機動戦艦ナデシコ&ブレンパワード
クロスオーバーストーリー
さみしさに震えるモノ
第1話 ナデシコ帰還?
書いた人 H・Wiz



【ユリカ】

私たちは木星蜥蜴を蹴散らしつつ火星に到着しました。

プロスさんがオリュンポス山にあるネルガルの研究所へ向かってくださいと言ってきました。

「プロスさん、どうしてオリュンポス山なんです? 他にも人の住んでいそうなところもあるのに」

なぜ、ネルガル研究所に最優先で向かうのか、なんとなく理由は察しがつきます。それでも一応聞いてみる事にしました。

「オリュンポス山の研究所には核攻撃にも耐えられるシェルターが備え付けられているんですよ。やはりそのような設備があると人が生存している可能性は高いですから」

プロスさんは嘘ではないが真実でもない答えを返してきました。流石です。

火星に行くというナデシコの艦長を引き受けてからずっと思っていた事。

それは生まれ故郷であるユートピアコロニーに行く事。

でもこのままじゃ、ユートピアコロニーには行けそうにない。

せっかくここまで来たんですから、絶対実現させたいです。

プロスさん言葉を逆手にとってユートピアコロニーへ行けるように言質を取りましょう。

「ねえ、プロスさん。それならユートピアコロニーにもいけませんか?」

「ユートピアコロニーですか?」

プロスさんは困ったような顔をしています。

「それにあそこにもネルガル研究所に負けないくらい立派なシェルターがありましたよ。昔、アキトやイコちゃんやユウ君なんかと探検しましたから」

「艦長はユートピアコロニー出身だったのかね」

「はいっ。ワタシとアキトの故郷です。あれどうしたんですか提督?」

そう質問してきた提督は、何かいつもと違う感じがした。

「いや、なんでもない」

「んー、そうですね、艦長の言う事にも一理あります。オリュンポス山の調査後にユートピアコロニーへと参りましょう」

プロスさんは、仕方ないといった表情でしたが、OKしてくれました。

やったー。蜥蜴の所為で昔のままでないかもしれないけど、これでユートピアコロニーに行ける。

ブイッ!

