熱した鍋に卵を入れ、卵が半熟になる瞬間を見誤らずに冷や飯を混ぜる。中華鍋を片手で難なく持ち上げ
ておたまでかき混ぜる。ネギのみじん切りと塩とコショウで手早く味を整えていく。醤油を入れるが、あく
までも香りつけだ。そして最後に酒で飯と卵をふわっとさせる。

 少し前から再び料理を始め、ラピスに食べて貰っていた。料理は二度とできないと思っていたが、炒飯だ
けはなんとか作れるようになった。体が覚えているはずだと言われ、仕方なく作ってみたが中々食べれると
思われるものが完成した。

「できたぞラピス」

 出来上がったものをラピスの前に出す。ラピスは早速れんげを持って炒飯を食べ始める。

 一応自分の分も作ってあるので食べるが、やはりというか味を感じることはできない。料理ができないこ
とに絶望し、五感を奪った奴等に憎悪するが復讐を終えた今ではそれすら虚しく思える。

「……おいしいかラピス?」
「ちょっと辛いけど、温かくて……おいしい」
「そうか」

それ以降は会話もない静かな食事だったが、突然コミュニケから着信音が鳴り響いた。これが鳴る時は大抵
仕事の依頼や、大事な話がある時だけだ。

『いや〜、お楽しみのところ悪いんだけどちょっと会長室まで来てくれたまえ。それじゃ待ってるよ』

 こちらの返事をまたずにコミュニケをきる様はアカツキらしい。食事を邪魔されたかと思うと苛つくのだ
が、一応上司と部下の関係なので無視することはできない。

「ラピス。アカツキの所に行くぞ」
「トンボの話なんて面白くないものばかり。アキトのご飯を食べてたほうがいい」
「……食べ終わったら来るんだぞ」

 苦笑を浮かべながら、アキトは壁に掛けてあったマントを羽織り会長室へと向かう。途中何人かのネルガ
ル社員とすれ違ったが、全身黒の服装をしたアキトを咎めるものはいなかった。最初の頃は訝しい目で見ら
れたものの、今では周りも慣れてしまったようだ。

 通路を少し歩いた場所に会長室はあるので、着くまでにそれほど時間はかからない。ドアを開けると、そ
こにはいつも通りの笑みを浮かべたアカツキと険しい顔をしたエリナがいた。

「一体何の用だ?」
「彼女とお楽しみのとこ申し訳ないね。今度僕も誘ってくれたらうれしいばっ!?」
「見てもらえればわかるわ」

 アカツキの顔面に裏拳をかまして黙らした後、ウインドウを開く。そこに写しだされたのは───





「……足りない」

 炒飯を食べ終わり、物足りなさを感じつつアキトのいる所へ行こうとして立ち上がった瞬間、激しい感情
がリンク越しに伝わってくる。怒り・憎悪といった負の感情……火星の後継者と戦っていた時は毎日のよう
に伝わってきたものだが、戦いが終わって以来これが初めてだ。

 眩暈をおこしながらアキトがいる場所へ走り出す。会長室までそれほどの距離はないのに、ラピスにはと
ても長く感じられた。

『そして! 我等火星の後継者はここに再び、宣戦を布告する!』

 会長室にたどり着きドアを開けると同時に声が聞こえたが、それよりもラピスにはアキトの様子が気にな
った。アキトの顔を見上げると、ナノマシンの斜線が煌きその手は硬く握られている。

「今の男は南雲義政。草壁・新庄につづいて実質NO.3だった男よ」
「ま、いつかはやるとは思っていたけど、まさかこんなに行動が早いとはね」
「……ユリカは?」

 幾分か冷静さを取り戻し、自分の最愛の人物の安否を尋ねる。火星の後継者が再び立ち上がったとなれば
、A級ジャンパーは危険に晒される。北辰とその配下がいないとはいえ、決して油断はできない。

「それならすでにネルガルSSを配置済みよ。宇宙軍からも手配されてるみたいだしね」
「そうか。ドクターは大丈夫なんだろうな?」
「それがまあ、ドクターは火星の遺跡の調査にでててね。現在ネルガルを留守にしてるんだ。ゴート君を迎
えにだすからそっちも大丈夫でしょ」 

火星の後継者の情報は伝わってないだろうが、イネスなら最悪、単独ボソンジャンプで帰ってこれるから
捕虜になる心配はない。むしろ心配なのは───

「ルリちゃんは今何処にいるんだ?」
「現在、ナデシコBにて艦長候補生と一緒に訓練航行をしてるわ。先程、宇宙軍から極秘任務で掃討作戦を
命令されたようだけどね。今はネルガル月ドックで補給を受けてるわ」
「ナデシコBにある戦力は?」
「訓練航行をするにあたって、色々改修されたからね。聞くよりも見たほうが早いわ」

