―えーこんな作品を読んでくださっている皆さん。
 初めまして!

―アヤカです。

―今回私は民明書房の『漆黒の戦神、その軌跡』において
 数々の女性を堕し・・・もとい!
 数々の人々との逸話を披露している漆黒の戦神こと、
 テンカワアキトさんに今回はインタビューする事に成功しました。
 では、テンカワさんよろしくお願いします♪


「え?あ、はぁ・・・・よろしく」













一冊の本が生んだ哀れな男の愉快な喜劇    前夜
     
          ―俺はただ平穏がほしかったんだ―
                       作者 広島県人+アヤカ












―はい!よろしくされます♪
 では早速ですが・・・・

「は!?
あ、あのちょっと待ってください!
貴女誰なんですか!?
ここどこなんですか!?
俺ついさっきまで枝織ちゃん達と一緒にキャンプの準備を!?」

―ああ!それでしたらすいません。
 テンカワさんの予定を確認することなく勝手に召還[よん]でしまいました。
 本当にすいません。


アヤカは斜め下から潤んだ瞳でアキトの顔を覗き込みながら謝罪する。
これをみて太陽系最強のお人好しテンカワアキトが許さないはずがない。
彼は女性と『子供』にはほぼ無条件で甘いのだから。


「あ、あぁ・・・いや別にちゃんと後で
さっきの場所に帰れるならそれで良いんですよ」

―そ、そうですか?
 うぅ・・・テンカワさん優しいです。
 どこかの就職浪人とは大違いです。

―・・・・俺の事かい!
 しかも勝手に就職浪人にすな!
 まだ決まった訳じゃない!

―私だって子供じゃないもん!

「あのー」

―ん?おお!しまった。つい登場してしまった。
 あー久しぶり、アキト。
 『異常物質(某人物達が作り出した食べ物)排斥運動』
 の同志・広島県人だ。
 最後に話したのは・・・2話だったか。

「・・・ああ!」

―今、俺の事思い出したなアキト。

―まーまぁ、そんな事より今回は『漆黒の戦神、その軌跡』とは一味違う、
 そう!禁じ手!!反則!!!邪道!!!
 テンカワアキト直撃インタビュー!

 ヒュー!ヒュー!ドンドン!パフゥ!
 (一人で一生懸命、笛や太鼓を操るアヤカ)

―・・・ま、そーいう事なんで色々語ってくれ、同志。

「了解、同志」

―うにゅ?なんでそんなに仲良いの?

「所で何はなせばいいんだ?戦争中の事?」

―んにゃ、そうだな・・・・。
 今回はざっと(物語中での)一ヶ月半前の事で良い。

「・・・えらく中途半端な時期だな」

―いや、時期的には深紅の羅刹達に助け出される前なら何時でも良いんだけどな。

「だったら、どの日でも大して変わりはないよ。
あの頃は何時も地獄だったからな・・・」(何処か遠くを見ている)

―・・・えらく遠くを見るな。

「まあ、ね」

―・・・・ううぅ。
 お兄ちゃんとテンカワさんが無視するぅ(T-T)

『そんな事ないぞ(よ)』×2

―うにゅ!(否定表現)
 そんな雪国での奇跡物語のネタを使う所なんか、
 絶対ねらってる!

『・・・・さて』×2

―流すしーーー!!!



















×月△日    雨(宇宙なので解らないが気分的に)
         AM 5:43


ナデシコ艦内を常人には視認すら不可能な速度で走りぬける人物がいた。
・・・最もそんな事ができるのは、
ヤガミ氏が地球で新婚生活を満喫している現在ナデシコ艦内に一人しかいない。
そう、漆黒の戦神・テンカワアキトその人だ。
戦争を終結させた立役者である彼だが、
戦争中の頃とは明らかに変わった部分がある。

それは容姿だ。

戦争中の彼はたまに真紅の羅刹と戦闘して負傷する以外、
大して怪我や病気になる事も無く、それなりに健康だった。
しかし現在の彼は・・・・
頬は痩せこけ、肌につやは無く、
目元には隈があり、
強い意志の光を宿していた目は充血し赤くなっている。
理性的な友人や知人、そうでなくとも常識的な人物に今会えば、
間違いなく病院に連れて行かれる事はまず間違いない。
そんな顔をしている。
しかし身体能力は落ちていないのか、
多少神経質すぎる位周囲の確認をしつつ彼は仕事場に向かっている。


