ATTENTION!!

 この話は1000万ヒット記念企画『Blank of 2weeks』の1投稿である『Do you know……?〜あなたは知ってる?〜』の続き物です。一応見なくても読める内容を心掛けましたが、興味のある方はぜひ先にそちらのほうをお読みください。











『アクアマリン』。
3月の誕生石。
ラテン語でアクアは水、マリンは海を意味し、
美しく澄んだ水色から古代ローマ人が命名したとされる。
伝説によると、波にさらわれて浜辺に打ち寄せられた海の精の宝物とされ、
古代ローマでは、月の女神ディアナの石とされている。











mirrors set against each other
第壱幕 開幕成緯(はじまりのなりたち)
presented by 鴇














 かつて、1つの国が絶滅に瀕していた。
 国というには余りにささやかなそこは、当然の如く満足な生産もいかない極貧の状態だった。
 貧しさは人の理性をあっけなく崩壊させ、理性的な動物と言われる人間の、進化の過程の最初期にまでその時間を戻させた。
 そのままでいたのなら、その国は程無くして崩壊していたであろう。
 しかし、時の最高権力者はここで1つの妙案を打ち出した。
 それは皆にとある共通事項を作り、価値観を同化させ、『仲間』意識を強化しようというもの。
 具体的には『敵』を作り、その者達を迫害したのだ。
 人間というものは不思議なもので、群れるコトにより生存能力を高めようとする知恵がある反面、いざその群れが強大になると、自ら内部に新しい群れを作り出して、その群れ自身を瓦解させようとする。
 そこで必要となってくるのが『敵』の存在だ。
 この場合はむしろ『生贄』と言った方が分かりやすいかもしれない。
 自分達とは違う人間。相容れない存在。
 そういったものを作り出し、弾圧することで群れの結束力は高まる。
 そもそも『仲間』という意識は『仲間以外』という意識があることによってはじめて明確に認識される概念と言っても良いだろう。
 こうして、群れを脅かさない程度の『敵』が選び出され、憎悪と敵意の対象となる。
 選別のポイントは何だって良い。主義主張だろうが、肌の色だろうが、出身地だろうが……。要は程よい人数の『敵』が作り出せればそれ以上のことはどうだって良かったのだ。
 そこに議論の余地は無い。あってはならない。為政者たちにとっては、一方的に憤怒を叩き込める存在がいるということで、国が1つとなって結束することが何にも増して重要なことなのであって、差別される側の意見を取り込む必要などは無い。そんな余裕も無い。例え彼らから怨嗟の声をぶちまけられたとしても為政者たちはしたり顔でこういうだけだ。
 ―――運が悪かったな、と。
 激しい差別とあらゆる劣悪な状況の中、彼らの数は次第に減ってゆき、そして1世紀にも渡る時を経て、ついに彼らの最後の1人が息絶えた………かに見えた。
 遙か遠い国で殺されたと思われていたその女は、一命をとりとめ、その国で捕虜となっていたのだ。
 そしてふとした切っ掛けで彼女は自由の身を得る。
 一時ではあるがその時間は彼女に安らぎと平穏を与えた。
 彼女は、もしかしたらそのまま一庶民として残りの生涯をまっとう出来るかもしれないと考えていた。
 しかし、彼女の生存は祖国の知るところとなってしまう。
 彼女は安息の地を離れ、逃亡の旅へと出ることにした。送られてくる様々な刺客の手から逃れるために。自分を慕ってくれた人達を危険に晒させないために……。
 こうして、彼女は今日も漂っている。
 故郷の差し向ける刺客から逃れるために、行く当てすら無い旅を続けている。
 一握りの祝福と、それらを遙かに凌駕する怨嗟の下に生まれた人間。
 落ち着けるはずの故郷では蔑まされ、人として当然の権利すらなく、親から与えられた名前でさえ一度として呼ばれることの無い存在。
 ただ周囲の人間の下賎な優越感を満たし、またそうすることで争いの火種を無くす事のみが存在理由とされる彼女らのコトを、その国の人々はこう呼ぶ。
 『穢れし者』―――と。









