ATTENTION!!

この話も見る人にとっては不快な描写があります。ぶっちゃけイタイです。
そういう話しが苦手な人は見ないほうが賢明かもしれません。















『全ての人生は物語である』。

・・・昔、どこかでそんなフレーズを聞きました。

だから私は、今日も物語を作っています。

それは他の誰でもない、私だけが作る掛け替えの無いもの・・・。



































劇場版アフター
The Story

presented by 鴇





































西暦2201年、ターミナルコロニー『アマテラス』で元木連中将、草壁春樹らによる軍事クーデターが発生した。

『火星の後継者』を名乗る彼らの狙いは古の技術、ボソンジャンプを利用しての地球連合政権の転覆であった。

影の実行部隊である北辰と六連たちに密命を下し、要人誘拐や破壊活動に暗躍させるも、

最終的にはたった一隻の戦艦によって沈められることになる。

その戦艦の名はナデシコC。

史上最年少艦長ホシノルリの駆るその戦艦は絶大なまでの電子戦能力を駆使し、

見事火星の後継者の全戦艦の動きを掌握して見せた。

そのことにより彼女の人気は高まり、

それまで一部の者達が囁いていただけの『電子の妖精』という愛称も地球規模で広がっていくまでになった。

しかし、多くの者は知らない。

光在る所に影が有る様に、ホシノ・ルリという光にもまた影となる一人の男がいたということを。

その男の名はテンカワ・アキト。

『火星の後継者』に妻とその五感を奪われ、奴らに復讐する事を誓った青年。

自ら人で在ることを止め、修羅にその身を堕とした男。

その活動は熾烈を極め、無関係の人をも万単位で殺し、

何時しか人々は彼のことを『暗黒の王子様(Prince of Darkness)』と呼ぶようになった。

2年の歳月を費やし、彼はついに『火星の後継者』を倒し妻を救出する事に成功する。

しかし時既に遅く、彼女の余命は5年を数えるだけであった。

火星の後継者のその残党までもがほぼ殲滅させられた2201年の冬、彼は妻であるミスマルユリカの元に姿を現す。

そして、そのまま半ば連れ去るように彼女と姿を消した。

現場には誰もいなく、彼の真意もその時のことも知るものはいない。

ただ、一枚の書き置きが、『みんな、ありがとう。さようなら』と書かれた書き置きだけが事実を知らせていた。

それを見た彼の親類縁者達は憤慨する事も、嘆く事もせずに、ただただミスマルユリカの横たわっていたベッドを見つめていただけであった。

口には出さなかったが、彼らの思いは皆同じであった。

ずいぶんと遠回りをしてしまったが、これでようやく二人の元に幸せが戻ったのだと。

2年遅れの新婚生活を始められるのだと・・・。













そして月日は流れ・・・、












西暦2202年、冬。

火星の後継者のクーデターからちょうど1年と半年後、連合宇宙軍少佐ホシノ・ルリはナデシコCの艦長席から星を見ていた。

連合宇宙軍からの指令による航海であるが、特に危険でも急を要するものでもないため現時点ではやる事が無い。

さらに言ってしまえば如何に地球―火星間を1月余りで横断してしまうナデシコCとはいえ、

外の景色、つまり星の位置はまったくと言って良いほど変化がないため、あまり長く見ている気にもなれない。

・・・要するに暇を持て余しているのだ。

彼女は星を見続けることにも飽きたため、ふと席を立って周囲を確認する。

右後ろには副官のタカスギ・サブロウタ大尉が雑誌を読んでいた。

前方には副官補佐のハーリーことマキビ・ハリ少尉がTVゲームに勤しんでいる。

彼はルリと目が合うと慌ててゲームを消して愛想笑いをした。

ルリはいつもの事なので特に咎めるような事はせず、興味も覚えなかったため視線を外す。

さらに彼女はぐるりと視線を回してみるが他には誰もいない。

以前までなら共に乗員していた新人オペレーターのサクラ准尉も

管制官のハタノ准尉もウッドフォード准尉もいない。

それはブリッジには他に誰もいないと言うことではない。

現在この艦に乗員しているのがホシノ・ルリ、タカスギ・サブロウタ、マキビ・ハリの3名だけだからだ。

実を言うと、今回の指令はルリ1人で行うことになっていたのだ。

その指令とは『完全なるワンマンオペレーションのための実験データの採取』というもの。

つまり元々ナデシコB、ナデシコCは来るべき軍縮に備えて人員削減計画の一つ、

『ワンマンオペレーションプラン(1人1戦艦計画)』の基に作られた戦艦なのだ。

しかし実際には100名以上のクルーを要する計画とはかけ離れた運用方法をされてきた。

そのため連合宇宙軍のみならず統合軍からも要請が入り今回の指令が下ったのだ。

もっとも、完全に一人だけでは疲労度の面での問題もあるとの

サブロウタ、ハーリーの執拗なまでの上申の甲斐もあって、3人での任務となっているのだが。


「しっかし、暇だよなぁ〜」


後ろのサブロウタが伸びをしながらあくび交じりにぼやく。

この任務が始まってから既に1週間が経っていた。

無理矢理ルリに付いていったは良いが、乗船してからは本当にやる事が無い。

『ワンマンオペレーションプラン(1人1戦艦計画)』が伊達ではない事を思い知るばかりであった。

機関室や生活環境区の整備は統合軍から提供された元木連の無人兵器を改良したものがやってくれるし、

ただ巡航する事だけが目的なので何処かを探索したりする事も無い。

彼は無為に時間が流れていくだけの1週間を過ごしていた。


「サブロウタさん、不謹慎ですよ。

 その言い方じゃまるで何か事件が起こってほしいみたいじゃないですか」


サブロウタのぼやきにハーリーが反応する。


「んなこと言ったってよぉ、艦長とハーリーはまだいいぜ。

 データ処理やらなんやらで一応はやる事があるんだからさ。

 俺なんて何か事件でも起きないとやる事が無いんだよ。

 暇で暇でしょうがねぇぜ」


確かに時間というものは不思議なものだ。

楽しい時は飛ぶように過ぎ去っていくのに嫌な時、とりわけ暇な時は

まるで時間が嫌がらせをしているかのようにゆっくりとしか進まない。

サブロウタにとって、この1週間はある意味拷問にも似たものだったかもしれない。

しかし、サブロウタのこの願いは受け入れられる事になる。

それが彼の望む方向ではなかったにせよ・・・・。













ビィーッ!!ビィーッ!!


けたたましい音と共に3人の目の前には警告のウィンドウがこれでもかと言うくらいの大きさで表示された。

初めは敵襲だと思い、いきり立ったサブロウタはその詳細を見て青ざめる。

事件には違いないのだが、彼の望んだ事件とはあくまでも外的要因によるもの。

しかし今回の警告はそれとは反対の内的要因によるものだった。

具体的に言うと相転移エンジンが、しかもその全基が謎の暴走を始めたのである。


「うわわわわわ。サ、サブロウタさんがあんなこと言うからですよ!」


「なっ、俺のせいじゃねぇだろ!

 大体機関室の状況確認はお前の担当だろ!?」


「サブロウタさんが昨日の巡回をサボっても大丈夫だなんていうからですよ!!」


「テメッ、それバラすなって言っただろ!!」


「今はそんな事をやってる場合じゃありません。

 私が第1相転移エンジンの制御をやりますからハーリー君は第2相転移エンジンの制御をやってください。

 サブロウタさんはその他に異常がないかチェックをお願いします」


責任を擦り付け合う2人を一言で静めるとルリは的確に指示を出していく。

そして艦長席を前にせり出すように可変させるとその周囲にウィンドウボールの群れが出現し、超人的なスピードで処理を始めた。

その銀髪はまるで無重力であるかのようにふわりと舞い、陶磁器のように白く滑らかなその肌には

IFSをフルコンタクトさせている証拠の複雑な模様が浮かび上がる。

この姿が『電子の妖精』と言われるが所以だ。

ハーリーもウィンドウボールを展開し、相転移エンジンの制御を試みる。

が、その顔は30秒とかからずにもう一度歪むこととなる。


「コ、コンタクト取れませんっ!!

 ブリッジとの回線が物理的に切られているみたいです!!」


「・・・そうみたいですね。

 私もありとあらゆる回線を試しましたが1本も残っていませんでした」


ハーリーの助けを求めるような報告にルリはいつものポーカーフェイスを崩さずに淡々と答えた。

しかしその額を伝う一筋の汗が今のルリの心理状況を如実に表している。

無理も無い。

相転移エンジンの突然の暴走。

そして制御が完全に出来ないという現実。

分かるのはこのままでは暴走した相転移エンジンがいずれ爆発するという事だけ。

如何に冷静が売りのルリとはいえ、齢17歳の少女が平静を保てるはずが無かった。


「艦長、原因が分かりました!

 艦内整備用の無人兵器数体が機関室で暴れています」


―――!

サブロウタの報告にルリの脳裏に嫌な憶測が浮かんだ。

この航海自体が実は罠だったのではないかという憶測が。

実を言うと、今現在乗船しているナデシコCが稼動するのは1年半振りである。

つまり火星の後継者のクーデター鎮圧以後は使われていなかったということだ。

理由は統合軍からの圧力である。

火星の後継者という犯罪者を多数生み出してしまった統合軍に対する世間の評価は厳しく、

対照的にそのクーデターを事実上たった一隻で鎮め、さらにはそれが『電子の妖精』と称されるほどの少女が

行ったという事で連合軍の評価は急速に高まりつつあった。

極端な例ではナデシコCを中心とする連合軍は正義、火星の後継者を輩出した統合軍は悪、と考える子供さえいる。

そのことに危機感を覚えた統合軍が恥も外聞も無く、

『ナデシコCを使うことは統合軍に対する示威行動である』と無茶苦茶な理由を突きつけて使わせなかったのだ。

その後も事あるごとにルリ達に対して任務の妨害などを行ってきたりしていた。

だから今回の任務も嫌な予感はしていた。

しかし、この協力を断ればいたずらに統合軍との仲を悪くしてしまう事は明白である。

そのため総司令であるミスマル・コウイチロウ中将も断ることが出来なかったのだ。


「艦長、どうするんですかぁ!?」


ハーリーの縋るような声がルリの精神を逆撫でるようにブリッジに響く。

ルリも分かっている。

ハーリーは悪くない。

これはただの八つ当たりなのだと。

彼も気が動転しているだけなのだと。

だけど、伝わってくるのは絶望的な現状報告だけ。

どうすると聞かれてどうしようも無いとしか答えられない無力な自分を再確認するだけ。

だから―――


「それを今探しているんです!