 渡された資料は訓練航行のカリキュラムが記載されたものだ。ナデシコBには16門のミサイルが搭載さ
れ、クルーにはかつての戦友が沢山乗っている。それほど心配する必要はなさそうだ。

 ページをめくり、ふと艦長候補生の名前が目に留まる。最初は同名かと思ったが、次のページに記載され
ていた顔写真を見てアキトは唖然とした。宇宙軍にいるとは聞いていたが、まさかこのタイミングでナデシ
コに乗っているとは思いもしなかった。

 エリナに資料を返し、アキトは二人に背を向け会長室を出て行こうとした。その様子を見たエリナは慌て
てその背中に声をかける。

「ちょっと、何処に行く気?」
「ユリカの警護にあたる。何か問題があるのか?」
「だから、ネルガルや宇宙軍から護衛がでてるって言ったでしょう!
それにホシノ・ルリのことはどうする気?」
「……後になって後悔するのはもう沢山だ。ルリちゃんのことはネルガルに任せる。行くぞラピス」

 そう言ってアキトとラピスは会長室から出て行く。ホシノ・ルリの警護に当たってもらおうと思っていた
エリナは予想外のことにしばし呆然としたが、慌ててアキトの後を追った。一人残されたアカツキはコミュ
ニケを開き、一人の男を呼び出す。

「ああ、ゴード君かい?
ちょっとこれから一仕事頼みたいんだ。それと月臣君にここに来てもらうように言
っておいてくれたまえ」

 ゴートに仕事内容を告げた後、コミュニケを切ったアカツキは先程アキトに見せた資料を読む。先程のア
キトの挙動が少し気になっていた。何か意外なものでも見たような表情を浮かべていたが……。

 少し資料に目をとおしたが、アキトが目を引くようなものは見つからない。強いていうなら、艦長候補生
と、新しく配属された宇宙軍の人物以外に変わったものはない。

 データを開いても、その人物等におかしいところはなかった。

「入ります」

 規則正しいノックと共に、白い制服に身を包んだ男が会長室に現れる。

「お呼びでしょうか?」
「実は君に少し頼みごとがあってね。クリムゾンの動向を調べて欲しい。何か動きがあったらすぐ連絡してくれ」
「了解です」
「ああ、それと……この人達のことも調べておくようSSの諸君に伝えておいてくれたまえ」

 少し眉を潜めた月臣だが、特に何も言わずに資料を受け取る。疑問に思ったことは、徹底的に調べるのが
アカツキの性分だ。

 ……もっとも、調べるのは月臣やSSであって、アカツキ自身ではないのだが。


 機動戦艦ナデシコ ANOTHER MISSION 第三話


 

『これを組み込めばいいんだな?』
『ああ。ただし、鍵がなければ意味はないがな』

 手渡された物を懐にしまい、跳躍するための準備を行う。
 その間、男は何も喋らずにこちらを見ていた。
 準備が整い、自身がボソンの輝きに包まれる。

『鍵がある場所に必ず辿り着く。その後どうするかはお前が決めろ』
『……どういう意味だ?』

 目の前の人物が言った言葉の意味が理解できなかった。決めるも何も、やることは既に決まっているのだ。
 その目的の為に自分はこうしているのだ。
『……大事なのは選択だ。自分の目で見て、確かめて、そして───』 
『おい……貴様一体何をした!』

 問いただそうとするが、すでに跳躍が始まっており、最後に何を言ったのかはわからない。
 そして、段々と視界が真っ白になっていき、目の前の光景は───

「…………また、この夢か……」

 疲れた感じ体を起こし、ベットから起き上がる。
 毎晩のようにみる夢。自分が何処かに跳躍しようとするのはわかるが、何故跳躍するのかがわからない。
 何が目的だったのか、何処へ跳ぼうとしたのか、夢の中の人物が誰だったのか……何も思い出せなかった。
 懐からある物を取り出す。夢の中で自分が受け取ったそれは、掌にのるほど小さな水晶のようなものだ。
 CCと同じような輝きを放つ水晶は、一体何に使うのか検討もつかない。
 夢のことに関してわかることがあるとすればボソンジャンプのことだけだ。水晶が何なのかはわからない
が、ボソンジャンプに関係あることは確かだろう。
 夢の出来事がなんなのか、何のために跳躍をしようとしたのかを知るために自分はここにいる。
 そのためにはどうしても行かなければならない場所がある。
 ボソンンジャンプのブラックボックス、演算ユニットがある極冠遺跡へと。そこに求めるものの答えがあ
るかもしれない。答えがなくとも、きっとなにかの手がかりが───。

