―――――解っている。これは夢だ

「メフィスト・・・!お前は・・・!」

―――――またあの時の夢・・・なんかいつもより鮮明だな・・・

「生か死か・・・!ここがお前達の分かれ目だ!」

―――――他人の口からあいつの名前を聞いた所為か・・・?つーかなんでコイツのセリフばっかり・・・

「ダメです。今これをあなた用に調整する時間はありません」

―――――お、あいつのセリフじゃなくなったか・・・しかし、プロスさんもいいこと教えてくれたもんだ。タイムスリップならまだ希望はあるな・・・まあとりあえず妙神山だ。もうないとは思うけど、手がかりぐらいはあるかもしれんし・・・なくったって、他に手はある・・・

「ほーら、腐った肉でちゅよー」

―――――でもそのためにはとりあえずナデシコから降りないとな。・・・別にこの時代が嫌いってワケじゃない・・・むしろ好感が持てるけど・・・

「おやつ、おいしい?」

―――――でも、美神さんもおキヌちゃんもシロタマも、みんな居ないし・・・・・・それに、何より・・・・・・

「私はここで待ってるから!全部終わったら迎えに来て。ね?」

―――――・・・・・・・・・何より、まだ今年は東京タワーに・・・・・・・・・まだ、花を、供えていない・・・・・・・・・・・・










GS横島 ナデシコ大作戦!!

第六話 「戦慄のメグミ」














「――――――――――!!」

「あ!目が覚めた!」

 目が覚めた横島。とりあえず体を起こす。なんか頭がズキズキする。

 あたりを見回すと、見慣れない場所だった。広いが、やけに人が大勢居る。目が覚めたといったのはミナトだ。

「ここ、どこっすか?」

「ここは食堂よ。そんなことより、枕ちゃんにお礼、言った方がいいと思うな〜」

(枕ちゃん・・・?そーいや頭になにか、やらかい感触が残ってるような・・・?)

「膝枕、してもらってたのよ♪」

(なにぃ!?)

 勢いよく振り返る。そこには・・・

「・・・・・・どうも」

 ルリだった。

「えっと、キミが?」

「はい。それと、キミではなくてホシノ・ルリです」

「ああ、ごめん、ルリちゃん。・・・重かっただろ?」

 申し訳なさそうに微笑む横島。えらい男前である・・・っていうか可愛いと形容するべきだろうか。守備範囲に入っていない女の子には自然にこんな顔ができるのだろうか・・・

「・・・別にそんなことなかったです。それに、うなされてましたから放っておくというわけには・・・」

 その表情は変わらない。だが、かすかに顔が赤いような・・・

「そう?でもやっぱりゴメン」

(う〜ん・・・やるわね〜)

 心の中で感心するミナト。

「?そーいや、明乃ちゃんは?」

「え〜と、さっきまで膝枕してたんだけど、今は皮むきしてるみたいね。・・・ほらあそこ」

 確かにジャガイモの皮むきをしている。横島が起きたことには気付いていないようだ。

「なんてこった・・・」

「なにが?」

「何で俺は明乃ちゃんの膝枕を味わえなかったんだ・・・!くそっ!もう少し早く起きて寝た振りしておけば・・・!!」

「「?」」

「太ももの間に顔をうずめて、深呼吸できたのに―――――!!!

「「・・・・・・・・・・・・」」

 思わず目が点に鳴るミナト。ルリは目が細まった。そりゃあ、面白くはないだろう。

「でもなんでわざわざルリちゃんが膝枕を・・・?」

「横島さんは頭を強く打ってましたから。だから床に直においとくのはさすがに不味いって言ってました」

「で、私が膝枕を引き継ごうと思ったんだけど、どうしても私じゃダメだって言い張ってね、ルリちゃんにやってもらうことになったの。なんかどういう目で見られてるか一目瞭然ね〜」

