機動武闘伝
ナデシコ

 

 

 

 

 

 

 

「さて皆さん。ここギアナ高地の奥深くで、

今日もテンカワアキトは修行に打ち込んでおります。

そんな中、なんと今日はドラゴンナデシコとボルトナデシコとが

死力を持って戦うとは驚きではありませんか!

さて、その結果やいかに!

それでは!

ナデシコファイト・・・

レディィィ!ゴォォォゥ!」

 

 

 

 

第十九話

「激闘!

ドラゴンナデシコ対

ボルトナデシコ」

 

 

 

「ん〜!?パワーシステムラインのGからKまでが断絶していて、

 モードラインへエネルギー洩れを起してるだぁ?・・・こりゃ今夜は徹夜だな。」

シャイニングナデシコの整備をしていたガイが面倒臭げに溜息をついた。

ひとしきり面倒臭がってから表情を変えて滝の方を向く。

「ま、なんとかしないとな。アキトも修行を気張ってるんだし。」

轟々たる瀑布の前でアキトが剣を構えている。

深呼吸を繰り返し、精神を統一する。

アキトが裂帛の気合と共に滝に斬りつけた。

だが、滝の圧力に負け滝壷に呑みこまれる。

浮かんできたアキトが再び滝の前で剣を構えた。

朝からこのような事が何十回と繰り返されている。

「・・まだまだみてぇだな。」

「まだまだね、アキト君。」

滝の上でも、覆面に顔を隠した人物がポツリと呟いていた。

言わずと知れたシュバルツ・シヴェスターである。

あからさまに姿を晒しているにもかかわらず気付かれないのはその気配を消す術ゆえか。

「・・・その刀を使いこなせるようにならなければ、

スーパーモードを会得するなど夢のまた夢・・・!」

呟きながらも視線はアキトから離れない。

見ている内にアキトがまた滝壷に呑まれた。

ふと、その視線が上を向く。

密林から鳥が飛び立つ。

滝壷から浮かび上がったアキトも振り向いた。

「「お待ちなさい!まだ修行は始まったばかりで御座いますぞ!」」

「嫌〜よっ!」

崖の上から白い影が飛び出してくる。

整った顔立ちにわんぱく小僧のような表情を浮かべた妙齢の美女。

「アキト君お久しぶりッ!」

今日は黒髪をポニーテールにまとめ、スリットの大きく入ったチャイナドレスを着ている。

ご丁寧に右手に舞扇を持っていた。

そのままの格好で水の上に突き出た岩に着地する。

アキトの眼前でその裾が一瞬大きくめくれ、アキトの頬に朱が差した。

それに気がついた舞歌が扇を広げて口元を隠し、目に意地悪い笑みを浮かべる。

「・・・・・・見た?」

顔を真っ赤にしたアキトが何か答える前に、再び九十九と元一朗の声が響く。

「じゃぁねぇ〜♪」

扇を畳み、再びいたずらっぽく微笑むと、崖の岩肌を飛び跳ねて舞歌は密林の中へ姿を 消した。

ふと後ろを見ると、ガイがニヤニヤ笑いながらこちらを見ていた。

真っ赤な顔のままぎこちなく滝のほうに振り返り、剣を振り下ろす。

再び水しぶきが上がり、シュバルツが冷ややかに呟く。

「・・・・・無様ね。」

今度は、しばらく浮かんでこなかった。

 

 

 

息切れの音を聞き振り返ったガイの目の前に、舞歌のお目付け役である九十九と元一朗がいた。

その表情に悔しさがにじみ出ている。

「わざわざこのような所まで来ながら・・・・」

「舞歌どのがあの有様では・・・・」

一旦言葉を切った二人が揃って瞳と背中に炎を燃やし、拳を握り締めた。

「「少林寺復興は夢のまた夢!」」

「元一朗。」

「九十九。」

向かい合い、互いの手を固く握り締める二人。

「「よよよよよよよよよよ・・・・・・・・!」」

「なんなんだ、一体・・・。」

ガイが呆れたようにぼやいた。

アキトは、まだ浮かんでこない。                

 

