続き。


「いや・・・それはいいんだが・・・何でお前、座り込んでるんだ?」


「怪我してるお前に変身したんだからしょうがないだろ」


(意味無いじゃん!!)


 横島&北斗&北辰以外の全員が心の中で突っ込みを入れる。


「心配ナイナイ」


『治』


 横島はあらかじめ出しておいた二つ目の文珠で足の傷を癒す。文珠残り三個。


「これでOK」


 あっさり立ち上がる。


「北辰。これが、お前に勝てる一番確実な方法だ。」


 ギラリと鋭く目を細める。今までは北斗の顔をしながらも、横島特有の雰囲気で北斗な感じはあまりしなかったが、今の横島は、顔だけ見ると零夜さえ北斗と見分けがつかない。


「・・・・・・・・・・。

 フ。虚仮脅しよ。仮に北斗と同じ身体能力を得たとしても、使いこなせなければ意味があるまい」


 北辰が短刀を横に薙ぎ払う。だが、横島の拳は、北辰の攻撃より遅れて振るわれたにかかわらず、北辰の顔に突き刺さった。・・・短刀はまだ横島まで到達していない。


「・・・使いこなせるんだよ。何でかは俺にも解らんけど」


 拳を腰まで引き戻し、面白くもなさそうに横島は言った。


「「「「「「「「・・・・・・・・・・・・・・・」」」」」」」」


 ギャラリーに言葉は無い。


「・・・・・・」


 北辰は怪我に頓着せず、さらに攻撃を仕掛けようとする。しかし、今度は北辰が体を動かした瞬間に連打が炸裂した。



 ズドドン!!



「・・・木連式柔・『連天砲』」


 相手の懐に潜り込むように拳をみぞおちにめり込ませ、体勢はそのままで掌底を斜め上・・・相手の顔面に炸裂させる。


 ドサリと北辰が床に叩き付けられる。今まで宙を舞っていたのだ。・・・・・・まさしく圧倒的。


「北斗。お前って強かったんだなぁ・・・圧倒的じゃないか。この実力差」


「・・・・・・お前が言うな。お前が。

 って言うか、吹っ切れたとたんに、なんなんだそのデタラメな力は・・・?節操が無いのは性格だけにしたらどうだ・・・」


 北斗のその声にも呆然としたものが含まれている。落ち込んでいたときとの力の差はまさに月とすっぽん。



「チィ・・・!」


 北辰は短刀を三つ同時に投擲。同時にまたも踏み込み。そして踏み込みつつまた短刀を投擲。


「!」


 正面の短刀を弾けば、二発目の短刀が飛来。それを弾けば本命の北辰。北辰の投擲術なら、いくら北斗でも二発弾けば体勢が崩れるだろう。左右のどちらかに何とかかわしても(それほどの速度なのだ)、それぞれ短刀が襲い掛かる。避けた体勢で弾けばやはり隙ができるだろう。短刀の襲い来る範囲外に逃れることももう不可能。ジャンプで避ければそれこそいい的だ。


(横島君!!)


 致命的でないにしろ、初めての危機。だが横島はのんきな声を出す。


「いやいや北斗もほんとにすごいって(←さっきの話の続き)。なんせこんなモノまで使えんだからなぁ」


「何!?」


 横島と北辰を隔てる空間に、何かがキラリと光る。そして横島は普通に二発の短刀を弾き、突進する北辰が短刀を突き出す―――――はずだった。否、確かに突き出された。だが、


「!!!」


 北辰の顔が今度こそ驚愕に歪んだ。





 北辰の右腕は、なぜか肘から先が無かった・・・





「・・・うん。マジですごいよ。なんせ鋼糸まで使えるんだから」


 北辰の腕は、床の上に転がっていた。北辰の腕から、思い出したかのように、鮮血がほとばしった。


「・・・・・・」


 北斗は、今度こそ言葉を失った。





 その時だった。





 ―――――北辰は、実力そのものでは北斗に負けていたが、あきらめの悪さなら同等、性格の悪さと悪知恵なら断然上だった(美神ほどではないが)。敗色濃厚になった今、なんとか横島を苦しめる方法はないか。そう考えていた。もちろん横島に勝てる策があればそれを採用したが、生憎そんなものは思い浮かばなかった。





 だから、





 ボン!


