時ナデin皇国の守護者
                      作者 広島県人







広大な皇海の向こう側に存在する大協約世界最大の国家<帝国>
その成立より貪欲に領土の拡大を推し進めていた大国が、
とうとう<皇国>に牙を剥いたのは皇紀五六八年一月のことだった。
<皇国>北端の島、北領(ほくれい)へ上陸した
北領鎮台司令長官・公爵陸軍大将ロバート=クリムゾン率いる
北領鎮台がこれを迎え撃った。
ロバート=クリムゾンは決して無能ではなかった。
軍事的に妥当な判断の積み重ね兵を動かした。
しかし、
帝国辺境領姫東舞歌の神速の如き用兵により、
戦線を食い破られ、
後に天狼会戦と呼ばれる戦いに<皇国>は敗北した。
<皇国>北領鎮台がようやく体勢を立て直したのは、
天狼会戦より六日後の事だった。
再編成しなおしたとはいえ
兵力の四割を失い、
敵には増援が到着して自軍の六倍近い戦力まで膨れ上がった。
これでは抗戦は不可能とだった。
<皇国>軍にできるのは更なる敗戦、敗走戦だけだった。













鉛色の空、
その下に広がっているのはすべてが雪で覆い隠された大地だった。
雪原の中央には視認が難しくなってきた道が南北に走っていた。
道の左右、
つまり東西には針葉樹林があり、
その東側にある林の外縁、
そのわずかに内側には二種類の動物からなる集団が息を潜めていた。




雪の中に蹲っていた剣牙虎(けんきこ)が僅かに姿勢を変えた。
耳を立て、人の倍ほどもある頭を左右に巡らせる。
動きをある一点で止めると小さくうなる。
灰色がかった白毛に黒毛が縞になったその姿は、
冬毛の生えた剣牙虎特有の一種名状しがたい神聖さがあった。
剣牙虎の隣には一人の兵士が伏せていた。
黒色の軍服が目立たぬように、
白い貫頭衣のようなものを纏っている。
耳覆いの付いた毛皮帽をかぶり、
呼気にすら気を配っているのか
花や口元から漏れる白いものはほんの僅かだ。
貫頭衣の内側で両手を動かし革帯に挟んであった伸縮式望遠鏡を取り出す。
それを伸ばすと剣牙虎が示した方向に向ける。
しばらくして望遠鏡を離した顔には不満が表れていた。
ありていに言って、
彼の顔は兵士らしくなかった。
それなりに目鼻立ちのはっきりした整った顔立ちではある。
しかし童顔の為か、
パッとみた印象ではまず年齢通りにはみられないだろう。
しかし大部分の人間は即座に第一印象に修正を加えるだろう。
その最大の理由は目だ。
感情を感じさせない。
相手を凍りつかせるかのような眼差し。
そのせいで人好きのする顔をしていながら、
女子供が好んで近づきたがる類の顔ではなくなっている。
剣牙虎がその凍眼の男を見つめ、低く啼いた。


「ああ、すまない。ディア」


凍眼の男は謝りつつ剣牙虎の名を呼んだ。
苦笑いを浮かべたその顔は、
元々の顔立ちもあって暖かさと朗らかさを感じさせるものだった。
背後から雪を踏みしめる曖昧な重さを持った音が聞こえた。
声がかけられる。
伝言だった。


「中尉殿、天川中尉殿」


天川明人は振り返った。
剣牙虎−ディアも振り返る。


「なにか」


天川は訊ねた。
外見を裏切るとともに、
ある意味で外見通りの柔らかな響きのある声だった。


「中隊長殿がお呼びです」

「すぐ行く」


天川はすぐに答えた。
中隊長が聞きたい事は解っている。
状況を報告しなければならない。
自分の五感では何も感じ取れなかったが、
敵が接近しつつある事を報告するつもりだった。
明人は自分の剣牙虎を疑う習慣を持たない。
剣牙虎は鋭敏な耳と鼻を持っている。
酒でも舐めていない限り、
10里かそこらの距離にいる獲物を苦もなく探し出す。
そう言われているし、
明人自身の知る限りでもその通りだ。
明人は自信を持って中隊長に報告するつもりだ。
もっとも、報告の前にディアの嗅覚・聴覚がもたらした情報を
人間が理解できるものへと整えなければならないが。
方位針と地図を取り出し、
ディアが注意を向けていた方向を地図の上で確認する。
ディアが示した方位は街道の側道と概ね一致していた。
空を見上げ恒陽の高さから時刻を割り出す。
午前第11刻過ぎと言ったところだろう。
刻時計を取り出し確認すると大体同じような時間を指していた。
恒陽を確かめたのは刻時計が狂っていた場合に備えての事だ。
今朝、大体本部で教えられた敵情から考えて、
まず間違いない。
<帝国>軍の先方がこちら迫りつつあるのだ。



