注意:今回の前書きは、本編とは何の関係もありません。











































 ―――――体は煩悩で出来ている。








 俺は言葉を紡ぎだす。紡ぐことに全神経を集中。そこに一点の雑念も無い。










 血潮はドンファン 心はエロス。





 心は富士山の湧き水のように澄み切っている。自分でも信じられないほどに。






 幾本のAVを観賞して恍惚。




 ―――――自分の心に、新たな世界が、現れた―――――






 ただの一度もロリに走らず、




 新たな世界は、初めはただの点にすぎなかった。






 ただの一度も(女の子に)理解されない。




 だがそれは、静かに、だが確実に、拡大していた。






 彼の者は常に独り 己が部屋にて余韻に浸る。







 

 それは奇跡か。はたまた悪夢か。

 自分の中で膨れ上がる「世界」は、心から、溢れ出そうとしていた。










 故に生涯に意味は無く、

 その体は、きっと煩悩で出来ていた―――――








 溢れ出した俺の「世界」―――正確には、心象世界と言うべきか―――は今ここにある「現実」をも塗りつぶす。


 ―――否。現実との境目も最早曖昧。すなわち、俺の心象世界も現実と言うことなのだろう。





 俺の部屋は、もう見知らぬ荒野になっていた。


 そこに数え切れないほど立ち並ぶ物がある。一つとして同じ物は無い。





 それは―――――








「unlimited passion works―――――!!(無限の煩悩)」


「そのネタはやばすぎますッッッ!!!」



 ズガシャアッ!!



「ぐは!!?」


 明乃の「鉄の嵐(アイアン・ストーム)」によってずっしゃあああああ・・・とダウンする横島。


「ああっ!? せっかく新たな世界が垣間見れそうだったのに!!」


「やって良いことと悪いことがあると思いますけどっ!? って言うかなんで出来るんですか」


「いやあ・・・なんとなく」


 ぽりぽり頭を掻きつつ横島は答えた。


(なんとなくであんなことを・・・)


 どう考えても戦慄ものだ。


「でも、結局効果は「煩悩全開」と同じじゃないんですか?」


「う〜ん、なんていったらいいか・・・こっちは時間をかける分自爆の心配はなくなるし、それから・・・・・・あれ?」


「はい?」


 突然変な声をあげる横島に、明乃は疑問の視線を送る。


 横島は斜め上を見上げている。明乃もそちらに目をやると、





 ※サーヴァントの情報が更新されました。


 宝具


・無限の煩悩(アンリミテッドパッションワークス)

 英霊・横島忠夫の持つ固有結界。このサーヴァントの価値観において一定以上の容姿を持つ異性(今まで出会ったことのある人物に限る)全ての裸体が存在する世界、すなわち彼の心象世界を具現化する宝具。宝具とは言っても、魔術の一種である。

 この宝具の発動中、全ステータスが1ランクアップし、魔力が減少しなくなる。また、より多くの異性と出会うことにより、ステータスが2ランク以上アップすることもありえる。

 現在、天河明乃の呪い(?)により使用不可能となっている。


 ランク:A 種別:??? レンジ:??? 最大補足:???










「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」


「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」


 沈黙がこの場を支配する。


「俺の心象世界って・・・・・・」


「呪いってなんですか呪いって・・・・・・」


 二人して頭を抱える。抱えたくもなるだろう。


「忠夫、忠夫」


 自己嫌悪に陥っている横島の服のすそをくいくい引っ張るモモ。


「・・・・・・モモ・・・? ああッ! モモッ!! そんな穢れの無い目で俺を見ないで!? ってゆーか見たらあかん!! 俺の心は汚れきっとるんやーーーっ!!」


「? よくわからないけど、忠夫は汚れてないと思うよ」


 その横島への信頼に満ちた瞳。それは不純物の全く含まれないイエローダイヤのように曇りが無い(と横島は思った)。こんな瞳に見つめられると今すぐこの場を逃げ出して滝に打たれたくなってくる。

 でもモモを放り出して逃げ出すわけには行かない。


「うううううう・・・・・・で、一体なんのようなのでせうか・・・?」


 なぜか敬語。


「うん。さっきの忠夫のやつ、「無限の煩悩」って書いて「アンリミテッドパッションワークス」って読むよね。でも、なんで煩悩の英訳がパッションなの? パッションって情熱って意味じゃなかったっけ?」


「ああ、語呂がいいってのもあるけど、もともとパッションにも煩悩や情欲って意味があるんだよ(それに、宝具のルビに突っ込みを入れるのはご法度やし。まだこれは正しいほうだよな)。」





「・・・説明は私の専売特許のはずなのに・・・ただでさえ最近はゴートさんより出番が少ないのに・・・」


「ドクターはまだいいぜ。最後に絶対出番があるんだからよ! 俺なんか存在自体が怪しいんだぜ・・・」


 合掌。





「ふぅん・・・。

 それじゃぁ、「ドンファン」や「エロス」って何?」


「うーむ。それは、」





 ギロッ!!





