・・・というわけで俺たちは宇宙に出た。俺も宇宙に出たことは初めてじゃない。そういえばあのときは・・・・・・・・・あのとき・・・・・・

「はぅあ!?そういえば、月には迦具夜姫様がいるんじゃねーの!?あ、でも他の神様みたいにもういないか?」

「はん?なんだい横島。かぐや姫がどうしたって?」

「あ、なんでもないっス!ちょっと御伽噺のこと思い出しちゃって・・・」

「思い出し笑いならぬ思い出し叫びかい?変わった事するもんだねぇ。かぐや姫のどこにそんな緊迫する場面があったかってのも謎だけど」

 ふー、思考がそれちまった。えーと、そうそう。まずはサツキミドリってコロニーに向かうらしい。なんでも、補充パイロットと宇宙戦用フレームを取りに行くらしい。考えてみればごもっとも。正規のパイロットはガイしかいないからなー。

 そういえば補充パイロットは三人で全員女の子らしい。可愛いといいなー。ナデシコの女の子はレベルが高いから楽しみだ。グフ、グフフフフ・・・

「ぐふふ・・・ぐふふふふふふ・・・女の子・・・うふふふふふ・・・!」

「ホウメイさん!横島さんが!横島さんが怖い〜!!」

「・・・そっとしてやんな、ミカコ。男にゃ、いろいろあるもんさね・・・・・・」








GS横島 ナデシコ大作戦!!






第八話「バトルロワイヤル」





「え!?サツキミドリが壊滅っスか・・・?」


 ブリッジからの突然の通信に驚きを隠せない食堂の面々。


「じゃあ、サツキミドリの人たちは・・・?」


『生存は絶望視されています』


「そんな・・・」


『補充パイロットが来なくなったのは痛いですが、まだ使える機材が残っているかもしれません。

 そこで、横島さんとテンカワさん、ヤマダさんにはサツキミドリに0Gフレームが残ってないか探しに行ってもらいたいのですが・・・』


「たくさん人が死んだのに・・・それだけなんですか!?人が死んだ場所で物を漁るだけなんですか!?」


 明乃は結構ショックを受けているようだ。


『私が泣くことでコロニーと人材が戻るのならばいくらでも泣きましょう。

 しかし泣いても何もならないのなら、機材を腐らせておかずに我々で有効に活用するべきでしょう。死者には無用の長物でしょうから」


「でも!!」


「明乃ちゃん・・・確かにサツキミドリの人たちが死んでしまったのは悲しいことだよ。

 でも、人が死ぬのが戦争で、死なないためには常に自分にできる最善の事をしなければならない。

 今俺たちにできる最善は、使える機材を探して、そしてそれを使ってナデシコを守ること・・・もし、自分にはできることがあるのに何もしなかったら、そしてその所為で誰か親しい人が死んだら・・・・・・・・・辛い。とても。

 たとえ駄目でもできることは全部やる。じゃないと、ずっと後になってもできなかったことをことを後悔しつづけることになるよ・・・?ま、いつもいつもできることをやれるとは限らないけど・・・」


「「「「「「「『・・・・・・・・・』」」」」」」」


その場の全員(プロス含む)が横島に注目している。プロス以外の人は驚きが隠せないようだ。


「(ちょっとカッコつけすぎたか?)だから・・・え〜と、何が言いたいのかというと、うん。まあ、漁ろう。みんなと自分のために」


「・・・・・・」


「あ〜、本当にダメなら無理にとは言わないけど・・・」


「・・・・・・・・・・・・やります」


「そっかー。んじゃ、俺とガイだけで・・・え!?」


「私も行きます。・・・私、また逃げるところでした。アイちゃんの時の事は繰り返さないつもりだったのに・・・

 たかが物資探しに文句なんか言ってられませんよね」


『はい。私の言いたいことは大体横島さんに先を越されてしまいましたが、これからもリタイアする人が出ないとは限りません。言い方は悪いですが、悲しまないまでも、割り切りは大切ですよ』


