虚空の夷



















虫籠格子と鳥籠格子と砂のお城

 

昨夜提出された支援係からの捜査資料と宇宙軍からの質問書によって、調査部のフロアは騒然としていた。
宇宙軍からのそれはいぶかしんでのものだったが、支援係のそれは事実の報告だった。
連合直隷の施設であるターミナルコロニーにおいて犯罪が行われていたのだ。
このほど連合警察内では、初めて、多くの者がこれまで極秘に行われていた極秘捜査を知らされ、各国・各企業の非合法実験の数々を公開し、大々的な打倒キャンペーンを行おうとその準備を行なっている最中で、久々に意気揚々としていた。しかしその矢先、不正を正そうとしていた連合自身に問題があった事が判明してしまった。煩いほど非難を浴びているこの状況で事実を表に出せば、連合自身に問題が降りかかってしまうことになり、その力の失墜を招くことになりかねない。
結局、捜査情報の公開は先送りにされる方向に話は進んでいる。当然、宇宙開発推進国の関係者のメンツも懸けて。

朝日の射し始めた普段は使っていない支援係の部屋で、メンバー達はただ呆然としている。
廊下が騒がしい。
夜中からの大騒ぎに支援係の面々は憔悴しきっていた。事実確認を求める多くの部署への応対や上層部が設置を進めている委員会への説明など、喋りっぱなしだった。全員が口を半開きのままディスプレイに向かったり机に突っ伏したりしている。
「俺達の仕事って・・・・・・」
「黙れ」
この場で一番若そうな青年が口を開くと、中年の男が彼の方を見ずにつぶやく。皆同じ気持なのだろう、ずっと追いかけてきた事件のひと段落がくだらない理由でおしゃかになってしまったのだ。やりきれないでは済まされない。やっと初期の起ち上がりを終え、関係国との延々とした調整も終え、重厚な捜査体制になるはずだった。
いっそコロニー管理局の連中を締め上げてやろうと考えたのだが、当然の様に先に監査局に持っていかれてしまった。
連中には「悪いな」とも言われなかった。
リツには研究所襲撃のあの知らせが係長から届いた時点で予想していたことだったが、嵐が過ぎ去ってみるとさすがに余裕はなくなっていて、茫然自失とした自分に気が付き、なんとなく可愛らしくも思えた。
(竜巻のためにシェルターへ逃げ、出てきてみると家がない。そんな時の気持はこんな感じなのだろうか)
多くの事が一瞬のうちに吹き飛ばされていった。
そんなようなことを漠然と考えていると、さっき口を封じられたはずの"下っ端"がまたつぶやく。
「休暇、もう無いんでしょうね」
愚痴らずにはいられないことは誰にでも分かる。しかし、リツは限度を超えて癪に障っているのを感じた。
他の皆も同じようであるならば、彼は既に死に体だった。
声圧。
「こんな時につまらない事を言うな!」
普段聞いたことがないその怒声に驚き、行動を開始しようとしていた同僚達の口や体が止まる。青年の方は椅子の上で固まっていた。
リツはピシャッと黙らせると全て無視して席を立った。バツの悪さがまとわりついたが、声を出したことで胸のつかえが少し取れた気がした。
「お茶を入れてきます」
「後だ」
不意にいつものざらついた声が響く。調整のための会合に出ていた係長が帰ってきたのだ。皆は係長が自分のデスクに移動している間に姿勢を正す。
「公開は延期に決まった。内部調査が優先されるためだそうだ。この間、更に捜査を進めるそうだ。いっそう気を引き締めて取り組んでくれ」
この男だけはいつも通りタフだった。が、この報告を聞くと皆「やっぱりか」という空気を匂わせた。一度緩んだ雰囲気はそう簡単に締まるものではなく、リツの怒声の方がよっぽど効果があるように感じられた。
「また我々でやるんですか」
「いや、専従捜査チームがほぼ予定通り発足されるそうだ。予定と違うのは極秘に発足されるということか・・・。これでいくらか手が増えるな」
いっそ新配置は後回しにした方がいいのだろうが、多くの人間がこれまでの事や今度の事を知り動き出してしまっている以上、情報漏れを止めることは不可能となった。
「今後の我々のことだが、研究所襲撃犯を追いつつ行方不明の月臣元一郎の身辺を調べ二つの関連を探る、というのが参事の命令だ。一番熱いヤマだ、しっかり働いて見せろ。解散」
同僚達は「了解」と声を合わせある者は席に戻り、ある者は散っていく。
リツは青くなっているパートナーに先立って部屋を出ようとすると係長に呼び止められた。
「テンカワはどうしてる」
「地下に潜るそうですが」
「把握していないのか?」
「はい」(不可能に近いです)
「油断するな、奴はネルガルと繋がったんだからな。奴ら何をするか分かったもんじゃない」
「私は、信頼できると思いますが」
クッ、と係長の顔が変わる。
「・・・・・・最近、仲が良いそうじゃないか?」
リツは言われた内容が一瞬理解できなかったが、すぐさま睨みつける。するとこのきれ者は薄笑い顔から険しいものに変え服従を促してくる。
(くッ・・・)
「申し訳ありません。以後、気を引き締めて任務にあたります」
「ああ、奴から目を離すな」
「了解」
そういって部屋から出る。ドアのすぐ傍にパートナーがすまなそうな顔をして立っていた。
ふつふつと湧いてくる怒りの矛先をさっき庇ってやったこの後輩に向ようかと一瞬考えたが、徒労に過ぎないのは分かっているので、やめた。
シャワーを浴びよう、それから移動中に仮眠を取れば少しは楽になっているかもしれない。そう思いそのことを連れに告げると、当直員用のシャワー室に向かう。
当直室のドアのノブを掴むと、さっきの文句を思い出し、ウンザリしてきた。朝食を取る気など、もはや消え失せていた。

