時の流れにアフター







超不定期連載

かげのさいしょぉ










3週間も空くと誰も覚えちゃいないだろうし、自分自身読む気がしないからコレまでの要約。


〜あらすじ〜



なんだか読者の訳のわからぬうちに復活してしまったテンカワ=アキト君。

腹に大望を秘め、眼が見詰める先はただ天下!!

と、思ったら一幕でこけやがった。

ナデシコはお先に出撃。懐中無一文。こんな状態で理想もクソもあるのか?

まあ兎に角、道中紆余曲折辛難艱苦の末に命からがらネルガル本社についたのです。

と、思ったら撃たれて死んじゃったよ。

本当なのか?

実は違います!

主人公が実は生きていた! とゆーあんまり面白くもなんのひねりも無いヲチじゃ皆さん楽しくも何とも無いでしょう。



そうわたしは見たのです!

命の! いや、そう言うにはあまりに彼に相応しくないでしょうな。

遺跡の力と知を手に入れた彼にはもっと相応しい言い方があるでしょう。

神秘の! いや、これでは余りに軟弱すぎるか・・・

不思議の! コレでは余りにバカっぽすぎる・・・

では、魂の! う〜むコレはコレでいいような気がするが・・・・・・なにか足りない。

熱血! ・・・う〜む、惜しいっ!

ならば、正義の!  ・・・・・・語呂が合わない。

もっとなんかこう存在そのものが『魂』『熱血』『正義』を一つで表すような語はないものか・・・・・・

う〜〜、今まで何度となく見てきたもののような、そうじゃないような・・・・・・

スパロボか? 違うな。

スパロボの奇跡!!!  ・・・・・・駄目だ。

困ったな、意外と自分の知識も少ないものだ。辞書で引いても見つからない。見つからない。

不意に、近くのアンソロジー本の1文字が目に入る。


――――――『漢』


!!  そう!コレですよ! これ!


この言葉ほど心の深奥に木霊するものがありましょうか!?

いえいえ、ないと断言できますとも!!!

或る時は気高く! 或る時は美しく! 又或る時は悲しくもあるこの言葉!!

愚かしい、時代遅れ、などと口では言っても、この言葉をいざ前にすれば全ての心は燃え、魂は天も衝かんばかりに打ち震えるのです!!!





そう、漢の魂の奇跡をわたしは見たのです!!!








「オレはッッ神だァァァァッッーーーーーーーーーー!!!」







ほら皆さんにも彼の新たなる産声が聞こえてきませんか?















第三幕 野望は無理か








ある日のある街のある路のあるできごと。

人通りの多い交差点で1台のパトカーが急にコントロールを失って近くの電柱にぶつかる。




キキィィー――――――――



ダガッツ!!!





ドガッッッッ!



「グォォッッ・・・! あ、クソッッ! 逃げたぞッッ!!!」



パトカーのドアを中から吹っ飛ばし急いで逃げ去る若い男が一人。

路上に落ちたドア。下部に凹んだところがあるのをみると靴で蹴り飛ばしたようだ。

パトカーから警官たち二人がよろめきながら何とか出てくる。二人とも30代後半から40代前半といったところか。逃げた男の後姿を呆然と驚愕の入り混じった表情で見ている。

口髭の生えた背の高い痩せた警官がガッシリとした体格の警官の方に痛みをこらえながら聞いた。


「一体何なんだよあの男は・・・奴は人間か?」

「バカ言え・・・人間に決まっているだろーが。第一あの出血じゃそんな遠くいけねぇ・・・追うぞ!」

「あ、ああ」




あの男が逃げ去った跡には血が垂れ落ちている。コレをたどっていけば十分に追いつけるはずだ。

今日は日曜なので特に人が多い。路には人が溢れている。人質でも取られたら厄介なことになるぞ。

今の状況で自分達ができることはただ一つだ。



あの危険人物を早急に射殺する。



「どうした! 早くしろ!!!」

「わかってるッッ!何度も言うな!」

「フンッッ! それだけ減らず口がたたけるならまだ大丈夫だな!」



そう言って彼らは男を追って昼とはいえ冬の冷たい空気の中を急いで駆けるのだった。










アキトは駅前の市場に逃げ込んだ。かなり人が多い。カフェやファーストフードショップの前には家族で買い物の帰りにゆっくりしていく人々や、恋人達の愛の語らいの場となっている。

