・・・・・・今俺は、明乃ちゃんとイネスさんの食事を作っている。

 火星丼は失敗しない自信がある・・・なぜなら、どんぶりにご飯を盛り、あらかじめ用意してあるハヤシライスのルーをかけて、たこさんウインナーをトッピングする。あとはルーとご飯の釣り合いに気をつければいい。吉○家でもやっていることだ。バイトでもできる。

 問題は・・・あんかけチャーハン。

 チャーハンは単純そうに見えるが奥が深い。チャーハンはパラリとなった米の食感が命。ただフライパンの中で炒めただけでは、米がべたついたものになってしまう。そうなったら失格だ。それは出来損ないのピラフでしかない。あくまでパラリと香ばしいものでなければならないと教わった。

 そのための中華なべだ。鍋の丸みを利用し、米を宙に舞い上がらせる。その際に米が直接火にあぶられ、余分な油が飛ぶ。サイゾウさんの店でも散々練習したもんだ。「中華には火を操る技術も重要だ」ってね。

 そして次はあん・・・パラリとした米に、熱いあんが絡まることで極上の味を奏でる。それがあんかけの醍醐味・・・。普通は塩味のチャーハンに対して、あんは甘めの味付けにすることが多い。だが今回は、あえて辛めのあんにする。辛いあんだって美味いし。

 ・・・・・・・・・・・・・・・

 チャーハン完成。皿に盛り、そこに弱火にかけておいたあんをすかさずかける!う〜む・・・いい匂い。

「ほう、横島。それいい出来だねぇ。あんたも腕を上げたもんだ」

「チャーハンだけは、死ぬほど練習したっスから」

 なるほど。と頷くホウメイさん。そして二人のもとに自分の手で運ぶ。

「横島特製あんかけチャーハンと火星丼、お待ちー!」

「これは期待できそうですな香りですねー。おいしそうです」

「なんか私って明乃ちゃんより扱い悪くない?私には「特製」が付いてないけど」

「ああ・・・いや、あはは・・・」

 ルーは俺じゃなくて、ホウメイさん特製なんスよー。







GS横島 ナデシコ大作戦!!





第十一話「BoN Voyage」





食事中。


「ねえ明乃ちゃん。ちょっと横島君のこと、聞きたいんだけど・・・」



 ぶっ!



「な、なんですかいきなり・・・」


「妙な能力にあの打たれ強さ・・・興味を引くには十分なことだと思うけど?」


「横島さんは駄目です!止めた方がいいです!」


 なぜか必死になる明乃。


「?どうしてよ」


「うっ・・・えーっと・・・横島くんの能力は後で説明するとして・・・

 あっ!そうそう!ガイ君なら不死身さでは横島君を上回りますよ!」


「へえ?」


「骨折さえも3日程度で完治させますから!」


「その人・・・人間?

 確かに興味深いけど・・・なんか横島君に興味を持たせるまいとしているような・・・」


「え!?き、気のせいですよ?」


 どもって裏返った声に怪しさ大爆発。


「そ、それより、イネスさんは私を見て懐かしいって言いましたよね!?」


「ええ」


「もしかしたら会ったことがあるのかもしれませんね。

 私も火星出身ですから」


「火星出身?あなたが?」


「はい」


「・・・もしかして、テンカワ夫妻のお子さん!?」


「え、ええ・・・私の両親を知ってるんですか?」


「ふーん・・・よくこのナデシコに乗る気になったわね?」


「・・・?・・・どういうことですか?」


 訝しげに問い返す。


「教えて欲しい?」


 イネスが身を乗り出す。と、そのとき。



 ピッ!



『二人共、近づき過ぎ!! プンプン!!』


 ユリカが割り込んできた。ユリかなりに精一杯怒りを表現した顔だ。


「別にいいじゃないの。女同士なんだし。

 それより何の用?」


『あ、そうそう。アキノと横島さんとイネスさんは直ぐにブリッジに来て下さい!』


「はいはい。わかったわ」


 立ち上がりながらも、食べかけの火星丼の方に目をやる。


「ちょっともったいないわね・・・結構おいしかったのに」


「・・・・・・私は後ちょっとだから食べちゃいます」


(霊力の修行のほうはさっぱりなのに・・・ま、いいけど)


