「なんじゃこりゃ・・・」


「・・・・・・・・・(横島以外全員)」


 ワケ有りの客人を引き連れ、多少緊張しつつナデシコに到着した一行は、ものの見事に呆気に取られていた。横島でさえ一言発するのがやっとだ。


 一行が降り立ったのは当然格納庫。そこで目にしたのは、当然格納庫の風景。そして嫌でも目に入る大量のポスター。




<明日の艦長は君だ! 一番星コンテスト(※水着審査有り)>




 横島と明乃とルリは背後に突き刺さる優華部隊の半眼の視線を感じた。見えないけど感じた。しかしそれも無理はない。フォローなどと言う次元は軽く超えている。なんか格納庫にも最低限の人員しかいない。ウリバタケの姿もない。


『なあ万葉ちゃん・・・。一応プロスさんから許可は下りたけど、一応戦艦だぞ? 不安じゃねーの?』


『こちらにはいざとなれば北斗殿もいる。そうそうやらせんさ。それに、横島も手を貸してくれるのだろう?』


『そりゃ、手は貸すけどなー。・・・剛毅な』


 ・・・などと会話したのが遠い昔のようだ。


「ねえたー君。これってどういう催し物?」


 枝織的にはお祭りか何かと思ったらしい。


「さー。俺たちがナデシコ出る前にはこんなモンなかったけど・・・。この数日に何があったんだ」


 その時。


「ふふふ・・・説明しましょう!」


「!?」


 奥の通路からやってきたのは、説明おば・・・お姉さんのイネス先生だった。


「ぶっちゃけてしまうとね、連合の偉いさんはナデシコの戦力をもっと自由にしたかったのよ。いくら軍と協力体制にあるといっても、建前やらなんやらでコントロールし辛かったのよ。だからこれ以上ナデシコを遊ばせておくわけにはいかなかったってワケね」


「遊ばせとくって、私たちだって戦ってるじゃないですか」


「言ったでしょう。偉いさんにとってはって。そして、プロスさんも何らかの利害が一致したのか軍の要請に従う事にしたのよ」


「・・・?」


 モモが小首をかしげた。軍の要請とこのコンテスト。話がどう繋がるか分からなかったからだ。イネスは説明を続ける。


「軍の要請、それは、艦長の交代」


「ええ!?」


 明乃が思わず驚きの声を上げる。


「ユリカ艦長はあれでもかなりの曲者よ。ガード低そうに見えても譲れない部分は絶対に譲らないし、権利の行使の仕方も心得てる。普段の彼女を見て甘く見た輩なんて相手にもならない。加えて、軍の重鎮の娘でもあるから下手な手は打てない。まさに頭痛のタネってやつね。

 で、プロスさんが考えた苦肉の策が、この一番星コンテストなのよ。ちなみに開催は明日」


「なんでそれが艦長の交代と繋がるんスか?」


「当然の疑問ね。ではお答えしましょう。この一番星コンテストの優勝賞品、それは、新艦長の座」





「はい?(優華部隊全員)」



 さすがの横島らも絶句している。絶句しているが、驚くだけで済むのがナデシコクルークオリティ。


「あの、艦長はこのコンテストの開催に同意したんですか?」


「したわよルリちゃん。プロスさんに、『どうせ優勝するのは艦長です。だったら良いレクリエーションになるでしょう』とか言われてその気になってたわ。明乃ちゃんにいいとこ見せたかったみたいね」