 

 

大きな満月が出ていた。

密林の木の枝の上をチャイナドレスの美女が軽やかに駆け抜ける。  

「ふふん♪九十九も元の字も心配性なのよ。

この私がいまさら修行する必要なんて、あるわけないでしょ。」

その表情が急に引き締まった。

一瞬にして気配を殺し、枝の上で姿勢を低くして体のバネをたわめる。

周囲の気配を慎重に探っていた舞歌だったが、ふと表情を緩める。

「気のせいね、きっと。」

彼女が去ってから数分後。

土の下で赤い単眼がぎょろりと光った。

 

 

             

夜の密林を楽しげにかける舞歌の目に、明りが飛びこんできた。

川べりの広い平地に戦艦の艦橋じみた構造物を持つ輸送機が着陸し、

周囲に野営地が作られている。

「あれは・・・ネオロシアの・・・」

くぅ、と舞歌のお腹が可愛らしい音を立てた。

お腹をさすった後、舞歌があのいたずらっぽい笑みを浮かべた。            

焚火の回りで食事を取っていた兵士達の一人が大皿が一つ無くなった事に気が付いた。

「おい、ここにあったピラフどうした?」

「知るか。・・・お前こそ、パンとボルシチをどうした。俺はまだ食ってないんだぞ。」

「てめえ・・・一人で飯を食ったあげく自分の罪を人になすりつけようってのか!」

「この・・・・」

「何を・・・!」          

 

 

 

「ネオロシアの人間って好戦的なのね。」

殴り合いを始めた兵士達を眺めながら、舞歌はくすねてきた食事を腹に収めていた。

「それにしても・・味付けの基本が判って無いわね、まるっきり。

 ネオロシアの兵士達はいつもこんな食事をしてるのかしら?不憫な話よねぇ。」

人の食卓から料理をくすねた挙句、大皿二枚を空っぽにしてしまった人間の言うセリフではあるまい。

水音がした。

「・・・・へえ。」

どう言うつもりも無くそちらの方を見たのだが、舞歌の目は水浴びをするその女性から離れなくなった。

身長は舞歌と同じくらいだが、鍛え上げた筋肉がはっきりわかる。

パワー勝負になったら到底勝ち目はあるまい。

同性である舞歌の目から見てもそのプロポーションは美しく、女性らしい曲線を失ってはいなかった。

気持ちよさそうにリョーコが泳ぐ。伸び伸びとした、見事なフォームだ。

しばらくそれを眺めていた舞歌だったが、

ふと覗きをしているような気分(まあ、のぞきには違いないのだが)になった。

今更ながらにばつが悪くなってその場を離れようとした時、足元の食器が触れ合って音を立てた。

「誰だっ!」

(・・・やばっ!)

リョーコが手近の石を握り、次の瞬間、それは弾丸の速度で舞歌に迫った。        

暗い林の中、命中したかどうかはわからない。

だが、リョーコの目は暗がりに翻る長い髪を捉えていた。

ネオロシアのクルーで長髪などという軟派な髪形をしているのはただ一人。

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ぶっ殺す。」

 

 

           

「ただいま〜。」

「ただいまって・・・ここはお前さんのキャンプじゃないだろうが。」

「いいじゃないの。一緒の方が楽しいし。」

「ま、そりゃそうだな。」

それだけで納得してしまうガイ。

ちなみに、アキトは夕食の支度中である。

「ですが舞歌どの。余り他国の人間と親しくするのは・・・」

「お堅い事は言いっこ無し!あんまり堅い事ばっか言ってると脳味噌まで固くなっちまうぞ?

 いや、ひょっとしてもう手遅れかな、九十九のダンナは。」

「なんだと!失礼な!君、今の発言を取り消したまえ!」

九十九がまともに顔色を変える。

元一朗は複雑な表情を浮かべ、舞歌は必死で笑いをこらえていた。

「やだね。大体ホントの事じゃねえか。」

「ふん。口先だけの男に限って言葉が達者な物だな!」

「・・・・・面白え。このガイ様とやろうってんだな?」

「よせ、九十九!」

「あらどうして?とことんまでやらせればいいじゃない。」

舞歌が平然とのたまうのを聞いて元一朗が心底情けなさそうな表情になる。

「仮にもナデシコファイトで一国を代表するクルー同士が・・」

「関係ないわよ。こういうのはいっぺんケリをつけておいた方がいいでしょ?