明人はディアの頭を軽くなでた。
ディアは小さく喉を鳴らせてそれに答える。
ここで待てと言う意味だと解ったのだ。
続いて明人は自分達の両側にに伏せている兵に
現位置で任務を継続するよう命じた。
明人は腹這いのまま二間ほど後退する。
立ち上がり、中腰になると二十間ほど小走りに進む。
明人は雪が嫌いではないが、
何事も程度の問題だと思いつつ深雪故の歩き辛さに毒づきつつ進んだ。
中隊は主力は林の中心部獣道よりかはマシ
と言った程度の小道の両側に待機していた。
<皇国>陸軍独立捜索剣虎兵第十一大隊、第二中隊。
明人はその中隊本部付将校だった。
押しつけられている仕事は兵站。
輜重補給を担当する中隊兵站幕僚。
一般に兵站将校と呼ばれる役割であった。





全員が林の中から現れた明人に注目した。


「猫が見つけました。
北北西、側道上です」


明人は中隊長に報告した。
猫とはディアの、剣牙虎の事だった。
明人は距離を報告しなかった。
剣牙虎が敵を察知できる距離は、
剣虎兵にとって常識以前のものだからだ。
最長で十五里
最短で十里
相手が騎兵ならば臭いや音が強まるため十五里と考えていい。


「どの位で確認できる?」


中隊長の若菜大尉が曹長に尋ねる。


「半刻ちょっと、でしょうか」


中隊最先任下士官の高場曹長は答えた。
信頼できる男だと明人は知っている。
彼とは以前から知り合いだ。


「兵站将校殿、どう思いますか?」

「僕も同意見だ。
最短で半刻と言ったところだろう」


明人は答えながら若葉に視線を向ける。


「ただ、火砲は持たないでしょう。
街道も側道も三尺ほどの積雪があります。
いかな<帝国>騎馬砲兵でも雪に足を取られているはずです」

「わかっている」


答えた若菜は不機嫌そうだった。
彼は明人よりも二つ年下だった。
にもかかわらず階級が逆転している理由は彼の出身によるものだ。
若菜は旧諸将家・・・男爵家の次男だ。
明人との関係も良好とは言い難い。
それは人間性としての違いからくるものだ。
若菜には青年らしい直裁な自負心と青年将校としての誇りがある。
一方明人はと言うと、
お世辞にも円満とは言い難い。
そのおかげで大隊長からも嫌われている。
若菜には天川明人が理解できなかった。
五将家の雄、駒城家の育預(はぐくみ)として育てられながら、
その影響がどこにも見られないからだ。
有り体に言ってひねくれていると言っていいだろう。
そんなひねくれた男でありながら、
下士官や兵たちには受けがいい。
それも気に障った。
明人は多くの将校が望みこそすれ手に入れられぬもの、
畏敬を自然と勝ち取る事ができた。
上官に嫌われている事を知りながら、
平然としていられる神経についてはなおさらだ。
そして何より気に入らないのは、
若菜自身にも、
天川明人の方が中隊長として適任であると思っている事だ。
さらにそこへ経験の差が加わってくればなお更だった。
これほど大規模な戦争は天川、若菜ともに初めてだが、
天川は皇国にとって
年中行事のように発生する叛乱平定に何度も出ているので、
中隊長たるには十分な経験をつんでいた。
それに対して若菜はこの戦役が初めての実戦だった。



若菜は地図を広げ、
大隊から与ええられた任務を考えた。
それは一言で言ってしまえば、

『敵情の収集』

だった。


天狼会戦において北領鎮台は壊滅的な損耗を強いられたが、
損耗のごく軽微な部隊も少数ながら存在していた。
それは独立砲兵旅団と近衛衆兵第五旅団、
そして天川の所属する独立捜索剣虎兵大隊だった。
砲兵旅団は単純に展開が遅れたため会戦に間に合わなかった。
近衛旅団はその名の通り皇主陛下の禁兵だが、
ほとんどの兵員が衆民の次男坊や三男坊であり、
戦力としてまったく当てにならないと判断されていた。
さらに旅団長が今上皇主正仁の次男、
実仁親王であるなら尚更前線には出せなかった。
そして剣虎兵大隊だが、
これは剣虎兵という兵科自体が新しい事が原因だ。
大隊規模の編成が完結したのが二年前、
この為、剣牙虎の能力を信用しない風潮が強い。
天狼会戦におけるロバート=クリムゾン、
そして中隊長である若菜をしてである。
それ故に若菜は言った。