「ゆ、ユリカ・・・」


 バカだ。有能かもしれないが間違いなく馬鹿だ。明乃は偏頭痛をこらえるかのように頭を押さえた。


「ま、軍もユリカ艦長でなければ操る自信があるんでしょうね。私も今の方が居心地いいから出場するけど」


「え? なんでですか? 優勝しちゃったらイネスさんが艦長になるんじゃ・・・」


「ん〜、艦長の座を別の人に譲れればいいんだけど」


「そうですね・・・」


 明乃は深刻そうに腕を組む。


「だったらとりあえず優勝する事を目標にすればいいんスね」


 なぜだか横島はやる気に満ち満ちているような気がする。


「でも横島君、水着審査もあるから男性には優勝はちょっと無理だと思うけど」


 しかし横島は不敵な笑みを浮かべ、


「我に秘策有り!!」


 そう言って、廊下の向こうへ消えていった。モモは横島のすそを掴んだままだ。


「あ〜! たー君待ってよ〜!」


 枝織もそれを追いかける。





「・・・・・・・・・・・・・・・」





 後に残された物は沈黙のみだった。


「・・・天河さん」


「・・・はい」


 京子が、なんとか口を開いた。


「・・・ナデシコっていつもこうなんでしょうか?」


「・・・ここまでの大事はそうそう無いですけど」


「・・・天河さん」


「・・・はい」


 次に声をかけてきたのは零夜だ。


「・・・実はこれは私たちを混乱させる為のお芝居ですか?」


「・・・そうだったら良かったんですけど」


 明乃は心底情けなそうに呟く。


「・・・ナデシコ恐るべし。・・・いろんな意味で」


 万葉は畏怖の混じったため息を漏らした。


「・・・天河さん」


「・・・はい」


 最後に声をかけたのは千沙だ。


「・・・私も出場していいですか?」


「・・・はい。

 ・・・・・・って、え?」





 ――――――――――





「おーいジュン!」


 横島は食堂でラーメンを食べていたジュンに声を掛けた。


「ん? ああ横島。帰ってたのか」


 ジュンはスープを一口飲み、横島のほうを向いた。


「あれ。モモちゃんはわかるけどその子は?」


「あとで説明する。ジュンにコレのことで相談があんだよ」


 一番星コンテストのポスターを掲げつつ言った。


「相談? 珍しいなぁ」


 ジュンは軽く驚いた顔をした後、横島らを正面の席に座るよう促す。


「実はだな・・・」





 〜横島、語り中〜





「ばっ!? よ、横島、本気か!?」


「本気と書いて、マジだ」


「でも、そんなこと不可能だ!!」


「だからジュン、コレをやろう」


 そう言ってジュンの前に転がしたのは文珠だった。


「・・・・・・!!! おい、これって!?」


「ああ。コレを使えば・・・出来る」


「いや出来たとしても! 僕は嫌だぞ、そんなこと!

 まったく、珍しく男に話しかけるかと思えば・・・! 失礼するよ」


 ジュンはやや顔を紅潮させ、席を立つ。


「―――――ジュン、艦長と甘いひと時を過ごしたくは無いか」


「―――――」


 横島の言葉に、立ち上がりかけたジュンはピタリと動きを止めた。


「どういうことだよ、横島」


「取引だよ。

 ジュン。もしお前が話に乗ってくれて大成功したら、文珠一個で艦長をお前に惚れさせようじゃないか」


 ニヤリと笑う笑顔は悪魔そのものだ。


「ぶっ!? ば、馬鹿な! お前そんなことが許されると・・・!」


「おいおい、文珠一個程度じゃ一時間も保たねーよ」


「そ、そうなのか?」


 ジュンは少しだが心が動いた。


 ニヤソ


「な? そんな短時間だ。その間に出来ることなんて大したことじゃない。ただの遊びさ。大した悪事じゃない。可愛いもんだ」


「・・・・・・」


((本気で検討してる・・・))


 密かにモモと枝織が引いたが気がつかない。


「なぁジュン。艦長がお前に振り向いてくれたことあんのか?」


「・・・・・・・・・・・・」


「振り向いてくれるどころかお前をないがしろにしたことは?」


「・・・・・・・・・・・・・・・」


「お前には権利があるよ。ちょっとばかし艦長と楽しいひとときを過ごす程度の権利が、な」


「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」





 長い沈黙の後、ジュンは・・・・・・。





 その後。ジュンが去った後。


「いやー言ってみるもんだよなー」


「そうだねたー君!」


「「あっはっは」」


 二人で無邪気に笑いあう。モモは微妙な表情だった。


「・・・でも忠夫。いくら副艦長が単純で騙され易いからってよく押し通せたね」


 モモさん、酷いッス。


「いやーあの人のレクチャーのおかげやなー」


「「あの人?」」


「メグミちゃん」


「「・・・・・・・・・」」










「ふ。若いねぇ」


「ホウメイさん、そのコメントはちょっと違うと思います」





 ――――――――――





 次の日。


 優華部隊の紹介やら、明乃の出場の準備の手伝いやら(明乃も急遽出ることにしたらしい)、いろいろあったが割愛する。


 ギリギリなスケジュールは、実は横島&明乃が関わる時間を欲して、プロスが苦心して何とか捻り出したのだが、プロスの苦労は報われるかどうか。


 そして。


『さあ皆さん、大変長らくお待たせしました! これより、機動戦艦ナデシコ、明日の艦長は君だ! 一番星コンテストを開催いたします! 司会は私、メグミ・レイナードと』


『・・・どうも』


『と、ナデシコ副艦長、アオイ・ジュンさんでお送りいたします!』


 うおおおおおおお、と飾り付けられた会場が歓声で揺れる。今コンテスト会場には、ナデシコの人間の約八割の人間が集まっていた。来ていないのは各部署に必要な最低限の人員と興味の無い者である。ちなみに優華部隊は、司会の横の来賓席に座っていた。いいのか。


 どうでもいいことだが、横島と明乃とモモは、優華部隊の後で立ち見だ。ルリは興味が無いのか、ブリッジで留守番だ。

 
『えーそれにしてもアオイさん、こんな日だと言うのに随分とテンションが低いですね。お腹でも痛いんですか?』


『・・・ぼくは悪魔に魂を売ってしまったんだ・・・。目先の欲につられてなんて事を・・・! いや、うん、司会はやるよ。ちゃんと』


『なんだか分かりませんがよっく分かりました!

