機動戦艦ナデシコ

The prince of darkness episode AKITO












ティーカップから湯気と共にダージリンの香りが立ち上る。



日の光が豊富に射し込む、明るく広いティールーム。

白いテーブルには一人の老人と二人の若い女性が席に着いている。


一人の老人が孫娘二人とお茶の時間を楽しむ、実に微笑ましい光景。
そう言っていいかもしれない。

会話の内容を度外視すればの話ではあるが・・・・・・。





「草壁は月を追われたか。ネルガルめ。落ち目だ何だと言われながらも、よくやるものだ」


声を発したのは顎と口に真っ白い髭を蓄えた老人。
見た目の好々爺然とした風貌とは異なり、その声も眼光も鋭いものだ。

老人の名はロバート・クリムゾン。
世界に冠たるクリムゾン・グループの会長、その人だ。

「人事のようにおっしゃるものですわね。
私たちクリムゾンが被っている被害も軽視しえぬものとなっているというのに」

食って掛かるような口調で老人に語りかける女性。
もう一人は我関せずとティーカップを持ち上げる。


テーブルを囲んでいる二人の女性は、いずれも金髪、碧眼で、どこか似ている容姿を有していたが、受ける印象はまったく別のものであった。
今発言をした女性は赤を基調とした服を身に纏い、濃い目の化粧、そして鋭い瞳を有し、どこか火を思わせるような印象を与える。
もう一人は白を基調とした服を着用し、薄い化粧、そして穏やかでいながら底の見えない瞳を持ち、掴み所のない雲のような印象を与えている。

前者はシャロン・ウィードリン。
後者はアクア・クリムゾン。

どちらもロバートの孫に当たる人物であった。


「だいたい私に言わせれば、この時点で火星の後継者を支援するのにも疑問です。
ネルガルの後塵を拝していた戦前、戦中なら話もわかりますが、現時点では私達クリムゾンがネルガルを凌駕しております。
社会そのものが変革してしまうかもしれないリスクがある火星の後継者の決起を支持せずとも、現状のままでよろしいでしょうに」

「しかしなシャロン。草壁はボソンジャンプを司る遺跡を保持しておる。
あれがある限り時代の推移は読みきれん」

先の大戦において、地球と木星の双方が狙ったボソンジャンプのブラックボックス。
それはいまだ多くの謎を有している。
その重要性を認識しているロバートとしては軽視し得ないのだ。

「元々現在の世界は、お世辞にも安定しているとはいいがたい。
どう転んでも生き残れる用意をしておくのが賢いやり方だろうて」


「蜥蜴戦争中から地球の敵・・・・・・木連とも通じてらっしゃったお祖父様らしい考え方ですわねぇ」

横から口を挟んだのは、今まで黙って紅茶の香りを楽しんでいたアクア。
その言葉はどこか侮蔑を含んでいるようにも聞こえるが、穏やかに微笑んだままのアクアの表情からはそれを感じさせない。

「「・・・・・・」」

ロバートもシャロンも、アクアの真意は読み取れず、しばし沈黙する。

アクアという女性は知能は低くないのだが、その言動は整合性に欠け、とりわけ奇行を好む。
理性と実利を旨としているロバートやシャロンは、アクアという異質な存在を測る物差しを持たなかった。

ロバートは軽く嘆息しつつ頭を振る。


「木連と通じていたことで、今日のクリムゾンがあることも確かだ。
統合軍で機動兵器のシェアを獲得したステルンクーゲルにしろ、そして現在建設中のヒサゴプランにしろ、我らだけの成果ではない」