 彼女は争いごとを好まなかった。
 それは別に非暴力を謳っているわけでも聖人君子然としているわけでもない。その証拠に彼女は売られた喧嘩は必ず買うし、助けを求める者がいたらその相手をぶちのめしたりもする。しかしそれでも、彼女は今まで自分から争いの火種を作ろうとは決してしなかった。
 彼女はただ、麗らかな午後のひと時を、公園でサンドイッチを食べながらゆったりと過ごしたかっただけなのだ。だがそのサンドイッチは、無残にも地面に落ちてしまっている。まだほんの一口、味わっただけだというのに……。
「お嬢様! お待ちください、アクアお嬢様っ!」
 のどか。その一言で全てを表せる様な公園内に、男達の声は響き渡った。
 オールバック、サングラス、黒のスーツ……、と没個性の極みの様な格好の男達の声は、彼女の視線の先にいる女性に向けられた。
 先ほど彼女にぶつかってきた女性だ。
 アクアと呼ばれたその女性は、よほど急いでいたのだろう。彼女の後方から猛然と走ってきて彼女を突き飛ばし、そのまま走っていってしまった。その時の衝撃が原因で、彼女のサンドイッチは手から落ちてしまったのだ。
「嫌ですわ。私は1人で旅行を楽しみたいんですの」
 器用に後ろを向きながら走るアクア。しかしその前方からさらに数人の黒服が現れ、行く手を阻む。
「ですがお嬢様。 お嬢様にもしもの事があったら私達は何とロバート様に言えば……」
 そう言って彼女の横―つまりサンドイッチの上である―を黒服の一団がドタドタと駆け抜ける。一団が駆け抜けた後には、もはや原形を留めないサンドイッチだけがあった。その光景に彼女の理性は音を立てて崩れ去っていく。
 彼女はおもむろに立ち上がると、じりじりと包囲網を狭めている黒服の一団とアクアの方へ歩いていった。
「ちょっといいかしら」
 そして、ちょんちょんとその内の1人の背中をつついてみせる。
「何だっ! こっちは今、忙し―――」
 苛つきと共に男が振り向くのと、彼女の蹴りがその顔面にめり込むのはほぼ同時だった。男は仰向けに吹っ飛ぶ。そして地を這う男の脇腹に、さらに彼女の爪先(つまさき)がめり込んだ。彼の身体はごろごろと転がり、置いてあった吸殻入れにぶつかった。
「くっ! 誰だ、貴様!!」
 いきなりの乱入に身構える黒服。彼女はそんな彼等に向かって話しかけた。
「忙しい。それは結構なことね。働く事はとても素晴らしいことだわ。……で、それが人様の食べ物を足蹴にしても許される理由になるの?」
「なっ? 貴様、何を言って―――」
 訳の分らないことを口走しりながら、しかも妙に鬼気迫る顔で睨み付けてくる彼女に黒服達はうろたえる。だが、それでもすぐに平常心を取り戻そうとした彼らを無視して、彼女は今度はアクアに向かって勢い良く人差し指を突きつけた。
「それからあなた! どんなに急いでいたのか知らないけど人にぶつかったら謝るのが普通でしょ。おかげでお昼ご飯ダメにしちゃったじゃない!もったいないお化けが出るわよ!!」
「は、はぁ。……ごめんなさい」
 アクアは暫しポカンとしていたが、やがて何かを思い浮かんだかのように笑みを浮かべる。
「それでしたらぜひお詫びをさせてくださいな。この近くにおいしいレストランがあるのでそこでご馳走いたしますわ」
「え、本当?」
 ふわりとしたアクアの笑みに当てられたのでもないが、彼女は途端に機嫌を直す。その切り替えの速さはまるでスイッチでもあるのではないかと勘繰りたくなるほどだ。
「ええ、本当ですわ。ですが、この方達と一緒ではちょっと……」
 アクアはそう言って黒服たちを少し困ったような顔で見回す。
 もちろん、その眼は笑っているのだが。
「ふーん、そうなんだ」
 彼女は疑うことなく応じて、それから、まだ身構えている男達を一瞥する。その目にはもう敵意は無く、食事への期待感だけがあった。
 そして彼女はぞんざいに手を振り、
「あなた達もこれからは食べ物を粗末にしちゃダメよ。私は用事が出来たから、もう帰っていいわ」
 黒服達に傲然(ごうぜん)と言い放った。
 もちろん、それでは私達は帰ります、などと言うはずが無い。彼等は侮辱されたとでも思ったのだろうか、もしくは純粋に職務の邪魔を排除する気なのだろうか、怒号をあげて飛び掛ってきた。
 彼女は面倒くさげに息を吐く。
 そしておもむろにアクアの身体を掴むと、何とその身体を棍棒よろしくぶん回した。鋭い風切り音すら生む速度で、アクアの身体は凶器となって黒服達に襲い掛かる。唸りを上げるアクアの(かかと)は襲い掛かってくる先頭の男の、その顔面に正確にめり込んだ。男が仰け反り、大地に背中から叩きつけられるより早く、やや後方の男も前のめりに倒れ始める。彼女はアクアの踵で1人目の顔を強打した後、勢いを殺さずにアクアの身体を反転させて、別の1人の頭上に、その膝を叩き込んだのだ。
 2人を倒すと彼女は何事も無かったかのようにアクアを元の位置に立たせる。
 他の黒服達はその様子を呆然と見ていた。
「これ以上私のご飯の邪魔をするなら、次は本気でやるわよ」
 そう言って彼女は残った黒服たちを睥睨(へいげい)する。
 本気で何をやるのか。
 どちらにせよ人質? を取られている状況では彼らにこれ以上の手出しは出来なかった。とりあえずすぐには害が無さそうなので、黒服達は退却する道を選ぶ。そして倒れた仲間を慌てて担ぎ上げると、彼らは捨て台詞も無しに立ち去っていった。
「さて、それじゃ行きましょっか。え〜と、アクア…だっけ? 私はウィーズ。ウィーズ・ヴァレンタインよ。よろしく!」
 ウィーズは未だ目を回しているアクアの方を向くと、満面の笑みでそう言った。









