俺はなぜここにいる?

なぜ、破壊を?

わからない

後悔?憎悪?復讐?…………その対象者さえ存在せぬのに?

 馬鹿馬鹿しい、自分が一番分かっているじゃないか。俺は狂っている

そもそも、俺が死んでいるのか、生きてるのか証明できる奴はいない

全てが夢で視界に映る者は影だ

正も邪も等しくある世界

過ぎていく時の中で確かな物など何も無い、あるのは記憶

忘れえぬ思い…………それが全て…だったはずだ

己が前に眠る少女が彼女であるはずがない

なのに、このつのる思いはいかばかりか

再び……彼女の微笑み、心、優しさ…………全てを………

手に……したい

いや、やめろ!

否定しただろ?…………もうあの日々は還らない

俺の故郷は消滅し、帰るべき場所はどこにもない


 「ただいま〜、ん?もう帰っていたのかルビア」

  腹の突き出たチビはげ中年の父親が帰宅した。

 「あっ、お父さん、お帰り。ねぇコレ新作?」

  父の書斎の前を通りかかった時、ふと覗いてみると机の上のディスプレイに書きかけの原稿が映っており、

 興味を持ったルビアはついつい読みふけってしまった。
 
 「ん、まあそうだな」

 「なんかこの前のと違うね。何と言えばいいか……重くて、暗い。寂しい、悲しい、そんな感じ」

 はっきりとは言えないが自分では理解できない思考だと思った。

 「そうか、そうかもな……彼は誰かに理解される事を望んでいないんだ。むしろ断罪される事を願っている」

 「う〜んん〜ん、難しい設定だね。分かりにくいよ」

  ルビアには分からないだろうな。

 「そういうものさ。決して主人公にはなれないけどね。………そして彼は遠い過去に失った人を忘れられず、偶然

  拾った少女にその人の面影を重ねて取り戻そうとする、心の安寧を。でも全てが無駄なのも知っている」

 「未練タラタラって感じだね。でも救われない人ということ?」

 「さあな、それは今から考える」

 「まだ決まってないんだー?」

  まぁ、もともと救われたいとも思っていないさ。誰が救える?何が救いだ?

  自らの奥から湧き出す感情をおくびにも出さず、ルビアの感想に耳をかたむける。どこか嬉しげで、それで

 いて複雑な表情を浮べながら………

 「構想中だよ。…………そう言えばルチルから連絡があってな」

 「えっ、お母さんが?何て」

  途端に難しい表情から喜びへと変える。コロコロ変わるところは可愛い。

  母親のルチルは北欧の実家に寄り道してから火星に来ることになっていた。

 「来週にはこっちにこれるそうだ」

 「来週…………」

  途端にルビアの表情が曇る。アキトとユリカの抱擁の場面を思い出したから。

 「元気ないなぁ〜学校で何かあったのか?」

  急に元気の無くした我が子の頭に手を置き、顔を覗き込む。

 「……なんでもないよ。なんでもね」

  無理やり浮かべた笑みだと気付いたが、追求しなかった。理由は知っていた

  資料集めと称して出歩き、その実アキト達を観察している事は家族に言えない秘密だ。

 「それならいいんだが…………なあ、ルビア。今……幸せか?」

  突然聞きたくなった。

 「!?お父さん…突然何を言い出すの?」

  驚くのも無理は無い。

 「まあ、今の正直なお前の気持ちが知りたいんだ」


  急にこんな事を聞かれれば戸惑うのは当然だったが、自然と思いを言葉に代えて話し出した。

 「うん、幸せだよ。お父さんにお母さん。パール達や友達。ミンナ居て、それが普通に感じられる。だから、

  私は今、幸せだと思う」

  不思議だったが、なぜかそう思えた。

 「幸せばかりでは物語は面白くならない。一粒の悲劇がすばらしい香辛料となる」

  美しい妻と可愛い子供たちに囲まれた幸せな家庭。確かに一時はこのままでいいとさえ思った。それも一つの

 帰結であり、悪くは無い。しかし、所詮まがい物では心は満たされなかった。この娘の笑顔が失われるのを惜し

 む気持ちと相反するようにもう一つの感情が存在する矛盾。

  時々抑えきれない激情。だがその感情で心を覆うにはまだ早い、舞台はまだ始まっていないのだから。

   「えっ、何か言った?」

  自身の暗い感情を隠し仮面をかぶせる。私はやさしい父親…………今はまだ。

  父の声は小さすぎて聞こえなかった。たとえ聞こえていてもルビアには意味が分からなかっただろう。

 「いや、何でもない…………それよりお腹がすいたろう?今日はカレーライスだぞ」

  曖昧な父の言葉。でも自分に言わないのは必要ないことなんだろう、あるいは自分には関係ない事か。

  一瞬見せた父親ではない別の顔に気付かなかったフリをして、

 「えっえーーーーーーーーー。『今日も』でしょ!三日続けてカレーじゃない。もう飽きたよ〜〜」

  父のその顔を一刻も消すが為に自分は演じる。ワガママな娘を……あの顔は何か嫌な記憶を呼び起

 こす。だから…………余り見たくない。

 「まっ、まあ何だ。煮込めば煮込むほど味は良くなるんだ。ルチルが来るまで我慢してくれ」

 「来週まで続くの〜〜?…………お母さん!早く来て!お願いだから!」

  父の言葉が冗談だと分かっていたので、地球のある方角を向いて祈りをささげるポーズをとった。

  しかし、自分が甘く考えていた事を後々知る事になる。宣言どおりルビアの家の食卓のメニューで

 カレーが途切れる事は無かった。ユリカ達が火星を離れたあの日まで。
  


第三話 『いい日、旅たち』


一.

