一冊の本が生んだ哀れな男の愉快な喜劇   
第7話       後編
             ―第一次対同盟直接戦争―
                       作者 広島県人+アヤカ






要撃者サイド

「なんと言うか・・・
ブリッジの辺りからスッゴイ鬼気を感じるなー」

「北斗さんのが効いたみたいですね」

「俺としては本当にどっかに行って欲しかったんだが」


同盟とは対照的にほのぼのとした空気のままだった。


「さて、そろそろ移動しようか」

「そうですね」

「ん〜・・・ふぁ(欠伸)・・
さて、行くぞ千沙」


北斗は軽く欠伸をすると千沙をおんぶする。
北斗の方向音痴のフォロー、
そして千沙と北斗の身体能力差を克服する為の処置だ。
アキトは近くの茂みに隠していた各種武装を背負っている。
そして足元には使い捨ての地対空ミサイルが置かれ、
アキトはナデシコが着地するため
ディストーションフィールドを解除するのを待ち構えている。


「北斗、千沙
また後で」

「ああ、後でな」

「武運を」


三人が言葉少なく一時の別れを済ませると
アキトは歩兵用地対空ミサイルをナデシコにロックさせる。


「まさかナデシコと正面切って戦う日が来るとは思わなかったな」


苦笑するとナデシコへ向けてトリガーを引く。
ミサイルはその軌道を白煙で刻みつつ進み、

ボン!

ディストーションブレード先端に着弾する。


「・・・やっぱりこの程度の火力じゃ装甲を歪ませるだけか、
まぁ誰かを怪我させる訳にもいかないし」


そう呟くと北斗達が向かった方向とは別方向へ向けて駆け出す。
開戦の狼煙はアキトの手によって上げられた。
そしてこの攻撃が同盟の作戦をより一層迷走させる事は、
自明の理だった。









同盟サイド

「!?ロックオンされました!
発信源・・・・アキトさん!?」byルリ

「ウソォォォ!!」全員


ウィンドウに映し出されたアキトが、
簡易ミサイル砲の様なものをこちらに向けている。
そして、発射


「み、ミサイル発射!」byルリ

「あ、アキトの事だから命中寸前に自爆させるよ」byラピス

「な、なるほ」

『着弾します』byオモイカネ

ボン!

『ディストーションブレイドに命中。
被害軽微。作戦に支障なし』byオモイカネ


ブリッジに沈黙の妖精が来訪する。
物理的ダメージこそ無いものの、
同盟メンバーにとって精神的ダメージは計り知れなかった。
なんと言っても、
あの『世紀のお人好し・テンカワアキト』が
自らの家・帰る場所とまで言ったナデシコを攻撃したのだ。
これは客観的に見て、
決定的な絶縁宣言と取られても仕方の無い行動だ。
ブリッジにいた反同盟員・シュンとプロスは内心で呟く。


『アキト(テンカワさん)・・・そこまで彼女らが嫌か(ですか)?
・・・嫌だろうな〜(嫌でしょうな〜)』


自分で問いかけ、
思わず自分で肯定してしまった。
シュンの耳には
シャクヤクから届けられたアキトの魂の叫びがこびり付いていた。
誰だって嫌だろう。
24時間公私の別なく監視され、
常にお仕置の恐怖にさらされ、
常に精神的重圧をかけられ、
一口飲んだ瞬間に気絶するかどうかのギリギリの衝撃が
味覚を破壊せず、脳に直撃し、
15歳以下の子供が飲んだら確実に死に至るようなモノを
日常的に押し付けられるのだ。
自分でも嫌だ。
3日以上続けられようなら、
自殺してしまうかもしれない。
だが同時にシュンとプロスは思考の片隅で冷静に判断する。