 先程の公園から歩いて10分ほどの距離にアクアの言っていたレストランはあった。
 だがそれはレストランというよりは小奇麗で洒落たカフェテラスという感じである。
 事実、そうなのだろう。
 それはメニューの半数が紅茶やケーキなどのいわゆる甘味類で構成されており、残りの半数が軽食で構成されていた事からもよく分かる。
「へ〜。それじゃ、アクアってばものすごいお嬢様なんだ」
 もう幾つ目になるか分からないサンドイッチを頬張りながらウィーズは言った。
「でも凄いのはお爺様で、私自身はそんなに自慢できるものもありませんわ」
 アクアはそう言ってティーカップを持ち上げ、その芳醇な香りを楽しんだ。
 花の香りのする風が、ゆったりと髪をくすぐっている。
 その姿を見ながら、ウィーズは思った。
 アクアは綺麗、と。
 髪なんか自分と同じ金髪(ブロンド)なのに凄いキラキラしていて良い匂いがする。顔だってパーツ的には結構似ているのだが全体的に見ると滲み出る気品がある。性格も落ち着いてて品があるし、そのうえ家柄は世界有数のお金持ちときている。話もウィットに富んでいるし、その洗練された美しさを見ているだけでも飽きる事は無い。こんな完璧な人間もいるのかと思うと、少し羨ましくもある。
 完璧に磨き上げられた器の中身はどんなものなのか。
 何を考え、どう感じ、どんな事を思うのか。
 少し、興味を覚えた。
「じゃあ、さっきの人達はアクアのお付きの人たちなんだ?」
「ええ。ですが正確にはボディーガードと言ったほうが良いでしょうか」
「ま、アクアくらい可愛かったら護衛の1つもつけたくなるわね。ちょっと窮屈そうではあるけどさ」
 ウィーズは苦笑いしながら食後のケーキに取り掛かる。
 食後とはいえ、その数は多い。
 ずらりと並べられたケーキが次々と消えていく様子は中々に壮観だ。それだけでも充分に食事としての量はある。
 別腹、という奴だろうか。
 そんな姿を見ながら、アクアは思った。
 ウィーズは面白い、と。
 食いしん坊だし、髪の毛はボサボサだし、結構直情径行だし……。自由奔放とは彼女のためにある言葉ではないかと考えてしまう。そのうえ腕っ節も強い。助けてもらった人に武器にされるという経験は、中々出来るものではないだろう。
 話を聞く限りにはどうやら旅人のようだが、その話を聞いているだけでも飽きが来ない。こんな自由な人間もいるのかと思うと、少し羨ましくもある。
 純粋培養され、徹底した管理の下に育てられた自分とは正反対の、その独創的な花の蜜はどんな香りなのだろうか。
 何を考え、どう感じ、どんな事を思うのか。
 少し、興味を覚えた。
「でもその護衛の人達から逃げていたよね?」
 ウィーズは、ショートケーキの上に乗っかっている苺を一口に頬張りながら訊ねる。
 その問いにアクアはやや苦笑いをしながら答えた。
「ウィーズさんの言ったとおり、窮屈だったから、ですわ。何処へ行くにも何をするにも人が付いて来る。そんな生活に嫌気が差した、というところかしら」
「ふ〜ん。それで今回みたいにお付きの人を撒いてはこうやってお茶を飲んでいる、と」
 ウィーズは7個目となるオペラにフォークを差しながら笑う。
 つられた、というわけでもないのだがアクアも笑って返す。
「うふふ、そうですわね。でもこうやって他の方と一緒にお茶をしたことはありませんわ。すぐに見つかって連れ戻されてしまうの」
 何故かしら、と軽くため息を吐く。
 ウィーズはその顔を見ながら、最後のマロングラッセをぺろりと平らげた。
「大変だねぇ、お金持ちも。……さて、それじゃ全部食べた事だしそろそろ行きましょっか?」
 ウィーズが軽く口の周りを拭いてから席を立つと、名残惜しそうにアクアも席を立った。そしてアクアは会計を済ませようと財布からカードを取り出す。しかし、その手は不意に止められた。ウィーズがその腕を掴んだからである。
「……何か?」
「そんなもん使ったら、たちまち護衛の人達に見つかっちゃうよ」
 カードとは情報の塊である。
 そしてそのカードを使うということは情報の塊を作るということである。
 例えば、ここでカードを使ったとしたら同時にその情報がカード会社に伝わってしまう。それはつまり、そのカード会社の親会社であるクリムゾンにも伝わってしまうということだ。何時、何処で、どんなものにお金を使ったかということが筒抜けになってしまう事なのだ。恐らく護衛の者達は見失った後はまずこの情報を頼りに探しているのだろう。
「……あなたがすぐに見つかる訳が、なんとなく分かった気がするわ」
 目の前の女性が思った以上にに世間知らずだという事に、ウィーズは親近感と共に軽い脱力感を覚えた。












