んん〜〜〜そろそろあの二人が試運転から帰ってくるころね。地球の機動兵器を参考にした『神皇シリーズ』に慣れてもらうためなんだけど、あの2人なら、いえ、わが優華部隊なら問題なく乗りこなせるでしょうね・・・あ、そういえば・・・


「?どうしたんですか舞歌様。何か楽しそうですけど」


「あ〜、あのね。じつは千沙と万葉に、面白いものがあったら持って帰ってきてって言っといたのよ。わが部隊の堅物代表でしょ?どんな物もって帰ってくるか楽しみでね」


「その面白いものが見つからない可能性もあるんじゃないですか?」


「あの2人ってば真面目だから・・・一生懸命面白いものを探し回っているのを思い浮かべると・・・・・・うぷぷ」


「うぷぷって・・・・・・・・・」


 む。何よその半眼は。いいじゃないのよ楽しみなんだから。


「ま、もって帰ってこなかったらこなかったで別に損はしないんだしね」


 と、冗談めかして話してた五分後に「あんなもの」が来たのよね。これだから人生って解らないわ。








GS横島 ナデシコ大作戦!!





第十二話「ぽんぽこたぬきさん」





「各務、御剣両名、ただいま演習から帰還しました」


 優華部隊の隊長である千沙が帰還の報告をし、二人でびしっと敬礼をする。


「ごくろうさま。で、どうだった?雷神皇と風神皇の乗り心地は?」


 その言葉を受けて万葉が答える。


「はい。ジンシリーズより耐久力に劣るとは言え、私はこちらの方が性に合っています。

 地球の機動兵器を参考にしているのがやや気に入りませんが」


「千沙は?」


「私もほぼ同意見です。・・・私はほとんど動かせなかったのですが」


「何故よ?」


 その言葉に固まる万葉。万葉の様子がおかしいとそちらに目をやると、今度は汗をだらだら流し始める。


「ちょ、ちょっとどうしたんばい、万葉。そんな引きつった顔して」


 おかしすぎるその様子に声をかけたのは神楽三姫。炎神皇のパイロットだ。万葉が一瞬言葉に詰まった時、一人の女性が駆け込んできた。


「ちょっと万葉、風神皇がボロボロじゃないの!まるで敵と互角の勝負を繰り広げたみたいに・・・!しかもそれ以上にボロボロの地球の機動兵器はなによ!」


 駆け込んできたのは空飛厘(こう ふぇいりん)。闇神皇のパイロットで、女性にしては背が高い。ちなみに、これで優華部隊のパイロットが部屋の中に全員揃った。横島は千沙の指示でエステから出され、医務室に運ばれている。


「ふむ。千沙、演習内容を説明しなさい」


 舞歌の言葉を受け、万葉にちらりと目線を送ってから、口を開いた。


「・・・私たちが火星に着いたとき、地球の戦艦が無人機と無人戦艦に囲まれ、轟沈間近でした―――――」






〜回想〜

「見て、万葉。地球の戦艦よ!」


 千沙が万葉に声を掛ける。千沙が指し示した場所には、ナデシコの盾となったクロッカスが沈黙したところだった。


「火星までこられる戦艦が地球にあったとはな」


 意外そうに言う。そのまま見ていると、ナデシコの故障部分に流れ弾が当たり、僅かにしか動けない状態になっていた。そのとき、


「機動兵器・・・しかも一機だけ!?一体何を・・・」


 言うまでも無く横島である。横島がナデシコと無人兵器の間に立つ。時間稼ぎにもなりはしない、と思った二人だが。



 ぎゅおおおおおおおおおおおおお!!



 横島のエステが、ファイナルアタック(仮)を発射した。


「な・・・!?じゅ、重力波砲だと!?」


 彼女が驚くのも無理はない。戦艦はともかく、機動兵器に重力波砲(グラビティブラストの木星での呼び方)を搭載できたのは、かなり大型のジンシリーズのみだ。ジンシリーズにしたところで、戦艦ほどの出力は得られない。威力的には、戦艦>ファイナルアタック>ジンシリーズ、となっている。