「あ、そっスか・・・」

 さすがに何もいえない横島。

「あ〜自由の道は一日にして絶たれる・・・か・・・」

 ウリバタケのつぶやきをが聞こえた。

「そういや、何でみんなこんなとこに居るんスか?」

 たくさん居るだけではなく、落胆したような、無気力そうな顔をした人が多い。

「反乱です」

「はんらん?」

「はい。横島さんが気を失っている内に、〜説明中〜・・・ってことがありまして。今は艦長と副長とプロスさんが交渉に行ってます」

「そうそう。残ったクルーはここに軟禁。ドアの外に見張りがいるし。2人も。」

(でもこれって好都合じゃないか?このままなし崩しにナデシコを降りることになるかも・・・)

 横島が考え込むと、なにやら暑苦しい声が。

「なんだなんだ〜!みんな暗いぞー!よし!俺が元気が出るものを見せてやる!」

 ウリバタケになにやらビデオを見られるようにしてくれと頼んでいるようだ。別に興味が湧かなかった横島は二人のほうに顔を戻す。

「そういえば、横島さんは幽霊とかがいた時代から来たんですよね?」

「そうだけど」

「この時代にはそんなものないですから、ちょっと興味あります。良かったら横島さんの時代の話を聞かせてくれませんか?・・・良かったらですけど」

「あ、私も興味あるな〜」

「別にいいっスけど」

 

 

 ――――――――――

 

 

 

「ほら、できたぞ〜」

「おしっ!それじゃ、レーッツ!インサーーート!!」

 ミュージックスタート。

 ちゃららちゃっちゃちゃっ、ちゃららちゃっちゃちゃっ、ちゃっちゃっちゃちゃっちゃーーーん

「おい・・・もしかして、これが良い物か・・・?」

「そう!ゲキガンガー3、全三十九話!!燃え燃えっスよ・・・!!」

 ひとり悦に入るガイ。

「あれ、でもなんだかオープニングが違うような・・・?」

 やっと出番がきた明乃の言葉にガイの目がキュピーン!!と光る。

「そう!そうなんだよ!!初回放映時の第3話で今の奴に変わったのさ〜!」

 

「んでさー、幽霊のおキヌちゃんでも着れる服を作れる織姫って人のところに行くことになったんだけどさー」

「はぁ」

「ふんふん」

「それがもーめっちゃ険しい雪山で、しかも、その織姫ってのがまた男に飢えた干からびたばーさんで、」

「はぁ」

「ふんふん」

「あんときゃー命と貞操の危機だったんだよなー。くっそーっ!!厄珍め!あんときの恨みはまだ忘れとらんぞーーー!!」

「はぁ」

「ふんふん」

「まぁ、おキヌちゃんのすごく嬉しそうな顔を見られたのは良かったかな・・・」

「そうなんですか」

「なるほどねー」

 

 

 

 ――――――――――

 

 

 

『ゲキガンビーム!!』『ゲキガンカッター!!』

「武器は音声入力なのか?」

「ちがうって!これが熱血なんだよ!魂のほとばしりなんだよ!」

「そうですよ!」

「むう・・・そういうものか・・・」

 

 

「そこで俺はこういったわけよ!『ゴーストスイーパーは悪魔の言いなりにはならない・・・!!』ってな!」

「はぁ」

「ふんふん」

「どう!?カッコいいと思わない!?」

「そうかもしれませんね」

「ちょっとだけね」

「まーそん時の俺はゴーストスイーパーでも何でもなかったけどなー」

「はぁ」

「へー」

「そーいや、ミナトさんからも結構大きな霊力を感じますよ。世が世ならゴーストスイーパーになってたかも知れないっスね」

「うーん、確かに幽霊らしき物は見たことあるけど・・・」

「あの、わたしはどうですか?」

「う〜ん、ルリちゃんは・・・まぁ、一般レベルかな?」

「そうですか・・・」

 ちょっと残念そう。

「ナデシコで他に霊力が強い人っているの?」

「まだ全員と会ったわけじゃないっスけど、やっぱりプロスさんの霊力はかなり高いっスね」

「へ〜やっぱり」

「そういえば、俺ばっかり喋るのもなんだし、ルリちゃんの話も聞かせてよ」

「わたしですか?」

「そーねー。聞きたいかも」

 