「や、やっと諦めたな。
はぁ・・・・なんか朝から疲れてるけど仕事行かなきゃな」


・・・・・どうやら朝も早よから某同盟に追われていたらしい。
朝からご苦労な事だ。
アキトは同盟に対する愚痴を
オモイカネのマイクですら拾えないほど、
小声でボソボソ呟きながら食堂へと向かう。
ちなみにこれはアキトに最近できた癖である。


・・・どうやらかなり追い込まれてきたようだ。








            AM 6:00

「・・・・テンカワ、大丈夫かい?」

「え?あっはい。大丈夫ッス・・・・多分

「・・とてもじゃないけど、そうは見えないよ」

「は、ははは・・はは・・・ははははぁ、ははは・・・」

「・・・・・」


師弟の朝一番の会話だ。
アキトが乾いた笑いを厨房に響かせながら
下拵えを始めたのを見て、
ホウメイは呆然と愛弟子の後姿を見る。


「(こりゃ、かなり危ないねぇ・・・。
あの娘等の隙を見つけて、
何とか休ませないとテンカワが壊れちまうよ)」


ホウメイの見立ては正しい。
アキトは現在殆ど惰性で体を動かして仕事をしているのだ!
・・・恐るべきはアキトの身に染み込んだ料理人根性か、
はたまた、そこまでかの漆黒の戦神を追い込んだ某同盟か?


「あ!アキトさん!おっはようございまーす」

「あーずるいわよミカコ!
おはようございますアキトさん」


ホウメイがアキトの仕事風景を眺めていると、
調理補助の女性達がやってきた。
「ホウメイガールズ」と自称する整備班にとっては
食堂の天使とも言える女性陣だ。
彼女らは直接の上司であるホウメイへの挨拶もそこそこに、
彼女らのエモノであるアキトへの接近を試みる。
しかし・・・


「サユリさんモーニングAセット牛乳でお願いします」

「エリ、私はBセット牛乳で」

「ミカコさん私はCセットにコーヒーでよろしくお願いします」

「んーアリサと同じCセットで飲み物は紅茶でよろしく。ハルミ」

「おっはようございまーす!
えーっとユリカはねー。Aセットでレモンティね。ジュンコちゃん」


妨害者が存在した!


「っく!了解です!!」×5


テンカワアキトにとって厨房での仕事中は、
まさに一日の生活中で最も落ち着く時間だった。
第一に同盟内での抗争と師匠・ホウメイの手回しにより、
誰かに迫られると言う事がまず無いからだ。

「ホウメイガールズ」はなんと言っても、
直接の上司命令で何かと忙しい。
精々アキトの事を監視する程度だ。
その他同盟員もまさか厨房内に入る訳にも行かず、
ただ食堂の一角を占領するにとどまる。
誰にも邪魔されること無く、ただ好きな料理を作る。
確かにミスをすればホウメイに怒声を飛ばされるが、
それ込みでもアキトにとってはまさに至福の時だ。
しかし、いかに食事時は忙しい部署とはいえ、
その時間帯が過ぎればある程度閑散と言った状態になる。
本来ならこの時間帯はコックや従業員にとって、
休憩時間となるのだが、アキトにとっては地獄の門が開く時間だ。


「ねえねえねえねえ!アキトー!」byユリカ

「アキトさん!この料理なんですけど・・・」byサユリ

「アキトさーん、お菓子作ったんです食べてください!」byエリ


と言ったように、
ホウメイガールズを中心とした同盟員が
アキトに接近しようとするのだ!
もし誰かの話を聞こう物なら、
選ばれなかった同盟員が強行手段に訴えてくる。
かと言って全員の話を聞く訳にも行かない。(体が持たないから)
何時もなら何か用事をするか、
身体能力を駆使して逃げるのだが今日は捕まってしまった。
アキトが何とかしようと善後策を練っていると、


「あんた達、ちょっと悪いけどテンカワ借りるよ!」

「ええーーー!!」(その場にいた同盟員達)

「すまないね。
テンカワ、ついて来な。
食料庫の整理がしたいんだ。」

「は、はい!」

「あ!じゃあ私も手伝います!」×5

「あんた達は厨房の掃除を頼むよ」

「うぅ・・はーい」×5


ホウメイは上司の特権を巧みに使い、アキトを修羅場から引っ張り出す。
アキトはホウメイの後ろを歩きながら、
ホウメイにだけ聞こえる程度の声量で「ありがとうございます」と言う。
ホウメイはそれに軽く右手を振る事で答える。