「(びくッ!)な、なんだ!?」


「? どうしたの?」


「・・・いや、説明しようとしたら、何処からともなくとんでもない殺気が・・・」




 





「呪い・・・私が呪い・・・ただのパンピーなのに・・・」


 その言葉には大いに議論の余地があると思う。







GS横島 ナデシコ大作戦!!





第二十一話「参上・シロタマコンビ」


 







「まあ、そういうわけっス」


 ナデシコのブリッジ。横島は、当然ながら空白の9か月間の説明を求められた。だが、説明を求めるクルーの様子はそのほとんどが単なる好奇心で、不機嫌そうなのはエリナぐらいのものだった。


 そして、横島は一通り木星での事を説明する。もちろん、北斗&枝織、北辰、落ち込んでいた時期があったこと、VS北辰などは黙っている。


 話し終えた時のクルーの反応は、


「へ〜、すごいですね! そんな体験なかなか出来ませんよ」


 ユリカは素直に感心し、


「おい横島、レベルの高い女の子は居たか? ちょっと俺にだけこっそり教えてくれ。写真は有るか?」


 なんて言うのはウリバタケ。・・・フィギュアか?


「むう。それで敵の戦力はどれほどなのだ? それによっては対応も変わってこよう」


 というゴートのようなことを言った人は少数派。


 そんな雰囲気に、横島は肩透かしを食らったような表情を作っていた。いくらなんでもあっさりしすぎでは?


 しかし、


「そんなにのほほんとしてていいのかしら?」


 横島に向けて、エリナが声をかけた。


「何っスか、いきなり」


「さっきの戦闘を見た軍が、査察隊をナデシコに送り込んでくるわ」


 その言葉に、ブリッジはシン・・・と静まり返った。


 その静寂に、エリナはフフン、といった表情を浮かべ、


「テンカワ君の頑張りすぎね。エステと似た流れを組む機体とはいえ、連合はおろかネルガルでも把握していない謎の機体。最新機をもしのぐ高機動、レールガン等の高火力、そしてボソンジャンプ・・・。

 連合軍を壊滅させた機動兵器を軽くいなしただけでもとんでもないのに、これだけの機能を備えてるんじゃ、怪しまれないほうがおかしな話よ」


 確かに、軽率すぎたかもしれない。しかし、だがしかし、ヘリアンサスで出撃しなければ、死者数はさらに増えていただろう。間違っていないと思いつつも、明乃は悔しさを抑えきれない。


「査察に来るのは、地球圏でもっとも有能かつ有望な艦長・・・ちなみに中佐よ」


「もっとも有能かつ有望って、そんなの、一人しか居ないじゃないですか!」


 ジュンが気色ばむ。


「ふふ、さすがにアオイ君は知ってるみたいね。だったら、容赦が無いのでも有名なのもしってるわね? 目端も利くらしいし。

 その人が来て、謎の機体を調べると共に木星帰りの疑いを持つパイロットと出会うとどうなるかしら・・・?」


「・・・まずいよユリカ・・・。いくらなんでもあの人には玉砕覚悟も絡め手も通用しない!」


「・・・・・・」


 ジュンの言葉に、ユリカの真剣な表情にさらに真剣さが増した。


「ふふ、さすがの艦長も言葉が無いようね?」


「なんでそこまでしなくちゃ・・・あ、でも皆が木星帰りって事を黙ってれば・・・」


 ヒカルがそう発言するが、


「私たちが言うに決まってるでしょ・・・。そうよね!?」


「えっ? 僕? ・・・・・・ああいや、確かにそのとおりだよねぇ。うん」


 急に話を振られて慌てて頷くアカツキ。


 そして、ブリッジがざわざわとした話し声で満たされる。時折、横島と明乃のほうに心配げな視線が向けられる。


「横島くん。もうこうなったらじたばたしても始まりません。いざとなったら、拘束される前に神無さんのところに逃げてください。私もサポートしますから。

 でも、なるべくなら正々堂々、事情を話して解ってもらいましょう。解ってくれるかどうかは、正直分が悪い賭けですけど・・・。ですから、くれぐれも心証の悪い行動は取らないように気を付けてくださいね」