  あれから一週間。何も手はうてなかった。今回も同じような事が起こるとは限らない。

 前回には無い要因がいくつかある、この過去において。
 
  しかし、それでも今度は救いたかった。あの悲しみをラピスに味あわせたくない、そう思うから。

 当初は戸惑いもあった。何しろ自分の記憶に無い妹。いなかったはずの存在。でも今ではかけがえの無い

 自分の家族だ。あの時の俺はただ立ち尽くし、涙を流すだけで何もできなかった。あの無力感。ラピス

 がどうなるのか見当もつかない。どうすればいい?どうすれば…………

  アキトは何もしなかった訳ではない。両親を説得しようともしたが、相手にされなかった。無理も無い

 だろう。ボゾンジャンプについてこの時代で一番詳しいと思える両親でさえ知らない事が多い。

 後にアイちゃんによって解析されるジャンプの実態。火星の生き残り達がたどる悲劇を…………

  ちょっと待て。生き残りがたどる悲劇って何だ?それに…………

  アキトの記憶に無いはずの記憶。自分達がモルモットにされ廃人寸前まで追い詰められること、拉致され

 た人々の運命。こんなことは無かったはずだ。俺たちは結婚後からジャンプしたのだから。

  少し疲れているのかもしれない。余りにも物事を抱え込みすぎている。そう思おうとした。


  オヤジが言う事も分かる。分かるけど、学者はどこまでいっても学者でしかあらず、というところか。

  俺がいくら言っても信じないもんなぁ。まあ無理も無いよ。未来のことなんて誰も真に受けない。

  いまだにヒリヒリする頬を擦りながら思い出した。



  ユリカ達が旅立つあの日は刻々と近づくにつれ、焦りで心がせかされる。

  「お父様は私の言う事を冗談としか受け取ってくれないの。ねぇアキト。アキトも一緒に地球に行こう?」

  昨日ユリカに言われた。確かに魅力的な意見だ。でも、それじゃあ、みんなを見捨てる事になる。自分

 だけ安全な所に逃げるみたいで何か嫌だった。何も知らないみんなを欺くようで。

 「じゃあ、どうするの?このままじゃあアキトのお父様、お母様が死ぬかもしれないんだよ!」

  ああ、分かってるさ。だけど…………

 「……それに………それにね。今度は助かる保障はどこにもないんだよ、アキトが死んだら私どうすれば

  いいの?この年で未亡人は嫌だよ」

  気にしているのはその点か?