「しかもあの持続時間は何だ!あの機体にどれほどのエネルギーが・・・」


「あの戦艦・・・あの機体に時間稼ぎをさせて次元跳躍門(チューリップ)から逃げるつもりね・・・」


 ナデシコがチューリップに入りかけたときにようやくファイナルアタックが切れた。切れたら切れたで無人機に攻撃を仕掛け、注意を引き付けていた。


「「・・・・・・・・・」」


 その機体が戦う様子を見ていると、いつしか二人は言葉を発することを忘れるほど、見入ってしまっていた。

 そして、ナデシコが完全にチューリップの中に入る。入ったことを確かめると横島はすぐに文珠を使い、飛び立った。


「・・・千沙、追うぞ」


「え、追うの・・・?」


「どこまでやれるのか確かめたくなった。元より、地球人を見逃すことなど出来ないだろう」


(・・・・・・まあそうなんだけど・・・主旨が変わってる・・・)


 だが千沙にしてもあの機体の行く末は気になったので、結局付いて行くことにした。


 ・・・そういえばこの機体が飛行ユニットも付けず、バーニアさえ吹かさずに飛行したことについて疑問を憶えなかったのだろうか。

〜回想終了〜





「・・・・・・その後、万葉がその機体の戦いを挑んだんですが・・・」


「その戦いでお互いボロボロになりながらも勝利を収めたと言うわけね?」


 舞歌が締めくくったが、


「いえ・・・違います。敵は既にボロボロでした・・・」


「へえ・・・?」


「恐るべき手練(てだれ)でした・・・鍔迫り合いをしただけでも敵の機体は悲鳴を上げる程だったのですが・・・私の斬撃のすべてをかわせないまでも致命傷を避け、その上、力場で出来た盾で私の攻撃を弾き体勢の崩れた私に、その盾を投げつけてきたのです・・・。

 ・・・・・・何とか直撃は避けましたが、あの勝負の中で私は二回は死にかけました・・・・・・」


 そのときの恐怖を思い出したのか、ぶるりと震える。


「「「「「・・・・・・」」」」」


「・・・で、その後は・・・?」


「盾を投げた時点で力尽きたようで、そのまま動きませんでした」


「ふ〜ん・・・。で、その地球の手練はどうしたの?」


「・・・もって帰ってきました」


「え!?じゃああのぼろぼろの機動兵器って!?」


「そうだ飛厘。私を追い詰めた奴だ。

 乗り手は元より、搭載されている兵器にも興味があったからな・・・」


「んでテイクアウトしたってわけね・・・。なかなか面白いものもって帰ってくるじゃないの」


「面白いって・・・地球人ですよ!?」


 驚いた声を上げたのは紫苑零夜。おとなしげな容貌だが、光神皇のパイロットである。


「え〜・・・。面白そうじゃないの」


(舞歌様ならそういうと思ったわ・・・)


 千沙は自分の予想が当たったことを知った。別に嬉しくなかったが。


「あの〜千沙隊長?機動兵器の中にいた人が目を覚ましたみたいですけど・・・」


「え?ああ、ありがとう」


 医務室から連絡が届く。舞歌は全員を見渡し、


「んじゃ、みんなで地球人の顔でも拝みにいきましょっか!」


 異論は出なかった。





 ――――――――――





 舞歌達が医務室に入ると、


「ねえきみこの後ヒマ?歳の近い妹さんかお姉さんいない?」


「え、その・・・困ります・・・」


 横島がナンパしていた。



 だああっ



 全員ずっこける。なにせ、歴戦のいぶし銀的雰囲気をもつ相当にいかつい男を想像していたのだから無理はない。若いと言うのは些細なこと。いきなりナンパとは。


「こ・・・この私が・・・」


 舞歌がうめく。


「あれ?皆さん折り重なってどうしたんスか?って言うか誰?この人達」


 後半はナンパしていた女の子に尋ねた台詞である。


「ま・・・まいかさま・・・」


 女の子の顔はかわいそうなほど蒼白だ。


「ふ・・・ふふふ・・・入り口に出っ張りがあったわよ?後で直しておいて・・・」


「は、はいっ!」


 そそくさと医務室から出て行き、部屋には横島と優華部隊のみとなった。ちなみに、もちろん出っ張りなどは無い。そしてようやく全員が起き上がる。そして横島の方に向き、


「・・・恥ずかしい所を見せたわね。私はあ


「初めましてお姉さまッ!!ぼく横島!!お姉さまがわたくしめをお助けに!?あ!よく見たら後ろの人もみんな可愛いッ!!」


 いつも通りの速さで舞歌の手を握る。とりあえず横島に怪我は無いようだ。


(((((((は、速い・・・!?)))))))