「・・・はい」


「そういえばプロスさん、サツキミドリの人たちが死んだことでショックを受けてる人って他にも居るんスか?クルーのほとんどは民間人らしいし」


『いえ。特には』


 横島とプロスが話しているとき、黙って見ていたホウメイが、興味でも湧いたのか明乃に横島のことを尋ねた。


「なあテンカワ。横島って結構修羅場くぐってるみたいだねぇ」


「どうしてですか?」


「さっきの横島の顔、初めて見たけどありゃあ、“漢”の顔だよ。普段が普段だから気が付かなかったが、あの歳であの顔ができるって事は、それなりのことを体験したって事さ。アタシの気のせいかもしれないけどね」


「じゃあ、いつもの横島くんはなんなんですか?」


「う〜ん・・・あっちもニセモンってわけじゃないだろうけど・・・両極端な奴なのかもねぇ」


「む〜」


 横島をむ〜っとみつめる明乃。確かにプロスはこの世界を救った功労者だといっていた(本人は否定したけど)。それなら今までに見たことがあるあのシリアス横島にもなんとなく納得がいくが・・・・・・


「なにより、さっきの横島の台詞には「重み」があった。ドラマや本の台詞を拝借しただけじゃああの重みは出ないねぇ。・・・あいつが演技の達人ってなら別だけど。

 案外、親しいやつを助けられなくて辛い思いをしたのは、横島本人だったりしてね」


 さらに横島を見つめる明乃。確かに、時々のぞくシリアスな顔。あれは一時的にも普段の横島のイメージを吹っ飛ばす力を持っているし・・・それに夜うなされてることも多いみたいだし、ホウメイさんは的を得たことを言ったのかも・・・と思っていた明乃だが・・・


「明乃ちゃん・・・」


 視線に気付いた横島が明乃のほうに顔を向ける。


「は、はい!?」


「そんなに熱い視線を送ってくるなんて・・・やっぱりオレにほれとったんか―――――!!」


 と、明乃に飛びかかろうとした横島だが、


「見直して・・・損しました!!」


 ドガァッ!!