 「わかった。オヤジ達に俺達の事、包み隠さず話して説得してみる」

  泣き止まないユリカを安心させる為にとっさに出た言葉。最後のかけ。

 「……信じて…くれるかなぁ?」

  少しだけ元気が出てきたあいつを強く抱きしめて耳元で囁いて、

 「ああ、必ず今度こそ皆を助けような……」

  別れのキスをした後、あいつを見送り家に入り両親の帰りを待つ。これで何とかなる!……少し自分に

 酔っていた。過去に戻ってやり直す事ができる自分。ヒーローにでもなったつもりだった…………

  でも、現実は甘くは無く厳しく突き放された。所詮中身が何であれ見かけは子供で扱いも子供であると。



 「父さん、母さん話があるんだ」

  夜遅く仕事から帰ってきた二人に話しかけたが、

 「明日も早いんだ。後にしてくれないか。それに今何時だと思う?子供はもう寝なさい」

  静かに諭す声だったけども拒絶する意思が感じられた。

 「時間はもうあまり無いんだ。父さんたちの命に関わる事だから俺の話を聞いてくれないかな?」

 「突然、何を言うかと思ったら……馬鹿なことを。変なテレビでも見たんだろ?」

 「冗談でも嘘でも無いから聞いてくれ!……父さん達は極冠遺跡について研究してるんだよね?」

 「お前…どこでそれを?」

 「後で話すよ。それで…………」

  俺はオヤジ達に遺跡について知ってる事、未来に起こる事。そして、ユリカと俺の事を詳しく説明した。

  時には頷き時には難しい顔に歪めながらも最後まで聞いてくれた。しかし、

 「お前が言いたい事は分かった。正直、未来から心だけ戻ったという事は信じられんが、以前と変化した

 お前を見ているとそう思わせるものを感じる。しかしな、ネルガルはそこまでひどい企業ではない。父さん

 の意見に賛同してくれてな。空港近くに研究施設を新たに作って、他の企業に広めるための研究の資金まで

 出してくれたんだ。決してアキトのいうような非道な行いをする企業じゃない。誰から聞いたか知らないが

 安心しろ。…………分かったらもう寝なさい。明日も鍛錬するんだろ?」

  俺もそう思いたい!でも…………

 「父さんは分かっていない!ネルガルは後ろ暗い所は沢山持っている。だから、お願いだよ逃げて……」

 バシッ

 「いい加減にしろアキト!」

  俺は殴り飛ばされ床を転がった。母さんが引き起こしてくれる。

 「あなた、何も殴らなくても……」

  オヤジは荒い息をつきつつ椅子に腰掛けなおして、

 「何を聞いたか知らないが………やはりお前は子供だ。世の中の事を知らなすぎる。私達を暗殺して企

  業にどんな利益がある?研究が立ち遅れて他の企業に追いつかれるのがオチだ。それよりも遺跡の技術

  を公開して利用法を考えた方が何倍も有意義なんだぞ」

  確かに、世の中が本当に平和ならば、それでもいい。でも奴ら…木連がいる。

  平和利用より戦争利用されて新たなる悲劇を呼び込む。前の歴史よりも早く…………

  その事についても話したが、木連の話がまずかったらしい。全て空想や虚言に思われてしまった。

  もしかしたら、違うのかも知れない。必ずしも同じ歴史を歩むとは限らない。そう思いたかった。



  その日以来、両親達はアキトの話に耳を貸さなくなった。どれだけ切実に語っても本気にされず、

 虚しさだけが増す。何かで聞いた事がある、過去に戻って未来を変えようとするとソレをさせないよ

 うにする力が働くという。もしかしたらコレがそうなのかも知れない。

  今更ながらに気付かされる、無力な自分を。でも今度はできるだけの事をしよう。あの頃とは違い自

 分は本当の無力ではないから。

  目の前にある壁に右手を付け体内の『気』を練る。全身を流れる力が右手に集中するイメージを浮か

 べ、一気に解き放つ。

 「粉砕!」

《ボシュ》

  奇妙な音と共に壁に大穴が空き欠片が砂となって崩れる。この間考え付いて練習してきた技。

 なぜか知っているような気がして試してみるとうまくいった。何も無いより幾分マシだろう。

  この力で今度こそ!

  決意に燃えるアキトは自分の後ろに迫る影に気付かなかった、

 「たいした力だが………その若さでその威力。成長すればどれ程のものか」

 「!?」

  振り返るといつの間にか一人の老人が立っていた。カスリ模様の着物を着流し、懐から出した右手で顎

 を擦っている。年は60ぐらいか?白髪まじりの髪の下の顔は長い人生を偲ばせるしわで埋もれている。

  スキだらけで何の構えもしていないが、しかし…………。

 「だが……ワシに見られたのが運のつきよ。潔くうちの壁を修理しなさい」

  この壁の持ち主らしい。ニコヤカに笑っているが目は射抜くようで怖い。

  支払い能力の無いアキトは両親が迎えに来るまで帰らしてもらえず、自宅に帰った後も両親にこってり

 しぼられた。数日振りに口をきいてくれた言葉が小言だったとはいえ、アキトはうれしかった。



二.



  空港の広いロビーの地球行きシャトルの搭乗口近くの椅子に腰をかけた中年の男。

  元ネルガル重工火星支社のSS統括室長だった男。本名は親しい者しか知らない。

  本社命令で地球へ帰ることになったのだが、復旧の目処の立たない停電によって支社の機能が停止してしまい

、モロモロの手続きや準備が大幅に遅れ今日になってしまった。

  本社にその事について連絡しようとしたがどうしてか、つながらなかった。火星で駄目なら地球で連絡

 すればいいんです。出社が遅れたことで辞めさせられるぐらいならソレはそれでいいんです。

  駄目だ、駄目だ。疲れているんでしょうか?どうにもマイナス思考に陥りがちです。

  気分転換に伏せていた視線を上げると少し離れた所に見知っている顔が見えた。

 「あれは…………アキト君?それと、ミスマル少将。あの方と同じ便でしたか。奇遇というか何と言うか」

  数日前に軍の一部が地球に帰還するらしい、という噂を聞いた。名目は軍備縮小の為とあるが、ネルガル

 への兵器の受注数がそれを裏切っていた。何か…裏がある。とも思ったが役職を解かれた彼には知るすべは

 無かった。それよりも気になる事があった。突然の帰還命令、連絡不通。本社でいったい何が…………

  見送りにきた子供の親らしい小太りの中年にさしかかった男が、アキト達から離れこちらに歩いてくる。

 見覚えの無い顔。周りを見回したが自分以外に人影は無い。すると自分に用事だろうか?

 「すいません、突然話しかけてしまって。これから地球ですか?」

  気安く話しかけられましたが全く知らない人です。誰でしょう?

