FLAT OUT

(22)






 カヴァーリ二台の後塵を拝しながらのフォーメーション・ラップは、開幕戦オーストラリアGP以来だった。それはこれまでの成績を考えれば、屈辱的とまでは言わなくても明人には悔しくて仕方がないことである。しかしいま、明人にはそれどころではなかった。
 タイヤを温めるために、ハンドル上にあるトラクション・コントロールの調整ダイヤルを「カット」位置にして、アクセルをドンと踏み込む。すると電子デバイスの枷がなくなったパワーは全てが後輪に伝えられ、タイヤは青白い煙を上げながら空転して少しだけ温まる。適正温度は85度である。
「もう一度やってみるよ」
 明人は無線でエリナに伝えると、トラクション・コントロールのダイヤルを「10」、晴天での最大位置まで戻した。そしてもう一度、アクセルを蹴飛ばしてみる。今度もリヤタイヤは激しいホイルスピンを起して、悲鳴をあげた。
「だめだ。トラクション・コントロールが効かない」
『今からスペア・カーに乗り換えることはできないわ』
「わかってる。このままいくよ」
 スペア・カーへの乗換えは、フォーメーション・ラップの直前までと決まっている。
 トラクション・コントロール無しでのFAマシンは、じゃじゃ馬という表現でも生温いくらいだ。右足の親指に力を入れるだけでも背後のエンジンは鋭く反応し、加減を誤ればすぐにリヤタイヤは破綻して滑り出すだろう。壊れた部品がレース中に何かの拍子で直るというのは、極めて稀である。いかに明人でも、そんなマシンで一時間半のレースに挑んだことはなかった。
「ラウンチ・コントロールは効くかな」
『リヤホイールからの回転信号がTCに届いてないのよ。物理的な障害かも知れないわ』
「わかった。マニュアル・スタートでいく」
 エリナに答えながら、明人はターニャとの会話を思い出した。
 本音を言えば、アスリートとしてのプライドは、ドライバーズ・エイドの発達を必ずしも快くは思わなかった。一昔前の先輩ドライバーたちが機械に助けられて走る自分たちを嘲れば、なにくそと思った。
 それなら、いまここで証明してやろうじゃないか。ブレーキ・ロックを防ぐABSはどうやら無事らしいが、レース用のそれは介在が極端に低いから、踏み過ぎればロックする。となれば、トラクション・コントロールこそドライバーズ・エイドの最右翼である。それが切れた状態で――先輩たちの駆ったマシンと同条件で、勝ってやろうじゃないか。
 レース後の明人だったら、そんな無謀な考えはしなかったかも知れない。しかしスターティング・グリッドが近付いた今、明人の頭にはそれが当然のごとくに浮かんだ。


 レッド・シグナルが消え、マシンが飛び出した。他のマシンがラウンチ・コントロールを使って加速する中、明人だけは左手でハンドルの裏にあるクラッチ・パドルを操作して、ぎりぎりのスタートを切った。
 こればかりは、機械任せの方が確実で速い。半クラッチが存在しないそれを、これもほとんど動かないパドルで操作しているのだ。ホイルスピンさせないよう気遣ったが、回転が一気に落ち、二台に抜かれてしまった。もっとも、それだけで済んだのだから良かったのかもしれない。
 思ったとおり1200馬力を発する瓜畑謹製のエンジンは、あまりに敏感だった。コーナーの出口、まだ遠心力が残っている状態で1ミリでもアクセルを開けすぎれば、まるでリヤタイヤの下だけいきなり氷の路面になったかのようにマシンは挙動を乱した。
 いかに明人といえど、ここまでカウンター・ステアを駆使したレースは経験がない。雨のレースでさえ、こんなに忙しくはなかったのである。アクセルを踏む時は常に、いつでも逆にハンドルを切れるよう身構えていた。
「エリナ、思ったよりきついよ。指示はストレートだけにして」
『わかったわ』
 コーナリング中は、全神経をそれに集中させなければならなかった。他のレースでもそれは同じだが、いつもならエリナの声を聞くことくらいはできるのに、今はそれすらも余裕がなかった。
 前をいくマシンは、いとも簡単にコーナーを抜けてゆく。しかし引き離されはしない。半分以上は意地で、ともかく負けてなるものかという気概だけが明人の手足を動かした。もっとも、いったい何に負けたくないのか、明人にも分らなかったのである。