 

 

 ――――――――――

 

 

 

『やめてゲキガンガー!ロクロウ兄さんを殺さないで!!』

『なんだって!?やつはキョアック星人のシックースじゃなかったのか!?』

「しっかし暑っ苦しいマンガだな・・・」

 なんともなしに画面を見ていたウリバタケがつぶやく。

「「おお〜!」」

 だが二人の耳には入らない。っていうか、明乃はゲキガン人形(超合金)を見て、あいつ何歳?って言ってませんでしたか・・・?

 

 

「・・・私の特技はそんなところです」

「すっげー!じゃあルリちゃんって世界を裏から操れるんじゃないの?」

「やりませんけど、やろうと思えばできるかもしれません」

「ルリルリ、誰かに頼まれてもやっちゃダメよ・・・?」

「ルリルリって・・・」

「いいじゃん。おれは可愛いと思うけど」

「・・・そうですか?」

 ま〜たこの男はナチュラルに落とそうとする。

 

 

 

 ――――――――――

 

 

 

「くうっ、この燃える展開!今のナデシコにぴったりじゃねーか!」

 なにやらガイが演説をはじめる。横島達もガイの方を見た。

「奪われた秘密基地!捕まった大人達!子供達だけでも何とかしてやろーとは思わないのか、皆!」

 他の人はなんだかなーという調子でガイをみていたが、

「私・・・火星に行きたいです。逃げ遅れた人がいるかもしれないし・・・そんな人達が居るなら、助けたい!」

 明乃まで立ち上がって拳を握り締める。ガイに感化されたか、それともゲキガンガーを見て触発されたか。案外乗りやすい性格だ。どうでもいいが、気合を入れる明乃は、なんて言うか・・・可愛い。すごく。

「よく言ったぞテンカワ!こうなったら2人でナデシコを取り戻そうぜ!」

「でもお前、足折れてんだろ?」

 ウリバタケがガイの熱い心に水をさす。

「ぐ・・・」

「なんかやな予感がする・・・」

 横島がつぶやく。

「わかりました!私がやります!私が、ナデシコを守ります!!」

「やっぱり・・・」

 横島は頭を抱えた。明乃は熱血の精神コマンドを所持しているに違いない。このまま成り行きに任せたかったのだが、放っておいたら明乃が危険な目に会う。

   ガン!

 そんなことを考えている内に、中華なべを持った明乃とゴートが、既に見張りを沈黙させていた。

(はー・・・こうなったら俺も手伝うしかないか・・・嫌だけど)

 深々と溜息をつく横島だった。

 こうしてナデシコを奪還する戦いが始まった・・・

 

 

 

 ――――――――――

 

 

 