 「ええ、本社に呼び出されましてね。で、あなたは」

 「ああ、私はあの方の娘さんを見送りに来た、ほら、こっちを見て恥ずかしそうにしている子供がいるで

 しょう?アレの父親です」

    確かに顔を赤くして俯いている女の子がいます。テンカワさんとこのラピスちゃん並みに可愛らしい女

 の子ですね。

 「そのあなたが私に何か御用ですか?」

  娘さんは目の前の男の実子とはとても思えませんが、奥さんがよっぽどお綺麗な方なんでしょう。

 「いえね、ミスマルさんとは初対面でして。しかも軍人さんじゃないですか、あそこに居づらくなりまし

 て。そしたら見送りの方も居ず、一人の貴方をお見かけしまして話しかけてみたと、いうわけです」

  確かに普段は厳しい顔をしていらっしゃるミスマルさんは近づきずらいですね。

 「ああ見えてミスマルさんは意外に砕けたところもある人ですよ」

 「そうなんですか。人は見かけによらない、というわけですか。ということは……あなたもタダモノでは

 ない、というわけですね?」
 
 「!?」

    探るような男の視線を正面から受け止める。驚きは顔に出さず、にこやかに…………

 「何を仰っているのか分かりませんが、私は見ての通りのしがないサラリーマンですよ、はい」

  そう言えばいつの間にか私の間合いに入られたのでしょう?気配を何も感じない、『無』そのもの!?

 「まあ、まあ。そんなに警戒なさらなくてもいいでしょう?私は一般人でしがない小説家、それだけです」

  信じられませんね、中々の達人…………デキル方です。うちのSSにスカウトしたいぐらいです。

 握り締めた拳は噴出した汗で湿り、背中を冷や汗が濡らす。

 「あっ、そろそろ出発の時間ですよ?余り悩みを内に溜めると体に悪いです。………心配事の一つは今日中に

 片がつくでしょう。どういう結果であれ、これからの貴方の身の振り方で幼い命が救われるかもしれません。

 私が言うのも何ですが。まっ、頑張ってください」

  男は私の肩に手を置くと離れた。

 「……待ってください……一つ聞きたい事があります」

  果して答えてくれるでしょうか?

 「情報の入手源は言えませんよ……?」 男は呼びかけに答えたかのように立ち止まる。ただし振り向かない。

 「いえ、確かにそれも興味しんしんですが………なぜ貴方はソレがこれから起こる事を知っていながら自ら

  動かないのですか?」

  私の見立てでは可能と思えるんですがねぇ。

 「さっきも言いましたが私はしがない小説家。ん?その顔は信じていません、って顔ですな。確かに昔はそれなり

  に戦場を渡り歩きました。多少腕もたったと思いますが………やはりブランクがありすぎます。かって引き締ま

  り戦場では恐れられた体も今ではこのザマです。それにね、嫌がるんですよ娘達が………昔の顔に戻ると。聞い

  た話によると10人強はいるらしいですし、そうなれば私も全力を出さねばならない。するとね出るんですよ、

  昔の顔が。怖がられてしばらく口をきいてくれなくなると、フォローが大変で…………」

  こちらからその表情は見えませんが、肩を揺らしているところを見ると苦笑しているのでしょうか?

 しかし、まだシックリきませんね。

 「それは……本当ですか?」

  私の『勘』が違うと言ってるんですが。

 「いやぁ〜分かりますか?………今のは建前です。今の職業にも言えることですが、私は小説を読む事が好

  きです、書く事よりもね。終わりはハッピーもあればバッドもある、その過程は千差万別。アキません

  それが醍醐味とも言えるでしょう。つまりね当事者では見えない事も第三者の目から見れば把握できますし、

  他人事であるが故に楽しめます」

 「………私はその当事者ですか」

 「まぁそうですね。よく御分かりのようだ、楽しみにしていますよ。貴方の行動をね」

  この男は……他人事として楽しむ、というのだ。不幸を。なんか腹が立ちます。

 「ああ、そうそう私としては貴方に動いて欲しくは無いんですよ」

  行動を促すように情報を流して、止めてもらいたい?どういうことですか。

 「実はね。私の娘が貴方のよく知る少年に熱をアゲテましてね、父親としては悪い虫には早々と消えてもらい

  たいワケなんですよ。あの子は悲しむかもしれない、でもそれは一時です。また私を慕う娘に戻る。その為

  には邪魔なんです。だからお願いです。何もしないでください。ねっ?」

  私も他人の事は言えませんが、なんと身勝手な考えでしょう。ますますこの男が嫌いになりました。

 「あれ?怒りました?嫌だなぁ〜〜冗談、冗談ですよ。どこの世界に娘の幸せを阻む親がいるもんですか」

  余りに勝手な発言に私の怒りが顔に出ていたのか、取り繕うように誤魔化す男。しかし……こちらを肩越しに

 一瞥する視線は底冷えのする冷めた嫌な目、口元に浮かぶのは嘲笑。嘘とも思えません。

 「ああ、娘が呼んでます。機会があればまた会いたいですね。それじゃあ」

  挨拶もそこそこに立ち去る男。正直胸糞悪くて二度と会いたくありませんが、こういう相手に限って縁があるん

 ですよね、私は。

  件の男は娘らしき少女と幾ばくか話した後トイレに入った。

  いったい何者でしょう?本社に着いたら調査してみるべきですね。敵か味方かどこの者か。ですが、

 心配事?何のことでしょう。幼い命を救う?どういう意味でしょう。本社の件は無関係ですし、私がよく知る少年?