 横島はひそかに溜息をついた。





 ――――――――――





「信じられない・・・クロッカスは、地球でチューリップに吸い込まれた筈なのに・・・」


 ブリッジではジュンが驚きの声を上げていた。それも当然。地球でチューリップに吸い込まれたものが、遠く離れた火星で発見されたのだから。


「そう!! そこで私の仮説が成り立つ訳なのよ。

 木星蜥蜴が使うチューリップ・・・あれは一種のワームホールだと、私は考えているわ。」


「って言うかイネスさん・・・前情報無しによく会話に参加できますね・・・」


 横島のツッコミは、とりあえず無視された。


「チューリップがワープ装置だというんですか!?」


「そうよ。そうだと仮定すると、木星蜥蜴が何故あれほどの、際限が無いとも言える数の無人兵器を吐き出してくるか説明できるし、あの護衛艦が何故ここにあるのかという問いも、すぐ側のチューリップを通ってきたとすれば簡単に説明がつくわよね?」


「ふむ・・・確かに」


 頷くプロス。


「とにかくクロッカスに向かおう。何か良い手が思いつくかも知れん」


 久しぶりに台詞があるフクベ。だが、それに反応する人物がいた。


「フクベ・・・?フクベ提督!?

 第一次火星大戦の指揮を執った・・・あの!?」


「え・・・?いま、なんて・・・」


「知らないのアキノ?フクベ提督が火星ですっごい戦果を上げた英雄だって、誰でも知ってるよ」


(俺は知らねーけど)


 それどころじゃなかったからなーと、苦笑する横島。そのとき、視界の隅に怒りの形相で拳を震わせる明乃の姿が目に入る。


「明乃ちゃん?」


「あなたが・・・あなたが、あの時、ユートピアコロニーにチューリップを落としたんですか・・・?」


「・・・そうだ」


 静かに、しかしはっきりと肯定するフクベ。


「自分が・・・何をしたかわかってるんですか!!あなたはぁっ!!」


 バキィッ!!


 フクベの頬に明乃の拳が叩き込まれ吹っ飛ぶ。技も何もない、ただの力任せだ。


「ちょ、ちょっと明乃ちゃん!」


 明乃のこれほどの怒りは、そこそこ付き合いの長いユリカや横島でも初見だ。セクハラをはたらいた時の比ではない。


「ユートピアコロニーのシャトル発着場は、チューリップ落下のせいで壊滅したのよ。コロニーのほとんどといっしょにね。

 その後、シャトルも無くなり救援の絶望視されたコロニーのシェルターの中では、避難していた人たちが、次々に木星蜥蜴の餌食になって殺されたわ。

 地球では誰でも知ってる英雄でも、火星では・・・・・・ね?」


 イネスが事情をよく飲み込めない人に向けて説明する。ユリカや横島にもやっと理解できた。


「私はあんな事をしでかした人に会ったら、訊いてみたい事があったんですよ・・・!

 罪の無い人たちを巻き込んでたくさんの敵の殲滅に成功した気分はどうでしたか!?

 シェルターの中に取り残された人達の絶望・・・あなたにわかりますか!?

 生身でたくさんのバッタに囲まれたことは!?

 チューリップ1個落とすことってそんなに偉いことなんですか?

 ・・・答えて下さい・・・答えて下さいよ!!

 黙ってないで、何か答えてよぉ!!!」



 泣きながら暴れる明乃を、比較的冷静だった横島とゴートが2人掛かりで押さえつける。あまりのことに、ユリカは微動だにできない。


「放してください!横島くん、放して!!」


「悪いけど、それは聞けない!