 

 

 

 

―――ドンッ!!
都市迷彩のエステバリス2が破壊され、曇った空に火花が舞う。機体の破片が破砕となってキラキラと降り注ぐ。
「ちょっ、やられたの!?」
前衛のケリス・シラギの搭乗する気体が破壊されたのを認め、カーナ・ルヌミエルは動揺する。
「リーダー、カーナ後退します」
「動くな! その場で待機」
「了解・・・・・・」
「ラピス、狙撃できそうか?」
「次はやれます。タイミング調節中」
「予測位置送れ、私のと合わせる」
「済んでいます」
領域の重なった部分が明滅する。
「・・・・・・あの辺か!」
「カーナ、たぶん移動してる。頼りすぎるな。―――聞け。私とカーナが仕掛けたらラピスがスナイプしろ」
5機中2機がやられもう壊滅の瀬戸際だった。
「「了解」」
街の中央を緩やかに流れる深紺色の雄大な川から、小銃のセンサーと銃口を使い索敵していたユミカ・オサベの機体が装甲上に滝を作りながら姿を現す。陸戦使用のブースターを軽くふかし低空を横に流れつつ連射する。同時にカーナも低くしていた姿勢を持ち上げ連射する。
東欧の街に弾跡がうねり、石造りの建物と樹木が飛び散る。
と、二人が狙っていた場所と離れたところからブラストが起こり鳥が飛び立つ。河から街中へ横っ飛びしていたユミカの左足と左肩を直撃した。姿勢を崩したまま公園の森に消える。
相手の攻撃によって、ラピスのラウンドディスプレイにシュートキューが現われ、すかさずスナイパースカヤの引き金を絞る。
目標の青いエステ2が移動を開始しようと、機体を上げたそこへ殺到させる。
――――が、初弾の一発が目標の右手を損傷できただけで間断なく注いだはずの次弾達はかすりもしない。
青いエステ2が入り組んだ路地と攻撃をローラーダッシュで駆け抜ける。一気にカーナへ近づくと軽いフェイントを入れ、射線をずらし後に回り右腕をひねり上げる。カーナ機を行動不能に陥れつつ、その機体をラピスとの間に入れ射線を封じると即席の掩体を利用して射撃してくる。
ラピスは既に元の位置から移動済みだったが正確に補足してくる射撃を回避するのがやっとで、この状況の打開策は浮かばない。 と、目標の背後にゆらっと機体が現われ、ぶち当たる様に手の無い片腕で腰にしがみつく。既に停止しているカーナ機が年代ものの石造建築に崩れ落ちる。じょう回を続けていたラピスの射線が、開いた。
「ラピスやれ!」
ユミカからの通信だった。
またとないチャンスを生かそうと長い銃身を向ける。十字のシュートキューが表示されロックを伝えてくる。
相手の一発が近くの建造物を破壊し、そのことに気を逸らした瞬間、意識を戻すとゆっくり崩れ落ちるユミカ機が目に入った。振りほどいて移動に移ったのだと思い周りを見渡す。
しかし何処にも相手の気配は無い。
不自然な影がかすめたのを感じ見上げようとすると衝撃に襲われ、ブラックアウトした。遅まきの接近警報が頼り無く響いているのに気が付いた。