 さて、ここで出場する人たちの紹介、と行きたいところですが、誰が出場し何番目に来るかは秘密、といたします!』


『それは何故でしょうか?』


『そのほうが面白いからです!』


 うおおおおおおおおおお。とりあえずノリで会場が揺れた。会場の隅っこでは誰が優勝するかのトトカルチョも行われているようだがこれはこの際関係ない。


『なお、ご存知の通り優勝者には艦長の座が進呈されますが、副賞として優勝者から3位の方まで、賞金が出ることになっています!』

 皆さん! 賞金が欲しいかーーーーーっ!?』


 おーーーーーーーーーーーーっ!!!


『艦長になりたいかーーーーーーっ!?』


 おおーーーーーーーーーーーーっ!!!


『ハイ、ではエントリーナンバー一番の方、スタンバイお願いします!!』


『・・・ところでメグミちゃん』


『はい?』


『メグミちゃんはエントリーしてないのかい。こういうの好きそうだけど』


 ジュンの言葉に、「確かに」とか「なんと、メグたんは出ないのか」とか「飛び入りでインパクト狙ってんじゃない?」等の言葉が囁かれる。


『ああ、私は出ませんよ』


『・・・そうなのかい?』


 ジュンがやや意外そうに呟いた時、





『だって私が出たら優勝しちゃうじゃないですか』




『・・・・・・・・・・・・』





 ジュンは「訊くんじゃなかった」と即座に後悔し、メグミの言葉が観客に浸透する前に慌ててプログラムを進行させようとした。


『さ、さて! そろそろスタンバイできたころでしょうか!? ではエントリーナンバー1番、アマノ・ヒカルさん、どうぞ!』


「はーい! そんじゃ、行っちゃうよ!?」


 ステージの袖からヒカルが登場する。それと同時に、ヒカルが歌うであろう曲のイントロが流れ始める。VTRでは右下あたりに曲名のテロップが表示されているのだろう。


 そして歌が始まる。





〜勝利のVだ! ゲキガンガーV〜

 ガンガンガガンガンガガン 見上げる空に 
 ガンガンガガンガンガガン 輝くVだ 
 ゲキガンガーV

 三つの心に未来を乗せて 友よ見てくれ俺はやる
 正義を信じて奇跡を起こせ 愛する地球守る為〜 





「なんと。ゲキガンガーの主題歌とは」


 万葉が呟く。その言葉に周りの面々も同調する。


「ほんなこつ意外やね。しかも二期のOPって所に心くすぐられるわ」


「まぁ元々地球で製作された物だから不思議ではないけれど」


 飛厘の言葉に頷きつつ、百華は背後の横島に訊ねる。


「ねー横島君。あの子なんて子?」


「あのね百華。あの子の人と為りを訊いてどうしようってのよ」


 千沙は苦笑しつつ窘めるが、横島は律儀に答える。


「ああ、ヒカルちゃんはエステのパイロットやってるよ。ナデシコ唯一のメガネっ子パイロット・・・ああ、枝織ちゃん重い」


「えーひどーい」


 横島にぶら下がった枝織が嬉しそうに怒って見せた。


「・・・・・・」


 横島の言葉に優華部隊は一瞬だけ驚きに硬化した。一瞬だけ、というところに、ナデシコの非常識さに対する慣れが感じられる。


「うわー、うわー」


 唯一、枝織だけは、横島につかまったままぶらぶらと揺れ、目を輝かせながら歌に聴き入っていた。


「あ、重い、重いって・・・」


(こうやって横島くんは鍛えられていくんだなぁ・・・)


 明乃は、今更ながらに感心した。ところで、横島の耐久力を高める一因となった自分の暴力については自覚しているのでしょうか。





 ガンガンガガン ビクトリー 
 ガンガンガガン 今こそ 

 勝利のVだ! ゲキガンガーV〜 






 「勝利のVだ」の部分で水着を披露する。オーソドックスな黄色いビキニにパレオを装着している。当然のように会場は歓声に包まれた。


 ウリバタケがサクラの拍手音(勿論機械)をならすが、必要なさそうだ。


『さて解説のジュンさん! ヒカルさんの水着について何か一言!』


『いきなりそこを訊かないで下さい。え〜、正直歌の良し悪しは私には正確には分かりませんが、なかなかの物だったと思います。きっとよくカラオケでも歌ってたと思います』


 ヒカルはステージ上でうんうんと頷く。


 ちなみに、メグミとジュンの口調がさっきから違うのは、解説用の言葉遣いだからである。最初のほうのジュンの口調は素だったが、それはまだ自己嫌悪から抜け出せてなかったからである。


『ではゲストの天津京子さん、何か一言!』


「え!? 私も言うんですか!? ん・・・そうですね。上手だったと思いますけど、ちょっと声が軽すぎたような気もします」

 壇上のヒカルは、「あちゃー」と額を押さえる。凹んだ様子は微塵もない。


『ありがとうございましたー! ではエントリーナンバー2番! 複数参加のようです! グループ名・「ホウメイ・ガールズ」!! なんとオリジナル曲を披露するとか!』


 ステージ上に現れたのは、ご存知食堂のウェイトレス、ホウメイガールズの五人だ。五人はそれぞれ、ややサイズの小さいポロシャツにショートパンツと言う出で立ち。意外な伏兵の存在に会場は大いに盛り上がる。





〜デリシャス・アイランド〜

 おいしい料理が食べたいね 
 一日三食じゃ足りないね
 メニューの数だって多すぎて

 食べても食べても 飽きない! 足りない!