二人とも、審判は私がやったげるから心行くまでおやんなさい。」

表情は真剣だが、目が笑っている。

そんな舞歌を元一朗が諦めたように見つめていた。  

 

 

         

迫り来る嵐にも気が付かず、サブロウタはコロニー本国の上官を相手に熱弁を振るっていた。

「無論、ナデシコファイトの重要性は自分が一番よく知っています!

ですがそれ以上にデビルホクシンの脅威は重大であると認識せざるを得ません!

だからこそ、テンカワアキトの行動から目を離すわけにはいかないのです!」

『・・・しかしな、新宿の一件は集団幻覚である、という説も出ているじゃあないかね?』

「集団幻覚・・・ですって!?」

サブロウタの体が小刻みに震え始めた。

そんなサブロウタを省みず、上官が斬りつけるように言葉を続ける。

『いずれにせよ、貴官の任務はナデシコファイトで優勝する事だ。

本国の政策に異を唱える事では無いよ。

そんな事を考えてる暇があったらシャイニングナデシコ撃破にでも全力を尽くしたまえ!』

通信は一方的に切れた。

サブロウタの拳がコンソールに打ち付けられる。

奥歯が、ぎりりと鳴った。

「てめえらは・・・何にもわかっちゃいねえんだっ!」      

 

 

   

「てめえ・・・・・人の水浴びを覗きやがって・・・」

「へ?」

怒りを静めてポチョムキンから降りて来たサブロウタに、

周囲の冷たい視線と怒りの炎に燃えるリョーコの視線が突き刺さった。

それだけで人を焼き殺せそうな怒りをなみなみと湛え、リョーコの視線がサブロウタの肌を焼く。

リョーコの剣幕を恐れている事もあるが、誰もサブロウタの弁護をしないのはまさに人徳と言うところか。

やはり人間、普段の行いが大切である。

ようやく事態を把握してうろたえるサブロウタに、弁解をする時間は与えられなかった。

リョーコの鉄拳が空を引き裂いて唸り、サブロウタの顔面に突き刺さる。

ブリッジ担当士官の証言によりリョーコが誤解だと納得した時は、サブロウタは既に虫息であった。

 

 

       

夕食の間中、ガイと九十九の殴り合いは続いていた。

技量なら九十九が上なのだが、ガイはガイで非常識なスタミナとタフネスがある。

最初はまともに殴り合っていたが、相手の方が技量が上と知るや、ガイは相討ち戦法に切り替えた。

相手の攻撃をガードせず、タイミングを合わせて同時に殴る事に専念する。

攻撃と同時ではいかに九十九といえども防御するに限界がある。

いわゆる「肉を切らせて骨を断つ」・・この場合「肉を切らせて皮を切る」かもしれない・・戦法だが、

殴られても蹴られてもニヤリと笑って立ちあがってくるこの男が使うと洒落にならない。

手数は圧倒的に九十九の方が多かったが、

息切れしてきた所に次第にガイのパンチが当たる様になり、

最後は綺麗なクロスカウンターのダブルノックアウトで幕を閉じた。

「夕日が出てないのが残念ね」とは舞歌の弁である。

数分後、ガイがむっくりと起き上がった。

ガイが九十九を小突くと、呻き声を上げてこちらも目を覚ます。

二人してのそのそとこちらへ這ってくる。

どうも足に来ているらしい。

「殴り合ったら・・・腹が減ったぜ・・・」

「そう言えば夕食をまだ取ってなかったですね・・・。」

焚火のそばまで這いよった時、二人のアゴがかくん、と落ちた。

何も残っていない。

既に夕食どころか片付けも終わってアキトはどこかへ行ってしまっていた。

恐らく修行の続きだろう。

「お・・・俺達の夕メシは・・・」

「私達の夕食は・・・」

「ま、喧嘩するとロクな事がないって事ね。」

楊枝を使いながら舞歌がさらりと言う。

確信犯の舞歌に、だがそれでも何も言えずただ抱き合って涙する二人であった。

少なくとも何がしかのものが二人を結びつけたらしい。

「男同士の友情か・・・いいわねぇ。」

「それは・・・・」

みなまで言えず、今度は元一朗が頭を抱えた。          

 