 ハーリー君も口を動かしてないで頭を動かしてください!」


と、彼女らしくも無く強い口調でハーリーに当たってしまった。

ハーリーは一瞬、傷ついた顔をする。

ルリは傷つけてしまった事に傷つき、またそう仕向けたハーリーに苛つく。

しかし、そのことを謝っている時間はない。
 
ルリはもう一度オモイカネにアクセスして現在の状況の再確認、そして最適な処理方法を模索する。

相転移エンジンの臨界点突破まで残り時間は約2分。

どうするか。

機関室への回線を復旧させるのは・・・今からではもう間に合わない。

どうすればいいのか。

無人兵器を機関室に送って暴れている一部の無人兵器を取り押さえて回線を復旧させる・・・ダメ、これも時間が無さ過ぎる。

どうすればみんなを守ることが出来るのか。

ルリの頭の中を膨大な量の情報が駆け巡るがやはり分かる事は今がどれだけ最悪な状況かという事だけ。

3人の意識の中に諦めの2文字が浮かぶ頃、サブロウタの脳裏に天啓のようにある考えがよぎった。
















「艦長、最後の手段です。

 相転移エンジンのブロックを全てパージ(切り離す)しましょう!」


「それじゃ帰還出来なくなっちゃいますよっ!」


サブロウタの提案にハーリーが真っ先に異を唱える。

ナデシコCには相転移エンジンのほかにも補助エンジンとして、核パルスエンジンを4基積んでいるが、

それらは全て相転移エンジンと隣接したブロックにある。

つまり相転移エンジンのブロックをパージするということはエンジンを全てパージするという事なのだ。

ハーリーが異を唱えるのも分からなくは無いが・・・、


「じゃあ、このまま相転移エンジンと一緒に塵となるのが良いか!?」


サブロウタとハーリーの会話を聞きながらルリは数瞬、ほんの数瞬だけ逡巡し、

そして決断を下す。


「・・・わかりました。これよりエンジンブロックを全てパージします。

 サブロウタさんは生活環境区他全てのブロックを閉鎖してください」


「なっ、艦――」


「ハーリー君はパージする際に出来る限り反動をつけてエンジンとナデシコCとの距離が出来るようにしてください」


ハーリーの抗議をかき消すとルリは自分も作業に取り掛かる。

ハーリーはまだ何か言いたげな顔をしていたが、次の瞬間にはすぐに言われた作業に取り掛かっていた。

相転移エンジン臨界点突破まであと1分30秒。










「全ブロック閉鎖完了!」


「こっちも計算終了しました。何時でもいけます!」


残り時間あと1分で2人の作業が終了した。

ルリも自らの作業を終了させてそのことを確認する。


「これより全エンジンブロックをパージします」


そう宣言してから、ルリはオモイカネにパージの命令を下した。

ガコッと鈍い音をさせて衝撃が腰の辺りを中心に伝わってくる。

モニターを見ると、エンジンブロックはパージの際の反作用によって

ナデシコCと急速にその距離を広げているのが分かる。


『相転移エンジン爆発まであと10・・・9・・・8・・・』


オモイカネによるカウントダウンが始まった。

今のナデシコCにはエンジンが無い以上ディストーション・フィールドが張れない。

その上、主要な推進機関は全て無くなってしまったから速度を上げて距離をとることも出来ない。

爆発の衝撃に耐えられるかどうかは未知数である。

自然と3人の手には汗がにじんでいた。


『5・・・4・・・3・・・』


「総員、対ショック防御」


ルリの言葉と共にサブロウタとハーリーは肘掛をしっかりと握り締めて衝撃に備える。

閃光・・・、そして一瞬遅れて衝撃波が来た。


ズズズズゥゥゥゥゥウウウウン


フィールドはおろかロクに重力制御も出来ないブリッジ内を

恐ろしいまでの振動が襲う。

どちらが上空でどちらが地面なのかも分からない。

サブロウタもハーリーも必死に身体を固定して耐える。

そうしていなければ身体ごと吹っ飛ばされそうなほどの衝撃だった。

ルリも目をつぶり身をちぢこませて衝撃に耐える。

その耳に奇妙な音が聞こえた。

ルリが疑問に思った、次の瞬間。


バキンッ


何かがひしゃげ折れるような音と共に、ルリの足元の感覚が無くなった。

自らが身を寄せていたシートと共に身体が宙に浮く。

突如、艦長席を支えていたシャフトがその中間地点から折れ曲がったのだ。

ルリの席だけはギリギリまで作業をしていたせいで前方へ可変したまま元に戻す時間が無かったのだが、

それさえも後悔する時間のないまま、意識は瞬間的に絶望へと彩られていく。

しかしルリはネガティブな感情を無理矢理押し込めると咄嗟に受身を取った。

ドスン、という鈍い音とは正反対にはっきりとした衝撃が彼女を襲う。

彼女は初めは自分の状況の確認だけしか出来なかった。

シートが壊れて自分が床に叩き付けられたのだという状況だけしか。

その数秒後、彼女の中に熱の様な痛みの奔流が沸きあがる。

必死に身体を動かそうとするも手は動かず、指も芋虫のように同じところを掻き続けるだけ。

喪失感が彼女の心を埋め尽くす頃。

抵抗むなしく、急速に広がっていく闇に、彼女の意識は飲み込まれていった。





























目覚めてみれば、予想外の光景が視界を埋めていた。

瞼を開いてまず目に入ったのは質素な天井だ。

ナデシコ内どころか自分の記憶の何処にも一致しない場所である。

思わず2、3度瞬きを繰り返してみるがそれが目の錯覚でも何でもない事が分かると

今度は身体を起こして辺りを見回してみた。

やはり質素な煉瓦造りの壁に、内装は小さな木のテーブルと花瓶があるだけ。

大きな窓からは白い光が差し込んでいた。

綺麗に掃除をされてはいるが、何か着飾るような贅沢さは微塵も感じられない。


「・・・もしかして、ここがあの世ですか?」


周りをある程度確認するとルリはそう呟いた。

だとしたらずいぶんと俗っぽいところだ、などと場違いなことを考える。

そんな彼女の問いかけには予想外にも答えが返ってきた。


「残念だけど、ここはあの世じゃないよ」


弾かれたように声のあった方向を振り向くと、そこには一人の少女がいた。

ルリにはこの少女に見覚えがあった。

名前は確か、ラピス・ラズリ。

直接会ったことは無いが、ネルガルのホストコンピューターをハッキングした時にその写真を見て、

火星の後継者の反乱時にはオモイカネを通してだが話してもいるのだ。

ラピスはベッドの傍らに置かれた椅子の上に腰掛けている。

その姿は余りに静謐で、ルリは一瞬、凄まじく精巧に作られた人形を見ているような気分になった。

自分も少し前まではこうだったのだろうかと少し考えてしまう。


「貴方は・・・、アキトさんと一緒にいたラピス・ラズリさんですか?」


躊躇いがちに声をかける。

ラピスは頷くことでその問いに答えた。

何も言わない、何もしない。

ただその黄金の瞳をもってルリの姿を見つめるだけ。

部屋の中を何とも言えない沈黙が充満する。

ルリは何を言っていいか分からずに、同じくただラピスの姿を見つめていた。

その肌の色は抜けるように白く、長い桃色の髪は真っ直ぐに背中に流れている。

線の細いその姿は儚げで、ふとしたことで崩れ去ってしまいそうなある種の危うささえ感じさせた。

そして、ルリの視線はラピスの胸の位置で止まった。

ルリは今年で18歳に、対するラピスは今年で13歳になるのだが・・・、

明らかにラピスの方が胸が大きいのだ。

ラピスの胸を見たあとに自分のを見る。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。


まだ望みはある、そう自分に言い聞かせる。

とりあえず、このことは意識の奥隅に鍵を掛けてしまい込み、

目の前の彼女にどう対処したらいいか―――そう考えた時。


「入るよ、ルリちゃんが目覚めたって?」


扉を開けて一人の男が入ってきた。

ルリはその男性を視界に入れると目を見開いて固まった。

ラピスがいる以上考え付かなかったわけではない。

もしかしたら、というその考えは常に頭にあった。

だが、実際に目の前に現れたとなると話は別だ。

もう2度と会えないと思っていた人。

でももう一度だけでもいい、会いたかった人。

ルリの口は意識せずともその男の名前を呼んでいた。


「アキト・・・さん・・・・・・・」


呼ばれてアキトは振り向く。

こざっぱりした白いワイシャツにワンウォッシュのジーパンを身に着けており、ルリがいる部屋同様飾り気は微塵も無かった。

