ナデシコは世界初の民間運営の戦艦です。


 ネルガル社が自信を持ってお送りする機動戦艦ナデシコは、最新鋭の技術をたっぷりと詰め込んでおります。


 最新技術の相転移エンジンを2基搭載することにより、その活動エネルギーは半永久的に保証されております。


 また、絶対防御ディストーションフィールドや最強必殺グラビティブラストといった武装により敵兵器との戦闘も心配ありません。


 更にナデシコは民間の戦艦ですので、福利厚生施設が充実しております。


 50人収容の大浴場や暇なときのためのヴァーチャルルームはもちろんのこと、瞑想ルームに展望室まで揃えております。


 もちろん運動不足のあなたのためにトレーニングルームまで完備しております!


 更に専用の食堂では優秀なコックとさまざまな材料を用いて世界中の料理をご用意することが可能です。


 船室も充分な広さと快適な空間を自信を持って提供しております。


 さあ、あなたも機動戦艦ナデシコに乗っていっしょに戦いませんか?


 ネルガルは優秀な人材を求めています!

 

ネルガル 広報室長 ミシマユリコ

 

 


 

機動戦艦ナデシコ

He said,"I am B"

第三話 「獣の力」


”マスクド・エレファンダー” ナカザト ケイジ


 

 

 

 獣人について説明しておこう。


 世界ではじめて獣人がその姿を現したのは紀元前のオーストラリアだといわれている。

 先住民族アボリジニーに伝わる伝承の中に獣の姿をした戦士の話がある。

 その伝承は後に広く知られることとなる。


 さて、公式な文書に残った獣人の記録となると、時代は1200年代まで過ぎてしまう。

 その頃のヨーロッパといえば疫病や宗教戦争などが起き、多くの人命が失われていった時代だった。

 ここで出てくるのが公式文書に残っている「獣人狩り」である。

 当時のヨーロッパでは錬金術が盛んに行われており、いわゆる「魔女」は疫病の治療などでかなりの発言力があった。

 その魔女達が問題視したのが獣人である。

 ヨーロッパでも古くからの伝承に残る「異形の怪物」。

 人に獣の霊が乗り移り、疫病をばらまき、獣の頭で考えるから神様の言うことを聞かんのだ、と。

 今にしてみれば言いがかりもいいところである。

 しかし当時はそうではなかった。

 弱い人間というものはなんにでもすがりつきたくなる、そのいい見本だった。

 しかしその獣人狩りは正しいものではなかった。

 この頃はまだ正式に獣人は確認されていなかった。

 よって、その対象となったのはいわゆる異端者で、人とはなじまない人間が多くの標的にされた。

 その被害者は記録されているだけで数万人。

 だがその獣人狩りに大きな転機を迎える事件がおきた。



 フランスの郊外の村で1人の男が磔にされ、その身を焼かれた。

 だがその男は火の中で姿を変え、やがてその姿は人の姿をした獅子に変わった。

 男は燃え盛る火の中で、その意識が途絶えるまで訴え続けた。


『貴様ら、人間としての誇りはどこへ行った!』


 焼け跡から出てきたのは、焼け爛れた獣人だけだった。



 この事件以降、獣人の存在が公に伝えられる事となり、世界中にそれが広がっていった。

 今までそれを隠していたものも、新たに獣人になったものも、己の存在を明かすものが多くなった。

 そして、更に時代は過ぎ、世界中が近代化してくるころには獣人の数は全人口の20%にまでなっていた。

 ここで新たな問題が出てくることになる。

 人の心は愚かしくも時代を逆行し、、獣人に対する風当たりが強くなり始めたのだ。

 20世紀、獣人差別時代と呼ばれる時代だ。


 第一次世界大戦で、ある国が獣人部隊を編成した。

 その部隊は、一日のうちに1万人を屠ったと噂が立った。

 やがてその話は世界中に伝わり、誰もが言葉にしないまでも獣人に畏怖するようになっていた。

 そして、第二次世界大戦。

 人は先人に倣うものである。

 各国が、それぞれの威信をかけて編成した獣人部隊はそれぞれの国で大きな戦果を残した。

 いいほうにも、悪いほうにも。

 終戦後、獣人を待っていたのはいわれなきバッシングであった。

 戦争で戦った野蛮な種族、親の仇、人とは相容れぬ存在。

 やがてその風潮は世界を巻き込んでいく。

 獣人排斥運動、獣人隔離政策、非獣人国家、犬と獣人おことわり。

 本気でそんな時代があったのである。

 だが獣人の中にいる和平派と、人間の融和派が手を取り合ってそんな状況を改善していった。

 それから35年後、2001年。

 オーストラリア、メルボルンにおいて獣人和平会議が開催される。

 同時に採択された獣人和平宣言、これにより、獣人と人間の関係は徐々に修復されていった。

 それから長い時が流れ。


 今にいたる。

 