 今の明乃ちゃんは冷静じゃないからな・・・!」


 暫くすると、落ち着いてきたのか、それとも無駄だと悟ったのか、明乃の声と動作が弱々しくなってきた。


「ちょっとは落ち着いた?」


「・・・・・・・・・はい」


 そして横島は明乃を立たせ、


「あープロスさん。ちょっと明乃ちゃんを落ち着かせてきます。

 ・・・いいっスか?」


「・・・いいでしょう」


 結構あっさりOKが出た。


「んじゃ、そういうことで・・・」


 横島は何か言われる前に、明乃を引っぱってブリッジから出て行った。


「しかし、仮にも提督を殴ったことは問題だぞ。ここは厳正に処罰しなければ・・・」


「いや、かまわん」


 フクベ自身がそれを阻止した。


「しかし、それでは他に示しが・・・!」


「私がかまわんと言っているのだ。

 それに、これは軍艦ではないのだろう?」


 不満は残るが、ここまで言われては、ゴートも引き下がるしかなかった。





 その頃の2人。自販機のとなりのベンチに、2人並んで座っている。手にはホットココアだ。口はまだつけられていないようだ。


「逃げ場も無い場所で無人機に囲まれた時のこと、今でも憶えています・・・

 シェルターには・・・こんなにちっちゃな女の子もいたんです・・・

 だれも・・・助けることが・・・できなかった・・・!」


「・・・・・・・・・

 別に提督を庇うわけじゃないけど、あの人は英雄と呼ばれて誇っているようには見えない・・・

 むしろ後悔して、懺悔して、そしてそれに疲れているような感じがする・・・

 ・・・カンだけど」


「・・・・・・私には、よくわかりません・・・・・・」


「・・・・・・・・・」


「・・・・・・・・・」


 二人の間に静寂が漂う。


 手に持つココアは、もう冷めてしまっていた・・・





 ――――――――――





「ちゃーす」


「あれ?横島か。わざわざ来てくれたのに悪いけど、今客がいないから仕事は手伝わなくていいよ。

 あ、でもヒマだって言うんならジャガイモの皮むきでもやってもらったりしたら助かるけど」


「りょーかーい」


 黙って皮むきをしている横島。ホウメイは料理の下ごしらえをしているようだが、不意に話し掛けてくる。


「そういやぁ横島」


「なんスかー?」


「テンカワは?」


「提督と一緒に、無人のクロッカスの調査っス」


「へ〜」


 そう。どうにか落ち着いた明乃はブリッジに戻ったのだが、クロッカスの調査の同行者としてフクベに指名されたのだ。明乃も断らなかった。



 ピッ



『横島さん!!』


「どわあっ!!」


 突如開かれるコミュニケ。


『大変です!ユートピアコロニーで襲ってきたチューリップ3、戦艦17、無人機推定3000が追って来ました!』


「なんですと!?

 俺はどうすれば?」


『あのですね・・・って・・・・・・え?』


「艦長?」


 話している途中で急に弾かれたように横を向く。


『クロッカスが・・・起動した・・・?なんで!?』


「何でって言われても・・・」


『しかもこっちに艦首を向けてるんですけど・・・』


「俺もブリッジに向かうっス!!

 ホウメイさんすんません、俺ちょっと行ってきます!」


「ああ。いっといで」


 食堂を出、ブリッジへ向かう横島は思った。


(ヒマになったと思ったらこれだよ・・・ま、いいけどね・・・)





 ――――――――――





『ナデシコに告ぐ。前方のチューリップに入れ』


 横島がブリッジに着いたと同時だった。


「そんな、クロッカスはチューリップに入ったせいで、全滅だったんでしょう!?」


 ジュンの台詞にギョッと来る横島。


「クロッカス、攻撃します」



 ドゴオン!!



「ナデシコの横30メートルに着弾」


『何を考えてるんですか、あなたは!!』


 明乃が叫ぶ。もう不信感マックス。


『これは、脅しではない。次は外さん』


 ナデシコの後方にクロッカス。目の前には機能しているかどうかも分からない、チューリップ。そして迫り来る木星蜥蜴。


「艦長。どうするの?」


「・・・・・・ミナトさん!前方のチューリップへ進路を取ってください!」


「えぇ!?いいの? 艦長」


 さすがのミナトも不安顔だ。そこにプロスが割って入る。


「艦長、それは認められませんな。貴方はネルガルの利益に反しないよう、最大限に努力をするという契約を行っているはずですよ。

 このナデシコなら、反転してクロッカスを撃沈することも・・・・・・」


「ご自分で選んだ提督が、信じられないんですか!!」


「む・・・」


 ユリカの叫びは疑問形ではなかった。純粋に咎める口調。その眼に迷いは無い。

 さすがにプロスも続ける言葉をなくす。だが、


「何であの人の言うことを聞くのよ、ユリカ!あの人は、あの人はナデシコを沈めようとしたのよ!?」


「たぶん・・・違う」


「横島くん!?」


 横島の言葉に呼応するかのように、ルリの報告が届く。


「クロッカス、反転。ナデシコの盾になります」


「え・・・・・・!?