 

 

「ネオチャイナとファイトするんだ!」

「なんだよ、いきなり。」

「この近辺にいる長髪の人間といえば、ネオチャイナの東舞歌か月臣元一朗くらいしかいない!」

「それとお前な。」

「・・・・彼らがこの近辺にいたと言う事は、わが国の偵察以外に考えられない。

 だから、今の内に叩き潰しておく必要がある。」

(それに・・・強豪ネオチャイナを倒したとなれば上の連中に意見を通す事も出来る・・!)

リョーコの返事は短かった。

「やなこった。」

サブロウタのアゴも、かくん、と落ちた。

色々言われる事は覚悟していたが、言下に否定されるとは思っていなかったらしい。

「少し散歩してくるぞ。」

反論を挟ませずに言うなり、リョーコはすたすた歩き出した。            

 

 

 

錆びた刀が木を打つ。

斬るのではなく、打つ。

刀は何度も何度も振るわれ、木の表皮に真新しい傷をつけるが

そればかりで堅い幹には決して食い込まない。

「駄目だ!駄目だ駄目だ駄目だ!俺には・・・一体何が足りないんだ!?」

息を切らせたアキトががっくりと膝を突いた。

次の瞬間、立ち上がり振り向いている。

暗闇の中からのっそりと言う感じで人影が出てきた。

「・・・リョーコちゃん?」          

 

 

 

 

「ファイト命令を拒否した?・・・囚人の君にとって戦いは最後に残された自由じゃなかったのかい?」

「・・・なんかな、乗らねぇんだよ。まあ、サブロウタの奴はああ見えても・・・・

 まぁ見た目通りにいいかげんで軽薄な奴だけどそこまで公私混同するような奴じゃない。

  でもなんか・・・乗らねぇんだよな。・・・・・お前とのファイトは最高だった。

 全身の血が滾って、『ああ、俺は今生きてンだ』って気がひしひしとした。

 だけど、何か今はそんな気にならねぇンだ。」

「何故だ?」

「・・・・わかんねぇ。」

唐突に、夜が明るくなった。

爆発と炎が夜空を照らし、煙が立ち昇る。

「ありゃあ・・・俺達ネオロシアのキャンプの方だ!」

 

 

 

 

巨人が夜のギアナ高地を闊歩する。

両手の竜が吐く炎はネオロシアの野営地をおもうがままに蹂躙していた。

既に辺りは火の海である。

燃料か何かに誘爆したのか、中央辺りで爆発が起こった。

サブロウタが医務室から飛び出して艦橋にたどりついた時、

巨人は背中を見せて去ってゆくところだった。

リョーコに、冷たい目でサブロウタが命令を下す。

「スバル・リョーコ。君がいない間にこの有様だ!

 もう一度言うぞ・・・・ドラゴンナデシコとファイトするんだ!」

さすがにリョーコも頷くしかなかった。

ポチョムキンの背面が開き、先ほどのそれを厚みでは優に上回る鋼鉄の巨人・・・

ボルトナデシコが姿を現す。

極太の噴射炎を上げ、重量級の巨体が夜空に舞った。                

 

 

 

 

いじけているガイと九十九を楽しそうに見ていた舞歌の目が、ふと細められる。

振り向いた舞歌の視線の先に、まっすぐこちらを目指して飛んでくるボルトナデシコの姿が目に入った。

「・・・・・?」

『東舞歌!貴様にナデシコファイトを申し込む!』

「へええ?」

『何故あんな真似をした!出来れば戦いたくはなかったが・・・やる以上は全開で行くぜ!』

「何言ってるんだかわからないけど・・・お相手しましょう!

