機動武闘伝
ナデシコ

 

 

 

 

 

 

 

「なぁんですってぇ!?アキト君はまだ決勝会場に向かっていないって言うの!?」

監視衛星のコントロールルームでエリナ委員長が喚く。

ハーリーは大汗を掻きながらそれをなだめようと無駄な努力を積み重ねていた。

「あの、ガイ兄さんからの連絡でも詳しい事がわからなくて・・・」

「冗談じゃないわよっ!決勝まで三日しかないのよ!?

遅れたらどうするの!

ハーリー君、貴方が責任をとってくれるっていうの!?」

たじたじと後退するハーリーに通常の三倍の迫力でエリナが迫る。

ヒステリー寸前のエリナがハーリーをその爪に掛ける直前、ウリバタケの声がそれを制止した。

間に合わず、ハーリーの顔面には縦横四本ずつの綺麗な直線が刻まれたが。

涙を流すハーリーにはもはや見向きもせず、エリナが今度はウリバタケに険悪な視線を向ける。

「心配ないって言うのはどう言う事よ、ウリバタケ。」

「奴は必ず決勝会場に現れる、ってことですよ。」

自信たっぷりに言いきるウリバタケに、エリナの目が細まる。

どちらかというと冷ややかな目つきだ。

「断言できるの?」

「も、もちろんです。アキトさんはルリさんを助ける為、

決勝会場に何があっても辿り着かなければいかないからです。」

立ち直ったハーリーが口添えし、反射的に言い返そうとしてその顔を見たエリナが吹き出す。

直角に交わる縦横四本ずつの赤い線によって、ハーリーの顔が綺麗に5×5の二十五等分されていた。

「ひ、ひどいですよ!エリナさんがやったんじゃないですか、これ!」

「だ、だって、おかしいんだもの!

ぷっ・・・くく・・・あはははははは!ひぃーっ、おかしい!」

「う・・・うわぁぁぁぁぁぁぁぁん!」

なおも笑いつづけていたエリナが、地上監視員の一人が発した報告に真顔に返った。

「地球上のG反応、急激に上昇!各国のナデシコ、動きます!」

「来たか・・・!」

 

 

 

ネオカナダ代表ランバーナデシコが万年雪をかぶった雪山の斜面を滑り降りる。

モビルホースに引かせた巨大な戦車(チャリオット)を駆り、

ネオギリシャ代表ゼウスナデシコが平原を疾走する。

チューリップ畑の中にそびえるネオオランダ名物の風車塔。

そのひとつが変形し、風車にナデシコの顔と手足をつけたような、

ネオオランダ代表ネーデルナデシコが立ちあがった。

スペインの平原を野牛の群れが疾走する。

その中から巨大な牛の頭が浮かび上がり、変形して頭部と手足が生える。

今大会屈指のパワーファイターにして、

闘牛士の素早い動きと技を兼ね備えたネオスペイン代表マタドールナデシコ。

海をゆくのはかつてノルマン人が好んで使ったロング・シップ。

だがそれを漕いでいるのは人ではなく、ネオノルウェー代表、バイキングナデシコだった!

 

 

 

 

 

「さて、どうやらこの十一ヶ月間を勝ち残ってきたナデシコ達がいよいよその姿を現し始めました。

目指すは第十三回ナデシコファイト決勝会場、ネオホンコン!

残された時間はわずか三日。

アキト達シャッフルの紋章を受継いだ面々は果たして間に合うのか?

それでは!

ナデシコファイト・・・

レディィィ!ゴォォォゥ!」

 

 

 

 

第二十一話

「決勝迫る!

タイムリミット三日前」

 

 

 

 

 

 

「「それでは、ネオホンコンでお待ちしていますぞ、舞歌殿!」」

筏で川を下る九十九と元一郎をドラゴンナデシコとともに舞歌が見送る。

それより少し後、カズシ達の操縦するクルーザーが離陸するのを見送るナオの姿があった。

傍らにはマックスターの巨体が頼もしげにそびえている。

ユリカは午後の紅茶を楽しみながらジュンからその話を聞いていた。

「・・・そう、舞歌さんもナオさんもクルーを先にいかせたの・・。

じゃあ、ジュン君も先にネオホンコンに行って私の宿舎の手配とか、済ませておいてね!」

あからさまなユリカの言葉に、苦笑しつつジュンが頷いた。

それを確認したユリカが一瞬だけ真剣な表情になる。

「私には・・・まだここでやるべき事が残っているから・・・。」

 