 優華部隊は見かけこそ可愛いor美人が揃っているが、機動兵器の操縦は元より、体術のレベルも相当なものである。だが、その全員が見えないことは無かったものの、反応できなかった。


「いや〜こんなにも美人が多くて部屋もけっこう綺麗で・・・!火星って思ったよりいい所っすねー!」


「火星?」


 みんな顔を見合わせる。


「えっと、横島君?・・・ここ、火星じゃないんだけど」


「え?んじゃ、ここってどっかのコロニー?それとも戦艦?つーかそもそも、俺ってどのくらい寝てました?」


「半日。・・・いいかげん手を離しなさい」


「え〜。じゃあここって・・・?」


「木星よ」


「んなアホな。木星が気体の塊ってことぐらい俺でも知ってますって」


「ではお前は何と戦ってきたのだ?」


 思わず声を掛けたのは万葉。顔が怒っている。


「なにって・・・え〜と・・・」


「御剣万葉だ。お前は何と戦って、敗北したと言うのだ!?」


「ん〜と・・・蜥蜴さんの新兵器・・・かな?」


「何をさっきからふざけている!蜥蜴?馬鹿にするのもいいかげんにしろ!!」


「別に馬鹿にしたつもりは・・・怒ると可愛い顔が台無しだって。万葉ちゃん」


「なにが「万葉ちゃん」だ!なれなれしい・・・!」


「ちょっと万葉ストップ!・・・横島さん?改めて訊きますけど、あなたは何に敗北しました?」


 ヒートアップする万葉を押しとどめたのは、氷神皇のパイロット、天津京子だ。


「たぶん新型の・・・人型無人機だけど・・・」


「!!#」


 無人機、のところでさらに怒る万葉。


「あのね横島君。その人型、この万葉が乗ってたんだけど・・・」


「あ、そーなんスか。ってことは、あの機体は木星のものじゃないってことっスよね?なーんだ。

 ・・・って、あれ?んじゃなんで俺と戦ったんだ?」


「なんだかわけがわかんなくなってきました・・・」


 混乱しているのは玉 百華(ゆう ぱいふぁ)。竜神皇を操る。お団子頭がポイントか。


「・・・イマイチ噛み合わないわね。

 横島君、地球の敵の組織の名前は?」


「え?木星蜥蜴でしょう?」


 その言葉に万葉を中心に色めき立つが、舞歌が手で制する。


「では、その木星蜥蜴というのは?」


「無人兵器をどんどん送り込んで地球を侵略しようとする謎の異星人」


「「「「「んなッ・・・!」」」」」


「みんな落ち着いて!・・・・・・横島君、あなたは間違った認識を植え付けられてるようだから一から説明します」


「はぁ」


 横島としてもそのほうがありがたい。


「まず、ここは間違いなく木星。正確には、木星圏ガニメデ・カリスト・エウロパ・及び他衛星国家間反地球連合体。略して木連よ」


「がにめ・・・キリスト・・・ユーロパ?」


「・・・木連でいいわよ。で、ここからが本題なんだけど・・・」





 ――――――――――





「・・・・・・と、いうわけよ」


「ふーん・・・元はみんな地球人か・・・」


「けっこう淡白ね・・・。でもま、そういうわけだから、ゲキガンガーの影響で私たちの中では、「自分たちは悪の地球人を倒す正義」って考えが主流なのよ」


「でもなんでいきなり戦いを仕掛けてきたんスか?話し合いとか何とかやりようはあったでしょうに。自分達も人間だって言ったり・・・。そりゃあ、ご先祖のことは御気の毒っスけど・・・」


「な・・・!地球人がそれを言う・・・!?あたしたちは何度も通信を送った!そっちが一言侘びを入れたら昔のことは水に流すって、何度も!!」


 三姫が火も吹きそうな勢いで怒鳴る。


「いや・・・でも、言いにくいんスけど・・・」


「なに!?」


「そんな事実・・・今初めて知ったんですけど・・・」


「それって・・・」


「どういうことですか!?」


「これは・・・えーと、あくまで俺の想像っスけど・・・軍とか政府の上層部が、その・・・隠蔽・・・してたのでは・・・体裁とかメンツのために・・・。いや、あくまで想像なんスけど・・・」


「「「「「「「・・・・・・・・・」」」」」」」


(は・・・はぅあ!!)


