忌道戦艦ナデシコのパロディのパロディ

寡解の最少

第六幕:サムディは来ない








無という真、虚という善、静という美、

それら三つの神に通じる道から送られてきたものは冷酷なまでの現実。

ヒトはそれを受け入れるのみだ―――――









「何度でもいうぜ・・・ 俺は神なんだよ」

広々とした豪華な調度品に彩られた部屋で虚しく喚き立てる受験生。美しすぎる答案を見てその部屋の主は一応は自分の希望通りに事が進んでいるのを確認した。
だがその青年の口から開かれた言葉は重々しくどこか悲しげだった。

「神なもんか・・・神とは全知全能にして真善美の全てを兼ねた完璧な存在。それ故にこの不完全極まりない世界に求めるのは妄想としか言い様がないね」
「ましてやそれを自分自身などと・・・君はどこかの新興宗教の教祖かね・・・?」

理路整然とした反論に凡人なら返答に詰まるだろう。だが長髪の青年が耳にした答えはやはり非凡なものだった。

「まさしく・・・それこそ俺の事ではないか」

己の認識と青年の告げた存在の何ら変わることのない事実に受験生は歓喜した。
そのあまりにも現実を認識できない少年の様子を見て嘆く青年。彼は試験には落ちたのだ、その確かなものは変わりはしない。

「現実を見たまえ・・・この散々な試験の結果を」

その青年、アカツキは嘘をついていた。
その問題は確実に全国模試の首席でもほとんど理解できなかっただろう。
だが人間には不可能がある、それを教えることが何よりも大切だと思ったから。

「現実、現実・・・現実・・・現実ゥ?・・・・・・・ギャハハハハハ」 

「何が可笑しい」

どうして彼は笑えるのだ? 
アカツキは不可解に対する恐怖を怒声を持って退けようとした。

「現実なんてものは幾らでも変えられる」
「相変わらず貴様は二流だな・・・君子は器ではないのだよ、先ずその事がわかってないぜ」
「こんなくだらね〜問題ルリルリにやらせりゃいいんだよ」
「俺にはそれをさせる資格と徳がある」

断言する少年。気が狂ってるんじゃないだろうか、アカツキは注意深くその少年を観察する。
そのような様子を自分の言葉に真実を見出し己の今までの無礼と無法を懺悔しているに違いないと解釈した少年は茨のような言葉をその罪人に向かって吐きかけ断罪する。

「所詮お前には人の王たる資格などないのだよ」
「この俺の生産活動を社員規則などというもので束縛しようとは・・・おこがましいにも程があるとは思わないのかね」

社員にした覚えはない。
だが何時の間にやら諸々の条件の交渉の場に引きずり込まれたようだ。
素手で使徒を倒したとか、超人的なシンクロ率を発揮したとかそういうわけではないのに。

「そうだね、とりあえずこの神たる俺様が会長になるからにはナオン社員には『五六七の世』を保障しよう。毒虫は死ね」
「感謝したまえよ・・・この俺様の温情溢れる素晴らしい配慮を」
「お前等毒虫はどうせ生きていたってこの俺の功業と才能に嫉妬して罪を得、惨たらしい拷問をされて東市に屍を晒す結果になるんだからな」

足元で想像もしない陰謀が自分の足を搦め取ろうとし、頭上で信じがたい破滅が鎌首をもたげて待ち受けているとでもいうのだろうか?
だが未だ誰も見ない頂上に昇ると、ネルガル会長の肩書きを帯びたときから決めたのだ。
そう思うと形容しがたい恐怖が近づいてくる足音とともに消し飛んでいった。

「残念だがその条件は飲めないな」
「僕には・・・護るべきものがある」

アカツキの決意を伴った気勢に気圧される少年。
だがそれが神の息吹の前には脆く吹き飛ぶものである事を暫しの思考から導き出し、その結論に基いた行動をする。

何度目かになる白刃の選択を突きつけた。

「ふざけやがって・・・だが思慮深く、情義に於いて人に譲るところのない俺が最後の選択を貴様に呉れてやる」
「・・・『devolve or die』だ・・・」 
「早くそこをどけよ」