私は心の中でVサインを出しました。

「すこし疲れたな。プロスくん、私は自室へ戻っていて構わないかな」

「わかりました、何かありましたらお呼び致しますので」



【フクベ】

艦長が火星出身だとは聞いていたが、まさかユートピアコロニー出身だったとは。

正直、艦長が私の所業を聞いたらきっと怒り出すだろうな。

もう少しで自室だというところでテンカワ=アキトに会った。

「提督・・・お話があります」

そういったテンカワはずいぶんと沈んだ顔をしていた。

なんとなく彼の話は分かる気がする。

プロスくんの話によれば彼は火星防衛戦のときユートピアコロニーにいたそうだからな。

「ふむ、わたしの部屋で構わないかね」

「はい」

私はテンカワを自室まで案内した。

私の部屋は上級社員用個室だ。

オブザーバーとはいえ仮にも退役将軍ということでこの部屋を与えられている。

家具は備え付けを利用しているが炬燵だけは唯一持ち込んでいる。

これだけはいくら艦内空調が効いていようとも外せなかった。

もちろん、炬燵の上には蜜柑だ。

これも日本人として外すわけにはいかない。

テンカワに炬燵へ着くよう勧め、湯飲み2つと急須を持ってきてほうじ茶を入れ、切り出した。

「なんとなく予想はつくが、どんな話かね?」

「提督。提督が火星防衛戦の時の司令官だったって、本当ですか?」

やはりその話か。彼の出身を聞いたときから避けられるものではないと思ってはいたがな。

ここは正直に話すとしよう。

「その通りだよ。ついでに言えばユートピアコロニーにチューリップを落としたのも私だ」

テンカワの目が驚きで見開かれる。そして私目掛けて詰め寄ってきた。

「っ!!!!」

年老いたとはいえ、軍人として訓練を受けた身だ。テンカワを避ける事は容易い。

しかし、テンカワを避けることはしなかった。自己満足かもしれないが躱さない事で少しでも贖罪になるような気がした。

その勢いで炬燵の上にあった蜜柑やお茶はひっくり返り、とんでもない事になっていた。

「なんで、なんでなんだよ。アンタたち軍人は火星を守る為に居たんだろ。それなのに、それなのに・・・・なんで」

「すまん」

長い人生を生きてきたが、私はそれ以外に謝罪の言葉が思い付かなかった。

そして、自らの罪を再認識した。

短い謝罪の言葉を聞いたテンカワの泣き叫びだけが私の部屋には木霊していた。




【プロスペクター】

いやはや、困った事になりました。

オリュンポス山のネルガル研究所が確認できる位置にまで近づいたものの木星蜥蜴の攻撃を受ける羽目になるとは。

研究所の四方には中型のチューリップが配置され外敵の侵入を防いでいるという有り様。

現在は、艦長が矢継ぎ早に指示をだして蜥蜴の攻撃を凌いでいます。

被害はまだ出ていませんがこのままではじり貧です。

「これでは近づく事ができませんなぁ」

「ミスター、そんなのんきな事を言っていていいのか?」

「プロスさん、このままではナデシコは落とされかねません。一時的にここからの離脱を提案します」

「はあ、仕方ありませんねぇ。落とされては困りますからね。」

しかし、これではデーターや研究者達は絶望的ですかね。

まさか、研究所にあそこまで戦力を送り込んでいるとは、思いもよりませんでした。

艦長が言ったとおりユートピアコロニーに行くしかないようですか。

「艦長、仕方ががありませんが一旦研究所はあきらめてユートピアコロニーへ向かいましょう」

【ルリ】

木星蜥蜴の攻撃を回避した私たちナデシコはユートピアコロニーに到着しました。

先程読み出した火星都市データによると、ユートピアコロニーは火星で一番発展していた都市だったそうです。

ですが、私の目の前に広がっていた風景はその面影を微塵も感じさせない荒涼とした廃虚でした。

ブリッジクルーの皆はその光景に言葉を失っていました。

特に、ユートピアコロニーが故郷だという、艦長とテンカワさんの落ち込み具合は物凄いです。

わたしには故郷の記憶はありません。

ですが、ナデシコに乗るまでの間にお世話になっていた孤児院がこのようになっていたら、悲しく思うかもしれません。

「ねえ、ここって本当にユートピアコロニーなんだよね?」

艦長が恐る恐る震える声で聞いてきます。

「はい、地図上の座標では間違いありません」

私は事実を伝えました。

「チューリップが落ちてきたんだ・・・。」

テンカワさんが突然口を開きました。

「火星の衛星軌道で防衛艦隊と戦っていたチューリップが・・・。それでコロニーは壊滅したんだ。それにチューリップは地表を攻撃する為に落ちてきたんじゃない。艦隊の体当たりの所為でコロニーに落ちてきたんだ。」

その話しに区切りがついたところでブリッジに居たクルーたちはブリッジ後方に控えるフクベ提督に訪ねるような視線を浴びせた。

もちろん私もです。

地球に住んでいる者にとって、提督は『連合軍で唯一チューリップを落とした対木星蜥蜴戦役の英雄』という事になっています。、その戦いの詳細については一般には知らされていません。皆その真実真相を知りたいと提督を見つめていました。

その視線を受けとめ、とうとう提督は口を開きました。

「テンカワの台詞は真実だ。私は指揮下の戦艦数隻の乗員を退艦させて、チューリップへと体当り攻撃を敢行し、その撃墜に成功した。しかし、火星地表へと落下していったチューリップはここユートピアコロニーへと向かっていった。結果はご覧の通りだ。私は、軍が喧伝するような英雄では決してない。守るべき者に無駄な血を流させた愚か者だよ。軍を辞め、火星へと向かうこの艦に乗り込んだのも贖罪の為なのだよ」

ブリッジを沈黙が支配しました。

「ここにはやっぱり生存者はいないんですか?」

「いえいえ、艦長もおっしゃってましたが、ここユートピアコロニーの地下には反応弾やNN爆雷にも耐えられる頑丈なシェルターが構築されています。それを考えれば生存者が居る可能性は火星でも随一でしょう。ホシノさんコロニー跡に向けてスキャンをかけて下さい」

「解りました。地下に向けてシェルターが無事かどうかスキャンをかけて調査します」

スキャンの結果、コロニーの地下深くにあるシェルターは無事でした。

そこで調査の為に何人かがシェルターに降りる事になりました。

メンバーはプロスさんとパイロット3人娘とゴートさんの5人です。

3時間程で調査隊は1人を連れて帰還してきました。

ナデシコにやってきたのは、避難民達のリーダーをしていたイネス=フレサンジュ博士。ネルガルの研究者でナデシコ建造にも関わっていたそうです。オモイカネシステムの構築にも従事していたそうです。