 横島の視界が農白色に塗りつぶされる。


「煙幕!?」


 瞬時に北辰のいた場所に駆けるが、既にいない。瞬時に、


「舞歌さん!!北斗がやばい!!」


 その声に反応し、舞歌と優華部隊が北斗の周囲に集まる。少し遅れてモモもそちらに走った様だ。


 それを確認し、北辰の気配を悟ろうと意識を集中する。少なくとも周囲にはいないと感じたが・・・


 煙が晴れた。


「いない・・・?」


 格納庫の目が届く範囲には姿が見えない。北斗たちも全員無事のようだ。


「逃げた・・・のか?」


 横島が呟いた、そのとき、


「―――――!!!!!」


 横島の背中に戦慄が走り抜ける。まさか・・・!!!


 横島が振り向くと、今まさに、テツジンがグラビティブラスト発射5秒前の状態だった!!発射する方向は、北斗と、その周りに集まった、モモと舞歌と優華部隊―――!!





 その事実を横島の脳が捉えた瞬間、横島の思考は加速した。





 変身を解き、北斗らを守る効果の文珠を投げる・・・・・間に合わない。

 変身を解き、文珠を使ってテツジンに突撃。壊せないまでも斜線をずらす・・・・・間に合わない。

 変身を解かず、北斗らを見捨て、テツジンのエネルギーが切れるまで逃げ回る・・・・・論外。


 位置関係が悪かった。この上なく悪かった。図に表すと、

        鉄
       / \
      /   \
     /     \
    北―――――――横

 こうだった。北斗を援護するにも、テツジンへ攻撃するにも、どちらも同じ距離。どちらも間に合わない。北辰、絶妙すぎる位置取り。


 そのとき横島の脳裏に、懐かしい1999年のある日が思いおこされた。




とある廃屋。


 そこで繰り広げられるゴーストスイーパー対悪霊の戦い。その戦いは、ゴーストスイーパー側の圧倒的勝利で幕を閉じようとしていた。


「吸引!」


 最後の悪霊が札の中に吸い込まれた。


「ふう・・・除霊完了!今回もチョロかったわねー」


 この中のリーダー、美神令子だ。


「お疲れ様です。さすがですね、美神さん!」


「おキヌちゃんが霊の動きを止めてくれたおかげで楽だったわ」


 別働隊も帰ってきた。


「美神殿ー!こっちは終わったでござるよー!」


「この馬鹿犬が突っ込んだおかげで、しなくていい苦労までしたけどね」


「狼でござるっ!」


 シロとタマモだ。さらに、


「こっちもおわりましたー・・・」


 ヘロヘロでやって来たのは我らが横島。


「あ、横島さん、お疲れ様です!」


「ありがと。おキヌちゃん・・・」


「先生、だいぶ疲れているようでござるな」


「そうね」


「なんでだー・・・俺だって成長したはずなのに・・・なんで俺だけこんなヘロヘロなんスかー?美神さーん・・・」


「そうねー・・・」


 美神は数秒考え、


「横島クン。あんたは不本意ながら私より霊力は高いけど、戦い方が下手なのよ」


「え!?」


「未だにスイーパーの基本アイテムのお札も神通棍もまともに使えないでしょ?だからって文珠は消費霊力が大きすぎてそうそう使えないし、サイキックソーサーは不安定。栄光の手を使うときだってペース配分なんかに気を遣ってないだろーし」


「う・・・」


「だからって神通棍の使い方を覚えようとするわけでもなし、効率的な霊力の使い方を覚えようとするわけでもなし、戦術なんて言葉の意味さえ知ってるかどーか・・・そんなんじゃヘロヘロになるのは当然ね」


「ぐ・・・」


「いざって時の知恵と集中力は大したものだけど、この仕事でご飯を食べるんだったら局地的じゃ意味が無いわ。いつでもその知恵と集中力を使えないと。それと、言っとくけどこんなことは基本中の基本。そして横島クンはその基本さえできてない。だから私は、霊力ではあんたに及ばなくても、ゴーストスイーパーとしての実力なら比べ物にならないのよ。ま、最近は超大物ばっかりだったからそれでも良かったかもしれないけど、ほんとなら超大物とかち合う可能性なんてほぼゼロなのよ?」


「・・・・・・」


「あらゆる道具を使いこなし、霊力は効率的に使い、頭を使い、集中し、相手の行動の裏を掻き、十の敵を一の力で倒す・・・それが一流ってもんよ。ただでさえこの仕事は死亡率が高いんだし。それこそ、一瞬の集中力の途切れ、油断なんかでね」