同じく飾り気のまったく無いボサボサの黒髪、

そして最後に会った時につけていたバイザーは無く、その笑顔はルリの記憶にあるそのものであった。


「ルリ、涙出てる。どこか痛いの?」


ラピスの声にルリは我に返った。

頬を触れるとぬれた感触がある。

自分がいつの間にか涙を流している事に気付く。

そんなルリの様子を見ながらアキトがルリに声をかけた。


「まぁ、ここで話しててもなんだし。

 ちょうど、お昼を作った所だから食べながら話そうか」


そしてアキトはにっこりと笑いながら親指で背後の扉を指した。


















食卓には料理が所狭しと並べられていた。

『オムライス』に『ポーチドエッグとほうれん草のサラダ』、さらに『コーンポタージュ』が

人数分―アキト、ラピス、ルリ、サブロウタ、ハーリーの5人分―用意されている。

他には『ガーリックトースト』と水の入ったコップ。

呆れるほど健康的な、さしずめコーラのCMにでも出てきそうな食卓である。

はっきり言ってジャンクフードとサプリメントに依存したルリの食生活とは雲泥の差だ。

しかも場所は屋外。

綺麗に刈り込まれた芝生の上に純白のテーブルクロスを掛けて作られたテーブルは

眩しい日差しに照らし出されていた。

コップにうっすらと浮かんだり、サラダの上に残った水滴も同じくきらめいて爽やかさを演出するのに一役買っている。

多くの者が理想と思い描く食卓がそこにはあった。


「あ、艦長〜。こっちですよ〜〜!」


ハーリーが犬が尻尾を振るような顔で呼んでいる。

見るとサブロウタも既に着席していた。


「さ、ルリちゃん。何処でも好きなところ座って」


アキトが席を勧め、ルリは言われるままに着席する。

アキトも着席するとまるで指定席だと言わんばかりにその右隣にラピスが座った。


「待たせたね。さ、食べようか」


「ホントだぜ。いきなり『ラピスが呼んでる』、なんて言って行っちまうんだからな。

 電波さんかと思ったぜ」


「はは、悪いな。俺は昔ちょっとあってね。

 五感を失っているんだ。

 それを補完するという意味でラピスと感覚をリンクしているんだよ。

 どういう副作用かは知らないが、それでテレパシーのようなものも出来る」


サブロウタの茶化しにアキトが苦笑いをしながら答える。

アキトが答える時にはサブロウタは既にオムライスに口をつけていた。

アキトも軽く『いただきます』と両手を合わせて言ったあとにサラダに手をつける。


「・・・サブロウタさん。私が倒れてからどういう経緯があったんですか?」


ルリがコーンポタージュを一口飲んでから問いかけた。


「手っ取り早く言うと、艦長が倒れたあと、すぐにこのテンカワ達が来てくれたんですよ。

 今はこいつらの艦でナデシコCを牽引してもらってます」


「すぐに?」


「あんな爆発があったら誰だって不審がるよ。

 特にそれが自分達のすぐ近くだったらね」

 
アキトは穏やかに笑いながら話に入ってきた。

ちなみにその右手ではラピスがオムライスからにんじんを除去しようと奮戦している。


「じゃあ何か。あんた達の戦艦、もしくは隠れ家のすぐ近くを俺達は航行していたってのか?」


「そういうこと。

 あと4、5時間もすれば俺達の住処につくよ」


言い終えてラピスの除去したにんじんをオムライスの中に丁寧に混ぜ返してやる。

ラピスが何か訴えるような目で見ているがアキトは涼しい顔で流していた。


「ちょっと待ってください。

 アキトさんたちの隠れ家って・・・、じゃあここは何処なんですか?」


「ユーチャリスの展望台」


ルリは諦めてオムライスを食べ始めたラピスの言葉を理解するのに数秒かかった。


「えっ、でもあの煉瓦の家は・・・」


「俺が作ったんだよ。」


アキトはルリの問いに頬を掻きながら答えた。

起きぬけのルリでは分からなかったかもしれないが、

地平線まで広がっている草原には一箇所亀裂が走っており、それがドアの場所である事を想起させる。

さらにはポカポカと暖かい春の日差しとそよ風は冬である今の季節には、少なくとも地球の北半球にはあり得ないものだった。


「俺もはじめて見た時は驚いたぜ。

 まさか戦艦の中に家を建てるなんてバカがいるとは思わなかったからな」


「ユリカにせがまれてな」


肩をすくめながらのアキトの答えにルリがすばやく反応した。


「そういえばユリカさんは何処にいるんですか。

 久しぶりに会いたいです」


彼女と最後に会ったのは1年前。

寂しくない訳が無い。

会いたくない訳が無い。

如何に「電子の妖精」と謳われようと、ルリは17歳の少女なのである。

彼女は久しぶりにユリカに会えると素直に喜んだ。

だが、返ってきたのは予想外の答えだった。


「ユリカは・・・死んだよ」


「―――!!

 え・・・死んだって・・・・ユリカさんの寿命は・・・まだ3年以上残ってたはずですよ?

 何が・・・あったんですか!?」


ルリの頭の中は真っ白になった。

一瞬で舌が干上がり、唇も上手く動かない。

たどたどしくしか話せない自分を苛つくもう1人の自分がいる。


「・・・ここにはろくな医療設備も無かったからね」


ルリの問いに、アキトは一瞬顔を強張らせた後、何時もの柔和な笑みに戻って答えた。


「5年と言う余命は、イネスさんの治療あっての計算だったんだよ」


アキトの笑顔を見ながら、ルリの頭には一つの疑問が浮かび上がった。

『それが分かっているのなら、どうしてネルガルに、みんなの元に戻らなかったのか』と言う至極当たり前の疑問が。

いくら重犯罪者とはいえ、自分から名乗り出ない限りそうそうバレるものではない。

ユリカのためを思うなら、いやユリカの事を第一に思うアキトなら戻るのが当然のことだろう。

では何故か。

つじつまが合わせられなくなってきたルリの頭に、ある一つの仮説が浮かんだ。

『アキトの言っている事は、全てとは言わないが、嘘を含んでいるんじゃないか』と言う仮説が。

その考えが頭に浮かんだとき、彼女の頭の中で一本の筋道が立った。

アキト達は『戻らなかったのではなく、戻れなかった』のではないか。

そう考え始めると、先ほどのアキトの笑み、あの笑みには『はい、もうこれで終わり』というような強引さが感じられるようになかったか?

そのことに思い当たり、ルリはアキトを問い詰めようとする。

だが―――


「なんだい、ルリちゃん?」


問い詰めようとしたルリの背中にゾクリ、と冷たい感触が走る。

アキトは別に何も言ってない。

ただ笑っただけ。

でも、『そんな事どうだって良いだろ』と言われた気がした。

今なら分かる。

この笑みは、如何なる言及をも却下し、圧倒的な負の感情を叩きつけられたような・・・、

そんな心臓をぶち抜かれるような恐ろしい笑顔であることを。


「あ、このオムライス美味しいです」


不意に場違いな台詞が飛び出した。

言うまでも無いがハーリーのものである。

よく見ると綺麗にグリーンピースだけ皿の端っこに寄せてある。
 
どうやらグリーンピースを除去するのに夢中で今までの話の流れを掴んでいなかったのであろう。

すぐ横で青ざめているルリに気付きもしない。

一方、アキトは嬉しそうにハーリーの方を向いて笑った。

その笑顔は先程のものではなく、既にいつもの彼の笑顔に戻っている。


「本当?」


「ええ、すごく美味しいです」


ハーリーはもごもごと口を動かしながら答える。

その顔は満面の笑顔を写していた。


「そっかぁ〜、そう言ってもらえると俺も嬉しいよ。

 何しろラピスには何を作っても―――」


「アキトの作ったものは何でも美味しい」


「―――だからなぁ。

 俺も味覚の方はほとんど無いから自分の作ってるものが本当に美味しいかどうか分からないんだよ」


示し合わせたようなアキトとラピスの会話を、ルリは何処か遠い場所のことの様に感じていた。

彼女は混乱している。

先程見せたアキトの笑みと今の笑みと、どちらが本当のアキトなのか分からなくなっていた。

そう思うと、今の状況が全て幻想のように感じてきた。

誰もが思い描くような理想の食卓、それは文字通り誰でも思いつくような、ひどく生活感のないものに見えてくる。

それは人の『営み』と言うよりは単なる『作業』のような、

次の瞬間には既になくなっているような、そんなおぼろげな感じを受けた。


(アキトさん・・・・。

 アキトさんは、本当に私の知っているアキトさんですか?)