 

 

 

やかましい駆動音を立ててシャイニングナデシコの頭部ギミックが開閉する。

肩の上に立ってそれを確認したガイが満足げに頷いた。

「うし!シャイニングナデシコ、ぱーへくともーど!だぜい!」

「あれぇ?ガイ君まだ残ってたんだ?てっきり、もうネオホンコンへ行っちゃったのかと思ってた。」

振り向いたガイの足下に、いつのまにかユリカがいた。

ちなみに、この二人は一応幼馴染である。

「なんでぇ、嬢ちゃんか。よその国のメンテナンスを覗くのはマナー違反だぜ?」

「大丈夫だよ。ユリカ、メカの事なんかわかんないもん!」

「そりゃそうか!」

二人でひとしきり笑った後、ふとジュンに一抹のあわれを感じるガイであった。

ユリカが本題を切り出す。

「でね、アキトなんだけど・・」

「いねえよ。」

「え・・・それってどう言う事!?」

「どう言う事って言われてもな・・・。もう二週間になるか・・・。

『修行を完成させる為しばらく一人になる』っつってどっかへいっちまったのさ。

間に合うように必ず戻ってくるとは言ってたがな。

おかげで俺はここの所カップラーメンばかり。

いなくなって初めてあいつの料理の有難味がわかったよ。」

しばらく考えこんでいたユリカがいきなり大声を張り上げる。

「だってさ!みんなも出てきたら!?」

「あら、やっぱりばれてた?」

正面の木の梢がかすかに揺れて、舞歌がふわりと地上に降り立つ。

苦笑いしながら下生えを掻き分けてナオが現れ、

反対側の木の陰からリョーコとサブロウタが現れる。

「考える事は皆同じ、って訳だね。」

「そう言う事だな。」

「へっ・・・・・やるかい!?」

にやり、と笑いながらリョーコが身構える。

残りの三人も一斉に構えた。

「おいおい、何やってるんだよ?」

「黙って見ているんだな、ダイゴウジ・ガイ君。

どうせ、互いにネオホンコンでは敵同士の間柄だ。」

ガイが呆れたように止めようとするが、

サブロウタの言葉に四人が一斉に頷いた。

「どうせならアキト抜きでやりたくはなかったけどね・・・・・・うくっ!」

いきなり、ユリカが左手で右の拳を握り締める。

押さえた左手の下から赤い輝きが洩れた。

「・・・・また、痛み出したよ・・・!」

「お前さんもか・・・・。」

ナオの拳の紋章もまた、赤く光っている。

微かな苦笑を浮かべながらリョーコが構えを解いた。

「やっぱり、俺だけじゃなかったんだな・・・。それにお前も・・・。」

「そう言う事ね。丁度、あっくんが消えた二週間前から・・・。」

「まさか、奴の身に何か・・・?」

「そんな!アキトに限ってそんな事!」

ナオの言葉をユリカが力一杯否定し、リョーコもそれに頷く。

「そうだな。テンカワに限ってそんな事は・・・・

じゃあよ、ひょっとしてこの痛みはテンカワのそれが俺達に伝わってきているって事か?」

「そうね・・・焦りとも苦しみともつかぬ強い感情・・・

私達はこの紋章で繋がっているのかも、ね。」

「おいおい、妙な仲間意識でも持ったのかい?

君達は一国の運命と威信を背負ったナデシコファイター。

互いに敵同士なんだって、わかってるのかい?

やる気がないなら時間の無駄だね。帰るよ、リョーコちゃん。」

そう、言い捨てるとサブロウタがきびすを返す。

歩き始めたリョーコが立ち止まり、天を仰いで呟く。

「確かに俺達ゃ敵同士。だが・・・・。」

「ああ。だが、この手に伝わる痛みもまた確かなものだ・・・。」

そこに求めるものを探すかのように、四人が空を仰いだ。

「一体、アキトは・・・・。」

 

 

 

 

アキトは遂に修行に行き詰まっていた。

修行の最後の段階を完遂する為一人洞窟に篭もっていたのだが・・・・。

(何故だ・・・何故俺はあの時、怒りを感じなくてもスーパーモードを出せた?)