「成る程。美神殿が、たまに雑魚霊にもピンチになるのは油断が原因だからでござるか」


「るさい!」


 ごす


 美神は余計なことを言ったシロの後頭部をどつく。


「い、痛いでござる・・・」


「馬鹿ねー」


「オホン・・・位置取りなんかも重要よ?やり方によっては「一対十」が「一対一×十」になったりもするし」


「むぅ・・・・・・」


「ま、そこまで期待してないわ。ゆっくりやりなさい。私もいるしね」





 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・





(・・・あれからも俺は経験を積んだ・・・こっちの時代に来てからも修羅場を潜った・・・それでも、勝負運びに気を遣っていても、さらに実力で勝っていても勝てないほどに俺はヘボかったんスか!?美神さん・・・・・・!!)


 ・・・


(考えろ、考えろ・・・!二個同時に文珠を使ったところで間に合わない。だが、三つなら・・・?)


 そこに考えが至った途端、それを採用する。三つ同時使用の成功率は3割程度で、残りは三つしかないので失敗すると後が無い。だが、そんなことは歯牙にもかけない。


(なぜなら、そうするしかないからだ!!)


 以上、1秒間の思考。


 変身を解く。残り3秒。


 文珠を三個まとめて出す。残り1,5秒。


 速く。何よりも速く、音よりも、神速より速く!そんなイメージを込める。すると文珠に文字が現れる。すなわち、


『超』『加』『速』。


 なぜなにナデシコではないが説明しなければなるまい。超加速とは、一部の韋駄天、竜神といった限られた神族しか使えない強力な能力で、正確な速さは解らないが、おそらく亜光速に近いスピードで行動できるようになる能力だ。この能力の優れた点は、脳の情報処理能力まで早くなることで、超加速の使用者は「自分のスピードが超速くなる」というより、「自分以外のスピードが超遅くなる」といった感覚になる。もし脳の情報処理能力が通常通りなら、超加速を使った途端に壁等に激突死するだろう。


 横島は勝率三割の賭けに勝ち、残り0,2秒の段階で、超加速に突入した。





「・・・成功・・・か?」


 周りの風景が停止している。否、停止しているように見える。テツジンの胸部のグラビティブラスト発射口には、黒い光が非常に遅い動きで明滅している。北斗らの顔は驚愕に固まっている。自分たちが狙われていると気づいたのか。


「成功したんなら!」


 横島は走った。これほどまでに本気で走ったことがあるだろうかというまでの本気で。文珠の残量なし、サイキックソーサーと霊波刀は出せるかどうか微妙。出せてもディストーションフィールドを貫けるかどうかも解らない。でも走る。ひた走る。テツジンは遠い。発射されるまでに十分間に合うとは思うが、頭で感じる速さは通常通りなので非常にもどかしい。


 走る走る走る。1%でも可能性がある限り走る。考え付く他のアイディアはどう考えても成功率0%なので走る。だから、その1%を実現させるために、走りながら右手に力を込める。サイキックソーサー、栄光の手、文珠、なんでもいい。とにかく右手になけなしの霊力を込める!


(力・・・力だ!!神様仏様小竜姫様―――!!(小竜姫様以外信じてないけど)今だけ、今だけ俺に力を!!

 モモが北斗が枝織ちゃんが舞歌さんが万葉ちゃんが千沙さんが零夜ちゃんが京子ちゃんが三姫ちゃんが飛厘さんが!!

 さっき誰も死なせないって誓ったばっかりなんだぞ!?)


 全員女性なのは突っ込んではいけないところだろう。


 もうテツジンまで十メートル。


 だが、


(・・・・・・!?やばい!超加速が・・・切れる!?)


 超加速は強力すぎる能力ゆえ、消費する力もまた膨大。この感じだと、文珠三個分でもテツジンに一回だけ攻撃を加えるだけの時間しかない(横島が本調子ではないからかもしれない)。


 そのとき、横島は本物の恐怖に慄いた。死ぬ。死ぬ?また?だれが?モモはまだ自由になったばっかりだぞ?枝織ちゃんだって。北斗にゃまだ謝ってないし、舞歌さんの質問にはまだ答えてないし、優華部隊には許婚がいる子だって・・・!





(・・・みんな死んだら・・・俺はどうなるんだろう・・・?)





 足が挫けそうになる。やばい。


 その刹那、










 ざわり










 横島の中で、何かがざわめいた。何かが目覚めるように。


 横島の右握り拳の中が光り輝く。


(これは――――?