『アキトが本気でナデシコを撃沈させようと考えている』

とは、思っていない。
本気でナデシコを撃沈する気なら、
あんな弱小火力一発きりで終わらせて撤退するとは考えられない。
なんと言ってもアキトと北斗。
『漆黒の戦神』と『真紅の羅刹』の最強二枚看板だ。
地対空ミサイルに頼らなくとも、
昂気を使えば遠距離攻撃は可能なのだ。
しかも戦意さえあれば、
ほぼ無制限で連続攻撃可能。
ディストーションフィールドさえなければ、
ナデシコ撃沈だって可能だろう。
にもかかわらず、
アキトは大して意味の無いミサイル一発を撃つと
さっさと森の中に退避する。
恐らく迷彩用の装備も整えているだろう。
この時点でわかる事、
それは・・・
アキトにナデシコクルー(同盟及びNSSは含まれていない)を
害するつもりは無い。

そしてこれが一番重要かもしれないが、
同盟に対する明確な意思表示だ。
その意思が決別を意味するのか、
ただの攻撃的な『自分達に構わないでくれ』と言う意味なのか?
・・・・・恐らくは後者なのだろう。


「・・・・そういう事」byイネス


シュン達がアキトの考えを大体において推測した所で、
ネルガルの誇る才媛・イネス=フレサンジュが呟く。
同盟員だけでなくシュン達も白衣の才媛に視線を向ける。
イネスは俯き加減だった顔を上げ、
ブリッジ全体を見回すと再び口を開く。


「今のアキト君の攻撃、
あれって普通に考えたら私たちに対する明確な決別宣言よね?」byイネス


『流石に気付いたか(ましたか)』×2


イネスの発言で同盟員の顔色が面白いほど変わって行く。
血の気が引き死体の様な顔色になる者。
逆に怒気をもって顔を赤くする者。
そしてシュンやプロスは
イネスが故意に語尾を疑問形にした事に気付き、
その先にどんな推論が成り立つのか不安そうだ。
ちなみにミナトは操舵士席ではなく、
シュン達と一緒に備え付けの座席に座り、
事の成り行きを見守っている。
イネスは軽く息を吸うと続ける。


「そう、普通に考えれば決別宣言。
でも本当にナデシコを落そうと考えるなら、
何で初めの攻撃で落さないの?
今の・・・、
ディストーションフィールドを張っていないナデシコなら、
アキト君と影護北斗なら撃沈する事は可能よ。
何故撃沈しないか?
アキト君の性格から考えて、
彼が本気でナデシコを撃沈する事はありえないから」byイネス

「だったらどうして攻撃したんですか!?」byアリサ


アリサが泣きそうな顔のままイネスに食って掛かる。
イネスは予想通りとでも言うように、
軽く右手を上げてさらに食って掛かろうとするアリサを抑えると、
彼女の大好きな『説明』を続ける。


「何故攻撃したか?
それは意思表示よ。
普通に考えれば少なくとも
『今、ナデシコに帰るつもりは無い』
位の意味はあるでしょうね。
でも、これがアキト君自身の意思だと証明する物は無いわ。
つまり、
『何らかの手段』で『無理矢理』アキト君に『やらせた』
可能性があるのよ。
いえ、さっきも言ったけど、
アキト君の性格を考えると
彼が本気でナデシコを攻撃するとは思えない。
・・・と言う事は?」byイネス

「『雌狐達』が『何らかの手段』で
『無理矢理』アキトさんに『やらせた』?」byルリ

「推論だけど、恐らくこれが真実じゃないかしら」


シュンとプロス、
そして二人から小声で推論を聞いていたミナトは本気で感心していた。

『そういう考え方も出来ない事も無いな(ですな・わね)』

もっとも三人はイネスの推論が外れている事を確信している。
現在の三人は同盟がアキトに課した日常的な精神的苦痛を
客観的に判断する事が出来る。
あれだけの事をしたのだ憎まれたっておかしくない。
『あの』アキトだからこそ、
負の感情を向けられていないだけだ。
三人の内心とは関係なく、
同盟はより一層の決意をもって、
R・AT作戦を遂行する事に同意した。