シンジュクで、そしてこのギアナ高地へ来てからの事を逐一回想するアキト。

(偽マスターナデシコを倒した時。ナオさんとの対決の時。ユリカの暴走を止めた時・・・。)

「分からない!一体俺の中の何が、スーパーモードへとつながるんだ!」

苛立ち紛れに振るった拳が石筍を砕く。

飛び散る破片の中に腕を組んで高笑いをするホウメイの姿が現れた。

(ふっはっはっはっはっはっはっは!)

「それに何故!師匠の姿が見える!何故だ!」

(ククク・・・そんな物かいアンタの腕は!)

「だぁりゃぁっ!」

(笑わせてくれるねぇ!)

「てぇりゃあ!」

(それではお前の妹を助ける事など出来ないね!)

「だぁぁっ!」

次々に現れる幻影のマスターに拳を振るうアキト。だが幻を打ち砕く事は出来ず空しく岩を割るのみ。

(はあっはっはっはっはっはっは!)

「くそっ!くそっ!くそぉぉっ!」

(ほうれ、ほれ!アタシが倒せるか!?倒せる物なら倒してみな!)

「うわぁぁぁぁぁぁぁぁっっっっ!」

遂に絶叫し、放心するアキト。

「俺は・・・俺はぁ・・・・」

 

 

 

そんなアキトの様子を、影から観察している者がいた。

言わずと知れたシュバルツである。

「アキト君がここまで修行に行き詰まっていたとは・・・なら、仕方ないわね・・・・。」

 

 

 

 

口に葉っぱをくわえて寝っ転がりながら、ナオは夕焼けを見ていた。

「沈む、沈む、日が沈む。これで決勝まで後二日か・・・。一日中何やってんだろね、俺達は。」

「もちろん、アキトを待ってるに決まってるじゃない!」

ぼやくナオにユリカが即答する。

「物好きなこったな。大体考えても見ろよ、マスターといいデビルホクシンといい、

俺達ゃあいつのおかげで散々な目に会ってるんだぜ?全くいい迷惑だってのによ!」

「ふう〜ん?それじゃあ、貴方は一体何をしているのかな〜?」

逆さになって木の枝にぶら下がりながら、舞歌がナオをからかった。

ぐっとナオが詰る。

「俺はもちろん・・・・・・ただヒマなだけさ。」

 

 

 

ぱちぱち、と焚火にくべられた木の枝がはぜる。

サブロウタとリョーコがそれをじっと見ていた。

決勝まで後二日。ネオロシアが誇るナデシコファイト用空中移動司令基地「ポチョムキン」もまた、

ギアナ高地から移動していなかった。

おもむろにリョーコが口を開く。

「なあ、なんでさっさとネオホンコンに行かねぇんだ?」

「さあ、何でだろうね?・・・マシュマロが焼けたけど、食べる?」

「いらねえよ!」

 

 

 

 

 

ピチョン・・・・ピチョン・・・・ピチョン・・・・

鍾乳洞のどこかから、水溜りへ水滴が落ちている。

このような水の力が長い歳月をかけて石筍を作り、鍾乳洞を穿ってきたのだろう。

そう思えば滴り落ちる一滴一滴にも何がしかの力が感じられる。

だがそんな事を考える余裕もない男が一人、ここにいた。

ばしゃっ。

水溜りに膝をつき、うずくまるアキト。

「父さん・・・俺は駄目だ・・・修行を完成させる事が出来なかった!」

(アキト君・・・・アキト君!)

「師匠の声・・・?いや、違う!これは、誰だ!?」

(来い!かかって来い!かかってこんかぁっ!)

「何者だぁっ!どこにいる!」

洞窟の床に、燐光が直径3mほどの円を描く。

その中心に現れたのは謎の覆面ファイター・・・・

「シュバルツ・・・!何のつもりだ!」

「テンカワアキト・・・見事受けて見せなさい・・・ナデシコファイトォォォ!」

その言葉と共に、背後にナデシコシュピーゲルが忽然と現れる。

「レディ!ゴォォォォォッ!」

「ま、待て!このファイト・・・」

「問答無用!」

「何を考えているんだ、あいつは!」

狭い鍾乳洞の中を逃げるアキト。こちらは生身なのだから当然だ。

それに対して、容赦無く両腕のブレードでの攻撃を加えるナデシコシュピーゲル。

「!?・・・何故だ!?なぜ奴はこんな狭い洞窟の中で自由に動ける!?」

ブレードの攻撃がかすり、構えた刀ごと跳ね飛ばされるアキト。

「ふふふふふふふふふ・・・・観念しなさい、アキト君!