「・・・わかった」


 横島は真剣な表情で頷く。状況はきわめて悪かったが、横島はもっとナデシコのクルーで居たかったから。


「査察団、ナデシコに到着」


 ルリが報告する。場が緊張に包まれる。


「あ。だったら格納庫までお出迎えしないと!」


「私もそう思いましたが、向こうは『出迎え不要』って言ってます』


「・・・あれ?」


「どうした、モモ」


「査察団って、二人しか居ない・・・。査察を行なう艦長と、護衛が一人」


 モモの言葉に、周りの人間は顔を見合わせる。


「2人だけ? チッ、俺たちのこと舐めてやがるのか!?」


 ガイが言う。舐めるとかそういうことではないと思うが・・・。


「むむ、それだけ本気であると言う意思の現れかも知れませんよ」


 メグミの何の根拠も無い憶測が出る。


「心配したって仕方ありません! ここは一発、あたって砕けろ、です!」


「ユリカ、砕けちゃ駄目だと思うんだけど・・・」


 この2人は相変わらず。


 エリナはエリナで、


(・・・あの艦長がこいつらと同じ思考回路だったらどうしよう・・・。ううん、でも超有能だって言うし・・・。ああ、でもうちの艦長だって能力だけは一流だし・・・)


 結構ドキドキしていた。


 そして、ブリッジの扉が、開く―――――





 ――――――――――





「ずっと前から愛してましたーーーーーッ!!」


 横島は、入ってきた査察団の艦長の手を握った。光の速さで。


 だあああっ!!


 ブリッジに居る人のほとんどがずっこける(エリナ含む)。たしかに、超絶金髪美人ではあるが・・・。





「アホですかーーーーーッ!!!」



 どぐしゃあっ!!



「ぶぐはっ!?」


 明乃のペガサス彗星拳もまた、光の速さで横島の頬をぶち抜いた。壁に穴が開くほどの衝撃で激突する横島。明乃はぴくぴく痙攣する(それだけですむ横島もいつもながら凄まじいが)横島につかつかと歩み寄り、


「あ れ ほ ど 言 っ た の に、横島くんの頭は鶏ですか!!? 到着0.1秒でいきなり心象悪化ですよコラそこんとこ理解してるんですかーーーーーっ!!」


 明乃は悪鬼の表情で、横島の襟元を掴んでガクガクと前後にゆする。


「しかたなかったんやーーーっ!! あんまりにもこのねーちゃんがフェロモンバラまいとるもんやからーっ!!」


「ねーちゃん言うなーーーーーッ!!」



 どごおんっ!!



「かおりんっ!!?」


 明乃の放つ「イニシャルK」によって今度は天井に激突、落下する。


 明乃は痙攣をする肉塊の前で、はあはあと肩で息をしていた。身に纏うオーラは、さながら北斗の如し。周りのクルーは引きまくる。


 そんな状況で一番初めに声を発したのは、意外にも謎の超美人艦長だった。





「ふ〜ん・・・。ずっと前から愛してました、ねぇ・・・・・・」





「は!? はわ、いえ、これはその・・・!」


 明乃はわたわたと言い訳をしようとするが、艦長さんはそれを意に介さず肉塊(横島)の前でしゃがみ、





「そんなこと、150年前から知ってたわよ?」





「・・・・・・・・・・・・・・・え?(全員)」


「!!!!!」


 横島とプロス以外の人物が、かなり間の抜けた声を漏らした。


 横島は声さえ上げずにがばっと起き上がる。


「・・・・・・・・・(じーっ)」


「・・・・・・・・・(にこにこ)」


 そのまま同じ目線で目の前の女性を凝視する。


(金髪・・・美人・・・ポニテ・・・それにこの目・・・それに150年前って言葉・・・)


「もしかして・・・・・・・・・・・・タマモ・・・だったりして?」


「大正解♪」


「・・・マジで?」


「大マジ♪」


 横島はタマモと名乗る人を指差しつつ口をぱくぱく開閉させている。何か喋ろうとしているようだが言葉にならないらしい。




 どどどどどどどどどどどどどどど・・・・・・!!