「NSS降下開始。
各中隊はブリーフィングどおり行動を開始して下さい!」




















シュバルツリッター指揮所


「少佐、白い木馬(ナデシコ)から
兵員輸送用車両の出撃を確認したそうです。
規模は・・・3いえ4個中隊。
エステバリスは出ていません」

「解った。
これより作戦を開始する」


このときのオウカに普段の女性的な空気は全くなく。
厳格な軍人そのもの表情と口調をしていた。
いや、オウカだけではない。
指揮所に詰めているシュバルツリッター隊員に、
普段の陽気さは無く、
適度の緊張感が漂っていた。
そこへ二人の女性が辿り着く。


「オウカ、どんな様子だ?」

「め、目が回るぅぅ」


一人はどこか楽しそうな表情でオウカのすぐ隣まで歩み寄り、
もう一人はその場にへたり込み、
頭をフラフラさせていたが・・・。


「当初の予想通りです。
敵各中隊が所定ラインを超えた所で・・」

「一気に?」

「はい」


状況確認の会話しているオウカと北斗。
そこに漸く平衡感覚が安定した千沙が近づくと、
周辺地図と敵味方の配置が表示されているウィンドウを確認する。



アキトの現在位置を表す『A』のマークが
敵第二中隊(シュバルツリッターが勝手にそう呼称している)へ
適度な距離をおいて動いているのがわかる。
両者ともに威嚇程度だろうが銃撃戦になっているだろう。
アキトは包囲されないよう徐々に後退している。
NSSは包囲して時間を稼ぎ、
味方戦力が全て揃ったところで総攻撃したいのだろう。
敵第二中隊は二個小隊を分派してアキトの後方を絶とうとしている。
一番近くにいる敵第一中隊がアキトの右側面から迫っているが、
木々に邪魔をされて今だ視認していないだろう。
ちなみにアキトの左側面は高低差80mはあろうかという崖になっている。
しかし漆黒の戦神の身体能力を知っているからだろう。
敵はアキトが包囲された後、
崖下へ逃亡すると見越して第四中隊が戦場の推移に従って移動している。
第三中隊は第二中隊とほぼ同じ作戦を実施している。
中隊を二つに分派させアキトの後方と前方を遮断するつもりの様だ。

(表記していなかったが、前方とはナデシコのいる方向。
つまりアキトを中心に見れば、
前方にナデシコ。左手に崖。右手に第一中隊と言う事になる)



「・・・もう少し、ですね?」

「はい。
そろそろ動きます。
バイエルライン中尉。
ワルキューレが到着次第、
敵第四中隊へ貴官の槍を突き刺せ」
ヤー
『了解』


既に開いていた通信ウィンドウに写る青年仕官へ
オウカは氷の様な微笑を浮べつつ告げる。
バイエルラインは口元に邪笑を浮べつつ敬礼する。


「さて行くか。
千沙、早くおぶされ」

「うぅぅぅ(半泣き)
仕方ないとは言えあまり気が進みません」

「今度は大丈夫だ。
・・・多分な」

「多分なんですか!?」


美女と美少女のどこか笑いを誘われるやり取りに、
指揮所内の全員が苦笑を浮べる。
オウカが普段の笑顔に近い笑みを浮べながら、
少しせかす。


「急がないとマイン・カイザー(アキト)への負担が大きくなりますよ?」

「さて、行きましょうか」

「渋っていたのは千沙だろう?」


再び周囲に微苦笑の波を起こさせつつ、
ワルキューレ・北斗と千沙の二人は
指揮所から飛び出していく。
その後ろ姿があっと言う間に見えなくなるのを確認すると、
オウカは再び軍人の顔に戻る。
そして視線を表示されているウィンドウの一つへと向ける。
そこには森林迷彩を施した白人男性がいた。
背後には同様に迷彩を施した男女がいる。


「リュッケ中尉。
準備はできているな?」

『は、いつでも行けます。少佐』

「よろしい。
では、今しばらく待て」
ヤー
『了解』


あと1、2分だろう。
オウカはそう考えた。
北斗達がバイエルラインの部隊に合流し、
敵第四中隊に攻撃を仕掛けるまで、
恐らくはその程度の時間しかからない。
本来なら増強してあるとは言え、
中隊に中隊をぶつけるなんて愚の骨頂だ。
互いの損害が大きすぎるからだ。
しかしこちらには真紅の羅刹という切り札がある。
彼女と増強した中隊。
奇襲をかける事が出来れば、
例え一個連隊でも壊滅させることが出来るだろう。
こちらはこれで良い。
次は・・・・。


ドカーン!