「(ホウメイさんこの恩は一生忘れません!)」


アキトはそう思っていたが、
その恩が返されることはあっても、
長期的に見て返した以上のペースで増えていく事実は解り切った事だった。









食堂            PM14:27


「だからアキトさんに相応しいのは私なんです!!」

「そう言う事はもっと胸が育ってから言えよ!ルリ!!」

「な!?」

「そう言うリョーコはもうちょっと料理覚えた方がいいんじゃない?」 

「そうね、アリサの言う通り。
あんなの食べさせられたらアキトが死んじゃうわ」



食堂はいつの間にやら10年ほど昔のアフガン顔負けの戦場になっていた。
しかし、女性同士の喧嘩ほど恐ろしい物はないと思うのは
俺(作者その1)だけなのだろうか?

男同士の喧嘩の場合、
誰かに教えて貰った訳でもなく誰もが暗黙の了解の元に喧嘩をする。
不思議と禁じ手が決まっており、
武器の使用・目突き・金的等が繰り出されるのはかなり希な例だ。

しかし女性の喧嘩は違う。
髪を引っ張るなど序の口だ。
何の躊躇もなくそこらに落ちている鈍器を使い。
鋭利な物と判断すれば突き刺しにくる。
遠くの相手には手頃な物を投げる事に何の呵責もない。

ナデシコの食堂はホンの数分で血で血を洗う、
仁義無き壊し合いの舞台となってしまった。
さて話の中心にいるはずのアキトといえば・・・
トンズラしていた!







「はぁはぁ・・・・はぁー
全く、付き合ってられない。俺が何をしたって言うんだ!(半泣き)
はー・・・・でも今日は何時もより料理が出来たな。
良かった・・・・っても高々2,3時間労働時間が延びただけか。
あーまたホウメイさんに怒られる。
もっと練習しないと・・・まともな料理が作れなくなってしまう」


アキトが逃げ出せたのには協力者の力による所大だ。
その協力者とは隠すまでもなく、ホウメイである。
ホウメイは同盟員同士の紛争により、
食堂が使い物にならなくなる前にとアキトを食堂から脱出させたのだ。

ちなみにホウメイがアキトを注意したのには理由がある。
ここ数ヶ月アキトが厨房に立つ時間が激減した。
この為アキトの料理の腕は緩慢な下降線を描き続けているのだ。
これを危惧したホウメイが仕事時間に関して注意したのだが、
この件に関してはアキトに注意しても仕方がない。
原因は某同盟にこそあるのだから。
何はともあれ
アキトは息を整えながらこれからの行動予定を考える。


「そう言えば最近ブローディアの調整に行ってないな」


その一言で行き先を決定する。
どうせ逃げ場所などナデシコ艦内に限定されているのだ。
出来るだけ同盟員の居そうに無い所が良いだろう。
今の格納庫には整備班所属のレイナも居ない。
彼女は現在食堂で姉と共に、
ハーデット姉妹と激闘を繰り広げているだろうから。







格納庫            PM 14:42

「ウリバタケさーん、このチェックボード借りますねー」

「んー?アキトか?別にかまわねーぞ。
しかし久しぶ・・り・って・・お前、大丈夫なのか!?」

「ははははは・・・ホウメイさんにも言われましたよー。
はははー大丈夫ですよー・・・・多分ですけどー

「そ、そーかぁ?」

「ははははは・・・・・んじゃ、
俺ブローディアの調整やってきますー」

「あ、オイ!アキト!
これやるから合間にでも飲んどけ!」


ウリバタケはそう言いながら
ゼリー状の栄養補給食品をアキトに投げ渡す。
アキトは受け取ると軽く頭を下げ、
ブローディアの方へ歩いて行く。
その歩みは戦争中のモノとは比べ物にならない位弱々しく、
フラフラしたものであり。
そんなアキトの様子を見たウリバタケは
かなり本気でアキトの心配をしていた。
幾ら某組織の幹部であり発起人であったとしても、
ウリバタケにとってテンカワアキトとは実の息子にも等しい存在なのだから。