 

 


 

 

 

 ナデシコは無事に発進した。

 結局、予定より20人ほど少ないクルーでの出港ということになったが、航行には問題はなかった。

 ちなみに降りた人員の内訳はパイロット6名、整備部3名、生活環境部10名である。

 パイロットは前述通り、整備は体調不良、生活環境部はいわゆる「掃除のおばちゃん」で不要と判断された。



 昼休み。

 アキトとラピスは食堂に来ていた。

 ナデシコでは休憩時間は基本的に決まっておらず、それぞれ手が空いたときにとるスタイルだ。

 それでもみんなほぼ決まった時間に昼食をとるので、この時間帯は結構すいているのだ。

 短い時間に大人数を捌くナデシコでは効率重視の食券スタイルが取り入れられている。

 ちなみに現在の服装、アキトは服務規程により作戦部の赤いジャケット、ラピスは白いワンピース。

 ちょっと膝下まであるシンプルなもので、ラピスもお気に入りの一着だ。


「ラピス、どうする?」

「おうどん」


 アキトはてんぷらうどんのボタンを押して食券を買う。

 ラピスがうどんと言うときは、必ず海老のてんぷら入りでないといけない。


「頼む」

「はーい、てんぷらうどん入りまーす」


 厨房の中には6人のコックが所狭しと動き回っている。

 1人は年上だが後の5人はアキトとそんなに年は変わらないようだ。

 てきぱきした動きでてんぷらを揚げる、うどんを茹でる、出汁をはる、丼はすでに暖かい。


「はーい、てんぷらお待ちどうさまでーす」


 この時間は人が少ないから上がるのも早い。

 アキトはお盆を持って適当な席を探す。

 と、思い出したように。


「追加、りんご一つ」

「はい、いつものですね」


 厨房の女の子が心得たという風にりんごを一つ取り出してアキトに渡す。

 正直、アキトは食堂で食事を食べたいとは思わない。

 だが、ラピスがいる。

 暇なときはラピスといっしょに行動することにしているアキトは、彼女のために食堂に来ているようなものだった。

 ラピスには、おいしいものを食べさせてあげたいから。

 二人はカウンター近くのテーブルに座る。


「いただきます」

「いただきます・・・はむはむ」


 ラピスはうどんを吸わない。

 客が来なくなったのと見届けたのか、厨房のほうも休みに入るようだ。


「バックオーダーはもうないね? じゃあ順番決めて休憩にするかね」

『はーい!』


 食堂の中には数えるほどしか客はいないし、この時間はもうほとんど新しい客はこない。

 自然と厨房の休憩時間はこの時間帯になるのだ。

 コック長らしい女性が自分の食事を準備して食堂に出ると、そこにアキトが目に入った。

 海老と格闘しているラピスの向かいでりんごだけを食べている。

 何も手を加えていない、ただのリンゴの実が一つ。

 食堂で、リンゴ、だけ。

 だから、無性に気になって声をかけた。


「よっ。アンタいつもこの時間に食べに来るねえ」

「・・・あんたは?」

「あたしはここの料理長のリュウ・ホウメイだ。アンタは?」

「テンカワアキト。作戦部所属パイロットだ。こっちはラピス」

「んむんむ・・・こくん。ラピス・ラズリ」


 ちゃんと口の中のものを飲み込んでから喋った。

 この年にしては結構行儀がいいじゃないか。

 ホウメイはアキトの言葉に首をかしげた。


「パイロットだ? あんた、パイロットのくせに飯も食わないでそんなもんばっか食ってんのかい」

「・・・・・・これのことか? 俺はこれで充分だ」

「馬鹿なこと言うんじゃないよ。パイロットは食べるのも仕事だよ。ほら、あたしのA定食だけどあんた食べな」


 ホウメイがアキトの前に自分が持っていたお盆を置く。