そこまで思考が進んだ所で爆音が聞こえた。
どうやら始まったらしい。
もって30分。
それ位で相手は降伏するだろう。
彼等が相手にしているのは、
『真紅の羅刹』なのだ。
相手の士気も低いだろうからそんなものだ。
さて、リュッケ中尉の方はどうだろうか?












同盟サイド
ナデシコブリッジ


ブリッジ正面特大ウィンドウには、
シュバルツリッター指揮所と同じように、
周辺地図と敵味方の配置が表示されていた。
投入した四個中隊の内、
三個中隊でアキトを囲んでいる。
もう一個の中隊は
アキトの退路となりうる崖下で網を張っている。
包囲網は完成している。
真紅の羅刹と優華部隊隊長が居ないが、
おそらく戦力としてあまり役に立たない
優華部隊隊長を真紅の羅刹が退避させたのだろうと推測出来た。
作戦の焦点は真紅の羅刹が帰ってくるまでに、
アキトを確保出来るか?
その一点に絞られた。
しかし流石と言うべきか、
アキトは頑強な抵抗戦を展開しているため、
現状では早期確保は望めそうにない。
そこで白銀の戦乙女と紅の獅子の出番となった。
彼女らは愛機でアキトを確保するために出撃準備を整えていた。
そこで紅の閃光の後に爆発音が轟く。
爆発点は崖下で網を張る中隊の居た辺りだ。


「ルリちゃん!」byユリカ

「崖下で待機していた部隊が伏撃を受けました!
敵戦力は・・・・中隊以上!」byルリ

「そんな・・・
アキトさんにそんな戦力があるなんて」byメグミ

「部隊長から連絡。
『敵中隊に真紅の羅刹を確認。
既に二個小隊が行動不能。
これ以上の交戦は不可能』」byサラ

「サラちゃん、返信!
後退戦で時間を稼ぐように言って!」byユリカ

「・・・駄目です!
通信途絶しました!」byサラ

「・・・真紅の羅刹と所属不明の中隊。
その打撃力は凄まじいようね」byイネス

「そんな事を言ってる場合じゃないです!
サラちゃん、リョーコちゃん達に急ぐように言・・」byユリカ


予想外の戦力登場にユリカがアキトの確保を急ごうとする。
しかし事態は急速に同盟不利へと傾き始めていたのだ。


「複数のロックオンを受けました!
その数・・・・30以上!」byルリ

「発射を確認したよ!」byラピス

「フィールド展開!!」byユリカ

「無理よ!一度着陸したから・・」byエリナ





ドドドドドドドドドドンーーーー!!!






ミサイルの着弾でナデシコがゆれる。
揺れ自体は大したものではないが、
ブリッジの装甲に直撃した物があり、
爆音だけは嫌でも耳に入る。
そんな中で『一応』正規の士官教育を受けているユリカが
一番初めに立ち直る。


「ひ、被害状況は!?」byユリカ

「火力が大してありませんでした。
いくらか装甲が歪んだ程度です。
ただ・・・格納庫のハッチが集中的に狙われて、
使用不能です」byルリ

「エステ出せないの!?」byユリカ

「・・・出せないわ!
もし出すならエステで無理矢理こじ開けるしか無いの!
でもそれをすると周辺の無傷な電装系統に被害が出て、
別の不都合が出てくるの!」byレイナ

「そんな・・・。
!・・ラピスちゃん!
さっきのミサイル発射位置わかった!?」byメグミ

「解ってるよ!」byラピス

「艦長!
第二派が来る前に!」byメグミ

「うん!
ルリちゃん?」byユリカ

「何時でもいけます!」byルリ

「撃っぇぇぇ!!」byユリカ


ナデシコ両舷から
ミサイルが白線を空気中に描きつつ周囲の森に向かう。
そして着弾。


ドドドドドドドドドン!