・・・・ナデシコファイトォッ!」

ドラゴンナデシコが舞歌と一体化し、夜空に跳ぶ。

『レディ!』

  『『Go!』』              

 

 

 

 

戦いは素手での応酬から始まった。

舞歌がその名の通り、華麗に舞い踊る。

突きが唸り、回し蹴りが風を裂く。

リョーコはそれを避けながら、舞歌の手足を掴むチャンスをうかがう。

一度捕まればパワーに劣る舞歌が脱出するのは困難だろう。

リョーコの得手は組み打ちだ。

殴り合いももちろんだが、それで言えば舞歌の方が数段洗練されている。

パワーで勝り、スピードで劣るリョーコとしては捕まえてしまうのが勝利への鍵である。

典型的な打撃と寝技の対決、と言えるかもしれない。

数十合の応酬の後、遂に舞歌の右足をリョーコが捕らえた。

そのままひねって倒そうというリョーコの力に逆らわず、

舞歌が自分から回転して左の足をリョーコの顔面に叩きつける。

だが、拳法の達人の蹴りを顔面に受けながらも、リョーコはニヤリ、と笑って見せた。

一瞬、戦慄した舞歌の隙を突いてリョーコがその胴体を両腕で締めつけ、

舞歌の脳天を大地に叩きつける。

密着したままの姿勢で舞歌が剄を練り、地面に叩きつけられる寸前、

正確にリョーコのみぞおちに叩きこんだ。

さすがにこれは効いたらしい。リョーコの息が一瞬詰まり、投げがすっぽ抜けた。

咄嗟に受身は取ったものの、舞歌の全身が悲鳴を上げた。

互いにゆっくりと立ち上がる。

「・・・・やるじゃない!」

「へっ!遠慮はいらねぇみてぇだな。」

「それはこっちのセリフよ!」

互いの頬に心底楽しそうな微笑みが浮かぶ。        

 

 