 医務室に深い沈黙が降りる。だがビリビリとした怒りの波動や、怒りを通り越した何かがほとばしっているのは感じる。針のむしろだ。


「・・・・・・仮に・・・仮にそれが本当だとすると・・・私たちが再三歩み寄ろうとタカ派の人達を宥めつつ何度も通信を繰り返していた時、九割九分以上の人がその事実を知らず、それどころか存在すらも知らなかったと・・・そういうことですか・・・?」


「ひっ!す、すんません・・・い、命だけは・・・」


 奈落の底から響いてくるような京子の声に、思わず卑屈に謝ってしまう。


「・・・ゆるせん・・・」


「は!?」


 今度は万葉だ。


「地球の上層部も許せん(横島の想像が本当だと仮定して)・・・その男のくせに情けない醜態も許せん・・・」


 そして息を吸い込み、


「そしてその情けない男に追い詰められた自分が一番許せん・・・!!」


 ぎゅっと拳を握り締める。今にも殴りかかってきそうだ。横島に追い詰められたことをよほど認めたくないのか。


「いやいや、あの時は必死だったから・・・まぐれだって。俺ってば、貧弱な坊やで有名だし?」


 その態度こそが万葉を怒らせることに気付いてないのか。


「ただの貧弱な坊やがあの状況で囮を勤められるわけ無いだろう!それとも私はそんなに弱かったのか!?」


「え・・・いやその・・・」


 なんと答えていいのかわからない。


「万葉・・・口調はいつもどうりだけど怒っとるばい・・・微妙に支離滅裂・・・」


「さっきの会話からずれてるしね・・・」


 いつもと様子が違う万葉を見て、他の面々はちょっと冷静さを取り戻したようだ。


「で・・・結局この人のことどうするんですか・・・?」


 零夜が話を変える。確かにそれが一番の問題だ。


「地球人が私たちの事を知らないんなら、彼を地球に帰して事実を広めてもらったらどうかしら」


「上に狙われないように何とか立ち回れば、いずれは世論に対抗できなくなるかもしれませんね」


 千沙と京子がアイディアを出す。横島にしてみると地球に帰る事ができるので願ったりかなったりのはずだが、疑念は当の横島の口から出た。


「果たしてそう上手くいくかな・・・?」


「どういうこと?」


 さっきからずっと黙っていた舞歌が訊ねる。


「いや、だって・・・いくら俺が木星には昔追い出した地球人がいるって言っても、軍や家族を亡くした賛戦派の人達は聞かないと思うし。証拠も無いし。明確な証拠があっても、俺一人が主張したって証拠なんか俺ごと揉み消される可能性が高い。

 たくさん証人を作るって手もあるけど、地球討つべしが主流の木連でそれが可能かどうか・・・その人達は和平なんか望んでないんだろ?」


「それは・・・」


 万葉が口篭もる。


「それに・・・木連は今までたくさんの人達を無人兵器で殺してきたし・・・」


「それは!」


「自分達を追い出したし火星に核を撃ちこんだし?確かに地球がそもそもの原因で、許されることじゃないだろうけど。

 でも、ご先祖様が味わった苦難と屈辱とのために、無知という名の罪を背負った一般人を無人兵器で沢山殺した・・・それで納得する遺族の人ってどれくらいいるんでしょうかね・・・?」


「だが・・・」


「・・・俺と仲がいい同僚は火星出身でさ。その子はシェルターの中にたくさんの人と一緒にいたんだけど、侵入してきた無人兵器がその人達を目の前で殺して・・・生き残ったのはその子だけ。小さな女の子一人守れなかったって、そのときの恐怖と怒りに震えてた」


「・・・・・・・」


「とまあ・・・事情をよく理解できてない奴が好き勝手言っちゃったけど・・・」


「おい・・・!」


 さすがに怒る。


「結局、最善は両陣営の歩み寄ることかな・・・でなけりゃ泥沼だ」


「潰しあいの場合、横島君は死刑ってことになるわね!」


 舞歌の物騒な発言に一気に青ざめる横島。よく考えたら自分は捕虜以外の何者でもない。


「でも、潰しあいはお互い不利益しかないしねぇ」


(ほっ)


「で、結局この人はどうするんですか?」


「あ、そうそう」


 横島で遊んでいた舞歌がそういえばといわんばかりに手を打つ。


「ん〜〜〜・・・ただこのまま帰してもメリットないし・・・

 ・・・今適当なアイディアが思い浮かばないから・・・そうねぇ・・・私の雑用でもやってもらおうかしら?」


 今日の夕飯を決めるかのごとく、さらりと言った。


「舞歌様!?」


「こんな頭の悪そうな、しかも地球人の男をお側に置こうっていうんですか!?」


「まあ別にいいじゃない。面白そうだし」


 こう言われて理性のリミッターがあっさり解除されるのが横島と言う男。


「寛大な処置、ありがとうございまーーーす!!お礼は体でお支払いを・・・!!」


 と、いつも通り、ほんとにいつも通りに、常人では反応できないタイミングでダイヴする。しかし、舞歌は常人ではなかったわけで。



 ドガ!!