 ・・・・・心静かに・・・・死ぬのよ!」

巨大な幻影のシュバルツが、アキトに死を宣告する。

シュバルツの姿がナデシコシュピーゲルに変わり、

アキトに向かって受けもかわしもならない一撃を振り下ろし。

「やられる・・・・!」

それでも本能で刀を構えながら、アキトは死を確信した。

(死ぬ・・・・俺が死ぬ・・・・)

ふと、アキトは気付いた。辺りに静寂が満ちている。

いや、自分の心が静寂で満たされているのだ。

自分でも驚くほどに今のアキトの心は透明で、平穏だった。

(何だ・・・この気分は・・・・)

ふと、アキトの目の前に懐かしい人々の像が流れる。

(アイちゃん・・・シュンさん・・ルリちゃん・・師匠・・・ガイ・・・)

(一切が過ぎ去っていく・・・・もう怒りも憎しみもどうでもいい・・・・あるのは目の前の死・・)

(!)

振り下ろされるシュピーゲルの刃。

先刻までは影しか捉えられなかったその動きが、スローモーションの様にはっきりと・・

「見える!」

洞窟の中が輝きで満ちる。

ナデシコの振り下ろした刃を、アキトはその刀で受けとめていた!

刀身が輝いている。はっきりと、何かの「力」が宿っているのが分かった。

「な・・何だこの光は・・・!」

 

 

 

 

異変を感じリョーコは跳ね起きた。

右手の紋章が今までに無く強く光っている。

「紋章が・・・」

「光った!」

「アキト君の身に何か・・・・?」

ナオ、ユリカ、舞歌も同じく異変を感じていた。

その右手に輝くシャッフルの紋章を通じて、何かが語り掛けて来る。

四人ともほぼ同時に行動を起こした。

 

 

 

 

 

 

「こ、これは一体・・・・・」

自分自身の力に驚くアキトに、シュバルツが説明する。

「明鏡止水の心よ。」

「!」

「いい?わだかまりや、やましさの無い澄んだ心。それが明鏡止水。

 それこそが、人に己を超えた力を持たせる事が出来るの。」

「それが・・・俺のスーパーモード・・・!だがなぜ敵の俺にそれを教える!」

「そんな事はどうでもいい!今は自分の技を完成させることに集中しなさい!

 その力で私のナデシコを押し返してみなさい!

 それができてこそ貴方のスーパーモードは・・・」

シュバルツの言葉を遮るかのように、爆発が起きる。

ホクシンアーミーが、周囲を取り囲んでいた。

「くっ!今一歩で修行が完成するというのに!

アキト君!ここは私に任せて、洞窟の外へ出てナデシコを!」

「おうっ!

来いっ!シャァイニィィィングッ!」

 

 

 