第二ラウンドのゴングが鳴った。

舞歌が棍を構える。

滑る様に間合いを詰め、連続して突きを繰り出す。

数発を受けつつも、リョーコが棍を掴んで舞歌を引き寄せる。

思いきりよく、棍から手を離して舞歌が跳んだ。  

両腕の竜が伸び、リョーコを襲う。

わずかに身を動かしてそれを躱す。竜の牙がリョーコの頬をかすめた。

それと殆ど同時にボルトナデシコの右肩が爆発し、

射出された鉄球が空中の舞歌を弾き飛ばす。

勢いを失った鉄球をビームチェインが捉えた。

ボルトナデシコの必殺武器、グラヴィトンハンマー。

それがリョーコの頭上で回転し始めた。

舞歌が短杖を構えなおす。

懐に飛び込んで打撃を浴びせる構えだ。

暫しの対峙の後、再び舞歌が間合いを詰めた。

懐へ跳びこみ、打撃を浴びせる舞歌。

だが、あの鉄球を一発でもまともに食らえば勝負は半ば決したと言ってもいい。

打ち合いながら、ふと二人は奇妙な高揚感を感じていた。

今まで自分たちを押さえつけていたものが次第に無くなっていくような・・・。

舞歌が跳んで間合いを離す。

二人の動きが止まった。

「見えた?」

「ああ。」

気がつかずにいた奇妙な圧迫感が消える寸前、彼らはその正体に思い至ったのである。

彼らの前に圧倒的な姿を現し、消えていったあの悪魔。

「「デビルホクシン・・・」」

自分たちを包み、縛っていた恐怖に彼らが気がついたのはそれが消えてからであった。

「気にしていなかったつもりでも・・・」

「囚われていたって事か。」

「でも・・・いい気分ね。」

「全くだ。」

今までよりもいっそう晴れ晴れとした笑顔が、二人の顔に浮かんでいた。

「じゃ、続きをはじめましょう。」

「おう!」           先手を取ったのは、、またしても舞歌だった。

「貴方にはなまなかな技じゃ通用しそうにないからね・・・・

宝華経典!五華七輪!」

十六本のビームフラッグが宙に舞う。

それは、次々とリョーコの周囲に突き立ち、檻を形成した。

「こんな子供だましで俺を倒せると・・・」

「思ってるわ!」

頭上に、棍を構えた舞歌がいた。

驚くより先に、体がグラヴィトンハンマーを叩きつけていた。

だが、体勢が不充分な一撃は容易くかわされ、逆に鉄球を打ち返される。

「うおぉっ!?」

鉄球の重量にリョーコの腕が引っ張られる。

そこに舞歌の蹴りが来て、リョーコは背後の岩に叩きつけられた。

勢いを失っていなかったハンマーと鎖が、リョーコの腕を巻きこんで岩に巻きつく。

右腕を岩に縛りつけられた格好になったリョーコに向かって舞歌が跳んだ。

「その首・・・もらったぁッ!」  

「俺は・・・・俺は・・・」

瞬間、リョーコの脳裏に仲間の姿が浮かぶ。

自分がファイトに優勝する事によってのみ生きる事が出来る仲間たち。

リョーコが敗北したその瞬間、彼らの死が確定する。

「俺は負けるわけにはいかねぇんだぁっ!」

リョーコが咆えた。

その顔面全体に汗が噴出す。

嫌な音がした。

ボルトナデシコの右肘にひびが入る。

装甲がはがれ、チューブとパイプ、コードが伸びきって、ちぎれる。

遂にフレームが砕けた。

肘から右腕をちぎりながらリョーコが突進する。

空中にあった舞歌に、このカウンターを躱すことは出来なかった。

猛烈なショルダーアタックがその胴体にめり込む。

仰向けになって、ドラゴンナデシコは地上に堕ちた。

ボルトナデシコもがくり、とその場に膝を突く。

アキトもガイも、九十九もサブロウタも、誰もが言葉を発することが出来ないでいた。      

 

シュバルツが口を開く。

「見たかしらアキト君!?目前の敵に全神経を集中させればこそ、あれだけのファイトが出来る!

 恐れや迷いを断ち切り!技に己の魂を込めるのよ!」

(目の前の敵に全神経を集中・・・・)

その表情に感嘆をたたえながら、アキトがシュバルツの言葉を繰り返した。    

 

 