 いや、なんでもいい!これを奴にぶつける!!)


 俺の全ての力を、奴にぶつける――――――――――!!!


 右手の中の輝きがさらに増す。



「うおおぁああああああああ!!」



 横島が跳躍する。右手の力を、テツジンの中心にぶつけるために。





 自分がテツジンの胸部までジャンプする脚力など備えていないことに気付かずに。





 そして、超加速が終了した。





 ――――――――――





 北斗は思った。これは夢か。


 撃たれる、と思った瞬間、突如現れた忠夫が右拳をテツジンに向かって突き出していた。


 その瞬間、


 テツジンの胸部が、大きなクレーターができたように陥没していた。


 この光景は、北斗の脳裏に深く刻み込まれた・・・。


(これは夢か・・・?それとも悪夢か・・・?)





 ――――――――――





 北辰は笑みさえ浮かべていた。


 胴体のほとんどが潰れていることなど歯牙にもかけぬように。


「ゲブッ・・・見・・・事だ・・・」


(見事だ・・・横島忠夫・・・)





 ―――――――――――





 横島は目の前の光景が信じられなかった。


 なんで、ここまで壊れてんの・・・?


 力尽き、床に仰向けのまま呆然としていた。


 そのとき、横島の右手から一個の文珠が転がり落ちる。


「う・・・嘘だろ!?これって・・・あの・・・ときの・・・?」


 そこには、


『粉・砕』


 一個の文珠に、文字が二つ入っている。


 そして、その文珠は役目を終えたかのように消え去った・・・。





 ――――――――――





 だが、それで終わらなかった。


『グオオオオオオオオオオン・・・!!』


 煙のような、エネルギーの塊のような、そんなものがテツジンの残骸から出現する。顔はあるようだが、手足といったものは見当たらない。


「マジかよ・・・!?」


「よ、横島さん!?あれのこと知ってるんですか!?」


 横島は少し黙り込み、


「悪霊・・・悪霊だよあれ!!北辰の奴、死んで悪霊になりやがった!!しかも、相当ヤバイやつに・・・!!」


「「「「「「「「「「「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」」」」」」」」」」


 一瞬の静寂、


「忠夫、悪霊って?」


「危ないから近寄っちゃ駄目だぞ、モモ」


「そんなこといってる場合!?」


 横島だって内心大いに焦っている。


(プロスさんはこの世界はめったに悪霊は生まれることは無いっていってたけど・・・)


 可能性はゼロではない。


(よりにもよってこの最悪の状況で!・・・・・・悪霊退治の特殊部隊もこないし・・・!!)


 元・北辰の悪霊に明確な思考は無いようだ。それだけに、あの悪霊はこちらに狙いを定めている。最初の被害者は、すぐそばで無防備の横島だろう。


「くっ!!」


 どこから出したのか、万葉が日本刀を投げつける。が、すり抜ける。


「そんなんじゃ駄目だ!霊気か、それに類する能力じゃないと・・・!」


「う・・・!」


 万葉、そしてその他の隊員も、ここに来て何の役にも立っていないという無力感に苛まれていた。相手が木連最悪の男だとか悪霊だからしょうがない、というのは彼女らにとって何の慰めにもならなかった。


(くそっ!さっきの俺の中の変な感じもなくなってる・・・!)


 そして、そこに立ち上がる人物が一人。


「親父・・・死んだのならおとなしく死んでおけ。そんな無様な姿を晒さずにな!」


 ドンッ!!


 なんと、北斗は逆立ちをしつつ体を丸め、腕の力だけで悪霊のところまで跳ねた!


「破!!」


 ボン!


 北斗の繰り出した拳は、悪霊の真中にバスケットボール大の穴を開けた。効いている。


(!?今北斗の体、赤く光らなかったか!?)


 今はもう見えない。錯覚か。


 そして、北斗の底力もそこまでだった。


「がっ・・・!」


 悪霊の発する霊気が北斗を弾き飛ばす。致命傷ではないが、北斗も横島と同じく、もう動けない。


(だ、駄目か・・・!?)