声が上ずっていた。自分は毒を喰らおうとしている。毒虫は不味い。だがそれを喰うことで自分は大きくなっていった。
今までだってそうだったし、これからだってきっとそうだ。毒虫は俺の喰い物でしかない。
クソ・・・何だってネルガル会長如きになるだけでこんなに苦労しなけりゃならないんだ。
こんなしなくてもいい苦労を他人の幸福のためにやってやる博愛精神とそれを可能にする才能・・・俺は自分が憎い。
そんな少年の淡い葛藤は青年の返答によって容易に消えさった。

「・・・逆に君に選択させてやるよ・・・『die or die』だ・・・」

状況は急転した。
空気はいっきに冷め切った。
神への冒涜。
だらしなく伸びきった髪で耳を塞ぎ神の言葉を聴こうともしないのに、
情欲に支配され歪みきった目で邪な笑みを浮かべ、口からは堕落と傲慢でできた舌が厭らしく蠢いている。
コイツは邪悪だ。
少年は目の前の男が自分の理想世界から弾き出すべき存在である事を確信した―――――


冷静に、冷静に。
彼は自分に言い聞かせた。
異物を排除するとき、感情に任せて行動するのは愚かだ。
床に落とした後、板が削れるほど雑巾で拭けとでもいうのか?
そんな面倒な、空虚だとわかりきっていてもしなければ気が済まないような事は御免だ。
穢れたという証は永遠に残る。
忘れたくても、忘れられないという事を知っているのだから。
少年は自分のうちにある理想と相反する目の前の物体を消去しようとした。
全力を使う必要はない。
所詮毒虫だからだ。
ゆっくりと確実に。

「・・・天替流歴史修正術――――ゥッッ?」

度度度度度度度度度ッッ

多くの強敵を一瞬で葬り去った究極の必殺技を使おうとしたとき、
雨が見えた。
天から降ってくるものではない黒い黒い粒。
雑巾で牛乳を拭いた時のような胸くそ悪い腐臭は焼付く様な嫉妬の焦げ臭い匂いに変わっていた。
肌から液体が伝ってくるのが感じられる。
体中どこも自分のモノでないような感覚。
汗が出ているのだろうか?
熱い、熱い、熱い。
厚着してサウナに入ったようなあつさとは違う。
身体を心から燃え尽す様な熱さだ。
余りの熱さに少年は身動きできなかった。
命が不完全燃焼しているんだ―――――
少年は思った。

ドゴンッッ

ノブを開けて侵入する兵隊。
少年のとても好きだった連中だ。
吹けば飛ぶような命の軽い存在。
少年は自分よりも価値のない存在が好きだった。
自分の武力を誇示する為の宣伝材料。
少年は自分の踏み台になってくれる存在が好きだった。
憎悪に値するクズどもだった。
少年は自分に愛されているという優越感を与えてくれる存在が好きだった。
だが今の自分の顔はどうなのだろう。
きっと醜く歪んでいるはずだろう。
そうであるべきだ。
だが腹の奥底にある敵意は鎌首をもたげてこなかった。

「ははは・・・『矢のような雨』というのは・・・何度も見てきたが・・・しッ・・・下からも降ってくる雨は・・・始めてみるぜ・・・」

言い終えてから口から血が出てきた。
気持ち悪いので手の平で拭う。
目を落としてみた彼の血は、赤かった。

「俺の血は青いんだよ・・・お前等なんかとは比べ物にならないんだ・・・き、きっと天罰が下るぞ、俺様が憎まなくても・・・だ」

呪詛を受けても悠然としているアカツキ。
もう彼が恐怖に値しない事が感覚でわかっていたからだ。
たしかな安息。
それが『仲間』。
彼は孤独ではなかった。

「確かに君の言うとおり・・・『君子は器ならず』だ・・・」

自分自身に言い聞かせるように言うアカツキ。
彼のいうことは現実だ。
でも真実ではない。
真実は概念以上の存在ではない事がアカツキにはわかっていたから。

「でも・・・やっぱり『われもの』には違いないんだよ・・・」

少年は自分の身体を見た。
自分の体中から溢れ出る生命のスープ。
真っ赤で汚らわしくて、そのくせ綺麗で・・・
何故か辛い。
とにかく辛い。
辛いから帰る。
そう少年は決意した。
何処へ帰るのかはまだ、決めていない。
何処だっていい、
きっとここよりはマシに違いないから。