「将校斥候を出す」

「危険です、中隊長殿。
それに意味がありません。
敵の位置は先ほど報告したとおりですし、
この雪では一度的と接触してしまうと逃げるのが骨です」


天川の言うとおりだった。
敵情を既に剣牙虎でつかんでいる。
つまり中隊の任務は果たしていた。
今は大隊本部に報告を行い、
次の指示を仰ぐべきだった。
だいいち大抵の馬が剣牙虎を嫌う為、
剣虎兵部隊には馬が配属されていない。
となればいくら雪中とはいえ、
騎兵から逃れるのは無理とはいわないが、
かなり困難なことだった。
しかし若菜はその現実を無視していた。
彼は正規教育を受けた将校が陥りがちな病気にかかっていた。
どれほど情報があっても信用せずに、
不必要な斥候を出したがるという病だ。
本当に戦慣れした軍隊は斥候を必要最小限にする。
それはいくら斥候を出してもまともな報告が入ってくるとは限らないし、
兵力は常に限られている。
そして戦いに必要な戦力は常に不足気味なのだから。


若菜はあらかさまな渋面を作った。
彼が必要以上に将校らしい行動をしようとするのは、
天川に対して感情の全てが命ずるからだった。


「よくそこまで自信がもてるな」

「見つけたのは僕の猫ですから」


険のある若菜の問いに天川は平然と答える。
ディアは軍で教育された猫ではなかった。
天川が私物として持ち込んだ猫だ。
天川は毛玉のようだった子猫の頃からディアと付き合っていた。
その能力には全幅の信頼を置いている。


「ならば俺が行く」


若菜は吐き捨てるように言った。
天川という年上の部下が持つ、
鋼の様に固い何かに裏づけされた冷酷さに耐えられなくなったのだ。
同行する兵を三名選べと若菜は高場に命じた。
高場は手近にいた兵から三人選んだ、


「(・・・高場も露骨な選び方をする)」


天川は内心でそうつぶやいた。
高場が選んだ兵は全く役立たずでありながら、
態度が悪い兵ばかりだった。
しかも若菜を含め誰も剣牙虎を伴っていない。
天川はその感想を口にしなかった。
高場がこちらを少しうかがうような視線を送ったが、
それを無視した。
何より若菜を含め誰も気づいていない。
なら自分が何か言う必要ないそう判断した。
俺は既に部下として許される限りの警告はしたのだ。


「一刻以内に戻る」

「幸運を祈ります」


若菜は天川の言葉の後に
その間貴官が指揮を代行しろと言った。
天川はその言葉を受けながら内心でつぶやく。


「(祈るだけ祈っておきます。
それだけなら誰の損にもならない)」






「どうされますか、兵站将校殿」


高場が期待に満ちた声で尋ねた。
並んで立つと高場のほうが頭ひとつ分背が高い。
天川自身の身長はまさに平均並。
高場が大柄なのだ。
だが、天川の態度はそれを一切感じさせないものだった。


「後退の準備を完成させろ、曹長。
だが、一刻は待つそのつもりで準備しろ」


天川の言葉の前半分を聞いたとき高場の顔に本物の笑顔が浮かんだ。
しかし、
『一刻は待つ』と続いたことで不服そうな表情になった。


「しかし・・・」

「中隊長は命令を発せられている」

「一刻も待機する事についてですか?
敵は半刻でやって来ると言うのに」


高場がいまだ不服そうに尋ねる。
天川は頷きつつ答える。


「ああ、命令だからな。
僕らはそれを達せられた。
しかし・・・」

「しかし?」

「その後は代理指揮官としての権限で行動する。
中隊長殿の命令を僕はそう解釈している。
もちろん自分の責任において」

「了解」


高場の返答には溜息を吐くようだった。
天川は導術分隊長を呼んだ。
孤立した新兵科と言っていい剣虎兵部隊には、
やはり同様の扱いを受けている導術科の兵が配属されている。
厄介者には厄介者を、
軍の本音はそんなところだろう。
天川はそんな事を思いながら現状を大隊本部へ伝えろと命じた。
もちろん大隊長が何か的確な命令を下すことについて毛頭期待していない。
だが、天川は内心で考え続けていた。
これで若菜は十中八九死んだ。
自分は臨時とはいえ中隊を握ることになる。
自分には厄介事が転がり込んできた。
さてはて、転がり込んでくる厄介事はこれで終わりだろうか?
終わりであってほしい。
ふと皇都にいる義姉の事を思い出した。
会いたいと思った。
脳裏に浮かんだ義姉の笑顔を直に見たいと思った。
それにはまずこの北領からの脱出こそが急務だった。
意識を現実に戻す。
さぁ往くとしよう。
数多の屍山血河を乗り越えて!