 横島は、さすがに覚悟を決めかけた。その時だった。





「そこまでだ!!」





 格納庫に響き渡る、よく通る声。


「我が名はワルキューレ!!冥界軍特殊部隊少佐である!悪霊の気配を感知したため参上した!!」


 キツめの顔立ちに長い耳、ベレー帽を被り、背中には見事な漆黒の翼。その体型は女性のものだ。


「ふん・・・なかなか強力な霊のようだな。まぁ、弱かろうが強かろうが一瞬だがな」


 言いつつ謎の石を取り出す。


「吸引!!」


 元・北辰の悪霊はあっさりと石に吸い込まれていった・・・。破魔札の強力版だろうか。


「さて・・・」


 ワルキューレは自分を呆然と眺めている人間たちに目を向ける。


「これより貴様ら民間人の記憶を消させてもらう。なに、心配するな。一連のやり取りを忘れるだけで―――――」


 それ以降のセリフを、横島のセリフが遮る。





「ワ、ワルキューレ・・・か・・・?」





「何?」


 怪訝な顔で声のしたほうに目を向ける。その瞬間、ワルキューレは驚愕した。


「な・・・・・・?お前、横島なのか・・・・・・!?」


「やっぱりワルキューレか・・・」


「なぜ、なぜ横島がここに・・・はっ」


 そこで自分の立場を思い出したようだ。


「・・・・・・っ」


 シュン!


 ワルキューレは一瞬躊躇いの表情を見せたが、現れたときと同様、唐突に消え去った。

 ・・・どうでもいいいが、格納庫にいる人物の記憶を消すことを忘れるぐらい動揺しているらしい。


「おい!待てよワルキューレ!!」


 横島の言葉は既に届かない。


「・・・・・・えーと・・・・・・」


 他の面々は、突然やってきて突然去っていったピンチにぜんぜんついていけない。


「あの・・・横島君、さっきの人外っぽい人は・・・?知り合いっぽかったけど・・・」


「え、ああ、あいつは・・・」


 そのとき、またも非常事態だと主張するかのように、警報が鳴り響いた。


「・・・また何か有るの・・・?」


 モモが呟く。


『第一級警戒態勢!!地球人の侵入者あり!地球人の侵入者あり!卑劣なる地球人は、格納庫にて、優華部隊を人質に立てこもっている模様!繰り返す!地球人の侵入者あり!・・・」


「・・・・・・これって、俺のことかな・・・・・・?」


 二転三転する事態に、横島は大きく混乱しているようだ。


(・・・・・・これはマズイわね・・・・・・・)


 舞歌は考える。何が原因でばれたのかは知らないが(十中八九北辰関係だろうが)、このままでは問答無用で横島は殺されるだろう。何かこの状況を打破する方法は・・・・・・。


「・・・・・・」


 舞歌は、ボロボロのエステバリスを見上げた。





 ――――――――――





『舞歌さん!いったい何をしようっていうんスか!?』


 優華部隊に命じ、まだまともに動けない横島とモモをエステのアサルトピットに押しんだことに対するセリフである。


「横島君、モモ、よく聞いて。これからあなた達を地球に帰します!」


『ちょ、ちょっと、何でいきなりそんなこと・・・!』


「説明してくれなきゃ解らないなんてとぼけたことは言わないでね!」


『う・・・』


 なお、この会話は全て通信で行われている。


「横島君はそのまま待ってなさい!

 モモも良い?」


『うん』


「舞歌様!取り付け完了です!」


 飛厘の報告だ。


『いったい何を・・・』


 横島君が問いただそうとしたところを舞歌が遮る。


「今からまとめて説明します!

 今から横島君たちをカタパルトで木連外に射出、あらかじめ開いておいた時元跳躍門に飛び込ませます。その時元跳躍門が地球に最寄のものよ。跳躍用の簡易時空歪曲場発生装置はさっき着け終わったわ。簡易版だから短時間しか持たないけど、跳躍門をくぐる分には問題ないわ。その機動兵器はまともに動けないけど、コクピット(アサルトピット)あたりは全然しっかりしてるから機密性には問題ないはずよ。

 何か質問は?」


「あの・・・舞歌様?」


 千沙がおずおずと何か言おうとするが、


「千沙、後にして。

 質問が無いようなら今すぐ射出するけど、用意はいい?」


『質問じゃないんスけど・・・』


「何?」


「舞歌様・・・」


「千沙!後にしてったら」


『さっきの質問の答えっスけど、あ、さっきってのは仲間云々のことで、

 その・・・ナデシコの皆の事は今でも仲間だと思ってますし、それ以前に俺には帰るところがあるんスけど、おれ、舞歌さんや優華部隊の皆の事も、ずっと前から、・・・・・・仲間だと思ってました!!』


 舞歌はその言葉にしばらくぽかんとしていたが、


「・・・そう・・・じゃあまた逢いましょう!横島君!モモ!」


 少女のような満面の笑顔で、別れの言葉を口にした。


『はい!また逢いましょう!舞歌さん!みんな!』


『・・・またね』


 横島とモモも別れの言葉を口にする。


「舞歌様!」


「後にしてって言ってるでしょ!?

