ヒマだ。

 ヒマだ。ヒマだ。とてつもなくヒマだ。

 2、3日ヒマならまだ我慢できる。だがこの一ヶ月ほど毎日ヒマだ。

 どれくらいヒマかと言うと、72時間耐久スパロボ全滅プレイ(トイレ以外に立ち上がること禁止、食事はカロリーメイト)を何の疑問も無く行う奴くらいヒマだ。

 ・・・・・・ところでスパロボって何だ?

 それはさておき、体を鍛えると言う手もあるが最近ではそれにも身が入らない。

 奴と知り合う前なら別にこんなにイライラしなかったんだが。奴は俺に火をつけた。だからこんなにも・・・・・・・・・沸き立つ!!

 

 こんなにも!!!

 

 ・・・恋じゃないぞ?枝織の奴はどうか知らんが。

 まあそんなわけで、奴にこの責任を取らせてやりたいのだが・・・

 奴・・・そう、横島忠夫に!!

 

 

「ほっくとく〜ん? だからって私の部屋に暇つぶしに来るの、やめて欲しいんだけどな〜? 仕事中なんだし〜」

 舞歌は顔も上げずにのたまった。舞歌が向かう机には書類が山と詰まれている。

「フン・・・瑣末事だ」

「あんたが言うな。でも、そんなにヒマならこの書類片付けるの手伝ってくれない?

「断る。面倒くさい」

「北斗・・・ヒマじゃなかったの?」

 舞歌は別に期待してなかったのか、それ以上催促してこない。・・・フン。ヒマでも面倒なことはしないのが人間だろう。第一、俺に書類の内容など解るわけ無い。

「・・・ここでなら俺のことを殿付けて呼ばんだろう」

「まぁ人前じゃあねー。あんたの親、表の地位も高かったから」

「フン。俺が奴の子だと知っている奴が何人いる。・・・ま、いい加減呼ばれなれた感はあるが」

「知ってる人はよーく知ってるわよ?・・・ま、私も呼びなれちゃったし」

「・・・・・・・・・」

「・・・・・・・・・」

 そして暫くお互い無言だった。舞歌のサインと判子の音だけが部屋に響く。

「ところで舞歌。一つ頼みがある」

「・・・? 珍しいわね」

「一週間後、白鳥と月臣が地球に向かうだろう。有人機では初めてのな」

 ピタリ。舞歌の手が止まる。らしくないな。腹芸は十八番のはずだが?

「そんなこと・・・どこで聞いたの?」

 舞歌の目が、俺には知られたくなかったと語っているな。

「どこでもいい。・・・俺が言いたいこと、解るだろう?」

「・・・・・・」

 舞歌が顔面を手で抑え、うぐーだのあぅーだのそんなこと言った人嫌いですなどと、微妙にやばい唸り方だ。万葉なら「ぽんぽこたぬきさん」だな。・・・おや? 猫好き眠り姫イチゴジャム派の台詞は無いのか? 何のことかはまったく解らんが。向こうは俺が絶対に引く事は無いという事が解っているのだろう。

「・・・こうなることを考慮に入れといて良かったわ・・・」

「ほう・・・話が解るな」

「この努力・・・無駄になって欲しかった・・・」

 舞歌がさめざめと涙を流している。どうせ偽物だろう。

「・・・白鳥君達が地球に向かう前、一日だけ、月になら行けるようにしてあげる・・・

 言っとくけどゴネないでね!? これだけでも限界なんだから!」

「月・・・か」

 地球に落ちたとはいえ、月にもいる可能性もゼロではない・・・。正直地球のほうが良かったが、さすがに贅沢はいえないだろう。

 

 

 まあいい。奴とまみえる可能性は低いだろうが、月の駐留軍を見ておくのも悪くないか・・・。

 

 

 

GS横島 ナデシコ大作戦!!

 

第十九話「月面の向日葵」

 

 

 

「生体ボソンジャンプ、失敗」

 もう何度目になるかも解らない失敗。目の前では、失敗の証と言わんばかりにエステバリスが歪み、捩れ、圧壊している。

 パイロットの悲痛な悲鳴が響き渡るが、観察していた科学者たちは、「やはりだめか」という意味の溜息をつくだけだった。

「・・・生体ボソンジャンプはいずれも失敗、ですな」

「ナデシコが月軌道に現れるまで約半年。火星に現れていたクロッカスは数年野ざらしであったような風化具合。ボソンジャンプはテレポートとは異なるものなのかも知れませんね」

「どちらにせよだ。CCがボソンジャンプのキーであると言う仮説は、仮説に過ぎなかったと言うわけか・・・」

 科学者たちは、目の前の惨劇などなんとも思わないようで、口々に感想を言っている。台詞を見れば、今の実験については否定的な意見が大半を占めているようである。

 だが、それに反論する女性がいた。

「そうでしょうか? 私がナデシコで集めたデータによれば、生体ボソンジャンプの可能性はまだあります」

「しかしねえ・・・」

 渋る口調を遮るように、女性は続ける。

「ネルガルに損はさせません。チャンスを・・・頂けますか?」

 

 

 女性の名は、エリナ・キンジョウ・ウォンといった・・・・・・。

 

 

 ――――――――――

 

 

 