 反射的に隠し持っていた短杖で、鍛えられない顎をアッパースイングで殴ってしまった。


「あらら・・・突然ジャンプしたら驚くじゃないの・・・」


 大の男が喰らっても顎が砕ける一撃を食らわせてもいつも通りの舞歌。


「・・・そういえば舞歌様って・・・」


「・・・通っていた道場でだれも敵わないくらい、強いんですよね・・・。鬼舞歌とか何とか・・・」


「噂によれば、一対一で舞歌様に勝てる木連男児は月臣少佐ぐらいのものだとか・・・」


「総合的には舞歌様が圧倒的に上回っているって言うし・・・」


 舞歌の力を久しぶりに見たことで、「これなら大丈夫かな・・・」と言う空気になる。


「あいてて・・・いやーきれいに入ったっスねー」


 が、おもむろに起き上がる。


「「「「「「・・・・・・!!」」」」」」


「おい、大丈夫・・・なのか?」


 万葉が珍しく、恐る恐ると言った感じで訊ねる。


「いやーナデシコの中じゃ・・・あ、戦艦の名前ね。ナデシコの中じゃ、毎日のように達人クラスの技を食らってからなー。

 あ、でも、一日の内に壁にめり込んで床にめり込んで完璧な寸剄を二発鳩尾に喰らってさらに顔面に回し蹴りをもらったときにはさすがに気絶したけど・・・」


「・・・・・・・・・・・・」


 さすがに舞歌もちょっと早まったかも・・・と思った。


「あ、そういえばお姉さんの名前、聞いてなかったっスね」


「・・・東、舞歌よ」


「舞歌さんっスね。よろしく〜」


 本当にここが敵地ということがわかっているのだろうか。地球人とばれたら、即、殺されかねない危ない橋だと言うことが。


「敵地だというのにへらへらと・・・!舞歌様、何故あんな男を!?」


「なに?気になるの?」


「そっ!そんなわけありません!!大体、あのような軟弱な奴なんかに・・・!!」


「え〜?でも、圧倒的不利を覆しかけた、恐るべき手練・・・じゃなかったっけ?」


「ぐっ・・・!

 ・・・・・・あんな男が・・・あんな男に・・・認めたくない・・・ミトメタクナイ・・・」


 頭を抱えてぶつぶつ呟き出す。そんな万葉を見やりながら、万葉の質問の答えについて考えていた。


(・・・何故って訊いた・・・?そうね・・・いろいろあるけど・・・)


 零夜をナンパしようとして投げ飛ばされている横島をながめつつ、


(歩み寄るとか、許されないことをされたとは言え、沢山の人を死なせて被害者は納得するのかとか、兄さんの言葉と似た台詞が自分以外の口から出たからか・・・)


 今度は三姫にちょっかいをかけている。


(案外、横島君が兄さんの目指していた和平の橋渡しになったりして・・・)


「認めたく・・・ない!」


「万葉ちゃん・・・?認めたくないって、なにが?」


「横島・・・私と勝負しろ・・・!本気を出せ・・・!」


「え?な・・・なにを・・・って・・・」


「問答無用!!}


 そんな万葉に追いかけられ始めた横島を見ていた舞歌は、


(・・・・・・・・・なわけないか)


 ふう、と溜息をついた。





 ――――――――――





 横島が雑用になって3日後。


「「おいしい・・・!」」


「そうでしょ?私も昨日作ってもらって驚いたからね」


 ここは食堂。舞歌達が横島の作った中華丼を食べている。千沙と百華は素直に感想を表した。万葉と零夜は無言だが、その顔にありありと驚きが見て取れる。


「何故あいつがこれほどの料理を・・・」


「戦艦の中じゃ、コックをやってたそうよ」


「コックを!?