 カウンターで破邪伐折羅正拳突きが水月に叩き込まれる。


「うぐふっ!!」


 崩れ落ちうずくまって痙攣する横島。


「・・・これでも、あの真面目な横島くんが本物とでも・・・?」


「・・・・・・・・・」




 ――――――――――





 横島が明乃に殴りつけられたほぼ同時刻。ガイの部屋。


『ジョーーーーーーーーッ!!!』


 ガイはゲキガンガーを見ていた。海燕ジョーというキャラが死亡するシーンのようだ。


「ジョーーーーーーーーッ!!!」
 くーーーっ!!何回見てもこのシーンは俺の涙腺を直撃しやがる!」


「ほんとだよねー」


 聞き慣れぬ女の声に横を見るガイ。眼鏡をかけた女が横で正座して画面を見ている。


「どわぁっ!!お前いつどこから入ってきやがった!?」


「さっきからいるよー。キミが気が付かなかっただけで。あ、入って来た場所はあの通風孔から」


 といって通風孔を指差す。


「あ、わたしアマノヒカル。よっろしくぅー!」





 ――――――――――





 格納庫に到着した横島と明乃。なにやら人だかりができている。


「なんだ、あの人だかり・・・」


「ユリカまで居ますね・・・」


「どうしたんスか、艦長」


「あ、横島さん。あのですね、サツキミドリの生存者がナデシコまでたどりつけたんですよ」


「え!?生存者が居たの!?ユリカ!」


「うんそうだよ。お風呂と食事まで要求されちゃった。スバルリョーコって名前だって」


 横島と明乃は、生存者の方に目を向けた。


「しっかし、生き残ったのはオレだけかよ・・・」


「私もいるよ〜♪」


 声と共にガイとヒカルが格納庫に入って来た。


「おー、ヒカルもって事は2人か」


 ベベベン・・・


「勝手に殺さないで〜」


 どこからか、ウクレレと女性の、女性にしては低い声が聞こえる。そして声と共に格納庫のコンテナがゆっくりと開く。


「イズミもか・・・・」


 顔をしかめつつ、女性、イズミが出てくる前にコンテナを閉めようとするリョーコ。


「あ〜、閉めないで〜。お願いだから閉めないで〜。鯖じゃないんだからさ〜


「「「「「「「・・・・・・・・・・・・・・・・」」」」」」」


 全員が固まった隙にコンテナからはいでるイズミ。


「は!?え、えーっと・・・結局あなたたちが生存者ということで・・・?」


「そーみたいだねー」


「三人とも補充パイロットだったとは幸いでしたな。資材探しも安全になります」


「なんだぁ!?命からがらたどり着いた途端にかよ!?人使いの荒ぇとこだな。ここは」


「まあ、これも契約の内ですから」


「・・・コントラクト・・・契約の・・・英訳・・・ふ、ふふふふふふ・・・・」


 その時、格納庫の時間が止まったのは言うまでも無い。





 ――――――――――





 漆黒の宇宙・・・艦内に居る時には感じなかった無重力・・・もうすでに遠いが地球も見える・・・モニター越しとは言え、360度に広がる無の空間・・・そして宇宙にきらめく星々・・・そう、それはまるで・・・


「・・・まるで、星の海ね・・・by、ミリィ」


「だれだよ、それは・・・」


「きゃああ〜」


 ヒュン


「スターオーシャンのキャラだよねー」


「あ・・・わかった?」


「とめて〜」


 ヒュン


「おーい早く行こうぜ〜」


「時間は有限・・・光陰矢のごとし・・・吸引お札の如し・・・ふふ、ふふふふ・・・」


「いみわかんねーぞ・・・」


(そういえば、このイズミって人も霊力が高いみたいだな・・・もしかしたら、この人となら、落花流水とかチャクラエクステンションとかできるかも・・・・・・・って無理だよな・・・)


「あああ〜」


 ヒュン


「「「「「・・・・・・」」」」」


「だ〜〜〜ッ!!さっきからなんなんだよ!」


 一体何が起こっているかというと、初めて無重力で行動する明乃が、ちょっと体勢を崩したことからパニくって、そこらを飛び回るはめになったのである。


「えい」


 ヒカルが明乃のエステを止める。どうやら面白いから見守っていたらしい。


「とまった〜」


「ったく、ついてくんならまともに動けるようにしてからにしろってんだ!」


「まあそう言うなよスバル。オレもシミュレーターやったことあるからいいけど、宇宙用じゃねーから今にもバランスが崩れそーだぜ」


 そういう割には操縦は危なげないように見える。やはり腕はいいのか。


「ガイ君はともかく、何で横島くんも普通に行動できるんですか!?」


「え!?あ〜一応おれって宇宙戦の経験あるし・・・」←本当。


「大昔の人間のくせに何で宇宙戦の経験があるんだよ!」


「何でといわれてもな〜」


「あん?何だよ大昔って」


 疑問に思うのも当然だった。なぜなら三人娘は横島の事情をまだ聞いてないのだから。


「・・・帰ってからね」





 ――――――――――





 そして・・・


「デビルエステバリスだー!!」


 エステバリスに数体のバッタがとり付いている。見た目だけなら、ヒカルの安直なネーミングも的を得ている。

 デビルエステバリスはかなりのスピードで部屋中を飛び回る。無人兵器だからできる芸当か。


「ちっ!ちょこまかと・・・!」


「見た目は重そうなのに〜!」


「コイツは厄介だね・・・!」


 イズミ、シリアスモード中。


「(ん?そういえばあの方法なら・・・)・・・おい、ガイ」


「なんだよ」


「ピンチこそ見せ場って思わないか?」


「・・・なんだよ、いきなり・・・」


「ある意味、お膳立てが整っているともいえるぞ」


「・・・・・・」


「とりあえず、ゲキガンフレア、だったっけ?を試してみないか?」


「・・・・・・そうだよな・・・よし、てぇりゃあああーーーっ!!」


 自分の機体が空戦フレームだということも忘れて突撃するガイ。


「って、うわああお!」


 やはり宇宙戦用で無いからか、機体制御に手間取っている。自分の予期せぬ方向に機体が泳ぐ。その時、


 ドガシャアッ!!


 ガイとデビルエステバリスが激突した。


「いまだ!!」


 ズバシュアッ!!