 大盛りライスにでっかいハンバーグ、コーンスープにサラダをたくさん、デザートにりんご半分。

 バランスもいいしボリュームもある、しかもおかずは日替わりの人気定食だ。


「・・・・・いや、俺はだな」

「いいから食べなって。味はあたしが保証するよ」

「でもテンカワさんってホント、いつも果物ばっかりですよねー」


 いつのまにかホウメイの後ろに女の子が二人いた。

 1人はさっきアキトにりんごを渡した髪の毛をお団子にまとめた子だ。

 というより、ナデシコに乗ってからずっとアキトにその役をしているのはこの子だ。

 もう1人は身長が高いポニーテールの子だった。

 見た感じではアキトより年上のようだ。

 二人とも自分の昼食を載せたお盆を持っている。


「ミカコ、そりゃ本当かい? あんたパイロットのくせに果物しか食べてないのかい」

「そうですよー朝もりんごだったし、昨日の夜はオレンジだったしその前はモモでしたよね」


 見事に季節感のない品揃えだが、今の時代はどの季節でもなんでもそろうし、料理のために様々な果物が倉庫にそろっているからだ。

 食べたいものが食べられるってすばらしいことである。


「あ、私はサトウミカコっていいます。主にデザート担当でーっす、今後ともよろしく」

「私はテラサキサユリ、とりあえず洋食担当です。よろしく」

「・・・ああ、よろしく」

「で、早く食べな」


 どうやらホウメイは逃がさないつもりらしかった。

 アキトは自分の目の前にある定食皿の上の食物を見た。

 ご飯やハンバーグ、コーンスープはしっかり湯気を上げている。

 サラダのドレッシングにしたって彩りもいいし、見た目に食欲を誘いそうだ。

 顔をあげると、ホウメイがこっちを見ていた。

 後ろのミカコとサユリも見ていた。

 ・・・・・・仕方ない。嫌われるなら、早いほうがいいか。

 アキトは箸を手にとってハンバーグに手を伸ばした。


「むぐむぐ・・・あきと?」


 ラピスが不思議そうな顔をしてこっちを見てきた。

 箸でハンバーグをちぎると、そこからまた湯気と肉汁が溢れてきた。

 いい肉なんだろうな、きっと。

 そして切ったハンバーグを口に運ぶと、肉の匂いがぷゥんと漂ってきた。

 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・キモチワルイ

 食べる。


「あきと!?」


 ラピスが変な声をあげた気がした。

 むぐ、むぐ、むぐ、と咀嚼する。

 ホウメイとミカコは満足そうな顔を、サユリは心配そうな顔をしていた。

 そのまま数秒。


ベッ!  びちゃっ


 さっきまでアキトの口の中に入っていた肉がテーブルの上にはき捨てられた。

 アキトの唾液と丁寧に料理された肉のカタマリが混ざり合ったまま、アキトの口から吐き出された。

 テーブルの上に広がる油と唾液。

 ホウメイは一瞬なにがあったかわからなかった。

 2度、3度、アキトとそれを見比べた後、爆発した。

 ぐいっ!とアキトの胸倉をつかみ挙げる。


「・・・っあんたっ!! 人の料理を吐き出すたぁどういう了見だい!」

「え? え? え?」

「イチャモンつけるだけならまだいいさ! だけどねえ、料理を吐き出すなんて、作った人間に悪いとは思わないのかい!」

「ホウメイさん、落ち着いてください!」


 アキトをつかみ挙げたまま激昂するホウメイ、おろおろするミカコとホウメイを押さえるサユリ。

 しまいには厨房の中から後3人が何事かと顔を出してきた。

 ホウメイの怒鳴り声なんか、初めて聞いたからだ。

 アキトは無言で自分の胸倉をつかんでいるホウメイの手首をとった。


「・・・・・っ!」


 その腕が、ゆっくりと捻られて、外される。

 なんだ、こいつの力・・・・・・!