 ――――――――――





 ホウメイガールズの歌で大いに盛り上がり、イズミの歌で大いに盛り下がる。そして次でまた盛り上がる。そしてプログラムが進むにつれ、ジュンに落ち着きがなくなってきた。


「おいジュン。例のやつはいつだ?」


「次の次の次だけど・・・横島、本当にやるのか?」


「今さらだな。やめるとは言わせねー」


 ジュンの情けない声に素気無く応じる。


「解ってるけどさ・・・」


「あれ、横島さんとジュンさん、まさか出るんですか?」


 ジュンの横に座ってるメグミが、興味深げに訊ねてくる。


「うう・・・実は・・・」


「オドロキですねー。ジュンさんがこんな思い切ったことをするのもそうですけど。
 
 水着審査どうするんです? ナデシコは女性クルーも多いから確かにある程度は票を集められるかもしれませんが」


「・・・聞かないでくれ。お願い」


「はっはっは。インパクトは保証する」


「・・・はぁ。よく分かりませんが」


 そこで中断中のプログラムを再開する時間が来る。


「あ、時間ですよジュンさん。とりあえずその不景気な顔はやめてください」


「・・・了解」


『えー、お待たせしました! それでは、一番星コンテストを再開したいと思います!

 エントリーナンバー7番、ハルカ・ミナトさんです! どうぞー!!』


 歓声と共に現れたミナトだが、登場したその一瞬だけは、なぜだか歓声がやむ。


「・・・(にこ)」


 しかし、それも観客に向けて優しく微笑んだことでこれまでを上回る悲鳴のような歓声が上がる。


 お・お・お・お・お・お・お・お・お・お・お・お!!