シャイニングナデシコの瞳に光が宿る。

同時に、シャイニングナデシコのコクピット回りを整備していたガイも

アキトからのコールサインに気がついた。

「アキトが・・・ナデシコを呼んでいる!」

次の瞬間、コクピット内の警報が最大レベルで鳴り始め全周スクリーンが自動的にその「原因」、

具体的に言えば周囲を取り囲む数百体のムヅラアーミー・・・・を映し出した。

「げっ!?・・・・・やるっきゃ、ねえか!」

モビルトレースシステムが作動する。

ガイの肉体をポリマーが包み、シャイニングナデシコと一体化させた。

直後、無数の砲撃が着弾しいくつかはシャイニングナデシコに直撃する。

スーツを通して震動と痛みが伝わり、ガイは顔をしかめた。

接近してきたムヅラアーミーの一体を引っつかみ、盾にして火線の中へ突っ込む。

盾にされたムヅラが五秒と持たずに爆発するが、もうその時にはガイは群れのただ中にいた。

両手両足を振りまわし、当るを幸いとムヅラどもを薙ぎ倒す。

いきなり、両手足にムヅラがしがみついてきた。

五体のムヅラに両手両足と胴体を封じられ、シャイニングナデシコの動きが止まる。

それを遠巻きにしたムヅラの大群が、一斉にビームライフルを構えた。

さすがに頬が引きつるガイ。

ムヅラどもが仲間ごとシャイニングナデシコを破壊するより一瞬早く、

正確な射撃がガイを捕えていた五体のムヅラを貫く。

同時に、ガイの周囲を囲んだ赤いバラがバリアを形成し、無数の火線を遮った。

ムヅラアーミーの群れが大きく崩れる。

舞歌のドラゴンナデシコが大槍を振り回してムヅラどもを薙ぎ払う。

ガイと違い、無造作に振り回しているように見えてその動きは正確で無駄が無い。

舞歌がガイにウインクする。

「いい所に間に合ったわね。」

「ガイ君大丈夫?」

「お姫様じゃないのが残念だな。」

舞歌、ユリカ、ナオがガイを助けにきたのだ。

「すまねぇ。助かったぜ!」

「礼は後!ここは私に任せなさい!」

その言葉に我知らず、ガイの胸が熱くなる。

舞歌の背中に一礼すると、シャイニングナデシコはシグナルの発信される方向へ向けて飛び出した。

両脇をユリカのナデシコローズとナオのマックスターが固める。

それをモニターで確認しながら舞歌が楽しそうに呟く。

「この貸しは高いわよ、アッ君?・・・さて、行くわよ!」

艶やかに笑うと、再び舞歌は敵中にその身を投じた。

 

 

 

 

「・・・ガイ。どこへ向かってるんだ?」

「わからねえ。アキトがコールサインを送っているところだ。」

「どうも電波が微弱だから、ひょっとしたら洞窟かなんかの中から・・・」

とガイが呟いた所でユリカの緊張した声が二人の注意を引きつけた。

「どちらにせよ、簡単に行かせてくれる気は無さそうだね・・・!」

月と、満天の星明かりが翳った。

「シィット!フライング・タイプか!」

巨大な翼と、一対のかぎ爪のようにも見える太い可動砲を持った機動兵器の群れ。

ナオの言葉通り、それらの中央についているのはムヅラの顔だった。

彼らの周囲を赤いバラ・・いや、ナデシコローズのローゼスビットが取り巻く。

「ここは・・・まかせてっ!」

ナオとガイが頷きを交わし、先へ進む。それを阻もうとする空戦型ムヅラ・・“ムヅラバーディ”を

ユリカのローゼスビットが容赦無く打ち落としていく。

ローゼスビットの一撃でムヅラバーディの翼は折れ、火を吹きながら次々と墜落していった。

「意外と脆い・・・?」

驚いたその一瞬だけ、ユリカに隙が生まれる。

その一瞬をついて、ユリカの上空できりもみを始めていたムヅラバーディが、分解した。

中央ブロックが変形し、ムヅラアーミーとなってユリカに体当たりを掛ける。

「しまっ・・・きゃあぁぁぁっ!」

「嬢ちゃん!」

「振り向くなガイ!今はアキトだ!」

「・・・ああ!」

前に向き直るガイ。

確かに今、彼がユリカにしてやれる事は何もなかった。

ムヅラバーディの追撃を避ける為、低空飛行で谷あいの、河沿いに飛ぶ。

河の上に着水し、二人はそのままホバー移動で進み始める。

だが、彼らの敵はそれすら見越していた。

水中モーターの上に人の上半身が生えたような機動兵器が河の上を滑ってくる。

無論、短い角と赤く光る一つ目を持つその顔はムヅラの物だ。

「ガイ!回り込んでいけ。奴ら、ネイビータイプまで用意するとは念が入り過ぎだぜ!」

一瞬ガイの頭をある人物の影がよぎった。

アキトの動きを完全に読み、見事に罠にはめた手際を思い出す。

彼女にとっては、この程度の策は児戯に属するだろう・・!