 そこに、なにやら凄まじい地響きがブリッジクルーの耳に届いた。徐々に音は大きくなっている。ということは、ここに接近しているようだ。


 その音はブリッジの扉の前で停止し、同時に、





「くぉらタマモッ!! あれほど先に行くなと言ったでござるに、何あっさり抜け駆けしやがってるでござるか!?」


 音の正体は、これまた超美人の女性。こちらは銀髪に前髪が赤だ。


「あんたがたかがヨコシマに会うだけなのに緊張して、トイレになんか行くからでしょ」


「何を、この女狐がっ・・・・・・て」


 銀髪の人の目は、床でタマモと向き合う横島の姿を捉えた。


「(コイツがタマモって事は・・・)シロ・・・か?」


 シロ(仮)の目に、一気に涙があふれ、





「よごじばぜんぜーーーーーーーーーっ!!」





 一気に横島の首根っこに抱きつき、その顔を舐めまわす。


「ぶわっ、こら、やめろってこら、相変わらずだなお前はっ!」


「横島先生横島せんせーーーっ!! ワルキューレ殿の言ったことは、本当でござったーーー!!」


 横島の言葉が聞こえないのか、シロはおいおいとうれし泣きをする。


 ブリッジクルーの大半は、展開にまったく付いて来れない。


「・・・シロさん、相変わらず激しいんですね・・・」


「ふぇ?」


 シロが涙にぬれた顔をあげる。


「ああ、天河殿でござるか。いや、みっともない姿を見せたでござる」


 涙を拭きつつ立ち上がる。


「いえ・・・」


「ほんとにみっともないわね・・・」


「黙るでござるよ。タマモ」


 シロは横島のほうへ向き直り、


「横島先生、改めて、お久しぶりでござる。この犬塚シロ、先生との再会を一日千秋の思いで待っていたでござるよ」


「お、おう・・・しかし・・・」


「なんでござるか?」


「いや、なんつーかこう・・・大きくなったよなぁ・・・(タマモほどじゃねーけど)」


「えへへ・・・そうでござろう!?」


 たぶん横島の考える「大きい」とシロの考える「大きい」は別物だろう。


「でも、御二人が査察団としてこられたんですね。最初はちょっと興奮して気付きませんでした」


(ちょっとかよ!?)


 ブリッジクルーが心中で突っ込みを入れる。無論口には出さない。


「あーそうだったわね。そういえば査察に来たんだっけ」


「うむ。失念していたでござるな。単なる口実のつもりだったでござるから」


「でもま、せっかくだから形だけでもお仕事しようかしらね」


 タマモはびしっと敬礼し、


「私は連合宇宙軍中佐、戦艦ミョゾティス艦長、狐白タマモ。よろしく」


「同じく、連合宇宙軍大尉、犬塚シロ。よろしくお願いするでござる!」


 ナデシコクル―は、目の前の美女2人が誰もが知る超有名人であること、そしてなにより、横島の関係者であることに声すら出せない状態に陥っていた・・・。


 有名人と言っても、もちろん横島やモモは知らなかったのだが。





 ――――――――――





「ちょ、ちょっと待った待った待った!」


 横島がタマモとシロに待ったをかける。


「? なによ」


「いや、お前らって、ほら・・・あれだろ?」


「別に言いよどまなくてもいいわよ。いまはどうせ誰も信用しないんだし。

 ほら、遠慮なく質問しなさいよ」


 タマモは「カモーン」と発言を促す。


「んじゃ言うけど、お前は妖怪でシロは人狼なんだよな? じゃあいまここに存在するのは変なんじゃねーか? あ、別にお前らが居るのが嫌って訳じゃない」


 その質問にタマモとシロが答える前に、ブリッジクルーから驚きの声が帰ってきた。


「おい待てよ横島! 狐白中佐と犬塚大尉が・・・妖怪だったってのか!?」


「でもリョーコちゃん、中佐自身が「150年ぶり」って言ってるし。


「そうね・・・。あの親しさを見ると、確かにその理由のほうが納得できるわね。

 納豆、食う? ・・・・・・くふ、くふふふふふふふふふふ」


 三人娘が意見を交える。


「なあプロスさん、妖怪や亜人は異界に行くか寿命で死ぬかで、この世には存在しないんスよね?」


「ええ。そうですが」


「だったら・・・」


「簡単なことでござる。現在の拙者とタマモは、妖怪でも人間でもない。それだけでござる」


「いや、それだけって・・・」


「ヨコシマ。訊くけど、いまこの世に居る人外な存在って何?」


「そりゃあ・・・・・・ってまさか?」





「そう。私とシロは、神族になったのよ」





「・・・・・・んな」


「勿論、容易ならざることでござった。しかし、犬飼も言っていたことでござるが、「狼」とは「大神」の意。神の末裔であると言われる人狼族は、他の種族より優れた潜在能力を秘めているのでござる」


「私の正体は、知っての通り金毛白面九尾の妖弧。言わずと知れた大妖怪。その力は、妖怪よりも神魔族に近い領域に達していたの。ま、それでも私もシロもかなーり苦労したんだけど」


「・・・・・・・・・・・・」


「どう? すごいでしょ」


「あ、ああ・・・。いや・・・あのシロとタマモがねぇ・・・」


 まさかそんな抜け道があったとは。


「・・・あれ? でも、プロスさんあん時、神魔族とは年に一回対面する機会があるだけで、人とはまず接触することが無いって言ってなかったっスか?」


「ああ、接触することが“あまり”無い、とは言いましたが」


「って・・・」


 横島は口篭もる。


「まぁまぁ。年に一回対面する機会があると言うのは本当ですし、それに神魔族が潜入している数は人の人口と比べたら取るに足らない割合です。神魔族のみなさんも正体隠してますし。っていうか溶け込んでますし」