 かつかつ。
 しかめ面をしながらウィーズは歩く。固い足音を伴いながら。
 かつかつかつ。
 ウィーズは歩く。固い足音を伴いながら。
 しかしその足音は彼女のようなスニーカーでは出ない。底の固い、例えるなら良家のお嬢様が履いているような質の良いパンプスの足音だ。
 不意に、足を止めてみる。
 かつ、という音も止まる。
「………………………………」
 彼女は殊更に長い溜息をつくと、もう一度歩を前に進める。
 ……だが、
(あぁっ! もう)
 予想した通りの結果に胸中で叫び声をあげる。
 足音と気配がついてくる。
 距離までぴったりと保って。歩調を速めたり遅めたりしてもそれは変わらない。まるで気配は彼女の影のようについてくる。
 ウィーズは頭を掻きながらくるり、と振りかえった。
「―――ねえ、アクア」
「はい?」
 振り返った先には、先ほどまで一緒に食事をしていたアクアがいた。
 彼女は、やはりふわりとした優雅な笑みを浮かべたまま答える。
「その、さっき私たちお別れしたよね?」
「ええ、いたしましたわ。それがなにか?」
「いや、ただちょっと自分の記憶に自信がもてなかったから……」
「それでしたら自信を持って大丈夫ですわ。私とウィーズさんはつい先ほどお別れの挨拶をいたしましたわ」
 だよねー、ととりあえず笑う。
 そうですわ、とアクアも笑い返す。
「それじゃあ、私もう行くから」
 そう言って一歩前へ出る。
 同時にかつ、という音がする。
「……………………………………」
 もう一歩前へ出る。
 やはり同じタイミングでかつ、という音がする。
「……………………………………………………………………………………………………」
 さらに数歩進んでからウィーズは再び振り返った。思った通り、先ほどと同じような位置、同じような笑顔のアクアがいる。ウィーズは一瞬、実は自分は動いていなかったのではないかと錯覚したほどだ。
「……もしもし?」
「なんでしょうか?」
「何、してんの?」
「歩いているんですわ」
「いや、そういうことじゃなくてね……」
 根こそぎ持っていかれそうになる気力を奮い立たせてウィーズはアクアを睨む。
「もう、お礼とやらは終わったんでしょ? それなのになんでまだ私に付いてくるのかって聞きたいの」
「ですがお代はあなたが払いましたし……」
 そうなのだ。先ほどのレストランではカード以外持っていないアクアの代わりにウィーズが代金を立て替える事となっていたのだ。良家のお嬢様にしてみれば割合いリーズナブルなところではあったが、財政状態の余りよろしくないウィーズにとって見ればそれでも痛い出費だ。ランチタイムだったのでまだ払えるレベルではあったのだが、これが先ほどからの彼女の不機嫌の主な原因であったりもする。正直言って今日の宿代すらままならない状況だ。
 しかし、そんなことはお構い無しにアクアは話し始める。
「借りていたものはお返ししなければいけませんし。それにあなたを見ていて思いましたの。このまま世間知らずの箱入り娘ではいけないなって」
「……まぁ、それは良いことね」
「そこで私は一大決心をいたしましたわ。ウィーズさんのように諸国を旅して自分の視野を大きくしようと思いましたの」
「……確かにあなたには世間一般の考え方を身につける必要があるわね」
