・・・そんな!」

「なるほどねぇっ!」

ホウメイの言葉に衝撃を受けるアキトの背後から、ナオの声が響く。

ナオ、リョーコ、ユリカ、舞歌。

いずれも既にナデシコを起動させている。

「「「「覚悟してもらおうか!マスターホウメイ!」」」」

「・・・・くくくくくくく・・・この雑魚共が・・・・・・ほざきよるわ!」

「シャラップ!前回優勝者だかなんだか知らないが・・ケリは着けさせてもらうぜ!」

拳を固め、突進するナオのナデシコマックスター。

「待て!ナオさん!」

「うおるぁぁぁぁぁぁ!」

マスターナデシコに向けて放たれたナオ会心のパンチが空を切る。

「ホワット!?」

一瞬、ナオは自分の目を疑った。自分の拳の上に・・マスターナデシコが立っている!

「この、身の程知らずがぁっ!」

蹴りの一撃。それだけでナオは吹き飛ばされ、ビルに激突してそのまま動かなくなる。

「ノオォォォォォ・・・・!」

「さあ!次々とかかって来な!」

挑発するホウメイ。

「なら!ローゼスビット!」

ユリカの気合に応え、無数の薔薇が。

「ぬおりゃあああああああああああ!」

リョーコの気迫を込めた鉄球の一撃が。

「私も!行くわよっ!」

舞歌の怒りが乗り移った龍の炎が。

「小賢しい・・・ならば!流派・東方不敗!」

左の掌を円を描く様に動かすホウメイ。

空中に炎で印された十二個の文字が円を描く。

「十二王方牌!」

「何っ!?」

文字の一つ一つが、マスターナデシコの姿を取り、渦を巻いた!

「大車併ぃーっっっっ!」

その渦巻きの前に全ては吹き散らされ、

三人は嵐に舞う木っ端のように宙に舞い、地面に叩きつけられた。

「師ぃぃぃ匠ぉぉぉぉう!」

アキトの怒りに応え、大地を裂いて姿を表すシャイニングナデシコ。

「うるさい!」

だが、怒りにまかせた突撃も、ホウメイの蹴り一つで跳ね飛ばされる。

「ぐうぅぅぅぅっ・・・」

「ふん!キング・オブ・ハートにしてこの未熟振り!

あの世でシャッフル同盟が泣いているよ!」

「!」

「あの御方が完全に目覚めるまでの時間稼ぎと思っていたけれど・・・・

アンタ達では余りに役不足。ならばそろそろ・・・・・とどめを刺してくれるよっ!」

マスターナデシコの肘から先が分離し、貫手が空を裂いてアキトに迫る。

「そうはさせないわ!」

だがその直前、アキトの前に謎の影が立ちふさがりそれを弾いた。

爆炎が上り、謎の影を覆う。

「ふふふふふふ・・ほほほほほほほ!東方不敗マスターホウメイ!

貴方の思う様にはさせないわよ!」

「何・・だと?」

「こ、これは・・・・・!」

煙が収まった後から現れたのは、旧世紀のドイツ軍士官を模したような一体のナデシコだった。

鉄兜に似た頭部。黒と白で塗り分けられ、将校の軍服にも見えるスマートなボディ。

両腕には格闘戦用のブレードが一振りずつ備わっている。

「私の名は、ネオドイツのシュバルツ=シヴェスター!

そしてナデシコシュピーゲル!覚えておいて貰いましょうか!」

ナデシコシュピーゲルが再び撃ち出された腕を分身してかわし、

天高く舞って腕のブレードでマスターに斬撃を浴びせる。

「で・・・できる!こやつ何者!?」

東方不敗マスターホウメイが、正面から受け止めざるを得なかったほどの一撃。

シュバルツは刃に力を込め、そのまま鍔迫り合いへと持ちこむ。

「し、師匠と互角に闘うなんて・・・!」

にわかには信じられない光景に呆けるアキトに、シュバルツの厳しい声が浴びせられる。

「何をしているの、アキト君!?今のうちよ!早くデビルホクシンを倒しなさい!

奴がまだ、全身を出せない今のうちがチャンスなのよ!さあ!」

「でも!貴方は一体・・」

「そんな事はどうでもいいの、さあ、早く!」

「そうだよ、アキト!今はあいつを倒すのが先・・・!」

「今動けるのはお前しかいないんだ!」

「「「「さあ!早く!」」」」

「そう・・そうだ・・・こいつだ・・・。こいつの為に、こいつの為に・・・

シュンさんと、ルリちゃんが、こいつのためにぃぃぃぃぃっっ!」

怒りが、アキトの全身にみなぎる。

ボディの各部が展開する。

そして再び、シャイニングナデシコはその秘めたる力を爆発させ、

その全身を闘気の輝き、怒りの炎が覆った!

「しまった!またあのパワーかっ!」

「俺のこの手が光って唸る!

お前を倒せと輝き叫ぶ!

食らえ!

愛と!

怒りと!

悲しみの!

シャイニングフィンガァ

ソォォォォォドッ!

メン!

メェン!!

メェェェンッ!!!」

アキトの合わさった両の拳から溢れる膨大なエネルギーが、剣の形に集束する。

何者をも滅ぼす怒りの刃を、デビルホクシンの脳天に振り下ろす寸前。

(アイちゃん!?)

