【神々の干渉】

 

 

第二話 帰還



 「くっ、ここは……。」


 気が付くと俺は見渡す限りの草原に立っていた。


 「…五感が戻ってる。…そうか……確か俺は幻界というところに呼ばれ

  神々と遭遇して……。」


 服装を見てみるとやはり何時も着用している戦闘服ではなく

 昔、コックをしていた時の服だった。やはりここは……


 「ここは過去だよ、アキト。」


 ふと後ろを振り向くとそこには一人の男性が立っていた。


 「シンさん……。」


 そう、彼こそが世界を作った創造神、神様である。


 「アキト、そんな他人行儀にしなくてもいいんだ。

  私の事をシンと呼んでも構わない。」


 「そんな事を言われても……。」


 そう、相手は神様である。それを呼び捨てなどは……。


 困るアキトに苦笑いするシン。暫くすると……


 「そうだな、なら兄さん……というのはどうだ?」


 「兄さん?どうしてシンさんが俺の兄なんですか?」


 「ああ、たしかに過去に戻ったのだが、当然私達の戸籍は無い。

  そこで戸籍を作ることになったのだが、兄弟だと何かと便利だと

  思って戸籍上アキトの義兄にしたのだが・・・迷惑だったか?」


 「そんな事ありませんよ。兄…さん。」


 「そうか、よかった……。じゃあ行くか。」





 
 暫く自転車を走らせると俺の目の前を、一台の車が走り抜ける…

 そしてそのトランクから一個のスーツケースが、俺に向かって落ちてくる。


 「やっぱり、ここまで再現されるとはな……

  当たり前だな、ここは過去なんだからな。」



 ガラン、ガラン!!



 凄い勢いで、スーツケースが俺に向かって落ちてくる。


 「シンさ…じゃなかったな。兄さん、あれ受け止めてもいいですか?」


 「ああ、何の問題も無い。俺達はこの世界を変える為にいるのだ。

  …それに、そのくらいの変化は殆ど無いはずだ。」


 今、会話しているのはご存知われらが主人公テンカワ・アキトと

 全知全能の神であるシンである。

 ついでにシンは二人乗りはせず、普通に走っている。

 更についでにこの時の時速30キロ。

 更に更についでにシンは汗一つかいていない……さすが神様。


 「そうですか、じゃあ……。」


 と俺は自転車をドリフトさせて急停止し、向かってくるスーツケースを両手で受け止めた。




 キキキッッ!!



 バタン!!



 パタパタ!!



 目の前の車が急停止し

 一人の女性が車から降り、俺に向かって走り寄ってくる。


 「済みません!!済みません!!…怪我とか…ありませんか?」


 俺の中で時が止まった…逢いたくて、逢いたくて逢えなくなった人…

 その姿を…脳裏に刻み込んだ俺は…


 「ああ、大丈夫だ…これ、君のかな?」


 両手で受け止めたスーツケースを手渡す。

 俺の手は…鋼鉄の意志によって震える事無く

 …目の前の女性、ユリカに渡せた。


 「…あの、ぶつけしな質問ですが

  何処かで、お会いした事ありませんか?」


 俺の顔を覗き込みながら、ユリカが話しかけてくる。


 「気のせいですよ。」


 その視線に耐えることは…出来なかった。

 俺は横を向きながらユリカに返事をした。


 「そうですか?」


 「ユリカ、急がないと遅刻するよ!!」


 昔から気苦労が耐えないな、ジュン。


 「解ったよ、ジュン君!!