ブローディア・コックピット

「・・・アキト兄ぃ大丈夫?」

「・・・・俺そんなに危なく見えるのか」

「少なくとも僕達が自由に動けるんなら、
すぐに地球か月の病院に運んでるね」

「それ、同感。
アキト兄ー、ルリ姉達に一回ビシッと言ってみたら?」

「ディア・・・それで収まると思うか?」

「・・・・(想像中)・・・・・ごめんアキト兄」


アキトは会う人会う人に心配されていた。
しかしAIにまで心配されるとは・・・(汗)
ディアとブロスはアキトの調整を手伝いながら
オモイカネにばれない様、
細心の注意を払いながら同盟の現状を把握する。


「・・・さて、終わったなー」

「アキト兄、あんまり寝てないんでしょ?
あたし達が見張ってるからさ、ちょっと休んできなよ」

「ルリ姉達もまだ食堂で暴れてるし、
格納庫に近づいてきたら教えるからちょっと寝たら?」

「・・・ディア、ブロス・・・お前ら良い子だな。
じゃあ、お言葉に甘えるよ。
あ、これも飲んどこ」


アキトはウリバタケから貰ったゼリー状の栄養補給食品を
ジュルジュルと飲み込むと座席に体を預け、
全身の力を抜く。
すると直に睡魔がやってくる。
アキトは睡魔に抵抗することなく、
むしろ意識を委ねて深い眠りに落ちていく。


「・・アキト兄、よっぽど疲れてたんだね」

「ルリ姉達、もうちょっとアキト兄の事考えてあげないと、
その内アキト兄壊れちゃうわよ」

「おーいブロス。アキトはどうした?」

「しぃー!数日振りに熟睡してるんだから起こしちゃだめだよ!」

「・・・数日振り?
アキトの奴最近食堂で見ねーから、
病気かなんかで仕事休んでんだじゃなかったのか・・・。
さっき見たときもやたら痩せてるからそうだと思ったんだが」

「違うよ。
ルリ姉達に追っかけ回されてたんだ」

「そうよ!
最近のアキト兄ってさー、
一日24時間の内純粋な睡眠時間って1時間ちょっとじゃない?
それ以外はずーっと追っかけられたり、
お仕置きされたりとかばっかり」

「アキト兄、その内壊れちゃうよ。
・・・・精神的圧迫感で」

「・・・・そこまでか?」

「うん」×2


ウリバタケはここ一週間ほど趣味の発明に
付きっ切りだったのでアキトの近況を知らない。
否、それ以前に今回の航海が決まってから
アキトの姿を見る機会がほぼ無いのだ。
何故か?
整備班にレイナ・キンジョウ・ウォンがいる為、
アキトがウリバタケのテリトリー(行動範囲)に入って来ないからだ。
何はともあれ辺りに何ともいえない空気が漂う中、
アキトは『死んでるんじゃないか!?』
と思えるほど微動だにせず眠り続ける。
寝ている間でさえ体力の消費を嫌うかのようだった。











格納庫               PM15:46


「アキト兄!起きて!レイナ姉がこっちに向かってるよ!」

「何!?」

「アキト兄、
あんなに熟睡してたのに・・・」

「間髪入れずに覚醒状態になれるなんて・・・」

「苦労してるんだね」×2

「そんな事はどうでも良いよ!
脱出ルートは!?」

「えーっと・・
いっその事レイナ姉が来るゲートの陰に隠れといて、
レイナ姉が十分に離れてから気付かれないように脱出。
これが一番ベターかな?」

「なるほど気配を消しておけば気付かれないか・・・
よし、それで行こう!ありがとうブロス!
ディアも教えてくれてありがとう!」

「アキト兄〜がんばってねー」×2


コックピットから出ていくアキトに声援を送るAI2人
アキトは久しぶりにとれた完全な休養(ただし2時間ほど)で
若干顔色は良くなっていた。
しかし、アキトが(アキトにとって)危険なゲートに
近づこうとするとそれを阻む大勢の人間がいる。

彼らは・・・・某組織!!

手に手にスパナや改造スタンガンを持ち、
アキトの前に立ち塞がる。
ウリバタケの姿が見えないが
恐らく彼は用途不明資金の流れに関して
ネルガルの会計係に絞られているのだろう。


「テンカワ・・・貴様には恨みはてんこ盛りだ。
だが、天はお前に裁きを下そうとしない。
よってここで我々が貴様に人誅を下す!!」

「・・・・何でだよ!?
俺が何したっていうんだよ!?
答えろよタケムラ!」

「・・・ふ、ふふふふふっふふふふ・・・
解るか!?
惚れた女に告白しようとしたら、
『私好きな人ができたの』っていうから誰だって聞いたら
『漆黒の戦神』って答えるんだぞ!?」

「・・・なあ一つ聞いて良いか?
その人なんて名前?」

「・・・・
ミヤノアスカだよ!!」

「?・・・・・知らないんだけど」


アキトの返答とともに周囲から怒声がわき上がる。
だがアキトには他に答えようがなかった。
何故なら本当に記憶にないのだから。
まぁそれは当然だった。
理由は簡単、ミヤノアスカ嬢はアキトとは直接の面識が無いのだから!