 ホウメイも自分の力にはそれなりに自信はある、が、こいつの力はそれ以上だ。

 それまで俯いていたアキトが顔をあげると、その瞳は縦に割れた「獣の瞳」だった。

 ホウメイはそれで全てを察する。


「・・・っ、痛いよ、離しな」


 言葉にはまだ悪意が残っているが、アキトはその腕を外した。

 流石にまた殴りかかってくる気配はない。

 アキトはそのまま手洗いまでいって口をゆすぐ。

 まだ油が残っていて、かなりキモチワルイ。


「・・・・・・あんた、獣人かい」


 ホウメイの言葉にはまだ悪意があるし、その視線もかなり鋭い。

 まあ、いい。

 どうせ許してはもらえないだろうし。


「そうだ」

「するとあんたアレかい。『獣人摂食障害』とかいうくだらない奴かい」

「・・・・・・そうだ」


 獣人の中にはごく稀に、本当にごく稀にだが『獣人化が原因による摂食障害』が発生する。

 普通の人間の偏食と似たようなものだが、獣人のそれは、通常と決定的に違う部分がある。

 たとえ以前は食べられていても、獣人化と同時にある一定の食べ物を受け付けられなくなる、というのだ。

 人間の偏食の原因は心因性だったりするが、獣人のそれは原因がまったくわかっていない。

 先天的にかかる病気のようなものだ。


「まったく・・・・・・だからあたしは獣人てのはあんまり好きになれないんだ」


 ぼりぼりと頭を掻きながらホウメイが言った。

 その後ろで誰かがびくっ!と震えた。


「原因がわからないとか言いながら、あんたみたいに食べ物や料理を粗末に扱うなんざあたしには我慢できないね」

「気に入らないなら別に気にしなくてもいい」

「なんだってぇ!」


 アキトは自分の席に戻ってきてまた座った。

 ラピスはまだ心配そうな眼でアキトの事を見ていたが、 大丈夫だといって頭をなでてやるとまたうどんを食べ始めた。


「だから、俺は最初からあんたの料理を食べなかった。食べさせようとしたのはあんただ」

「・・・だったら理由を言ってやめればよかったじゃないかい!」

「そういう奴に限って、たいてい説明しても納得しない」

「・・・・・・く」


 確かに、そうかもしれない。

 ホウメイにしてみればそんなくだらない理由で料理を食べれないなんてのは、料理人をバカにしているのと同義だからだ。

 アキトはまたリンゴを食べ始める。


「・・・これ、早く下げろよ」


 ハンバーグはすでに冷えていた。


「・・・あんたっ」

「ホウメイさん、もうやめましょう!」

「サユリ・・・」

「ほら、誰にだって好き嫌いはあるじゃないですか。食べられないんだから仕方ないですよ」

「・・・・・・サユリがそういうんなら、あたしは」

「テンカワさん、テンカワさんは何だったら食べられるんですか?」


 テラサキサユリがアキトに笑いながら話し掛ける。

 あんなことがあったのに気丈な娘だ。

 ・・・・・・さっき洋食担当だとかいってたから、きっとハンバーグは彼女が作ったものなんだろう。

 アキトは口の中のものを全て食べてから返事をする。

 下手なことをするとラピスが真似するからな。


「果物なら、食べられる」

「果物だけ、ですか? お野菜とか豆とか」

「果物だけだ。野菜も豆も穀類も芋も食えん。肉も魚もだ。あと酒や茶も飲めない。水ならいける」

「・・・・・・」

「本当に果物だけなんですね。わかりました、ホウメイさんが無理いってすいませんでした」


 ホウメイは無言でその言葉を聞いていた。

 ぺこり、サユリが頭を下げる。

 アキトはそれを手で制する。


「あんたが頭を下げる必要はない。わかったらもう行ってくれ」

「はい、どうもすいませんでした。ホウメイさん、行きましょう」

「あ、ああ・・・・・・」


 サユリは改めて頭を下げて、A定食のお盆を持ってその場を後にした。

 ホウメイもそれに続く。

 ついでにミカコ、厨房からのぞいていた3人も顔を引っ込めた。

 アキトとラピスはもくもくと食事を続ける。

 ホウメイたちは少し離れた席で食事をはじめる。

 厨房の3人は下ごしらえや皿洗い。

 食堂には幾分か重い空気が残ったままだった。



 そんな時、ブリッジから全体通信が入った。

 

 

 


 

 

 