ナデシコ内にある機動兵器のシミュレーターからラピスは降りる。元の世界がまぶしかった。
緊張から解き放たれ、ふらつく足を踏ん張り距離を刻む。
以前は戦闘を終えてもこんな風になることはなかったので正直驚いていた。バックアップでない戦闘というのはこういう事なのだろうか。
先に降りていたマキ・アサイ、ケリス、カーナがいらついた表情で迎える。
マキは始まってすぐに使用したミサイルポッドのバックブラストが吹き上げる熱によって発見され、潰された。
ラピスと同時に降りてきたユミカも同じように「腹が立っています」という顔をしている。
そして、対戦していた相手も勿体つけて降りてきた。
「よっ、お揃いで。1対5で3戦3勝、最後のは惜しかったかなー。まぁ、IFSを付けてないとここまで動きに差が出るっていういい教訓になっただろう」
サブロウタは満足そうに頷いている。イメージフィードバックシステムの優位性を匂わせているような感じで、営業のようだ。
それにしても、とラピスは思う。
ここまでハンデをつけられて1勝もできないとは思わなかった。アキトと自分の仇敵であった北辰一派との決闘の時、途中から助太刀に入った彼の戦闘能力を分析していたが実際に相対してみるとまったく違った。自分が隠さずにIFSを使用していれば最後の戦闘は勝てたかもしれないが、1対1での勝機は皆無に等しい。アキトなら(一対一で同じ条件であるとして)勝てるだろうが、それでもかなり厳しい戦いになるのかもしれない。
「ユミカ君の抱きつきはよかったぜー。おもわずキュンと来たね」
「有り難うございます」
姿勢を正して応える。ユミカは今の3連戦でサブロウタの実力に驚いていた。「年はそれほど変わらないのに」と感じていたのだが、今の会話で尊敬には至らないだろうことが判明した。
「流石、経験者は違うねー」
IFSの特徴の一つとしてパイロットの養成にそれほど時間がかからないことが挙げられる。しかし何においてもそうなのだろうが、IFSもセンスと同じぐらい経験がものをいう。とすれば合目的的ではないにせよ歴戦のツワモノであるアキトの戦闘力というのはかなりのものなのだろうと、ラピスは改めて実感し、少し遠い存在に感じた。
「ところでテンカワ君、君いい線してると思ったけど経験あるのかな。格闘技とか」
「合気道(プロスペクタ−仕込み)、を少し」
「へえ、合気道かぁ。それで動きに無駄が無いのかな。じゃあさ、キミの経験から俺に勝てそうな相手とか思いあたらない?」
「・・・・・・分かりませんが、そうはいないように思います」
この男も気付いているようだ。しかしあまり気をつける必要は無いように感じる。
「照れるなー。では皆さん、次やるときは一勝くらいできるようになっておいてくれ、忙しいだろうけど。じゃ解散!」
全員で答礼する。
「ネー、ユミカ君。これから一緒に休憩にしない?」
「嬉しいのですが、忙しいので失礼します。またの機会に」
呼び止められたユミカは嫌な顔一つせずに応える。他のメンバーはやられた腹いせもあってか感嘆の声を上げた。

一番のピークを終え、ぽつぽつとしかクルーのいない食堂にサブロウタは座っている。先程とは違った難しい表情を作りストローで抹茶オレをつつく。
今朝来た通信の内容のせいで落ち着かない。
≪月臣元一郎ニ動キアリ≫
月臣は木連の優人部隊時代の上官であり親しくしていた仲だ。その行動の真否よりも行動を起こす事を自分に知らせていない事に気が回ってしょうがない。彼なら迷惑をかけないよう、また慎重に事を進めるため自分を避けるのは当然なのだが、木星圏の危機ならば自分や秋山さんに伝え協力を求めるのが筋なのではないかと考えずにはいられず、もしかしたら自分だけ仲間はずれにされているのではないかという不安に襲われた。久々に憂さ晴らしができたせいなのか、より際立って苛立ちを感じる。
(ま、もし誘われても乗らないだろうけどね)
判っている事を確かめつつグラスを空にした。
今朝のルリのことを思い出してみる。報告を受ける前は随分機嫌が良く、受けた後もさして変わらないように感じた。無理をして元気さを装っているとも考えられたが、多分違うだろう。思い当たるのはあのかわいい実修生だ。あの子と話していい事があったとも思えないのだが・・・・・・。
先の大戦における火星極冠遺跡攻防戦の際中に、ナデシコ乗組員二人の愛の告白は、木連青年将校による熱血クーデターに多少の影響を与えていた。その頃からサブロウタはテンカワアキトに対して尊敬にも似た感情を抱いる。
しかし・・・・・・
(いいかげんテンカワさんとミスマル大佐がはっきりしてもらわないと、オレがくっつきずれんだよな)
そんなことを考えていると研修生を引き連れてルリが入ってきた。
昼食を一緒にとるらしい。彼女達に軽く手を振るとそろった敬礼で返され、なにかとっても固いカドを感じた。
ルリがあの子の目の前の席についた。
どうやらじわじわとプレッシャーを掛ける作戦らしい。食事を遅らせたのはこのためか。
(可哀想に・・・。しかし艦長もいいおもちゃ見つけたな、簡単に尻尾はつかませそうにないけど)
華やかな一団なので近づいてみようかと思ったが目の合ったユミカに軽く会釈でかわされたので諦めた。

 

 

 

 