 じゃあ、みんな、おねがいね!」


 その言葉に、各自配置についていた優華部隊が一斉に頷く。・・・ちなみに、密かに目頭を熱くしていたのは一人や二人ではなかったりする。


「カタパルト、準備良し!」


「次元跳躍門、開きました!」


「宇宙服の着用、全員終了。エアロック開きます!」


「準備、完了!」


「舞歌様!!」


 千沙がまたも舞歌に呼びかけるが、今度は聞こえないフリをする。


「たー君、モモちゃん、今度は枝織から逢いに行くから!今度は枝織が、たー君を助けるからね!絶対だよ!」


 いつの間にチェンジしたのか、枝織が横島に頼もしいことを言う。


『ああ!枝織ちゃん、今度はもっと遊ぼうな!北斗も、またな!』


『・・・またね』


 二人が答える。


「枝織ちゃん、いつ北ちゃんと変わったの?」


「・・・もう俺だ」


「ほ、北ちゃん!?ということは・・・北ちゃん、枝織ちゃんに別れの挨拶をさせてあげたの?自分から!?」


 枝織を認めず、完全に無視していた今までのことを思えば、考えられないことである。


「フン・・・」


「舞歌様〜!」


「・・・射出!!」


 舞歌の合図とともに、カタパルトが作動する。あっという間に、エステは格納庫から消えた。


「あああああ・・・・・・」


 千沙が頭を抱えてしゃがみこむ。


「もう、さっきから何なのよ?」


「・・・・・・まいかさま・・・・・・」


 千沙がくら〜い表情で顔を上げる。


「な、何よ?」


「・・・横島さんたち・・・どうやって止まるんですか・・・?」


「え?」


「あの機動兵器、気密性は有っても推進剤とかそういうのは完全に使えないんですよね!?だったら、どうやって停止するんですか!?このままだと間違いなくボロの機動兵器で大気圏突入ですよ!?地球の軍に発見されたとしても、跳躍門から出てきたものだったら間違いなく撃墜されますし、とどめは横島さん、今は力を使い果たしてるんですよね!?霊氣も当てにできませんよ!!」


 一気にまくし立てる。


「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・あ」


『まいかさあああああああああああああああんっ!!!!!』


 慟哭する横島。まだ通信は生きていたようだ。


 格納庫の人間はもはや青くなることしかできない。・・・二人を除いて。


「ふはははははは〜!!(超棒読み)さよ〜なら!キイィン○ドゥゥゥ〜!!」


 突然百華が隻眼の誰かさんの真似をし始める。


「百華!!なに縁起の悪すぎること言ってんの!?」


「え〜?でもぉ、これを言われたキン○ドゥは、こんなの絶対死ぬって!って言われそうな状況で大気圏突入したにも関わらず生きてましたよ!むしろ縁起がいいですよ」


 すごいでしょ?と言わんばかりに胸を張る。


「・・・すばらしい」


「よ、横島機、跳躍門に入ります・・・」


『ああああああああああ〜!!』


 そして、通信は途切れた。


 相変わらず全員呆けたままだが、


「舞歌、何を呆けている。あいつがこのくらいで死ぬわけ無いだろう?どうせこのまま残っていても殺されたんだ。お前は突入してくる奴等にどう対応するか考えておけ」


 北斗はこともなげに言い放つ。


 北斗は閉じゆくチューリップの方を見て思う。それは今も鮮明に思い出す、横島がテツジンを叩き壊すシーン。思い出すたび体が震える。それは武者震いか。はたまた喜びからか。


(忠夫・・・お前を倒すのはこの俺だ。それまで・・・死ぬなよ)


 北斗は感じていた。北辰の霊を殴ったときに何かを掴んだことを。それが昂氣と呼ばれるものとはまだ気付いてないが、それを極めれば、霊氣にも対抗できるのではないか、そう思っていた。


 そして、突入してくる木連兵。


(やっとか。遅すぎるぞ・・・)


 北斗は痛む足を見下ろし、かすかにため息をついた。





 ――――――――――





 その頃、横島とモモ。


「ああああああああ〜!!死ぬ!死んでしまう〜!!」


「・・・そんなにまずいの?」


「このままやと燃え尽きるか撃墜されるっちゅーねん!」


 頭を抱えてのた打ち回る横島。もう地球は目の前。


「あああ〜っ!!文珠!!出ろ文珠!出ろ出ろ出ろおお!!