「は〜い、艦長のミスマルユリカでーす。今から重大発表があるのでクルーの方は手を止めて注目してくださーい」


 ブリッジには主要メンバーがそろっていた。

 艦長、副長、提督、提督補佐、通信士、オペレータ、操舵士、会計士、保安部主任、以上である。

 ユリカがかるーい感じで演説を開始していた。


「これよりナデシコの目的地と目的行動を発表します。契約のときは秘密でしたけど、その辺についての説明をプロスさんから」

「はい。えー、まず今まで秘密だったのは情報漏洩による妨害行動を防止するためです。簡単にいえば企業秘密ですな」

「我々の目標は火星だ!」


 待ちきれなくなったのはゴートが告げる。

 それに反論したのはミナトだった。


「ちょっと、それじゃ今の地球の人は見捨てていくの?」

「現状では、地球連合軍の戦力でほぼ均衡しています。問題はないと思います」

「でも、何で火星なんですか? 火星って1年前に全滅してるんじゃなかったでしたっけ?」

「確かに火星は壊滅的打撃を受けている。しかし誰も全滅を確認していません。もし、火星に人が生き残っていたら」


 ミナト、メグミの質問に答えたのは副長のアオイジュンだった。

 きびきびとした口調で返答していく。


「誰かが助けに行かなくちゃ、火星の人はずっとほったらかしのままです」

「・・・アオイくん、目的地の事知ってたの?」


 いつものジュンに比べ落ち着いているからか、ミナトは疑問に思った。

 軍経験者の彼なら、地球の人とか軍のこととか、いろいろもめそうなものだというのに。

 ジュンは一つ頷いた。


「知ってました。知らされたのは契約したあとでしたけど」

「私も知ってましたー」


 ユリカもうれしそうに手を挙げる。


「じゃあ、知ってたのは艦長達だけ?」

「少なくとも、白い制服を着てる人は知ってましたよー?」


 白い制服とは艦長や提督など、司令部の制服のことである。

 ちなみに作戦部(パイロット)が赤、作戦部(ブリッジ要員)はオレンジ、技術整備部が水色、生活環境部が黄色である。


「僕達が知らないと航行予定とか立てられませんし、さすがに秘密といっても限りがあるでしょう」

「ま、それはそうよね。はい、お話の続きをどうぞ」

「はーい♪ ナデシコはこれより火星へ向かい、難民の救助に当たります。まずはこれを第一目標として」

「残念だけどそうはいかないわよ!」


 バタバタバタ!