この時点より一ヶ月前地球にて、
整備班のタケムラは当時停泊していた雑貨屋の一人娘、
ミヤノアスカと顔見知りになった。
まぁ、お約束というか何と言うか、
そこそこ親しくなりタケムラはミヤノ嬢に好意を持つに至ったのだ。
『付き合ってくれ』と言うタイミングを幾度か外し、
次こそは!と思っていた時
ミヤノ嬢が噂の『漆黒の戦神』が見たいと言ったのだ。
タケムラとしては惚れた相手の望み適えようと、
某同盟や某組織に発覚しないよう細心の注意を払って
遠目ではあったがアキトを直に見る機会を作った。
そしてミヤノ嬢は見てしまったのだ、
アキト最高の攻撃力を誇るテンカワスマイルを!!
導き出される結論は?

撃沈

この際悪いのは誰なのかそれを特定することは不可能だが、
タケムラ氏のやり場の無い感情は、
周りに煽られてテンカワアキトへと向かった。


完全な八つ当たりだがどうしようもない事は
往々にして存在するものだった。



「こんちくしょーー!!」 

「タケムラ!本当に心当たりがないんだよ!」

「おらーー!!」

「・・・」

ゴス!

「!?何で避けないんだよ!」

「俺、ホントに心当たりないんだよ。
だから、謝る事は出来ないけどこれで少しは話を聞いてくれるだろ?」

「だからって何でワザと殴られるんだよ!?」

「ん、まぁこれ位の事でまたタケムラと
また一緒に笑う事が出来るんなら良いかと思うから」

「・・・・すまん、テンカワ。
解ってはいたんだ。これが八つ当たりだって!
でも、止められなかったんだ。
本当にすまない」

「・・・コーヒーな」

「え?」

「缶コーヒー一本」

「・・・すまん・・・いや、ありがとう」


周囲にいた整備班中心の某組織のメンバーは、
何時の間にやら展開されている往年の青春ドラマの様な
展開について行けずただ二人を眺めていた。


「・・・っは!
そうだった!ヤバイ!!」

「何がヤバイんだ?テンカワ?」

「レ、レイナちゃんがこっちに向かってるんだ!」

「・・・・大変だな」

「・・・・代わるか?」

「謹んで遠慮させていただく」


普段の友人関係に戻った二人はお互いに軽口を叩き合う。
実の所、タケムラ氏はアキトから某同盟の実態を聞き、
アキトに対してかなり同情的だ。
某同盟にばれない範囲でだが、
何かとアキトに便宜を図っているのだ。
今回の様な暴走は初めてだが、
アキトにとって、この親切な年上の友人は大切な存在だった。


「アキト兄!もうゲートの15m前まで来てるよ!」

「っく!時間がない!
じゃあなタケムラ!!」

「テンカワ、暇見つけてこれ食え。
糖分は直ぐにエネルギーに変わるからな。
後・・・・強く生きろよ」

「ありがとうタケムラ」

「・・・がんばれよ親友」


タケムラ氏から受け取ったドーナツ(休憩時間のお茶受け用)を
懐に入れ姿を消すアキト。
実際に姿を消したのでは無く、一般人には認識できなくなっただけだ。
見事なまでの気殺だ。

豆知識
気配をほぼ完全に消す。
完全に気配を消してしまうと達人クラスの人には逆にばれてしまう為、
存在感をその辺に落ちている石ころレベルまで落とすと
人は網膜にその人を写していてもその存在を認識する事が出来ない。

普段から使っていると思われる人物(笑)
・TV版ナデシコ中盤から終盤にかけてのアオイジュン



「・・・・この航海が終わったらアイツ病院に連れてかないとな。
それかどっか同盟に気づかれない所に旅行させるとか・・・」


先ほどの罪滅ぼしの為に色々と画策する
整備班・総転移エンジン部門サブチーフにして、
テンカワアキトの親友、タケムラシンイチロウ22歳独身!
現在彼女募集中だった。