自らの傲慢を戒めるような響きを込めてそう言うロバート。

「それは承知しております。ですが・・・・・・」

「儂は企業家なのだよ。利があるならどんな敵とも組む・・・・・・。
その用心深さこそが、今のクリムゾンを作ったのだ」

半ば、先ほど非難めいた発言をしたアクアに向けた言葉だ。

「だからネルガルにもラブコールを送ったと・・・・・・?」

「シャロン、これはクリムゾン会長である儂の決定だ」

”この話題はここまでだ”とばかりに席を立つロバート。

シャロンは納得のいかない表情でそれを見送った。





「ったく・・・・・・」

シャロンはカップの紅茶を一気に飲み干すと、乱暴にテーブルに戻す。


「たいへんですわねぇ〜、グループの未来を背負ってらっしゃると」

そう言いつつ空になったカップに紅茶を注いでやるアクア。

「アクア・・・・・・アンタはね」

自分と同じくクリムゾンの後継者候補となっているアクアに視線を向けるシャロン。

ある意味ではライバルなのであるが、二人の仲は険悪なものではない。
これは会長への興味を見せないアクアの態度にも起因するものなのだが。


クスクスと笑うアクアの前には、月で行われた火星の後継者とネルガルの攻防についての膨大な報告が広げられている。

「何がそんなに可笑しいのよ?こっちは色々苦労してるっていうのに」

苛立たしげに言うシャロン。

「だって・・・・・・ねぇ」

アクアは資料の中から一枚の写真を取り上げ、それをシャロンへと渡す。

「何よこれ?」

怪訝そうに写真を見るシャロン。





そこにはバイザーをつけた黒髪の男が映っていた。




















「ミッション失敗・・・・・・か。上手くいかないもんだね」


ネルガルSSの総力を挙げた拠点襲撃。
その作戦の結果報告をプロスから受けたアカツキはそう総括する。

「結果として拠点の一つを潰したのですから、0点ではないと言いたいところなんですけどね。
まあどちらにせよ落第点であったことは変わりませんが・・・・・・」

"参りましたな"と顔をハンカチで拭く仕草を見せるプロス。

「テンカワ君の様子はどうなんだい?」

「やや落ち込んではいますが、まあこれは当然でしょう」

"そうだよねぇ"と首をすくめるアカツキ。
分かりきったことではあったのだが、聞かずにはいられなかったようだ。

「けれど大丈夫でしょう。何しろ独りではありませんからね、テンカワさんは」

「そうあって欲しいものだけどね」

プロスはメガネの位置を直す動作をすると、ふと真剣な表情を作る。

「もし・・・・・・。
もしも今回の作戦でテンカワさんが草壁を殺し、ミスマル艦長を助け出していればどうなったのでしょうね?」

「もしも・・・・・・ね」

アカツキは顎の下で両手を組むと、視線をプロスから逸らして深く考え込む。


もしも。
それは仮定の話。

終わったことを論じても、それは所詮IFでしかない。
今ここでどうこう言ったところで何かが変わるわけではない。
考えるだけ虚しくなることなのかもしれない。

しかしそれでも尚、考えずにはいられない事柄もある。


「いくつか想像できるけどね・・・・・・」

アカツキはそう言うと、椅子に深く身を沈める。






「でもきっと・・・・・・元通りにはならないよ」





















アキトはネルガルの秘匿ブロックにある自室の前に立つ。


硬く閉じられた扉には、カードキーを通し暗証番号を打ち込む装置が付いている。
しかしアキトはカードキーなど持っていなかった。


【ラピス】

リンクを通して半身の名を呼ぶと、扉が勝手に開いていく。

この扉はラピス・ラズリが管理していて、ネルガル施設ならどこでもフリーパスできるはずの"魔法の会長カード(アカツキ曰く)"でもロック解除できなくなっている。


「アキト」

部屋に入ったアキトに抱きつくラピス。
月での襲撃のため数日間離れていた反動だろうか、普段よりも抱きついてくる腕の力が強い気がする。
しかしそれはアキトにとっても、望むところのものだ。
アキトも強くラピスを抱きしめ返す。

「ラピス・・・・・・」

ラピスの温かさ、柔らかさは、ささくれ立ったアキトの心を癒してくれる。
怒りと憎しみしかない世界に堕ちてしまいそうなアキトの心に安らぎを与えてくれる。


独りじゃないことを常に教えてくれている。



(あれ?なんかちょっと・・・・・・)