 そんなシリアスな展開など百万光年ほど離れているナデシコ。

「ゆーげっとぅばーにん〜きみらし〜くほこらしく〜むかあって〜よ〜ひひひへっへっへっ〜・・・うへへへあはは〜〜〜っと」

「「はぁ〜・・・・・・・・・」」

 ここは食堂。ウリバタケは怪しげに笑いながら。横島とジュンは溜息をつきながら飾り付けをしている。横島は単に面倒臭いだけである。飾り付けたもみの木は序の口。何も知らない人をこの場所に連れてきても、ここが軍艦であると看破できる奴はいないだろう。居たら凄い。

「うはははは・・・ラブアタックゲームぅ・・・! ねるとんマシーンも・・・! ぐは、ぐはははは〜!」

「・・・・・・・・・・・・」

 ジュンは俯き、肩が震えてきた。

「ッ!! ゆうげっとばーにん!!」

「「うおっ!!」」

 あ、ジュンがヤケになった。

 

 

 それはともかく、浮ついてるのはウリバタケだけではない。艦内全体が、普段よりも楽しげな雰囲気だ。

 何故こんなことをしているかと言うと・・・・・・。

「めーりっくりすます今夜はおまつーりよ〜」

 ユリカがくるくる回りつつ、ぺたぺたポスターを貼っている。以外にもなかなかの美声だ。ユリカの歌の通り、クリスマスパーティーのポスターだ。つまりはクリスマスの飾り付けをしている、ということらしい。

 理由がわかっても納得し難いこと甚だしい。

「なっくっしったっ恋など忘れよう〜」

 ステップを踏みつつまた一枚貼り付ける。

「わったっしっだっけーのー神様が、みつかっるかーもーしっれないね!」

 最後にもう一回転。ポスターを貼り付ける。

「艦長ー。そのポスター、半分以上がちゃんと貼れてないんスけどー」

「はう!?」

「・・・バカ」

 

 

 だが、年に一度のお祭りは、すぐに終わりを告げることになる。

「あー、この度、戦艦ナデシコは地球連合に属することと相成った。今後とも、変わらぬ活躍を期待する」

 言葉遣いはともかく態度は目に見えて横柄な軍人がそうのたまった。

「ま、ホントは全員クビになるとこだったんだけどね〜」

 クルーにとって青天の霹靂の如き言葉は、ざわめきとともに浸透する。クルーの大半は、渋い不満顔だ。

「先に言っとくけど、これはもう決定事項よ! ネルガルにも話はついてるわ。ま、これだけの戦力を遊ばせておくのは問題だものね〜」

「遊ばせとくってのはどういうこった! これまでだって軍の要請で戦ってきたじゃねえか!」

 ガイがムネタケに猛然と噛み付く。

「この前のメインコンピューターの暴走。あれが大きな理由の一つね」

「そういうことだ。それとは別に、一ヶ月前と二週間前、月で大規模な爆発が起きた。敵の新兵器かも知れん。我々には時間が無いのだ」

 軍人も頷き、ルリとモモは複雑そうな顔になる。

 全員の視線がプロスに集中する。だがそんな視線などどこ吹く風。

「いやはや、申し訳ございません。ですが、やることはほとんど変わりませんよ。ただ少々軍の命令に左右されることになりますが、こちらにもある程度裁量が認められています。保証等もこれまでと同様です」

 プロスの言葉にざわめきが少し小さくなる。だが、全員複雑そうなのは、建前だとはいえ軍に縛られない戦艦であるという事実が崩れたからだろうか。

「それと、不服という方は艦を降りていただいて結構です。暫くは監視も付きますが・・・」

「そういうことだ。では地球の平和のために奮闘してくれたまえ」

 軍人は最後まで偉そうな態度を崩さず、ブリッジから出て行った。

 横島は、

(軍属かー。・・・やることが今までと同じなら別にどっちでもいいけど・・・)

 別に絶対に嫌という訳ではなかった。だが、

(でもなー・・・明乃ちゃんは軍人嫌いだしなー・・・)

 ちらりと明乃の方を見る。俯いて考え込んでいる。

「私は・・・」

 やっと口を開いたが、

「ああ、アンタはいいの。もともと機体が余ってたからパイロットやってたみたいだけど、エステバリスはトーシロのパンピーには過ぎた代物だしね」

「提督!それは言いすぎです! アキノはしっかりやってくれてます!」

「しっかりやったって結果を出さなきゃ意味ないでしょうが。最近、いまいちぱっとしてないしねぇ。あ、その小娘の後釜は今日付けで配属されるから。士官学校出のちゃんとしたパイロットよ」

 むか。横島はかなり腹がたった。なんだそりゃ。ちゃんとしたパイロット? んじゃ何か? 明乃ちゃんはちゃんとしてないって事か? まあそのつもりで言ってんだろうけど・・・!