鍛錬室前         PM 16:05

どうにかレイナをやり過ごし、
アリサ・サラのハーデット姉妹を撒いてアキトは鍛錬室前に来ていた。
目の前にある自販機からスポーツドリンクを現金で買い。
(マネーカードを使うと電子の妖精姉妹に見つかる)
親友からもらったドーナツと合わせて栄養の摂取を行う。
兎に角このまま通路にいても、
見つかる可能性が上がるだけなので鍛錬室に入る。


「ん〜〜〜!」


体をぐーっと伸ばすと背骨を中心にボキボキと音がする。
ついでに軽い柔軟をすると、
最近の鍛錬不足を示すかのように
全身がバキバキ・ポキポキ鳴る。


「・・・鈍ってるな。
北斗の事もあるし・・少し体を動かすか」


ふとケンカ友達の事を思い出し、
ストレスの発散も含めて体を動かす事にする。
しばらく柔軟を続け、
幾つかの型や技を仮想敵に向け繰り出す。


「っふ!は!っっせい!」


徐々に体の中で気が練られていき
昂気が発現し、アキトの体を包む。
演武の様な動きだが繰り出す拳や蹴りは、
例え戦艦クラスの装甲であろうと突き破るほどのものだ。




鍛錬室         PM16:57

一通り満足するまで体を動かし、
薄っすらと汗が滲み出すころアキトの顔は笑顔だった。
何だかんだ言いながら、
アキトは体を動かす事自体は嫌いではないのだ。
心なしか顔色も良くなっているのは多少ストレスが発散されたからだろう。
そんな心地いい状態を粉砕したのは、
表現不可能な異臭を放つ物質を手に持った三人の女性だった。


「アキトー疲れたでしょ?
疲れた時は甘い物が良いんだよ!
ユリカね『クッキー』作ったんだよ!
食べて食べて!!」

「アキトさん、特製の『スポーツドリンク』作ったんです!
これで疲れも一気に吹っ飛びますよ!」

「あーて、テンカワ体動かして腹減ったろ?
ちょっと、オ、『オニギリ』作ったんだ食べろよ」


それぞれが凄まじく体に悪そうな毒々しい色をした物体Xを持っている。
当人達の言葉を信じるなら、
ユリカの持っているどす黒い紫色をしたモノは
『クッキー』らしい。
メグミの持っている青汁に墨汁を混ぜた様な液体は
『スポーツドリンク』だろう。
リョーコの持っている一際キツイ異臭を放ち、
蛍光塗料で着色したのか?と聞きたくなる様な『青い』物体は
『オニギリ』なのだろう。



その時のアキトの心情

・・・・・・・・逃げなきゃダメだ逃げなきゃダメだ逃げなきゃダメだ
逃げなきゃダメだ逃げなきゃダメだ逃げなきゃダメだ逃げなきゃダメだ
逃げなきゃダメだ逃げなきゃダメだ逃げなきゃダメだ逃げなきゃダメだ
逃げなきゃダメだ逃げなきゃダメだ逃げなきゃダメだ逃げなきゃダメだ
逃げなきゃダメだ逃げなきゃダメだ逃げなきゃダメだ逃げなきゃダメだ
逃げなきゃダメだ逃げなきゃダメだ逃げなきゃダメだ逃げなきゃダメだ
逃げなきゃダメだ逃げなきゃダメだ逃げなきゃダメだ逃げなきゃダメだ
そう、逃げなければならないんだ!!!






若干、某三番目の子供が入っているが、
彼の考えは万人に賛同されるだろう。
何と言っても相手は

『ナデシコ惨大兵器』

なのだから。
アキトは聴覚以外の感覚を完全に閉ざすと
強制的に精神を落ち着かせる。
そして三人に見えないよう掌に昂気を収束させる。
三人の足音がアキトの前方1mまで来た所で
それまで閉ざしていた感覚器官を視覚を除き開放する。
そして三人を等分に(視覚では無く気配で)見ると
『ナデシコ惨大兵器』を持つ三人もアキトを見ているようだ。
その瞬間!


パァン!


