「「「「「熱血電波くらぶぅ」」」」」




        『機動戦艦ナデシコ』外伝


<  H in H  >








広大な宇宙で、ナデシコCは今日も一隻の戦艦を追いかけていた。


(もし僕とあの人と対等の立場だったら)

(もし僕が大人だったら、きっとルリさんをとめられる、 ううん、とめてみせるのに・・・)

(もっと僕が大人なら・・・)



「・・・・・・ー君、ハーリー君!」

「え、あ、はい、なんですか艦長。」

「アンカー射出準備。目標はユーチャリス。」

「ええっ!?で、でも・・・」

「・・・・・・」

「・・・は、はい。アンカー射出、目標ユーチャリス。」


   がしっ


「今すぐアンカーを切り離せ。そっちまでランダムジャンプに巻き込まれるぞっ!」


(僕とこの人との差が年齢だけじゃないことはわかる。でも・・・・・・)


「!?でも、アキトさんが・・・・・・」

「俺達なら大丈夫だ。それより早く!ジャンパーでないものまで巻き込む気か!?」

「・・・仕方ありません。ハーリー君、アンカー切り離し。」


(でも、もし年齢の差がなかったら、少しは何かが変わっていたかもしれないのに)


「ハーリー君、アンカーを!」

「え、あ、もう打ち込んでますけど・・・」

「早く切り離してください!ランダムジャンプに巻き込まれますよ!」

「!?は、はいっ!!」

「くっ、遅かったらしい!すまん、ルリちゃん。」

「いえ、アキトさんのせいじゃ・・・」


(僕のせいか・・・僕のせいなのか・・・くそっ、僕がもっとしっかりしていれば・・・

僕がもっと大人なら・・・・・・!!!!)





その日、二隻の戦艦が宇宙から姿を消した。















「・・・・・・う、うぅ・・・」

「おお、目を覚ましましたか。」


この人は・・・たしかナデシコCに乗る前に会った・・・


「プ、プロスペクターさん・・・?」

「大丈夫ですか?過労気味ですかね?」


どうして、プロスペクターさんがここにいるんだ?
みんなは・・・?


「っ!?みんなはっ!?艦長は無事ですかっ!?」

「?何を言っているんですか?」

「あら、目を覚まされましたか?」


不思議そうな顔をしているプロスペクターさんの後ろから声をかけてきたのは・・・


「か、母さん!?どうしてここに?」

「ええっ??」

「ああ、お気になさらないでください、まだちょっと混乱しているようでして。」


え?どうしてそんな目で見るの、母さん?
プロスペクターさんも、混乱って一体何を・・・

状況がよくわからないまま、とにかく身体を起こす。

あ、あれ・・・?

何でこんなに目線が高いんだろう? 立ったら・・・プロスペクターさんより高い?
母さんが小さく見える。

どうして?

・・・!?

ひょっとして、ランダムジャンプ直前にずっと大人になりたいって思ってたから、
ジャンプ後に大人になったんだろうか?

神様が僕の願いを聞きとどけてくれた?

ちょっと非科学的だけど、ほかに理由が考えつかない。

とにかく、大人の状態でルリさんと会う事ができるんだ。 理由はわからなくても、たいした問題じゃない。


「も、もう大丈夫です。プロスペクターさん・・・」


状況を理解した僕は、平然を装って話しかけた。
声が太くなってるのも、大人になってる証拠だよね。

艦長、待っててください!僕がきっと艦長を幸せにしてみせますから!!


「ふむ・・・では、もうお暇させていただきましょうか。
マキビさん、どうもお世話になりました。 あの子の事、これからもよろしくお願いしますよ。」

「ええ、お任せください。」

「では。」

そういって出て行くプロスペクターさんの後を、僕もついて行く。
と、玄関近くに置いてある鏡が見えた。

そうだ!僕、どんな風に成長したんだろう?
まあ、艦長が追いかけているあの人を見る限りではあんまり男性の外見には こだわらないんだろうけど、
それでもやっぱりそれなりにかっこよく なってた方が嬉しいな。

僕はそんな思いから鏡の方へ近づいた。
でも、そこにうつったのは・・・


「・・・!?」


やたらといかつい顔と身体をした、怖い人だ。


僕はこれが自分だとは信じたくなくて、
口の端を横に引っ張ったり、鼻を上向けたり、耳を引っ張ったりして変な顔をしてみる。
すると、信じたくない事だけど、鏡の中のいかつい男も同じ動作をする。
その姿はさっきまでと比べ物にならないくらい怖かった。


う、嘘だ・・・
いやだよ、こんなの・・・
これじゃ、艦長も怖がっちゃうよ・・・

しかもこの人、どこかで・・・


「何をしてるんですか、ゴート君。」


プロスペクターさんが話しかけてるのが、僕だとはすぐに気づかなかった。

ゴート・・・

ゴート・ホーリー・・・?