 何周目だろうか。それを確認できるのは直線区間だけだが、何しろ時速200キロでもホイルスピンしてしまうのだから、結局一番長い『ランウェイ』ストレートでしか明人は息をつくことができなかった。
 それでも明人は、最初のピットストップまでに何とか二台を抜いたのである。そのどちらも、『ランウェイ』でスリップストリームを使ってのものだった。幸いだったのは、スタートで明人を抜いたのがその二台だけだったということだ。これで残りは、カヴァーリの二台である。
『明人君、大丈夫?』
 最初のピットストップで、マシンが持ち上げられてタイヤを交換している最中、エリナが尋ねる。
 ピットロードに飛び込んだ時から、明人は息を整えるだけで精一杯だった。心臓が破裂しそうなくらいに早鐘を打っており、レースを完走したとしても絶対に自分の力でマシンを降りられないだろうとさえ思ったのである。
「大丈夫だよ。少し慣れてきた」
『ペースは悪くないわ。もしプッシュできるのなら、ハリを抜くことはできるわよ』
「北斗は?」
『ピットインする前で4.8秒差。給油は同じ2回だと思うけど』
 燃料搭載量がラップタイムに影響を与えにくいサーキットであるからだろう。ネルガルも2回給油作戦である。つまり、レースはまだ三分の二が残っている。
 ピットアウトするときでも、明人はアクセルの操作に細心の注意を払わなければならなかった。エリナには大丈夫だと言ったが、正常なマシンで1レース走っただけでへとへとになってしまう明人である。まだ半分も終わっていないのに、早くも疲れてきていた。


 ともかくストレートでスピードの伸びるカヴァーリの二台は、着々とラップを消化して、北斗は独走態勢を築いている。レースの三分の一を走って差が開く一方ならば、残る三分の二で逆転する可能性は極めて低い。
 明人はハリにターゲットを絞り、差を縮めることだけに専念した。まるで毎周が予選アタックのようだった。
『カーナンバー3、テンカワがじわじわと追い上げています。昨年のチャンピオンに代わってカーナンバー1を駆るのはFA最年少のハリ。その差は1.1秒』
 ロシア語の場内アナウンスは、もし聞こえたとしても明人には理解できない。そしてもちろん、いまの明人にそれは全く届かなかった。
 いま、明人は0.5秒後の未来を見ながら走っているのだ。コーナーのどの部分でどのくらいリヤが流れるのか、第1スティントでそれはもう分っている。時速230キロでリヤタイヤがグリップを失うのが一瞬なら、それに対処するカウンター・ステアも一瞬だ。だが明人はそれを、毎周にわたって完璧なまでにやり遂げた。