 ユリカの演説をさえぎって乱入してきたのは、ムネタケ副提督様だった。

 同時に銃を持ったクルー、恐らく偽装した軍人が5名ブリッジになだれ込んでくる。

 白人、東洋人おりまぜてのご登場、そしてブリッジにいて問題がありそうな連中に銃を向ける。

 ユリカ、ジュン、ナカザト、ゴート、プロスペクター。

 フクベ提督その他は問題なしと見てチェックしない。

 銃を向けられたユリカが叫ぶ。


「副提督! 何のおつもりですか!」

「ふふふ、アナタ達は甘いのよ。こんな有効な武器を連合軍が逃がすはずないでしょ」

「ムネタケ、血迷ったか!」

「だまらっしゃい! たった今からナデシコは連合軍が接収するわ!」


 オーッホッホッホッホッホ!と気色悪い笑い声を上げるキノコ副提督。

 だが、ブリッジ内で動じているのはミナトとメグミだけだった。


「なるほど、確かにナデシコの力なら連合軍が接収しようとする理由もわかります」


 銃を突きつけられているため、両手を上に挙げているジュンが言った。

 そして、次の言葉を繋ぐ。


「あら、さすがに物分りがいいわね副長。軍に戻ったらあたしの部下にしてもいいわよ」

「それならば副提督、連合軍極東方面司令タカマツ大将の署名と捺印の入った接収命令書を提示してください」


 ブリッジ中の視線がジュンに集中した。

 いつもの彼らしくなく、いやに落ち着いている。


「緊急時ならばともかく、現在のような平時では接収には命令書提示の義務があります。ご存知ですね」

「・・・・・・フン、若造が知った風な口をきくんじゃないわよ」


 ムネタケはニヤニヤ笑いながら懐から一通の書類を取り出した。

 軍の正式書類に流暢な字で「接収命令書」と箔押しされていて、下のほうにはちゃんと署名と捺印もある。

 バッチリ有効な書類だった。


「フン、これで文句ないわね」

「残念ですがムネタケ副提督、その命令書は無効です」


 今度は同じく両手を挙げたナカザト提督補佐の出番だ。

 今度はムネタケもうろたえた。


「な、なんですって!?」

「その書類は有効でないと申し上げたのです」

「な、なにを根拠に」

「まずは署名ですが、それはタカマツ大将の筆跡ではありませんね。印も大将が使っているものとは若干違う」

「何であんたにそんなことがわかるのよ!」


 脂汗を掻き始めたムネタケは傍目にも余裕があるようには見えない。

 ナカザトは同じ姿勢のままなおも続ける。


「私は軍勤務時はフクベ提督の下で雑務をしていましてね。大将の字は何度もお伺いしておりますので」

「キーっ、あんたの記憶なんか頼りになるわけないじゃない!」

「ホシノオペレータ、オモイカネに接続して筆跡鑑定と印鑑の照合を」

「わかりました」

「ちょ、あんた止めなさい! 命令よ! 余計なことはするんじゃないわ!」


 そんなことを言ったってルリは聞く耳をもたない。

 IFSの紋章を光らせてオモイカネにアクセスする。

 たかが筆跡鑑定程度、ものの数分で終わる作業だ。

 それに慌てたのはムネタケ以外の誰でもない。


「小娘! あんた達、あの小娘を止めなさい!」

『ハッ』


 ムネタケの命令に従い、銃で武装したうち二人がブリッジ下部に下りようとする、が。


「あんた軍人でしょ! こんな小さな子に銃を向けるって言うの!」

「非人道的です! それでも軍人ですか!」


 ミナトとメグミに阻止され、一瞬ひるんだ。

 その瞬間!


「今だ!」


 ジュンの合図とともに全員が動いた!

 ゴートとプロスペクターは下に降りた軍人を狙う。

 「んなっ」ゴートの右のパンチが1人の顔面に!

 「がふっ」プロスの右肘が1人の鳩尾に!


「貴様ら動くうおっ!」


 ブリッジ上部にいた3人の注意がゴートとプロスに向いた瞬間、ジュンとナカザトとユリカが動いた。

 ナカザトが白人の男の手首を蹴り上げ、持っていた銃を飛ばすと「貴様っ」そのまま腹にミドルキックを入れて男をドアまで蹴り飛ばす。

 ジュンが背の高い東洋人の男の腕を取り手首を半回転させ「ぎゃウッ」銃を落とすと、腕を後ろ手にひねって動けないようにする。

 ユリカが右手で最後の男の手首を取ると、そのまま引っ張ってバランスを崩したところを、左手で足を払う。

 「ふあうっ」男はぐるん!と体が一回転して脳天から床に落ちた。


「んなっ、なっ、なっ・・・」


 一瞬で、配下の精鋭5人がのされてしまったムネタケは声も出ない。

 ナカザトがさっき蹴り上げた銃を拾ってムネタケに突きつける。


「形勢逆転ですな、副提督殿」

「んなっ、なんであんた達っ・・・」

「自分達は士官学校出ですので、あらゆる事態を想定したレクチャーは受けております。たとえば武力によって艦をジャックされた場合の対処法」

「んな、それくらい軍人として当たり前」

「そうですな。ですが軍人はジャックするほうの経験はほとんどないでしょう? そもそもジャックする訓練はしましたか?」

「・・・・・・うるさいわねっ! こいつらが役に立たないのが悪いのよっ!」

「余談ですが自分達はある程度の格闘技訓練を受けております。必修科目でしたからね。

 少なくとも銃器対素手での戦闘訓練は何度となくやらされましたが、ご存知でしたか?」

「・・・・・・」


 怒りのためか、言葉もないムネタケ。

 だが。


「若造が、なめるなぁっ!」

「っだぁっ!」


 さっきナカザトが蹴り飛ばした男が、横から突進してナカザトを羽交い絞めにした。

 両手を巻き込んだいわゆるベアハグ状態になる。

 この白人兵士・・・レスリング経験者か!


「ぐううっ」

「ナカザトっ!」

「ふへへ、地上最強の生物をなめるなよ・・・!」


 男の体に異常が起きる。

 白人の兵士のただでさえ大きい筋肉が盛り上がり、体中に剛毛が生え始め、顔の形すら変化し始める。

 黒い毛並みに鋭い爪と牙、その姿は、


「熊っ・・・・・・かっ!」

「グハハッ! このまま握りつぶしてやるわ!」

「いいわよレオパルド! あんたそのままその男の相手してなさい!」


 ムネタケは懐から銃を取り出してユリカに向ける。

 すでに勝ち誇った表情だ。


「さあ、観念してもらいましょうか、艦長。副長もその男の手を離してくださいな」


 だがムネタケの脅迫にも、ユリカとジュンは動揺しなかった。

 その必要がないからだ。

 さっきから、ナカザトを『締め上げている男』のうめき声がそれを証明していた。


「ぐ、ああっ・・・!」

「・・・潰せないだろ。熊程度の力じゃあな」

「なんだと・・・っ!」

「教えてやる。地上最強の生物は・・・熊じゃない」


 ナカザトの体に異常が起こる。

 皮膚の色が変わり、全身の肉が盛り上がり始める。

 ナカザトを締め上げているレオパルドには、体重がどんどん重くなっていくのがわかった。

 それに、締め上げている腕も押し返されて・・・


「・・・象だ」


 バツン!