そうだ、ナデシコAに乗ってた人だ。前にちょっとだけあったことがある。
で、確か、こんな感じのいかつい顔してて・・・

・・・・・・!?


「プ、プロスペクター、さん?」


僕は自分の顔を指差しながら、今プロスペクターさんが呼びかけたのが自分かを確かめた。


「ゴート君といったら君しかいないでしょう、ここには。
さあ、本社に戻りますよ。」



・・・・・・・・・・・・


・・・・・・・・・・・・




「う、うわああああああああああ
ぁぁぁぁぁぁぁぁぁんっっっっ!!!!!!」











どれくらい走ったかわからないけど、気がついたらもう日が暮れていた。
ここがどこかもよくわからない。


「う、うう、ぐすっ・・・神様のばか・・・ばか・・・ばか・・・」


文句を言いながら歩いていた僕は、がっくりうなだれていたと思う。


「ばかはいいけど、結局元に戻る方法もないし・・・
どんな顔して艦長に会えばいいんだろう・・・・・・」


  どんっ!!


誰かにぶつかった。


「おい、おっさんっ!!どこに目ぇつけて歩いてんだ、オウ!?」

「い、いや、僕はあのその・・・ご、ごめんなさい。」


怖そうな人たち五人に囲まれて、僕はとりあえず謝った。


「慰謝料払ってもらおうか。ほら、早く出せよ。そしたら許してやってもいいんだぜ!?」


うう・・・・・・
どうして僕だけこんな目に・・・

大人になりたいって思っただけなのに、ゴートさんになってるし・・・
道歩いてたらこんな人たちに出くわして、脅されるし・・・
どうして、どうして・・・・・・


「う、う、うわああああああぁぁぁぁ」


   げしっ


「お、おい大丈夫か?くそ、やべえぜ、このオヤジ、キレやがった。」

「なんで僕だけ、なんで僕だけぇぇっっ!!!!」


    バキッ

       ボカッ

          ドコッ






「はあ、はあ、はあ・・・・・・」

「強いのはわかったからさぁ、もうそのくらいで勘弁してあげたら?
とっくにのびてるよ、その人たち。」

「え・・・?」


肩で息をしている僕に、それまでそこにいなかった女の人が話しかけてきた。


「それに、ほら、あなただって怪我してるじゃない。ちょっと見せてみなさい。」


その人はそう言って僕のそばに近づいてきた。


「う〜ん、背が届かないわ、ちょっと座って。」


僕は、なんとなくその声に逆らいがたいものを感じて、言うとおりにした。


「あら〜、思ったより素直ね。はい、じっとしててね〜。」


そういいながら僕の額にできた傷をハンカチで拭いて、
その後ハンドバックから取り出した傷テープをはってくれた。

その最中、僕の目の前には紺色のスーツ越しにもはっきりとわかる大きな胸が揺れていた。



・・・・・・・・・・・・



・・・・・・はっ!?この大きさはっ!!

じゃなくて、この人は・・・!!


「ミ、ミナト・・・さん?」

「えぇ?なんで私の名前知ってるわけ?どっかで会った事、あったっけ?」

「ミ、ミナトさ〜〜んん、う、うううううぅぅ、ぐすっ、うわあああぁぁぁぁん!!」

「えっ!えっ?ええっ!?」









「落ち着いた?」

「っぁ、もう大丈夫です。すいませんでした、見ず知らずの方に、ほんとにもう・・・」

「あら、あなたは私のこと知ってるみたいだったけど?」

「あ、いや、それは・・・その・・・・・・」


言わない方がいいよね。言ったって信じてもらえないよ。
ゴートさんの事知らないって事はまだナデシコAに乗るより前の時代みたいだし。


「な、なんとなく・・・・・・じゃなくて、昔近所に住んでたミナトさんっていう お姉さんに、
よく似てたから・・・その・・・・・・」


うん、われながらなかなかうまいいいわけだ。


「ふぅ〜ん?まぁ、いいけど。」


信じてもらえた・・・かな?