だが彼は軽快にその道を突き進んだ。モーゼの海割りの如く彼の行く手は開いていく。そして道行く人間はみんな彼を振り返って見る。


「おかあちゃん!! あのひとあたまからちぃ、だしてるよ!」

「ダメよ。 たっちゃン! 変な人を見てはいけません!!」

「でももうみちゃったよ〜〜〜」

「でもも、もうもないの! わかった?!」

「ふみゅ〜〜わかぁったぁ〜〜」




「老若男女みな俺の事が気になってしょうがないようだ! ま、当然といえば当然か! この暗黒の時代に舞い降りた天使! フフフフフフ! もてる漢はつらいネェ〜ッッ!」



ともかく、だ。この傷じゃ常人なら既に死んでいるところだろう。頭と心臓を撃ち抜かれたはずだ。顔中血みどろだ。が、コレはこれで血潮滴るいい漢! ってかんじでま、いっか。

だが失血量が半端な量ではないぞ。それどころかまともに遺跡の能力さえも使えなくなってる。機体の調整が不完全だッッ! 遺跡が体の修復を終えるまで3,4時間ってとこか。

だがそれまでに行動不能になったら死んじまうのと同じだからな。

ソレはヤバイ! このままでは俺の崇高なる理想を果たす事も出来ずに横死してしまう。

それだけは嫌だ。何が悲しくてあんなオジンどもに撃ち殺されなきゃならんのだ。

そもそも俺がこんな事になったのは何が原因だ?

ナデシコに乗れなかったからだ!

それに尽きるぜッッ!!!

ああッッ、腹が立つッッ!!! きっと何もかもあのバカガキのせいじゃぁぁぁッッッッ――――――!!!






さあ、ここで質問だぁ。 俺はこの後どうなるッッ?


@ アカツキの元へ逃げ込む。そして実力を買われ、NSSの隊長に。そしてエリナとラブラブな日々を送る傍ら順調に出世していって下克上!!

A 超人的な力を持ちながらもその悲しい過去(未来)から思わず女性の母性本能を刺激してしまうナイスなイノセントボーイ、テンカワ=アキトは警官どもを調伏し、
   国家権力に潜り込み実力をつけ、行く行くは抱かれたい男・支配して欲しい男・全てを捧げてもいい男ナンバーワンの三冠王になる。

B 現実はそれほど甘くない。射殺される。








「@は駄目だな、エリナは惜しいがアカツキに頭を下げるのは死んでも嫌だ! Aも駄目だ!! この俺様のガラスのような繊細なボディを傷付けた奴らは絶対に許さん!!!

  Bは神であるこの俺にまずない。だが常に最悪の事態を想定する俺ってなんて聡明な漢!!!」 












路地裏のそれほど高くない小汚いビルの階段を一気に駆け上がり屋上から市場の一般ピーポォの群れに向かって声高く宣言する。


「答えはC!!! わが無敵の一億パワーをもってしてフォースインパクトを発動させ、
 然る後に崩壊した世界を救う救世主となって女にモテモテ!!! ポワァーフェクトゥッッ―――!!!」





多くの市民がいきなり妙な事を叫びだした男を呆れながら見上げる。

―――――そのとき




ズキュンッ!!!  
  ズキュンッッ!!! 
 ズキュキュキュン!!!!!



カン!

カカッン!
 
カン!

カッカッカカンッッ!!


近くのコンクリート壁に銃弾が当たる。


「うぉ!!」


アキトは驚いて飛びのいた。








「見つけたぞ! 変態ィ!!!」


体格のいい男がアキトの前に現れた。どうやら下から撃ってきた奴とは別人のようだ。右手には拳銃、左手には警棒が握られている。



ズカズカズカ




アキトに急ぎ足で詰め寄る。






「この距離ならそうそうはずれはしねぇ。覚悟しな!!!」


頭に向かって警棒が振られる。アキトは右の腕で受けた。


ブンッ!!

   ドガッツ!!



「ぐっ、痛ッッ!」


頭を下げて避けるわけにはいかなかった。その瞬間に右の拳銃が自分の頭に向かって火を噴くからだ。

回復前に続けて死んで生き返ったことはなかった。もしかしたら生き返れないかもしれない。今の自分は一般人と同レベルなのだ。

危ない橋は渡らないに越した事はない。


ガチャッ



警官の右手の親指で引き金が下ろされる。銃口は正確に自分の方を向いている。この距離では避けられない! そう思ったアキトは警官の懐に思いっきり飛び込んだ。


ドシッツ!