「・・・・・・・・・」


 油断の出来ない人物だとは思っていたが、っていうか、この言葉も本当かどうか。


「・・・そういえば、なんでシロとタマモは神族になったんだ? それ以前に、なんで冥界とのチャンネルが絶たれたんだ?」


 横島にとっては、これは間を持たせるための何気ない質問だった。だが、このの質問をした途端、シロとタマモは暗さとシリアスさを足して2で割ったような表情になった。


「?」


「2番目の質問には答えられないわね。なにが起こったのかもいえない。私が横島に喋ったことで、逆に悪い展開になるかもしれないし。ヨコシマはヨコシマの、自分が選んだ道を行きなさい。たぶん、あんたのことだから悪い結果にはならないでしょ」


 タマモは謎な言葉を返す。


「1番目の質問は・・・・・・そうでござるな、拙者、異界とやらに行くには、少々この世界に愛着がありすぎたからでござるよ。うん」


「ふーん」


(シロ・・・)


 タマモは一瞬、誰も気が付かないほどの一瞬、確かに痛ましげに顔を歪めた。


 横島は深く考えなかったので気付かなかった。別に人間界に留まるだけなら能力の消滅&寿命を人間並みに削る、と言う処置だけですんだのだ。苦労して神族になるメリットはあまりない。


「ねぇヨコシマ」


「なんだよ」


「あんた料理が出来るようになったんだって? だったらきつねうどんといなり寿司、作ってきてよ」


「・・・まあいいけど」


 ちょっと面倒臭い、と思ったが、久しぶりに会ったことだし、それぐらいならいっか、とすぐに思い直した。


「二人前ずつよ」


「へーへー」


「先生! 拙者もついて行くでござる!」


 シロが、尻尾をパタパタ振らんばかりに(さすがに尻尾をむやみに出すことはなくなったようだ)お願いする。


「おう。べつにいいぞ」


「やったでござる! ああ、先生との散歩も久しぶりでござる〜」


 シロは幸福感に相好を崩す。


「・・・散歩って言うほど距離無いぞ」


 そんなことを言いつつ、横島とシロはブリッジを出て行こうとし、出る直前に振り返る。


「しっかし、タマモって丸くなったよなー(体つきも)。俺の知ってる頃はツンケンしてたのにな」


「・・・・・・。

 あんたは変わんないけどね・・・」


「そりゃ、まだ一年と数ヶ月しか経ってないからなー」


「横島くんは何年たっても変わらない気もしますけど」


 明乃の言葉にブリッジの雰囲気が緩んだ。ユリカなどは遠慮なく笑っている。


「先生早く行くでござる! 拙者は肉が良いでござる! 肉っ!」


「へーへー、わかってるから」


 そんな会話を残して、二人はブリッジを出た。










「ふぅ〜」


 横島とシロが出て行って数十秒後、タマモは嘆息した。


「タマモさん?」


「・・・・・・さっき、シロは神族になった理由に、この世界に愛着があったからって言ってたわよね」


 それは明乃が以前にも聞いたことがある話だ。


「はい。・・・それが?」


 タマモはまた一つ溜息をつき、


「違うのよ・・・。勿論愛着があったってのもあるだろうけど、シロが残った理由は」


「・・・残った理由は?」





「ヨコシマのためだって」





「・・・なんですって?」


「ヨコシマのためって言ったのよ。あいつ、神族になるって決めた日、私になんていったと思う?」


「・・・」


 明乃は何も答えないが、タマモは構わず続けた。


「『先生が帰ってきたときに知り合いが一人も居なければ、きっと寂しいでござろう?』だって」


「・・・」


「それだけであいつは、地獄の鬼も裸足で逃げ出すような血反吐を吐く修行を9年・・・8年だったかな・・・まぁ10年近く続けて、ついに神族の末席レベルに達した」


「・・・」


「ほんとに大馬鹿全開のアホ駄犬よ。・・・・・・・・・それに付き合う私も大概馬鹿だけど」


 そうやって憂いを覗かせるタマモの横顔は、ただ親友に付き合っただけとは思えないほどの複雑さに満ちていた。


 もしかすると、彼女も・・・?