ルリの心の問いには、当然ながら答えは返ってこなかった。































5時間後、ルリ達を乗せたユーチャリスはアキト達の隠れ家へと到着した。

そこは月軌道上から5日程離れた位置に廃棄されたコロニーに軽く手を加えただけのものであったが、

大抵の生活設備が整ってあり、取り立てて不自由そうなところは見当たらない。

隠れ家とするには絶好の所のように見えた。


「こんなところがあったなんて・・・」


呆然としてルリが呟く。

火星の後継者の反乱後、アキトを見つけ出そうと躍起になって探していた時をふと思い出した。

連合軍、統合軍は愚か、ネルガルのホストコンピューターにまでハッキングをかけたのに

手がかり一つ見つけられなかった物がこんな所にあったのかと少し忸怩たる思いがする。

意識していないようでも、電子の妖精という二つ名には彼女なりに矜持があったのだろう。


「こりゃ凄ぇな。

 あんた達だけでここを修理したのか?」


きょろきょろと周りを見回していたサブロウタが訊ねてくる。


「ああ。もっとも、実質的にやってくれたのはユーチャリスの無人兵器たちと

 それを操作してくれたラピスだけどな」


アキトは答え、定位置である右隣のラピスの頭に手を載せる。

ラピスの表情はまったく変わらないのだが、少しだけ頬に赤みが帯びている。

もしかしたら照れているのかもしれない。


「そりゃ、もっと凄ぇな。

 でも、その材料とかはどうしたんだ。

 いくらなんでも廃棄コロニーのクズ鉄だけで完成する訳無いし・・・、

 ネルガルからの支援か?」


「いいや。ネルガルとは去年の冬、つまり火星の後継者の残党もあらかた殲滅した頃には既に手を切っていたよ。

 それからはアカツキたちにも会っていない」

 
「じゃ、どうしたって言うんだ。

 ネルガルと手を切ったって言うんなら食料とかの生活物資にだって事欠いちまうだろう?」


「それは・・・」


アキトはサブロウタの当然といえば当然である質問に少し言いよどむ。

あさっての方を向きながらぽりぽりと頬を掻くその姿は悪戯をした子供に似たものがあった。


「一番小柄な奴なんだけどな・・・。木星のプラントを1つ失敬してきた」


サブロウタ以外にその言葉を正しく理解できた者はいたであろうか。

木星プラントといえば数年前までは文字通り木連の生命線とも言える存在であった。

ゆえにその警備は仰々しいまでに厚く、もしもプラントを奪取、もしくは破壊などをしようとしたものは、

例え未遂であっても死刑は免れない。

それほどまでに重要なものだったのだ。

もっとも、それらは実際に木連に住んでいた者だけが持つ、ローカルな価値判断であり、

ルリとハーリーはそこまでピンとは来なかったようだが・・・。

しかし、サブロウタだけは別であった。

その価値が痛いほどに分かる彼にはアキトがどれほどの暴挙をしたのかが分かるのだ。


「あ、あはは、あはははははは・・・・・・。

 さすがは『暗黒の王子様』。やる事が凄いねぇ」


「ま、今じゃ誰も使っていない代物だからな。

 結構重要なものらしいが、別に誰も困らないだろう」


アキトに悪気は無いのだが、この言葉は全くの間違いである。

アキトが持ってきたプラントは小柄ながら無人兵器や相転移エンジンのみならず、

細かなデータさえ与えてしまえば、歯ブラシから衣服まで何でも生産してしまうという変り種である。

さらにラピスの試行錯誤によりなんと肉や野菜などの有機物さえも作り出す能力を兼ね備えている。

しかも、どういう原理かは不明であるがそれらを作り出すのに原料となるものは一切無く、

完全なる無から有を生み出すという、間違いなく木連プラントの中でも最重要のものであった。


「と、言うわけでナデシコCのデータさえラピスに渡してもらえれば

 明日にでも地球に向けて出発する事が出来るよ」


「おいおい。エンジンパージしたってのに1日で元通りかよ。

 本当に凄ぇな」


「まぁ、厳密な意味では完全に元通りとはいかないまでも、とりあえず帰還するまでは問題無いと思うよ。

 ちょっと暇になると思うけど、とりあえずその間は適当にしてなよ」


アキトのこの何の気無しの一言にルリが意を決したように口を開いた。


「アキトさん・・・、お願いがあります」


「ん?なんだい」


「それは・・・・・・」
















ルリの頼み、それは以前アキトが彼女に渡したレシピのラーメンを作ってくれというものだった。

いつかアキトに会えると信じて、肌身離さず持っていたレシピをアキトに手渡した。

それはアキトが修羅ではなく、一人の人間であった、『テンカワアキト』であったという証。

そして墓地で言葉を交わした日にアキトがルリに託した『人としての物語』。

アキトは少しだけ戸惑ったが、やがていつもの柔和な笑みを浮かべてルリの願いを快諾した。

それからの時間、アキトは1日掛けてテンカワ特製ラーメンの下ごしらえを、ルリはその手伝いをした。

ハーリー、サブロウタはラピスによるナデシコC修復の手伝いをする事になった。

ルリの提案により、最後にテンカワ特製ラーメンを食べてから地球に向けて出航する事となったのだ。

そして今、アキトは実に3年半ぶりにテンカワ特製ラーメンを作ろうとしている。

本格的な厨房を使うため、コロニー内ではなくユーチャリス内にある厨房を使用していた。

アキトがアカツキからこの船を渡されたときに、必要ないと一言で切ったこの厨房は、

今彼の人生をかけたとも言える料理を作るために使われている。

その料理を振舞う相手がアカツキ本人ではないのは皮肉なのであろうか。


コトコトコトコトコトコトコトコト・・・・・・・。


アキトは一言も発さずにただ目の前の寸胴を凝視していた。

その中には今にも沸騰せんばかりのお湯がコトコトと音を立てている。

異様なまでに静かな厨房内でその音はやけに大きく聞こえた。


「・・・ルリちゃん」


そんな中、アキトが背後にいるルリに問いかけた。

ルリからの返事はない。

が、聞いている事は気配で分かるのでアキトはそのまま言葉をつなげる。


「この料理は・・・、テンカワ特製ラーメンは・・・、

 俺が『人』であった証としてルリちゃんに託したものなんだ・・・。

 修羅に身を堕とした自分には作ってはいけないものだと考えてたんだ。

 偶然ルリちゃんたちに会って、そして頼まれなければ二度と作らなかったと思う。

 それは・・・、今の俺にとっては良い事なんだろうか?」


その言葉は完璧なニュートラルで、

悲哀も苦悩もその欠片すら見つけられない。

彼の瞳にもただ静謐な光だけが見えた。

後悔か、戸惑いか、悲しみか、喜びか・・・。

そのどれにも見えるし、そのどれにも見えない。


「・・・さぁ。私では今のアキトさんの心は分かりません。

 ただ、昨日いただいたご飯はとても美味しいものでしたし、

 アキトさんのラーメンをまた食べられる事は私にとってはとても嬉しいことです」


ルリは答えながら麺の入った箱をアキトの横に置いた。


「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」


アキトは暫し悩んでいたが、やがて意を決したように箱の中から麺の玉を取り出した。

その数5つ。

アキトは軽くほぐしてからお湯の中に入れた。

麺がお湯の中で暴れ始めるのを確認したら次はあらかじめ用意しておいた丼に醤油ダレを均等に入れる。

後は麺を入れる直前に昨日一日かけて煮込んだスープを注いで適度な濃さにするだけだ。

そしてアキトは再び暴れる麺に視線を戻す。

じりじりとした時間だけがただ流れていた。

アキトは動かない。

ひたすらに麺の動きを凝視するだけ。

背後のルリも動かない。

ひたすらにアキトの背中を見つめているだけ。

一瞬の、既視感(デジャビュ)。

ルリは今のアキトに昔のアキトを垣間見た。

ずいぶんと時が過ぎ去ってしまったが、

この背中だけはルリが屋台を押していた時に見た背中のままだ。

ふとアキトは実は何も変わってはいないのではなかろうかと考えてしまう。

『暗黒の王子様』となり五感も失ってしまったが、

アキトさえその気ならもう一度共に暮らせるのではないか、そう思えてしまう。

ルリがそう考えた時、アキトの時間が再び動き始めた。

アキトは平ザルを手にして湯の中で暴れる麺を的確に、均等に救い上げる。

ザルの上で軽く湯を切りながら用意していた丼に入れ、スープを注ぎ込む。

軽くほぐした後にシナチク、なると、海苔、チャーシューを乗せる。

その動きに淀みはなく、ひたすらに早く、正確な様はいっそ演舞と言っても良いかも知れない。

アキトは5人分の作業を、時には2人分いっぺんにこなすなどして僅か30秒で仕上げてしまった。

無論手抜きなど一切していない。

アキトは全ての作業が終わると、軽く息を吐いてルリに振り返った。

その顔はルリから見て、幾分晴れやかなものに見えた。


「出来たよ。ルリちゃん、みんなを呼んできて」


その言葉にルリはくすりと笑って答える。


「もうとっくに呼んでいますよ。

 今から呼んだのでは麺が延びてしまいます」















「ハーリー、先行ってるぞ」


「あ、待ってくださいよぉ〜」


ルリから通信が入り食堂へと行こうとするサブロウタとハーリー。

データの転送だけしてしまえばやる事がなかったので実は暇を持て余していたこの2人。

サブロウタは待ってましたとばかりにブリッジを抜け出していった。

ハーリーもすぐに後を追おうとする。

しかし、すぐに後を追おうとするのではなく、つい先程まで作業をしていたラピスに眼を向けた。

ラピスはオペレーター席でまどろんでいる。

簡単なデータ転送だけで良いハーリーたちと違い、ラピスはそのデータを遺跡プラント用にコンパイル(翻訳)しなおし、

さらに作業用無人兵器に対するプログラミングもしなければならない。

ラピスはこの作業中一睡もしていなく、ろくに休憩すらとっていなかったのだ。

熱でもあるのだろうか、顔に朱が入っており息遣いが少し荒い。

ハーリーはラピスを起こすために近づいていって軽く肩を揺すった。


「えと、ラピス・・・ちゃん?艦長とテンカワさんが呼んでるよ」


ハーリーは少し躊躇いながら声をかけた。

しかし気がつかないラピスに今度は少し強く揺すりながら声をかける。


「起きなよ。テンカワ・・・、いやアキトさんが呼んでるよ」


「アキトが?」


『アキト』の単語を聞いた途端、ラピスは眼を覚ました。

だが、その表情は虚ろだった。

それは寝ぼけている、と言えなくもないのだが・・・。


「うん。食堂に来てって言ってたよ。早く行こう」


実際に通信を入れてきたのはルリなのだが、別段言うことでもないし

実質的には変わらないことなのでハーリーはそのままアキトが呼んだということにした。

そしてラピスがオペレーター席から降りて出口に向かおうとした時、


「あ」


ラピスが気のない声を出しながら前方へと大きく傾いた。

よほど疲労が溜まっていたのであろう。

足を引きずるようにして歩くラピスの靴裏が偶然にも摩擦力の強い角度で地面に擦れてしまったのだ。

つまり、何もない所でつまづいてしまったのである。


「危ない!!」


前方に倒れこもうとするラピスに対し、ハーリーは自分をクッション代わりにするようにラピスと床の間に滑り込んだ。


ドサッ


間一髪、ハーリーのおかげでラピスは床との強制的なキスを避けることが出来たようだ。

代わりにラピスはハーリーの胸に飛び込むという形になっている。


「だ、大丈夫?」


「うん、・・・ありがと」


(か、かわいいっ!!)


ラピスの顔には朱が差していたのだが、

それを何をどう勘違いしたのか、ハーリーは照れていると勘違いした。


(・・・って何を考えているんだ、僕は!

 僕には艦長というものがありながら・・・あ、良い匂い)


ラピスを抱きしめながら顔を七変化させているハーリー。

喜んだり、困ったり、怒ったり、

非常に器用と言うか忙しい言うか・・・、

とりあえずその表情は健全な13歳とは言いがたい。

ハーリーがそんな一人上手に夢中になっている間にラピスはするりとその腕から抜け出していた。


「ハーリー。先、行ってるね」


「ダ、ダメだよ。僕には艦長が・・・って、えっ!?」


ラピスはハーリーの様子を少しの間だけ見ていたが、その言葉だけを残して少々危なげな足取りでブリッジを出て行ってしまった。

後に残されたのはいと悩み多き少年一人・・・。


「ちょ、ちょっと待って!