 ナカザトの制服が、肉の張りに耐え切れずにちぎれた。

 同時に彼の、耳と、鼻とが特徴的に変化、そして


「パオオオオオオオオーーーーーーーーッ!」


 雄叫びと同時に、レオパルドの腕が弾き飛ばされた!

 一瞬ひるんだレオパルドの体をナカザトはその長い鼻で捕まえると、勢いをつけて後ろへ投げた!

 後ろとはつまり、ブリッジ上段から下段への空中。

 そして、鳥でもない限り空中で自由に身動きできる生物はいない。


「パオオオーーーーーッ!」


 ナカザトはその投げた後の鼻を勢いよく振りかざし、しっかりと狙いを定める。

 狙うは・・・レオパルドの胸!


「ノォーーズ・フェンシングーーーッ!」


 ドムッ!


「ギャァァーーーーーー!!」


 まっすぐに伸びたナカザト象の鼻に胸を打たれたレオパルドの体が宙を舞う。

 意識を失ったのか、レオパルドの体は受身も取らずにパイロット待機所の床に落ちた。

 体中からバサバサと毛が抜けて体が人間に戻っていく。


「あ、な、な、な、な、な、な、な」


 キノコはすでに人の言葉を話せなかった。

 その時、タイミングを見計らっていたのか、パイロット待機所のドアが開いて4名の兵士がなだれ込んできた。

 手には同じく銃を。

 その銃を予定通りブリッジ方向に構えたところで、男達の動きは止まった。


「動く・・・・・・な?」


 先陣を切って飛び込んできた男の眼に入ったのは、ブリッジで倒れている同僚と、銃を突きつけられている上司。

 そして、目の前の床の上で気絶している自分達の中で一番強い男。

 それと、空中を舞う1頭の獣。


「オオオオーーーーーッ!」


 ナカザトは、男達の姿を確認した瞬間に床を蹴り宙を舞っていた。

 象は、一般に動きが鈍い動物だと思われているがそれは違う。

 戦うときは予想も出来ないスピードで走り、更にその足での攻撃力は地上最強といっても過言ではない。

 その気になれば、ライオンに襲われたって勝つことが出来るのだ。


「うわっ」

「パオオオーーッ!」


 空中を飛んだナカザトはそのまま着地すると一気に男達との距離を詰める!

 一歩、二歩、三歩。

 それだけで距離を詰めると、ナカザトは右手を振りかぶった。

 今のナカザトは、象である。

 その右手は、並みの人間の力では到底かなわないほどの威力が込められている!


ズドン!


 右手を開いて先頭の男の胸を突き飛ばした。

 相撲で言うところのただのツッパリだがナカザトの象の力、体重、そして勢いの乗ったツッパリは男1人を飛ばすのには十分だった。

 不運だったのはその後ろにいた男である。

 ちょうど二人並ぶような形だったため、巻き添えをくっていっしょに飛ばされてしまった。


「くそっ!」


 残った二人がナカザトに銃を向けた。

 だが、その引き金を引くことは許されない。


バフ


 ナカザト象の耳が大きく膨れ上がって男達の顔をふさいでしまった。

 人間の本能として、こうなれば一瞬だけ隙が出来る。

 その一瞬の隙があれば、ナカザトが攻撃するには充分だった。

 1人の男の首に何かが巻きついた。

 確認する前に、男の体が大きく横に振られてッ!