 その頃のユリカとプロス。・・・ついでにジュン。

「どーーーだいユリカ?おいしいかい?まだまだあるから、好きなだけ食べていいんだからな?」

「はい!おいしく頂いてます、お父様!」

 ここはユリカの父、ミスマル・コウイチロウが艦長を務めているトビウメ。その彼の個室である。もうこの親子についてはなにも言う気は起きない。

「それでですね、実はアキノがナデシコに乗ってるんです」

「アキノ?はて・・・?だれだったかな」

「もう、お父様!火星でお隣だった、天河さん家の明乃ですよ〜!」

「あ〜あ。あの少年か(少女です)。あの天河夫妻の息子の(娘です)。そういえばあの人たちとはあれ以来あってないな。

 ・・・この親も勘違いをしていたらしい。さすがに今の明乃を見ても男とは言わないだろうが。

「・・・明乃のご両親、テロで亡くなったんです」

「何・・・?テロで?・・・それはいつのことなのだね」

「私たちが火星を発った、その日です。お父様、理由をご存知ですか?」

「(・・・まさか、あの研究をしていたからか?いや、だからといって・・・)う〜む。さあ・・・特に理由は思いつかないな」

 一応心当たりがないでもなかったが、その心当たりが真実とは限らない。コウイチロウとしては、あやふやな事で娘を不安にさせたくなかった。

「そうですか・・・」

 そのとき、コウイチロウの部下から緊急通信が入る。

『パンジーより入電!海中のチューリップが活動を開始したとのこと!増援を求めています!」

「わかった!すぐにそちらに向かう!」

 軍人の顔に戻るコウイチロウ。彼は娘が絡まない限りは、優秀な軍人なのだ。

「ユリカはここで待っててくれ。また後で話し合おう」

 コウイチロウは慌しく部屋を出て行った。

 

 

 

「・・・・・・プロスさん、廊下に誰も居ませんか?」

 言われて廊下を見るプロス。誰も居ない。

「いない様ですな。ということは・・・?」

「はい!ナデシコに戻りましょう!」

 まるで学校に行こうと言わんばかりの軽い調子だ。部屋を出ようとしたところで何かを思い出したような様子で振り向く。

「ほら!ジュン君も早く行こ?」

 ついてくるであろうことを疑いもしていない顔だ。その言葉にあっけに取られていたジュンが再起動する。

「ちょ、ちょっと待ってよユリカ!ナデシコを軍に渡すって事とかを言いに来たんじゃないの!?」

「え?最初っからアキノのこと聞きに来ただけなんだけど?あーでも、お父様も事情を知らなかったんだねー。がっかり〜」

「がっかりって・・・ユリカ!この艦は軍で使うべきだよ!火星になんか行くよりそのほうがいいに決まってるよ!それに軍を敵に回すはめになるかもしれない・・・いや、きっとそうなるよ!おじさんにも迷惑がかかるし!」

「・・・ジュン君は来てくれないの?」

「いや、っていうか、ユリカ、ほんとに戻る気なの!?」

「あったりまえだよ!ユリカはナデシコの艦長さんなんだから!それに、あそこが私にとって、一番「私らしく」いられる場所だし・・・でも、ジュン君がどうしても行きたくないって言うんなら、ムリは言わないけど・・・でももっちろん一緒に来るよね!?」

 ユリカの笑顔に一も二もなく従いそうになったが、

「う・・・でもやっぱり・・・」

 なおも渋るジュンに、プロスがぼそりという。

「う〜む、横島さんの艦長へのセクハラ行為を止める役、アオイさんならと思ってましたが・・・当てが外れましたな・・・アキノさんも横島さんと四六時中一緒にいるわけではないでしょうし・・・」

「行きます!ぼくも行くよユリカ!」

 ニヤリ

「やっぱりユリカ一人じゃ心配だし、それに、」

「それにジュン君は私の大切なお友達だしね!ありがと、ジュン君!」

「う・・・やっぱりまだお友達・・・?」

「さーてお二方、そうと決まれば早いとこ戻りましょう!」

 さっき微かに顔をニヤリとゆがませた痕跡などカケラも残さずににこやかに喋るプロス。

「どうやって戻りますか?」

「私たちの乗ってきた船、お父様の名前を出したらあっさり返してくれると思いますよ!」

「じゃ、そうしましょう」

(いいのかなぁ・・・)

 勢いで行くと言ってしまったが、やっぱり色んなことに不安だらけなジュンだった。

 

 

 

 ――――――――――

 

 

 

 ユリカ達のやり取りよりちょっと前、ナデシコ奪回作戦途中経過。

「あ、また見張りですよ。しかも3人。全員銃持ってるみたいです」

 今までは2人が基本だった。

「俺が不意をつきゃ、いけるかも」

「だめです!危険すぎますよ!」

「いや、だいじょぶだって・・・」

 横島は別に自分の力を過信しているわけではない。でも明乃は頑として譲らない。文珠なら三人だろうが十人だろうが楽勝なのだが。

(まぁ、文珠のことがばれないのはいいか。ここを脱出する切り札になりそうだし・・・)