アキトは少し・・・・・・ほんの少しだけ、抱きついてくるラピスの感触に違和感を覚える。

【どうしたのアキト?】

心の揺らぎに反応してアキトの瞳を見つめるラピス。

「いや、なんでもない。今日は風呂に入って休もう」










アキトとラピスの私室についている浴室は意外と広く豪華だ。

湯船に浸かっているアキト。
肉体には無数の傷跡が刻まれていて、彼の尋常ならざる人生の軌跡を窺わせるが、 浴室でまで黒いバイザーを着用しているその姿はどこか滑稽に思える。


体を洗っているラピスをボーっと見ているアキト。
思い起こすのは脱衣場で見たラピスの裸体。
僅かに胸がふくらんできていた。

先ほど感じた違和感の正体。 それは押し付けられたラピスの胸であったことをアキトは知った。


(そういえばラピスの年齢は11〜13歳程度だってイネスさんが言ってたな。
けどあれは・・・・・・)

それを聞いたのは火星の後継者から救われて間もない頃。
既に一年以上前の話となっている。

(ってことは12〜14歳ってことか。
こうして見るとナデシコに乗った時のルリちゃんよりも、ほんの少し背が高い・・・・・・ような気がする。
140センチくらいかな?)

浴槽に向かって歩いてくるラピスを見ながらそう思う。


湯船に浸かったラピスは、アキトの胸に耳を当てると瞳を閉じる。
アキトの心臓の鼓動を聞いているのだ。


(一年以上・・・・・・か。ラピスと出逢ってもうそんなになってたんだな)

アキトは感慨にひたる。

子供時代の一年は長い。大人のそれよりもはるかに重要だ。
体も成長するし、心も成長する。

(ラピスの心は、少しは成長したのだろか?)

現在のラピスの環境は、子供が子供らしく成長していくような環境とは程遠いことをアキトも承知している。
それでもネルガルや火星の後継者の研究所にいたときよりはマシだとも思う。

(いつか、普通の暮らしをさせてやれる時が来るんだろうか・・・・・・?)

火星の後継者をどうにかするまでは、安全に一般社会で暮らしていくことはできないだろう。
いや、火星の後継者がいなくなってもマシンチャイルドに平穏など来ないのかもしれない。
そんなことを思うアキト。

ホシノ・ルリが軍へ入隊したことに関しても、どこか納得いく部分がある。

今の世の中、価値観、社会体制。
どれもマシンチャイルドのような異端者には生き辛くできている。
偏見の目は少なからず存在し、排除しようとする動きが生まれることはむしろ自然なことだ。

ナデシコでは受け入れられたマシンチャイルドのルリではあったが、ナデシコが社会の規範、モデルというわけではない。

その常人離れした美しい容姿。
そのあまりにも優れた能力。

どちらも他人の心に嫉妬を生み出さずにはいられないほどのものだ。
彼女が望んだものではなくても、それは他人には分からない。

嫉妬心は容易に蔑み、憎しみに姿を変え・・・・・・異端者を排除する社会を形作る。

社会はいつだって、弱いものや一人ぼっちのもの、異質なものが生きていくには選択の余地がないようにできているのだ。
だから家族を失ったルリにとって、ミスマル・コウイチロウの庇護を受けられる宇宙軍という組織に身を置くというのは、定められた選択肢であったのかもしれない。