森林が爆炎によって薙ぎ倒される。
着弾点が爆炎によって視認不可能になるが、
爆発の規模からナデシコを攻撃した部隊は
壊滅的被害を被ったと思わせた。
しかし・・・


「後方から高速飛来するものがいます!
数・・・15!」byルリ

「前、さっきの着弾点より離れた所からロックされたよ!」byラピス

「フィールドまだですか!?」byユリカ

「後5秒!」byエリナ

「前からのミサイル発射された!」byルリ

「同時着弾します!」byルリ


ドドドドドドドドドンーーーー!


今度は覚悟が出来ていた為か悲鳴は上がらない。
しかしブリッジにいる同盟全員の表情は引きつっている。
ここまで一方的にナデシコを攻撃されたのは、
彼女らにとって初めての体験だったのだ。
それに引き換えシュンやプロスは落ち着いている。
飛来するミサイル等の火力が弱い事に気付いているのだ。
ミナトはシュンからその事を聞いているので動揺は無い。
ただ若干顔色が悪い。


「ラピスちゃん!
周囲の索敵をやり直して!」byユリカ

「解ったよ!」byラピス

「・・・そんな!?
艦長!
右舷噴射口、左舷ディストーションブレードに被弾!
フィールド展開及び航行に支障が出ます!」byルリ

「そんな!?
噴射口はともかく、
ディストーションブレードはこれまでの戦訓から
装甲を格段に厚くしてたのよ!?
あの程度の火力でどうやって!?」byエリナ


そう、ナデシコはこれまでの戦訓を取り入れ、
船体の装甲を増やしていたし、
ウリバタケが発明したディストーションブロックで
被害を最小限にする事が出来る筈だったのだ。
それなのにフィールドの展開に支障が出るほどの被害を受けた。
つまり同等の攻撃をすればブリッジを破壊する事も可能なのだ。
エリナのヒステリックな声で紡がれた疑問(全員の疑問でもある)に
シュンが答えを伝える。


「火力の一点集中。
一つ一つの火力が小さくても一箇所に集中させれば、
その威力は格段に上がる」


呟くような小さな声だったが、
それは全員の耳に届く。
シュンはユリカ達の顔が青くなっていくのを一瞥すると
手元の紙に話の続きを書いてプロスとミナトに見せる。
それを見て二人は苦笑を浮べる。
その紙にはこう書かれていたのだ。

『火力の集中・伏撃の活用は
元西欧方面軍・防衛戦の名手アカギオウカ少佐の得意とする戦術だ。
今までの経緯から考えて、
アキトに協力しているのはアカギ少佐だろう。
そして正体不明の中隊は彼女が取締役をしている会社、
シュバルツリッターの社員達(元軍人)だろう』

人的被害こそ0だが、
ナデシコはその機動力と防御力を奪われ、
ただのミサイル砲台と成り果てた。
この奇跡のような攻撃を成功させる事が出来たのは、
アキトによる情報提供と
オウカによる巧妙な火力活用によるものだ。
さてナデシコで同盟員が顔色を悪くしている頃、
森林戦を展開しているアキトとNSSはどうなったのだろうか?









アキトサイド


ピピ!

アキトが左手につけていた小型携帯端末
(コミュケは妖精姉妹によって位置を特定されるのでつけていない)が
短いアラ−ムを鳴らす。


「ん?
・・・オウカ?」

「ご苦労様です。マインカイザー。
作戦は順調に進展中です。
カイザーは作戦を第4段階に進めてください」

「了解。
・・・オウカ、解ってると思うけど」

「大丈夫です。
ナデシコ・NSSともに重傷者・戦死者はいません。
勿論こちらもです」

「良かった。
じゃあ俺も次の段階に移るよ」

「はい、
御武運をマインカイザー」


アキトはオウカの丁寧すぎる態度に苦笑しつつ、
持っているライフルのマガジン(弾倉)を交換する。
装填されている弾丸は全て麻酔弾で、
射程は通常弾よりも落ちるが、
アキトにとっては大したハンデにもならない。
アキトはライフルを左手に持つと
右手で腰につっていたスタンロッドを引き抜く。
瞼を閉じ、
周囲に着弾する弾丸を無視して深呼吸をする。
瞼を開くと口元に小さな笑いを浮べると呟く。