「と、言うわけでよろしくお願いいたしますね」
「……私?」
 自分を指差しながら問いかけるウィーズに、答えとばかりにアクアは会心のスマイルで右手を差し出した。男なら大抵の者がくらっときそうな破壊力だ。……もっともそれは相手が男ならば、だ。
 ウィーズは疲れたようにアクアの肩を掴んで話し始める。
「アクア、よ〜く聞いてね。私はあなたとはもう用がないの」
「私にはありますわ」
 笑顔のまま答えてくるアクアを見ながらウィーズは確信した。
 何処が完璧だ! と。
 ウィーズにはアクアの眼に獲物を追い詰めて快感を得る、ある種のサディスティックなものまで見えた。
「とにかく! それならもう私に付いて来ないでくれる?」
「嫌ですわ。お金を借りたままなんて気持ちが悪いですから、お返しするまでは一緒にいさせてもらいます」
「〜〜〜〜〜〜!」
 ウィーズは口ごもった。もはや自分がどうやってもアクアは説得されなさそうである。されなさそうではあるが……。
「それでもダメなものはダメなの! ……これだけは言いたくなかったけど、実は私、ちょっとワケありでね。世間一般で言うところの逃亡者って奴なんだわ」
 軽く眼を伏せながら、ウィーズは言った。と、同時に下唇を噛む。
 どうかしている。
 いくら彼女を引き下がらせるためとはいえ、会って間もない人間にこんな事を言うなんて。彼女がしつこかったから、彼女に興味を覚えたから、立て替えた代金を貰いたかったから……。色々な理由を思い浮かべてみたが、どれもしっくり来ない。
「つまりお尋ね者ってコトですの?」
「……まぁ、そんなとこ。だから私と一緒にいるととても危険なの。私があなたを危険に晒すような事をしたくないのは分かるでしょ?……良い子だから、素直に黒服さんたちのところへ戻って」
 言い終わると、ドン、とアクアの身体を突き離した。
 同時に、何とも言えない感覚がウィーズを包む。
(あぁ、なんだ)
 瞬間、理解した。
 代金がどうのとか、彼女に興味を覚えたとか、そんな小賢しい理由ではなかった。
 自分の中のモヤモヤした気持ち。
 それは、ただ単純に寂しかっただけなんじゃないか、と。寄る辺も無く、友も無く、ただ追われ、逃げ続ける日々に疲れてしまっただけではないか、と。
「……ゴメンね」
 ウィーズはそんな感情を誤魔化すように作り笑顔を取り繕う。
 アクアはそんな彼女を見ながら、暫し考え込むように俯いた。
 ―――そして、
「そんな事を人に言っても良いんですの?」
 などと言い放った。
 意外な一言にウィーズは思わずえっ、と声を漏らす。それから『しまった』と顔をしかめるが、もう遅い。その顔を見た瞬間、アクアの顔に明らかに邪悪なものが混じった。
 それは絶対的な優位を確信した者が浮かべる笑み。
「人に言っては……、良くなかったんですのね……」
 答えられないウィーズにアクアはニヤリと笑みを深めた。
 蛇に睨まれた様に硬直するウィーズと、その様子をさも楽しげに見つめるアクア。
 時間だけが無意味に過ぎていく。
 ……結局、その膠着状態にアクアが飽きて彼女の右手をしっかりと掴むまで、ウィーズは動かなかった。否、動けなかった。
(……まぁ、良いか)
 観念したように彼女は天を仰ぐ。
 ただ、脱力している彼女の表情は、何処と無く嬉しそうにも見えた。