「・・・なんでそんなことを私に話すんですか」


「さぁ? 牽制・・・って言ったらどうする?」


「それは」


 明乃はなぜか全身が緊張するのを実感した。客観的に見ても、タマモと言う女性は頭に「超」がつく美人だ。さすがは傾国の美女と言われていただけのことはある。

 もし、彼女が横島を自分の物にしようとしたら―――――


「ふっ・・・・・・あははははは!! 何よもう、明乃ちゃんったら! そんなにマジな顔して。そんなに警戒しなくても何もしないってのよ!」


 タマモは腹を抑えて爆笑する。


「え? ええ!?」


 対する明乃は目を白黒させた。


「ほんっとに、シロもあんたもヨコシマのことになったら冗談が全然通じないのよね! もう笑っちゃうわ。特にシロなんかこのことに関しては150年前からなーんにも変わらないんだから!」


「は、はぁ・・・」


 明乃はちょっとだけ安堵した。


 でも、本当にそれだけなのだろうか・・・?


「・・・・・・・・・」


 なにか、引っかかる。


 その時、ユリカのコミュニケに横島からの通信が入る。


「はいはい。なんですか横島さん?」


『いや、ホウメイさんが、どうせなら多目的ホールで立食式の食事にしないかって。クリスマスパーティーも結局ほとんど出来なかったし、明乃ちゃんの復帰祝いを兼ねて食事だけでも豪勢にしようって言ってるんスよ』


「は〜」


「どうするんだい、ユリカ」


「決まってます!! こうなったら、ぱーーーっとやっちゃいましょーっ!!」


「「「「「賛成!!」」」」」


 ユリカはホウメイの案に一発OKをだし、それに苦笑する者は居ても反対する人は居なかった。





 エリナは反対する気力が根こそぎ奪われていただけだったが。





 ――――――――――





「・・・」


 開始十分で、殺風景な多目的ホールはもう立派な宴会場だった。各自がどんちゃん騒ぎをする中、メグミは一人、壁にもたれてグラス(果汁百パーセントアップル)を傾けた。


(あ・・・空っぽ)


 グラスは中の氷がカランと音を立てただけだった。


 ちょうどその時、


「メグミさん、あなたが壁の花に甘んじるとはどういう風の吹き回しですかな?」


「プロスさん」


 プロスはメグミに歩み寄り、同じジュースをメグミに手渡し、そのままメグミの視線を追う。その先には飲み食い騒ぐクルーの姿。


「・・・別に、単に眺めるだけってのも悪くないかと思いまして」


 メグミは緯線を固定したままで答える。


「別に飾りつけもしていない部屋でよくもまぁこれほど騒げる物ですね。今更ですが、そういう人材ばかりを集めたのではないかと勘繰りたくなりますよ」


「手厳しいですな・・・。

 ところで、メグミさんはあそこに混ざらないので?」


「今は見ているほうが楽しいですね。プロスさんは?」


「私のようなオジサンには、少々辛いものがありますから」


「・・・・・・」


 メグミは「よく言う・・・」と思ったが、微苦笑するに止める。


「ときにメグミさん、木星のことですが」


「またですか? 何度訊かれてもミナトさんと一緒に報告したとおりですよ」


 メグミはちょっとうんざりした様子で答え、ジュースをちびりと飲む。


「そういうことを聞きたいのではありません」


「? では?」


「私にはあなたの様子が敵艦に赴く前後で少し変化したように思えるのですが」


「――――――――――・・・・・・」


 メグミは一瞬動きが止まり、プロスの方へ顔を向けた。


「そう、見えます?」


「見えます」


「・・・」


 メグミはまた表情を先程までの物に戻した。


「これはまったく根拠の無い想像なのですが・・・」


「・・・」


 無言で続きを促す。





「メグミさんは、もしかして木星にいたことがあるのではないですか?」





 その台詞の内容に関わらず、メグミとプロスの表情は平静そのものだ。この場ではその表情こそが異彩を放つのだが。


「・・・・・・・・・・・・・・・」


「・・・・・・・・・・・・・・・」


 無言は数秒。


「さあ、解りませんね。何しろ私、記憶、ありませんから」


「・・・そうでしたな。

 まぁそれ以前に、木星人だと仮定したとして、どうやって地球に辿り着いたのかという問題もありますし」


「ですね」


 メグミはまたジュースを一口飲む。


「それより、横島さんのことですけど良いのですか?」


「と、言うと?」


「ただでさえですよ? タイムトラベラーで霊能力者でそれを利用していまやナデシコに欠かせない戦力で料理も上手い。

 それだけでも凄いのに、木星から生きて帰ってきて、さらに伝説と言っても過言ではない中佐と大尉ととても親しい・・・。

 これでは・・・」


「・・・ナデシコは、弱くなる」


 馬鹿騒ぎをして、何をしているのか、明乃に詰め寄られている横島を見ながら二人は話す。


「以前から危惧はしていたんですが、最近、横島さんに頼りがちな傾向が少し目立ってきてまして、『最後は霊力で何とかしてくれる』と皆が思ってしまえば、クルーの質は一気に低下。不慮の事故で横島さんを欠けば、どんな事態に陥るやら・・・。