 ・・・・・・行っちゃった」


ハーリーはつい先程までラピスの居たところを見つめた後に、自分の両の掌を見つめながら呟いた。


「・・・・・・・暖かったな」









































その後、ユーチャリスの食堂にて5人はテンカワ特製ラーメンを食べた。

その味はとても味覚の欠けた者の作る料理とは思えないほど美味しく、

ルリをして当時の味とまったく変わらないと言わしめた。

そして最後の晩餐の2時間後、一同は修理の終わったナデシコCの前にいた。

ただ、その中には先程から体調不良となっていたラピスの姿は見えなかったが・・・。


「艦の修理ありがとうございました」


「とりあえず、ここのことは報告しないでおくよ。

 飯ごっそさん。美味かったぜ」


「ご飯、とっても美味しかったです。ありがとうございました。

 ・・・ところで、ラピスちゃんは大丈夫ですか?」


上から順にルリ、サブロウタ、ハーリーが一人づつ礼を言っていく。

アキトは律儀に一人づつ受け答えいった。

ハーリーの問いに対してはラピスは体調が悪いのでユーチャリスの医務室で休んでいるとだけ答えた。

その際、サブロウタがハーリーとラピスの関係―といっても何もないのだが―をからかったりもしたのだが、

概ね、何事もなく別れの挨拶は終わろうとしていた。 

だが―――


「アキトさん・・・。戻ってきては、くれないんですか?」


ルリが呟きにも似た声量で訊ねた。

その答えは困ったような苦笑いだけ。


「何でですか。何でダメなんですか?」


「ゴメンね、ルリちゃん。

 でも、俺はもうみんなと同じところへはいけない。

 『テンカワアキトという人間』は死んだんだ」


穏やかな、余りにも穏やかなその表情で話すべき内容ではない。

ぎりっと音がしそうなほどに奥歯を噛み締めて、ルリは感情のままに叫びだしたい気持ちを何とかこらえた。


「そんなこと、ありません。

 今のアキトさんも、5年前と変わらない『テンカワアキト』でした。

 テンカワ特製ラーメンを作っていたときの背中は、私が知っていたものと何も変わってはいませんでした。

 アキトさんが言っているのはただの逃げです。

 勝手に自分を見限って、

 勝手に幸せを追求する事も諦めて、

 ・・・そんなの勝手すぎます」


ルリの言葉にアキトは再度、今度は先程よりも幾分深く

困ったような苦笑いをして見せた。

そして、ルリに何かを言おうとしたその時、


「ぅあ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛っっ!!」


地の底から響くような、さながら聞くものの神経をやすりで磨り潰すような声がユーチャリスの奥から聞こえてきた。

声の主はラピスで間違いないだろう。

しかし、あの無口な少女がこんな叫びを口にするだろうか。

苦痛が溶け込んでいるようなその声は、数時間も聞いていればまともな神経は破壊されそうだ。

ルリたちは皆、困惑の表情が隠せないでいた。

ただ一人、アキトを除いては。


「ちぃっ、よりにもよってこんな時に!」


「アキトさん?」


「俺はラピスを見に行ってくる。

 みんなはもう帰ってくれ」


「私たちも行きます」


「いや、いい。もう帰ってくれ」


「アキトさ「いいから帰ってくれっ!!」


それだけ言うとアキトは踵を返しユーチャリスの中に走って行ってしまった。


「どうします、艦長」


「僕らも行きましょうっ!