『これはすごい! あまりの歓声に会場が揺れています! 揺れています! 確かにこの組み合わせは意外だー!』


 そう。ただ着飾っただけならここまで盛り上がらなかった。


 盛り上がった理由。それはミナトは赤い振袖の着物を着て登場したからだろう。



「・・・悔しいが似合っているな」


「同意せざるを得ないわね・・・」


「すっごーい、きれーい」


 和風な文化の木連の女性達も認めざるを得ない。我らが横島の反応など描写するまでも無い。





『振袖、と言うのもなんだか意味深です!』


 振袖で現れたミナトは、髪をアップでまとめている。いつもは見えないうなじになんとも言えない色気を感じる。


「うおおおーーーーッ!! ミっナトさはーーーーーーん!!」


 なんかもー色々アレな横島の声援にミナトも気付いたようで、横島のほうに向き、


「チュッ♪」


 投げキッスをした。


 それに対しものすごい嫉妬の混じった、殺気すら混じっているかもしれない視線を一身に浴びる横島だが、ミナトの艶姿にそれも気にならないようだ。


「むー」


 ぐいぐい


「いだっ!? いだだだだだ!」


 枝織がむくれながら横島の首を締め上げる。勿論本気ではない。本気ではないが、枝織がやるとちょっと洒落にならない。


『なんだかもう収拾が付かないのでさっさと始めますよー! ミュージックスタート!』





〜もらい泣き〜



 ええいああ 君から「もらい泣き」 
 ほろり・ほろり ふたりぼっち

 ええいああ 僕にも「もらい泣き」
 やさしい・の・は 誰です


 朝、から 字幕だらけのテレビに
 齧り付く夜光虫。
 自分の場所
 探すひろいリビング
 で、『ふっ』と 君がよぎる uo-i

 愛をよく知る親友とか には 話せないし、
 夢みがち。ha〜
 段ボール の、中 ヒキコモりっきり
 あのねでもね、
 ただ…訊いてキイテキイテ

 ええいああ 君から「もらい泣き」
 ほろり・ほろり ふたりぼっち
 ええいああ 僕にも「もらい泣き」
 やさしい・の・は 誰です






「・・・この歌と着物って、リズムはともかく内容とは合ってないような・・・」


「上手いからいいじゃないですか。野暮なことは言いっこなしです!」


 エリナとユリカが隅のほうで話している。ちなみに、ユリカはもう歌い終わっている。





 ええいああ 僕にも「もらい泣き」
 やさしい・の・は 誰です






 二番の最後の部分である。「もらい泣き」の部分で腰の帯を解く。当然、観客の期待が高まる。


「やさしいのは」のフレーズの時、歌いつつ徐々に着物をはだけさせる。


 そして、「誰です」の部分で一気に着物を脱ぎ去る。





 着物の下は、黒いシックなビキニだった。





「っしゃきたあああああああ!!」


 狂喜乱舞する横島。彼に限ったことではないが。





 ええいああ ぽろぽろもらい泣き
 ひとりひとりふたりぼっち
 ええいああ 僕にももらい泣き
 やさしいのは そう 君です

 ええいああ 君から「もらい泣き」
 ほろり・ほろり ふたりぼっち
 ええいああ 僕にも「もらい泣き」
 やさしい・の・は 誰です

 ええいああ 君から「もらい泣き」
 ほろり・ほろり ふたりぼっち
 ええいあありがとう「もらい泣き」
 やさしいのはそう 君です






 その後の事は割愛。もう歓声やらなんやらでワケが分からなかったからだ。しかし観客の反応を見るに他の出場者より一歩抜きん出ているかもしれない。


 とりあえずメグミは、舞台に殺到しようとする一部の観客を無言で蹴散らし(もうこの程度では誰も驚かない)、さっさと次に進めることにした。


『えー皆さん。盛り上がるのも結構ですが、度を過ぎると蹴散らします』


 おおおおおおおお〜!


 反応は一緒だった。


『・・・もういいです。では次にいきます! んでは、エントリーナンバー8番! 横島モモさん、どうぞー!』


 メグミの言葉と共にモモが舞台袖から登場する。その姿は、木星でのモモの余所行き、若葉色のワンピースだった。その可憐さに、会場のあちこちからため息が漏れる。


「モモー! 頑張れよー!!」


 横島の声援をしかと聞き分け、小さく横島に向けてピースする。月並みな声援だが、嬉しそうなのは気のせいではあるまい。そこでモモの歌のイントロがかかった。





〜まっくら森の歌〜


 光の中で 見えないものが
 闇の中に 浮かんで見える
 まっくら森の 闇の中では
 昨日は明日
 まっくら クライ クライ





 水を打ったように静まり返る会場。しかし落胆している観客はいない。他の参加者とは趣が異なる歌だが、皆一様に聞き入っている。


 若葉色のワンピースで、かすかな振り付けで歌うモモは、どこか神秘的な雰囲気を醸し出している。





 魚は空に 小鳥は水に
 タマゴが跳ねて 鏡が歌う
 まっくら森は 不思議なところ
 朝からずっと
 まっくら クライ クライ



 耳をすませば 何も聞こえず
 時計を見れば 逆さま回り
 まっくら森は 心の迷路
 速いは遅い
 まっくら クライ クライ





 そこでモモは服を脱ぎ捨てる。ワンピースの下は、髪の色と同じ、薄いピンクのワンピースの水着だ。





 どこにあるか みんな知ってる
 どこにあるか 誰も知らない
 まっくら森は 動き続ける
 近くて遠い
 まっくら クライ クライ

 近くて遠い
 まっくら クライ クライ






 歌い終わった。


 うおおおおおおおおおおおおおお!


 同時に、他に劣らない凄まじい歓声が上がる。


 わずかに頬を紅潮させ、ステージを降りて横島に駆け寄る。


「おつかれさん。良かったぞ、モモ」


 そう言って、横島はモモの頭を撫でた。


 一見するとぞんざいにも聞こえる横島の言葉。だが、モモは滅多に見せない極上の笑みで応えた。歌っている最中、横島がモモから目をそらさなかったことを知っていたから。





「私、今モモちゃんを見てドキってしなかった・・・? ううんまさか。そんなはず無いわ・・・」


「? 零ちゃんどうしたの?」


 零夜が懊悩していたがこれはこの際関係ない。





「あ、忠夫、そろそろじゃ・・・」


 ジュンの言葉を思い出すなら、確かに次は自分の番だ。


「やべ。悪い、また後でな」


「うん」


 横島が司会席のジュンを誘い舞台袖に向かおうとした時、舞台のスクリーンに、突然ルリの顔がアップで現れた。


『突然ですが、歌います』


 その宣言と共に、イントロが流れ始めた。





〜あなたの一番になりたい〜


 言えない気持ちを抱いたまま
 この胸にあなた満ちてくる
 だけど、切なくて苦しい思い 泣き出しそう






 イントロ部分ではまだどよめいていた観客だが、ルリが歌いだすと同時に雑音はぴたりとやんでいる。そこの所、ナデシコクルーはやはり分かっていると言わざるを得ない(何がだ)。


「ルリちゃん、すごい!」


「しまった! 先を越されたかぁ」


 感心するユリカと出遅れたエリナ(水着姿)。普通に出場すればよいものを+αを狙うあたり、姑息・・・もとい非常に上手い手だと言えよう。先を越されたわけだが。





 彼女を見つめるその瞳
 永久(とわ)に揺るがない気がするの
 でもね、少しだけ・・・ほんの少しだけこの私、見てよ

 もしも誰よりも早く あなたに出会っていたなら
 想うままに 願うままに 恋をしたでしょうか

 もう一度 もう一度
 生まれ変わって会えたなら
 今度は あなたの
 一番になりたい


 