  最近の事、自分に関わりのある人物の事、色々考えて困り果て気分転換にふと見上げた視線の先にはミスマル少

 将の姿も無く、子供達がいるだけ。

  その中にアキトはいなかった…………まさか!?嫌な予感がする。幼い命、ここは空港、隣接するように建設
 
 されたテンカワさんの研究施設、あの計画。まさか、アレはまだ進行中なんでしょうか?

  一本につながる線。一番納得のいく懸案。

  てっきり立ち消えたと思っていましたが…………いやいや、何を考えているのですか、私は本社に帰らねばな

 らない身。今の私にとって会社が一番…………いえ、違います。ここで動かねば後悔が残ります。シャトルはこ

 れだけではありませんが、テンカワさんを助けられるのは今しかないかもしれません。あの男が何者でなぜ私に

 それを知らせたのか分かりません。あの男の思い通りに動くのはシャクですが…………

  はやる気持ちを抑え、荷物もそのままに駆け出す。間に合って欲しい!

  後日、悩んだ時間だけ出遅れた事が心残りとなった。


三.


  結局、オヤジ達の考えを変える事はできなかった。今頃、この空港近くの施設で勤めているはずだ。

 ユリカを送り出した後すぐに向かえば助けられるかも……いや助けるんだ!見取り図は頭に叩き込んで

 いる。その図からだいたいの爆破地点と襲撃場所の特定はできた。後は本番にどこまでできるかだ。

  この事はラピスはもちろんユリカにも話していない。あいつらの事だ、泣きながら引き止めるだろう。

 二人にも関係ある事だが俺自身でカタをつけたい。失敗してもあいつ等に重荷を背負わせるワケにはいか

 ないんだ。悲しみは少しでも軽い方がいい。

 「ユリカ、地球に行っても元気で頑張るんだ。そして、あの場所で」

 「うん、うん、分かってる。アキト!私一生懸命頑張る。そして今度もあの場所で」

  俺達は約束した。離れ離れになろうと俺達に距離は関係ない。CCがあれば地球へ跳べる。

 だが、ラピスの出生が不明である以上、見捨てるわけにはいかない。必ず生きて地球に向かわせる。そし

 て、今度も『ナデシコ』に乗ろう。懐かしい仲間、家族のもとへ。でも、他の皆の事は?今度は助けたい、

 全滅なんて悲しすぎる。何か手はあるはずだ。俺は火星に残ってソレを探す、ユリカは以前と同じ…いやそ

 れ以上の努力で何としても今度も艦長になる、そして、俺たちはまたあの場所で出会う。ジュンの車のトラ

 ンクから落ちた鞄が俺に当たった、あの場所で再会する事。これが約束。

 「あーゴホン!あーアキト君、別れの挨拶はそこまでにしてもらえないだろうか?時間が来たのでね」

 「もう、そんな時間ですか」

 「うむ、これが今生の別れでもあるまい。今度、休みに遊びに来るといい、歓迎するよ」

 「はい、そうですね。ユリカまたな」

  抱きしめていた体を離し、涙で濡れた顔を拭いてやる。まるで子供だ。

 「アキト〜アキト〜アキト〜」

  一度離れた体を再び預け、顔を上げ目を瞑る。もう少し周りの様子も考えてくれ〜

 「…………」

  いつまでもそのままでいても仕方が無いし、ユリカは俺の奥さんだからな。うん、キスぐらい当たり前

 、当たり前。頬に手をあて口を近づける。

「駄目〜〜〜〜!」

 「!?」

  俺たちの間にラピスが割り込み、唇を塞がれてしまった。可愛らしい唇で。

  周りの友達は唖然として固まった。幸い目を閉じていたユリカは俺たちのラブシーンを見ていない。

 「お兄ちゃんは私の大事な人なの!だから、ユリカお姉ちゃんでも許さないの!」

 「ラピスちゃん……どういう事かな〜?」

  ラピスの宣言に目を開けたユリカがラピスを睨みつけながら迫る!

  ユリカって案外嫉妬深いんだよなぁ。いつものごとく始まる二人の追いかけっこに暖かい目を向けてい

 た俺の肩を誰かがつついた。誰だよ?げっ!?