 ラピスちゃんが心配です!!」


「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」


ルリは2人の言葉を無視するかのようにただアキトの残滓を見つめていた。

先ほどのアキトはルリ達がここに来てから初めて見せるような激しい感情だった。

まるで、今までの穏やかな表情が全て仮面であったかのように。


「艦長?」


「・・・行きましょう。2人が気になります」


「2人って、気になるのはラピスの様子じゃないんですか?」


「いえ、それだけじゃなくて・・・」

















もはや途切れ途切れにしか感じられないラピスとのリンクによるイメージを頼りに、アキトはユーチャリスの中を走っていた。

ラピスの感覚のイメージこそ僅かしか感じられないが、

その思考は断続的にアキトの脳裏を揺さぶり続ける。

怒り、妬み、恨み、悲しみ、後悔、喜び、希望、執着心、勇気、諦め・・・。

人間のありとあらゆる感情を極限まで増幅したものを織り込んだ棍棒で頭部を強打されているような感覚だ。

少しでも気を緩めると意識を根こそぎ持っていかれそうになる。

そんな状況でアキトは走り続け、数分後、ラピスを見つけることに成功した。


「ラピス・・・」


アキトがラピスを見つけた場所はユーチャリスの展望台であった。

展望台内の時刻は夕方らしく、ラピスを紅く照らし出していた。

これが昨日までのラピスなら、まさしく妖精の二つ名に相応しい光景となっていただろう。

しかし、今アキトの目の前にいるラピスにはそのような評価が下る事はまずない。

流れるような桃色の髪は激しく乱れ、夕日に照らされて赤く染まっている。

口からは唾液がだらしなく垂れ、静謐な光をたたえていたその瞳にも、既に理性の色は見えなかった。


「ア゛キ゛ト゛」


彼女、いや彼女だったものはアキトの姿を見るとにたぁっと笑い、


「ア゛キ゛ト゛ォ゛ォ゛ォ゛ォ゛ォ゛ォ゛ォ゛ォ゛ォ゛オ゛オ゛オ゛オ゛ッッ!!」


アキトの元に向かって走ってきた。

そのスピードは速く、もともとあまり身体の強くはない彼女の限界を超えている事は明白であった。

そしてその勢いを殺さないままにラピスはアキトの喉元めがけて右の手刀を繰り出してくる。


「くっ!」


アキトはその手刀を半身になることで避わし、そのまま自らも前に出ることで立ち位置を変える。

そして2歩、3歩バックステップをして距離をとった。


「・・・ラピス」


アキトは夕日を背にしながら、両手を開きラピスを招くような態勢をとる。

ラピスはまたもや一直線にアキトに向かって突っ込んできた。

そして今度は転ばそうとでもしたのか、アキトの胴に向かって思い切り体当たりをかました。

だがその思惑は外れ、アキトは倒れることなく踏みとどまる。

そして開いていた両の手で自分と密着しているラピスの頭を強く抱いた。


「う゛あ゛、う゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛っ!」


自分を抱きしめるアキトの手を外そうとして暴れるラピス。

しかし力で振りほどく事が出来ない事がわかると、同じくアキトのことを抱きしめ始めた。

否、これはそんな生易しいものではない。

少し伸ばしてある爪でアキトの腰を掻き毟り、噛み付き、再度暴れる。

アキトの身体からはかなりの量の血液が噴き出し、ホログラムの芝生を濡らしていた。

だがアキトは動じず、顔色一つ変えないでラピスの事を抱きしめ続ける。


「お前が、先だったか・・・」


アキトはそう呟くと、隠し持っていたナイフを取り出した。

黒塗りの鞘から、さらに黒く塗られた刃を引き抜く。

そしてその先端をラピスの左脇に持っていった。


ぞぶり。


刃を突き刺せば、ナイフを握り締める手に、独特の感触が伝わってくる。


「俺もすぐに行くから、先に行って待っていてくれ」


耳元で低く囁いて、突き刺したままのナイフを一度えぐってから手を離す。

ラピスはずるずるとアキトにもたれかかりながら沈んでいった。

肺ごと心臓を貫いてしまったためにもはや言葉は出ない。

その代わりに大量の血塊が吐き出された。

アキトは片膝をついて、力なく口を動かしているだけの少女を仰向けてそっと抱きしめる。


「ラピス・・・」


抱かれた少女は答えない。答えられるはずがない。

死は、生者と亡者とを分かつ超越不可能な区切り。

かろうじて残っている生命の残り香も、止め処なく溢れる血液とともに流出し続けている。

アキトは虚空を見続けるラピスの瞳をそっと閉じてやると、再度自分の口をラピスの耳元へと持っていく。

伝えたい言葉は沢山あった。

伝えるための時間もあったはずだ。

だが、そのための時間は予期せぬ来訪者のために使い切ってしまった。

だから、一言だけ・・・。

何よりも伝えたかった言葉だけを・・・。


「・・・ありがとう」


こんな俺に、尽くしてくれて・・・。

























・・・ただひたすらに、赤かった。

ルリがアキト達を追って展望台に入って、最初に思ったことはそれだった。

逆光ながら眼が眩まんばかりと言うほどでもなく、

しかし、楽に直視できるというほどの慎ましやかな光でもない。

芝生も、煉瓦小屋も、目に映るもの全てが赤く染まっていた。

その真ん中で光を遮る様に、いや、むしろ太陽の光を拒むかのように存在する2人を除いては。


「アキト・・・さん?」


ルリの躊躇いがちに発したその声に反応してアキトは顔を上げた。


「・・・来ちゃったんだね、ルリちゃん」


アキトの口調も表情も、ひどく物憂げだった。

ただひたすら疲れて沈んだような物言い。

先ほどまでの穏やかで余裕のある表情の仮面は剥げ落ち、

その下の素顔は、まるで何もかもを、自分自身でさえも倦(う)んでいるような顔だった。

怒り、悲しみ、苦しみぬいた挙句、何もかもを失くしてしまったような、空洞のような瞳。

これが彼の、『暗黒の王子』の素顔なのだと、ルリは瞬間的に悟ってしまった。


「出来れば、この姿を見られたくはなかったよ」


そう言って、つい数分前まで生命活動をしていた少女をそっと横たわらせる。


「ラ、ラピスちゃんはどうなったんですかっ!?ラピスちゃんは・・・」


「殺したんだ」


ハーリーの問いを遮ってアキトは答えた。


「俺がラピスを殺したんだ。 暴走してしまったラピスを止めるために、ナイフで心臓を貫いたんだ」


呟きは、ハーリーに向けたというよりも、むしろ独白に近かった。

まるで自分が何をしたのか、その確認をするように。


「暴走って・・・・・・」


「遺跡がボソンジャンプの大演算装置だってことは知ってるよね。

 そして、遺跡には古今東西、在りと在らゆるジャンプのイメージが経由してくるという事も。

 じゃあ、その遺跡ナノマシンが体内に入ったらどうなると思う?」


ルリたちはその言葉の意味を即座に理解した。

常に他人のイメージが流れ込み、自我という境界を侵食し続ける。

自分が自分ではなくなる感触。

それは果たしてどれほどの恐怖なのか、苦痛なのか。

余人には決してわかるまい。

分からぬほうが、恐らく幸せであろう。


「辛いよ。

 一日、また一日、自分が自分でなくなるのを実感していくのは。

 じわりじわりと自分を象(かたど)っていたものが壊れ始め、

 何時しかこんな問いにが頭に浮かぶようになる。

 『自分とはいったいどんな人間だったのか』って言う問いがね。

 そうなったら、もう危ない。

 この世に精神を繋げていられなくなる。

 だから俺達はどんな時だって気を張っていなくちゃならなかった。

 遺跡からはそれこそ昼夜を問わずに、寝ている時にだって大量のイメージが送られてくる。

 そして、それに耐えられなくなったらここが、狂っちゃうのさ」


そう言って、アキトは自分の頭を指でトントンと叩く。


「まさか・・・ユリカさんもっ!?」


「ああ。ユリカも俺の手で殺したんだ。

 その時の感触が、俺の手にはまだ残っている」


ルリの問いにアキトはとても億劫(おっくう)そうに答えた。

もはや喋る事、息をする事すら億劫そうに見える。


「まぁ、ユリカはそのおかげで俺とまた会えたと、喜んでもくれたけどね」


復讐が終わった時、アキトは2度とユリカの前に姿を現さないことを誓っていた。

しかし、その誓いを破らせたものもこの現象だったのだ。

アキトはユリカが狂う様を誰にも見せないように、ユリカを誰もいないこの廃棄コロニーへと連れ去ったのだ。


「ユリカさんは貴方の奥さんですよね・・・。

 ラピスちゃんは貴方の娘も同然の存在ですよね・・・。

 それを・・・、いくら狂ったからって・・・。

 何で・・・、何で殺せるんですかっ!?

 あんなに可愛かったのに・・・っ!あんなに暖かかったのに・・・っ!!

 何でなんですかっ!?貴方はそれでも人間なんですかっ!!?」


ハーリーの呻く様な叫びに、アキトはにぃっと笑みを浮かべた。

それはとても凄惨で、見る者の心を締め付けるようで、

憎しみ、悲しみ、怒り、自噴、殺意、後悔・・・

人のマイナス感情という色彩全てを含み、それらを覆い隠すどす黒い笑顔だった。


「言ったろ。『テンカワアキトという人間』はもう死んだんだよ。

 ここにいる男は、奴らと同じただの外道だ」


それだけ言うと、足払いを食らったように彼の膝が折れ、その場で膝立ちの状態となった。

そして両肩を抱いてぶるぶると震えだす。

まるで、自分の中に巣食う獣を閉じ込めるように。


「さあ、もうナデシコCに戻るんだ。

 俺の理性ももうすぐ限界を超える。

 そうしたら、俺はみんなを殺してしまうかもしれない」


アキトの顔が紅潮し始め、次第に息も荒くなる。

ラピスのときと同じ、暴走の前兆が現れた。

しかし、その顔に先ほどまでのどす黒い笑みはない。

自嘲の笑みも、運命に対する怒りも、悲しみすらもない。

ただひたすらに疲れた表情だけが淀んでいる。

何処までも何処までも・・・、生きる事にさえ疲れてしまったような顔。

その顔を見たルリはどうしようも無く堪らなくなって、一歩、また一歩と足を前に出してしまった。


「・・・ルリちゃん、こっちに来るんじゃない」


アキトの言葉にルリは軽く首を振って前進を続ける。


「アキトさん、・・・もういいんですよ。

 もう、これ以上自分を追い詰めなくてもいいんですよ」


ルリはアキトの目の前まで止まり、話しかけた。


「別に。そんな事は思ってないよ。

 これから狂う様をルリちゃん達に見られたくないだけ。

 ただ、自分が可愛いだけさ」


「そう言って、ユリカさんやラピスさんだけでなく、私にまで嘘をつくんですか」


ルリは正面からアキトを見つめて言葉を放つ。

一瞬だが、冷たくも激しい気迫がアキトの厭世的な心情に水をかけた。


「もう、2人はいないんですよ」


問い詰めながらルリが踏み込む。

アキトは後ずさりしようとして・・・しかし魅入られたように動けなかった。

ルリの必死な気迫が嫌でも分かるのだろう。


(こうなる気はしていた。

 一度嘘に気付かれたら、もう言い逃れは出来ない。

 彼女の芯の強さがそれを許してくれない。

 そう、分かっていた事なんだ。

 あの日、ナデシコCを助けたときから・・・)


アキトは、ルリの一直線に伸びてくる視線を淡々と見ていた。

そして気付く。

自分の心にさざ波が立ち始めていた事に。


「本当のことを言ってください」


(ルリちゃんの言うとおり、俺は嘘をついている。

 でもそれは俺がルリちゃんに嘘をついていただけじゃない。

 俺自身の心を誤魔化すためについていたんだ。

 何事も無く今日という日を過ぎ去らしてほしかったんだ。

 だから怖かったんだ。

 ルリちゃんのその瞳に見据えられていると・・・、

 何もかもを見抜かれてしまいそうでっ!)


「出てけよ。もう充分だろう。

 部外者が勝手に俺の心を掘り返すなっ!!」


アキトの口調が変わった。

それはそれまで何層にもあったオブラートを全て取り除いた、久方ぶりのアキトの『言葉』だった。


「嘘だっていいだろう!そうすることで例え幻想でも幸せを感じられるならっ!!

 現実なんて向き合いたくも無いんだよ!!

 俺はここで朽ちていきたいだけなんだ!!

 俺のやっている事に口を出すな!!

 おまえなんか、おまえなんか助けなきゃ良かったんだっ!!

 それを―――」


パンッ!


乾いた音が響いた。

ルリがアキトの頬を叩いたのだ。

その黄金の瞳からは、大粒の涙が溢れ出している。


「まだ、そんなこと言ってるんですか。

 なんで自分をそこまで追い詰めるんですか?

 アキトさん、もう充分苦しんだじゃないですかっ!!」


アキトの心をルリは悟っていた。

アキトは、咎人たる自分にはまだ罰が足りないと考えていたのだ。

死んではならない。

それではむしろ解放という救いを与えてしまう。

自殺などはもっての他だ。

親しき者を殺し、狂いながらこの廃棄コロニーを徘徊し、最後は人とも呼べないような惨めな姿で死んでいく・・・。

そんな死に様こそが自分には相応しい、それでこそ自分の罪は償える。

そう思っているのだ。


「・・・私が、アキトさんを救ってあげます」


ルリは握手をするような何気ない動作でうずくまるアキトの前に右手を上げる。

その手に握られている物にアキトが気付いたときには、

右手にすっぽりと収まってしまうような小口径の銃が真っ直ぐに彼の顔に向いていた。


「何をっ?」


「私がアキトさんを殺してあげます。

 アキトさんの悪夢に幕を閉じてあげます」


アキトの問いにルリはそう答え、同時に遊室を操作して薬室に初弾を送り込み、安全装置を解除した。

その表情は慈愛に満ち溢れ、ぞっとするほどに美しい。

無骨に黒光りする拳銃との対比が、冗談のようにシュールな光景を作り出していた。


「もう・・・我慢しないでください」


パキッ


その一言が辛うじて保たれていたアキトの心の箍(たが)を壊した。

意識が加速度的に遺跡によって侵略されていく。


「う゛、う゛ぅ゛ぅ゛ぅ゛ぅ゛ぅ゛・・・・・」


筋肉が膨張し、一回り体躯が大きくなる。

手は何かに足掻くかのように胸を掻き毟る。

だが抵抗むなしく、彼の眼からは理性の色が消えていく。


「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛っ!!」


アキトは絶叫した。

解放に生じる強烈なまでの快感と、無理矢理身体の構造を変えようとする肉体の痛みが衝突する。

だが、程なくして変化による痛みは治まった。

自分が何者であるか、何者であったか。

そんな事はもはやどうだって良い。

もう何も考えまい。もう何も抵抗すまい。

この狂おしいほどの快楽に身を委ねてしまおう。

そう考えた時、アキトはごぞりと音を立てて自分の中に何かが膨れ上がり、そして動き出すのを、恍惚として感じていた。


「危ない、艦長!!」


サブロウタの警告と共に彼の持つ拳銃が咆哮をあげる。

だが、その弾丸は目標としていたものには命中せず、ルリの目の前を掠めていくだけであった。


「消えたっ!?」


サブロウタの狙いは完璧だった。

本来なら確実にアキトの眉間を貫いていたはずだった。

しかし、アキトの身体は白昼夢の如く消失して、その銃弾を避ける。


「はは、ははははははは!」


極端な前傾姿勢で跳ねるようなバックステップを繰り返し、いったん距離をとるアキト。

その口からは愉悦の笑いが漏れ出していた。


「大丈夫ですか、艦長」


「はい」


サブロウタは言いながらルリの隣まで走ってくる。

ルリはアキトから目を離さずに答えた。


「サブロウタさん、接近戦は避けましょう」


「あのスピードじゃ、近づかれたら銃なんて意味無いですからね」


「はい。サブロウタさんはサポートをお願いします。

 止めは・・・、私にやらせてください」


一瞬、サブロウタは目を見開いてルリの顔を見たが、すぐに了解の合図を出した。

アキトの突撃に備え、迎撃の構えを取る。

が、2人は背後から服を引っ張られる感触に意識の一部を背後に回した。


「ちょ、ちょっと待ってくださいよ。

 アキトさんは艦長のお義父さんなんですよ。

 なんでそんな事ができるんですかっ!?