「ぐあっ!」

「ぎゃあっ!」


 隣にいた男と衝突、二人して気を失ってしまった。

 何のことはない、鼻で首を巻いて思いっきり投げただけだ。

 だが、この攻撃は対獣人戦に慣れていないとそうそう反撃は出来ない。

 鼻がのびて攻撃なんて、人間には出来ないからだ。

 もう伏兵がいないことを確認すると、ナカザトが象から人に姿を戻す。


「・・・・・・そんな、何よ。なんなのよアイツ。そんなバカな話があるわけが・・・」

「副提督」

「ひっ!」


 ユリカは、にっこりとわらいながら、床に落ちていた銃をムネタケに突きつけていた。

 ムネタケ副提督は、まだ目の前で起こったことが信じられないようだ。

 ムネタケから視線を外さないままでユリカがルリに尋ねた。


「ルリちゃん、鑑定結果は?」

「クロです。印鑑は似せて作った偽造です。署名はたぶん副提督が書いたものですね」


 もはや逃げ場なし。

 ムネタケは歯をガチガチ鳴らしながらあとずさった。


「公文書偽造と船舶略奪・・・諮問会議にかければ確実に有罪ですね」

「ひぃっ!」

「安心してください。引き渡すまでは連合軍規定の捕虜扱いにして拷問はしませんから」

「じょ、冗談じゃないわ!」


 この期に及んでまだ何か言うことがあるのか。


「こ、この船には私の息がかかった軍人が何十人も乗ってるのよ! きっと今ごろあちこち制圧して」

「メグちゃん、各部署からの通信開いて」

「はい」


 ユリカとムネタケの回りにいくつもコミュニケのウィンドぅが開かれる。

 それに映っているのは。


『食堂、3名確保』


 すでに戦闘が終わってだいぶ経つのか、取れた自分の角を弄くっているアキト。


『格納庫、15人確保だ』


 後ろにふんじばった軍人を取り囲む整備班と、スパナを持ったウリバタケ。


『相転移エンジンメンテナンス通路、6人』


 ナデシコの制服がまったく似合っていない北辰。


『医務室、2人捕まえたぜーっ』


 医療班といっしょにまだ軍人を縛っているダイゴウジガイことヤマダジロウ。


「あう、あう、あう、あう、あう・・・」

「副提督、残念でしたな。あなた方の蜂起は予想していましたよ」

「な、なんで」


 プロスペクターの言葉の先をルリが引き継ぐ。


「ナデシコの乗員はコミュニケをつけてます。それをつけないでうろついてる部署不明の銃火器携帯してる人。怪しすぎです」

「ま、そういうわけです」


 勝敗は決した。

 ゴートがムネタケの腕を取り、後ろ手に縛る。

 その時だった。


「前方に機影、海中から出現しています」

「認識コードは?」

「地球連合軍極東方面第3艦隊所属、旗艦トビウメ」




『ユゥーーリィーークヮァーーーーーーァ!』






 ルリの報告が終わるか終わらぬか、というところでナデシコに最強の攻撃が加えられた。

 

 


 

 

がんばれ僕らのナカザト象! 負けるな僕らのナカザト象!
ここで活躍しなかったら何のためにナデシコに乗せたと思ってるんだナカザト象!
強いぞ僕らのナカザト象! 戦え僕らのナカザト象!
正直このためだけに乗せたからキミこの先あんまり出番ないかもしれないぞナカザト象!w



果たして今までこんなにまじめにナカザト象が出たSSがあっただろうか?w
獣人という設定が出た瞬間にこいつの乗艦が決定しましたよ、ええ。
ヤリタイホーダーイw


前回の代理人様の感想でナカザト象の活躍を言い当てられてしまいました。
大ショック。
悔しかったから、ナカザト象のアバレっぷりを5割増にしました。
いかがなもんでしょうw
ちなみに私は某作品の某マンモス男のファンですw


ともかくナカザト象は置いておいて。
アキトvsホウメイの構造が完成いたしました。
一番発展していきつつある戦いです。
お楽しみに。


今回のTV版ナデシコ修正。
『艦長と副長にくらい行き先教えとけ』


では、でわ。

 

 

 

代理人の感想

あははははは、冒頭のセールストークがいい感じ!(笑)

なんて言うか、いかにも「企業向け説明会のパンフレット」って感じで(笑)。

 

それはさておき。

ビバ・ナカザト象!

グレイト・ナカザト象!

ワンダフル・ナカザト象!

ノーズフェンシングとか、兵士の名前がレオパルドとか、もぉ大爆笑!

ナイスですっ!(ずびしいっ!)

 

>大ショック。

・・・・・・ふっ。

ナカザト象の設定を捏造したのはどこの誰だと思っているのかね?(爆)

まぁ、そのおかげでナカザト君の活躍の場が増えたようで嬉しいかぎりw