 そのとき、何故か付いて来ていたメグミが、明乃に声をかけてきた。

「あの、テンカワさん?ちょっとこれ見てくれませんか」

 これとは、紐のついた五円玉。催眠術で使う、あれである。

「はぁ」

 素直に応じる。そしておもむろに揺らし始めた。

「テンカワさん。あの3人、どことなく横島さんに似てると思いませんか?」

「別に似てね―と思うけどな」

 ウリバタケがコメントする。

「黙っててください。これが終わるまでは」

 ギロリと睨みつけられた。一体どういう人生を送ったらこんな目つきができるのか。

「どうですか?」

「う、うーん、さすがに似てないと思いますが・・・」

「そうですか?私は似てると思いますけど。あの締まりのない顔つきとか・・・」

(悪かったな!)

 口には出さない。怖いから。

「確かにそこは似てるかもしれませんけど・・・」

「他にもホラ、背の高さとか、髪の質感とか」

 言いつつも、五円を揺らすのは忘れない。明乃は五円を目で追いつつも三人組をチラチラ見る。しっかりと凝視させないのがミソ。

「え?そうですか?・・・でもそう言われてみれば・・・」

「(ニヤリ)まだありますよ。肌の色とか、漂う雰囲気とか、ほかにも・・・」

「え?あ、ほんとだ。にてる?うんにてるかも・・・」

 横島の名誉のために言うと、似ていない。もはや明乃は横島たちとは違う世界を見せられているのかもしれない。そんなことを言っている内にどんどん催眠が進行していく。

「ちょ、ちょっと!こんなことして明乃ちゃんの人格に悪影響及ぼしたりしないだろうな!?」

「心配無用です。副作用も習慣性もありません。有効時間もほんの数十秒です」

(その説明じゃ不安が増すだけやっちゅ―ねん!)

 口には出さない。怖いから。

「も〜なんて言うか、横島君そのもの?って感じ?」

「そうかも・・・しれません・・・」

 催眠完了。

「あ!横島君たちが女性の部屋を覗く相談してますよ!」

「よーこーしーまーくーん!!」

 もはや飛天御剣流を修得しているとしか思えないような神速の踏み込み。そこから、

 

 ズドム!

 

 デモンエルボー。状況に対応しきれない残り2人。今の明乃の前では大きすぎる隙だ。

 

 ドン!!

 

 虎僕手が炸裂。ようやく動こうとする残り一人。遅い。

 

 ドギャッ!!

 

 ティー・カウ・コーンが決まった。所要時間約2秒。

「フ・・・計算どうり」

 哀れな見張りは、もはや痙攣以外の動きをしていない。

「あの人たち・・・死んじゃうんじゃないか!?」

「大丈夫です。私、看護士の免許も持ってますから」

 言いつつ痙攣する3人に近づくメグミ。

(あんたは一体何者だ!?)

 横島だけでなくこの場全員(明乃以外)の疑問だったが、誰も口にすることはできなかった。怖いから。一同にできるのは、せめてこの3人が後遺症で半身不随にならないよう、祈ることのみだった。

「え?あれ?」

 明乃がようやく正気を取り戻したようだ。

 

 

 

 ――――――――――

 

 

 

 で、結局ムネタケとその部下はあっさり捕らえられた。ようやくほっとしかけた時格納庫で、コミュニケが開いた。ブリッジに移動していたルリだ。

『海底にあったチューリップが動き出してます。あ、クロッカスとパンジーがチューリップに飲み込まれました。現在トビウメが交戦中。その中を、艦長たちがナデシコに戻ろうとしているようです。交渉が決裂したんでしょうか』