「おい、あんた・・・」

「解りましたよ・・・! 降りますよ!」

「明乃ちゃん!?」

 明乃はブリッジから走り去った。横島も追いかけようとしたが、廊下には既に姿は見えなかった。

「案外あっさり納得したわね。ま、ごねた所でクビはクビだけど」

 その言葉にかっとなりムネタケを睨みつけるが、

「何よその目は。言っとくけど、クビにしたのはあの小娘のためでもあるのよ?」

「何を・・・!」

「アキノのため? 提督、そんないい加減なこと!」

 横島とユリカは反論しようとするが、

「よく考えても見なさい。コックとパイロットの二足のわらじ。敵も強くなってるんだし、あの小娘、このままだと死ぬわよ」

「う・・・」

「むむ・・・」

「・・・・・・」

 リョーコとヒカルとイズミは、他のパイロットに比べ経験があり、長く戦場を見てきた所為もあって、ムネタケの言葉が嘘ではないことがわかってしまう。

「それに、パイロットでもないトーシロを戦わせるなんて、本人の意思を別にしても外聞が悪いし・・・さらに、アンタ達はそんな奴を戦わせることをなんとも思わないの?」

 そう言われれば黙るしかない。ムネタケの本心はどうあれ、正論であるからだ。

「いくらセンスがあったってね・・・。大体、二足のわらじである時点で仕事を舐めてるとしか思えないわね」

「・・・・・・・・・・(全員)」

 この言葉は効いた。経歴こそ千差万別だが、クルーはそのほとんどがプロであり、プロ意識を持ち合わせている。プロ意識に照らし合わせると、二足のわらじは確かに感心できたものではないと言うのが正直な所だ。

 勿論、二足共キチンとした仕事であるなら文句を言う筋合いは無い。それに、最近不調である(と言うのがクルーの共通の認識)とは言え、明乃は両方頑張っていることは周知だ。だから、ムネタケへの反感が先に立つ。

 だが、だからこそ、戦艦から降りてコックに専念して欲しい、と言う感情も否めないところだった。

「でも、だからって、ナデシコを出て行くことありませんよ!」

「艦長〜。これは、決定事項!・・・・・・ってもういないわね」

 ユリカは既に明乃を追いかけに行ったようだ。

「・・・だったら、俺も用無しっスよね」

「横島クンまで!?」

「横島さん・・・・・・」

「忠夫、降りるの?」

 ミナトは驚き、ルリは寂しげに、モモは事実を確認するように横島を見た。モモは、横島が行く所、地獄の底までお供します!という心構え・・・というか、それで当然、疑問を挟む余地など無い!・・・という感じなのである。

「あ〜、アンタは残りなさい。パイロットとしては明らかに小娘より上だしね」

「―――――っ!!」

 思わず激昂しかけるが、今はとりあえず明乃を追うことを優先する。明乃との関係が今のままで終わることだけは、容認できないからだ。

「ああ、ちょっと横島さん」

「後にしてください!」

 プロスの言葉を一瞬で切り捨て、そのまま廊下に出て行った。

「・・・あー・・・」

 プロスは呼び止めたままの姿勢で固まる。

(テンカワさんと一緒に月に行って貰うつもりだったんですが・・・)

 そのまま明乃もうやむやのうちにナデシコに乗せておく腹積もりだったが、今の横島は聞く耳を持っていなかったようだ。プロスらしからぬ失敗だった。

(「あの機体」をテンカワさんに扱ってもらえばムネタケ提督を納得させることも容易だったというのに・・・と言うか、このままだと私があの方たちに叱責を受けてしまいますな・・・)

 彼らのためにも、自分のためにも、横島たちを追いかける他になさそうだった。

 そのままプロスはブリッジを後にした・・・。

 

 

 

 ざわざわざわ・・・・・・。

 他のクルーは、ブリッジに居た者もそうでない者も、知人と今後の身の振り方について話しているようだ。

「ねえメグちゃん・・・」

「ミナトさん? なんですか」

「何で提督は横島君には直接「残れ」って言ったのかしら・・・?」

「大方・・・」

 ちらりとルリとモモ、そしてミナトを見、

「単純に霊力が惜しいと思ったのか・・・横島さんが降りると、ナデシコを降りる人が増えるとでも思ったからじゃないですか?」

「ああ・・・」

 ミナトは手をぽんと叩く。

「・・・・・・・・・」

(ミナトさんもその中の一人じゃないんですか?)

「さて、と」

 ミナトが納得したのを見ると、メグミはおもむろに立ち上がった。

「メグちゃん?」

「今日新しいパイロットの人が来るんですよね? 様子を見がてら、挨拶でも・・・と思いまして」

 ああ、そういえば。クルーは顔を見合わせた。

 

 

 ―――――――――――

 

 

 

 横島が明乃を追いかけると、格納庫の入り口付近で明乃とユリカが何か話しているのを発見した。明乃は既に身支度を整え、佐世保のバイト時代に手に入れた赤い自転車とラージサイズのバッグ(その中身が明乃の荷物の全てだろう。フライパンの柄がチャックからはみ出ている)を足元に置いていた。

「ねーねーアキノー! ホントに降りるなんて言わないよね? 私からも提督に頼んでみるし」

「・・・ユリカ。出て行くのは、別に提督に言われたからってだけじゃないの。実際良い機会とも思ったし・・・。自分から言い出す前にクビにされたのは腹が立ったけど・・・」

「アキノ・・・」

「私はこのまま終わるつもりは無いわよ? でもこのままナデシコに乗ったままじゃ駄目な気がする・・・。ちょっと一人っきりで自分を見つめなおしたい・・・って思ってるのよ」