  振り向いたアキトを見下ろすミスマル叔父さんの顔は般若もかくやと言うほどの鬼神のごとき顔だった。

 「なぁ、アキト君。君は確か……ユリカと婚約したはずだ。もしかしてユリカの事は遊びだったのかな?い

  や、君に限ってそんな事は無いのは分かってるよ。だが、ユリカを悲しませる事があったら………」

 「も、もちろんです!浮気はしませんし、必ず遊びに行かせて貰います。絶対に」

  静かな怒りをヒシヒシと感じた俺ははカクカクと頷くしかなかった。



  アキトとユリカさんの抱擁。その様子を見れば一目瞭然。とても私が入り込む余地は無い。

 それ程の強い絆で結ばれている、という事なんだろう。来なければよかったかも…………

  アキト達を見ていられず視線を外すと、ここまで連れてきてくれた父と視線が合ってしまった。

 気まずい、居ずらい。感情は『逃げ』かけている。この場から消えてしまいたかった。

 「ふ〜ん、あれがルビアのお気に入りのテンカワ・アキト君か」

  その言葉に耳まで赤くなるルビア。

 「ちょ、ちょっと、お、大きな声でそんな事言わないでよ!ち、違うの。私とアキトは」

 「構いやしないさ、誰も聞いちゃあいない。ガキにしては大人顔負けのラブシーンだな。あの年であんな

  に手馴れてるんじゃあ、他の男子は形無しだ」

  どこか感心したような父の言葉に何か腹が立ってきた。それにアキトもアキトだ。いくら幼馴染との

 別れといったって、ちょっとやりすぎ。

 「しかし、お前もこれで分かったろ?アキト君はお前には荷が重過ぎる。ああいうタイプを好きになる

  と苦労するぞ。俺も若い頃はアキト君と同じでよくモテたから、ルチルに絞るまで何人と付き合った

  事か。あの頃の俺にそっくりだよ、うん」

  どこか遠い所を見て懐かしむ父に、

 「ソ・レ・は・嘘」

  即座に否定する。絶対、想像できないもん。アキトの未来がこのハゲチビだなんて、考えるのも嫌!

 「そ、それはないだろう。実の父親の事が信じられないのか?」

 「その点は信じない!友達も皆言うよ、絶対!」

  さっきだって皆にお父さんを紹介したら驚いてたもん。写真を見ていたラピスちゃんでさえ実物を目にして

 唖然としてたし。ましてや子供の頃はアキトに似ていた、なんて言ったら…………

 「そこまで言うかな〜〜。ん?あれは………なるほど。ルビア、父さんはあの人と話してくるから、ちゃん

  とユリカちゃんを見送るんだぞ。それと……ユリカちゃんが居なくなればお前にも機会がある。遠距離恋

  愛は昔からうまくいかない、というし」

  片目を瞑り、いたずらを思いついた子供の表情で囁く父。

 「もう!何言い出すのよ!」

  お父さんは本気で怒った私から逃れるように離れ、ちょび髭で蝶ネクタイをつけたオジさんの所に歩いて

 いった。知らない人。どういう知り合いだろ?共通点の見出せない二人だった。

  アキトの方に目を向けるとキスシーンに突入するところだった。思わず顔が赤くなる。もう!ちょっとは人

 目を気にしてよ!

  あわやキスというところでラピスが乱入してユリカから奪ってしまった。しかもキスつきで。

  ホント、ラピスの態度はとても兄に対するものじゃない。ブラコンもここまでいくと異常だね。

  その後展開されるドタバタ劇を呆れた視線で見ているとお父さんが帰ってきた。話はおわった

 らしい。何だかあのオジさんの様子が変だけど、どうしたのかな?

  ロビーの空調は快適な温度に保たれているのに、寒さで震えているように見える。

 「何だ、まだ終わっていなかったのか?ミスマルさん!時間ですよ!

 「おっ!こりゃ遅刻だな。すいません。おい、ユリカ行くぞ。アキト君、クレグレも約束を忘れ

  ないように」

  お父さんの声に時計を見て驚いたミスマルのオジさんはユリカさんの手を引いて搭乗口に向かった。

  何度も何度も手を振ってアキトの名を連呼しながらユリカさんとオジサンはゲートの向こうに消えた。

  それにしても、ミスマルのオジさんみたいに渋いのもいいよね。お父さんは浮きすぎ。子供は

 親を選べないから損だよ。あ〜あ、せめて痩せてくれないかなぁ、お母さんとつり合うくらいに。

  自分の親を見てツクヅク思うルビアだった。

 「ん?何だその顔は?…………ちょっとトイレ行ってくるから先に帰っていてくれ。なんならアキト君と

  一緒に帰っても……わ、わかった、わかった。もう言わない」

  私が拳を振り上げると途端に弱気になったお父さんは急いでトイレに向かった。

  でも、お父さんの言う事ももっともだ。帰りはアキトと…………

  ルビアがアキトの方へ振り返ると姿が見えなかった。

 「あれ?アキトは?」

 「えっ、お兄ちゃん?何か用事を思い出したからってどこか行っちゃった」

 「そう……なんだ。じゃあ、一緒に帰ろうか?」

 「ウン!」

  ラピスと一緒に帰る事にした私は空港を後にした。アキトと帰れなかったのが少し残念だった。

 途中、突然気を失いかけたラピスをいたわりながら、私はラピスちゃんの家に寄る事にした。気を持ち直し

 たラピスの雰囲気が少し変わった事が気になったから。

  でも、今となってはそれが偶然ではなく必然だったように思う。

  ラピスの家に着いた。(アキトの家でもあるけど)突然、空中に窓状の映像が浮かぶ。『スーパーウィンドウ』

 と呼ばれている通信画面だ。これもルチルが私達家族の連絡用に作ってくれた装置で他の友達は誰も持っていな

 い。そこには頭から左目までを包帯で覆った父親が映っていた。

 「お、お父さん!?どうしたの、ソレ?」

  空港で別れた後何があったんだろう?

 『ああ、これは大した事ないんだ』

 「大した事無い、って大有りだよ!どうしてそんな…………」

 『詳しい事は後で話すよ。それより今どこだ?』

 「えっ、えっと〜アキトの家の前だけど」

 『そうか…………ならラピスちゃんは傍にいるか?』

 「うん、いるけど代わろうか?」

  そんな状態でラピスちゃんに何の用事なの?

