連合軍はネルガルとの関係が悪くなったのを受け、独自に研究していた《オーガニックテクノロジー》の研究に着手した。
その成果がある程度形を成してきた頃、リクレイマーと呼ばれる集団が各地の研究施設や軍施設を襲いプレートなる物質を強奪する事件が多発。
木星蜥蜴とリクレイマーの襲撃という2つの敵を前に連合軍は更に頭を悩ませてしまう事となった。
そして、話は火星にてナデシコが消息を絶った頃に遡る。



さみしさに震えるモノ

第2話 ナデシコとノヴィスノア
書いた人 H・Wiz




サヤマ・シティ

この街の郊外にある孤児院『ひだまりの樹』に住む少女、ウツミヤ=ヒメは危機に晒されていた。
孤児院の先生に頼まれて、買い物に出かけたところで木星蜥蜴の襲撃に遭遇してしまったからだ。

「もう、ついてないなぁ。こんな時にトカゲの襲撃だってさ」

などといいながらも彼女は避難シェルターへ向かって走って行った。
上空では木星蜥蜴のバッタとイルマ・シティから飛んできた連合軍の迎撃機がドッグファイトを繰り広げている。
連合軍は木星蜥蜴に対して数では優っているのだが、なかなかバッタを墜とす事ができず一進一退の攻防を繰り広げていた。
そんな中、連合軍のレーダーに高速で飛来する未確認飛行物体とそれを追う機動兵器が2機が捉えられた。
その物体は進行方向に展開していた木星蜥蜴達をも蹴散らして、真っ直ぐサヤマ・シティを目指していた。
それを追う2機も同様である。


ヒメは避難も忘れて祈っていた。
木星蜥蜴の攻撃で破壊された避難予定のシェルターに入っていた人たちに対して。
祈り終えて見上げてみると、連合軍は次第にその機数を減らしており、全滅するのは必至であった。

「ごめんね、ヒメねえちゃんもうみんなに会えないかも・・・」

ヒメが諦めかけたその時、上空から巨大な円盤がその眼前に降りてきた。
その円盤はヒメの前に降り立つと銀色の光の渦を放ち始めた。

「なに、これ?」

光の渦は次第に激しさを増していき、目を凝らすとその中心に大きな人型が形成されているのがわかる。
内部の人型が出来上がると渦は治まり、円盤の上には見た事もない人型の物体が立っていた。
その人型を見上げてヒメは思わず口に出していた。

「この子、優しい目をしている・・・」

ヒメは何かに人型に近づいていった。
その人型の脚の付け根、つまりは股間部分には人が入れるくらいの空洞がヒメを誘うように開いていた。

「ここに入るのかな?」

ヒメは躊躇いなく人型に乗り込んだ。

そこはあたかも母親の胎内にいるかのように暖かく安らぎを覚える場所だった。
近くで戦いが行われている事も忘れて、ヒメはしばしその安らぎに身を委ねた。
どのくらいの時間身を委ねていたのだろうか、突如人型が何かに驚いたかのように震え出した。

「どうしたの、君?」

ヒメは、人型をなだめるように声をかけた。
その声を理解したのか、人型は上空を見上げた。
それにあわせてヒメの前面に、人型が見た映像が投影され、

(敵が来る・・・・あいつはキライ)

と人型の意志が表示された。
良くその映像を見ると、こちらの人型によく似たものが2体浮かんでいて、木星蜥蜴達を蹴散らしていた。

「敵?蜥蜴が?それともあの人型?」

(両方とも・・・どちらも敵。どちらもキライ)

そのうち、2機の人型はすべての蜥蜴を破壊するとこちらに近づいて来た。

『そこのブレンパワード! 誰か乗っているのか?』

『ブレンパワードは危険です、破壊しますから、乗っているのなら早く降りなさい!!』

その2機の人型からは男女2人の声が発せられた。

「破壊する?この子を?なんでさ!」

ヒメは声をあげた。
その声はどうやら外にも聞こえたようだ。

『ブレンパワードが危険な存在だからだ』

男が答える。

「なんで、この子は産まれたばかり、産まれたばかりの赤ちゃんなのよ。それを破壊するってどうゆうことよ!」

『うるさい、危険といったら危険だからだ!!』

おそらく男が乗っているのであろう人型がヒメの乗るブレンパワード目掛けて接近して来る。
ヒメはブレンに躱すように心で呼びかけた。
それに応じたブレンは相手の人型に向けて右手を挙げた。
相手は右手に触れたところで何かバリアのようなものに弾かれた。