一生懸命やれば願いは叶う。
頑張れば必ず報われる。

そんなのは嘘っぱちだとアキトは思う。


世界は優しくない。

そのことを今のアキトは知っていた。





己の体験をもって・・・・・・。










「あっ!?」

考え事をしていたせいで、長く湯船に浸かりすぎていたようだ。

アキトは慌ててラピスを湯船から引き上げる。

ラピスの処女雪のように白かった肌は、全身赤みを帯びていた。










ベッドの上で仰向けになっているラピス。
どうやら長湯でのぼせてしまったようだ。

「大丈夫か?」

心配そうにウチワで扇いでやるアキト。

ラピスはポウッと熱を吐き出すように呼吸する。





いつかラピスに普通の生活を与えてやりたいと思うアキト。

普通であること。
平凡であること。
中庸であること。
それらを貴重に思うアキトがいる。

失くしてしまった普通の生活。
それこそが至高の価値を有していると思っている。

だからアキトは、普通の生活を与えてやることによってはじめてラピスを幸せにできるのだと思っているのだ。

それだけがすべての人の幸福というわけではないのだが・・・・・・。





「アキト・・・・・・」

アキトに向かって手を差し出すラピス。
アキトは黙ってその手を握る。





今、アキトの瞳に映っているのは自分だけ。
今、アキトの心を占めているのは自分だけ。

そのことを感じているラピスは”今”、幸せというものを感じていた。










【アキト】

「どうした?」

【イネスが来た】

「開けてくれ」

【ウン】




「あら?どうしたの?」

部屋に入ってきたイネスはラピスの様子を見てそう問う。

「いや・・・・・・実は」

アキトは事情を説明する。

「で、イネスさんはどうしたんですか?」

「ラピスに機動兵器のOSの作成を頼んでたのよ。
そろそろできた頃かなと思って・・・・・・」

アキトはラピスに視線を向ける。

「ああ、いいのよ。今日いるってわけでもないし」


イネスはラピスの頭を撫でようと手を伸ばすが

パシ

すんでのところでラピスに払われる。


「全然懐いてくれないのよね・・・・・・」

少し悲しそうな表情を浮かべてため息をつくイネス。

ラピスは研究者を嫌っていて、その研究者である自分も嫌いである。
そんな仮説を立てている。

単にアキト以外には触れられたくないだけかもしれないが。



「♪〜〜〜♪〜〜」

イネスは静かに唄を歌いだす。
それは火星の子守唄"赤いゆりかご"

「♪〜〜♪〜〜〜」

イネスの歌声は静かに、そして穏やかに響いた。



しばらくすると、ラピスから規則正しい寝息が聞こえ出す。
そしてアキトも睡魔の囁きに耳を傾けていく。


ラピスの横で眠りに落ちたアキトの顔からバイザーを外すイネス。

アキトの寝顔は、どこか幼く見えた。





イネスは愛しそうにアキトの髪を撫でながら思考の海に身を委ねる。















今の私は充実している。



そう気付いたのはいつからだろう?





私はお兄ちゃんの役に立っている。
お兄ちゃんの望みを叶えるために欠かせない存在である。

そう自覚できるようになってからだっただろうか?



私が生きてきた過程で身に付けた知識、技術が無駄ではなかったことの証のように思えるからだろうか?





今回の月での作戦。



それが失敗したと知った時、お兄ちゃんの気持ちを考えると残念に思った。


でもその一方で、ミスマル・ユリカを救出できなかったことに喜んでいる私がいる。





お兄ちゃんが自分を必要としているこの状況が続くことを望んでいる私がいる。










こんなことを考える私は浅ましい女なのだろうか?



















「前はなかったよな・・・・・・」


イネスを通じてウリバタケの呼び出しを受けたアキト。
出向いた秘匿ドックの入り口に掲げられた看板を見てそう呟く。

その看板には

URIBATAKE SECRET LABORATORY
瓜畑秘密研究所 ネルガル支部

と銘打たれていた。

(そういやナデシコの私室にもこんなプレートがかかってたっけな・・・・・・)

ナデシコでのオモイカネの反乱時に、ウリバタケの部屋を訪れたことのあったアキトはその時のことを思い出す。


「おう、来たかアキト」

入り口で呆然としていたアキトを見つけたウリバタケが声をかけてくる。

「完成したそうですね」

「ま、とりあえずだけどな」

ウリバタケの招きに応じてドック内に入っていくと、漆黒の巨人が佇んでいる。

背部に伸びる巨大な翼と尻尾。
肩部にある巨大な装甲。

既存の機動兵器とはかけ離れた容姿を誇っていた。


「シミュレーターで使用しているAタイプですね」

「そうだ。ワンフレームからなる新型機動兵器を作るためのデータ収集用実験機。
そういう位置づけの機体ということになる。
追加装甲だから色々問題点も山積みで、バランスの悪さには目を覆うけどな。
腕部もエステバリスの物のままだし」