 そして、第2スティントの中盤である。ハリの後尾がじりじりと近付いていた。なんとかして、直線で抜かなければならない。コーナーではマシンを破綻させずに走らせるだけで精一杯で、ハリとコンマ何秒かの駆引きをする余裕はなかった。
『ヴォトカ』コーナーは、コースのレイアウトがウォッカを飲む時に使うショットグラスに似ているので、その愛称がついた。ヘアピンに近い、二つの小さな直角右コーナーである。そこから全開で立ち上がり、1.5キロの『ランウェイ』ストレートを駆け抜けるのだ。
『ヴォトカ』への進入で、ハリのマシンがイン側を塞ごうと少しだけラインを外したのを、明人はほとんど無視した。ラインはレコード・ラインそのままで、ブレーキを遅らせたのだ。
 ネルガルが持つ技術の粋を極めた戦闘機は、トラクション・コントロールを除けばその全てが完璧に作動した。ABSはタイヤがロックする寸前を保って最大限の制動力を発揮し、明人は一気にハリの斜め後ろにまで追いすがったのである。ハリは明人をけん制するため、完全に内側のラインを走っていた。
(――君には悪いけど、そういった読みはまだ僕の方が上だよ)
「クロス・ライン」が決まるのを確信して、明人は心の中でハリに呼びかけた。
 ハリがラインを変えなかったら、それは成功しなかった。明人は最初から彼が自分のラインからどいてくれるのを待っていたのだ。そして読みどおり、まだ経験の浅いハリは明人にイン側から抜かれるのを防ぐため、ラインを変えた。いや、ベテランであったとしてもインを開けるのはあまりにリスキーであろう。彼は、そうするより他に無かったのだ。
 加速重視のラインは、わざと過剰に減速してくるりと小さく回り、そして直線的に加速するのが定石だ。ハリのとった正攻法の完璧なコーナリングは、速度は速いがブレーキも早い。その差で並びかけた明人は、立ち上がりでアウト側一杯に膨らむハリの内側めがけて加速した。それぞれのラインが交叉するので、「クロス・ライン」と呼ばれる戦法だ。
『テンカワがハリに並びかけました! 見事な戦略で――ああ、でも加速はカヴァーリの方が有利です』 
 場内アナウンスも興奮して叫んだ。
 加速でカヴァーリが有利なのは最初から分っている。だがその先は、ともかく長い直線だ。先ほどの「クロス・ライン」だけでハリを追い抜けるなどと、明人は思っていなかった。むしろそれはこの直線のための下準備だったと言っても良い。ハリとの差は、一旦2車身ほどに開いた。
(完璧な間隔だ)
 明人は思った。
 スリップストリームに入り、彼を追い抜けるくらいまで加速するために、それは完璧な間隔だったのだ。

――ドライバーズ・エイドなんてなくても、走ってやる。
 それは意地である。ハリや北斗がいまの明人と同じ状況に置かれたときどれくらいのスピードを発揮するか、明人には想像がつかなかった。だがそれはどうでも良く、ともかくハリを抜くことだけが、今の明人の意地であったのだ。

 6速、時速340キロに達してからが勝負だ。ここまでくるとさしものカヴァーリ・エンジンも空気の壁に阻まれ、加速が鈍ってくる。だが明人はハリの真後ろに隠れて走るため、その壁はない。再びハリの後尾がじわり、と近付いた。
 7速、時速370キロ。ハリのマシンがどんどん近付く。人が歩くくらいの速度差がすでにある。両者の間隔が1車身を切ったと思ったところで、明人はさっとマシンを右にずらした。ハリも即座に反応して明人のラインを塞ぐ。だが、明人はここでもそれを待っていた。最初にマシンを振ったのはフェイントである。
 明人が最初よりも素早くマシンを滑らせたので、ハリは一瞬明人を見失ったのかも知れない。明人の前輪が彼の後輪と並ぶまで、彼はまるで明人を探しているかのように微動だにせず、直進していた。しかしそのとき既に、明人は彼の左へと出ていたのである。
 スリップ・ストリームから出てしまうと、ネルガルNF211の加速はがくんと鈍った。それでも、それまでに稼いだ速度は予選時のカヴァーリC.7の最高速度を上回っていたのだ。
『401.7キロ! フォーミュラ・アーツがついに時速400キロを超えました!』
 スピード・トラップを越えた瞬間、アナウンスが叫んだ。
 明人はすでにハリを押え、第1コーナーへのフルブレーキングに入っていた。時速400キロから一気に時速90キロまで減速するこのストレート・エンドは、シーズンの中で最もブレーキに過酷な区間である。
 5.2Gでの減速に、脳みそが頭蓋骨に衝突したかのような衝撃さえ感じた。顔面の血液が鼻から眉間に集中するのがわかる。歪む視界の中から、ハリの赤いC.7が消えた。
 ハリを抜き去った瞬間に少しだけ薄れた集中力のせいか、第1コーナーからの加速で一瞬リヤが滑る。しかしそれを即座に修正したのは、充満したアドレナリンだった。
 大歓声の下で、明人はたったいま抜き去ったハリを従えて、再び加速した。