「いきなり何よ、怖がってるじゃない」

『あのブレンパワード力がある。ユウ、ここは退きましょう。こちらは蜥蜴相手で消耗が激しいわ』

様子をみていたもう1機の女性が退くように命じる。

『く、わかったよカナン・・・』

悔しそうな言葉を吐きつつ、2機は退却していった。

「ふう、たすかったぁ。君、ブレンパワードって言うんだね、ありがとう。・・・そうだ、おうちに一緒に帰ろう?」

ヒメはお礼を言うとともにブレンに一緒にいこうと誘う。
ブレンもその誘いは満更でもないようで、喜びの波動をヒメに伝えてくる。

「ようし、それじゃ、ひだまりの樹へ出発」

孤児院ひだまりの樹へブレンに乗って戻ると、先生達大人は腰を抜かしたが、子供たちはブレンを全く恐れたりはしなかった。



翌日、連合軍の人がやってきてブレンを強制的に連れていった。
ヒメが文句を言ったが一言も聞いてもらえなかった。
しかしさらに翌日。
もう一度軍の人間がやってきた。
どうやら、ヒメにも来てほしいとの事だった。
連れていったブレンを研究調査しようにも、バリアのようなものに阻まれ近づく事ができないそうだ。
そこで、どうしてもヒメが必要になったらしい。
いくつかの条件を出す事でヒメはついていく事に同意した。
詳しいことはともかくとして、かなりヒメに有利な条件だったようだ。
ヒメの協力により、ブレンの研究解析はとんとん拍子に進み、ブレンが《オーガニックテクノロジー》の産物であることが判明し、軍のオーガニック研究の進歩に格段の成果を残す事になった。
研究が一段落したところで、軍はヒメにブレンパワードのパイロットとして軍に協力してくれないかと頼んだ。
軍のパイロットになる事で間接的にも孤児院の子供たちを護れると考えたヒメは、喜んでその申し出を受けた。
ここに、ノヴィスノア・ブレンパワード隊一号機パイロット、ウツミヤ=ヒメが誕生した。


そして、話はナデシコが月のネルガルドックに到着した頃に戻る。
月のネルガルドックに到着して、ナデシコが火星で受けた損傷度合いをチェックしたところ、想像より遥かに大きなダメージを負っていることが判明。
特に相転移エンジンの損傷が激しく、戦線に復帰できる様に完全に修復するにはおよそ2ヶ月かかると推定されました。
そんな折り、ネルガル本社から一つの通達を受けていた。

『ネルガルと連合軍の間で再契約が結ばれた関係で、ナデシコは連合軍の指揮下で動く事となりました。つきましては、ナデシコのオーバーホールが終わるまでブリッジクルーとパイロットは、連合軍独立試験艦隊に出向となるそうです』

プロスさんが本社からの通達をユリカに伝えていた。

「はあ、軍人になるんですか?」

「一応は出向扱いですが、それなりの裁量権もあるようですし、ここは一つ受諾してもらえると嬉しいのですが」

「ナデシコが直ったら、どうなるんです?」

「当面、便宜上は連合軍の指揮下で地球上の敵性勢力との戦いを続ける事になると思いますね」

「解りました。ですが、ナデシコの修復が済んだら、自ら適当な行動を取らせていただきたいと思います。もとより連合軍の邪魔をする気はありませんが・・・」

「はあ、ではその辺は本社を通じて、連合軍に申し入れておきます」

とりあえず、ユリカとプロスの間ではナデシコの連合軍への出向は決定したようだった。
その後、プロスはブリッジクルーやパイロットと直接話し合い、出向に際しての条件を聞いて周りに行った。

「ところで、『独立試験艦隊』って一体なんだろう、ルリちゃん解る?」

ちょっと疑問に思ったことを、ルリにユリカは尋ねている。

「えーと、どうやら連合軍が独自に研究開発した新造艦や性能試験中の兵器を試すために編成された艦隊のようですね。一応、艦隊という名称を使用していますが、現在の構成艦は機動空母NN−01『ノヴィスノア』1隻です」

「へぇ、空母なんて珍しいね。どんな艦なんだろうね」

「わかりません、オモイカネのデータには艦の映像までは無いようですから・・・」

「たのしみだね、ルリちゃん」

それから3日後
連合軍独立試験艦隊に合流する為、ナデシコからの出向組は日本のヨコスカシティにある連合軍港へと向かいました。
ちなみに、ナデシコからの出向組は、
ユリカ・ジュン・ミナト・メグミ・ルリ・ゴート・プロス・アキト・リョーコ・ヒカル・イズミの11名です。
この他に、イネス・ウリバタケ両名も候補に上がっていたのだが、ナデシコの修復ついでに色々とやりたい事があるというので出向からは外れていた。
出発直前、ウリバタケは出向組に、