 ビーッ、ビーッ、ビーッ。

 突然鳴り響いたその音に、思わず顔をあげる。艦内に戦闘警戒を知らせるアラームが鳴り響いたのだ。
 
 ピーッ。

 それと同時に、コミュニケから着信音が鳴る。通信をオンにすると、目の前にホシノ・ルリが画面にでて
きた。

『艦長。前方40キロの地点にボソン反応を確認しました。おそらく、敵の機動兵器と思われます』
「了解しました。私はエステバリスででますので、後の事はお任せします」
『……本当にでるんですか?』
「勿論ですよ。元々エステバリスのパイロットを望んでましたしね」
『……わかりました。それでは、補給物資の搬入等の雑事は私がお引き受けします。細かい詳細は纏まりし
だい送りますので。では』

 そう言ってコミュニケが閉じられた。その後急いで支度をし、部屋をでて格納庫へと向かう。
 その途中、いつも懐にしまっている物がない事に気がついた。

 ───取りに帰るべきか……?───

 少しの間迷ったものの、ナデシコの中に勝手に部屋にはいって人の持ち物を持ち去っていく人物はいない
だろうと思い、再び格納庫へと向かった。
 
 主のいなくなった部屋では、ベットのうえに投げ出された水晶が、淡い光を放ち続けていた。




 格納庫へ辿り着くと、忙しく動き回る整備班が目に入った。メガホンを持ち、大声で班員達に指示をだし
ている人物に近づき、声をかける。

「ウリバタケさん、エステバリスの準備はできていますか?」
「おう、艦長か。すまねえ、あとちょい待ってくれ!」

 再びメガホンを持ち、班員達に指示をだすウリバタケを横目で見た後、自分のエステバリスへと目を向ける。
 黄色を主としたカラーリングのエステだ。アマノ・ヒカルのエステバリスと似通った色合いだが、自分の
エステは少々ダークが入っており、黄緑色に近い感じだ。
 整備班の邪魔にならない場所へ移動し、整備が終わるのを待つ。ふと見慣れないエステを発見した。
 見たことある気がするのだが、どうしても思い出せない。

「あれはエステバリスの砲戦フレームだよ。さっきの補給で、ウリピーが仕入れたみたいだね」
「ああ! 確かにあんな感じのエステバリスがありましたね」

 ぽんと手を打ち、記憶の片隅にあった砲戦フレームを思い出した。謎がとけ、すっきりしたところでまた
新しい疑問が浮かぶ。

「私、口にだしましたっけ? というか、いつからそこにいたんですか?」
「…………ふ」
「そんなの気にしちゃいけないよ」
「ま、企業秘密ってことで」

 いつからそこにいたのか、三人娘とサブロウタがそこにいた。全員パイロットスーツを身につけ、いつで
も発進可能な状態だ。

 ピーッ。

『艦長。敵の位置が判明しました。この渓谷からやってくるようです。敵機は積尺気、数は不明です』

 コミュニケから通信が入り、ハーリーから情報が届く。表示された渓谷は狭く、ナデシコでは入れそうに
ない。どうしようかと思案していたら

『あのですね艦長!
僕なりに作戦を考えたのですが、この渓谷に防衛ラインを張るのはどうでしょうか?
敵がここを通るのは解りきってることですし、ここを突破されたら一巻の終わりです。単純だけど、これが
一番いいと思うんです!』
「確かにそうだが、エステが五機も密集したら狭いだろ?
ここは一つ、一機が敵を引き付け、この左右の
渓谷から挟み撃ちにする……挟撃作戦のがいいだろ?」
「私はサブちゃんの挟撃作戦に一票!」
「俺はハーリーの防衛をはるほうが単純でいいや」
「私はどっちでもかまわないわ……」
 
 二人の作戦のどちらをとるかで議論となる。
 どちらも長所はあり、短所はるが時間がない今はこれらが最適な作戦だろうと思われる。
 しかし、艦長たる自分がいなくてもいいんじゃないかと考えてしまうのだが……。

『「艦長はどっちがいいッスか(と思いますか)!?」』
「へ……?」

 いきなり話を振られ、思わず言葉がつまる。
 どちらの作戦を支持するのかという意味なのだろう。
 少し考え、自分の結論を口にだす。

「私はサブロウタさんの作戦がいいと思いますね」

 そう言った瞬間、目に見えて落ち込むハーリーと、得意そうな顔をしているサブロウタが目に見えた。
 
『でも艦長! 敵を引き付ける役の人が危なくありませんか?』
「おいおい、ハーリー。艦長の決定に文句をつけるのか?」
『そ、そんな!? 違いますよ!?
僕はただパイロットの安全面を考えただけですって!』
「そうですね。それでは、”あれ“を使いましょう」
『”あれ?“』