  では、ご協力感謝します!!」


 そう言い残してユリカとジュンは去って行った……。

 俺は…自分の意思に反して、ユリカを抱きしめてしまいそうな両腕を、必死に押さえた。


 「アキト、お前の気持ちも解らんでもないが

  少しは自分に素直になったほうがいい。」


 「兄さん……。」 


 俺はその言葉に驚きつつ、心配してくれる兄に感謝した。







 「やあ、プロスさん。」


 「ああ、シンさん着きましたか…おや後ろの方は?」


 「私の義理の弟のアキトだ。本当はアキトには知らせない方がいいと思ったのだが

  首になったらしいので私が連れてきたのだが……すまんがアキトを雇ってくれないか?」


 俺のDNA判定を終え、悩むプロスさん。いや、悩んでいるふりだな。


 プロスさんは俺の料理道具を見てある提案をする。


 「そうですね。実は我が社のあるプロジェクトでコックが不足していまして…。

  アキトさん…貴方は今無職のそうなので、この際、ネルガルに就職されては…。」


 流石プロスさんだな…上手く話を進めるもんだな。


 「こちらこそ、願っても無いことです。」


 「では早速ですがお給料の方は…。」


 こうして俺は無事ナデシコに乗船した。


 そして出会う、大切な人。







 「「こんにちは、プロスさん。」」


 余りに聞き慣れた声が、俺に艦橋を案内するプロスさんにかかった。


 「おやルリさんにラピスさんどうしてデッキなどにおられるのですか?」

 
 そこには16歳の少女と11歳の少女がいた。


 「こんにちは、アキトさん、シン兄さん。」


 「久しぶり、アキト、シン兄。」


 「おやルリさん、シンさんたちと知り合いですか?」


 「ええ、そうなんですよ。」


 「ルリちゃんと…ラピスかい?」


 「ええ、そうですよアキトさん。」


 「そうだよ、アキト。」


 天使の浮かべながら、俺に返事をするルリちゃんとラピス。


 「どうやら、本当にお知り合いの様で…私は邪魔者みたいですからここから去りますか。

  ルリさん、ラピスさん彼らにナデシコの案内をお願いしますよ。」


 「はい、解りましたプロスさん。」


 「わかったよ〜。」


 返事を聞くとプロスさんは去って行った。


 「アキトさん。」


 「アキト。」


 プロスさんが見えなくなると同時にルリちゃんとラピスが俺に抱きついてきた。


 「ルリちゃん、ラピス。無事に着いたみたいだね。」


 「ええ…それより驚かないんですか?」


 「何が?」


 「私達の姿だよ、アキト。」


 「……ああっ、そうだ。でもどうして…。」


 「それは私が説明しよう。」


 「兄さん。」


 「ここに来る時に行ったが正確には

  ここは過去じゃない。平行世界だ。」


 「平行世界?」


 「そうだ、彼女達には先に説明したが前、幻界で見せた通り

  世界は無限にある。その中でアキトが体験した過去に

  限りなく近い世界に飛んだのだ……そこがここだ。」


 「そうなんですか……でも何故ルリちゃんとラピスの体は

  あの時のままなんですか?俺の体は昔のままなのに…。」


 「まずアキトの体はもうボロボロだったし、それ以前に

  彼女達はアキトと同じく精神だけをこの世界に送った。」


 「じゃあ何故ルリちゃんとラピスはこの姿に…?」


 「…彼女達に頼まれてな。」


 「どうしてですか…?」


 ルリとラピスが頬を染めていたがアキトには理由がさっぱりわからない。


 「それは自分で考えろ。」


 暫く考えるがふとコミニュケの時間を見る、たしかそろそろ……。


 「そうだ、ルリちゃん、ラピス、戦闘が始まる。」


 「そうですね…では私達もブリッジに戻ります。

  気を付けて下さい。」


 「気を付けてね、アキト、シン兄。」


 「ああ、解ってるよ。」


 俺はルリちゃんとラピスと分かれ

 先ほどガイが倒したエステバリスに向かって歩き出す。


 「アキト。」


 とシンに呼ばれ立ち止まる。


 「なんですか兄さん。」


 「アキト、エースパイロット程度の腕を見せてもいいぞ。」


 「もうですか、今から変えてしまうと予想外の事態が起こるかもしれませんよ。」


 「かまわないさ、それに言い訳も考えてあるからな……。

  それから私は用事があるので先に行ってくれ。」


 「わかりました。」


 そう言い残すとアキトはまた歩き出した。







 「いい子達ですね。」


 と何時の間にかシンの周りに7人の美女が立っていた。


 「ああ、とてもいい子達だ。……さてこれでいいな。

  じゃあ私も行ってくる。」


 「「「「「「「いってらっしゃい、気を付けて。」」」」」」」


 とシンはいきなり彼女達の前から消えた。







 「そういえば、ヤマダが人形を頼むって言ってたな…

  まあ、ハッチは簡単に開くから勝手に持ってきな。」


 「わかりました。」


 俺は整備の人の了解を得て、ガイのエステバリスに乗りこむ…

 さて、そろそろ時間だな。

 そう思った瞬間…艦橋内にエマージェンシーコールが鳴り響いた。


 来たか!