 艦長も!サブロウタさんも!!」


引っ張っていたのは何時の間にか2人の背後まで来ていたハーリーだった。

ハーリーは2人の服を掴んだまま、その行動に異を唱える。

何故わざわざ殺さなくてはいけないのか。

適当に牽制しながらナデシコCに逃げ込んでしまえばいいのではないか。

そのほうがリスク的な面はもちろん、ルリが義父殺しをするという可能性も無くなる。

それはルリのこれからの人生に逃れられない十字架を背負わす事になるだろう。

しかし2人は動じず、サブロウタが首だけハーリーに向けて答える。


「ここで殺してやらなきゃ、あいつはこれから先何十年もこの廃棄コロニーを彷徨うことになるんだ。

 お前はそれでも良いって言うのか?」


「ユリカさんとラピスさんには、アキトさんが『人としての死』を与えてあげました。

 でも、私たちが帰ってしまったらアキトさんに『人としての死』を与えられる人はいなくなります」


淡々と話す2人の言葉にハーリーは行き場の無い怒りを覚えた。

確かに2人の言い分は分かる。

分かるが、何故それが自分たちなのだ!

何故それが義娘であるルリなのか!!


「・・・言いたい事は分かりました。

 でも何故ですか。何故艦長自らが止めをさす必要があるんですかっ!?

 サブロウタさんでも良いじゃないですか!!」


「それは・・・・・・ダメです。

 あの人は・・・、アキトさんは人形だった私に感情をくれました。

 『人としての物語』をくれました。

 アキトさんがいたから、私は私になれたんです。

 だからアキトさんの『人としての物語』の幕を閉じるのは私の役目です。

 それは他の誰でもない、私だけの権利であり義務でもあるんです」


ハーリーには、それ以上何も言えなかった。

ルリの覚悟を知ってしまったから。

ルリの過去を聞いてしまったから。

そしてその間に、自分が入る隙間が全く無いことを悟ってしまったから。

ハーリーは掴んでいた2人の服を、力無く離した。


「確証は無いですが、恐らくアキトさんはサブロウタさんを狙ってくると思います。

 ですからサブロウタさんはアキトさんを正面から迎撃して注意を引き付けてください。

 その隙に私が止めを刺します」


「了解!」


2人は最後に一瞬目配せをした後に、同時にアキトに対して銃口を向ける。

対するアキトは、先程と同じ極端な前傾姿勢のまま獲物を睨む肉食動物のようにじりじりと動いている。

突きつけられた銃口を確認すると口の端を挙げ、獰猛な笑みを浮かべた。

そして―――


「るぅぅううああああああああっ!!」


理性無き雄叫びを上げながらアキトは突っ込んできた。

ルリの読みがぴしゃりとはまり、狙いはサブロウタ1人に絞っていた。

人間の限界を軽く超える瞬発力で近づいてくるアキトに、サブロウタは軽い眩暈を覚えながら照準を合わせる。

いくら速くても動きは直線的。

サブロウタは冷静に狙いを定め、アキトの脚部を狙って発砲した。

火を吹く銃弾がアキトの右太腿に弾丸を撃ち込む。

がくっ、とアキトの身体が傾き血煙が舞った。

サブロウタは会心の笑みを浮かべ―――アキトのいまだ衰えぬ眼光に、それが脆くも崩れ去る。

弾丸はアキトの右太腿の外側の肉を抉り取り、その衝撃でアキトの態勢を崩したが、

それぐらいで今のアキトの行動を阻止する事は出来なかった。

アキトは傾きながら偶然近くにあったラピスの死体へ向けて跳躍する。

そして脇腹からナイフを引き抜き、再度跳躍しつつサブロウタに向かって投げつけた。

放たれたナイフはサブロウタの左腕に突き刺さる。

サブロウタは一瞬驚愕に囚われたが、アキトから離れるように飛び退り、ナイフを抜きつつ反撃を試みた。

轟音。轟音。轟音。

続けざまに発砲される銃弾がアキトを襲う。

しかしアキトはサブロウタの攻撃を全て紙一重で避けつつも前進を続ける。

その距離はどんどん近づいているのだが着弾する気配は全く無い。

むしろサブロウタのほうが焦り始め、照準に狂いを生じるという悪循環に陥りつつある。

そしてついにサブロウタは、アキトの攻撃が届く間合いへと接近を許してしまった。


「くっ!」


驚愕に見開くサブロウタの眼球を視界に納めながらアキトは電光石火の手刀で右手の拳銃を叩き落とす。

拳銃が落ちた音を聞きながらアキトは返す刀で喉元を狙う。

サブロウタの網膜に、孤を描く死の刃が焼きつけられた。

咄嗟に飛んで避けようとしたが、自分の流した血に滑って転んでしまう。

圧倒的な絶望感が胸の奥から全身へと駆け巡った。


―――殺られる!!


サブロウタの真っ白になった頭でその言葉が爆発する。

それ以外、何も考えられなくなる。

必殺の力を秘めた手刀が自分の喉元に吸い込まれるまさにその時。


「うわぁぁぁああああっ!!」


ハーリーがアキトに向かって突っ込んでいた。

その手には先ほどサブロウタが抜き捨てたナイフが握られている。


ずぶ


完全に不意打ちの形となったこの一撃はアキトの右脇腹から肺を貫き、器官までをも傷つけた。

思わずむせるアキト。その口からは咳の代わりに大量の鮮血が吹き出した。

アキトはたまらず距離をとろうとする。

そして彼は見た。

銃を構えた一人の少女を。

彼は瞬時に理解する。

自分の身体が、致命的なほどの死に体を彼女の前に晒しているという事を。


―――短く、けれど気が遠くなるように長い静寂。


アキトは刺された脇腹を押さえながら、銃口越しにルリを見つめていた。

彼のその眼に浮かぶのは諦めと、なぜか安堵の笑みだった。

ルリは無表情のまま呟く。


「さようなら、アキトさん」


その宣言と連続する銃声が重なった。

次々と撃ち込まれる銃弾に、アキトの身体は跳ね踊った。

小口径とはいえ、昔のように強化スーツを身に纏っていないアキトの肉体は、抉られ、引き裂かれ,吹き飛ばされる。

そしてついに、最後の銃弾が心臓に打ち込まれると、アキトは自らが流した血の海に、無言の内に倒れた。

ルリは倒れたアキトの傍らへと赴き、血に汚れることを厭わずにその場に膝を付く。

少し躊躇った後、その髪に触れてみた。

少しごわつくボサボサの頭は記憶と同じもので。

流れ出す血液と共に徐々に熱を失っていく身体を、仰向けてその頭を膝の上に乗せる。


「アキトさん。・・・これで、良かったんですよね」


やはり感情の欠片も無いような表情でルリはアキトに問いかける。

答えは、無い。

ただその口元に笑みが作られていることがその代わりなのか。


「アキト・・・さん」


再度呼ぶルリの声は震えていた。

やはり答えは無い。


「アキトさん、アキトさん、アキトさん・・・」


何度も、何度もアキトを呼び続けるルリの表情がくしゃり、と歪んだ。

見る見るうちにその金色の瞳に涙が溜まり、そして流れ落ちる。


「アキト、アキ・・・、ア・・・ぅあ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛っ!!」


ルリは泣いた。

アキトの頭を抱いて、泣き喚いた。

































「ったく、どうすりゃいいんだか・・・」


サブロウタはナデシコCの廊下を歩きながら呟いた。

アキト達が暴走したあの日から2日後、3人は地球へ向けて出航した。

1日延期したのは、2人の墓を作るためとルリの気持ちの整理をつけるためである。

アキトをこの手で殺したあの日、ルリは泣きに泣いた。

自分の感情全てを仮面で隠し、自分よりも大切な人を殺した少女。

泣いて、泣き喚いて、泣き尽くしたその顔は・・・、無表情だった。

腫れあがり充血した瞳には、何も残ってはいなかった。

涙と共にあらゆる物を流し尽くし、残っているのはただの残骸。

その表情を見た時、サブロウタは何も言えなかった。

今だってそうだ。

今更何を言っても、それは偽善であり、独善であり、ただの自己満足にしかならない。

何を言っても所詮他人でしかない自分には何も出来ない。

サブロウタは例えようの無い無力感を感じていた。

そして目的地に辿り着く頃、彼は1人の人物を見つけた。


「よぉ、ハーリー。そんなとこで何ボケっとしてんだ?」


彼曰く『そんなとこ』とはブリッジの扉の前だ。

その目の前で、ハーリーは佇んでいた。

扉を凝視しながら、深呼吸をしたりしている。

彼はサブロウタに気付くと、慌てたように振り向いた。


「お前も艦長に用事か?」


「え、ええ。まぁ、そうですけど・・・」


ハーリーは歯切れ悪く答える。

彼もルリに対して、無駄と知りつつも何かを言いに行くのだろうか。

だとすれば緊張するのも当然だ。

サブロウタはその光景を思い描き、そして軽く息を吐いた。

ブリッジの扉の前で、2人は無言のまま暫し立ち尽くす。


「そう言えばサブロウタさん」


ハーリーがこの静寂に耐え切れなくなって話題を振る。


「あの時、艦長は何でテンカワさんがサブロウタさんを狙ってくるって思ったんでしょうね」


「ん?ああ、そのことか。

 俺も推論の域を出ないんだが、一言で言えば格闘家の性(さが)ってやつだな」


サブロウタの言葉をハーリーは理解できず、頭に疑問符のコミュニケを開きまくった。

サブロウタは苦笑いしながら補足を始める。


「つまりだ。

 理性は吹き飛んでても記憶は残っていたんじゃないかってこと。

 ネルガルに月臣さんがいたのを覚えているか?」


「はい。火星の後継者鎮圧作戦に協力してくれた人ですね」


「その月臣さんが、テンカワの復讐のために木連式柔を教えていたんだとさ。

 これは本人に聞いた事だから間違いない。

 で、ここからが本題。

 格闘家の本能は常に強い奴を求めるんだ。

 だから理性がぶっ飛んで本能だけになったテンカワなら必ず俺を狙ってくるって踏んだわけ」


ハーリーはサブロウタの話を聞きながら、アキトの姿を思い浮かべた。

サブロウタの弾丸を避けた時のあの表情、確かに喜悦の表情を浮かべてはいたが、

果たしてサブロウタの言う『格闘家の性』の一言で片付けられるものなのだろうか。


「でもサブロウタさん、本当にそれだけなんでしょうか。

 艦長に撃たれる時のテンカワさんは、僕には笑っているように見えました。

 本能だけの人間がそんなことするでしょうか?」


「さてね。殺されることを奴の本能が望んでいたのか、もしくは――」


続く言葉をサブロウタは飲み込んだ。

『もしくはテンカワの奴は初めから狂ってなんかいなかった。

 艦長に殺されるためにわざわざ俺を狙ったのかもしれない』

そうした考えも浮かんだのだが、今となっては確かめようも無い。

そんな事を考えても不毛なだけだ。

サブロウタはその話題を打ち切って、他の興味ごとへと話題を変える。


「そんなことよりハーリー、お前さっきから何握り締めてんだ?」


「えっ、こ、これですかっ」


急にわたわたと手をバタつかせながら慌てるハーリー。

怪しい。

この上もなく怪しい。


「これはですね、映画のチケットなんですよっ!