「さて、NSSの皆さん。
もうちょっと俺に付き合ってもらうよ」


声が途切れると同時にアキトは、
常人には視認不可能な速度でナデシコの方へ向かう。
彼の前方にいるのは第二・三中隊から分派され、
数的には一個中隊となっている部隊がいる。
彼らは流石と言うべきか、
合流すると即座に臨時の中隊として
指揮官の決定と行動を開始していた。
(アキト後方の部隊も同じ)
既にアキトと銃火も交えていたのだが、
突如アキトが攻勢に移ったのだ。
それまでアキトが守勢にまわっていた為、

『もしかしたらこのまま確保できるか?』

等と楽観的な思考が浮かび始めた矢先の事だった。
そしてその攻撃は悪夢のようだった。






「畜生!!当れ当れ当れーーー!!」

「な!?
スタンロッドで銃弾はじくのかよ!?」

「ぐは!」

「紺野!?
くっそぉぉぉぉ!!」

「小隊!全員で円陣を組め!
全周囲攻撃をするんだ!!」

「了がぁ!」

「円陣の内側に!?」

「おらぁぁぁぁぁぁぁ!!」


正に悪夢だ。
撃った弾丸はアキトに掠りもしない。
だが、アキトの撃った弾丸は驚異的な命中率で隊員を打ち倒している。
近接戦闘になれば手も足も出ない内にスタンロッドで昏倒される。
しかし、流石に一箇所で戦い続ければ、
その他の中隊が集まってくる。
アキトが相手にしていた混成一個中隊最後の一人を地面に叩き伏せた時、
残りの二個中隊がアキトを完全に包囲していた。


「テンカワアキトさん。
あなたの力はよく理解できました。
しかし、この状況では如何ともしがたいでしょう?
投降して頂けませんか?」


最上位者なのだろう一人の男がアキトに投降を促す。
周囲にいる隊員は全員がライフルを構えるか、
スタンロッドやナイフを構えている。
ざっと見回すが、逃げ道はないように見える。
だが、アキトはすまなさそうな表情で一言。


「あー。
みなさん。がんばって下さい」


その場にいたNSS隊員達は
アキトが最後まで抵抗するのか?
と緊張するが、
アキトは中空に円柱状のものを放り投げる。
全員が思わずそれを見た瞬間、
炸裂。




ドォォォン!




「ぐぅぅ!
フラッシュボムか!?」


アキトに投降を促した男が目を抑えながら吐き捨てるように言う。
そんな男を尻目にアキトは
包囲しているNSS隊員達の頭や肩を踏み台にして包囲網を突破し、
崖の方へ視認不可能な速さで走り去る。
そしてある程度距離をとったところで、
アキトは左腕の携帯端末を口元に寄せると呟く。

ファイエル
「撃て」


アキトの言葉と同時に森の奥から多数のミサイル発射音が聞こえる。
そしてほぼ同数の飛来音。
そこでアキトに投降を促した男が気付く。


「総員退避ぃぃ!!」


しかし時既に遅く、
視覚と聴覚が麻痺した隊員達は満足に動けない。
そしてミサイルが着弾する事無く、
周辺で空中にある内に爆発して内包するものを周囲に撒き散らす。


ドドドドドドドン!