 「…アキトさん。」


 「アキト。」


 「そっちはどうだい。」


 「今、ユリカが到着して、ナデシコのマスターキーを使用したよ。」


 「了解…俺は今から地上に出る。」


 「今更、バッタやジョロ如きに、アキトが倒されるとは思えませんが…

  気を付けてください。シン兄さんもすぐに来るそうです。」


 「ああ、解ったよ…先は長いからね。」


 そう言って俺は通信を切った。







 「俺は…テンカワ・アキト、コックです。」


 昔通りの言い訳…


 「何故コックが、俺のエステバリスに乗ってるんだ!!」


 兄さんが遅れるからだよ、ガイ。


 「もしもし、危ないから降りた方がいいですよ?」


 今の俺にとったら遊び程度なんだよ、メグミちゃん。


 「君、操縦の経験はあるのかね?」


 …嫌になるほどにね、ゴートさん。


 「困りましたね…コックに危険手当は出せないんですが。」


 必要ありませんよ、プロスさん。





 それにしても、相変らず騒がしい人達だな。

 俺は余りの懐かしさから、顔が笑みに崩れそうなのを、必死に堪えていた。


 そして…


 「アキト!!アキト、アキト!!アキトなんでしょう!!」


 …今、俺がいる場所を何処だと思っているんだ?


 「少し齧った事があってな。まあ頑張るさ。」


 「本当?…うん解ったよアキト!!

  私はアキトを信じる

  やっぱりアキトは私の王子様だね!!」


 …君の笑顔が、俺に苦痛を与えるのを君は知らない。


 「絶対怪我しないでねアキト!!

  後で会おうね!!」


 「ハッチ、開きます。」


 「…アキト機、地上に出ます。」


 ルリちゃんとラピスの合図に

 俺は再び、あの無人兵器達の群れとであった。







 俺の目の前には、バッタやジョロの群れ。

 エースパイロット並の実力か……よし。


 俺はバッタとジョロの攻撃を紙一重で避け

 ワイヤーフィストで次々と殲滅していった。


 「凄い。」


 「綺麗、踊っているみたい。」


 「きー、なんでコックがあんなに強いのよ。」


 「なかなか…お強いですな。」


 「ええ、連合軍のエースクラスですよ、彼。

  しかし何故コックなんでしょうかね?

  経歴に戦闘に関わった事はありませんしな。」


 影でアキトについて検討するプロスとゴート。


 暫くすると……


 「ハッチにエステバリス一機が移動中。」


 「誰なんでしょう、コミュニケを開きます。」


 コミニュケを開いたその先には人間の美を超越した一人の青年がいた。


 「すまない、遅れてしまった。すぐに出る。」


 そう言い残すとすぐに飛び立った。


 「誰なんですか…あの人。」


 赤い顔をしながらあの男性の事を想う女性達(ルリ、ラピス、ユリカを除く)に返答はなかった。







 「アキト、待たせたな。」


 「いいえ、そんな事はないですけど残りどうします。

  半分ほど残していますが……。」


 彼らの前には残り百匹ほどバッタとジョロがいた。


 「そうだな遅れてきてしまったし、後は私に任せろ。」


 「了解。」


 アキトは邪魔にならぬようシンから離れていった。







 「さて、速攻で倒そうか…。今目立たないといけないからな」


 この時、伝説が始まった…神と人々の伝説が……。







 「何あれ…。」


 「そんな…馬鹿な……。」


 「凄い…。」


 「以上よ…彼……。」


 「強すぎないか…。」


 「……うむ。」




 一瞬。そうまさに一瞬だった。


 気が付いたときには圧倒的な力で叩き潰された

 無人兵器の残骸と一体のエステバリスだけだった。





 「流石、兄さんあの頃の俺と同等で、

  しかもまだまだ余裕を感じる。

  流石、神様だな。」


 アキトの呟きが、コックピットで静かに響いていた。






 あとがき

 いやー、お久しぶり、ユピテルです。

 ゴメンナサイ、女神さん達殆ど出番無しです。

 次回こそは、頑張って出したいと思いますので

 どうか、勘弁してください、おやっさん!!

 これからもどうぞ、応援よろしくお願いします!

 

 

 

 

代理人の感想

 

しかし、呑気な神様ですねぇ。

自分の力を地上で振るっても全然気にしてないみたいだし、

余程アキトに興味をもってるんでしょうか?

「神は天にいまし、世は全てこともなし」というでしょうに。