かつて妹と呼んだ少女の面影が、アキトの胸中を去来する。

そして巨大な赤き怒りの剣は、

「馬鹿な!何故頭部を外したのっ!?」

デビルホクシンの「繭」を貫いていた。

だが怒りの刃に貫かれた筈の「繭」が砕ける事は無かった。

それどころか長大な赤い剣を呑み込んでいる。

「馬鹿なっ!俺のエネルギーを・・・吸い込んでいる!?」

「しめた!テンカワのエネルギーを得て、復活だ!」

「繭」が赤熱化する。

周囲の地面が、金属が、コンクリートが、融解し、赤い溶岩となる。

ふらつく足で慌てて飛びのくアキトのシャイニングナデシコ。

そして灼熱のマグマの羊水の中から「それ」は姿を現した。

「あ・・・あれが・・」

「デビルホクシン・・・」

「す、すげぇ・・・」

「あ、ああああっ・・・」

Voooooooooooo・・!!!

魂の底から怖気をふるうような、この世のものならざる産声。

深緑色の芋虫を束ね、甲虫の外殻を纏ったような肉体。

何より、全身から放たれる圧倒的な負の存在感。

それが、歴戦のナデシコファイター達を釘付けにした。

そのデビルホクシンの頭頂から生えた人型の上半身、

その肩に一人の少女が腰を下ろしていた。

瞳は天に注がれ、あたかも地上の事など無関心のようにも見える。

「あの子は・・・」

「アキトが持っていた写真の少女だ!」

「ア、アイちゃん!」

ふと、アキトの方に視線を向ける少女。

「アイちゃん!」

再度のアキトの呼びかけに少女は・・・・・・醜く歪んだ、邪悪な笑みで応えた。

「!危ないっ!」

シュバルツがアキトを抱えて横に飛ぶ。

その二人をかすめて、デビルホクシンが放った高出力のビームが地面を溶解させ、

背後に巨大なクレーターを作った。

 

 

 

 

「テンカワ!」

デビルホクシンの背に立ったホウメイが呆然とするアキトに語り掛ける。

「見な!このお姿を!アンタのそのパワーのおかげで、我がデビルホクシンは完全に復活された!

礼を言うよ!ふふふ・・・はははっはっはっはっはっはっはっはっは!

さらばテンカワ!キング・オブ・ハート!はぁっはっはっはっはっは!」

「ま・・待ってくれ!師匠!アイちゃん!」

エネルギーを吸い取られ、動けないシャイニングナデシコを置き去りにして

デビルホクシンはいずこかへ去って行く。

「アイちゃん!」

ちらりと、アキトに最後の一瞥をくれ身を翻す少女。

「アイちゃぁぁぁぁん!」

そのままデビルホクシンはいずこかへと消え、

間を置かずに天が安堵の息をついたかのような、しとしとした雨が降ってきた。

「負けちゃった・・・」

「完全に俺達の負けだ・・・」

「・・・無理も無いわ。・・・復活したアイツの姿を見れば詮無い事・・・。

それより今の問題は・・・」

瓦礫の上に腰を下ろし雨の中でうなだれるアキト。

「そうだ・・・確かにアイちゃんは・・・本気で俺を狙っていた・・本気で俺を・・・!

やっぱり・・・アイちゃんは・・・」

ガイは声を掛けようとして、だが掛けられなかった。

体を震わせ、アキトは雨の中でただうつむいている。

その頬を、雨とは違う熱い液体が濡らしていた。

 

 

 

次回予告

 

皆さん、お待ちかねぇ!

デビルホクシンを追跡するアキト!

その行く手に待ちうけるホウメイの恐るべき罠!

更に、ネオドイツのファイターまでもが立ちはだかり、

ナデシコシュピーゲルでファイトを挑んでくるのです!

機動武闘伝Gナデシコ、

「対決!謎の覆面ファイター!」に

レディィィ、Go!

 

 

あとがき

 

シュバルツ(schwarz:黒い、暗い)、

ブルーダー(bruder:兄弟)、

シヴェスター(schwester:姉妹)、

まあ、登場当初から正体はバレバレ(原作でも(^^;)なんですけど、彼女の名前はこう言う意味です。

原作では「ブルーダー」となっていたのを「シヴェスター」に変更したのもそう言うわけ。

さて、マスターホウメイ登場編にしてデビルホクシンの初御披露目である、

通称「新宿編」はこれで終わりです。

次回からワンクッション置いて新しい展開が始まりますので、乞うご期待。

 

 

 

 

管理人の感想

 

 

鋼の城さんから連載第十六弾の投稿です!!

へ〜、シュバッルツの名前にそんな意味があったんですか〜

初めてしりましたよ。

勉強になりました。

しかし、黒い姉妹とは(苦笑)

言い得て妙ですな(爆)

 

では、鋼の城さん!! 投稿有難うございました!!

 

感想のメールを出す時には、この 鋼の城さん の名前をクリックして下さいね!!

後、もしメールが事情により出せ無い方は、掲示板にでも感想をお願いします!!

出来れば、この掲示板に感想を書き込んで下さいね!!

 

 

ナデシコのページに戻る