「で、なんであんなとこで喧嘩なんかしてたわけ?酔っ払ってでもいたの?」

「・・・あ・・・・・・え、と。」

「あなたもいい年なんだから、いつまでもそんなことしてちゃだめよ。」


すごく優しい言葉だった。全く見当外れだったけど。
その温かさに、なんとなくミナトさんの言葉にうなずいてしまった。


「たまには、さ。」

「え?」

「甘えちゃえよ。上司に、さ。」

「あ・・・」


ミナトさんの目線の先には・・・困った顔をしたプロスペクターさんの姿が。


「ゴート君、帰りますよ。」


よかった・・・

ほんとによかった・・・・・・

プロスペクターさんに見つけてもらった事もだけど、それよりなにより・・・


「ホーリー君、帰ろ・・・」などといわれなかった事に、僕はなぜかほっとしていた。








「さて、これでメカニック、操舵士、通信士はOKと。次は・・・」


あれから数日後、僕はプロスペクターさんと一緒にナデシコクルーの人材集めをしていた。
今の僕にはほかにどうしようもなかったんだよ。


「次はオペレーターですな。」


ぴくっ。

艦長だ、艦長の事だ。やっと艦長に会えるんだ。

・・・こんな姿で、だけど。


「艦長・・・・・・」

「艦長?艦長には既に優秀な人材を採用してます。次はオペレーターですよ。」


思わず口から出た独り言を聞かれて、突っ込まれてしまった。
うーん、この時代はまだオペレーターだから、艦長じゃ混乱しちゃうよね。
これからはルリさん、って呼ばないと変に思われるな。
でも、ルリさん、か・・・


「ふふ、ふふふふ」


なんだか急に僕と艦長、いや、ルリさんの距離が縮まったような気がして、 思わず笑みが漏れる。


「ど、どうしたんですか?ゴート君。」


僕の笑みに気づいて不審な顔を向けてくる。


「い、いえ、なんでもありません。」


気をつけなきゃ。


「そうですか?なら、いいんですが・・・
無理してこの間のように突然倒れたりしないでくださいよ。」



僕がいつの間にかゴートさんになって目を覚ます少し前、
プロスペクターさんはゴートさんと一緒にマキビ家を訪れていたらしい。
理由はIFS強化体質である僕の成長具合を聞くため。

結局僕がまだ小さすぎることと、ルリさんが予想以上に優秀だったために
この時点では僕はそのまま仮の両親のところに預けておく事が決定したそうだ。


つまり、僕は精神だけがこの時代にジャンプしてきたけど、 僕の大人になりたいという思いから、
たまたま近くにいた大人のなかでは一番 年が近いゴートさんになっちゃった、っていう事?

うう、神様のばか・・・


でも・・・・・・

でも、艦長、いや、ルリさんならなんとかしてくれるかもしれない。
僕がこんな風になっちゃった責任を感じて、僕の事を第一に見てくれるようになるかもしれない。
もしかしたら大人になった僕を頼ってくれるかも・・・

そんな事を考えているうちに、僕達はルリさんのいる施設についた。








・・・・・・

ぽーーーーーっ・・・・・・

か、かわいいっ!!
すっごくかわいいっ!!!!

艦長だった頃もよかったけど、こっちのルリさんもいい!!

後ろでプロスペクターさんがお金を渡したりなにか話をしたりしてるけど、
そんなのは今の僕にはまったく聞こえなかった。

ぼーっと見惚れてる僕の前で、ルリさんがそっと目を開いた。

・・・・・・あ、僕と目があった。

そう思った瞬間、僕はとうとう抑えられなくなってルリさんに抱きついていた。


「か、かんちょ、じゃなくて、ルリさぁ〜〜〜んっ!!」

「ゴ、ゴート君っ!!あなた一体何を・・・」


プロスペクターさんが慌ててなにか言ってくるけど、そんなの関係ない。
ルリさんの安心しきった顔を見ればきっと何も言えなくなるはず・・・


「蹴り。」


  げし、げし、げし



ル、ルリさん、ひどい・・・


「ル、ルリさん、僕ですよ!こんな姿してますけど、僕です、ハーリーですよお!!」

「ハーリー?知りませんけど。」


ルリさんが冷たく睨む。後ろでプロスペクターさんが睨んでるのも感じる。





「うわあああああああああ
ぁぁぁぁぁぁぁぁぁ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜ん!!!!!!」



その場にはそれ以上いられなかった。









「ん〜、なぁんだ、べそかいてたんだ?」

「え、ミ、ミナトさん?」


なんとなくやってきた公園のベンチに腰掛けているうちに、 いつのまにか日が暮れかかっていた。
それでもまだそこから動く気にもなれないでいる僕に、
偶然公園を通りがかったのか、ミナトさんが僕の顔を覗き込んでくる。


「何があったの?話してみなよ、私に。」

「う、うう、ミナトさ〜〜〜ん!!!」






「ふぅん、つまり好きな人に自分のこと忘れられてたんだ?」

「は、はい。」


さすがに全くつつみ隠さず、というのは無理なのでルリさんに記憶が戻ってない 事だけを相談する。


「それも、前あったときは僕もまだ小さい子供だったんで・・・
いつのまにかこんな風になって、覚えてなくても仕方ないのかも知れないんですけど・・・
でも、僕、その人がいるって思ったからナデシコに乗るつもりだったんです。
それが覚えてないんじゃ、僕、これから一体どうしたら・・・う、うう・・・・・・ぐすっ」