 で、でも!チューリップを抜けられるわけ・・・!」


 そこにやっとこさイネスが到着する。大きく肩で息をしている。


「い、(はあはあ)いいえ。出来るわ。ディストーションフィールドよ。(ふうふう)

 クロッカスに、ないけど、ナデシコと、木星蜥蜴の機動兵器には、装備されてる・・・!

 それが、提督の出した、(ふーう)結論だったの」


 息も絶え絶えで説明を終えた。


「そんなの・・・勝手ですよ・・・」


『私はいい軍人ではなかった。いい大人でもなかっただろう。

 だが、最後に私は胸を張って逝ける。自分の失ったモノを、取り戻せた気がするのだよ』


「・・・・・・」


「待ってください!まだ私たちには提督が必要なんです!!」


『私が君に教えることは何もないよ。艦長。私はただ、私の大切なものの為に、こうするのだ。

 フ・・・これが私の、「私らしく」なのかもしれんな・・・』


「そんなカッコつけて・・・!そこまでして守りたいものってなんなんですか!!」


『それは言えない。

 しかし、君にも、他の者たちにもきっと見つかるはずだ。・・・自分だけの、大切なものが』


 クロッカスへの集中砲火。映像も音声も、だんだん不鮮明になってくる。


『ナデシコは君たちの艦だ。怒りも憎しみも、愛も、すべて自分たちのモノだ。

 誰にも―――』


 その言葉を最後に、クロッカスの反応が、消滅した・・・


「クロッカス、沈黙・・・」


 ブリッジにも、重苦しい沈黙が支配する。そこへ・・・



 ドオンッ!!



 激しく揺さぶられるナデシコ。


「な!?ルリちゃん、これはどこから!?」


「ロックオンはされてません・・・おそらくクロッカスを狙った流れ弾です。

 これはまずいです・・・」


「な、なんで・・・?」


 ルリが答える前に、格納庫のウリバタケから、


『やばいぜ艦長!まだ修理が終わってねーとこにいいのもらっちまった!!

 核パルスエンジンがほとんどオシャカだ!!動けねーわけじゃねーけど、ほとんど亀だ!』


「!!」


 その言葉を聞いたとたん、ブリッジを素早く出て行く横島。出て行ったことには誰も気がつかなかった。


「修理は!?」


『後8時間くらいあれば・・・』


「5分で沈みますよ!?」


『わぁーってるよ!!』


「くそう・・・せっかく提督が身を呈して・・・!

 僕達はみすみす無駄にしてしまうのか!?」


 ジュンはわが身の無力を呪う。他の人も例外ではないが。


「メグミちゃん、隠し芸で何とかなりませんか・・・?」


「芸じゃなくて技です。

 ・・・あいにく私は生身専門ですから。一瞬で機械を直すとか、そんな魔法のようなことは出来ません。

 生身でもバッタの50体程度なら余裕なんですが」


「これはまずいですな・・・」


 そのとき、エンジンとは別の焦った様子で、ウリバタケから焦った声が。


『おいブリッジ!横島の野郎がエステで出て行っちまったぞ!(陸戦フレーム)

 あいつ一人行かせてどういうつもりだ!?』


「え・・・!?そんな命令出してません!」


「「『ってことは・・・!?』」」





 ――――――――――





『横島くん、何やってんですか!?こういうときこそみんなで力を合わせないと!』


「む〜、何をしているかと問われれば、足止めとしか言い様が無いな・・・」


『バカな!エステバリス一機で何ができるというのだ!?』


「だから足止め。ほら艦長!早くチューリップに!」


『でも!仮にうまくいったとしても、横島くんは一人火星に取り残されちゃうじゃないですか!!』


「だいじょーぶだって。俺には文珠があるんだぜ?」


 あくまで横島は涼しい顔。


『・・・横島君・・・死に急がないように・・・』


『イズミちゃん!?』


『煽ってんじゃねーよイズミ!!』


「艦長!!俺一人とクルー全員、助ける方はどっちだ!?」


『・・・・・・・・・』


「それに俺は文珠がある!生き残る確率は、自分で言うのもアレだが結構高いと思う!

 全員助かるにはこれしかないと思うけど・・・?」


『・・・・・・・・・・・・

 でも、足止めって一体どうやるつもりですか?』


 ニヤリと笑う。


「ウリバタケさん、仮にエステバリスがナデシコについてるグラビティブラストを撃てたとしたら、どれぐらい持ちますか?」


『んなもん一瞬でばらばらだ!!』


「ですよね。

 ガイ、お前にヒントをもらった武器、使わせてもらうぞ!」


『俺!?』


 そして文珠を3個手に出現させる。


『耐』


「そしてさらに!