そのイネスさんはブリッジにやってきた早々、

「避難民達はナデシコに乗るつもりはないわ。本当のことを言えば私も乗りたくわないわ」

と発言しました。

「それはどういうことですかな?」

それを聞いたプロスさんは眉をあげて聞き返しています。

「簡単よ。ナデシコは火星を脱出する事は出来ない。作った私がいうのだから間違いないわよ。まあ、それでも私はネルガルの人間だから社命には逆らえないし、何よりあの戦いから1年間、火星で生き延びただけでももう十分だもの。だから乗ってあげるわ」

イネスさんの口調にはどこかあきらめた感じが漂っています。

そんな中、木星蜥蜴の接近をオモイカネが知らせてくれます。

「艦長、2時の方向から木星蜥蜴の攻撃隊が接近中です」

「本艦は急ぎ、この場より撤退します。ミナトさん、頼みます。ルリちゃん、エネルギーはディストーションフィールドに優先してまわして」

私はナデシコの相転移エンジンに大気圏内で持てる限りの出力を絞り出すように命じました。



【ユリカ】

なんとか、ユートピアコロニーからは離脱したものの、木星蜥蜴の攻撃は止みません。

ミナトさんが卓越した繰艦を見せてくれたお陰で攻撃の6割は回避しました。さすがはプロスさんのスカウトした人材です。

ですが、残りの4割によってナデシコは初めて目にみえる被害を受けました。

人的損害が出なかったのは幸いでしたが、乗組員の多くがこの事にショックを受けました。

また、この攻撃によってグラビティブラストの出力が低下する被害を受けました。

攻撃力の激減です。

わたしでさえ、この事にはショックでした。

頭の中にはイネスさんが言った、

『ナデシコは火星を脱出する事が出来ない』

という言葉が渦巻いています。

ですが、わたしがこの艦の艦長である以上、ここで落ち込んだ顔を見せるわけには行きません。

お父様にも良く言われました、『艦を預かるものは乗組員に不安な顔を見せるものではない』と。

「艦長、左前方に何か反応が見られます。モニターに出しますか?」

「ん、ルリちゃんお願い」

ルリちゃんが出してくれた映像には、信じられない映像が映っていました。

それは、地球でチューリップに吸い込まれたはずの連合軍の巡洋艦『クロッカス』と口を開いたまま機能を停止したように見えるチューリップだったからです。

「どうして?」

思わず呟くと、突然イネスさんが通信を繋いできました。

「艦長、ちょーっと説明したい事があるんだけど、いいかしらね」

「解りました。すぐそちらに向かいます。」













2時間後・・・

やっとイネスさんの説明が終わりました。

ナデシコが火星を脱出出来ない理由から、チューリップのしくみ、クロッカスがここにある理由まで、懇切丁寧に解説してくれました。

一応、理解できました。

それと一つ解った事があります。

イネスさんの説明は要注意です。

とりあえず、このイネスさんの説明を踏まえた上で今後の策を検討することにしました。

参加者は、わたしとプロスさん、提督とイネスさんの4人です。

ここでイネスさんがとんでもない提案をぶち上げました。

「チューリップへ突入するぅぅぅぅぅ!!?」

私だけでなくプロスさんも提督もその事には驚きの声をあげました。

「そう、艦長には詳しく説明したからわかると思うけど、チューリップは一種のワームホールになっているの。そこでチューリップに突入して、その機能を利用すれば火星からは脱出できる。それは断言できるわ。でもどこに出るかは解らない。どうかしら、この方法?」