 横島の霊波刀が、デビルエステバリスを切り裂いた・・・


「「おお〜っ」」


 明乃とヒカルが感嘆の声を上げる。


「おいおい、今のはどーゆー戦法だ?つーかその剣ってなんだよ」


「ああ、いくらパイロットって言っても、宇宙用じゃなけりゃー精密な操作は難しいでしょ?だから、ガイをけしかけて、激突させて隙を作ったんだ」


「へえ・・・」


「操縦者本人にも予想できない機体の揺れとか動作に、敵は対応できないんじゃないかって思ったんだけど。あの速い動きも仇になったな」


「はー。やっぱり戦闘の経験があるって違いますねー」


「っていうか・・・俺を担ぎやがったな!?」


「あのぐらいでのってくれるとは思わなかったけどなー」


「だから、さっきの剣はなんだよ!?」


「・・・帰ったらね」





 ――――――――――





 六人が手分けしたことにより人数分の0Gフレームと、いくらかの資材を発見した横島達。そしてナデシコに戻ると・・・


「何の騒ぎだ、こりゃ・・・」


 忙しそうに走り回るスタッフの皆さんと、


「さ、次はチベット密教ですよ、艦長!」


「うえええん・・・」


 プロス&半泣きのユリカだった。


「な、何が起こってるんですか、プロスさん・・・」


「おお皆さん。戻ってこられましたか。何かというと、お葬式ですよテンカワさん。艦長は神父等の代理です」


「葬式?」


「ええ。サツキミドリでは多くの方がお亡くなりになられましたから」


「でも葬式って、仏教とキリスト教、イスラム教くらいのもんじゃないんスか?何で艦長があんな珍妙なカッコを・・・」


 先ほど横島達の前を横切っていったユリカは、頭にトーテムポールのようなものをかぶっていた。チベットとトーテムポールに関連性は見当たらないが・・・脱ぎ忘れだろうか。


「甘いですな。世の中は狭いようでいて実は広い!世の中の宗教は三つや四つどころか百個でもきかないんですよ。

 自然崇拝者や悪魔教、それに仏教と一口に言っても真言宗や日蓮宗など細かく分かれますし、無宗教だからと葬式をしないわけにもいきません。

 無宗教でも、「灰を宇宙にばら撒くだけでいい」という人や、「仏教でいいや」など、適当な人も居ます。

 そしてどんな葬式もきちんと行なうというのも、我々の売りの一つなんですよ。ハイ」


「死んだ後のことを保障されても・・・ありがたいんだかありがたくないんだか・・・」


「ま、今更しないというわけにはいきませんし、艦長には泣いてもらいましょう。

 では。私も忙しいので」


 プロスは風のように去っていった。そして新たに横島と明乃のコミュニケが開く。


『戻ってきたのかい!?だったら食堂の方に来ておくれ!葬式用の食事、まだまだ作らなきゃならないからね!』


 そしてすぐ切れる。


「は〜。俺たちも大概働きモンだよな〜」


 大儀そうに大きな溜息をつく横島。


「まぁ、さっきのユリカには負けますけどね」


 苦笑いしつつも、本職の仕事であるためか心なし嬉しそうな明乃。


「だからリョーコちゃん!オレをちょっとだけその胸で休ませて〜!!」


 叫びつつリョーコに躍りかかる横島。


「!?」


 明乃は、久しぶりに自分以外の人に飛び掛られた所為か、反応が遅れる。だが・・・


「何トチ狂ってやがんだ!!」


 ドガッ!!!


 さすがは本職。驚いたのも一瞬、すぐさま顔面にストレートを叩き込んで撃墜する。そしてそこに一瞬遅れて、


「油断も隙も・・・!」


 ゴスッッ!!


 明乃は朧車(弱)を放つ。


「ごふっ!」


 予想どうりだった。


「・・・おい、こいつはいっつもこうなのか・・・?」


「・・・油断すると・・・」


「あはは〜相手が悪かったね〜」


 のんきに笑うヒカル。


「さすがの横島も気絶コースか?」


「そういうお前は、骨折はどうなったんだ?」


「「「!?」」」


 おもむろに起き上がる横島。


「復活早ッ!?」


「あーいてて・・・死ぬかと思った・・・」


「自業自得ですよ!!」


 ぷんぷん怒って見せる明乃。可愛いだけだが。


「「「それだけかい!!」」」


 突っ込みがバッチリハモったガイとリョーコとヒカル。


「え?まぁ、早く食堂に行かねば、ですし」


「・・・結構力を入れたつもりだったんだが・・・」


「これからはその3割増しにしてくださいね?」


「あ、ひで〜」


 さっきのことは無かったかのように和やかに去っていく二人。もはやコミュニケーションの一手段か?