確かにバランスは最悪であろうが、その悪魔的フォルムはアキトの心を掴んだようだ。
どこか歪んだ笑みを浮かべながら、その漆黒の肢体を舐めるように見ていく。



「機動兵器の機動に関する説明はイネスさんが全部やってるだろうから、俺は使用する武器のをしてやるよ。
現在的には出力の関係で使える武器が限られてるけどな」

ウリバタケの言葉に頷くアキト。

「まず両手に持たせることになる武器のうち、メインに使うのが試作型ハンドカノンだ。
コイツは今どき珍しくなったビーム兵器だ」

「ビーム・・・・・・ですか」

アキトは微妙な表情を浮かべる。

「ま、怪訝に思うのも無理ねぇか。
木星蜥蜴襲来の折、火星会戦でまったく役に立たなかったんで、それ以後めっきり姿を消してたからな」

”だが”と付け加えると、資料を提示するウリバタケ。

「当時、次世代型の戦艦の主砲となるべく開発されていたビーム砲を小型化したのが、この試作型ハンドカノンだ。
収束率を格段に上げてあるから、現在主力となっているステルンクーゲルのディストーションフィールドなら貫ける」

「ステルンクーゲルの"なら"・・・・・・ですか」

「まあ、戦艦クラスにまともに撃ちゃあ確実に弾かれるわな。
効くんだったら戦艦の主砲が実弾兵器に変わったりしてねぇよ」

「・・・・・・」

「今の機動兵器や戦艦とかは、ディストーションフィールドがあるおかげでビーム兵器なんて食らわねぇってことになってるからな。
その分ビームに対する防御力はかなり低い。
ディストーションフィールドさえ貫通すればほとんど一撃で倒せる」

それなりのメリットはある、ということだ。

「つまり通常の機動兵器なら一撃で倒せるし、高出力のディストーションフィールドを装備したカスタム機や戦艦なんかも、本体に当たりさえすれば倒せるってことですね」

ウリバタケは頷く。

「レールガンとかも考えたんだけどな。ちょっと無理があったんでボツった」

「反動が強いせいですか?」

「いや、そうじゃねぇ。腰にマウントすりゃ、片手でも反動に対応できる」

「じゃあ?」

「それ以前の問題だ。
はっきり言えばエネルギーが全然足らねぇ。
間違えんなよ。こいつは驚異の新兵器じゃねぇんだ」

スパナで頭を掻きながら黒い機動兵器を見上げる。

「だいたい追加装甲にフィールドジェネレーターをはじめとした様々な要素を乗っけてくっつけるんだ。
極端に重くなる分、推進機関にエネルギーがとられすぎて、フィールドを安定させたら武器に使えるエネルギーがほとんど残ってねぇ。
その程度のモンなんだ。
あらゆるステータスを数値化して総合すりゃ、スーパーエステとそう変わらねぇよ、コイツは」

火力、運動性能、継戦能力、汎用性・・・・・・。
そういった面では明らかにスーパーエステバリスのほうが上回っているのだ。

「んで、胸部に仕込んだのがバルカン砲だ」

「バルカン砲ですか・・・・・・。なんかショボい気がするんですけど」

「まあ、ロボットアニメの影響だろうな。
20メートルクラスの機動兵器じゃ補助的にしか使われてない印象があるからな。
だが、バルカン砲というのは結構たいした代物なんだぜ?」

「そうなんですか?」

「元々バルカン砲っていうのはガトリングガンをでっかくしたものなんだ。
正しくはガトリング砲と呼ぶべきなのかもしれねぇ。
そのガトリングガンってのは多数の銃身を束ねて回転させながら撃ち出すものだ。
開発されたのは19世紀半ばでな。当時としては画期的なものだったらしい。
だが如何せん重過ぎた。
何しろ銃身がいっぱいあるわけだからな。
これを携帯すると機動性が極端に落ち込む結果になり、他にも軽い機関銃が開発されて忘れ去られていったんだ。