わたしは、先刻のイネスさんの説明を細大もらさず思い出して、成算を導き出します。

「プロスさん。この方法を火星からの離脱方法に決定しても構いませんか?」

「!!、艦長?成算があるので?」

プロスさんは怪訝そうな顔を向けてくる。

「はい、イネスさんから色々聞きましたから。プロスさんもお分かりでしょうけど」

「そうですか・・・判りました。その方法了承しましょう」

その後の話し合いで火星脱出計画の細部は決まりました。

その細部はある意味とても哀しいものでした。

自分でやると決めたくせに、二の足を踏みそうになります。





【ルリ】

イネスさんとフクベ提督がクロッカスの調査に向かいました。

この2人が選ばれたのはフクベ提督は軍人だっただけあって軍艦の構造に詳しいそうなので、イネスさんはエンジニア代わりが務まるとの理由からだそうです。

小一時間で調査が終わり、イネスさんが先だって報告に戻ってきました。

はっきり言って不思議です。報告なんて、通信でも済むはずなのに。

イネスさんがブリッジへやってきて艦長に調査結果を報告していると、突如クロッカスが始動してナデシコに砲門を向けました。

『ナデシコに告ぐ。後方に控えているチューリップへ突入しろ。従わない場合はクロッカスを使ってナデシコを沈める』

クロッカスから聞こえてきた、フクベ提督の声は私を含めブリッジクルー全員に衝撃を与えました。

「どうしたんですか提督!!答えて下さい」

艦長が提督に呼びかけています。

『・・・・答えはYESかNOどちらかね』

そんな呼びかけも無視して、提督は更に返答を求めてきます。攻撃もセットにして。

「判りました、その要求呑みましょう」

艦長の返答はYESでした。

【ユリカ】

私は提督に返答しながら、会議の事を思い出しました。

いくら、提督が希望したからって、こんなことをしなくちゃならないなんて。

あの時の会議で決まった事。

チューリップに突入しても大丈夫ということはイネスさんの説明で理解していた。

イネスさんは火星である瞬間移動の研究をしていて、それはチューリップに使われている技術と共通の物らしい。

クルーにチューリップに突入することの安全性を説明したかったが、一般クルーにそれを明らかにするのはネルガルが困るとプロスさんにいわれてしまい、途方に暮れてしまいました。

そこで、提督が提案した策。

自分がクロッカスを使って、ナデシコをチューリップへ追込むという事。

正直、そんなことを認めたくはありませんでした。

提案をした提督の声や顔は既に決意を固めた雰囲気を纏っていました。

わたしには提督を止める事は出来ませんでした。

そして現在に至ります。

「ミナトさん、チューリップへの進入コースをとって下さい。ルリちゃん、突入と同時にディストーションフィールド最大」

ナデシコはチューリップへと突入。突入後しばらくしたところで、私やクルー達は気を失いました。






【ルリ】

私が気がついた時、ナデシコはどこかの宇宙空間にいました。

「オモイカネ、現在位置を報告して」

オモイカネが報告した現在位置は月軌道宙域でした。

幸運なことに戦闘空域では無いようです。

指示を仰ぐ為、艦長を探すと何故か、展望室にいました。テンカワさんやイネスさんも一緒です。

「艦長、起きて下さい・・・・」

『アーキートー・・・・・ムニャムニャ』

寝言を言っているようです。

いくら呼びかけても、起きないのでプロスさんを起こして指示を仰ぎました。

アオイ副長でも良かったのですが、なんとなくプロスさんの方が手っ取り早い気がしたのでそうしました。

副長、ゴメンナサイ。

プロスさんは月にあるネルガル重工のドッグへ向かうように指示をだしました。

どうやら艦の損傷を修復するのでしょう。

そこで、私たちは現在の地球の状況と連合軍からの不思議な命令を受ける事になりました。

つづく

ナデシコが地球を発って以降、
地球ではさまざな出来事がおこっていた。
そして、その出来事はナデシコクルーを巻き込む事になる
次回、第2話「ナデシコとノヴィスノア」につづく

あとがき

えーと、どうにかこうにか第1話をお届け出来ました。作者のH・Wizです。
今回はまだ、ブレン関係は爪の先程の登場ですが、次回からバンバン登場する予定です。
また次回の焦点はブレンの方に当たって展開される予定です
感想をくれた皆様ありがとうございます
非常に嬉しかったです
しかしながら、妄想は色々広がるのにそれを形にする事の何と難しい事よ

 

 

代理人の感想

ふと思ったんですが、ノヴィス・ノア(ブレンパワードで主人公たちが母艦にする艦)は飛べないんですよね。

オーガニックエナジーを使って動いてはいるものの、基本的には普通の「空母」な訳です。

だとするとナデシコとノヴィス・ノアが一緒に行動するのはかなり難しいでしょうから

ブレンの登場人物とナデシコの登場人物がいっしょに行動するのはしばらくお預けかな・・・?

 

 

 

>なんと難しい事よ

 

いやはやまったく(爆)