 『いや………なあ驚かないでくれ。実は………10分ほど前に空港で爆破テロらしきものがあってな、アキト君

  が大怪我をして病院に担ぎ込まれた。今……集中治療室で手当てを受けている。ん?おい!ルビア!…』

  アキトが大怪我?………何言ってるの?……さっき別れたばかりなのに。

  その後もお父さんの話は続いていたけど、ほとんど耳に入らなかった。衝撃が強すぎて何も考えられない。
 
  何とか会話の欠片を集めて内容を理解した私は、ラピスを連れて病院に向かった。

  私は混乱していて気付かなかった。一番取り乱して不思議でないラピスが以外にも冷静だったことに。
 



四.



  目の前に無防備な背中を向けた男達がいる。全員武装していて何か話しているが関係ない。必要なのは二人

 で後はいらない。面倒だこいつを使おう。

  腰から引き抜いた試験管のような物を操作した後、無造作に投げつける。男達より数十センチ先に転がる。

 一瞬、ソレに気を取られた何人かが視線を向けたまま急激に展開した闇に覆われ消える。手足の先を残して。

  何かに切り取られたような鋭利な切断面からは忘れていたかのように血が噴出す。その時になって残りの男

 達は異常に気付き周囲を警戒する。

  遅い。ヒントをやるか。

  不意に背後から聞こえた物音に一斉に銃口を向ける。そこには黒いザンバラ髪に大き目のサングラス、黒いラ

 イダースーツの上に黒いコートを身に着けた20代ぐらいの男が立っていた。



  間違いない奴だ!噂や調査資料通りの姿。いつ現れたのか分からない。なぜ俺たちが狙われた?

  決まっている、俺達のターゲットの関係者だからだ。会長に見せられた資料に記載されていた。

 ならば、なぜ俺達の事を知っている?

  分からない。いや、一つだけハッキリしている。コイツをやらねば自分達もああなるのだ!

  ある意味リーダーの下した決断は正解だった。しかし、運命は変わらない。武器は通用せず、むなしく響き渡り

 銃声が止むとあたりは静けさを取り戻す。

  動かなくなった物体の中から奇跡的に息をしている二人の襟首を掴むと男は施設の奥に向かって歩き出した。

  後には数体の屍と何かを引きずったような血の後が二本残された。



  なぜ、こんなに静かなんだ?おかしい、おかしすぎる。

  警戒しながらも辺りからは何の気配も感じられない。いつもは数十人が働いているはずの施設。

  誰も居ないはずがない。足音を極力立てずに廊下を走りぬけ角を曲がる、何か柔らかいものとぶつ

 かり押し倒してしまった。何だ?

  アキトは自分の下敷きになっているものを見た。10代後半ぐらいの女性だ。長い金髪を背中に流

 し、白衣を着た姿は誰かを連想させる。柔らかいものは彼女の胸で服の上からとはいえ、きっとナイ

 スバァディなんだろう。いや決まっている。いつまでも彼女の胸に顔を埋めていたかったが、時間が

 無い。急がなければ!