「うーん・・・モモちゃんといい、あのルリちゃんといい、興味なさげにみえてなんであんなに歌が上手いのかしら・・・只者じゃないわよね。みんな」


「さあな。しかしどうせ聴くのなら上手いほうが良いではないか」


「そりゃそうだね」


 敵の戦艦でもうすっかりくつろいでいるあたり、あんたらも充分只者じゃないです。


「おおっ! 見ろ、ルリルリが水着になったぞ!」


 ウリバタケとその他整備士は、ルリの水着(水玉フリル付きワンピース)を見、感涙に咽び泣いている。


「素晴らしい・・・! 本当にナデシコはレベル高いよ!」


「そうだねぇ。まさかルリ君が出るとは思わなかったが、こりゃ嬉しい誤算ってやつかな」


 普通にアカツキも混じっているあたり、ガイには信じられないことであった。


「おまえら・・・。犯罪にだけは走るなよ。犯罪にだけは」


 ガイが真人間に見えることからも彼らの異常性が伺える(秋葉原や日本橋では全然スタンダードだが)。


 ちなみに、ガイ的に一番評価が高いのは、勿論ヒカルの歌ったやつである。さもありなん。





 もしも誰よりも早く あなたに出会っていたなら
 想うままに 願うままに 恋をしたでしょうか

 もう一度 もう一度
 生まれ変わって会えたなら
 今度は あなたの
 一番になりたい





 歌が終わった。評価は、ミナトやモモに匹敵する。上々である。


「ルリちゃんやったぁ!!」


「まったく。よくやるわね」


 自分でやろうとしたことは棚上げですか。


『じゃ』


 ルリは、未練も何も残すことなくあっさりと映像を切った。しかし、ブリッジで一人ものすごく赤面しているのは、彼女とオモイカネだけの秘密だ。


「うーん。ルリちゃんもやるなぁ」


「そうですね。あとでチキンライスでも差し入れしましょうか」


「そりゃ喜ぶぞ」


「ええ!」


 横島と明乃が和んでいると、モモが横島の裾をちょいちょいと引っ張った。


「忠夫。早く準備したほうが・・・」


「いけね!」


 横島は明乃とモモへの挨拶もそこそこに、ジュンの元にダッシュする。


「・・・横島くん、何するつもりなんだろ」


「・・・・・・・・・・・・」


 モモに答えるつもりは無い様である。





 ――――――――――





 舞台袖の控え室


「・・・心の準備は出来たか?」


「・・・出来てない・・・けど後戻りは出来ないことはわかってる」


「・・・なら逝くぞ」


「・・・ああ。・・・・・・今、「行く」のニュアンスが微妙に違わなかったか?」


「トレントだ」


「?」


「木の精。きのせい。気のせい」


「・・・・・・」





『さあ皆さん! エントリーナンバー9番! 9番ですがバカと言うわけではありません! まぁバカかもしれませんが!』


 ざわ・・・なんでナンバー9がバカ?・・・ざわざわ・・・ざわ・・・元ネタが分からん・・・ざわざわ・・・成程、Hか!・・・ざわ


『登場するのは本コンテスト唯一の男性コンビです!』


 ぶーぶー


 観客からブーイングが飛ぶ。


『まぁまぁそんなに嫌がらないで下さい! 出場者は、コック兼パイロット一号(二号は明乃)、横島さん! そしてその相方は、ナデシコ副艦長・アオイ・ジュンさん!』


 おお・・・ざわざわ、ざわペリカざわ、ざわざわざわ


 出場者が横島であると分かり、ブーイングとは違った、ある種の期待感のような雰囲気が漂う。普段の行いが知れるという物だ。


『それでは・・・どうぞ!!』




「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(全員)」




 場内が沈黙に包まれる。登場した二人は、全身が隠れるようにすっぽりと布を纏っている。てるてる坊主そのものな格好と言えば解り易いか。


 流石のメグミも意図を測りかねた様子で、


『えっと・・・横島さん、それはいったいどういう・・・?』


『あ、今から仕上げをしますんで』


『仕上げ?』


 メグミが疑問符を浮かべた時、横島とジュンは布と首の間から手を出す。


 その両者の手の中には、文珠が一個。


『それは・・・!?』


『んじゃ行くぞ! ジュン!!』


 叫ぶが速いか、二人は同時に文珠を発動させる。


『女』×2


 舞台上の二人は眩いばかりの光に包まれた。


 そして現れたのは、





「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(全員)」





 女の横島とジュンだった。


 明乃の、メグミの、優華部隊の、ユリカの、プロスの、アカツキの、イネスの、ヒカルの、イツキの、ウリバタケの、エリナの、ムネタケの、その他もろもろのクルーの目が点になった。