「え、戦闘の中を戻るのって危ないんじゃないですか!?」

「そりゃあ、そうだろうなぁ・・・」

『戦闘といっても、トビウメの砲撃は艦長たちをまったく狙っていないようです。で、問題はチューリップなんですが・・・』

「チューリップがどうしたの?」

『触手みたいな物でトビウメと交戦してます。これに艦長たちが狙われないとも限らないので、できればまた囮をやってもらいたいと・・・』

「「おとり・・・」」

 囮に良い思い出がない二人。

「うーん・・・危険だけどやるしかないかな・・・?」

 あっさりその気なっているようだ。

「(げ、明乃ちゃんがやる気になりかけてる!)あ、おれがやるよ!囮!」

「え?でも横島君、危険ですよ!?」

「いや、大丈夫。サイキックソーサーあるし、心配ないって!」

 横島は別にバトルマニアというわけではない。むしろ戦いは避けて、戦っている人を応援するタイプだ。だが、今の横島は明乃にやらせるくらいなら、という感情で動いている。

「でも!」

「あのな、明乃ちゃん。ナデシコ唯一のパイロットのガイは骨折、なら俺たちのどっちかが行かなきゃならない。でも2人とも素人。実力は五十歩百歩。だったら、霊力がある俺の方が、生きて帰る可能性は高い。そうだろ?」

(それに今明乃ちゃんを行かせて、もし帰って来なかったら・・・俺はもう、今度こそ自分を許せない・・・!)

 横島の目は、ある種の強迫観念に駆られている様にも見える。もし彼女がパイロットだったら、命のが危険にさらされるのが常なら、餅は餅屋ということで明乃に全てを任せただろう。だが・・・

「いやー、明乃ちゃんがパイロットだったら任せてたんだけど」

 言いつつさっさとエステに乗り込む。すると間髪いれずにコミュニケが開く。

『だから、わたしが!』

「でも、パイロットじゃないだろ?・・・大丈夫大丈夫。俺ってロボットは素人だけど戦闘経験はあるから」

『あ、結局横島さんが行くんですか?』

 ルリのウィンドウが正面に来る。

『ダメですよ!今の横島くんはなんか変です!!死に急いでる・・・とはちょっと違いますが、自ら危険に飛び込もうとしてるように見えますよ!!そんな人の任せられません!』

「ちょっと違う・・・俺は死なない。あいつにもらった命だ。粗末になんかできっこない。だから、死ねない・・・!」

『・・・・・・!』

 横島の気迫に一瞬飲まれる明乃。いつもなら今の横島をカッコいいと感じる所だが、今は、どこか怖い。

「んじゃ、オレが行くよ」

『・・・いいんですか?』

「いいの」

 その時またコミュニケのウインドウが開いた。ウリバタケだ。

『おい!ちょっと待て!』

 だが横島は最後まで聞かなかった。これ以上長引かせると、また明乃が自分を引きとめようとするかもしれない。

「ルリちゃん」

『はい。まだ電源が通ってないので、マニュアル発進になります。早い話が、走って飛び出すんです』

「わかった」

『それじゃ、よーい、どん』

「おっしゃ!」

「だから待てって!それは陸戦用だーーーっ!!って、もう切れてやがる・・・」

 どすどす走っていた横島のエステは、海に向かって落ちた。

「よ、横島くーーーん!?」

 

 

 

 ――――――――――

 

 

 

「っだーーーっ!!せっかくシリアスに決めてたのにーーーっ!!」

 ザッパーン・・・

 海にはまった。

「どうやったら飛ぶんだこれ!?せっかく大見得切ったのに、これじゃ明乃ちゃんに呆れられるだけじゃすまんかも・・・!」

 実際は呆れるどころかとても心配されていたようだが。

 横島はこのフレームが飛べないことに気付いていない。いろいろやっているうちに、バーニアを吹かして大きくジャンプすることはできたようだが、今の状態では海と空を往復するだけだ。その様子はさながら、ノミのようだった。その様子につられてか横島エステにも狙いをつけるチューリップ。囮としては成功したことになる。