数秒後、
周囲にはうめき声が混ざり合って一つの音となっていた。











2時間後

「こ、こんな事・・・・」byユリカ

「NSSの精鋭が・・・・」byエリナ




アキト達が撤退し、
もう攻撃を受けないだろうと思われた為、
ユリカ達は今だ帰還しないNSS隊員達を捜索していた。
そして彼らは比較的簡単に発見できた。
崖下で真紅の羅刹らに襲撃を受けた中隊は、
自分達が乗ってきた装甲輸送車の中に簀巻きにされて放り込まれていた。
ご丁寧に負傷者は治療された上で動けないように拘束されていた。
全員が麻酔の様なもので昏睡しているのだが、
重傷者・戦死者無し。

続いてアキトと直接戦闘した部隊は・・・
本来なら周囲は緑溢れた木々が視界にあるはずだった。
少なくとも、シュバルツリッターのはなったミサイルによって、
焼け焦げたり、打ち倒された木々があるはずだった。
しかし・・・。

真っ白だった

正確に言えば白いものが周囲に付着していた。
そして所々からNSS隊員達の顔や手が突き出ていた。
白い世界から少し離れた所では、
崖下の部隊員と同じ様にある程度治療された隊員達が
簀巻きにされた上で転がされている。
恐らく頭まで白い海に埋まっていたのだろう。
酸素吸入機を付けられた者もいる。
はっきりいって惨敗だ。
投入された戦力は死者こそ出ていないものの全滅し、
ナデシコは中破(自力航行できないので大破ともいえるが)
しかもNSS隊員達に至っては死なないように手心まで加えられ、
あまつさえ治療されているのだ。
惨敗で無いなら完敗だ。
打ちひしがれてナデシコに帰還した
ナデシコ艦長とネルガル会長秘書はブリッジで状況報告をした。
同盟員達はナデシコとNSSの被った被害に呆然とし、
続いてこれを行っただろう雌狐達へ殺意をつのらせた。
そこへ頭部に包帯を巻いたNSSの隊員から、
一つの箱がブリッジに届けられた。


「・・・アキトさん本人から?」byルリ

「はい。
『艦長たちへ渡してくれ』と」

「他に何か言ってなかった!?」byサラ

「いえ、ただ笑ってました」

「・・・ご苦労様。
下がっていいわよ」byエリナ

「は、失礼します」


NSS隊員が居なくなるとブリッジには同盟員しかいない。
シュン達はNSS隊員達の救出作業等に出向いているからだが、
それは彼らにとって幸運へと繋がった。


「アキトから・・・」byユリカ

「NSSへ直接手渡したと言う事は、
あの雌狐達の干渉は無かったと言う事ですよね?」byメグミ

「そうね。
アキト君が自力で『逃げ出さない』と言う事は、
何らかの方法でそれが出来ないからだとして。
この箱には・・・」byイネス

「何かメッセージが?」byエリナ

「恐らく」byイネス


同盟全員の意思確認の後
箱を開けるとそこには手紙が入っていた。
しかも直筆のようだ。
箱の底がいやに浅い気がしたが、
とにかく手紙が先だ、と言う事で読んでみる。


『前略 艦長達へ

皆、元気か?
俺は元気にやっている。
ナデシコを出てから安眠と食生活の安定、
そして一部の女性陣からの精神的重圧が消えた事により、
心身ともにとても調子がいいよ。
一緒に居る北斗や枝織ちゃん、千沙も良くしてくれるし、
皆で仲良く旅行している。
俺はもう少しこの楽しい旅を続けるつもりだ。
心配しなくても大丈夫だから。
この前みんなで写真を撮ったんだ。
同封する。
ああ、そうだ。
手紙が入っていた箱は上底(あげぞこ)になってる。
中にメモと俺からの贈り物がはいってる。
見てくれ。
            テンカワアキト』


一部に遠回しな皮肉が込められていたが、
同盟員が感知するわけがない。
それよりも『アキトからの贈り物』の方が気になる。
同封された写真も気になるが、
あの女たちが一緒に写っている物等見たくも無いので
適当に置いておく。
そして贈り物を取り出そうと上底を取り外した瞬間、

ボム!