「っておい!剣のこととか教えてくれるんじゃなかったのか!?」


「あ〜ゴメン。ガイに聞いといて〜?」


 答えを聞く前にフェードアウト。


「あ〜!?俺だってゲキガンガーとかマイト○インとか見たかったのによう!」


 だが彼の抵抗は三人娘の前では儚いものだった。


「とりあえず、トレーニングルームに行くか!」


「さんせ〜」


「悪くは無いわね」


 リョーコとヒカルに引きずられていくガイ。それについていくイズミ。


「マイト○イン レッツゴーマイト○イン♪」


 最近いいところがないからか現実逃避を始めるガイ。生きてりゃいい事あるさ。たぶん。


 クスリ・・・


「あれ?イズミちゃんがそんな笑い方するなんて珍しいね?」


「フ、あの彼、面白かったからね」


「ああ、リョーコちゃんに襲い掛かるなんて、見る目無いよね〜」


「どーゆー意味だコラ!」


「それもあるけど・・・まあいろいろとね・・・」


(・・・意図してるのかどうか知らないけど・・・戦い方に態度に殴られ方・・・興味深いね・・・)


 ニヤリと笑った。







「むーてきーのーろーぼーっとーガインーまいとーうーいんぐーごごごーっ!燃えろふぁーーーいーーーあーーー・・・」


 ガイに、幸あれ。





 ――――――――――





 すべての葬式の予定が消化され、ユリカが燃え尽きて数日後。シミュレーションルーム。

 パイロット6人は訓練もかねてシミュレーターでバトルロイヤルを繰り広げていた(審判は何故かメグミ)。ルールは最後まで生き残った人が勝ち。全員が敵だが一時的に手を組むのはあり。ついでに無人兵器30機。最下位は一位に昼ご飯おごり。結果は・・・


「一位は、最後まで生き残ったリョーコさんでしたーぱちぱちー」


「まあ、当然だな!」


 当然という割にはやけに誇らしげなリョーコ。


「じゃあ、最後に一人づつ評価を言いますね。

 まずは最下位のヤマダさん。開始五分九秒で撃墜。ええと・・・再提出です。あなたはイノシシですか。とりあえず人間に進化してから出直してください。あ、それと、二階級特進第一号おめでとうございます」


 かなりの酷評にガイは何も言えずに固まり、他の五人も引きまくる。


「あの・・・もーちょっとアドバイスというか・・・助言とか・・・」


 明乃がこわごわ進言する。


「ふむ・・・それもそうですね。えーと、確かにあなたは近接戦闘なら一番巧いです。でも墜とされる速さも一番でしたね。一対多の場合のあなたのような戦い方は、援護があっても難しい戦法なんですよ?一対一ならともかく・・・ま、この戦法で五分持ったのはある意味驚異的かもしれませんが・・・もう少し謙虚な戦い方をすれば、かなりのものになると思うんですが」


「ぐ・・・#」


 何も言い返せない。ヤマダという呼ばれ方を訂正することも忘れている。


「次にテンカワさん。あなたは・・・まだ経験が浅いから焦ることはないです。臨時ですし。むしろ素人としては上手いほうです。見た感じ万能型ですが、やや近接戦に適正があるようです。このままシミュレーションなどをしつつ伸ばしていってください」


「は、はい!」


 予想外に良い結果を得られて嬉しそうだ。


「次にあなたですが・・・横島さん、正規パイロットの連携攻撃から攻撃のことは一切考えずに逃げまくること二十分、最初は真面目にやれよゴルァとか思いましたが、焦れたリョーコさんの一瞬の隙をついて後方のイズミさんを墜とすとは・・・正直驚きです。その直後に集中力が切れたのかリョーコさんとヒカルさんに墜とされましたが。いざという時の緊急回避能力も高いですね。生還率は一番かもしれません。

 でも緊急時以外のときの動きがちょっと硬いです。そのせいで実力を発揮できてない部分があるようで。戦闘経験が豊富で機転も利くと同時に素人臭い動きの硬さというちぐはぐさのおかげで評価に困りますが・・・優秀といっていいでしょうね。霊力もありますし。それと射撃も結構上手いですね。」