 

 

 

 ――――――――――

 

 

 

「あ、プロスさん、なんかエステが囮やってるみたいですよ」

「本当ですな」

「でも普通、この状況じゃ空戦フレームを使うんじゃないですか?」

 そんなことを言っているうちに、驚くべき事態が起きた。

「「飛んでる・・・?」」

 なんと陸戦フレームが飛んでいた。新型?とも思ったが、昨日の今日で新型ができるわけでもない。少なくともそんな話は聞かない。

(横島さん・・・まだ能力を隠し持っていたようですな。これはまた聞き出さなくては・・・)

 黙っていようと思っていた文珠は、いきなりばれそうだった。

 

 

 

 ――――――――――

 

 

 

『浮』

 横島の手で文珠が輝く。この文珠だけでは浮くだけだが、バーニアと組み合わせることで飛行しているようだ。

「見切ったあ!」

 触手をバンバンよける横島。

「おれはここだ!ザ○ーネ!」

 好き勝手言いつつかわすかわす。今度は被弾率0%だ。

「お、艦長たちナデシコに戻ったか」

 ほどなく、チューリップはユリカによって撃破された。

 

 

 

 そして、文珠のことがばれるのも、もうすぐだった・・・

 

 

 

 続く

 

 

 

 イネス先生のなぜなにナデシコ出張版

 良い子の皆さんこんにちは。今日もなぜなにナデシコの時間がやってきました。ここではいつものように「GS横島 ナデシコ大作戦!!」のギモン・専門用語等を、解りやすく、かつコンパクトに説明するわ。

Q1・厄珍ってだれ?

 呪的アイテム専門店 厄珍堂の店主。本名不明。「〜あるよ」など、間違った中国人的日本語を使うわ。霊的アイテムの知識、品揃え、扱い方はまさにプロだけど、横島君並みの助平さや、危険なアイテムを客で実験するという困った癖を持ち合わせてるわ。後半まったく出番が無くなった人の一人よ。

Q2・なんでジュンはちゃんとついて来たの?

 アキト君がいないからねぇ。その分艦長に他の人のことを気にするメモリが空いたのかしら?

Q3・今回明乃が繰り出した技は?

1、デモンエルボー

 ソウルエッジ、ソウルキャリバーに登場したヴォルドの技の一つ。ダッシュから肘を相手の胴体に叩き込む技よ。奇襲効果は高いけど、ガードされると隙だらけ。

2、虎僕手(ほうぼうしゅ)

 中国の数ある格闘技の一つの形意拳、その中の十二形拳のひとつの「虎形」の変化技よ。より小さな動きで虎形をかける技で、見た感じは小さい動作の双掌打って感じかしら。動作はおとなしいけど、威力が弱いということは決してないわ。この技を使うには強靭な足腰が不可欠よ。まあ、この技に限ったことではないでしょうけど。

3、ティー・カウ・コーン

 別名、回し膝蹴り。相手に飛びついて相手の首の後ろに両手を回して頭を固定し、そこに膝蹴りをかますムエタイの技よ。食らうと痛いのは言うまでもないわね。

 あとがき

 前回のあとがきには書き忘れましたが、前回のプロスさんの発言は全部本当のことを言っているわけではありません。些細な嘘ですが。言っていないこともまだあります。

 で、今回の話ですが、・・・メグミファンの方、スイマセン!最初はこんなキャラじゃなかったんですが・・・成り行きって怖いなぁ・・・話の進行は遅いし・・・

 そー言えば、トビウメからジュンがついてくるのって珍しいことなのかもしれない・・・

 

 

 

管理人の感想

K−999さんからの投稿です。

 

> 第六話 「戦慄のメグミ」

 

すんません、この時点で大爆笑でした(笑)