「うぉ!」







ドサッ




地面に転がり込む二人。



カチャ―――ン


倒れた拍子に拳銃が手から離れる。


ソレを確認したアキトは立ち上がってソレを取りに行こうとする。





バッ!


「もらった!」


手を伸ばしてその掌に拳銃がつかまれようとした時、



ギシィッツ!


体がそれ以上前に行かない。――――――掴まれた。




バキュ――――ン!


頬ギリギリを掠める弾丸。アキトの頬に赤い真一文字が描かれる。


――――二丁目?


「ちぃッッ!」


振り返りもせずに拳銃目掛けて足を振り上げるアキト。だがソレと同時に警官は思いっきり掴んでいた足を振りぬいた。

バランスを乱して横に倒れこむアキト。警官が立ち上がって警棒を宙に上げ力任せにそれを振る。

急いで避けようとしたが足が竦んで動かなかった。

また右腕で受ける。

何かに押さえ付けられるような感触は一瞬ごとに増加していく。


ボキィィッ――――


今度は折れた、アキトは瞬時にそう確信した。1秒もすれば激痛が走る。そうなる前に次の手を打った。

シュンッッ!! 

   ボスッッ!!



一瞬で距離を0に、腰に構えた拳を突き上げる。アキトの左の一撃が警官の腹の肉に食い込む音がした。


「グヘェアッッ!」


呻き声をあげて前のめりに俯く警官。その頭振り上げた左の拳を振り上げた――――


ブンッッ―――――


    ズキュー―――ン!!


左の拳に激痛が走る。銃声のした方を振り返る。



ガチャッッ




アキトに向かって銃を突きつける痩せた警官。口髭を引っこ抜いてやる。アキトは怒りの余りそう思った。


ダッッ!



地面を蹴り付けて迫るその警官に迫る。


ダンッッ!!


飛び上がって警官の首筋目掛けて蹴りを放つ。


ビュウゥゥッッッ!


空を裂き、綺麗な効果線を描きながら放たれた蹴り。

だがソレが届くことはなかった。


ガッ!


――!!


警官の首と足の間は約3,40センチ程。しかしその間に置かれたものがその僅かな距離を無限に等しいものに変えていた。

65センチの3段伸縮警棒。たいした硬度はない。尤も万全状態での話しでは、だ。今のアキトは一般人レベル先程のような動きが出来た時点で賞賛に値する。

だがソレすらも過去の話しになろうとしていた。



ズギュ――ンッッ!


後ろから、アキトの右足の腿が銃弾に貫かれる。


「―――・・・・・・」


ガチャリッッ



アキトの後頭部に銃口が突きつけられる。


「動くな小僧!」


ゆっくり左の足を下ろす。が、それと同時に右足を折って急にしゃがみこんだ。

頭が射程からはずれる。余りにそれは急すぎる動作だった為、引き金を引くのが遅れた。その拍子に、相棒目掛けて銃弾は放たれた。



ズキュウウゥゥー―――ン!


「ヌウッ!」


  ヴュンッッ! ヴュンヴュンヴュンヴュン―――――


                                   カン!



口髭の警官は警棒を親指と人差し指、中指でバトンのように回転させ弾丸を弾き返す。

だがアキトは既に懐に飛び込んでいた。

しゃがみこんだ状態から渾身の力を振り絞って右足を地面に蹴り付ける。そして全身のバネを使い切って警官の顎目掛けて拳を突き上げた。


グシャリッッ!


警官の顎の骨が折れる音がするのとほぼ同時に彼の頭が後ろに反り返る。五体全てを宙に浮き上がった。円を描いて宙を舞った警棒を奪い取るアキト。

だが一瞬のまもなくアキトは後ろから肩に警棒をたたきつけられる。


バコンッッ!


「痛ぅッッ!」


右側に倒れこむアキト。再び拳銃の射程に入るアキトの体。

だがアキトは出来る限り四肢を丸めその反動で独楽のように回って体格のいい警官に足払いをかけた。



グンッッ―――――ブルンッッッッ!!!




バッツ!!




だが難なくそれを飛び上がって避ける警官。そして思いっきりアキトの足を踏みつけた。


バコンッツ!