閃光が異常物質を生み出した三人の網膜を焼く。


「うわ!」

「きゃー!」×2


その声をアキトが聞く事は無かった。
彼女らが悲鳴をあげている時、
既にアキトは鍛錬室から脱出し通路を疾走中だったのだ。



さて、アキトが何をしたかについて『説明』しよう(若干皮肉気)
何をしたか?
これに関しては一言で足りる。猫だましだ。
ただし普通の猫だましではなく、昂気も併用したものである。
昂気を両の掌に集めておき、相手の目の前で叩き合せる。
これで瞬間的に閃光が発生する。
この閃光で相手の視覚を奪い、後は攻撃するも逃げるもご自由に。
ちなみにアキト自身使い勝手が良い為、
かなり真剣にこの技を磨いている。
ちなみにアキト自身は名前をつけていなかったが、
彼の親友、タケムラ氏とダイゴウジガイ(セカン)により、
昂気・視殺閃(しさつせん)
と名付けられている。












プロスペクター自室       PM17:05

「・・・・ですからテンカワさん。
いくらテンカワさんでも、お仕事を早退され過ぎると
周りの人達に示しがつきませんので・・・」

「はぁ、すいません」


アキトは労働時間のあまりの短さについて、
プロスにお説教されていた。


「テンカワさんの現状は確かに解ります。
ですが・・・・・・・」

「うぅぅぅ・・・すいません」


以後45分間にわたりプロスのお説教は続いたのだった。






シュン自室           PM17:59

「シュン隊長!助けてください!
俺もう限界ですよ(半泣き)」

「まー解らんでもないが、無理だ。
俺が言った程度で彼女らが大人しくなるとは思えん。
お前、もう少し余裕を持って相手すればいいだろう?
そうすりゃ現状も楽しめるんじゃないか?」

「うぅぅぅ・・・・(そんなの出来る訳無いじゃないですか!!)
誰か俺に優しくしてよ・・・」

「そんな奇特な奴、誰もいないな・・・」


シュンに泣付くも、
何の躊躇も無く斬って捨てられるアキトだった。





談話スペース             PM18:22

「あら?アキト君?
・・・・そんな所で何してるの?」

「み、ミナトさん!?」


本日の勤務が終わり、
意気揚々と自室へと向かう途中で、
ハルカミナトはアキトを発見した。
発見といっても偶々アキトが自販機と壁の隙間(人一人が何とか入れる程度の広さ)
から『にゅ』っと出て来たためだが。


「へーこんな所に隠れてたんだ」

「み、みみみミナトさん?
お、俺の事はどうか皆に内密に!」

「えー・・・どうしよっかな〜」

「そ、そこを何とか!!」


アキトが出てきた隙間を覗きながら、
ネズミをいたぶる猫の様な笑みを浮かべるミナト。
アキトは土下座をせんばかりに頭を下げている。


「・・・・ま、良いわ。
『ここ』の事は黙っておいてあげるよ〜」

「あ、ありがとうございます!
ん!?やばい。じゃ、俺はこれで!」


アキトはミナトに深々と礼をすると脱兎の如く走り去る。
ものの1・2秒で視界から消えたアキトの逃走方向を
見やりながらミナトは呟く。


「そう、黙ってるわよ『ここ』の事は」


呟き終わると同時にコミュケで妖精を呼ぶ。


「あ!ルリルリ〜。
アキト君ね〜船首方向に逃げていったよ」


・・・・・ハルカミナト、事態をかなり軽視しているらしい。
何の躊躇も無くアキトを売ってしまった。








ナデシコ機関室             PM20:53

「・・・テンカワ、もうちょっと落ち着いて食え」

「んぐんぐ・・・ムシャムシャ・・・んぐぅ!?」

「はぁ、言わんこっちゃ無い。
ほれ、お茶」

「ゴクゴクゴク・・・はぁー助かった」


テンカワアキト、現在遅めの夕食中だった。
某同盟の捜索が艦首方面に移った事を
敏感に感じたアキトは通気抗ダクトをつたって、
艦尾に来ていたのだ。
そこで偶然会ったのは、アキトの親友タケムラだった。
タケムラは食堂で購入した夜食予定のカツ丼と親子丼を
空腹の親友に提供したのだ。
アキトはタケムラに案内された避難所(機関室の一角)にて
涙を流しつつ礼を言うと、
この日最後の食事を貪るように食べていた。


「タケムラ・・・本当にアリガトな」

「・・・ダチがあんな状態になってたら普通助けるだろ?
あーそれになんだ。コーヒー代わりだ」


微妙に照れくさいのかそっぽを向きながら答える友人に
アキトは穏やかな笑みを浮かべ、一言


「ん、わかった」


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。
10年以上前の青春ドラマの様な空気を再び展開しつつ、
二人は黙って天井を見上げていたが、
アキトが立ち上がる。