 ・・・出ねええええ!!」


 スタミナも霊力も空。悪運までも空になってしまったのか。


「・・・ねえ、忠夫。忠夫って、煩悩が霊力の源なんだよね?」


「そうだけど!?」





「わたし・・・脱ごうか?」





「・・・・・・・・・・・・え?」


 モモの発言に完全に固まる横島。


「・・・・・・・・・」


 一瞬モモの裸を想像しかけ・・・


「うあああ!!駄目だ!それは駄目だ!いくら死にそうでもそれだけは駄目だ!相手の年齢は一桁だぞ!?俺はこんな子供にどきどきなんかしていないッ!!

 モモ!そんなこと言っちゃ駄目だろ!?特に知らない人の前では・・・」


 さっきとは違う理由で頭を抱えてのた打ち回っていた横島は、モモに注意しようとして振り向いた。


「え?」


 既に上半身は裸だった。手には上着を持っている。


「!!!!!」


 横島は、一瞬だが確かに見入ってしまっていた。だがそれは、横島の名誉のためにも言うが、決してやましい心からではない。モモは、極端に人とは違った価値観を持つ人以外は、10人中10人が「可愛い」「綺麗」「妖精みたい」などと言うだろう。もちろん、頭に「とっても」という枕詞が付く。さらに、上半身だけとは言え、その裸の姿は、一種神秘的とさえ言えるほどの美しさを感じる人も少なくないだろう。横島もその一人だった。だが、


「ちがうっ!!ちがうんだーーーー!!俺は欲情なんかしてないっ!!してないったらしていないーーーーー!!」


 がんがんとコンソールや壁に頭を打ち付ける。顔が血まみれだが気にしていない。自身の矜持が保たれるかどうかの瀬戸際なのだ。


 ・・・と思っていたら、突然機体ががくんと揺れた。


「あ!」


 横島の方に倒れてきたモモを、とっさに受け止める。モモの素肌の感触を感じる。


(・・・あったかくて、やわらか・・・)


「!!ちがう!ちがうんだーーー!!」


 またも苦悶し始める。


「忠夫!そんなことしてる場合じゃないよ!大気圏に突入し始めてる!」


「!ヤバイ!!」


 横島は、そこらのボタンやレバーを操作したり文珠を出そうとしたが、九ヶ月間放っておいた機体はうんともすんとも言わず、文珠は現れる気配さえ見せない。モモも座席の後ろあたりをごそごそやっているが、今のところ成果は無い。


「あああああ!!ほんとに死ぬーーーーー!!」





 ――――――――――





 地球の佐世保。


 サイゾウは、醤油の買出しに行こうと店の外に出た。


 そして、ふと空を見上げると、


「お!流れ星か・・・」


 流れ星はすぐに見えなくなる。


「そういやぁ、横島とアキノは元気でやってっかな・・・」


 サイゾウは、あの賑やかな二人のことを思い出し、ふと頬を緩めた。


 そして、買出しに行くことを思い出し、自転車に跨った。










続く。










 イネス先生の、なぜなにナデシコ出張版

 はい、良い子の皆さんお久しぶり。それにしても、今回は長かったわね。


Q1・横島と木連式柔

 意外にもまじめに習ったようだけど、その強さは町のチンピラに勝てるって位のものでしかないわ。技は何個か覚えたみたいだけど・・・


Q2・西条って誰?

 フルネーム・西条輝彦(さいじょうてるひこ)。なんと、あの美神令子の初恋の君でいて美神の母親の弟子。ロン毛でハンサムで気前が良く、霊能力者としての腕前も確かで、オカルトGメン(ゴーストスイーパーの公務員バージョン)の職に就いているの。言うまでも無く横島君の天敵よ。美神は昔、この人のことを「お兄ちゃん」と呼んでとても慕っていたわ。美神が男に惚れた事がある有るという事実より、かつて妹キャラであったことに驚いたわね。私は。


Q3・無縫と連天砲

 公式設定じゃないから真に受けちゃ駄目よ。


Q4・文珠・『模』

 本編で使った通り、特定の人物に変身する効果よ。変身した人物の身体能力、技はもちろん、考え方さえ自分のものにできる能力よ。でも、変身した相手が怪我したりするとそれは全部横島君にも反映するから、相対する敵に変身しても意味は無いわ。原作では服装だけしか変わらないんだけど、このSSでは姿形さえ変わるみたいね。さすがに反則すぎる能力ゆえ、このSSでは、「変身する対象が半径10メートル以内にいなければならない」という制限をつけたわ。