 パイロットではなかったのですか!?」


「パイロットは臨時だって言ってたわ」


「そんな・・・」


 またも「認めたくないモード」に入ってしまった万葉。そこに、


「あのー舞歌さん、お部屋の掃除、終わりましたー」


 へらへらした顔の横島が、バケツとモップをもって現れる。


「あ、ご苦労様。今度は箪笥の中の配置換え・・・してないでしょうね?」


「も・・・もちろん!初日でもう懲りました!」


「そういえばあの技を他人に極めたのはいつ以来だったかしら・・・。あの時はあいつ、四日はご飯が食べられなかったんだけど・・・」


 遠い目をして懐かしそうに呟く。


「何で次の日から動けたの?」


「人間とは慣れる生きもんスよ」


「ふーん・・・」


 常人の交わす会話ではない。


「ほら万葉。落ち込むことないって!横島さんは強いわよ!だから万葉も弱くないって・・・!」


「・・・そう思うか・・・?」


「でも、打たれ強かったリ逃げるのが上手いって言うのはそれだけ殴られるようなことをしてきた結果かも知れませんよ。

 本当に戦闘ができるんでしょうか・・・?」


「ぽ・・・ぽんぽこたぬきさん・・・ぽんぽこたぬきさん・・・!」


「万葉元気出して!少なくとも私より強いわ!」


「ぱ、百華・・・すまない・・・」


 零夜は横島に少々辛辣だ。だが他の木連人の地球人に対する態度から考えると、段違いにやわらかい態度といえる。


「四人でなに話してるのかしら・・・。

 あ、そういえば、シャワーの修理と廊下の掃除も終わってる?」


「はい。ついでに蛍光灯の交換もやっときました!」


 どこかで見たことがあるようなやり取りだ。


「気が利くわね。思ったより有能そうだし・・・もっと居てもらおうかしら・・・」


「そんなー!そろそろ地球に帰してくださいよ・・・みんなに必ず生きて帰るっていったんスから・・・!」


「でもねー・・・実際問題難しいし、有能なのはほんとだし、捕虜としては破格の待遇だし・・・」


「そ、そうっスけど・・・」


 そのとき、ずどどどどど・・・と、何かが爆走しているような音が聞こえてきた。


「あれ、京子?」


「ふ、ふふふふふ・・・やっと追いつきましたよ・・・横島さん・・・!」


「げ!撒いたと思ったのに・・・」


「ちょっと。どうしたのよ」


「・・・いきなり私の着替え中に部屋に乱入してきたと思ったら、そのまま私のあられもない肢体を凝視してそのまま逃亡したんですよ・・・ふふふ・・・月臣さん以外の男にみられたら、もう存在を消すしか、ないでしょう・・・?ふふ・・・滅殺です」


 完全に目が据わっている。


(し、真のヒロイン○音!?)


「最低だな、横島」


「相手が悪かったですねー」


「し、しかたなかったんやーーー!!ごみ箱の袋を交換しようと思っただけで、普通着替える時は鍵くらいかけるもんやんかーーー!!」


「ま、それはそうよね。でも、ノックだって、普通するもんでしょ?」


「それはそうっスけど・・・。でも、美人ぞろいのこの部隊、その一員の着替えを見てもたら、もう脳裏に焼き付けるしか―――――って・・・はッ!?」


「「「「「・・・・・・・・・」」」」」


 途中から暴走していた横島、気がつくと周りの視線が氷点下を下回っている。


「・・・・・・楽には・・・死なせません!!」


「今度は八○庵かーっ!?」


 言うが早いか、脱兎のごとく逃げ出す横島。それを追う京子。

 実を言うと、この光景(横島が追いかけられること)は珍しいものではなくなっている。横島が来てまだ三日目だが。


「・・・ほほう・・・今日の京子は冴えてるわね。上手いこと部屋の隅に追い詰めてるわ。あれじゃ、逃げられない」


「泣け!

 喚け!!