「ふ・・・成程ね」


 点になっていないのは、イズミと、横島が何をするか知っていたモモと枝織と、


「ま、小僧ならこれくらいはしてもおかしくないの」


「イエス・ドクター・カオス」


 横島という人間を分かっている、カオスとマリアくらいであった。


 また、ブリッジのルリはコンソールの頭をぶつけてしまい、無言で痛みをこらえ、リョーコも格納庫で横の鉄筋の柱に頭をぶつけてしまっていた。


 ちなみに、横島とジュンの格好は、膝上まで隠れる大きさのぶかぶかのセーター。


 ただそれだけであった。


 袖口から除く手は半分以上が隠れ(横島曰く、それがいいらしい)、ほとんどミニスカート同然のセーターの裾と大腿部との境目は、絶対領域と呼ぶ他無い絶妙のラインを描く。


 彼(彼女?)らの容姿も説明せねばなるまい。


 ジュンは、顔つき自体はちょっと女っぽくなっただけでそれほど変わっていない(つまり問答無用で可愛い)。しかし、身長はやや縮み、体は全体的に丸みを帯び、セーターの上からでも分かってしまうバストの量感は、ユリカのそれと比べても勝るとも劣らない。なによりも真っ赤な顔で俯いている様は、男性クルーの数名のハートにクリティカルヒットした。・・・してしまった。ご愁傷様。


 横島は、正直元の顔とは面影を少々残しているだけで全然違う。ハッキリ言って、美人だ。ウリバタケ他何人かは、「なんで女で生まれなかったんだこのヤロー!!」と後に本気で憤ったと言う。原作のエクトプラズムスーツを着た横島を参考にして欲しい。それとほとんど変わらない。


 そんな二人がぶかぶかセーター一丁。下着は不明。


 ほぼ全員の開いた口がふさがらないのも無理は無い。


 そして数秒後、





 う、お お お お お お お お お お お お お お お お お お お お ! !





 絶叫と怒号と悲鳴と絶賛の入り混じった叫びが会場を席巻する。





 叫びに包まれた横島らにも新たな動きが見えてきた。臆することなくポーズを取っていた横島が、横のジュンのほうを見た。


「!」


 見た瞬間、横島の動きが止まる。そしてそのまま凝視する。


 横島の視線を感じたのか、俯いていたジュンは、のろのろと横島のほうを向く。すると、横島のように動きを止め、同じように相方の顔を凝視してしまう。


 そのまま、ぼんっとジュンの顔がさらに赤くなった。


(おい!(全員))


 会場の人間が心中で突っ込みを入れたのも無理は無い。なぜなら羞恥以外の理由での赤面であることは明らかだったからだ。


「おい・・・ジュン、お前・・・」


 横島がなんとか言葉を搾り出すと、ジュンは我に返ったようにビクっと反応し、


「っ!? な、なんだよ・・・」


 ジュンは無意識に体を横島から徐々に遠ざける。これ以上深入りしては危険だと本能が察知しているのか。


「ジュン・・・」


 横島は、半ば無意識にジュンの手首を掴む。


「・・・!」


 ジュンはピクリと体を震わせたが振りほどこうとはしなかった。


「よ、よこしま・・・」


 自分でもなんだか分からない感情で脳内が混沌としたジュンは、ゆるゆると横島を見上げた(身長は横島のほうがやや高い)。その瞳はもう半泣きだ。


 そんなジュンに、横島は言った。



「ジュン、お前に・・・・・・レインボー」


 ジュンは怒ったような顔で(顔が赤いので照れてるようにしか見えない)目を逸らし、


「ば、馬鹿・・・! 意味が・・・その、解らないだろ・・・」





「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(全員)」


(これを写真に撮って薔薇のフレームで飾って額縁に収めて量産して一枚三千円で売りさばいてそれかr)←メグミ。


(お似合いだなんて思ってない・・・羨ましいなんてもっと思ってない・・・!)←明乃。


(嘘・・・今度こそ絶対に嘘よ・・・! 横島さんに、横島さんにときめいたなんて・・・!!)←零夜。


(たー君・・・。ドキドキ)←枝織。


(背後にお花畑を幻視してしまった私は、破廉恥な女なのかもしれん・・・)←万葉。


(ボクはもう、駄目かもしれません)←ウリバタケ。


(忠夫にレインボー)←モモ。


 各々の心中も混沌としているが、それを打破したのは、この雰囲気を作り出した張本人だった。


「あ、いけね。ここ舞台上じゃん」


「あ”」


 横島とジュンが観客のほうへ勢いよく振り向くと、赤面したり、顔を手で覆いつつ指の間からしっかり見ていたり、逃避したり、諦観したり、まあとにかくいろんな表情をしている人たちが目に入った。


「「・・・あー・・・」」


 結局、観客全員が正気に帰るまで約五分を要した。





 ――――――――――





『あー、オホン。えー思わぬアクシデントにしばし中断してしまいましたが、再開したいと思います!