『このおれがナデシコを絶対無敵元気爆発熱血最強な機動戦艦に仕上げてやるぜ!!』

と親指を立てて宣言していた。
その宣言を聞いた出向組の心中に冷や汗が流れていた。






連合軍ヨコスカ軍港

ここには現在、1隻の空母が停泊していた。
連合軍独立試験艦隊旗艦『NN−01 ノヴィスノア』である。
そして、その側にはナデシコから出向してきた11人がこの艦を眺めていた。

「へえ、面白い形してますね」

「ナデシコも結構変な形してますけどこっちもなかなかですね」

メグミとミナトがノヴィスノアを見た感想を呟いている。
11人の前にあるノヴィスノアはなかなか面白い形をしていた。
胴体は一般的に考えられる艦の形状で何ら変なところはない。
しかし、面白いところはその上についている艦橋らの構造物だった。
その形はいわゆる三角錐<ピラミッド>型である。
そして、後部はカタパルトデッキではなく、格納庫と最近では珍しい飛行甲板になっているのだ。

「えー、パイロットの皆さんは先に格納庫へ行って自機体の搬入と調整を、残りのメンバーはブリッジでこの艦隊の責任者に到着の報告します」

ジュンが一応、軍人らしく(?)これからの予定を全員に伝えた。

「それでねアキト・・・」

本来なら、この場を仕切らなければならないユリカは、ここに来るまでの間ずっとアキトにべったりであった。

「ユリカ・・・わかったから、いいかげん離れてくれよ」

「ユリカ、早くブリッジに行かないと・・・・・・」

アキトとジュンは似たような表情を浮かべて、ユリカに声をかけた。

「ん、じゃーねアキトまた後でね」

そう言ってアキトを離したユリカは、パイロット以外を振り向いて号令をかけた。

「それじゃ、ノヴィスノアのブリッジへれっつごー」

ユリカちゃん絶好調・・・








「こんにちわーネルガルから出向してきたミスマルユリ・・・・・」

ブリッジに入るなり、ナデシコ着任時と同じように挨拶しようとしたユリカだったが、途中で止まってしまった。

「相変わらずだな、ミスマルユリカ。少しは責任者らしく振る舞ったらどうだ」

「マ、マコーミック教官・・・ミスマルユリカ以下11名ネルガルより連合軍独立試験艦隊に出向いたしました」

「よろしい、到着を歓迎します」

「は、はい、よろしくお願いします」

ユリカは眼前の人物に直立不動になって答えていた。
ちなみにその隣に居たジュンも同様に直立不動であった。

「私、ユリカさんが緊張しているのを初めてみました」

「ほんと、ほんと、ねえ緊張の原因になった人って誰なんですか?」

ミナトとメグミは初めて見るユリカの姿にヒソヒソ話をする。
それを聞いた、ユリカの緊張の原因になった人物は自己紹介をした。

「連合軍独立試験艦隊旗艦・NN−01空母ノヴィスノア艦長、アノーア=マコーミックです。そこにいる2人の教官でした」

アノーア=マコーミック連合軍大佐
元連合大・戦略シミュレーション科教官でユリカとジュンの担当教官で、容赦のない指導と厳格なところから学内で『アイアンレディ』の異名で呼ばれていた。
特にユリカはその能天気な普段の言動を厳しく注意されていて、唯一彼女が頭の挙がらない人物である。

「そんなに堅くなる事もないだろう、緊張していると、あまりにも君らしくないぞミスマルくん」

一同に後から男性の声がかかる。
その声の主が誰だかわかったユリカが金縛りを解いて答えた。

「ゲイブおじさま。いえ、ゲイブリッジ准将、お久しぶりです。一昨年のニューイヤーパーティー以来です」

「いやいや、ゲイブおじさまで結構」

そういって、右手を軽く振りながら男性はユリカに軽く返す。

「提督。提督自らがそのような事を言われては困ります。試験艦とはいえここは軍艦です」

そんな男性のそぶりをアノーア艦長が軽く窘める。

「別に構わんだろう。だいいち、この艦の乗員で軍人らしく振る舞っているのは君だけじゃないかね?」

このノヴィスノアは試験艦であり、未だ未知数な所のあるオーガニックテクノロジーを何とか形にするために多くの民間技術者や研究者が乗艦していた。彼らは書類上は軍人扱いであったが、軍人らしく振る舞う事などできるはずも無く、軍隊特有の雰囲気とは無縁の存在だった。
それがいつの間にやら艦全体に蔓延し、現在この艦で軍人らしさを押し出しているのはアノーア艦長一人であった。