「はは・・・美神さんの助手やってた頃は、ごっつ重い荷物を背負いながら逃げ回ってたからなー。ここは美神さんに感謝かな?」


 何気に怖い台詞が聞こえたような気もするが、もちろん聞こえなかったフリをする。ちなみに、シミュレーションなので当然霊力は使えない。


「次にイズミさん。いくら遠距離戦が得意とは言え、横島さんに肉薄された時に闇雲に距離をとろうとしたことは失敗でしたね。同じ機体なんですから、一度くっつかれたらあなたの得意距離まで再び引き離すことは困難です。回避に専念しつつも牽制し、リョーコさんやヒカルさんに墜としてもらうのがベターでしたね。もしそうしていたら先に撃墜されていたのは横島さんだったでしょう」


「確かにそうね・・・今思えば」


 イズミは見た目の表情は変わらない。


「ヒカルさんは・・・特に問題ないですね。欠点が見当たらずバランスの取れた仕事ができるようですが、その中でも回避が頭一つ出てました。それと意外にも一番冷静でしたね。ただ、一対一になった時、もうちょ〜っと粘ってくれたらよかったんですけど」


「そうかもねー」


 ヒカルはニコニコしている。この順位は狙いどうりらしい。


「それとリョーコさん。これはバトルロイヤルだから別にいいんですけど、あなたが焦れなかったらイズミさんは撃墜されなかったということは忘れないで下さい」


「お・・・おう」


「でもメグミちゃんの眼力ってすごいよねー。素人とは思えないよー」


「そうですか?」


 小首をかしげる。


「ん・・・?まてよ・・・メグミ・・・・・・どっかで聞いたことあるような・・・・・・」


 何か引っかかるのか思考に沈むリョーコ。やがて、


「・・・・・・・・・もしかして・・・・・・あの、伝説にもなっている、『極東のや


「ストップ。昔の話です」


 瞬時にリョーコの台詞を遮り顔を向ける。顔のは微笑をたたえているが、目はまったく笑っていない。


「今の私はただの通信士のメグミ・レイナードです。それ以外の何者でもありません」


 喋りつつゆっくりとリョーコに歩み寄るメグミ。メグミから発せられる圧倒的な威圧感。他の五人の肌が粟立つ。直接このオーラを向けられているリョーコが感じるプレッシャーはどれほどだろうか。横島の心が警鐘を鳴らす。間違いなく人間なのに、このプレッシャーは高位の魔族に匹敵する。

 リョーコは気圧されたように後ずさる。だが、程なく壁にぶつかる。そしてメグミはほとんど鼻が触れ合うほどに顔を近づけ、


「憶えておいて下さいね?」


「は、はひ・・・」


 何とか声を絞り出す。余談だが、ヒカルは後に、「あんなに怯えたリョーコちゃんは、後にも先にもあの時だけだったよ。私も怖かったし」と述懐したという。


「あ、そろそろ休憩時間も終わりですね。私はブリッジに戻ります」


 メグミは部屋を出て行った。


「「「・・・・・・」」」


「う〜む・・・人に歴史ありだな・・・つーか一体何歳だ?」


「そんな感想しか出ねーヤマダもそうとうだな・・・膝がまだ笑ってやがる・・・」


「だからおれはダイゴウジ・ガイ!」


(また、メグミちゃんの謎が増えたな・・・)


 でも本人に聞けるわけがなかった。なぜなら怖かったからだ。





 ――――――――――





 ナデシコは漆黒の宇宙を今日も行く・・・明乃と横島は、ホウメイさんから料理の指導を受けていた。


「よし、そこで素早くダシを取る!」


「はい!」


「それって、昆布をただ湯の中にくぐらせただけっスよ?そんなんで味が出るんスか?」


「そう思うかい?『引き出し昆布』って言ってね、このやり方が魚の味を引き立てるのさ」


「へ〜」


 そして完成。


「ど、どうですか?」


「・・・ちょっとおしいね。普通の醤油を使ったろ?ここはナンプラーを使うべきだったね」


「あ!そうでした・・・」


「なんぷらーってなんスか?」


「魚から作った醤油って言えばわかりやすいかねぇ・・・タイとかベトナムの料理に良く使われる調味料さ。日本にも魚から作った醤油はあるよ?魚醤とかしょっつるとかいかなご醤油とかの類があるね」