 明乃は微笑んだ。やや弱々しくはあったものの、ここ数日明乃の笑顔を見ていなかったユリカは胸を突かれた。

「でも・・・でも、アキノはそれでいいの!? 横島さんのことは・・・いいの!?」

「!?・・・ユリカ・・・? べ、べつに、そんなんじゃ・・・」

「・・・・・・解っちゃったから・・・アキノのことだからかな?」

「・・・・・・・・・」

「・・・・・・・・・」

 二人の間に沈黙が下りる。

「・・・・・・・?」

 横島には遠すぎて二人の会話は聞こえない。

(ま、いっか)

 話しこんでいたことで暫く様子を見ていたが、このままでいても埒があかないので接触を試みる。

「明乃ちゃん・・・」

「「よ、横島くん(さん)!?」」

「だわっ!!」

 明乃とユリカはもとより、これほど派手に派手に驚かれると思わなかった横島も驚く。

「よ、横島さん、もしかして・・・・・・聞いてました?」

「え・・・? あ、いや、話が一段落したっぽいから来たんスけど」

「あはは〜そ、そうですか」

 ユリカは誤魔化し笑いをしつつ、心中で安堵の溜息をついた。

「・・・横島くん」

 気を取り直したのか、明乃が横島に声をかける。「あの日」以来、仕事中以外で明乃から声をかけたのは初めてのことだった。

「・・・明乃ちゃん」

 応じる横島。

「横島くん。正直、わたしはどういう顔で横島くんと向き合えばいいか、どう接すれば良いのか未だに良くわかりません。嫌いかどうかも良く解りません。簡単な問題かも知れませんけど、私の中では未だに解決しないんです。

 だから、今回のことはいい機会だったんだと思います。私は、一人でゆっくりと、コックのこと、パイロットのことも含めて考えていきます。だから・・・・・・」

 そこで、言葉を切った。その後に続く言葉はなんであろうか。

 いまは、さようなら・・・か。

 いつかまた逢う日まで待っていてください・・・か。

 あるいは、明乃自身にも解っていないのか。

「明乃ちゃん・・・」

「・・・・・・・・・・・・」

 横島は何を言ったらいいのか言葉が見つからず、ユリカは心配げに二人を見ていた。

 

 

 そんなときだった。なにやらどやどやした声が聞こえてきた。

 横島がやってきた通路からプロスもやってくる。プロスよりさらに後方には大勢のクルーがやってくるのが見えた。それを見て、三人は新たにパイロットがやってくることを思い出した。

 それとほぼ同時に格納庫の入り口のほうからも人がやってきた。

 さらさらの長髪。整ったプロポーション。美人といって差し支えない顔立ち。パイロット用の赤い服を着ていることから、このまだ二十歳そこそこであろう女性が新入りだろうか。

 こんな雰囲気で無かったら、横島はたぶん何かしら派手なリアクションを取っていたであろうことは想像に難くない。

(・・・?)

 なぜか、横島はその女性に少しだけ引っ掛かりを覚えた。それは決して不快なものではなく、なにか・・・そう、懐かしささえ感じていた。

 女性はびしっと敬礼しつつ(そしてなぜか飾り付けがされている廊下に疑問を覚えたが、とりあえず無視しつつ)、

「イツキ・カザマです! 本日付でナデシコ所属パイロットになりました。よろしくお願いします!」

「あ、イツキちゃんだー」

「あ、ユリカ先輩! お久しぶりです!」

「えっと・・・顔見知りなの?」

「うん。(仕官)学校で後輩だったんだ」

 イツキは明乃を見て、

「あなたがテンカワさんですね。どうもお疲れ様でした。こんなことになったのは残念ですけど・・・戦争が終われば、また笑顔でお会いできると思います・・・あなたの役割は、私がきっと務め上げます!・・・とは言っても、料理は得意というわけではありませんが・・・」

「・・・はい」

 イツキはほんの少しだけ表情を翳らせ、

「・・・あなたの料理、食べてみたかったです・・・」

「・・・・・・・・・・・・」

 いい人だ。明乃はそんな印象を得た。

 そして、まだ引っ掛かっている横島。

「うーん・・・なんだろなぁ・・・?」

 その言葉に気が付いたかどうかは解らないが、何気なくイツキは横島のほうへ向いた。

「・・・・・・!」

 

 瞬間、イツキの顔が強張る。

「あ・・・・・・っ!」

 

 イツキは驚愕に声が出せず、口をパクパクさせている。いきなり様子が変になったイツキに、他の人たちはわけがわからない。

「あ、あ、あ、あ、あ、あな、あなたは・・・・・・!?」

「お、俺?」

 

 

「よこしまくーーーーーん!?」

 

 

 横島の名を絶叫し、体当たりせんばかりに抱きついた・・・・・・。

 

 

「なにぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!!?(ほぼ全員)」

 

 

「「・・・・・・・・・・・・・・・」」

 横島と明乃は、言葉を発することが出来なかった・・・。

 

 

 ――――――――――

 

 

「え?ちょ、ちょと! 確かに女の子(しかも美人でプロポーション良し)に抱きつかれるのはちょっと、いやかなり嬉しいけどっ!?」

「・・・・・・・・・・・・・(ボーゼン)」

 横島は錯乱気味、明乃は呆然、他の人たちはもう傍観者と化している。イツキのテンションは高いままだ。

「ああ・・・まさか本物の横島君に会えるなんて! よく似た別人かもしれないけど・・・。ああっ! 青春だわー!!」

「青春?」

 横島の頭の中で、何かが繋がる。

「青春・・・青春・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・もしかして、お前、愛子か!?」

「ああっ!そのフレーズでそこに思い至るなんて・・・! やっぱり本物の横島君ね!?」

 愛子?は横島の両手を掴んで上下にぶんぶん振り回す。

「いやー、久しぶりだなーおい。何でこんなとこに? なんで偽名?」

「あーちょっと違うんだけど」

 

 

 その時、横島の背中に戦慄が走った!