  女性の胸に手を置いて起き上がると急いでその場を後にする。

  しばらくして、頭を擦りながら起きた彼女は廊下をトボトボと歩き出した。

  彼女は火星極冠で発見された遺跡の解析チームの一員として明日からここに勤める事になっていた。

 今日はその挨拶も兼ねて施設の見学に来たのだが…まさかあんな事になるとは夢にも思わなかった。

  テンカワ主任と物質変換理論について話し合っていると、突然乱入してきた10人ぐらいの武装集団によっ

 て拘束され、実験機材が置かれた一番奥の部屋の隅へと集められた。彼らは意外と統率されており、まるで軍

 の兵隊のようだった。でも、その口元に浮べた笑みは下品で全身を舐めまわすように見る視線が、いやらしく

 自分がタダで返される事の無い事を物語っていた。

  それはすぐに証明され数人がコンバットナイフを片手に私に近づき、スカートの裾に手をかけられた時に恐怖

 は頂点に達した。

  でも意外な救い手が現れた。黒い影が目の前のを通り過ぎざま、何かのきらめきを残す。一瞬後には私に襲い

 掛からんとしていた者達が細切れにされ、血シブキが私に降りかかった。

  それらを為したのは一人の珍妙な風体をした男だった。

  その男はある意味場違いだった。昔のホロムーヴィーから抜け出したような時代錯誤な姿。編み笠を被り、

 長いマントから突き出した手に刀を握り締めて。笠に半分隠された顔は表情こそ見えなかったものの、口元には

 嘲りを含んだ酷薄な笑みを浮かべていた。

  男達が振り返るより早く駆け出した男は瞬時に数人を血祭りに挙げた。手が、足が、頭が、胴体の欠片が面白

 いように撒き散らされる。辺りは一面血の海だ。さすがに気付いた残りの者達が振り返るのも待たず、切り伏せ

 る。この間、実に十数秒の出来事だった。

  不思議な事にこの惨劇の実行者は返り血ひとつ浴びず佇んでいた。

  私はあまりの事に息をするのも忘れ動けないでいた。しかし、私の視線に気付いたかのように男の目線がこち

 らに向けられ、右手がヒタイに押し付けられ………その後のことが思い出せないのだけれど、気付いたら廊下を

 ひたすら出口に向かって歩いていた。

  手持ちの通信機器からはノイズが流れるばかりで何の応答もなく、しかたなく自らの足で助けを呼ぶしかなか

 った。なぜか暗く証明の落とされた廊下。明かりの無い洞窟の中を歩むように心細かった。

  遠くの先に微かな明かりが見え、藁にすがる思いで駆け出す。なぜか粘つく足元を気にしながら。

  期待は裏切られた。『警備詰め所』と表示されたドアをくぐると全身を蜂の巣のごとくボロボロに貫かれた

 男達の死体が床に横たわっていた。ここまで希望にすがりつき張り詰めていた気は簡単に切れ、意識が遠のく。



  何ですかここは?まるで猛獣の巣穴に入るような気分です。警備部は何をしているんでしょう。

  アキトから遅れる事数分、元室長は施設に足を踏み入れた。異様な気配、粘りつく殺気。死臭漂う異界へと。

 「おや、あれは?」

  警備部の詰め所に足を向けた彼は倒れ伏した若い女性に気がついた。気を失っているようだが幸い外傷は無い。

  しかし、精神衛生上はいただけません。

  詰め所の内部は一面血の海だ。倒れ伏す男達の傷跡はまるで……そう、まるでアノ男の手口にソックリだ。

  彼が関係しているのか?……彼、闇騎士が姿を現さなくなってから数ヶ月が経過していた。しかし、また活

 動を再開し始めたのか?…………決め手に欠けます。情報不足ですね。

  室内から伸びた二対の血の跡が奥に続いている。

  この先はさらに危険、というわけですなぁ。しかし、果して小学生がこの奥に行けるものでしょうか?

  とりあえず、女性を抱き上げ近くの部屋に運び入れ横たえると思案にくれた。

  自分の思い違いでは無かろうか?考える間も無く、銃声が響き渡る。

  この奥で何かが起こっている。実行犯はまだこの奥にいるのだ。

 「くっ!?考えてもきりがありません。無事でいてください!アキト君」

  いるにしろ、いないにしろ、考えていても埒が明かず。即行動に移った。友人達を助ける為の行動を。



  そこは本当に研究施設なのか、と疑うほど床一面が赤い血で汚されていた。以前、学校で感じた同じ殺気を

 を放つ何者かの気配をあった。

  いつの間にか消え去った殺気の持ち主。この惨状の実行犯。その男はこちらに背中を向け何かをして

 いた。顔はよく見えない。編み笠をかぶり長いマントに隠された体は細身に見えた。

 「……知らぬと申すか?フン!まあいい。貴様が答えねばこちらのご婦人の体に聞いてみるまでのこと」

  17世紀代の時代劇がかった口調の男は吊り上げていた人物を投げ捨てると、近くに蹲っていた女性の体

 を踏みつけた。その二人は確認するまでも無く、アキトの両親だった。

 「父さんと母さんを離せ!」

  無謀にもアキトはその場に飛び出した。しかし、体が危険信号を発して止まない。危険だ!危険すぎる。

  早く逃げろ!逃げた方がいい!……しかし、逃げるわけにはいかない。

  二人は辛うじて生きているようだが言葉を発する力も無く身動き一つしない。

  アキトの声に振り返った男は口元にいやらしい笑みを浮べ、懐から取り出した銃の引き金を無造作にを引いた。



 

つづく




あとがき


  前回、感想に『闇騎士』の正体が謎のままと書かれてノバさんの感想の返しにはっきりと書かなくても描写で

 分かってもらえるだろう、と書き込んでみましたが、よく考えてみると『時の流れに』の第二章よろしくあちこ

 ちで現れる黒装束の男がアキトだと思っていたらカイトだった、という事があったのを思い出しました。

  やっぱり、その人物本人に自己紹介させるまでは判定できませんよね。反省点です。

  さて、今回も火星編アキト『少年の章』は終わりませんでした。

  次回こそは『少年の章』は終わります。(終わらせたいなぁ〜)『青年の章』が始まるのは5話からですかねぇ。

  なぜか映画版のあの人らしき人物が登場しました。果して彼の正体は?闇騎士は?アキト達の秘密の一端が

 次回、明かされる事でしょう。(ネタバレにならない範囲で)

  余りあてにならない予告

  謎の人物との邂逅。それは悲劇の幕開け?それとも記憶の封印を解く鍵?歴史は少しづつ食い違い流れ、

 進む。なぜ俺たちはココに来たのだろう?最後の記憶は何を暗示するのか。アイツの為、俺の為。

  誰にとっての幸福、誰の為の喜劇。アキトは、ラピスは何を思い考え行動するのか?

  次回、少年時代の終わり。お楽しみに!!

 

 

代理人の感想

あー、なるほどそう言うことですか。

 

は、さておき。

 

この作品のアキトくんも頭悪いですねぇ。

変な芸が使える時点で新婚当時の自分じゃないとわかりそうなもんですがw