月にある宇宙軍のドッグに入るナデシコb。
ドッグ内に張り付いたキャットウォークの手すりには「お帰りナデシコb、ミスマル大佐」の垂れ幕がなびいている。
ネルガルの工廠での改装と試験が終わり任務に復帰した。この艦の新しい配置になる統合オペレーターを務めるマキビ・ハリは一ヶ月の後に配属となる。
そのブリッジ。内装はナデシコ級特有のものと、リアトリス級のタイプを合わせた様な配置になっていた。
皆、新しい内装への抵抗と気付く筈のない新品の匂いを嗅いでいた。どこか浮ついており、ほこりの舞っている部屋にいるようだった。
「ウー・・・・・・。あっ、車庫入れ終わったね。ドッグの整備さん入れていいよ」
宇宙軍解体に向けて人事は例外的な処置になっている。それをあらわす様に、ユリカはナデシコbの艦長として席についている。
処女艦は初航海が肝心であり、初の乗組員は精鋭で構成されるのが慣わしである。
が、ユリカは艦長席でうつらうつらとしている。ジュンがいたら雷が落ちるだろうが、この艦にはお目付け役もない。
そんなボケラ艦長でも、ユリカがあの初代ナデシコの乗り組みで艦長であったという認識は乗員達にとって他の上官を圧倒して余りある。
死傷率40パーセントを超えるような敗勢に陥った前線で、陣地撤収時の殿を務め上げた傭兵連隊のように脅威的だった。
「了解。艦長、コスモスから電文です。寝てないんですか?」
アマテラスの調査から帰ったあと総司令部あての報告書をまとめるためほとんど徹夜した。
(通信員の子の筈だけど・・・)
話し掛けられたがどの位置に誰がいるのかまだ慣れておらず、声と後姿から判断しその方向に伝える。
「ちょっと、いきなり仕事が入っちゃって。こっちによこして」
「了解」
「・・・・・・・・・・・・・・・・、眠いからダメ」
「何かあったのですか?」
ナデシコbの副長を務める、タチバナ・マモルが訊ねてくる。
旧木連の軍人だが、木連の青年将校が起こした<熱血クーデター>に参加し、その後は木星圏自衛軍には入らずに宇宙軍に入隊した。サブロウタの後輩であるのだが、先輩とは違ってしっかり木連人している。
「ご飯の誘い」
「そうでしたか。行かれないのでしたら自分から断っておきましょうか?」
「ううん、いいよ。自分でやるから」
「はっ」
そして当然の如くユリカファンの一人でもあった。
彼らユリカマニアにとって、タチバナは憎たらしいほどの幸運を手にした男だ。彼の乗船前には壮行会が催され、粛々と盃が交わされ、血判状の取り決めまで行われた。しかし、血判状にあった「ミスマル大佐のお写真」についての項でタチバナが「副長としてこれは容れられない」と頑として拒んだため、警察沙汰に成るほどの喧嘩になり一時は乗艦さえ危ぶまれた。結局、例の半端な血判状は酒に浸され掃除の人に捨てられた。
つまりは大きなハーリー君であり、そして、小さなタチバナがそのうち来る。
「では通常の夜間配置に戻して、それと上陸組に許可を出してください。私は自室で休んでいますから」
そんな話をしながらタチバナと向かい合い、申し送りの挙動を取る。
二人が向かい合うと、嘘のようにユリカの背筋が伸び、タチバナはユリカに威圧感を通り越した神聖さとも言うべき感情を覚えた。
「上陸なされないのですか? 報告書なら私がやりますが」
「気楽に休んでいてください。じゃ、皆さんお休み」
タチバナは敬礼で見送る。その後姿にブリッジの乗組員達は笑いを堪えている。