「ヲォォォオ!!!!」


余りの激痛に絶叫するアキト。

警官はアキトの腹目掛けて銃を乱射した。


バキュン――――
    バキュン――――


アキトは警棒を警官の足に叩きつける。

一瞬とはいえ隙が出来た。足が微妙に浮き上がる。それは避けようか受けようか逡巡した警官の心境を表すように。

本来喰らっても押さえつけておくべきだったのだ。彼は勝機を逸した。

アキトは身をよじって死地から脱する。そして転がり込んでビルの下へと落ちていく。


もうココまで来ると運否天賦だった。この付近は布地の日よけで店先を覆う店が多い。それに賭けた。下など見ちゃいない。

とにかく一人と二人では訳が違う。

このまま戦っていたら死ぬのは確実。ならば確率の高いほうを選ぶ。それがアキトの選択だった。







―――――テンカワ=アキトの選択や如何に!!


























ドゴンッツ!!



「ぐふはぁッッッッ!!!」




















――――選択ミスだった。地球の重力に思いっきり魂以前に肉体を引き付けられ殆ど瀕死の大重傷のアキト。

内臓破裂、強度の全身打撲、及び諸部の骨折。常人ならそれだけで致命傷だ。

死なない辺り素晴らしい。その上彼はよろめきながらも・・・・・・立った。




「がはッッ!、ぐ・・・グホッつ! グハッツ!!」


ボタボタ・・・


腹を押さえて吐血するアキトそれが地面にばら撒かれる。


「痛ッッ・・・!!」


両膝に手をつき、かがんで苦しそうに息を吐くアキト。


急いで武器を探さなければ・・・・・・このままではいずれ見つかる。あの武器さえあればこの体でも十分に戦うことが出来る。


街の喧騒を尻目にアキトは激痛に耐え衆人環視の中その場を走り去っていった。


























「クソッッ!!! 一体何処へ消えた?!」


アキトの逃げた方向は最早市街地をはずれ人通りのない。廃墟地区に入っていた。この辺りは未だ再建のめどが立っていない。

焼け焦げた小さなアパートや塀に蔦葛の絡まった廃屋。

血の跡が途中で消えている。

相棒は完全に気絶した。彼はまさかアレだけの絶望的な負傷で2人同時に戦って互角に近い粘りを見せるとは思ってもいなかった。

恐ろしい男だ。恐らく自分ひとりでは敵わないだろう。 だが増援を呼ぶにはパトカーは遠すぎる。 このままでは逃げられてしまう。

一般市民に害を成す存在は速やかに射殺! コレこそが彼の正義だった。 

寸陰を惜しむその性格のため思考範囲も狭く、捜査では直感だけを頼りに足を使う前時代的な人間だ。

だが恐ろしく強い。常に自分ならどうするかを考えているから、まず油断しない。

敵が生きている限りである。

彼が安心して熟睡できるのは敵を射殺し自己の安全を確実なものとした時だけである。

だから執拗なまでに敵を追いまわす。自分の『安心』がかかっているのだから。

ある意味では異常に臆病とも取れる男だ。だがその臆病さが何度か彼を救った。

しかし、だ。以前がそうだからといって今回もそうなるとは限らない。

彼は油断という名の安心をしていた。

あの高さから落ちてしまえば例え生きていてもすぐに死ぬだろうと。後は遺体を確認して帰宅し、酒でも飲んで寝るつもりだった。




「何故だ!!! 何故あの怪我でッッ!!」




このままでは自分が狩られる!

彼はそう思うと恐怖に駆られた。普段の冷静さも何処へやらである。まあ相手がいくらなんでも悪いが・・・

血の方向からしてもこれ以上先は考えられない。

つまりはだ。奴は途中で引き返して道を偽装したというのも考えられる。

一体何時、どこから自分に襲いかかってくるかわからない。

実際アキトにそのような体力などないに等しかったのだが、疑心暗鬼というものは1度始まると厄介なものでなかなか消えうせない。

戦場では必要以上のことを考えている奴が死ぬ。

そこら辺、警官とはいえ実戦経験の浅い一般人だ。

百戦錬磨のテンカワ=アキトにはやはり強運がついて回っている。

彼の負傷と体力を考慮すれば行動半径がごくごく狭いもので路地裏一帯と極一部の商店のみである。

つまりだ・・・・・・要するに彼はそれ程焦る必要もなくアキトを殺す事が出来たのだ。

だが注意の散漫した状態でなかなか見つかるものではない。




1時間が過ぎた。




もう日が暮れかかっている。

紅く映える夕日の絵の具が青い空を薄く塗りつけるのは綺麗だったが、地平線の向こうは微妙に暗く何ともいえない恐怖感を彼に与えた。


スッ――――



自分の長い影が一部だけ急に太くなる。

彼は上を見上げた。



―――クイッ



その目に入ったのは・・・・・・金ダライ。



ガココオオォォンンン!!!!