 で、でも別にデートとかそういうんじゃなくて、僕はただ艦長を慰めてあげたいと!

 そうです!ただ、慰めようとしただけなんです!!

 だから別に他意なんかは無いんですよ!!

 その後でちょっといい雰囲気の喫茶店なんかに寄って手をつないだり腕を組んだりしたいなんて考えてもいませんよ!

 だから気にしなくていいですよ。ええ、もう、本当に――」


「・・・ハーリー」


ほっとくと何時までも喋ってそうなハーリーの台詞を遮ってサブロウタは言った。


「俺、何も言ってないぞ」


サブロウタの言葉にハーリーは『あ』、と間の抜けた顔をする。

そして次の瞬間、瞬間湯沸かし器よろしく文字通り顔を赤面させた。


(なるほどな)


そんなハーリーの間抜け面を見ながら、

サブロウタは自分の顔が際限なくにやけていくのを止められず、また止める気も起こらなかった。


(テンカワ、艦長のことは安心していいぜ。

 まだまだ頼りない奴だが、少なくとも―――) 


不意に発作のように込み上げてきたものが口を付いて出る。

笑い声だ。

それは「可笑しい」と言うよりも「嬉しい」という笑い。


(少なくとも俺やお前じゃ『勝てない』奴が艦長の傍にいてくれるよ)


サブロウタは自分でも驚くような声を上げて爆笑した。

腹を抱えながら笑って笑って笑って、全てを忘れるかのように笑いまくった。

先ほどまでの不安は全て消し飛び、全身の細胞が変わったかのような晴れやかな気分になっていく。

自分のようにあれこれ考えて立ち止まるよりも、

とにかく前へ進もうとする少年。

その程よい鈍感さが、真の闇を知らない純粋さが、これからもルリを引っ張って行ってくれるだろう。

闇なんか理解もしない彼なら、きっと自分では考えもしなかった答えを見つけてくれるだろう。

サブロウタはある種の羨望と共にハーリーのことを見ていた。

もっとも、そんな事を目の前で言うほど彼も素直ではないのだが。


「ひどいですよ、サブロウタさん」


「くくく、わりぃわりぃ。お前の善戦を祈るよ」


いまだ口元を引く付かせているサブロウタのエールはハーリーにとっては最高級の挑発にしかならなかったようだ。

ハーリーは口を膨らませながらブリッジの中に入っていってしまった。

もちろん、こんな面白いことは見逃すまいとサブロウタもそれに続く。


「艦長っ!!」



―――かくして。



「ハーリー君、何?」


「こ、ここ、これを一緒に見に行ってもらえないでしょうかっ!!」



―――今日も今日とて彼女達の物語には新たな1ページが刻まれる。



「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」


「・・・ダ、ダメでしょうか?」



―――妖精の涙を浴びたからといって王子様は蘇りはしない。



「・・・クス、いいですよ」


「ほ、本当ですかっ!?」



―――ルリ達の作る物語には都合の良い奇跡など存在しない。



「ええ。ちょうど見たかった映画ですし。

 サブロウタさんも誘ってみんなで見に行きましょう」


「え?それは無いですよ。艦長〜〜」(泣)



―――そんなどうしようもない現実の中でも、

物語の筆の止まる事はなく・・・、

今日も新たな物語が生まれ続ける。

人生という物語を描き続ける。

無慈悲で、残酷で、逃げ出したくなるような物語でも・・・、人は描き続ける。

今日とは違う明日へと、果てしなく続く1ページを。

まるで、それが自己の存在意義だとでも言うかのように・・・。









































人の数だけ想いがあって・・・、

想いの数だけ物語がある・・・。

だから・・・、

私の物語はまだ、始まったばかり。



































後書き


どうも、鴇(とき)です。

始めましての方もそうでない方もSS2作目である拙作を見ていただき本当にありがとうございました。

ただ内容の方がはじめに書いた通りかなり痛かったかと。

何が痛かったってそりゃ文章の下手さが・・・(ゲフ)

ってここまでの後書き「Alive」とほとんど変わってない!?Σ(゚д゚;)

ま、まぁボキャブラリの無さは何時もの事なので(言ってて悲しくなってきた)、大目に見てもらえると嬉しいです。

今回の最大の反省点はズバリ長さでした。

だらだらと長くなってしまい自分の編集能力に愛想が尽きそうDEATH。

これでも結構削ったんですけどねぇ〜。(汗)

他にも話のメリハリが無いだとかテンポが悪いとか書くのが遅い(切実)とか、

挙げればキリが無いので、・・・というかテンションがひたすらデフレスパイラルを起こしそうなのでここでは敢えて目を瞑らして貰います。(最悪)

ストーリーについてですが・・・、

文章の下手さと張るぐらいイタイです!!

ドシリアスです!!何だこのジェノサイドっぷりはって感じです!!

読後感はさぞかし悪いんでしょうね〜(遠い眼)

ラピスファンの方には申し訳無いとしか言えません!!(土下座)

とりあえず少しでも明るくするために予定を大幅に超えてハーリー君には頑張ってもらいました。

自分的にはおも〜い劇場版キャラクターの中で数少ないダークに不向きなキャラだと思っています。

本作の最後の良心兼ボケ担当(オイ)として実に使い勝手がよかったです。

私的に一番好きなキャラはやっぱりアキト(劇場版)です。

なので前作でも今作でも出番は多いんですが・・・、

何故でしょう。私の描くアキトはぜんぜん渋くなってくれません。

他の人を参考にひたすら格好よくと頑張ってみた結果があれでした(泣)

やっぱり、そうそう上手くはいってくれませんね。

むぅ。

それでは最後になりましたが、管理人様、代理人様、今回もまたこのような拙作を載せていただきありがとうございました。

ここまで読んでくださった皆様(っているかなぁ)、改めて御礼申し上げます。

少しでも面白いと思っていただければ、これ幸いです。

また、前作「Alive」を読んで感想を下さった方々へ。

本当は名前のとおり、一回こっきりの打ち上げ花火、

Aliveとは逆に絶滅しようかと思っていました。(鴇とは朱鷺―絶滅間近の国際保護鳥―のことです)

ですが、皆さんの感想によってこうしてまたお目を汚しに参りました。

今作を完成させる力をくれたのは、飽き性の私にその忍耐をくれたのは、ひとえに皆さんのおかげだと思っております。

月並みな台詞しか出ないで申し訳ありませんが、本当にありがとうございました!!


追伸

実は前作の時は管理人様に感想を頂いたので代理人様に感想を頂くのはこれが初めてだったりします。

どのような感想、指摘、ツッコミをいただけるのか。

怖くもあり、楽しみでもあります。

とりあえず一撃死だけはしないように。

シートベルト良し、前方後方確認良し、流れ弾には気をつけて、と。

では、よろしくお願いします。(ぺこり)





 

 

代理人の感想

え〜、いや、あのね?

私の感想はオキシジェンデストロイヤーでもなければゴルディオンハンマーでも必殺必中の狙撃ですらないんですよ?

何か非常に大きな勘違いがあるようで、穏健かつ平和主義者である私としては非常に遺憾の意を覚えるものであります。

 

 

あ、でも「黙れ! そして聞け!」とは時々叫んでみたくなるな。(爆死)

 

 

まーそれはどうでもいいとして。

キャラに思い入れがあると通り一遍の格好よさは逆になかなか出せないんじゃないかと思いますね。

あーだこーだと思いのたけをぶつけている内に、自然と人間臭くなってしまうというか。

そして格好よさでもヒーロー然としたそれというのはある意味人間臭さとは対極にありますから、

私情を殺して計算づくで書くか、あるいは上手い人が書くかじゃないと中々両立は出来ないかなぁと。

 

で、こう言ってはなんですが鴇さんは感情を叩きつけて書くタイプだと思われるので

そう言うのは相性的にやや難しいかなぁと(苦笑)。

(別にけなしてるわけではありません。下手に技術に走るよりは余程読めます)

 

 

んで、SS談義だけではなんなのでここで本編の感想のほうに移行しますと(笑)、

ハーリー君がいい感じ、って事に尽きますかねぇ。

別に本筋であるアキトとルリの絡みに力がないわけじゃなくて、

ビシッと一本立った本筋にハーリー君というツタが上手く絡み付いてるので

いい意味で悪目立ちしてるように思えるんです。

色々と「男の子」してますし、彼のポジティブな面での持ち味を出してると思います。

後半からラストにかけては殆ど影の主役に近いものがありますし(笑)。

 

と言うわけで、がんばれ、ハーリー君。(笑)

 

ついでに鴇さんもがんばれ。(おい)