自室に戻り、ウィンドウを開くとメールの着信を知らせてくる。
(流石ルリちゃん、速い)
ジョーカーことルリの調べた内容が表示される。
分かり易いのは言うまでもなく、さり気ない可愛らしさが光るレイアウトになっている。
連合警察内で大きな動きが起こっており、何かが進んでいることが分かった。新しい体制に変わりつつあることもそれを物語っている。
が、一体誰が何の目的があって研究所を襲ったのかはハッキリしない。ナデシコcの力を以ってしても、事の真相は判然としないようだ。
A級ジャンパーの実験という項目がある。ユリカもその可能性が一番太いと思っているのだが、連合警察が情報を公開していないので確信にはいたらない。
アキトが関わった形跡はない。テンカワの姓を持つラピスという少女からはまだ何も掴めていない様で今後も努力する旨が記されていた。
月臣元一郎の関与については不明。過激分子<蹲踞>の活動が目立って不明になり、活発である事が予想された。
(ルリちゃんでも分からないか。結構根が深いってことね。 ・・・・・・ネルガルなら、エリナさんよりアカツキさんに直接聞いたほうがいいみたいだけど)
しかし、知っていても言いたくはない事は絶対に教えてない性格を思い出す。バカにしたように笑う姿が思い浮かぶ。
今後は、ルリのジョーカーたる力に期待してもう眠ることにした。
艦内の集団浴場には行かず、自室のシャワーを頭から浴びる。
混沌に近づいていくこの状況において、かつてのナデシコが果たしたように、何かの役割をかってでる必要はあるのだろうか?
クーデターの残党は混乱が収まれば次第に消滅していくだろう。
混乱の元凶は、クリムゾンにある!
そう考える向きもあるが木連への進出は暗黙のうちに抑えられていたことで、追い詰められ始めた状況で仕方なく行ったとも考えられる。地球圏でも資本の移った地域は悲鳴を上げていて、共産的な資本主義の進むこの世界においてはクリムゾンは批判の的だ。せめてもう少し加減してくれていればここまでは至らなかったろうが、それを責めてもしょうがない。
この現状は極めて厳しい。
シャワーを止め、バスタオルを手に取る。鏡を見つめると自分しか映っていない事がひどく寂しく感じられた。長い髪が煩わしくなり切ってしまいたくなった。
シャワー室から出る。誰も心配してくれないのは分かっていたがベッドへ大げさに倒れこんでみる。
ピッ、ピッ、ピッ・・・・・・
三・三・七のリズムで私用通信が入った事を伝えてくる。わざと倒れこんだせいもあってなかなかでる気分にならない。
が、でないわけにもいかない。
空中に最小化され点滅しているウィンドウを開く。
「もしもし?」
「お久しぶり。イネス・フレサンジュです」
「イネスさん!」
「そう・・・! こういう喜び・・・、久しぶりだわ・・・・・・」
上向き加減で両目を閉じ、体をすくめ自分の両肩を抱いてみせる。が、すぐに素に戻るとフウッと吐息を漏らす。
「はぁ・・・・・・、どうしたんですか?」
「・・・最近、同僚としか話してなくてね」
「いえ、そうではなくてこんな夜中にどうしたんですか?」
そっけないユリカの言葉にイネスの口元が引きつる。
「・・・。ちゃんと薬は飲んでるかしら。体調はどう? ホシノルリ化が激しいようね」
「バッチリ、好調ですよ! 今は眠いけど。あの、ルリちゃん化けってなんですか?」
「あれは・・・、まだ続いてるの?」
「・・・・・・ええ・・・・・・」
ユリカの身に続いている事。
断片的な記憶のフラッシュ。これが起こると体の自由がきかなくなったり、酷い時には気を失ったりする事もある。
「でも随分減ったんですよ。種類も減ったし」
「ふーん。だいぶ落ち着いてきたようね。いい傾向だわ」
「本題をどうぞ」
「・・・・・・付き合い悪くなったわね。やっぱりルリ化が・・・・・・」
「かなり眠いんです。ルリちゃん化けは関係ないかな」
「そう。ちょっと情報があってね。この間のアマテラス戦闘で行方不明者の中に有名な人物がいるのよ。気付いてるかしら?」
「兵員ですか?」
「いえ、研究施設の・・・・・・」
「そっちですか(公開されてない筈なんだけどなー)。誰なんです?」
「そっちの事は知ってるのね。行方不明者の名はノビコフ・プリボイ、遺伝子情報処理と反ヒト遺伝子操作論者で有名よ。かれの専門領域は・・・・・・」
「知りませんでした・・・・・・。助かります」
これで何が起こっているのか随分掴めそうだ。遺伝子操作。またこの言葉がキーワードとなって現われた。イネスも自分もA級ジャンパーであるから、既に今回の現象の渦中にいると言う事かもしれない。
もしかしたら、いや間違いなく・・・・・・
「アキト君も関わっているかもしれないわね。最後のチャンスになるかもしれないんだから上手くやりなさい。でないと、みんなが会えそうにないんですから」
・・・日の光、月の光を表す名のイメージが湧き立った。
興味深そうなまなざしがイネスから注がれている。瞳から胸へと熱い伝導を感じた。
「はい、任せてください!」

 

 

 

 