「んじゃ、そろそろ行くよ。
これ以上いたらルリちゃん辺りがここに気付きそうだし」

「そうか・・・あーこれやる」

「ん?これは・・・・ナデシコ艦内通気抗ダクトの・・」

「そ、やる。・・・がんばれ親友」

「ありがと・・・親友」


アキトが出て行ったパイプとパイプの隙間を見ながら、
タケムラシンイチロウは呟く。


「・・・・マジで何とかしないとアイツ死にかねんな。
しかし彼女らに対抗できそうな勢力・・・・。
・・・・・・・・・敵の敵は味方、か。
・・シャクヤクの通信コード・・・・何とかなるか?」



『良い人』タケムラシンイチロウ。
親友の為、彼は親友の喧嘩友達、
シャクヤクに搭乗しているはずの影護北斗とコンタクトを図る!
全ては親友の命を助けるため!






テンカワアキト自室         AM1:07

「や、やっと諦めたか?」


何があったのだろう?
アキトは正に満身創痍の様相で自室に帰還していた。
部屋の中を見ると、さすがにお子様。
ラピスは既に夢の中のようだ。
もっともアキトがいつも使っている布団に包まっているのが、
ラピスらしいと言えばラピスらしい。


「ルリちゃんもいないし、
久しぶりにゆっくり寝れる・・・かな?」


そう呟くとアキトはそのまま布団に倒れこむ。
軽くラピスの頭をなでてから意識を手放す。


同室                AM2:03

「(ん?部屋の中に気配が2つ?
・・・・・・・って!?)」

がば!

「あ」×2

「ま、またかい?ルリちゃん」

「アキトさん、大人しく私達のモノになってください」

「そうだよ。
今ならルリと私がセットなんだよ」

「そんなことできるかーー!!」

パァン!
昂気・視殺閃!


「きゃー」×2 


こうしてアキトの朝・・・・一日は始まるのだった。























「と言う感じかな?あの頃は・・・。
細かい点では違う事もあるけど、
そんな感じで一日が過ぎていくんだ」

―・・・・何気にハードな日常だな。

―・・・一日の睡眠時間4時間ちょっと?
 私、絶対無理。

「ん?あーさっき話した一日はまだ寝れたほうだよ。
何時もは一時間半少し越えるかどうか・・・」

―・・・・・・・・・・。×2

「えーと、まだ何か話す?」

―いや、もうお腹一杯だ。
 それにこれだけで十分話になる。

―そうだね〜。
 それじゃ、これ謝礼です。

「あ、ありがとう・・・ってこれ何?」

―ん?列車のチケット。
 そこに書いてある所に行けば良い。
 同盟もそこにちょっかいかけるのは躊躇するかもしれん。

「そうか?ま、ありがと」

―それじゃ、さよならです!
 また会いましょうね〜。

「あ、ああ、またね」



ボシュン
(アキト煙に包まれると同時に消える)


―さて、こっちはこっちで・・・

―やる事やりますかー♪

―・・・そ、そんなヤルだなんて、
 アヤカ・・・・優しくしてヤルから

グキ
(アヤカ、広島県人の後ろから裸締め)

―な、なにを優しくするつもりなのよ!?

―ぐ、が・・・パンパン(アヤカの腕をたたく広島県人)

―だ、黙ってないでいいなさい!!

―ギ・・グァ・・・・パンパンパンパンパン(アヤカの腕をたたく広島県人)

ガク

―・・・・・・。

―あ、あれ?
 ・・・お、おちてる?
 あ、あはははははははは・・・
 で、では!



 ・・・・あ、今回後書きと本編が一緒になってる(汗)

 

 




感想

ども、管理人です。

・・・追い詰められてたんだな、アキトよ。
諸悪の根源が誰なのかと追及すると、私に返ってくる可能性があるから言わない。
そうだな、一言でその状態を表すなら・・・「無様」だな(爆)

で、ナオがいない代わりに、年上の親友タケムラさん大活躍(苦笑)
精神年齢でいうと、アキトの方が年上なんですけど、実は。
しかし、一人幸せに新婚生活してるとはねぇ、ナオのくせに・・・

今回の爆笑のツボ

>普段から使っていると思われる人物(笑)
>・TV版ナデシコ中盤から終盤にかけてのアオイジュン

大爆笑でしたー