 指し示した先にあるのは、先程見つけたエステバリス。






「へへっ」

 何やら意味深げな含み笑いを浮かべ、マキ・イズミは敵の引き付け・足止めをするために防衛ラインに一
人佇んでいた。乗っているエステバリスは、先程の砲戦フレームだ。
 左右の手には<ラピッドライフル>が二丁構えられている。オプションとして、<3連ロケットランチャー>
を装備、近くにの壁には、<120mmカノン>がかけられていた。

 ・・           ・・・・・・・・    
「砲戦フレームの力、今こそ開放せん(かい砲戦)なんちって。ぷっ、くははははは」

 駄洒落を言い、笑いながら敵に照準をセットする。
 左右の手にある<ラピッドライフル>から大量の弾が飛び出し、標準装備されている<スーパーガトリング>
砲を使い敵を牽制する。敵機はすぐさま近くの岩陰に隠れ、やり過ごそうとした。

 カチッ、カチッ、カチッ。

 弾切れを確認すると、今度は<2連装対空砲>を使用する。
 それと同時に、<3連ロケットランチャー>も発射。
 弾切れを見て岩陰から飛び出した一機の積尺気に着弾し、爆発・霧散する。
 全弾発射したあと、壁にかけられていた<120mmカノン>を手に取り、その巨大な砲身から弾が発射される。
 <レールカノン>と似通っているが、その最大の特徴は実弾兵器であること。
 一発……二発……三発。
 かなりの距離があるのだが、打ち出された弾は岩陰ごと積尺気を吹き飛ばす。
 今では随分とマイナーとなってしまったが、足を止めての撃ち合い・拠点防衛機としては十分活躍できる
機体である。
 



 イズミが攻撃を始める少し前、四人は左右の渓谷から戦闘区域へ向かっていた。
 リョーコ・サブロウタ機が左側から、ヒカル・シオン機が右側からだ。
 四人が戦場へと辿り着いたとき、目の前を多数のミサイルが通過していった。

『イズミちゃんノリノリだねえ』
『そうだな。でも、これ以上俺達の獲物を獲られるのも癪だしな』
『中尉は相変わらず好戦的だねえ』
『うっせえ! うし、イズミに通信して砲撃を止めさせるか。おい、イズミ───』

『駄洒落が私を呼んでる〜♪ 魂の叫びさ、レッツゴーはっくしょん(くしゃみ)
 笑いの頂点をこの手にレッツゴーイズ』───ブツッ。

『……………………』
「……今のは、何なんですか?」
『俺に聞くなっ』
『おいおい、ゲキガンガーの替え歌かよ』
『まあまあ、イズミちゃんのやることだし、気にしない、気にしない♪』
 
 いつの間にかミサイルに変わってカノン砲の砲弾が撃ち出されていた。
 岩陰に隠れていた積尺気を吹き飛ばし、後方に控えていた積尺気達の戦列を乱す。
 少しするとその砲撃も収まった。

『弾切れよ……後は任せるわ。今回、割とマジ・イズミでした』

 通信が切れると、四人の間に沈黙が流れる。

「まあ、行きますか」
『だな』
『そんじゃま、行きますかね』
『後で全部の歌詞教えてもらおっかな』

 岩陰から飛び出した四機のエステバリス。
 その手に持つラピッドライフルが火を噴き、三度戦列を乱され混乱している積尺気達を鉄くずへと変えていく。
 中には反撃してくる敵機もいたが、味方に被弾する事はなかった。






「ルリさん、艦長達から作戦が成功との報告がありました」
「わかりました。こちらでもナデシコの発進の準備を進めておきましょう」
「了解です!」
 
 補給作業は終了。後は艦長達の帰りを待つのみ……
 ルリは目を瞑り、これからの事を考える。
 統合軍はあまり脅威を考えていないだろうが、敵は強大だろうと思う。
 そして、ナデシコBだけで敵に立ち向かうには心許ない。
 だが、ふとルリは思った。
 自分達が窮地に陥ればあの人が助けに来てくれるかもしれない。

「アキトさん……」

 自分にとって特別な人の名前を口にする。
 口に笑みが浮かび、胸が暖かかくなる。

「艦長達のエステが帰艦しました」
「わかりました。発進はこちらでやっておきますから、艦長はゆっくり休んでおいてくださいと伝えてください」
「了解」
「それではナデシコB、ネルガル月ドックを発進します」

 ナデシコBは火星へ向かうため、今、発進する。








 後書き

 とても久しぶりな投稿のような気がします。
 これからもがんばっていきますので、よろしくお願いします。






代理人の突っ込み

レールカノンは実弾兵器じゃっ!

 

それ以外にもちと突っ込みどころが多いような。

説明不足と言い換えてもいいですが。

例えば、ナデシコBなら艦長はルリであろうに、わざわざ艦長候補生を置いて艦長にする意味は何か。

優人部隊じゃあるまいし、何故艦長がエステで出るなどという非常識な真似がまかり通るのか。

読んでて疲れます。