地球の見えるバーのテーブル。
男が人を待っていた。表情の見えない顔。
アキトはダークスーツに白の開襟シャツをくずす風でもなく着ていて、両脇に風防のついた丸型の厚みを感じるサングラスを掛けている。こちらには既に気付いていたようだ。
「久しぶり・・・・・・」
言葉は詰まってそれ以上でなかった。短めに切られた髪と少しそげた頬の容貌には精悍さがあり、自分の知っている頃よりも野性味が感じられた。見つめてもサングラスの奥の瞳は見えない。血の気を感じぬ口元に、薄く笑みを現した。その表情に嫌な感じは受けなかった。
「久しぶり。ずっと連絡もしないで悪かった。あ――、それと急に呼んだことも」
バツが悪そうに話す。声に瑞々しさがあり、ちょっとイメージがずれた。生気がある。目が離せないままエリナは隣の席に着く。
「・・・・・・そうよ、忙しいんだからこっちは」
「忙しいんなら、変わりはないんだろ?」
「あなたはどうなの? 今何してるのよ? さんざ心配させておいて。イネス先生もあれで気にしてるわ」
「わるい。今は・・・、仲介業か。働いてる」
「仲介って・・・。どうせ怪しげなことなんでしょう。 知ってるわよ、ラピスほっぽり出して」
「いや、ほっぽり出したって訳じゃない。それなりに考えてる」
「どうだか・・・・・。どうせ、私のことなんて考えてなかったでしょう? きっと」
「心配してた」
「心配してたのはこっちなのよッ」
「わるい・・・・・・・」
別段、悪びれた様子はない。
「ふふっ、それで何の用なの。ろくな事じゃないんでしょう」
「ああ、それなんだけど・・・、ウッ!  来た・・・」
エリナが視線を向けた先には真っ赤なドレスに身を包んだ女性が歩いていた。ドレスのラインは出るところは出、収まるべきところは収まっていて、鮮やかな赤に揺れるブロンドの髪が良く似合っている。 何か辺りを見回しているようだ。少し見えた横顔と特徴的なルージュに見覚えがあり、ハッとする。そこへアキトが小声で話し掛けてくる。
(すまない。俺も時間なくて、エリナも時間取りずらいだろ。あっちも暇ないって言うからここで一緒に・・・)
(あれ、あのシャロン・ウィードリンでしょう!? クリムゾンの月工場に視察に入るって聞いたけど、なんであなたと知り合いなのよ!?)
(いや、前に仲介をやったんだ。それでちょっと話がある)
さっきまでの再会の雰囲気はどこかへ飛んでしまい、感情が沸騰し始める。
(あなた・・・、人が心配してたっていうのに・・・、よりによってクリムゾンの女に厄介になってたっていうの!)
(厄介って?)
(もう、最っ低・・・。すこしは人に気を使いなさいよっ! 私は・・・、私が・・・)
(おい、エリナ?)
(私がどんな思いしてあの娘やリョウコに頭下げたと思うのよ!! なに? じゃあ、私はあの女に匿ってもらってるのを庇ってたっていうの!?)
(匿ってはもらってない。ただ仕事で)
(一緒になったって言うの? 重要人物もいい身分ねぇ。私にスーツで来させて恥じをかかせようって言うの? それともあんな格好で呼んだのは、何か他に訳があるって言うのッ!?)
(なに怒ってるんだよ)
(何って・・・)
そのスーツがどれだけ似合わないかを酷評してやろうと連続技の溜めに入ろうとした時、見つかった。
「あっ? アキト! やっと見つけた。アキトー!」
シャロンは二人の"生まれかけの修羅場"には気付かずに近寄ってくる。アキトが席を立ち、自分もとりあえず同調した。
「久しぶりです。無理に呼んですまない」
アキトは丁重な面持ちになった。
「いいのよ。それでなにかしら? やっと私にその体をあずける気になったの? それともデート?」
決して聞き流せない発言。アキトを強引に振り向かせる。
「・・・アズケルってどういう事なのか説明してもらいましょうかしら?」
「エリナ、なに言って・・・」
アキトが小声で囁いてくる。
「あら、確かネルガル人じゃない。あー、会長に取り入ったっていう(蔑笑)」
小声のつもりなのだろうか。あからさまに「ナニあんた」という雰囲気だ。
「ちょっ、彼女は・・・」
「・・・はじめまして、兵器開発部長エリナ・キンジョウ・ウォンです。ウチのアキトがお世話になったようで」
「ウチの? 言っておきますけれどアキトとの交渉は私に優先権が約束されていますので」
「交渉? 失礼しました。まだ交渉の段階なんですね。安心いたしました」
「? どういう事なの、アキト」
「?・・・・・」
「どういう事何も、既に私がいただいているのは事実ですから」
もうどうにでもなれ、と思う。
「エリ・・・」
「ワタシガ? もしかしてあなた誤解してるわね? 諦めなさい、アキトは私のモノになるんだから。相手にされなかった女性が虚勢を張るのはみっともないわよ。」
「有り得ません。 ・・・・私達の関係はあなたの様なお嬢様には分からないかもしれませんね(微笑)」
アキトが脱力した感じでサングラスを直す。
「・・・今なんと言いました?」
「えっ? 私がいただいた、のことですか?」
「私に向かって<お嬢様>といったでしょう! 不愉快よ。 ・・・金臭い女なんか雇っているからネルガルは鈍くなったんじゃないかしら(怒笑)」
「いまなんと?(憤笑)」
ゴング前といった具合に睨みあう。笑っているのが不気味だ。
「座ろう」
と、「やれやれ・・・・」といったふうの微笑を向けたアキトに二人してハッとなる。
エリナは、アキトが笑う姿を見て、一瞬、時が止まったようにさえ感じた。
我に返ると、意外にもシャロンはすました表情で席に着き、余裕の笑みを向けてくる。
しかし、自分の方はどうしようもないくらい頭にきているのが分かり、引きつった笑顔も限界に近い。
アキトの笑顔でも大人しく席に着く気にはなれなかった。
そんな自分を見かねたのかアキトが腰の辺りに手を当てて促してくれる。そのおかげでやっと昂ぶりが治まってきた。大人しくアキトと一緒に席へ着く。
と、今度はシャロンが突然席を立った。
(やるつもり?)
と勘ぐっていると、彼女は軽く身をよじる素振りを見せた。
どうやら自分にも「エスコートしろ」ということらしい。大胆に開いたその艶やかな背中に触れろと。
引けを取るつもりは毛頭なかったが普段のスーツと美しいラインのドレスでは分が悪かった。悔し涙さえ浮かんできそうな気持になる。
しかし、アキトは椅子を直してやっただけだった。それからサングラスを外しこっちに「もう止めてくれ」という顔をする。
あい変わらず、鋭い瞳にはもったいない優しげな睫毛がついていて魅力を感じてしまった。シャロンはアキトの顔が気になるのかおずおずと座った。
アキトの一連の動作になにかずる賢さを覚えたように思え、すこし笑えた。