「へぇー・・・」


 横島、さっきからそればっか。


「ああそうだ、2人ともちょっとこっちへ来な。ナンプラーの場所を教えとくから」


 二人がホウメイについていくと、棚一面に並ぶ調味料に香辛料の数々。明乃と横島が知る調味料の種類より十倍は多かった。


「これ・・・全部調味料ですか!?」


「すげえ・・・何で戦艦の食堂にこれほどの種類があるんだ・・・」


「アタシが頼んだのさ。調味料が無い所為で画竜点睛を欠く羽目になったり、そもそも作れない料理があったりしたら悔しいだろ?」


「は〜っ・・・料理にかける情熱・・・オレにはとても真似できないっスよ」


 セクハラにかける情熱は他の追随を許さないが。


「ほんとにすごいですよね・・・わたし、ホウメイさんほど多くの種類の料理が作れて、しかもそれがおいしいなんて人知りませんよ。サイゾウさんの中華もおんなじぐらいおいしかったですけど・・・」


「そうかい?」


 ホウメイは嬉しそうな、それでいてどことなく複雑そうな顔をした。


「?どうしたんスか?」


「・・・・・・ちょっと昔話をしようか・・・・・・

 あたしは昔にも軍人の料理を作った時期があってね、そこでもあたしの作る料理は結構評判が良かった・・・別にいい気になってるつもりは無かったけど・・・」


「「・・・・・・」」


 2人とも口を挟まない。


「ある日、パイロットの一人が瀕死の重症を負った・・・そいつはそれなりに知った奴だったんだけど・・・そいつが言ったんだ。『最後に母さんの作ったパエリアを食べたい』ってね・・・」


「「・・・・・・」」


「・・・パエリアの作り方なんか知らなかった。・・・あん時ほど自分の無力さを呪った時は無いね・・・結局、試行錯誤して作り上げたのはチャーハンのできそこないとしか呼べないものだった・・・もちろんパエリアには程遠い、ね」


「「・・・・・・」」


「そしてそいつはできそこないを食べて言ったんだ。『ありがとう、おいしかった・・・でも、母さんのとは違う・・・』ってね」


「「・・・・・・」」


「そいつは間もなく息を引き取ったよ。その時からさ。飯を食いに来る客のどんなオーダーにも応えられるようになりたい・・・客がメニューを見ながら何を食べるか真剣に悩んで、そして悩んだ結果に満足してもらいたい・・・って思ったのはね」


 ホウメイは淡々と語る。仲の良いパイロットだったのだろうか、そのときの無念はどれほどのものだったのか。表情から読み取ることはできないが、逆に淡々とした喋りこそが、そのときのことがどれほどホウメイに影響を与えたか雄弁に語っているように横島は思った。


「そんなことが・・・」


「・・・蛇足だけど、その時、パイロットになるやつはみんな嫌なやつだったらいいのにとも思ったね・・・

 嫌なやつだったら死んでも悲しみは薄いだろうから・・・」


「・・・・・・」


「つまらない話をしちまったね。気が滅入ったかい?」


「そんなことありません!今からでも頑張れます!」


「ははは、その意気だ。だけど、手加減はしないからね!」


「望むところですよ!」


「・・・・・・・・・・・・」


 笑うホウメイと気合を入れる明乃の横で、横島の脳裏に一瞬、ほんの一瞬だが、ある考えが浮かんだ。


(もしあの時オレが捕まらなかったら・・・もしあいつが敵のままだったら・・・オレはあいつを、ただの一体の敵としてしか認識せずに忘れ去っていくだけだったんだろうか・・・もしそうなら、オレはこれほど悲しまずに、この世界に来ることも無かったんだろうか・・・そしてその方がよっかたと・・・もしかして俺は思っていないか・・・?)


 そして自分のそんな考えなど一笑に付すように頭を振り、


(そんなわけあるわけ無いな・・・だってあいつがいるときの喜びは、本物だったんだから・・・相変わらず悪夢は見るし、立ち直ってるとはとても言えないけど・・・)


 口元に笑みを浮かべた。


「どうした横島?えらくいい顔してんじゃないか」


「何でもないっスよ。さて、オレも気合入れるか!」


 横島は腕まくりをし、二人の後に続いた。









 続く









 イネス先生のなぜなにナデシコ出張版

 良い子の皆さんこんにちは。今日もなぜなにナデシコの時間がやってきました。ここではいつものように「GS横島 ナデシコ大作戦!!」のギモン・専門用語・モトネタ等を、解りやすく、かつコンパクトに説明するわ。


Q1・迦具夜姫って?