 エステバリス、ファイナルアタック(仮)!!」


『放』『出』



 ぎゅおおおおおおおおおおおおお!!



 ナデシコのものと比べると劣るものの、グラビティブラストがエステバリスから放出される!しかも、放出はまだ持続されている。


(うお・・・!『耐』の文珠を使ってもギシギシいってら・・・!重機動フレームの方がよかったかな・・・?)


『こ、これは・・・!?』


「ガイに見せてもらったアニメで、機体の全エネルギーを放出するファイナルアタックって言う攻撃方法があったんスよ・・・!

 文珠を使えば同じことが出来ると思って・・・しかもエステなら、文珠の効果が切れるかナデシコがある限りファイナルアタックを放ち続けることが出来ると思ったんス・・・!」


『そ、そんな方法が・・・』


 もう感嘆すればいいのか呆れればいいのか。


『すごい・・・!この方法なら全滅させることだって!』


 だが横島は首を振る。


「たぶん無理だと思う。全滅させるまで文珠が持つとは思えない・・・

 でも敵を寄せ付けないことは出来ると思うけど」」


『・・・・・・・・・』


『艦長、チューリップに入ることが出来そうです』


「早く!なんかファイナルアタック(仮)が細くなってきた!」


『なんでだ?エネルギーって、ナデシコから無限に供給されるんだろ?』


『説明しましょう。

 おそらく、放出されるエネルギーに、重力波ビームでの供給量が追いつかないんでしょうね』


 つーか順応性高すぎるだろう。文珠という未知の物を平然と受け入れている。


『・・・ナデシコ、チューリップに入ります・・・』


 ついにナデシコのブレード部分がチューリップの中に入った。さらに、エステから発せられるファイナルアタック(仮)も途切れた。

 
「俺自身が囮になるしかねーか!」


『・・・横島さん。そのエステは特別にお貸しします。ですから、必ず返しに来て下さい。

 それに、お給料、まだ未払いですよ。横島さんは口座をお持ちでないので・・・』


 プロスらしい物言いだ。横島も苦笑する。


「わかってるっスよプロスさん。せっかくの高給を取るチャンス・・・!絶対頂きますよ!」



『おい横島!てめーばっか目立ちやがって!!帰ったらおれと勝負!俺がエースに帰りざーーーく!!

 ・・・・・・シミュレーションで』


 かなり一方的だ。


『・・・超アホ・・・』


『バカだねー』


『死んでも治りそうにないわね・・・』


 ひどい。


「シミュレーターは霊力不可だからなー」


『うるせー!!』


 ガイや三人娘も快く送り出して(?)くれる。



『横島クン、またアシスタント時代のお話、聴かせてね。もちろんルリルリと一緒に、ね」

 
『あ・・・私からも、御願いします。よかったらですけど・・・』


「もちろん!美女と美幼女のお誘いをフイにする手はないっスから!」


『・・・わたし、少女です・・・』


『約束したわよ。女性との約束・・・破らないように!』


 笑顔のミナトと無表情に見えるルリ。幼女は言いすぎだろう。



『死ぬなよ横島!あんたに教えたい料理は中華以外にもあるんだから』


『ま、てきとーにやって、さっさと帰ってきてください』


『俺もグラビティブラストを撃っても耐えられるフレーム、考えとくからな!』


 敵の攻撃を回避していた横島、ホウメイとメグミとウリバタケに対しては喋る余裕がなかったのでサムズアップで答える。


(よし!ナデシコより俺のほうに注意が向いた!)


 すかさず岩陰に隠れて敵の火線をやり過ごす。暫くは持ちそうだ。



「艦長!俺がそっちに帰ったら、俺と一緒にディナーでもご一緒にどうっスか?