「ヒゲフッ!!」


あまり大きい物ではなかったがそれでも落下速度が尋常なものではなかった。

首の筋を痛めた。

急いで上を見る。

何も見えやしなかったが烈な殺気を感じた彼は拳銃を取り出し振り向いた――――



バッ―――


      スパー――――ンッッ!!




「グハッ!」


二丁の包丁が警官の胸を十字に斬り裂く。

警官は傷を負いながらも照準を自分に斬りかかった男に合わせた。

が、それすらも遅い。


――――カンッ!


アキトは交差していた腕を肘を曲げ手を組み直し肩を上げ胸を突き上げて警官の両の首筋目掛けて斬りつける。

だがそれは当たらず、空を切るにとどまった。


ヴュンッッ!


「クソッ!」


瞬時に身をかがめて避ける警官もう彼はアキトを手負いとは思っていなかった。


スッ―――ストンッ


懐に忍ばせておいた「3丁目」を手に取り出す。

――――バキュンッッ!!!
      ――――バキュンッ!!!



ビュウッッンッッ!!!


両の包丁を指で回して防ぐアキト。


カンッ!

カッカンッカンッッ!!!


指の痺れと衝撃で包丁を落とす。


――――マズイッッ!!



アキトはそう思った。

このままだと次の連射を防げない。

体はまあまあ回復したがそれでもこの男に克つには十分ではない。

警官の指が再び引き金を引く前にアキトは両手を前に突き出した。



ガシィッ!!



中指で引き金を押さえつける。がっぷり四つに組んだ。

この熱気溢れる死闘の中に訪れる膠着状態。警官が引き金を引こうと人差し指に力を入れると、アキトはそうはさせじと中指で押し返す。








ググッ――ギリギリギリギリギリギリギリ







だがそれは長くは続かなかった。


バッ!!!


最初に手を離したのは警官だった。

両腕を開いて腕を振る。

袖を振った拍子に四丁目と五丁目拳銃が両の手に出された。



     バッ!!



バキュンッツ!!!   バキュンッツ!!!  バキュンッツ!!!  バキュンッツ!!!  

    バキュンッツ!!!  バキュンッツ!!!  バキュンッツ!!!  バキュンッツ!!!



「―――――ッッ!!」




あっという間にアキトの体は再び穴だらけになる。不意に、力が抜けて膝が折れた。

余りの激痛に意識が遠のいた――――――





ガシャリッッ!



「コレでシメだ・・・」

警官が疲れ果てた声を搾り出すようにしてアキトに最後通牒を突きつける。

片膝立ちになって両手をつき何とか立ち上がろうとするアキト。

だが震えるばかりで手にも足にも力が入らない。


「ぐっ! くそぉおおお!!!」


アキトは焦った。少なくとも再び感覚が回復するまでに30秒はかかる。何とか時間が欲しい。

どんな手段を使ってもいいから―――――




「そういえばテメェの名前を聞いてなかったな。言ってみろよ。ほら!」


バキュー――ン!!!



「!!」


足目掛けて銃弾が飛ぶ。

埃で汚れた黒いジーンズの上からでも血が滲んでくるのが判った。


「ククッ・・・ククククッッ!!! 死体を調べりゃ判るだろうが!!! そんなことも判らないくらいのアホなのか!!?」


「・・・・・・・・・・・・そうかぃ・・・・・・なら死ね!!!」



警官の指から引き金が下ろされようとしたその時―――――――



バッ!

バキュンッ!  バキュンッツ!!!


「このクソガキィィッッ!!!」



転がって横に飛び退くアキト。警官に背を向けてさっき落とした包丁を拾う。そしてそれを後ろも見ずに投げつけた。


ブンッツ!!


    バキュンッツ!!! バキュンッツ!!! バキュンッツ!! バキュンンツウウ!!!

        バキュンンツウ!!! バキュンッツウ!!!  バキュンッツ!!!  バキュンッツウ!!!



   ヴュンッッ――――ヴュンビュンビュンビュンッッッッ―――――


                   カンカンカンカンカンッッッッッッ――――――!!!!!