 とりあえず死ね!!!」


 横島に乱打を浴びせつつ微妙な台詞を口走る。


「せ、台詞がちがフッ!!」


 血が飛び散って来そうなその光景も、緑茶をすすりながら見物している。


「うん。なかなかね。いつもより十分以上速いわ」


 舞歌の視線の先には、床の上で痙攣している横島と、良い汗をかき、それをぬぐう京子がいる。


 と、思ったら、


「今だ!」


 がばっと起き上がり、そしてさっき以上の速度で逃げ去った。


「ちいッ!!死んだフリは擬態か!!」


 追いかけっこが再開された。


 ずどどどどどどどどどどどど・・・・・・


「「「「・・・・・・・・・」」」」


「・・・横島君が一ヶ月いたら、優華部隊の白兵戦能力、大幅に上がるんじゃないの・・・?」





 ――――――――――





「・・・・・・・・・」


 横島は人気のない、薄暗い区画に来ていた。


「・・・・・・ここ、どこ?」


 早い話が、京子を撒いたのは良かったものの、勝手がわからない場所で闇雲に逃げ回ったことで、迷ってしまったのである。付近の部屋の小窓をのぞく。


(座敷牢・・・ね)


 人を軟禁しておくための区画だろうか。


「ちょうど良い。まさか鍵のかかった牢の中に隠れているとは思わんだろ。夕飯時まで隠れとこ・・・」


『解』


 がちゃり、という音と共に鍵が開いた。


「ちょっと失礼しますよ・・・っと」


 と、入り口から中をのぞくと、誰かがいる。俯いているので顔はわからない。寝てるのか?と思ったら、


「誰だ貴様・・・」


「あ、あはは・・・いやいや、まさか人がいるとは思わなかったもんで・・・」


「誰だと訊いている」


 赤毛の人物が再度問い掛ける。


「よ、横島忠夫ッス!!人から追われておりまして、少し体を隠そうと参上した次第であります!人がいるとは気がつきませんで!」


「ふん、忠夫か」


「は、はい!」


(やばいよ、こんな所に閉じ込められてるってことはやばい奴なんだろうな・・・)


 横島的にはさっさと退場したいのだが、下手に刺激をしてもやばそうなので、おとなしく話を聞いておく。だが・・・


「さっさと出て行け」


「は?」


「俺は退屈だが、お前程度では退屈しのぎにもならん。だったらいない方が目障りでなくていい」


「はあ・・・」


 全然わけがわからない。退屈しのぎにならない?なにが?さっぱり解らないが、せっかく退出する許可を得られたのだから、さっさと出て行こうとする。


(あれ?)


 しかしそのとき、横島のセンサーが働く。


「あの・・・あんたもしかして・・・」


「なんだ」


「・・・・・・おんな?」


 そのとき、目の前の人物から怒気が立ち上るのがはっきりと感じられた。気のせいか、紅い髪が揺らめいているようにも見える。


「・・・貴様、俺を・・・俺を女といったか!!」


 ごごごごごごごごごごごごごごごご・・・・・・!!


 思わず後ずさるほどのプレッシャーだが、一定以上は下がれない。


「おれは・・・男だッ!!」


 ピシュン!と、手刀が横薙ぎにされる。優華部隊の誰よりも早い攻撃だ。


「うわっ!!」


 だが、首の皮一枚裂く程度にとどまる。


「ほう」


 僅かに驚く。そして、


 ドドン!!


 拳と蹴りの二連撃。今度はかわせない。


「くっ!!」


 吹き飛ばされるものの、空中で体勢を立て直し着地。強い。口元の血をぬぐう。久々のシリアスモードだ。


「ふん。手加減したとは言えダウンすらしないとはな。貴様、それが本当の顔か」


 ビシュウ!と突然、予備動作がない前蹴り。腹に突き刺さるが瞬時に急所はずらす。


「!」


「いてぇ・・・」


「忠夫。貴様の力を見誤ったか。退屈しのぎにはなりそうだ・・・!」


「そんなもんに真面目に付き合ってられっか!」


「逃げられると思うか!」


 横島に向かって高速で踏み込む。密着すればそうそう逃げられない。だが、


「サイキック・猫だまし!!」


 パアンと、目の前で霊力を帯びた手が叩かれる。はじけた光に、一瞬目が眩む。


「ちっ!!」


 一瞬の判断で目を閉じたため、一秒足らずで目を開く。だが・・・


「!?いない・・・?」


 前方には誰もいない、と知覚した瞬間、廊下からタッタッタ・・・と足音が聞こえてくる。


「ふん・・・この北斗から逃げられると思うか!」


 北斗と名乗った少年(少女?)は、瞬時に部屋を飛び出した・・・





 ――――――――――





 主がいなくなったその部屋で、動く影があった。


「ふ・・・大成功」


 横島だ。


 あの時何があったのかというと、1・目を眩ませると同時に、『足』『音』という文珠を廊下に投げる。2・投げた瞬間に北斗の後ろに回りこむ。3・回り込んで0.2秒ほどで北斗の目が開き、同時に文珠の効果で廊下から足音が聞こえ、北斗がそれを追った・・・という寸法である。