 んでそのあとは予約してあったホテルで・・・」


『いいですよ!』


『『『『え!?』』』』


 これを聞いた人がどよめく。


「・・・・・・・・・・・・」


『・・・・・・・・・・・・』


「・・・冗談っスよ?」


『解ってますよ?』


 全員脱力。こういう冗談に軽く対応できるようになったとは、ユリカも成長したものである(そうか?)。


(か・・・かなわねーなぁ・・・)


『でも、晩ご飯は奢ってくださいね!みんなも一緒に』


「りょーかい・・・美味い中華料理屋知ってるんスよ・・・そこでなら」


『楽しみですね!』


 ナデシコのほとんどがチューリップの中に入った。



『・・・横島くん・・・以前横島くんは、死なないって言いましたよね?今回もそうなんですか?』


「もちろん。前にも言ったけど、もらい物の命だから粗末に出来ないって」


『だったら、今回も大丈夫ですよね?』


「イエース。明乃ちゃんをモノにするまでは俺は死なん!・・・なんつって」


『・・・・・・そうですか。

 なら、私も正中線五段突きで向かえ撃つとしましょうか』


「あれ?明乃ちゃんって無意識じゃないと強くないんじゃなかったっけ?」


『そうでしたか?』


 そのとき、ついに敵の攻撃が横島に届き始める。


「ちっ!」


 先程までいた場所を砲撃がなぎ払う。


「明乃ちゃん!最後に一言!」


『なんですか!?』


「BoN Voyage・・・!

 ・・・・・・キザ過ぎた?」


『・・・、・・・・・・・・・・・・!!』


 明乃の言葉は、もう聞こえなかった・・・ナデシコは、完全にチューリップに飲み込まれた・・・





 ――――――――――





「あとは俺自身の安全を確保しないと・・・」


 もちろん横島に死ぬ気など毛頭ない。イネスがいた地下が他にあるかもしれないし、シェルターの残骸にでも一時的に身を隠せれば・・・と思っていた。そしてほとぼりを冷ました後に、ナデシコが入ったチューリップに文珠で作った結界を張りつつ突入する。これが横島の考えていたプランだったが・・・


「・・・・・・やべー・・・・・・」


 重力波ビームでのエネルギーの供給は出来ず、ファイナルアタック(仮)の影響でフレームのそこかしこにガタがきている。さらにもう直ぐ近くにまで迫る敵。文珠は残り三個だ。


「とりあえず・・・!」


『飛』『翔』


 バーニアがある陸戦フレームなら『浮』だけでもいいのだが、エネルギー供給の目途が立たない今では文珠のみで飛ぶしかない。


(隠れる場所は・・・)


 飛び立つエステ。空を自由に飛べる今、敵の攻撃はそうそう当たらない。文珠のスピードは敵より上だ。


(・・・・・・そういえば、俺が最初に乗ったエステもこれだったな・・・ここのへこみって俺が頭ぶつけた時のやつか・・・)


 正確にはアサルトピットだが。最初に乗ったときが遠い昔に思える。だが、思い出に浸れるのはそこまでだった。後ろの群れほどではないが、前方にも無人兵器の群れ。囲まれた。


(前方が一番手薄・・・やるしかない・・・!)


 横島は、覚悟を決めた。





 ――――――――――





(・・・・・・これで、ラストぉ・・・・・・)


 敵をようやく振り切り、追跡してきた数10機の無人機を霊波刀でやっとの思いで全滅させる。今周りに敵はいない。エステを岩陰に座らせる。ここでじっとしていれば暫くは安全だろう。


(あ・・・文珠がきれた・・・)


 後はエステ自体の残りエネルギーで歩くしかない。明日になれば文珠が二個になるが。


 シュオン・・・


 安全だと予想していた横島だが、間髪いれずに機動兵器の推進剤の音が。


「くっそう、じっとしてりゃ見逃してくれると思ったのに・・・でも音からすると数が少ないな。さっさと片付けるか・・・」


 そして相対する。それは・・・


「・・・・・・新型!?」


 人型をしていた・・・


(数は二体・・・残りのエネルギーでやれるか!?)


 逡巡する横島。そこに二体の内の片方が動く!


「速い!!」


 ガキイィンッ!!


 すんでの所でブレードを霊波刀で受け止める。だが、


 ミシミシ・・・プシュー・・・ミシミシ・・・


(フレームも限界!?)


 とっさに霊波刀を振り払う。振り切れそうもないので戦うしかないのだが、少なくとも敵の馬力と堅さはこちらより高い。しかも二体いる。


(文珠はあと一つ・・・!くそっ、どうする・・・?)


 焦って考えがまとまらない。まとまらない内にまた敵が動く。


「!!」


『剣』


 とっさに『剣』の文珠を出してしまう。


(とっさだったけど・・・これなら、ブレードごと一刀両断・・・!)