ブシュッッ!!


「ぐうぉッッ!!!」




ブスッ! ブスッ! ブスッ!


「チイィッツ!!」


何とか距離が離れていたから包丁で巧くはじけたがそれでも2、3発は喰らった。よろけて倒れるアキト。アキトは目の前の警官に目をやる。

驚嘆すべきはこの男の戦闘センス!!! 腹に当たれば致命傷とは行かなくても重傷を負うはずだった。それを発砲の反動をものともせずに手で受けるとは!!!


「ゲホッ!! ゲホッ!!! く、ぐゥ・・・・・・」


咳が出る。咽喉に血が絡まる。アキトは地面にそれを吐き出した。

そしてゆっくり立ち上がる。




「ぐォォォ〜ッッ〜!!!」

警官は真っ二つに引き裂かれた手をくっつけようと必死にそれらを付け合せる。だが相当な量の出血は止まる気配すらない。



「フフフ・・・・・・嬉しい誤算だよ・・・まさかこの僅かな時間で完治とまでは行かぬもののココまで回復するとは・・・」

腹に折れたはずの右腕をやる。腹の傷はほぼ塞がっていた。そして苦痛にもだえる警官を後ろに包丁をゆっくりとした緩慢な動作で拾いに行く。



――――――ガチャッッ!!!


「――――――!?」



バッ!


銃の構える音が後ろで聞こえた。首を反らし敵を確認するとともに飛びこうとするアキト。


バキュー―――ン!!



それは余りにも予測しえない事態だったため身をそらすのが精一杯のままに終わった。幸い銃弾は外れたが今の一撃で完全に気が滅入ってしまった。

消耗し果てたアキトと警官、二人のシルエットがもう暗い闇の中に溶けようとしている。



「「はあ、はあはあはあはあ・・・」」



夕闇の中二人の男の荒い吐息が重なる。


「・・・はあ・・・はあ・・・はあ・・・はあ・・・ふうぅ―――」

何とか息を整えたアキト、一方警官は息を荒く乱しながらも戦う意思を見せる。








重い沈黙。双方最後の一撃の機会を窺っている。






唐突にアキトが口を開いてゆっくりと言った。



「アンタは俺の『敵』だ。残念だが俺は誰一人として俺を殺しうる人間を生かしておく訳にはいかない・・・・・・この宇宙の俺が見てきたもの、まだ見ていないもの・・・

  見たくないものも、見たいものも過去も未来も今現在も全て俺の肩にかかっている・・・・・・残念だがなぁッッ! アンタとは背負っているものが違うんだよっッッ!!」




いきなりシリアスな顔つきで訴えかけるアキト。そして大地に叩きつける様にして足を踏み込んだ――――


ダッッッッッ!


猛虎の如く走り出すアキト警官との距離は約14,5メートル見る見るうちに狭まっていく。無論警官も手を拱いて見ている訳ではなかった。


バサッ!!!!!!!!!!!!


空中に放り出される十三丁の拳銃! それらを猛烈な手の速度で連射した。


バンッツ!!! バンッッ!!! バンッッ!!! バンッツ!!! バンッッ!!! バンッツ!!! バンツッッ!!!

     バンツッッ!!! バンッツ!!! バンッツ!!! バンツッッ!!! バンッツ!!! バンッツ!!!―――――――



アキト目掛けて火を噴く13の銃口。だがアキトは怯まずに走り続ける。


「おおおおおおおぉぉぉぉぉぉッッッッッッ!!!!!!!!」



――――ブスッ、ズブッ


      ――――――ブスッ!


            ―――――ブスッツ!!!



再び血みどろになるアキト。或いは目に当たり、或いは胸や腹を貫いた。だが一向に速度は落ちない。

そして間合いに警官が入った瞬間、アキトの両の包丁が空を裂いて旋回した!



ヴュンッッッ!!――――――ヴュンヴュンヴュンヴュンヴュンヴュン―――――――!!!!

       ヴュンッッッッ!!――――――ヴュンヴュンヴュンヴュンヴュンヴュン――――――!!!!
 


「オオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!!!!」



グイッとしゃがみこんで左右腕を交差させて構えられる二つの回転する牙。


不意に視界の死角に入られアキトを見失う警官。

それ目掛けて不死鳥の如くアキトは高くその鉄の翼をV字に振り上げた――――



スパー―――――ン・・・・・・



真っ二つにひらかれアキトに道を開ける警官。そう、これぞ必殺の―――












――――――――『テンカワ流・調理刀術・ひらき』――――――――――








         ――――――ヴュンヴュンヴュン、パシィッ!!!