Q5・鋼糸

 このときの北斗が使えたのか、という突っ込みは却下するわ。


Q6・二つの文字が入る文珠

 このSSでは、便宜上、「双文珠」と呼ぶわ。
 形状は、陰陽道における陰と陽を表した太極図、つまり、白と黒のオタマジャクシが合わさってできた円の形をした球体よ。双文珠の特徴は、白と黒の部分にそれぞれ一個ずつ文字が入り、使ってもなくならないこと(この話ではすぐに消えたけど・・・)。言うまでも無くとてつもない文珠ね。一時的とは言え出現した理由はまだ不明。


Q7・ワルキューレって大尉じゃなかったっけ?

 たぶん出世したのね。


Q8・隻眼の誰かさんって?

 ぶっちゃけ、ザビーネ・シャルね。


Q9・北辰の部下

 烈風。劇場版で月臣君にぶっ飛ばされた人。

 潰風。14話で、機動兵器に横島君と同乗した人。

 旋風。詳細不明。

 闇風。詳細不明。

 乱風。詳細不明。女性。

 天風。北辰に絶対の忠誠を誓っていて、普段は穏やかだけど任務中は全ての感情を消し去ることができる女性よ。その変わり様から、「黒白(こくはく)の天風」と呼ばれているわ。・・・で、この元ネタが解る人は相当凄いと思うわ・・・。

 あ、それとこの人たちは烈風以外はオリジナルで、以降の物語で出てくるかどうかまったく不明。って言うか出てこない?少なくとも予定には無いわ。








あとがき。

 あ〜・・・すいません。ずいぶんと遅れてしまいました。ではその言い訳をさせてもらいます。

言い訳1・実習中だった。
 夏休みに入った瞬間実習で、SSを書くひまがほとんどなかったんです。っていうか、夏休みのほうが急がしいってのはどうよ?

言い訳2・ネットに繋げなくなった。
 原因は不明ですが、ネットやメールといったものが一切使用不可となっていました。これが一番の理由。

言い訳3・修理に出していてSS自体書けなかった。
 文字通り。ハードディスクにも異常があったようです。

言い訳4・7月中旬はスランプだった。
 言い訳の余地なし。


 ・・・とまぁこんな感じです。これからも何かと忙しいと思いますので、投稿のペースが落ちるかも・・・なんとかペースは維持したいと思ってますが・・・itodaさん、榊さん、rotoさん、メールの返信が遅れ、真に申し訳ありませんでした。


 では作品の解説。

 今回、サブタイトルは「中年の見た流星」にしようと思いましたが断念(笑)。

 いやー長いですねー。前後編に分けた理由は、前半だけだと盛り上がらないかな?と勝手に思ったせいです。

 いろいろ有りました。横島が落ち込んだり、北辰と激闘を繰り広げたり、悪霊が登場したり、GSキャラがついに登場したり、火星を脱出したり・・・。特に北辰戦には気合込めました。これより先、これより規模の大きい戦いは有っても、これ以上の戦いはかけそうに有りません。これが今の私の限界って奴かもしれません。


 実は、火星編は2話で終わらせるつもりだったんですが・・・あれやこれやで5話にまで伸びました(実質6話)。


 次回、やっとナデシコ登場!!

 

 

 

代理人の感想

「タダオ・・・・君はどこに落ちたい?」

 

と、お約束を果たしたところでボツタイトルに突っ込んでおきますと、

その場合サイゾウさんがリリーナ口調でしゃべらにゃなりませんがそれでよろしいんでしょうか?(爆死)

「わたしは、わたしはゆきたにさいぞう。あなたは・・・?」とかくたびれたオッサンが・・・(ぐえ)

 

それはさておき、今回はとにかく純粋に面白かったですね〜。

(別に他の回が面白くないわけではありませんが、やはり出色の出来です)

二転三転、しかも何度も意表をつく展開、北斗の喝や枝織の告白シーンも。

いや、楽しくありました。

 

>六人衆

劇場版を見てると、トカゲ男こと北辰の部下だけあってどいつもこいつも中々素敵なご面相なのですが、

あれであの中に女性がいたと思うと・・・・・怖すぎる(爆笑)。