「もう紹介は必要ないな。二人が一緒になったのは調整をつけられなかった俺の責任だ。すまない」
それを聞くとシャロンが先に口を開く。
「いいのよ、別々に会われる方がよっぽど迷惑だわ」
確かにそうだ、と相槌を打ちながら質問してみる。
「二人はどういう関係なの?」
アキトがしょうがないなという顔をして口を開く。
「・・・クリムゾンがA級ジャンパーを狙ってたのは知ってるな。あれが失敗して連合と話をつけるときに知り合ったんだ」
「そう、あの時はネルガルにもお世話になったわねー」
シャロンの語気が荒がる。まだ根に持っているようで、そのせいで自分のことを覚えていたのかと思い当たった。
それにしても、アキトが連合と関わっているのが信じられなかった。
「連合って、あなた付いてるの?」
「仲介だ。付いてる訳じゃない」
「じゃ、あなたが関わっているのね。道理でね」
エリナは、自分がほとほと裏の事情に通じていないことを思い知った。しかし「関わり」とは何だろう。
会長あたりなら知っているのだろうが、あの<じらし好き>は面白がってエリナへ伝えるようなまねはしない。
「あんたのバカな奴ら、どうにかならないのか」
連合の話しになってからアキトの口調が冷たいものに変わっていく。何か危険なことを行っているのは想像できた。
(やっぱり抜けきれてはいないか)
そう思うと、目の前のアキトだけでなく、先ほどの笑顔にまで影が落ちた。
「分かってるわ、クリムゾンの一番の汚点だって事は。レッド・カラーの染みよあんな奴ら」
「一体何をやってるの?」
「・・・言えません」
当然か、と笑ってしまう。自分でもバカな質問だと思った。
「頼みがある。聞いてくれるか」
「いいわよ。聞くだけ聞くわ」
「アマテラスの事件は知っているな。」
「・・・ええ」
シャロンの表情が「やっぱりか」「痛いところを」というふうになった。何か悪さがあるらしい。
「噂だと、連合の捜査がまた伏せられることになったそうだ。なあ、公開を妨害するためにあんな場所に大規模の研究施設を置いてたんじゃないのか。そしてこのタイミングの良さ、連合警察辺りに密通者がいるんじゃないのか?」
「公開捜査を食い止めるための生贄、と言いたいのね」
ふと、エリナは自分がこの場にいて良いのか不安になった。自分から話ができる雰囲気ではない。一体何の捜査のことなのだろうか。
「・・・それで?」
「密通者を探してくれないか」
「それは私も密通者になるって事よ」
「仲介者だ。君にもあっちは邪魔なだけだろ。これ以上会社に傷をつけたくないのは分かるが、いいかげん切り捨てたらどうだ?」
「クリムゾンとして、か・・・。やってみましょう、いつかは対決しなきゃいけない問題だから」
「襲撃の実行犯の詳細も頼めないか。盗んだものの行く先とかは先方でやるそうだから深くは突っ込まないでくれ」
「盗んだ?」
「ああ・・・、まだ知らなかったのか。短時間で選び、持ち去っていった」
「回収したって事でしょう? 証拠は残さないもの」
「実行犯の奴らクリムゾンから消えたようだ」
「ウチから? 火星の後継者やどこかに頼んで襲撃させたんじゃないの?」
「協力したんだろうがもう一つ、別な奴らがいる。奴らクリムゾンと残党どもの裏をかいてる。面子はすぐ割れるはずだ。知ってる奴が多いけど・・・」
「わかったわ・・・、面倒なことね。そうね、いいかげん何かご褒美が欲しいわねー。そろそろ超A級のデータくれないかしら。それとこれが終わったら私に付いてくれない?」
シャロンが影のない綺麗な笑顔を作る。アキトは冷めた表情のままだ。動向に注目する。
「・・・奴らの追い出しじゃ足りないのか?」
「ウチの出血が多すぎるの」
「・・・・。」
「言質も欲しいの」
おねだり体制に入った。相手を逃がさないように微笑みで布陣を敷いている。突っぱねれば涙攻めだろう。
「終わったら考える。それでいいだろう?」
「足りてはないけど、分かったわ。絶対考えなさいよ」
「ああ。それで、エリナへの頼みなんだけど」
アキトがこちらを向く。声の冷淡さは変わらず、瞳も鋭さを失わない。覚悟する。
「どうぞ?」
「ああ。月臣元一郎が行方不明になったそうだ。俺も追ってる」
また自分の知らなかった実情が明かされた。彼がネルガルに非公式に所属するのは知っている。いや、もう所属はしていないと言っていいのだろう。
「月臣元一郎・・・!」
シャロンが呟く。ビジネスチャンスとでも考えたのか面白そうだ。
「おい、今回のアマテラスに関係有るかもしれないんだぞ」
「えっ、じゃウチを利用した奴ってのは月臣?」
「かも」
また、クーデターでも起こそうと言うのだろうか。月臣とはそれほど親しかったわけではないが無謀な事をするタイプではなかった筈だ。
「それじゃあ会長はもう動いてるんでしょう? 私にできることなんてあるの?」
「・・・前に、その会長さんから餞別に機体をもらったんだが、それ使ってないんだ」
アキトが写真を開く。灰色のエステバリスがあった。スーパーエステバリスのように肩にキャノンと一体型のミサイルポッドが付いている。頭部にうっすらと見える文字は<試>のようだ。
「これ、確かあなたのリハビリ用に組んだけど使わなかった奴でしょ。型遅れね」
「アルストロメリアを借して欲しい。ジャンプ可能な高機動ユニットつきで」
「生産がおっつかなくて、できたら納入の繰り返し。無いわ」
「そう・・・か。いや、急ぎの話って訳じゃないんだけど」
弱ったな、という顔を見せる。アキトは水の入ったグラスを爪で鳴らす。
そのためには奥の手を使うしかない。アキトもそれを希望している。
「タカマガにあるネルガル系列の試験場は知ってる?」
「試験場なんてあったか?」
「できたのよ。そこであの時のチームがユニットの運用実験をやってるわ。もし・・・試験と運用データを取ってきてくれるんならそこの機体、貸してもいいわ」
「助かった・・・、ありがとう」
あの時、アキトが戦闘に使ったサレナ型は証拠隠滅のためにパーツのほとんどが放棄された。
その母船であるユーチャリスは火星の海に沈んでいる。沈めた場所は海溝なのだが、なぜそんな証拠の残るようなことをしたかというとユーチャリスのスーパーコンピュータの性能が想定以上の出来であった為、火星の監視や何かあった際の伏兵として利用できるからだ。
「準備にちょっと時間が掛かるけど」
「すぐ必要ってわけじゃない」
「壊さないでよ。それで? なんに使うの」
「分からない」
「彼が来たらどうするの? 師匠なんでしょう?」
「戦うさ」
「・・・殺せるの?」
「ああ」
目元が笑っているのが会話に不釣合いだったが、もう決めたことなのだろう。それ以上問い掛けようとは思わなかった。
シャロンはただ私達を眺めているだけだった。