 

 

 ごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごご・・・・・・・・・・・・・・・!!(←空気の重みが増した音)

 

 

 横島は後ろを振り返る。すると・・・、

 

 

「あはー」

 

 

 琥珀さん笑いで、だが得も知れぬプレーシャーを放出する、天河明乃さんが・・・居た。

「・・・・・・・・・・・・・・・・・(全員)」

 人が大勢いるはずの格納庫は、水を打ったように静まり返った・・・。

「あはー。随分仲の良さそうな、ううん、親密そうなお知り合いですね? ホント、恋人同士に見えましたよ?」

「明乃ちゃん、ち、違うんやー・・・」

 横島は慄きながらも誤解を解こうとするが、

「何の話ですか?あはは〜。出て行く前に良い物見れて良かったですよ〜」

 怖い。今はその笑顔が怖い。

「あ、明乃ちゃ」

「横島さん。今までどうもありがとうございました。どうかお元気でー」

(さ・・・「さん」になってる・・・)

 当事者でもないジュンさえも、戦慄を禁じえない。

 そのままあっさり立ち去る明乃。

「あ!」

 横島はとっさに追いかけようとするが、

「付いて来ないでくださいね?」

 絶対零度の微笑を前に、横島は固まるしかなかった・・・。

 

 

「ユリカ先輩・・・もしかして私、まずいことやっちゃいました・・・?」

「あはは・・・・・・かなりね・・・・・・」

 ユリカは、乾いた笑いを浮かべるしかなかったわけで。

 

 

 ――――――――――

 

 

「ま、それはそれとして、イツキさん・・・と呼んで良いですか?」

「ええ。いいですよ」

「結局、あなたと横島君の関係って何ですか?」

 メグミが核心とも言える所を付く。

「はい。別に説明してもいいんですけど・・・」

 うーん、と苦笑いを浮かべる。

「たぶん信じていただけないと思います」

 その様子を眺めているヒカルは、ユリカに話し掛ける。

「何か性格違くないかな?」

「イツキちゃんはハイな方が地なんです。公私の区別はきっちりしてる子ですよ」

(艦長と真逆じゃねーか)

「リョーコちゃん? 何か言いました?」

「いんや別に」

 そんなやり取りはよそに、イツキ側の話も進行していた。

「いや〜信じてもらえると思うけど。俺がここにいる理由、ここにいる人は大体知ってるから」

「あ、そういえば」

 横島は事情をかくかくしかじかと説明する。

「・・・ってわけだ」

「はあ〜成る程・・・」

「で、愛子はどういう訳でここに居るんだ?」

「誤解があるようだけど、私、愛子って人じゃ無いわよ」

「え!?」

 どうでもいいが、イツキは横島が相手の時は口調が変わっているようだ。

「横島君の言う愛子は、私の曾々おばあちゃんだと思う」

「な、なんだって!?」

 横島がMMR調に驚くのも無理は無いだろう。なぜなら、

「「愛子は妖怪じゃなかったのか?」って言いたいんでしょう」

「あ、ああ・・・」

「曾々おばあちゃんは、詳しいことは解らないけど寿命が人間並みに削られて、机関係の能力もなくなっちゃったの。つまり、普通の人と何ら変わらなくなったのよ」

 イツキは愛子がそうなった詳しい経緯は知らないのだろう。

「いや、だからって・・・」

「ええ。子どもが出来るようになるかは別問題。でも、曾々おばあちゃんは結婚して子どもも出来た。その結果は変わらない」

「ふーむ・・・確かに、有史以来、神と人間が結ばれ子を成したという例は少なくないと言いますし・・・。それを考えれば、それほど変とは言えないのかも知れませんな」

 さすがにプロスも驚いたようだが、納得するのも一番早かったようだ。

「で、私のおばあちゃんはかなりのおばあちゃんっ子で、曾々おばあちゃんから、よく昔話をしてもらって、その時は必ずといっていいほど高校時代の、特に横島君の話になるのよ。もう本当に楽しそうなその様子に、曾々おじいちゃんが妬いちゃうくらいだって。

 おばあちゃん自身、何度も何度も聴いたせいで自分も同じ体験をした風に錯覚しそうになったらしいのよ」

 昔のことを思い出したのか、イツキはくすりと笑った。

「私自身、おばあちゃんから何度も話を聞いたし、写真だって何回も見たから他人だとは思えなくて。あまつさえ本物と会えるなんて! ああ、青春だわ・・・・・・」

 イツキは少女漫画のように目をきらきらさせる。他の人たちは、(いつものことながら)呆然と聞くしかなかった。

 その時、

 

 ビーッ!!ビーッ!!ビーッ!!