「・・・お前には、何がなんでもアキトにナデシコを渡してもらわにゃならねえ!さあ、行け!」

「あ、ああ・・・すまん!」

シャイニングナデシコがきびすを返した。

ナオが不敵な笑みを浮かべる。

「カマン、チキン!」

その声に答えるかのように、“ムヅラネイビー”が推進器部分に手を掛け、上半身を持ち上げる。

分離した上半身はやはりムヅラとなり、一斉に上空に離脱する。

残された推進器が、まさしく魚雷となってナオに迫った。

「サイクロンパンチ・・・・・Shoooooooooooot!」

ギリギリまで引きつけ、アッパーの要領で上空に向けて渾身の拳を突き上げる。

ナオの拳が生み出す竜巻が、河の水を巨大魚雷ごと宙に巻き上げ、

水柱の中で、連鎖的に爆発が起きた。

 

 

 

 

 

その爆発を背にして、ガイは飛んでいた。

あえて後ろは見ない。

計器は、コールサインの出所・・・つまりアキトの居場所が近いことを示している。

落差がナデシコの二倍ほどもある瀑布のあたり・・・

シャイニングナデシコのセンサーがその前に立つ人影を捉えた。

思わず叫ぼうとしたガイの表情が、次の瞬間凍りつく。

「フン・・・ダイゴウジ・ガイか!」

人影・・・東方不敗マスターホウメイが口元を歪めた。

同時に、水中から飛び出したムヅラの一体がガイのみぞおちに体当たりをかける。

数体のムヅラによる流れるような連携によって、

シャイニングナデシコが瞬く間に地面に打ち倒される。

マスターホウメイ直々に操っているからなのか、連携も身のこなしも、全く動きが違う。

ナオや舞歌たちならともかく、並のMSパイロットよりは格段に上だ。

一体がシャイニングナデシコの背中を踏みつけ、両腕を一体づつが押さえる。

スカーフを両手に持ってホウメイが歩き始める。

「ふっふっふっふっふ。とどめはアタシが直々に首を落としてやるよ、ダイゴウジ・ガイ!」

ホウメイが布から左手を離し、体の脇に垂らしたその時、

その背後で瀑布が斜めに切り裂かれた。

「何ぃっ!?」

「ガイィィィッ!」

その水の壁の切れ間からアキトが飛び出す。

ガイとシャイニングナデシコの存在を感じ取った瞬間

アキトは無意識に、刀を構えて跳んでいた。

輝く刀身を、無心に振り下ろす。

その瞬間、巨大な水しぶきが上がった。

シャイニングナデシコを押さえ付けていた三体のホクシンアーミーが、

生身のアキトのただの一撃で倒れたのだ。

己の起こした水の壁の向こうに気配を感じるアキト。

「・・・師匠!」

「・・・テンカワ!」

アキトの表情に怒りが混じる。

その怒りを叩き付けるように、アキトが再び刀を振り下ろした。

「師ぃ匠ぉぉぉぉっ!」

「ふんっ!」

真剣白刃取り。アキトの振り下ろした刀を、ホウメイが両手で挟んで受けとめる。

周囲の水が、二人の「気」に呼応して渦を巻いた。

「ふん・・・こんなナマクラ刀でアタシを斬るつもりかい!?」

「何!?」

自分の持つ刀に視線を走らせるアキト。

たった今まで刀身に宿っていた「力」の輝きはもはや無く、それは単なる錆び付いた刀でしかなかった。

「笑わせるわ!」

ホウメイの前蹴り。吹き飛ばされたアキトは後ろに倒れこみ、

反動で距離を取ったホウメイはナデシコをまとう。

「先程のお前の光・・・アタシの思い過ごしだった様だね!」

「師匠!」

「お前を育て上げたこの修行の地で、今度は見事に葬ってくれるわぁっ!」

マスターナデシコがアキトに死の一撃を振り下ろそうとした刹那。

「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉっっっ!」

横からの強烈無比の体当たりが、ホウメイを吹き飛ばした。

そのまま喉に手を掛けて、岩壁に押し付ける。

「リョーコちゃん!」

「フン・・・ネオホンコンに行っても、おめぇがいねぇと面白くねぇからな!」

リョーコだけでは無い。ナオも、舞歌もユリカもいた。

「アキト君、一人でかくれんぼはもうおしまいにしましょ。」

「皆、お前の帰りを待っていたんだからな。」

「それにもう一人、アキトの大切なお友達がいるでしょ?」

「・・・・ああ!」

愛機シャイニングナデシコを起動させるアキト。

気絶したガイをコクピットの中に横たえ、アキトは心の中で親友に礼を言った。