あとがき

広島県人(以後、広):
・・・・・・・・・・・・・。

アヤカ(以後、ア):
ども、お久しぶりです。
今回あとがきのみ登場のアヤカです。
・・・?
おーいお兄ちゃん?

広:
待ちに待った刻がやって来たのだ!!  

ア:
はぅ!
(頭を寄せている状況だった為、
至近距離で大音声が耳に直撃した)

広:
『愉快な喜劇』完結のために!!!  
唯でさえ少ない読者をこれ以上減らさない為に!!!!
アクションHPよ!!
私は帰って来たぁぁぁ!!!!!


ア:
・・・てぇぇぇぇい!!



ヒュゴォ!!
(二本の小太刀[木刀]の風きり音)


ヒュ!
(初撃、かわす広島県人)
ヒュン!
(第二撃も広島県人、回避)
ガン!
(第三撃、持っていた小太刀[木刀]で防御)
ガシィ!
(第四撃、手首を掴んで防ぐ)


ア:
っく!

広:
くっくっくっくっく・・・。
甘いなぁアヤカ?
如何な『薙旋』と言えど、
お前の筋力ではただの四連撃にすぎんのだ。
それ以前に『薙旋』は抜刀術だ。
ド阿呆が。
木刀で本当の威力が出せるわけがないだろうが。

ア:
挨拶すらしてないお兄ちゃんに言われたくないよ!

広:
おお!
すいません。
皆さん、お久しぶりです
広島県人です。

ア:
よし!
・・・えーと、お兄ちゃん。
手、離してくれないとキーボード打ち辛いんだけど。

広:
おお、忘れてた・・・?
何でお前は顔が赤い?・・・り○ご病?

ア:
う、うっさいよ!
全く!
久しぶりだって言うのにいきなりソロモンの悪夢で始まるし。
ちなみこれ二回目だよ?

広:
へ?そうだったか?
あ、本当だ(汗)
『愉快な喜劇』六話で使ってる(核爆)

ア:
それに・・・
『唯でさえ少ない読者をこれ以上減らさない為に』?
自虐ネタ?

広:
ぐは!?

アヤカの改心の一撃!
広島県人は359のダメージを受けた!!

ア:
・・・んで、
そうやって小ネタで誤魔化そうとするんだね?

広:
シクシクシク(T-T)
うう・・・やっぱり、
『熱いアクションHP再興のために』にした方が良かったか・・・。

ア:
ん〜・・・お兄ちゃんの作品程度で熱くる人っているの?

広:
おぶ!!?!
(致命傷)

ア:
・・・や、やり過ぎたかな(汗)
えーと・・・。
この『時ナデin皇国の守護者』は続くように見せかけてますが、
続きません(断言)
あくまで『桃色の破壊神』に破壊された『愉快な喜劇』が
出来るまでの・・・こういっては何ですが間繋ぎです。
『愉快な喜劇』新作はまた一から書いている為、
少々時間がかかります。
ご了承ください。
では!『愉快な喜劇』新作でお会いしましょう♪
・・・お兄ちゃんも挨拶しなさい!!

ゴス!
(倒れている広島県人のわき腹に爪先を抉り込む)

広:
ぐは!
つっっ・・・。
出来るだけ急いで書き上げますので皆さん今しばらくお待ちください。

・・・さて、アヤカ?

ア:
ん?な・・・に(汗)

広:
・・・・・・逝け。

ミシミシミシィィ!!
(やたらと複雑そうな関節技がアヤカに決まる)

ア:
きゃぁぁっぁぁぁぁ!!!
痛い痛い痛いぃぃぃぃ!!!

広:
では!皆さん次作でお会いしましょう(さわやかな笑顔)

 

 

管理人の感想

広島県人さんからの投稿です。

えっと、続かないんですか?

・・・それはまた、中途半端ですねぇ(苦笑)

何気にディアには出番はあっても、ブロスには無いのが寂しいです(爆)

 

 

 

それと・・・・元ネタが分からないので、これ以上の感想は私には無理です(汗)