このような陰謀渦巻く、汚濁のたまった場所にこれ以上いるのは胸が悪い。
そのような場所には心根の腐った卑しい物体しかいないからだ。

ナデシコが懐かしくなった。

だから少年は飛ぶ。
空へ向かって飛ぶ。
誰かがとめたような気がしたが少年はそれを振りほどいた。
束縛は嫌いだ。
自分の思うままに、鳥のように生きたい。
息を吸った。
胸がすく思いだ。
どうしてこんなに外の空気は気持ちいいのだろう。
白い鳥がついてくる。
それは生き物ではなかったけど関係ない。
少年はそれだけでもとってもハッピーだった。








卵が潰れるような音。
大地が少年を抱きしめたのだ。
痛いよ、おかあさん。
愛があったのだろう。
いいや、愛はあるさ。
きっとあるにちがいない。
赤い赤い血肉が四散した。
白い白い雪がそれらの傷を癒してくれる。
世界はいつでもどこでもハッピーさ。





辺りがざわめいて来た。
雑音は好きだ。
自分の心に本当に響くものをかき消してくれる。
だから好きだ。
きかなくていいものの方が少年の心には多すぎたから。
この世が雑音だらけなら少年は傷付かなくてもいいのに。






「ママ、ママ、この人しんでるよ! どーして?」

「最近規制が多くなってたくさん会社が潰れたからねぇ、学生さんも大変だからかしら?」

「ママ、ママ、この人このままにしておくの、かわいそうだよ!」

「どうして?」

「だってこの人このままじゃ、さむくて、こごえて、しんじゃうよ!」

「坊やは優しいのね」

「ちがうよ、ぼくだってこんなさむいところにいつまでもいたくないもん」

「でもね・・・落伍者にお墓は必要ないの」

「この人たすけなくっていいの?」

「死んでるものは助けられないのよ」

「うわああああん」

「どうして泣くの・・・?」

「だってこの人くるしかったんだよ、いたくて、いたくて、いたくて・・・だからしんじゃったんだ」

「嗚呼私の可愛い坊や、貴方はこんなにも素晴らしく優しい心に育ったのね」

「ぼくもしぬとこんなにいたいおもいをしなければならないんだ」

「よしよし・・・坊やきっと貴方は大丈夫、この物体はきっと悪ものだったのよ」

「ほんと!・・・ぼくいいこにしていればしななくてすむの?」

「ええ、そうよ・・・だって貴方はこんなにも善い子なんですもの」

「だってぼく・・・ぼくパパのめいしをよごしてやぶいちゃったんだよ、おにいちゃんのなふだをはさみできってすてちゃったんだよ、それでもぼくはいいこなの?」

「人間はね七歳までは神様なのよ。だから何をしても許されるの・・・」

「なんでなの?」

「本当に大切なのはそれからだから・・・この世に命を受けてから坊やが学んだものが試されるのは・・・」
「だから自由に生きなさい」

「・・・この人、ななさいだったのかな・・・?」

「・・・多分七歳じゃないと思うわよ・・・」








今日はいい日だ。明日はもっといい日だ。そのつぎはもっともっといい日だ。そのつぎも、そのつぎも。

でも高いところへのぼれば、のぼるほど・・・落ちるときは痛いに違いない。

それが怖くてしようがないよ―――――



終劇。









コメント:三、五幕飛ばしても話しが繋がる辺り、私がいかに未熟かがわかる・・・小説って難しいなあ。

     最後の親子の会話ってメチャクチャ不自然だし(笑)








代理人の感想

なんかこう最後でいきなり古典劇みたいになってしまったような気が(笑)。

それにしてもねぇ・・・・・・どこで間違えたんでしょうね?

 

 

 

・・・・・・「何が」と言うのは読んだ方の推測にお任せします(笑)。