 御伽噺でもおなじみのかぐや姫ご本人ね。月神族の長で見た目だけなら帽子をかぶってないメ○テルかしら?神族の名前を冠しているとはいえ、実際は神にも魔にも属していない中立よ。横島君は、彼女に恩を売るというすごいことをやってのけたわ。横島君はそうは思ってないみたいだけど。


Q2・今回の明乃の技は?

1、破邪伐折羅正拳突き

 はじゃばさらせいけんづき。「エンジェル伝説」に登場。天使の心に悪魔の容姿を持つ主人公の北野誠一郎に向けて、ヒロインの小磯良子の父、平蔵が放った技よ。小磯流古武術の師範の割には古武術と関係ない名前ね。悪魔祓いの意を込めていたのはわかるけど。見た目はただの正拳突きと何ら変わらないけど、小磯平蔵本人の腕力とあいまって凄まじい威力よ。かわされたけどね。

2、朧車(弱)

 正式名称、百壱式 朧車(おぼろぐるま)。「KOF」のシリーズに登場。アキノちゃんが放った「弱」のバージョンはジャンプしつつ回し蹴りを繰り出す技で、「強」だと回し蹴り→回し蹴り→蹴り下ろしになるわ。京なら「七十五式改」からの追い打ち、真吾ならコマンド投げからの追い打ちが主な使い道ね。


Q3・ミリィって誰?

 フルネームはミリー・キリート。スターオーシャンのヒロイン。猫から進化したといわれるフェルプールという種族(尻尾も生えてる)よ。ラティ(主人公)とドーンの幼馴染みで、お約束というか、ラティのことが好き。第一声はいつも「ラティ!」。治癒術が得意な法術師という職業で、フルーツパフェが好物。


Q4・落花流水とチャクラエクステンションって?

1、落花流水

 サクラ大戦3の大神一郎と北大路花火の通常合体攻撃。意味は、落花に情あれば、流水にも情があってこれを載せ去る意から、男に女を思う情があれば、女にもまた男を慕う情が生じること。転じて、相思相愛の意。

2、チャクラエクステンション

 ユウ(ネリー)・ブレンとヒメ・ブレンの合体攻撃。作者が「『第二次α』をやっただけでは原理がよくわからん」と言っているから説明できないわ・・・無念。見た感じじゃ、高出力のブレンバーを二人同時に放つって感じだけど・・・


Q5・横島って射撃が得意なの?

 原作には一言もそんな記述は無いけど、焦りながら撃った拳銃でも、弾かれていなければ当たっていたし(18巻)、シリアスな横島君が山道を爆走するオープンカーの上から撃ったライフルは当然のように敵に命中したし(20巻)、下手ではないと思うわ。





 あとがき

 ちょっと遅れましたが第8話です。

 この話を書いてて思ったこと

1、横島ってもっとスケベでヘタレな筈では・・・強くてカッコよすぎる?

2、ガイってもっと暑苦しいキャラじゃなかったっけ・・・?

3、そういえばミナトさんとルリって台詞どころか名前すら出てきてねーッ!!

 

 

代理人の感想

プロスさんに続き、メグミもなんか謎のかほり(笑)。

ひょっとして元声優ですらなかったり?

 

>チャクラエクステンション

原作の描写から推測すると、ブレン二体の生体エネルギーを同調させることによって

飛躍的に威力を高めた攻撃、と言えそうです。

同時に攻撃してるのではなく、一時的にお互いのエネルギーを融合させて

巨大な一つの攻撃を繰り出している、というイメージでしょうかね。

 

つまり「一つ一つでは小さな火だが、二つ合わされば炎となる!」と言うやつでしょうか?(絶対違う)

 

>ミナトさんとルリ

ルリはまだしも、ミナトさんはわざわざ「美神とそっくり」と言う設定があるのにこれは一寸勿体無いような(笑)。

まぁ、たまにはこんなのもありかもですが。