 苦労して探した優秀な人材ばかりなのですがね。いやはや、頭が痛い」


「それも重要ですが、やはり他の軍に情報が知られるのもまずいですね。

 独立遊撃艦と言う形を取っているからいいものの、いつどこから情報が漏れるかわかりません。・・・例えばエリナさん辺り」


「まったくですな・・・」


 プロスは溜息をつき、眼鏡を外して目に良いツボをぐりぐり押す。


「おや、メグミさんのグラス、空ですな。つぎましょうか?」


「ええ、お願いします。できればアレを」


 メグミが示すのは、果汁100%グレープフルーツ。


「・・・。嘆かわしいことに、この艦には未成年がお酒を飲んでも気にしない方ばかりですから。遠慮なくお酒ををリクエストしてもかまいませんよ?」


 メグミはちょっと困った顔で笑った。






「苦手なんですよ。お酒」





 ――――――――――





「横島先生」


「なんだよ」


 シロがやけに真剣な顔で横島の名前を呼ぶ。横島だけでなく、周りにいたクルーも怪訝な顔で横島とシロのほうを見る。


「実はさっきから気になっていたのでござるが」


「? ああ」


 真剣な顔のまま横島の腰辺りを指差し、


「その、ずっと先生の傍から離れない桃色髪の女子は何者でござるか」


「?」


 モモは自分のことを訊ねられていることに気付いたのか、口をもぐもぐさせながらシロの方に振り向く。


「シロ。そんな回りくどいことしなくても直接訊ねたらいーじゃない」


 横島が何か言う前にそう言い、タマモはモモと同じ視線までしゃがみ訊ねた。


「ねぇ。あなたの名前、なんて言うの?」


「・・・・・・」


 モモはちらっと横島の顔を見上げる。


「?」


 横島と目が合う。


「・・・・・・」


 そのまま五秒ほど見詰め合った(?)後、改めてタマモの目を見据えて答えた。





「横島モモ」





「「よ、横島!!?」」


「ヨコシマ、あんた「横島せんせーーーーーッ!? こ、ここ、子どもをこさえていたでござるのかーーーーーッ!!?」


 タマモの台詞を塗りつぶし、シロは絶叫する。した後でさらにその恐るべき事実に慄き、


「うっ、嘘でござるううぅぅぅぅっ!!」


 ホールを世界記録を4倍以上上回るタイムで出て行く。


「ぅぅぅぅぅぅぅ!!」


 で、二秒で戻ってくる。


「アンタね・・・」


 タマモの呆れ返った声も聞こえていない。


 シロは動揺冷めやらぬ様子で、無理矢理平静を保とうとし(見事に失敗している)、


「ふ、ふふ、拙者としたことが・・・師匠に愛娘が居ることを祝おうともせずに・・・不覚の至り・・・!」


「い、いや、あのな?」


「ふふふ、モモ殿は母親似でござるな? ・・・・・・ああッ、めでたいはずなのに涙が、ううう・・・くっ、拙者は・・・せっしゃはーーーーーーーッ!!!


 涙があふれるのを止めようともせず、天井を仰いで仁王立ちしする。


「・・・・・・・・・・・・・忠夫」


「何も言わないであげて・・・お願い」


 変なものでも見るような眼でシロを眺めていたモモが横島に何かを訊ねようとしたが、タマモに止められた。


「くっ、うう・・・ああ、そういえば、先生が父親だというなら母親は・・・?」


「あの〜シロさん?」


 涙目のままで呆気に取られているクルーを見回す。


「!」


 そして、ある人物に視線が止まる。


 ルリだった。


「え!?」


 シロは瞬時にルリの両手をがっしと掴み、


「あなたが先生の奥方殿でござるか? いや、間違いござらん。モモ殿にはあなたの面影を色濃く残しているでござる」


「いえ、あの」


「・・・・・・・・・・しかし・・・しかしッ!!」


 再び天井を仰ぎ、


「しかしッ!! 先生、何故、なにゆえそこまで趣味が変わられたでござるかっ!? まさか一見少女と見紛う方とだとは・・・昔と540度趣味が違うではござらんか!?」


「正真正銘、少女なんですけど・・・」


 この呟きが聞こえていないのはもはやお約束である。


 ちょっとだけルリの頬が赤いのも。


「先生、拙者はこれ以上大きくなることは出来ても、決して小さくはなれないでござるよッ!!?」


「もう黙りなさいよ駄目犬。皆思いっきり引いてるわよ」


 ついに馬鹿犬以下に降格したシロだった。


「一瞬でも考えりゃわかるでしょうが? ヨコシマはこっちに来てから一年ちょいしか経ってないって言ってたでしょ。子どもをこさえることは出来てもこんなに大きいわけないじゃないの!」