 目が開くと同時に足音が聞こえたのがミソ。


「しっかし何なんだあいつは・・・北斗とか言ったっけ・・・?」


 なんだか解らなかったが、厄介なことが増えたような気がする横島だった・・・










 続く










 イネス先生のなぜなにナデシコ出張版

 良い子の皆さんこんにちは。今日もなぜなにナデシコの時間がやってきました。ここではいつものように「GS横島 ナデシコ大作戦!!」のギモン・専門用語等を、解りやすく、かつコンパクトに説明するわ。


Q1・ぽんぽこたぬきさん

 某ゲームのキャラの口癖。主に、否定的なニュアンスで使われるわ。肯定のニュアンスを表す時は、「はちみつくまさん」。


Q2・真のヒロイン○音

 真のヒロイン琴音。トゥハートというゲームの琴音という女の子の真の姿(?)。暴走状態になった超能力で、犬を無限に湧き出させたり、果ては瞬極殺まで放つ、最凶キャラの一人として数えられるわ。・・・ちなみに、オフィシャルじゃないから(特に瞬極殺)。念のため。


Q3・サイキック猫だまし

 「栄光の手」の要領で手に霊気を集め、相手の顔の前で手を叩くことによって目を眩ませる技よ。










あとがき

 あ〜優華部隊の性格がいまいちわからな〜い・・・特に三姫の口調・・・どうすりゃいいんだ・・・

>一日の内に壁にめり込んで床にめり込んで完璧な寸剄を二発鳩尾に喰らってさらに顔面に回し蹴りをもらったときにはさすがに気絶したけど・・・

 頑張れ横島!ハーリーだったらたんこぶすら出来ないぞ!

 

代理人の感想

優華部隊の性格ですか・・・・・・(苦笑)。

 

千沙=「苦労人の学級委員長」の一言だけでほぼ説明できる(爆)。

万葉=さっぱりとした女。武人らしくプライドが高く意固地だが、基本的には竹を割ったような気性。

    GS美神のワルキューレ? 悪い言い方をすると北斗の下位互換キャラ(苦笑)。

百華=策士でない琥珀さん(にこにこしてるが実は感情が薄い)

三姫=好きな男に対して(だけ)は素直に出れない、ある意味典型的ヒロイン属性。

    ナイーブな素顔の上に強面の仮面をかぶる、月姫の秋葉と同系列の二面性キャラ。

    あそこまで凶悪ではないけれども(笑)。ちなみに喋るのは謎のちゃんぽん九州弁。

    取り合えず適当に混ぜればそれらしく聞こえるかと(九州方面の方ごめんなさい)。

京子=いわゆる大和撫子。待つ女、耐える女。ギャグものだとキレる人。

飛厘=優華部隊における激動のカワラザキ(核爆)。オブザーバーなので実は自分からは動かない人。

零夜=世話焼きで家庭的・・・要はおキヌちゃんのポジションにいる人(笑)。

 

 

と、原作(爆)からはこれくらいしか読み取れませんね〜。

多少主観も入っているでしょうが私のイメージ(できるだけ客観的な)はこんなものです。

 

 

 

・・・しかし、やっぱ横島は正面からバトルするよりも、

こういった奇策で切り抜けるほうが味が出ていいですねぇ(笑)。

この路線がずっと続くことを期待したいと思います(爆)。

 

後、横島の戦争論がやや理路整然としすぎていて、やっぱり違和感がありましたかね。

今その事実を知ったばかりにも関わらず、情報の分析とそれに基づく予測、

さらには自分自身の判断を一瞬で脳内処理完了しちゃってるように見えます。(苦笑)

特に万葉の反論に対して即座に当を得た反論を理路整然とできるのは・・・・・。

追い詰められながら、アキノの事を話すだけにしておいたほうがそれらしく見えたかと。

 

これ、良くあるご都合主義のSSでは頻繁に見られる光景ですが、

現実でこんなスマートな芸当をやれるのは余程頭が切れるか、

もしくは前もって答えを用意しておいた場合だけでしょう。

割合としてどっちが多いかは言わずもがな。

・・・・・まぁ、主人公なら許される場合もあるんですけど、それにしても横島はそう言うキャラじゃないしw