 

「警報!?」

「ルリ!」

「ええ。解ってます」

 ルリはすかさずオモイカネにアクセスして原因を探る。

「・・・・・・

 横須賀で謎のロボットが暴れまわっているようですが・・・」

「・・・・・・!

 出ます!!」

 イツキの目は一瞬でパイロットのものとなり、自分のエステの所に走る。

「あ、ちょっと待って!」

「待ったらそれだけ被害が広がります! 無理はしません!」

「うう・・・! 皆さん! 第一次戦闘配備!! パイロットは今すぐ出撃! ナデシコから降りるつもりの人も、この戦闘が終わるまで待ってください!!」

 ユリカの言葉に、一斉に人が散っていく。

(やれやれ、横島さんにテンカワさんを追ってもらうつもりだったんですが・・・。また機を逸しましたな・・・)

 ブリッジに走りつつ、プロスはそんなことを考えていた・・・。

 

 

 ――――――――――

 

 

 街では二体の機動兵器が暴れまわっている。機動兵器としては今までに無い大きさだ。

(ついに来ちまったかよ!)

 勿論、よこしまはその二体に見覚えがあった。テツジンとダイマジンだ。

「おいおいおいっ!! なんでゲキガンガーが街で暴れてんだよ!?」

「落ち着きやがれガイ!! まずは新入りに追いつくほうが先だ!」

 リョーコは面倒だからかヤマダと呼ぶことをやめたようだ。なんだかものすごい違和感を感じるのは気のせいだろうか。

「ゲキガンガー・・・? どれが?」

「あの二体だよー。なに? カメラの調子悪い?」

「さしずめ、ゲキガンタイプって所かしら・・・?」

(・・・・・・どこがゲキガンガーに似てんだ?)

 横島には、別にゲキガンガーに似ているようには見えないようだった。

 

 

 時間を少しだけ遡る。

「なんですかエリナさん? 協力して欲しいことって。ナデシコに居なくていいんですか」

「ん・・・。ねえテンカワさん。これに見覚えはないかしら?」

 エリナが差し出したのは、青いガラス玉のようなものだった。明乃はそれを受け取り、

「あ、これ・・・いつのまにか無くなってたペンダントに似てる・・・」

「ほ、ホントに!?」

「え? ええ・・・」

 気圧される明乃を余所に、エリナはいつに無く興奮していた。

「ね、ちょっとある実験に協力して欲しいの! 大丈夫、テンカワさんならきっと成功するわ!」

「は、はあ・・・」

 なにがなんだか解らない明乃だが、その迫力に引っ張られるしかなかった・・・。

 

 

 ボソンジャンプ研究所。

「・・・で、そういうわけで、私たちは、木星蜥蜴の行う瞬間移動・・・通称ボソンジャンプの解明を急いでるのよ」

「はあ・・・・・・」

 研究所内で長々と説明を受けていた明乃。自分が地球に来ていた理由も気になることは気になる。そして、熱い説得に、やってもいいかなーと思い始めていた。

 その時、研究所内のチューリップが、突然開き始めた・・・!

「な、あれは・・・!?」

(な、なんて間の悪い・・・!)

 そこから出現したのは、実験に失敗したエステバリス、その残骸であった。明乃は、なんだかよく解らないが、エステがぐしゃぐしゃになるほどの危険な実験をさせられると連想した。

「エリナさん・・・! あなたはこんな危険なことをさせようとしたんですか!?」

「そ、それは・・・」

「エリナさんは私をモルモットにしようとしたんですね・・・! 汚いですよ・・・ネルガルは・・・!」

 明乃は踵を返すが、エリナは開き直る。

「あ、あなたは貴重な成功例なのよ!? この研究がどれだけ重要なプロジェクトか解ってるの!? モルモット? いいじゃない! どうせハンパなんでしょう!? モルモットのほうがよっぽど役に立つわ!」

 明乃はエリナのほうに向き直り、その顔をまっすぐ見据えていった。

 

「私は、ハンパでなくなるために降りるんです。これがどれほど凄い研究かは知りませんが、そんなのどうでもいいんですよ。再び横島くんの前に立つ・・・! それだけが私にとっての最優先事項なんです!!」

 

 一気に言い切り、

「・・・・・・失礼します」

 明乃は、今度は振り返らずに、研究所を後にした。

 

 

 

 

 明乃が出て行って数分。エリナは立ち去る明乃を眺めている。

「・・・・・・ふむ。しょうがない。これではCCがジャンプのキーであるとは証明できんな。ならば別の案を・・・」

 エリナは、言葉を遮るようにがばっと顔を上げ、

「まだ! まだ失敗したわけではないわ! もう一度交渉して、それで・・・・・・!」

「大変です!」

 その場に居た全員が、声をしたほうへ向く。そこには・・・・・・

「な、な・・・・・・!!」

 誰が開いたのでもないチューリップが開き、中から機動兵器が這い出てきた、そんな、悪い夢のような場面だった・・・。

 

 

 ――――――――――

 

 

 そして再び横島らの視点。

『敵は小型ですがグラビティブラストを発射してきます』

『連合軍は、例によって全滅』

「モモ・・・きっついなー・・・」

『事実だし』

「ま、そーなんだけど」

『おい横島! なに和んでやがる!』

(つってもなあ。あれにゃ、誰か乗ってんだろうな・・・)

 横島とモモは、敵の機動兵器のことを知っていた。敵地に九ヶ月も居たのだから当然なのだが。モモは、内心はどうだかわからないが、表面上はいつもと何ら変わらない。横島は妹分のそんなポーカーフェイスがちょっとうらやましかったり。

(ま、多少の攻撃なら大丈夫だよな・・・?)