異様な音がした。振り向くとリョーコのボルトナデシコの腕を鷲掴みにして、

怒りに震えるマスターナデシコが立っている。

パワーでは人後に落ちぬ筈のリョーコの機体が、マスターの腕一本に動きを封じられていた。

「・・・・貴様らぁ!」

「く・・・くうぅっ!」

ボルトナデシコの腕が軋む。必死で苦痛に耐えるリョーコ。

「よくも、アタシをコケにしてくれたね!」

破砕音を響かせ、ボルトナデシコの腕をもぎ取る。

「ぐああぁっ!」

朽木の様に倒れるリョーコの機体。

「リョーコちゃん!大丈夫か!?・・・・・・・・・・師ぃ匠ぉ!」

「テンカワぁ!どうも今日こそは、アンタとの決着、着けなきゃならないようだね!」

大地が揺れる。マスターの足元から、巨大な機動兵器の頭に蛇腹を付けたような物が出てくる。

頭はナデシコ用のキャリアーポッドの倍ほどもあり、蛇腹もそれに見合った太さがあった。

それ・・「ホクシンヘッド」はマスターを宙高く持ち上げ、

目からサーチライトのような強烈な光を放つ。

気が付くと周囲は無数のホクシンヘッドで埋め尽くされ、四方からの光に照らされていた。

「はあっはははははははははは!お前達の誰一人として、ここからは逃さん!

このギアナ高地で、一人残らずなぶり殺しにしてくれるよぉっ!」

「何を言う!血路なら、俺が切り開いてやる!」

アキトが言い放った時、滝の裏の洞窟から飛び出してきた影がひとつ。

「待ちなさい、アキト君!ここは一致団結して脱出を!」

そのシュバルツの言葉に怒声を返すアキト。

「いいや!誰も巻き添えにしない!これは俺の戦いだ!そう!

俺のこの手が光って唸る! 師匠を倒せと輝き叫ぶ!」

「よく言った!それでこそアタシの元弟子!ならば!」

ホクシンヘッドの上から、アキトに向けて襲いかかるマスター。

「必ぃっ殺!」

「やめなさい!貴方の修行はまだ・・・・くぅっ!」

必死で止めるシュバルツ。しかしその声はアキトに届かず。

宙に跳んだアキトと舞い降りたマスターの影が空中で交錯し、

アキトの輝く右手とマスターの暗黒の右手は激突していた。

「「「「あああっ!」」」」

「馬鹿ぁぁっ!」

悲痛な声を絞り出すシュバルツ。

互いの右掌を握りしめたまま、アキトとホウメイが咆える。

「テンカワぁ!」

「師ぃ匠ぉ!」

「シャァァァイニング!」「ダァクネス!」

「「フィンガァァッ!」」

巨大な爆炎が空中の二人を覆い隠した。

 

 

 

 

 

次回予告

皆さん、お待ちかねぇ!

陸も空も水中も!全てを覆い尽くしたデビルホクシン大軍団!

もはやギアナ高地からは脱出不可能!

いまここに、ナデシコチーム必死の攻防戦が開始されるのです!

機動武闘伝Gナデシコ、

「戦士の絆!ホクシン包囲網を突破せよ」に

レディィィ!Go!

 

あとがき

久々にハーリー登場!・・・・・まあ、扱いはこんなモンだよな、うん(笑)。

問題はこの、「明鏡止水」なんですよね。

これをどう説得力あるものにするか・・・。

あ〜、難しい。

わが身の未熟と非才を嘆くばかりです。

そして、ついに戦いは佳境へ!

かつての師匠と弟子が、全力でぶつかるファイトへとなだれ込んでゆく!

これから、そう、全てはこれからなのです!

 

 

 

 

 

 

管理人の感想

 

 

鋼の城さんから連載第二十一弾の投稿です!!

燃えてますね〜

なんだかナオさんの性格が、自分でも解らなくなってきた、今日この頃です(爆)

結構ハマってるんですよね〜、それぞれのキャラが!!

特にマスターホウメイ!!

もう、何ていうか格好良すぎ!!

それとイネスさん!!

ひたすら怪しいって!!(笑)

さてさて、もう直ぐゴットの登場ですね!!

う〜ん、楽しみです!!

 

では、鋼の城さん!! 投稿有難うございました!!

 

感想のメールを出す時には、この 鋼の城さん の名前をクリックして下さいね!!

後、もしメールが事情により出せ無い方は、掲示板にでも感想をお願いします!!

出来れば、この掲示板に感想を書き込んで下さいね!!

 

 

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