その後は時間の無い者同士、迎えのうるさいシャロンとは別れ、二人でオフィスに向かう。何とかして送らせることに成功した。
シャロンの「アキトは私のものになるんですからね。誰が好きだろうが私が手に入れてみせるわ」という捨て台詞が面白く、繰り返し再生する。
アキトから奪い挙げたサングラスは普通の物ではなかったので一度転びそうになった。
「やっぱり貸したくないかな。また私が心配しなきゃならないんだから」
「なんとかなる」
「なんとかしなさいよ。もう死ぬ気はないんでしょう? やっと落ち着いて会うことができたんだから・・・」
そう、いくら以前と変わらないように感じても、あの血の気の無い吐息を感じても、そこだけははっきりと解かる。
ラピスを手放したと聞いたときは「まさか死ぬつもりなんじゃ・・・」と心底心配したのだが、この鈍感は人の気を知らない。
「・・・・・。」
アキトの静かな反応に、無理をせずとも口が動いた。
「今度こそ答えを聞くわよ。あれはあなたを見かねてしたんですからね。そうじゃなきゃ、寂しいもの。だから考えなくていいわ。とにかく答えを、あなたの言葉で聞かせて」
「・・・今度な・・・」
「今は駄目なの?」
「駄目だ」
アキトの困り顔はいつ見てもいいものだと思う。なんとなくいい返事が聞けそうな気もするが確率は低そうだ。そう簡単に割り切れるものでもないだろう。割り切れたとしても自分を選んでくれる可能性はどれほどのものなのか。少なくともシャロンよりは高そうに思えたが。
「大切なことよ?」
余裕。私はアキトを支えていける自信が有る。あの時、隣にいることができたんだから。傍にいられればそれでいい。
「ああ、俺がハッキリする番だから」
本当にアキトらしい言葉だから、確かに過去とは変わり始めていることを感じた。どれほど変わったのかは、まだわからないけれども。
「私は気長に待ってるからね」
表情を保ちつつ、かなり勇気をもって言ってみた。
ここまで言ってもアキトの面持ちは、愁いを湛えたまますこし笑ってみせるだけで、容易でない自分の心情を垣間見せただけだった。
「普通・・・、女のこんな顔見たら抱き締めるくらいはするものよ?」










(傍にいてって言ってるのが分からない?)

 

 

 

 


-------------------あとがく--------------------

メール、電文、電信、電報、電封、・・・・・、etc。

個人的には、電信が好み。


☆修正しました。九月の下旬の筈です。
手打ちは疲れます。BRがうざくてうざくて、
ベクターへ行きなさいって声は聞こえないようです。
それにしても、
話にいろいろと無理が見えてくるのが辛いです。
それと、文章はちょい直し程度です。
無理を見ても内容は直しません。
恥はさらして、さらばうべし

さらばうだけじゃダメでしょうけど
I wonder you are also watching tender clouds






管理人の感想

 

 

hyu−nさんからの投稿です!!

シャロン参戦(爆)

しかしモノ扱いか、アキトよ(苦笑)

エリナも闘争心バリバリだし。

・・・サブロウタの動きが、いまいち掴めませんがね。

ラピスの今後も楽しみですね!!

 

では、hyu-nさん!! 投稿有難うございました!!

 

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