視界が真っ白になる。
体の自由が利かない。

そう、上底の中身とは
NSS隊員の半数を行動不能に追い込んだ
非致死性兵器と同様のものが仕掛けられていたのだ。
物自体は高密度圧縮されたトリモチの様な物なのだが、
そんな事同盟員達が知るわけない。


「あ、アキト(さん・君)なんでぇぇぇぇ!!」


同盟の絶叫がブリッジに響き渡る。
ちなみに30分後ブリッジにきたシュンが、
同盟員の救出後発見した紙には、

『俺は君らが自分達の行動を見直さない限り、
ナデシコに帰るつもりはない』

と書かれていた。
・・・もっとも、
それを見ても同盟は再び欺瞞工作とみなして
行動を省みる事は無かったのだが・・・。






とうとう表立った戦闘にまで発展した同盟と逃亡者達。
彼らの戦いはまだ始まったばかりだった。
さぁ彼らはどんなダンスを披露する事になるのだろうか?
それは・・・Ben波だけが知っている(爆)











後書き


広島県人(以後広):
さて、ついに勃発した第一次対同盟戦闘。
いかがでしょうか?
作者その1広島県人です。

アヤカ(以後ア):
皆さん遅れて申し訳ありません。
作者その2アヤカです。

広:
・・・今回遅れた理由はアヤカですので、
俺の責任ではありません。

ア:
むぅ、事実だけど、
庇おうという気がまったくないね。

広:
前編の北斗の心情で君が
『あーでもない、こーでもないぃぃ』
とか言いつつ、
頭抱えていたからな。
・・・・一ヶ月ほど。

ア:
うぅぅうぅうぅぅぅ・・・(泣)
で、でも今回の話お兄ちゃんだって
『がぁぁ!この台詞入れてーー!』
って唸ってたじゃない!

広:
ああ、あれはオウカに言わせたかったんだ。
佐藤大輔先生の『皇国○守護者 6』で
新城少佐がいったもののアレンジだけど。

『カイザー、貴方や北斗さんの様な
一人で戦況をひっくり返せるような存在が居ない時、
勝利をもたらすものは
意思でも、血でもありません。
ただ、鉄量のみなのです』

これ、これを言わせたかった!!
だがこれを言わせるような状況を作ると、
前後編だけで収まらなくて、
中編を間に入れなければならなくなるのだよ!!

ア:
やっぱり・・・。
書きたければ書けばよかったのに。
何で書かなかったの?

広:
これ以上期間をあけると、
唯でさえ少ない読者がさらに少なくなるから。

広・ア:
・・・・切実だな(ね)

広:
所で、アヤカ。
ちと早いが後書きを終わらないか?
・・・・後ろからの視線が痛い。

ア:
ん?
お父さん(私の実父)が居るだけじゃない。
10年以上の付き合いがあるんだよ?
お兄ちゃんもこの前一緒にお酒飲んでたじゃない。
何をいまさら・・・。

広:
今の時間を考えろ!(この時点で22:47)
うぅぅ・・・小父さん。
そんな『家の娘に手を出したら・・・解ってるよね?』的視線で見ないで下さい。
俺は無実です。
後5分もしたら帰りますよぉ(泣)

ア:
・・?(振り返り父を確認)
いつものお父さんだよ?
それに帰らなくても泊まってけばいいのに。
あ♪
そうだぁ(邪笑)
一緒に寝る?

広:
声に出して言うなァァァァ!!
ヒィィ!(顔から血の気が引いていくのを実感している)
小父さん俺もう帰りますので!!(声に出して宣言)

ア:
駄目だよー。

ガシィ!!
(後ろから裸締め)

さて、物語はこれからどう転がっているのか?
逃亡旅行に新たな同行者は現れるのか?
色々な騒動を巻き起こしつつ、
アキトさん達は今日も西へ〜東へ〜♪

広:
ぐはぁ!柔らかいモノが背中に当る!
・・っは!(アヤカ父の視線が後頭部に刺さるのを感じる)
ちょ!
マジ放してくれ!
俺は帰るんだァァァァ!!
ぐぅ!?
(裸締めが本格的にしまり始めた)
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(沈黙)

ア:
では!次作でお会いしましょう♪

 

代理人の感想

別にここまでやらんでも(苦笑)。

長編向きのネタじゃないと思うんですけどねぇ。