 攻撃しなければ怪しまれる。だが有人であろう機体に思い切った攻撃に踏み切れない。だから牽制する。

「てえいっ!!」

 ドガガガッと横島機のライフルが火を噴く。

 バッタのような小型機にも命中させられる腕だ。エステバリスの数倍の大きさのテツジンに放たれた弾丸は、狙い違わず頭部に命中する。だが、

『無駄だ横島! こいつのフィールド、他の奴とは段違いだ!!』

(・・・知ってる)

 横島はテツジンの性能を一応知っているし、実際に戦ったこともある。

 しかも生身。

「そこっ!」

 またもライフルで牽制しようとするが、

 シュン・・・とテツジンはボソンジャンプし、違う場所に現れる。

(跳躍か!?)

 余談だが、横島はボソンジャンプという名称はまだ知らない。

『瞬間移動かよ!?』

『こりゃ厄介、猪八戒・・・!』

 半シリアスなのか、自分のギャグに受けてない(←だからどーした)。

『くっ、そんなもの!!』

 イツキはワイヤードフィストを敵機に絡みつかせる。

『やった!・・・これで逃がさない!』

 しかし、横島は知っていた。それがとてつもなく危険なことに。

『忠夫!!』

「解ってる!!」

 フルスロットル。横島は自分の機体が偶然空戦フレームであった幸運に心の中で快哉を上げた。

「でぇりゃあああああ!!」

 間一髪、再びジャンプしたのは霊波刀がワイヤーを断ち切った直後だった。

『あれ? ちょっと! どういうつもり、横島君!?』

 さすがは本職。自失だったのは一瞬、直後に文句を言いつつライフル攻撃を仕掛ける。

「あれに巻き込まれると死ぬぞ!」

『なんでそんなこと解る・・・う・・・』

 その(珍しい)シリアス顔を見、言葉を詰まらせ、

『解ったわよ・・・』

 この場はおとなしく引き下がった。

『えー、エステ隊各機へ!    横島くんの言う通りだ! なにが起こるか解らない! 出来るだけ瞬間移動には巻き込まれないように戦うんだ!』

「アカツキ・・・?」

『勘違いするなよ横島君。安全策をとったまでだよ』

 アカツキは、にやりと笑った。

 

 

『ちいッ!! 埒があかねぇ!!』

 だんだんパターンは見切れてきたものの、ガイが携帯火器では効果が薄いと見たのか、接近攻撃を仕掛けようとする。

『待ちたまえ! いくら堅牢なフィールドといっても、いつまでもフィールドが持つ筈はない! ここはフォーメーションを組んで・・・』

『俺に考えがあるッ!』

 アカツキの台詞を遮り自身満々に豪語する。

『考え・・・?』

 新参のイツキは訝しげに呟く。他のメンバーは、どうせゲキガンフレアかなんかだろうと半眼になる。

『ヒーローの偽物を登場させるとは、敵ながら見所のある奴だ!! その点は評価するッ!! しかもゲキガンガーだけでなくウミガンガーも用意するあたり、心得ているなッ!!』

 何を心得ているというのか。

「なんだなんだ、いきなり演説かよ」

『敵に通信繋がってないんだけど・・・』

 さすがのモモも少々呆れたようだ。

『え〜?繋がらないも何も、あれ、無人でしょ?』

 横島は一瞬ひやりとするが、別に変に思われたわけではないらしい。ちょっとほっとする。

『しかーーーーーしッ!! 古来よりバッタモンが本物に勝った試しはない!! ゴーナグール然り! 仮面ライダーリュウガ然りだ!!

 くらえ! 必殺!!

 ゲキガン・フレアァァァァァァァ!!!

「『『結局それかーーーーーっ!!!』』」

 って言うか、ガイ自体本家ではないのだが。横島とリョーコとアカツキが突っ込みを入れてしまうのも無理はない。

『・・・横島君、まさか、今までもこんな調子だったんじゃ・・・・・・?』

「・・・・・・・・・」

 イツキの問いに、横島は目をそらす。

 だが効果はあった。ゲキガンフレアはテツジンのフィールドを貫通し、突き刺さる。

『どうだぁ〜〜〜!!』

 ガッツポーズを取るガイ。その所為か、敵機の様子に気付かない。

『ヤマダ君! 危ない!』

 その声に反応して避けたのは、ただの偶然だった。

 ガイの居た空間を、黒い閃光が通過する。その先には・・・高層ビル。

 そのビルの近くに横島が居たことも偶然だった。横島はとっさにサイキックソーサーを出し、ソーサーを微妙に傾けることによってグラビティブラストを空へと逸らす。正面からでは受けきれなかっただろうが、横島がとっさにそうしたのは、偶然ではなく経験と師の教えである。

 横島は後ろのビルを見た。そこには逃げ遅れた人の姿。

「・・・・・・」

 周りを見回す。そこには倒壊したビル。潰れた車。常識的に考えると、死者が出ていたとしてもおかしくは無い。

(気が付いてないわけじゃなかったけど・・・)

 気が付き難かった事もある。

(「アレ」に誰が乗ってるかは知らない・・・)

 だが、

(明乃ちゃんは、たぶんまだ近くに居る・・・・・・!!)