 レースも終盤である。足首が痛み、ふくらはぎは突っ張って固まってしまったかのようだった。常にミリ単位での操作を、右足はしている。明人はFAドライバーの中でも比較的アクセル・ペダルのストロークを多くしている方だが、今回ばかりは自分のそのセッティング・スタイルに感謝した。これが1センチしか動かないアクセル・ペダルだったら、とてもここまで走ることはできなかったろう。
 だが、体力も限界である。身体中が悲鳴をあげている。6Gの遠心力がかかるコーナリング中でさえ、唐突なリヤの横滑りに備えて両肩をショルダーサポートに張ったままだった。腹にも力を入れっぱなしだし、踵が動かぬよう膝をモノコックに張り付けてもいる。そこかしこから痛みが襲ってきたのだ。

 北斗に追いつくことは、不可能だろうか。もちろん明人は不可能であったとしても追いつこうとしたが、それより今は後ろのハリを気にしなければならなかった。レースは、追いかけるよりも逃げる方が辛い。追いかけるときは前だけ見ていればいいが、逃げるには前も後ろも見なければならないからだ。

 汗が目に入り、沁みる。それでも明人はアクセルを踏みつけた。このままでは北斗に勝てない。とんでもないハンディを背負った戦いではあるが、それも忘れていた。ただ離される一方であるのが、我慢できないのである。
 先輩たちは、トラクション・コントロールなんて無くても戦った。ABSも無かったし、タイヤウォーマーだって無かったはずだ。それでも彼らは、ともすれば現在よりもパワーのあるじゃじゃ馬マシンを駆って、戦った。
――そう、父さんも。
(負けてたまるか)
 動かない足首に鞭を打って、さらに繊細に動かそうとする。しかしちょっとしたはずみに力が入り過ぎて、リヤがすっ飛び、慌ててカウンターを当てるのである。

 北斗との差は、じりじりと広がってしまった。一方で、明人とハリの差は広がらない。また、縮まりもしなかったのである。
 ハリは明人に比べれば小さなミスが目立って、もう少しで明人を抜けるかも知れないというところで、焦りからかブレーキを遅らせすぎて理想のラインを辿れないことが何度かあった。明人は、それに助けられたのだ。それが北斗であったなら、今ごろはあっさり抜かれてしまっていたに違いない。

 ファイナル・ラップで、北斗は明人の14秒前方を走っていた。完璧なポール・トゥ・ウィンである。そしてハリは明人の後方、3位。直線を得意とするカヴァーリは、その期待に答えて2台とも表彰台に上がって見せたのだ。
 明人とハリの差は1秒だった。最後の『ヴォトカ』を立ち上がり、再び空気の壁と戦いながら明人は、果てしなく遠かったチェッカー・フラッグを潜り抜けた。
『おめでとう、明人君! 貴方はよく頑張ったわ』
 真っ先にエリナの声が耳元に届いた。
 優勝は逃した。先輩に一泡吹かせてやろうという思いは、実現しなかった。明人にとって優勝以外はどれも同じである。2位であろうとビリであろうと、敗北であることに変わりはないのだ。それに加えて意地を突き通せなかった悔しさ。しかし今、あまりの疲れにそれも思わなかったのである。
「疲れたよ。本当に疲れた――」
『なにか飲み物を用意しておくわ。……ウォッカでも飲む?』
「……死んじゃうよ」
『頑張って、戻ってきて。皆が待ってるわ』
 エリナは、本当に明人を気遣っているようだった。ジャーナリスト連中が今回のトラクション・コントロールの故障を「それは大変でしたね」と労ってくれても、明人は何も思わないだろう。だが彼女が言ってくれるなら、それは嬉しいと思った。
 彼女はドライバーではない。でも、自分がこの途方も無く長い一時間半の間に闘い続けたものを、彼女は分ってくれる気がしたのだった。