「それそうですが・・・・」

前述の事情もあってアノーア艦長は渋々と引き下がる。

「改めて自己紹介しようか、私はウィンストン=ゲイブリッジ。この独立試験艦隊の提督を務めている。長い付き合いになるかはわからないがよろしく頼む」

ウィンストン=ゲイブリッジ連合軍准将
前北米方面軍参謀でオーガニックテクノロジーを研究する事を連合軍内で一番強く推した人物でもある。その経緯もあってこの艦隊の提督を務めている。ユリカの父、ミスマル=コウイチロウとは士官学校時代からの友人でもある。

「こちらこそ、よろしくお願いしますね、ゲイブおじさま」

ユリカも提督のお墨付きをもらい、いつもの口調に戻りつつあった。
その後ブリッジではノヴィスノアクルーとナデシコ組の間で出向中のそれぞれの任務の説明が滞りなく行われた。










一方、格納庫・・・・・・

ノヴィスノアの格納庫はナデシコの格納庫よりも広く、戦闘機が搭載されていた。
その殆どが『V8イランド型迎撃機』である。
その脇にはナデシコから持ってきたエステバリスが陸戦・空戦・砲戦の各フレームが既に搭載されていた。
アキト達パイロットが自分たちの機体の側へと移動していると、見慣れぬ人型機動兵器がその目に飛び込んできた。
よく見るとその機動兵器を女性がデッキブラシで擦っている様子が確認できた。
あまりお目にかかれない光景に釘付けになっていたエステパイロット達に気づいたデッキブラシの女性はこちらにやってきた。

「ねぇ、あんたたちさぁ、ネルガルから出向してきたパイロットさん達だよねぇ」

その女性は茶色のストレートの長髪、前髪にシャギーという髪型をしており、その服装はTシャツにスリムジーンズという格好だった。

「そういうおめえは?」

「わたし? 私は、ウツミヤ=ヒメ。ノヴィスノア所属のパイロット。で、後ろにいるのが私のパートナーのヒメブレン」

「パートナー?」

ヒメの自己紹介を受けたリョーコは何やら不思議に思い、おもわず聞き返した。他の皆も同様に思ったようだ。

「そうよ、パートナー。ブレン、みんなに挨拶して・・・」

ヒメがそう言うと、ヒメの後方にある機動兵器がリョーコやアキト達を向いて、軽い唸りをあげた。

「う、動いた?」

これには、みんな驚いたようだ。

「あははははは、そんなに驚かなくてもいいのに、ブレンには意志があるのよ」

「い、意志ぃ?」

「生き物なの?」

「へぇ、すっごいんだー」

「ベストセラーの詩集・・・・・いい詩がある・・・・意志がある・・・・・」

今度は四者四様の反応だ。
しばし、ブレンを珍しそうに眺めてから四人は気を取り直して、自己紹介をしたのだった。


「なあ、お前の他のパイロットは?」

愛機の調整が済んだリョーコはヒメと話をしていた。
ちなみに、他の面子、イズミは自機のコクピットで新作ギャグを考案中、ヒカルは食堂へ、アキトはまだ調整中であった。

「イランドのパイロットは大体自室にいるんじゃない? 私以外のブレンパイロットは現在偵察任務でいないわ」

「で、腕の方は良いのか?」

「どうかなぁ、私よりは腕は良いと思うんだけど・・・」

ヴィィィィィィィィィィィ

ヴィィィィィッィィィィィ

ヒメがそう答えた時、格納庫にサイレンが響き渡った。


つづく

次回予告

ノヴィスノアに迫る、1機の機動兵器
それは一体、敵か味方か?
次回 さみしさに震えるモノ 第3話 「逃げてきた少年」

※:なお、次回の内容は予告なく変更される恐れがあります。御注意ください

あとがき

今回も『さみしさに震えるモノ』をお読みいただきありがとうございます
前回と書き方が違うのは書きやすい方法を模索中ということで・・・
とりあえず次回からはブレン6 ナデシコ4風味に展開していく予定です
今回前半はヒメちゃん後半はユリカとリョーコがなんかいっぱい出てます
私の萌えキャラだから?
次回こそはアキト君にスポットが当たるのだろうか?
ところで設定資料って、あった方がいいんでしょうか?
あった方がいいなら作りますが・・・

 

 

 

管理人の感想

 

う〜む、ブレンパワードは見た事が無いのですが、雰囲気は伝わってきますね。

しかし、ユリカの上官が乗っている船ですか?

・・・まあ、本質的には変わらない職場みたいですけど(苦笑)

それにしても、アキトの台詞は殆ど無し(爆)

と言うか、今回の話しではナデキャラ全然目立ってないですけどね(笑)

 

さて、迫り来る機動兵器の正体は何のでしょうか?