で、20世紀半ばになってそのアイデアを復活させて開発されたのがバルカン砲なんだ。
バルカンは開発プロジェクトの名称で、それがそのまま砲の名称となった。
つまりバルカン砲ってのは、その時開発された機関砲の固有名称だったわけだ。
けど後継機の開発が遅れてたことと、このバルカン砲が優秀だったこともあって、これが半世紀近くも第一線で使用されてな。
あんまり長く使われてたせいで、この回転式多砲身砲の総称としてバルカン砲の名が使われるようになったんだ」

「武器一つとっても歴史があるんすね」

「バズーカだってそんな感じだ。
M1ロケットランチャーの愛称だったのが、いつのまにかその系統の武器を表す総称になってったものだ」

「なるほど・・・・・・」
「ま、それはさておき・・・・・・だ。
このバルカン砲の最大の特徴は、その高い信頼性だ。
機関銃、機関砲ってのは不発があると作動不良になりやすいんだ。
けどこのバルカン砲は砲弾発射時に発生する反動、ガスを作動力としてしようしてねぇから不発が発生しても作動不良にならずに撃てる。
そして6本の砲身で撃ってるから、一本あたりにかかる摩擦が少なく砲身寿命が長い。

欠点としては射程が短い点、単装機関砲より砲弾の収束率が悪い点。
砲身が回転して射撃するせいだな。
だから精密射撃はできねぇ。
けどまあ、毎分6000発っていう速射性を考えると精密射撃しようってほうが間違ってるから気にすんな」

「毎分6000発ですか・・・・・・。そいつは凄いですね」

「おうよ。そいつを二門装備してある。
口径も機関砲としては大きめの60ミリにしてあるから、あっという間にディストーションフィールドを削れる。
調子に乗って撃つとすぐに弾切れするのが玉に瑕だけどな」

「気をつけますよ」






「俺にしても、こんな歪んだ兵器が実戦で役に立つのか半信半疑なんだけどよ・・・・・・」

いつになく自信なさげなウリバタケ。

「女じゃ失敗しても、メカでは失敗したことないんでしょ?
信用・・・・・・してますよ」

「へっ・・・・・・」

ウリバタケは照れくさそうに鼻を掻いた。



















アキトは機動兵器を見つめる。










闇に溶けていきそうな漆黒の肢体。









歪ませることで特化した能力。









この機動兵器はアキトに似ているのかもしれない。




















漆黒の蕾は、戦場で花開く時を待っていた。












まず最初に。

ブラックサレナの武装については、日和見さんの『なぜなにナデシコ特別編』第二回 「ブラックサレナ 意外と知られていないその真実」を参考にさせていただきました。

この場を借りて、御礼申し上げます。

ラピスの身長については、曖昧なものです。
ただ、劇場版ではルリ、ラピス共にアキトの隣に立っているので、アキトを物差しにして両者を比較してみました。
そしたらラピスの身長はルリとそう変わらないという結論に・・・・・・。
まあ5センチくらいは小さいだろうと140センチになりました。

オフィシャルな身長はいつくなんでしょうね?


毎分6000発というのは現在のバルカン砲の話です。
200年後はもっと凄くなってるかもしれないですね。
射程内で使う分には、ラピッドライフルを鼻で笑えるほど強力なんだと言いたかった訳です。
ガンダム系じゃビーム兵器が幅を利かせてるんで、バルカン砲は情けないほど弱いですけどね。


次回はブラックサレナの初出撃となる予定です。


 

代理人の感想

そらまー、ライフルサイズのビーム兵器と頭の中に砲身が収まる程度の小型砲じゃ比較にならんですよ(笑)。

それに「光学兵器は男の子の浪漫」と言うこともありますし、実弾兵器よりビーム兵器がカッコよく見えるのも原因の一つではとw

つーかガンダムのバルカンって対人用兵装じゃ?