「むぐ・・・そう言われてみれば、確かに・・・」


 現在の普段のシロはむしろ聡明とも言える思考能力を持つのだが、横島が関わるとこうなるらしい。


「では、結局モモ殿は先生のなんなのでござる?」


「妹だよ。勿論血は繋がってないけど」


「妹君でござったか!」


「へぇ・・・」





 〜二人に当り障りの無い事情説明中〜





「・・・なるほど」


「でも、ヨコシマって昔からいろんなやつを拾うわよねー」


「言われてみればそうでござるな」


 事情を聞き終えたタマモは、笑いながら昔を回顧する。


「へ〜、中佐、横島さんってそんなに人を拾ってたんですか?」


 一部始終を聞いていたユリカが、好奇心に輝く瞳でタマモに訊ねる。


「と言うか、拙者も先生に拾われたような物でござるからな」


「大尉がですか?」


「うむ。父の仇を追っていた頃でござる。仇を討とうと街に下りたはいいものの、勝手がわからぬ人間の町。迷いさまよい路銀も尽き、武士ゆえに物乞いも出来ぬゆえ、その、つい・・・食料を持って通りかかった先生を、まあ、襲ってしまったのでござる・・・」


「んで、返り討ちにあって弟子入りしたのよね」


「・・・そうでござる」


「へええ・・・! 大尉が」


「しっかし、すげえじゃねぇか横島! あの犬塚大尉を返り討ちにするとはよ」


「あのころはコイツ、モモと同じくらいのガキだったっスから。とっさだったから寸止めも出来んかったし」


 あの頃のシロはガキそのものだったなー。と回顧した。


「私もコイツに拾われたわよ」


「中佐も!?」


「ええ。転生したばっかりで力のほとんどを失ってた頃だっけ。私の昔の、それこそ数世紀も以前の罪状を持ち出してきたGSの集団に強引に祓われそうになってたことがあったのよ。自分の生まれる前の話によくそこまで必死になれるもんだって今になったら思うけど。

 それはともかくGSの集団に祓われそうになった時、ヨコシマにかくまってもらったのよ」


「そのときの中佐の見た目は?」


「小学校5、6年くらいだったかしら」


「・・・・・・・・・・・・・・(半眼)」


 この話を聞いていたモモとユリカ以外の全員が半眼で横島の方を見る。


「ちょ、ちょっと待てよ! いくらなんでもあんながきんちょに欲情するわけねーだろ!?」


「今ならするんですか? 欲情」


「ああ、いまのタマモならそらもう・・・・・・って笑顔で拳を握らないでください。本気で怖いっス」


「あはは。なんで敬語なんですか?」


 笑顔だからこそ怖いと言う経験を得た横島だった。


「他には、元祖拾われっ娘、おキヌ殿」


(おキヌちゃんか。そういえば、おキヌちゃんが居ないって状態・・・いまだに慣れないよな。美神さんもだけど)


「天竜童子とか」


(ああ、そんなやついたっけな)


「化け猫母子とか」


「美衣さんとケイ・・・でもあん時は別に拾ったってかんじじゃなかったけど」


「アン・ヘルシングもいたでござるな」


「そいつは拾ったって言うより、拾われたって言うか」


「キャラット王女とか」


「右に同じだ! ってか何で知ってんだ・・・? さっきから」


「「・・・・・・」」


 横島の返しには反応せず、シロとタマモは顔を見合わせた後、横島の方を見る。


「?」


 そして、


「「なんで女ばっかりなの(でござるか)!?」」


「天竜のガキは男・・・・・・はッ!!?」



 ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ・・・・・・!!(←空気の重みが増した音)



(さ、殺気が! 明乃ちゃんのほうから途方もない殺気が!?)


「そういえば、木星でも知り合いは女の人が多かったよね」


 さらりとモモが致命的な言葉を紡いだ。ちなみにモモに悪気は全然ありません。


「ばっ・・・! モモ! そんなこと言ったら彗星拳どころかライトニング・プラズマ・・・いや、一人でアテナエクスクラメイションまで放ちかねん!!」


 必死になる横島。だが必死になるのが遅かったと言わざるを得ない。


「へー・・・誰が放ちかねないんですか?」


「はぅあっ!?」


「・・・ちょっと試してみましょうか?」


 横島の肩を掴む明乃。無意識に指先が肩にめり込んでいく。


「お、お願いっスから無機物にまず試してください!!」


「いやですねー。ナデシコが壊れるじゃないですかー」


「ぎにゃああああああああ!!」


 指がめりこむたびに悲鳴が大きくなる。当然のことながら、横島の周囲半径10メートル内に居る人物はモモだけである。


 なんだか、明乃がセブンセンシズに目覚めるのは、そう難しいことではないのかもしれない。





 後編に続く。