本当に、僕はこれからどうしたらいいんだろう?
僕一人この時代に跳んじゃって、しかも知らない人の身体に入って・・・


「でもさ、その人乗ることは乗るんでしょ、ナデシコに?
だったら問題ないじゃない。あなたも乗っちゃいなよ、ナデシコに。」

「え、ええ!?でも・・・・・・」

「忘れられてる?いいじゃない、これから改めて覚えてもらえば。
これからがんばればまだ十分チャンスはあるよ、きっとね。」


!?そうか、これからがんばって今のルリさんの心を開けば・・・

あの人・・・

テンカワアキトだってまだルリさんには会ってないんだから、 これで僕は同じ立場に立てたんじゃないのか?
だったら、あとは僕のがんばり次第で・・・


「僕のがんばり次第で、まだ・・・チャンスは、ある・・・・・・?」

「そうそう、私も応援するから。ね?」


そんなミナトさんの言葉に支えられて・・・




結局僕は、ナデシコに乗ることを決めた。








「すいません、今戻りました。」

「ああ、ゴート君、君に伝えたい事がある。」

「はい、なんでしょう。」

「プロスペクターくんからの提案でね、君にはシベリア支社の勤務についてもらう事になったよ。」

「え・・・・・・」

「まあ、そう気を落とさずに向こうでがんばってくれたまえ。」






「うわあああああああああああああああ
ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁんんっっ!!!!!!」









    <次回予告>


「敵の攻撃は我々の頭上に集中している」

「敵の目的はナデシコか」

「そうとわかれば反撃よ!」

「どうやって?」

「ナデシコの対空砲火を真上に向けて、敵を下から焼き払うのよ!」

「上にいる軍人さんとか、吹っ飛ばすわけ?」

「ど、どうせ全滅してるわ」

「それって、非人道的って言いません?」

「きいぃぃぃ!!」

「艦長は、何か意見があるかね?」

「海底ゲートを抜けて、いったん海中へ。
その後浮上して、敵を背後より・・・殲滅します!」

「そぉこで俺の出番さぁ!!俺様のロボットが地上に出て、囮となって敵を引きつける!
その間にナデシコは発進!かぁぁぁ、燃えるシチュエーションだぁ!」

「おたく、骨折中だろ?」

「しまったぁぁーー」

「囮なら出てるわ」

「え?」

「今、エレベーターにヒトが。」








「うわああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁんっっ!!!!!!!」






                         未完のまま完





  あとがき

最近、ナウなヤングにバカウケ(←死語の羅列)なハーリー君最強小説の波に乗ろう、
なんて思って書いてたんですが・・・気がつけば「お約束」!?
しかもタイトルがどことなく顔文字?

彼のことは「不幸なハーリー君」改め「みじめなホーリー君」とでも呼んでいただければ。

それとせりふ(特に泣き声)は ゴートさんの声を思い浮かべながら読んでいただければよろしいかと。


ハーリーとホーリー、似てるな・・・とは思ってたんですが、 今回これを書くきっかけになったのは、
ガイのせりふ 「ディ〜スクッ!いんさぁ〜〜とぉっ!!」。

あれからなぜか「ハーリー!いんホーリー!!」という言葉が浮かんできて・・・
いや、“いん”しかあってないなんてツッコミはノーサンキューっす。
そういうわけなんで、ハーリーファンで気を悪くされた方、山田を恨んでください。

でもご安心を。このままTV版を再構築してゴート×ルリを書いたりするつもりは 毛頭ありませんので。
私もホーリー君、じゃなかった、ハーリー君は決して嫌いじゃないし、 あんまり彼をいじめるのは嫌なので。
この話はあくまで単発です。

今回ちょっとハーリー君を泣かせすぎたな、とは思ったんですけど・・・
でも、むやみに泣かせたわけじゃありませんよ?
たぶんこんな状況に陥ったら皆さんでも泣くと思いませんか?

それにしても、どうも自分の傾向として「設定は壊せてもキャラは壊せない」 部分がある気がする。
このままじゃいつまでたっても「ゴート神教」の勲章もらえないじゃん。
う〜む・・・



PS.シベリア=左遷地、というのはあくまで旧時代の悪しき偏見にのっとったものであり、 決して他意はありません。
   が、もし読まれた方の中にシベリア人(←?)の方が おられましたら、ここに謝罪しておきます。ごめんなさい。




 

 

 

代理人の感想

ひくっ。

ひくひくっ。

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・がたんっ(椅子ごとひっくり返ったらしい)。