 表彰台の前にマシンを停めて、エンジンを切ると、身体中からどっと汗が噴出したように感じた。まわりの歓声も聞こえず、明人はしばらく項垂れて頭の中身を整理した。しかし、整理するものなど何もなかった。
 顔を上げ、柵の向こうで心配そうに自分を見ているエリナの姿を見つけると、不思議とほっとする。シートベルトのターン・バックルを外すと、身体の緊張も解けた。とたんに痛みが倍増したが。
 背後からは、エンジンの冷める音がキンキンと背中を伝って聞こえてくる。結果はともかく、明人のこれまでの人生で、一番長いレースだった。
 コクピットに立ち上がったが、ずっと全神経を集中していた右足は完全に痺れていて、感覚もない。案の定、車を降りようとしたとたんに膝が折れ、転びそうになった。しかしそれを支えてくれたのは、意外な人物だったのである。
「大丈夫か」
 聞き覚えのある声に明人が顔をあげると、そこにはヘルメットを脱いだ北斗が立っていた。つまり明人は、転びそうになったところを彼女に受け止められたわけである。
「あ……ありがとう」
 久し振りに彼女を見たような気がして、明人はなぜか彼女の顔から目が離せなかった。ターニャと同じスラヴ系の血が混じる色白の頬はレースの火照りから少し赤みが差し、フェイスマスクの跡も薄らと見て取れる。とび色の瞳は怪訝そうな色を浮かべてじっと明人を見つめ返していた。
「立てるのか?」
 北斗の言葉に、明人ははっと我に帰った。
「えっ? あ、ああ、うん。大丈夫だよ。……ありがとう」
 そうは言ったが、明人はそのまま自分のマシンに腰を下ろした。立ってなどいられなかったのである。
 ヘルメットを脱ぐと、やっと新鮮な空気が肺に入ってきた。グローブを外せば、ついぞ忘れていた大陸の風が火照った手を冷やしてくれる。レーシングスーツは、汗でびっしょりだった。
 明人は、奇妙な感覚に襲われた。負けたのに、妙に心地良いのだ。レースに負けてこんなに爽快な気分になるなど、自分はもうレーサーとしてのプライドが無くなってしまったのかとさえ思ったのである。しかしすぐにその心地よさの原因に気づいて、明人は人知れず笑みを浮かべた。
「トラクション・コントロールは全く効かなかったのか」
 とつぜん尋ねられ、明人は驚いて彼女を見上げる。北斗は、周囲の歓声はどこ吹く風といった具合に腕を組んで明人を見下ろしていた。
「知ってたの?」
「最初から知っていた。スタートの時、お前のマシンのエキゾースト・ノートからはトラクション・コントロールの効く音がしていなかったからな」
 それを聞いて、明人はなんだか肩の力が抜けた。ここにもまた、自分がどういうレースをしていたか、知っている人間がいる。
 もちろん、規則上オープンとされているチーム内無線だから、確証もあったろう。ハリも知っていたに違いない。なのに彼がそれを逆手にとった戦法に出なかったのは、なぜだろう。単純に経験不足でできなかったのか、もしくは――。
 どちらでもいいと、明人は思った。心地よい疲労感を、ひんやりとした風が撫で冷ましてくれた。
「うん、効かなかったよ。こんなに疲れたのは久し振りだ」
 そう笑って返すと、北斗は驚いたのか、それとも呆れたのか、小さく肩を竦めてみせた。そして彼女も、笑みを浮かべたのである。
「まったくもってお前は、俺を喜ばせるやつだよ」
 彼女はそう言って、もう一度「立てるか」と尋ねてきた。足の痺れはとれてきていたが、だるさは頂点に達している。一番酷使した右の足首は、今になって痛みが蘇ってきていた。
 明人は、なんとか立ち上がって、初めて観客席を振り仰いだ。歓声はもうゴチャゴチャになって何を叫んでいるのかまったく分らなかったが、その歓声が誰に向けられていても構わないと明人は思った。
 目の前で取り囲んでいる関係者も含めて皆に、明人はヘルメットを掲げて手を振った。すると歓声は、どっと大きくなったのだった。











to be continued...


勝てる………勝てない………
勝てる………勝てない………
勝てる………勝てない………
勝てる………勝てない………
勝てる………勝てない………
     (以下エンドレス)

 

 

感想代理人プロフィール

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代理人の感想

ぷは〜っ! この一瞬のために生きているって感じだねぇ!(某のんべ作戦部長風)

いやいや、冗談ではなくここしばらくの裏方話でタメたものが今回できっちり弾けて、爽快感を与えてくれました。

やっぱりこのタメ→解放という流れは一つの王道ですねぇ。

毎回解放しててはこの爽快感は味わえません。

まぁ、読んでる方からすると毎回この快感を味わいたいと思ってしまうのも事実ですが。