舞歌がよろめきながら、リョーコが右腕を押さえ、立ち上がった。

それと同時に、アキト達の周囲を多数の気配が取り囲む。

「よし。そこまで!」

アキト達の周囲をネオロシアの兵士達が取り囲んだ。

「貴方達を重要参考人として拘束します。我々のキャンプ襲撃の件でね。」

「何だと!?」

「犯人がドラゴンナデシコでないことを考えると、妥当な処置だと思いますが。」

「ふ・・・ふははははははっ!」

シュバルツがいきなり高笑いをはじめる。

自分でも何故かは判らないが、サブロウタは気後れして数歩後ずさった。

「な・・・何がおかしい!」

「それではアレは何かしら?」

「な・・・何ぃっ!?」

シュバルツの指差した先に、巨大な影がいた。

頭部のマルチブレードアンテナ、特徴的な弁髪、肩アーマー、胴体、両腕の竜、

どれを取ってもドラゴンナデシコと何一つ変わる事がない。

だが、その顔面には赤い一つ目がらんらんと輝いていた。          

「どうやら、真犯人の御出ましの様ね。」

「くっ・・・ボルトナデシコ!」

「馬鹿かてめえ!二人とも体力の限界だってのがわかんねえかよ!?」

サブロウタが悔しそうにガイをにらむ。

その言葉通り、リョーコもすぐには動けないでいた。

舞歌も似たようなものだ。

「くそ・・!」

「ドジ・・・こいちゃったかな・・・?」    

シュバルツが組んでいた腕を解いた。

「ならば・・・行くわよ、アキト君!」

「お・・・おうっ!」

シュバルツがナデシコシュピーゲルを起動させる。

続いてシャイニングナデシコに搭乗したアキトの全身を過剰な電流が走った。

苦痛が全身を貫くと共に、シャイニングナデシコの動きが目に見えて怪しくなる。

「ぐあぁぁぁぁっ!?」

「どうしたの!?」

「ナデシコが・・・思うように動かせないぃっ!」

  モニターにノイズが走り、手足は鉛が詰ったかのように重い。

「アキト!ナデシコのモビルトレースシステムの調整がまだ終ってねえんだ!」

「ぐ・・・何で・・・・先に言わない!」  

「すまん、忘れてた。」

一瞬本気で殺意を抱いたアキトだったが、考えてみればここを切り抜けなければ

ガイの処分も何もあったものではない。      

敵は一体だけではなかった。

その内の一体が動けないシャイニングナデシコの目前に迫った所を

シュピーゲルの腕の刃が両断する。

「ここは下手に動かない方がいいわね。アキト君はじっとしていなさい!」

刃と手裏剣が、次々とムヅラドラゴンの数を減らしてゆく。

だが、シュピーゲルの手裏剣に貫かれて動かなくなった筈の一体が突然起きあがった。

素早くアキトに向けられた両手が、炎を吐き出す。

「しまった!」        

アキトには渦を巻いて自分に近づいてくる火炎が酷くゆっくりと感じられた。

(恐れるなアキト・・・目の前の敵に・・・集中するんだ!)

次の瞬間、シャイニングナデシコが炎に包まれる。

だが、火炎は輝く右手・・・シャイニングフィンガーによって受けとめられていた。

「行くぞぉっ!俺のこの手が光って唸る!」

アキトの精神の高揚に反応し、モビルトレースシステムが自己修正を行う。

手足を縛っていた鉛の重さが嘘の様に消える。

「お前を倒せと輝き叫ぶ!」

炎を押し返しながら、シャイニングナデシコが突進する。

「必殺!   シャァイニング!フィンガァァァァァッ!」

右手の輝きが触れた瞬間、偽物のドラゴンは一瞬にして全身を砕け散らせた。        

 

 

 

 

 

「いいファイトだったぜ・・・!」

「そうね。また会うこともあるでしょう」

「ああ、またな。」

満足そうな笑顔を交わし、舞歌とリョーコは別れた。

「アキト君。戦士を鍛えるのは強敵の存在よ。貴方も泣きたくなければ、己を鍛えなさい!」

見ていたアキトにそう言い残し、シュバルツも空気に溶け込む様に姿を消した。

「ナデシコファイターを鍛えるのはナデシコファイター・・・・か。」

呟いたアキトが天を仰いだ。

 

 

 

         

次回予告  

皆さん、お待ちかねぇ!

デビルホクシンの幻影に怯えるユリカ!

そんな彼女を立ち直らせようと、執事のジュンはあの手この手で頑張ります!  

ですがその時!怒りに燃える復讐鬼がユリカに牙をむいてきたのです!

機動武闘伝Gナデシコ、

「ユリカよ、悪夢を打ち砕け!」に

レディィィ!Go!

 

 

あとがき      

うむむ、随分原作と違うイメージの話になったな・・・・

なにせ、原作ではレインと恵雲の殴り合いなんて見れないからなぁ(笑)。

今回はサブロウタが中々目立ったかもしれません。

目立ったからと言っていい事があるとは限らないんですが(爆)。

それにしても舞歌さん。

このまま突っ走っちゃっていいんだろうか。

私はこう言う舞歌さんを気に入ってるのだけれどもね(笑)。    

 

 

 

 

 

管理人の感想

 

 

鋼の城さんから連載第十九弾の投稿です!!

舞歌対リョーコ・・・は、良いとしましょう。

九十九対ガイ(爆)

これは予想外でしたね〜

いやはや、本編でも成立しなかった九十九とガイの戦いが、Gナデで達成されるとは。

う〜ん、予想外でした・・・

やりますね、鋼の城さん。

 

では、鋼の城さん!! 投稿有難うございました!!

 

感想のメールを出す時には、この 鋼の城さん の名前をクリックして下さいね!!

後、もしメールが事情により出せ無い方は、掲示板にでも感想をお願いします!!

出来れば、この掲示板に感想を書き込んで下さいね!!

 

 

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