『アクアマリン』。
3月の誕生石。
ラテン語でアクアは水、マリンは海を意味し、
美しく澄んだ水色から古代ローマ人が命名したとされる。
伝説によると、波にさらわれて浜辺に打ち寄せられた海の精の宝物とされ、
ディアナの石とされている。
……また、夜の光の元では自然光の光よりも輝きが増して見えることから
ヨーロッパ社交界では『夜の宝石の女王』の二つ名を持つに至る。












後書き
 まず最初に、Action1300万Hitおめでとうございます〜。
 すごいですね。早いですね。B2Wの企画をやっていた頃から半年ちょっとなのにもうですよ。
 気がつけば私の後ろにも新規投稿作家さんたちが100人以上いますし、ちょっとした浦島太郎気分w
 まぁ、それはともかく。今回はB2Wで書いた話の続き物を書いてみました。
 ……今更って気も、お祭り企画にそれは無いだろうって気もしないではないんですが(苦笑
 ただ、前回のを改めてみるともうひどいのなんのって。設定だけ出しといて投げっぱなしな物がちらほらと。
 と、言うわけで今回はその補完という意味も込めて書いていきます。

追伸
 Action検索ランキングトップおめでとうございます〜。
 これはgoo検索などで『Action』の単語でこのサイトが一番上に来ていることです。
 トップになった検索サイトはgoo、infoseek、BIGLOBEサーチ、MSNサーチ等でした。
 すごいですね。多いですね。NGO団体のActionも雑誌のActionも追い抜いて堂々の結果です。
 こうしてネット検索というものは歪んでいくのだなぁ、と感慨深く思ってしまいました(激しくマテ






 

代理人の感想

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・本当に歪んでるなぁ、はさておき(笑)。

 

銀髪の変人、ウィーズおねえさんが嬉しい復活ですね。

そして始まる女弥次喜太道中。

や、こーゆータイプの話、すっごく好きなんですよ。

いずれ劣らぬ変人二人の凸凹コンビとか、道中物とか。

そして多分あるだろう月臣との再会。

やー、楽しみです。