 文珠の剣を横に薙ぐ。だが・・・


「く、くそっ!」


 ブレードを切ったものの、敵機は紙一重で機体を引き、表面を薄く切り裂かれるにとどめた。


 後は一方的だった、剣を振るってもかわされ、何とか致命傷は避けるものの敵の攻撃は正確だ。そもそも性能が違う上、機体も乗り手もボロボロ。その割には奮戦したといえよう。しかし、



 バキッ!!



 ついに右足首が折れた。一番負荷がかかっていたのだろう。跪くように膝立ちになってしまう。


(うっ!)


 とどめとばかりにもう一本のブレードで切りかかって来る!


「・・・いちか、ばちかぁっ!!」


 最後の力を振り絞りサイキックソーサーを掲げる!



 ガキン!!



 弾かれ大きく体勢が崩れる敵機。


「っでええええええええええええぁあッ!!」


 そこにサイキックソーサーを全力で投げつけ、そこでエネルギーと横島の意識は途絶えた・・・・・・





 ――――――――――





「あらら・・・かなりの損害を受けたわね、万葉」


 長い緑の髪の女性が話し掛ける。おっとり系のかなりの美人だ。


「油断したわけじゃないが・・・まだ試作段階とは言え、風神皇にここまでのダメージを与えるとは・・・

 しかもこのようなボロボロの機体で」


 万葉と呼ばれた女性が答える。こちらは黒髪で、やはり美人。


「だから私も手伝おうかって言ったんだけど。テスト機動でこれだけ壊すなんて・・・

 ・・・舞歌様はなんて言うかしら・・・雷神皇のデータも得られなかったし」


「一人でも余裕だと勘違いした私が悪い。罰は受ける。データのことはすまない・・・

 それより、こいつはどうする?死んでは無いと思うが」


「・・・舞歌様は、『面白いものがあったら持って帰ってきて』・・・って言ってたけど」


「連れ帰るのか?地球人を?」


 驚く万葉。本来ならここで殺して然るべきの地球人を?


「私は嫌だけど・・・舞歌様にとっては『面白いもの』に入ると思うの。

 万葉が反対するなら見なかったことにするけど」


「見なかったことにしたら機体の損傷についての説明に困るし、仲間を逃がすために一人奮戦したパイロットには・・・少しだけ、興味がある。どれほどの猛者(もさ)なのか・・・」


 知らぬことが幸せという事もあろうものだが。





 結局2人は、パイロットとボロボロの機体を、もって帰ることを選択した・・・










 続く










 イネス先生の、なぜなにナデシコ出張版

 ちょっと・・・ちょっと待ってよ・・・この展開は、せっかく登場した私がしばらく出番無し!?まだ大して活躍してないのに・・・今回は説明することもあまり無いし・・・


Q1・正中線五段突きって?

 人間の急所が多く存在する正中線(生物体が左右対称な場合の相対線。すなわち、生物を均等な両半に分ける線)の急所を、五箇所殴る技よ。


Q2・BoN Voyageって?

 フランス語。「良い旅を」って意味。格好つけすぎね。


Q3・ラストの2人はどうやって横島を持って帰ったの?

 ディストーションフィールドを一時的に広げてエステを覆ったのね。時ナデでも出来るかどうかは解らないんだけど・・・









あとがき

 最初に言い訳。風神皇にブレード(仮)があるかどうかは知りません。優華部隊の機体の正確な設定、知りませんからねー。どこかに設定があって、ブレードっぽい武器がなかった場合は、試作段階ということで見逃してください。

 本来ならこの話って十話の後半部分だったんですけどね・・・急展開ばっかり・・・

 つーか原作が原作なだけに、自分で、「こんなん横島ちゃうわ!」と思ってしまいました。性格変わりすぎ・・・


 


 


代理人の感想

大丈夫、多分ジンオウシリーズの細かい仕様書なんてこの世のどこにもありませんから(爆)。

それに、基本的にエステを元にした兵器なので武装もそれに準じると思われます。

ですから接近戦用の刃物も当然装備してるでしょう。

ただ個人的には木連の武器ということで「ブレード」より「機動兵器用小太刀」とかの方が雰囲気は出たかなと。

 

しかし、横島君は確かに格好いいんですがあれで終りのフクベ提督が比較するとなんか哀れ(爆)。

 

 

>正中線五段突き

ああ、つまりローリングサンダースペシャルと(違)。