                 ―――――――ヴュンヴュンヴュン、パシィッツ!!!



左右に高く突き上げられた手はしっかりと得物を人差し指を這わせ残りの指で握り締められる。




ズザザザザザッッッッッ!!!!!




地面に両膝を擦らせブレーキをかけるアキト完全に止まると手を下ろし得物を落とす。金属音が辺りに響いた。


カランッ――――

    カランッ――――



ゆっくりと呼吸を整えるアキト。

だが気が抜けた途端に激痛が全身を駆け巡った―――――


「ぐぅぅッッッ?!!!」


莫大な量の喀血をするアキト。

「グハッツ!! ゲホッッ!!! グハァッッ!!・・・はぁはぁ・・・グェェッッー―――」

「ぐう・・・・・・?! こ、これはマズイ!」


アキトは自分の体の異常に気付いた。傷口は塞がったとはいえ血の量は充分に補充できていなかった。

このままでは確実に意識不明になって死ぬ!!!

早急に輸血せねばッッ!!!



だが自分には金などない。

アキトの脳細胞はフルに検索を始めた。










『条件検索: 金、病院、医者・・・・・・・・・・・・・・・・・・・etc』









『検索中・・・・・・・・・・』










『発見!!』









『わが下僕の中でも随一の金ヅル、ネルガル会長アカツキ!!!』





ニヤリ・・・・・・


アキトは思わず口の端を歪て笑う。



「フフフフフフフッッッッッッ♪ そうだよ、そうだった! 俺はアカツキに金と武器をふんだくりに行く予定だったんだ!!! すっかり忘れていたぜ!!!!」







顔の血を拭くとよろめきながら立ち上がって歩き出す。


だがその足取りは明確な意思を感じ取れるものだった。














続く。



























コメント:格闘シーンの練習。一応ギャグですよこれ? それでも、いくらなんでも追い詰められすぎの主人公(汗)










設定編

(人物)



テンカワ=アキト・・・身の丈175センチほど、ボサボサの黒髪、つぶらな黒目。童顔で見るもの全てを惑わす笑顔を持つヤサ男。 (過去の話し・・・・・・ああ、そういや未来か)

            作者の愛と世界観のせいでこんなゴキブリのような生命力と精神力をもったキャラに・・・


            超人強度・・・一億パワー   (遺跡と分離すると『5パワー』)       

            知能指数・・・IQ15000   (女とお喋りしたい一心でどんな言語も一瞬で理解! チブル星人相手に胸を張れる!)

            特殊技能・・・妄想、狂気、復讐、主人公、遺跡同化、ジャンパーレベルA、自己進化、自己増殖、自己再生、自己復活、自己完結・・・・・・etc







(用語)


影の宰相・・・題名から政治関係と思う人間が何人いたのか・・・・・・確かに当初はそのつもりで書いていたが一幕の製作段階で酷似している作品を発見。

        パクり呼ばわりされるのは不快なのでギャグパロに路線変更。・・・と、思いきやシリアスと行ったり来たりする展開になるだろう・・・

        元々この題には2つの意味が込められていたので、「まあ1つだけでも大丈夫だろう」というわけです。

        またストーリーが繋がっていないであろう物語でしょう。一幕と二幕の間は後々外伝で語ろうと思います・・・多分。

        大体ジャンルが時間逆行物でもストーリー崩壊系だからなぁ・・・序・破・急じゃなくて崩・壊・滅 (笑)

        一応主人公最強主義だが最死主義でもある・・・やっぱダメですか?
        
        まあ文学性なんか求めていないので安心して読んで下さい。読みやすく楽しくは努力するつもりですが・・・

        でもやっぱり自分が楽しむ為に書いてるとこういう不可解な作品になるんだろうなぁ・・・




御都合主義の壁は厚い・・・(苦笑)

 

 

 

 

管理人の感想

 

 

飛燕さんから投稿です!!

いやぁ、もう止めるつもりはありませんよ(笑)

どうぞこのまま突っ走ってください!!

良いじゃないですか、このアキト君!!

何と言ってもこの能力・・・自己完結に惚れました!!

う〜ん、なんて美味しいキャラなんだろう、コイツ(笑)

 

それでは、飛燕さん投稿有難うございました!!

 

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