 気が付いた時には、サイキックソーサーを投げつけ、突貫している自分に気付いた。

 

 グラビティブラストを逸らされたのを見たからか、テツジンがロケットパンチを発射。

 

「・・・遅い」

 回避。

 今度はグラビティブラスト。

(射線がバレバレだ)

 ジンシリーズはその構造上、敵に向かって真正面を向かねばグラビティブラストを命中させられない。回避。

 ソーサーがぶつかった箇所に、霊波刀を突き出しつつ体当たりするように突撃する。フィールドを貫通、突き刺さった。

 

『ヒュウ』

   アカツキは思わず口笛を吹いた。

 

 だが、やはりその装甲の前には深くまで突き刺さらない。だから、

「・・・の・びろおっ!!」

 伸びた霊波刀は、敵機内部を破壊しつつ、背中部分から突き出てきた・・・

 

『すごい・・・あれが横島君の力・・・?まさか、一瞬で沈黙させるなんて・・・』

『驚いただろ、新入り? さ、もう一機だ!』

『は、はい!』

 そこから先は一方的だった。もともと対戦艦・施設制圧用に開発されたジンシリーズ、10メートルにも満たないエステとは、機動力が違いすぎる。あとは、囲んで一斉射撃。

『敵のフィールドが弱まってきてる・・・?』

「グラビティブラストを何発も撃ってたらエネルギーも切れるって。あっちは重力波ビームを受信してないからな。たぶんもうちょっとだ愛・・・じゃなくてイツキ!」

『ええ!!』

 さらに一斉射撃。厚い装甲だが、確実に効いている。ダイマジンは傾き、建物に寄りかかる格好となる。

 その時、ダイマジンはキュィィィィィ・・・と甲高い音を発し始めた。

『な、何なの!?』

『せっっっっつめいしましょう!!!』

 突然コミュニケで全員に説明しようとしたのは、ご存知、イネス・フレサンジュ女史。

 妙に嬉しそうなのは、なぜなにナデシコ出張版にしか出番がないからだろう。

『アレの反応から、おそらく自爆しようとしてるんでしょうね。初めから自爆用にプログラムされてたって感じかしら。

 威力はたぶん・・・・・・まっ、このカワサキシティが消し飛ぶ位かしら?』

『(説明が)久しぶりなのは解るけど、んなことを嬉しそうに言ってんじゃねー!!』

『避難っ! 避難勧告とかしないと!』

『あー、ミナトさん。今からじゃ間に合いませんよ』

 いい感じにブリッジも混乱している。冷静なのは、

『・・・忠夫、あの時みたいに爆発の方向を逸らせないかな?』

『あ、その手がありましたか』

「ぬ・・・それしかないか」

 前回、電脳空間に突入した三人はすぐに打開策を発見した。

 だが三人は失念していた。それは確実性を著しく欠く作戦だということに。

「んじゃま、さっそく・・・」

 横島は、爆発する前に自爆装置のエネルギーを上方に向かせようと文珠を出す。

 言うまでもないが、一度アサルトピットの外に蹴りだしている。

『指』『向』『性』

 文珠はエステの手の中で輝き、

 

 ぽすんっ

 

 そのまま消滅した。

「・・・・・・・・・・・・あら?」

 横島は呆然とした声を出すことしか出来ない。

『横島さん、早くしないと・・・!』

 ルリが横島を急かす。

「いや、なんか・・・・・・文珠が消えちゃったんだけど・・・・・・」

『はい!?』

『どうやら、制御に失敗して不発だったようですねー』

「あッ!?」

 メグミの言葉に横島は唐突に理解してしまった。

「そういえば、文珠を三つ同時に使った時の成功率って・・・・・・せいぜい三割程度やったーーーーーっ!!」

 そう。今まで成功が続いていたので忘れていたが、文珠は制御しようとする個数が一個増えるたび、制御が飛躍的に難しくなっていくのだ。

 だが、横島は気が付いていないが、三個使用時の成功率は約六割。横島は大きく成長しているのである。

 失敗した今、成功率がどうこう言ってもどうにもならないが。

『あああああ!! 最後の頼みの綱がーっ!?』

『ぬう・・・万事休すか・・・?』

『横島さん! 他の文珠は!?』

「ごめん・・・ストックもう無い・・・」

 ナデシコ、正真正銘のピンチだった。

 そのちょっと前。

 赤い自転車で、避難したため人気の無い街を爆走する明乃が居た。

 明乃は先ほどの研究所に着くと、少々意外そうな顔で出迎えたエリナを見て、大きく肩で息をしながら言った。

 

 

「CCを・・・貸して下さい!!」

 

 

後編に続く