 横島さん! 今度は変な雰囲気を醸し出さないで下さいよ!』


『了解ス』


『えーと・・・これはデュエットのようですね。はい、それでは! ミュージックスタート!!』






〜Feel me, See me, Hold me〜


 Sunday sunshine 眩しい空の下
 高速とばして追いかける パッション・ブルー

 Gentle breeze
 君の髪をなで 僕に届く I LOVE YOU 心に気持ちいい

 白いTシャツと甘い声のドンファン
 覚えてる 運命の時
 こんな日だったね遊び半分 本気チラリ 見えてドキドキ!

 Baby,feel me,see me,hold me
 熱いエナジー あたえたい
 ときめく鼓動 聴きながら






「上手い・・・?」


「普通に上手いな」


「いや、かなり上手いよ」


「むしろ可愛い」


「それはもういい」


 観客は、思いのほか優れた歌唱力を持つ横島とジュンに感心する。


 横島は、本人曰く、「カラオケタダちゃん」と言われるほど歌が上手いらしいが、今の様子を見る限り丸っきりの嘘ではないようだ。超絶上手いと言う訳ではないが。ジュンは、器用貧乏気味ながら、なんでもそつなくこなすその特性を活かし上手く横島に合わせている。


 つまり、他の出場者に勝るとも劣らないと言うことだ。





 Radioから溢れる Love song 口ずさみながら 指をつないだ 

 駆け出す気持ち おさえきれない この愛しさは とまらない
 あなたの瞳に見つめられて
 いつまでも弾けていたい

 Baby,feel me,see me,hold me
 光あつまる supirit
 君といるだけで 空気が跳ねる

 Baby,feel me,see me,hold me
 熱いエナジー あたえたい
 元気が元気を呼んでる


 黄昏 静かに2人を包む 夕闇迫る前にkissしよう

 Baby,feel me,see me,hold me
 光あつまる supirit
 君といるだけで 空気が跳ねる

 Baby,feel me,see me,hold me
 熱いエナジー あたえたい
 ときめく鼓動 聴きながら

 君といるだけで いつも Sweet gentle dream





 歌が終わる。それと同時に、ウリバタケがサクラの拍手音と歓声の音声を流そうとしたが、


「・・・必要無ぇわな」


 と呟くに留まった。今までのほとんどの歌にも必要なかったし。


『はいどーもありがとうございました! やはりと言うかなんと言うか、水着姿は披露して貰えないようですね! されたらされたで困りますが! でもここは・・・』


『あーちょっと待ってメグミちゃん』


 メグミの質問を横島が遮った。


『はぁ。なんでしょう』


『実を言うともう時間が無い』


『・・・まさか』


『そろそろ文珠の効果が切れる』


 その横島の言葉に、観客がシーンと静まる。さっきから実に両極端だ。


『はいどーもありがとうございました! さっさと下がるなりなんなりしてください! 続きましてはエントリーナンバー10番! テンカワ アキノさんです!』


 どうぞー、の声と共に登場(横島らが現在引っ込んでいる舞台袖とは逆方向)する。その姿は、ピースランドで着ていた、シンプル極まるグリーンのカクテルドレスだった。


 ほほー、と観客からは物珍しいような感心したような声が上がる。


「あれー、あっちゃんのあの服って」


「うん。あの時のヤツだね。枝織ちゃん」


 事情を知る者たちは微苦笑を漏らす。


『えー、珍しい物を見せていただき、それだけで眼福ですがさらに歌を披露してくれるとの事! んでは、テンカワさん、どうぞー!』


 ミュージックスタート。





〜煌星(きらぼし)〜


 絆 どこにあるの
 夜毎 キミを想う
 月の鏡 映すのは
 遠い約束

 懸命に生きていたあの季節(とき)
 のみ込まれあがいてた
 おかしいくらい千々に乱れて

 キミのくれたぬくもりを抱きしめたまま
 立ちつくし 仰ぐ宙(そら) 自由に飛べなくて
 かざした手が掴むのは 霞む煌星
 忘れない 束の間の夢





「あ〜メイクが落ちない」


「・・・」


「おい、横島。何でメイク落としくらい用意してなかったんだよ?」


「・・・」


 横島は着替えることも忘れ、舞台上の明乃の歌に聴き入っていた。


「おーい、横島ー?」





 翼 いつか折れて
 闇に 心迷う
 甘い痛み頬なでて
 涙 はじけた

 悲しみが支配する地球(ほし)へと
 差し出したキミの手は
「あきらめるな」と教えてくれた

 キミの何も知らず ただ 甘えていたね
 運命に気づかずに「わかりあえた」なんて
 かざした手が掴むのは 霞む煌星
 永遠で 束の間の恋





 明乃はここで水着チェンジ。以前テニシアン島で着ていたものと同じ赤いワンピースだ。


 他の場合と同じく、観客は大いに盛り上がるが、横島はシリアスな顔を崩さなかった。


「珍しいな横島。せっかくの水着に何も反応しないなんて」


「・・・」


 ジュンの言葉に横島は何も反応しなかった。


「・・・。どーせ僕は影が薄いよ。フン。でも返事ぐらいしてくれたっていいだろ。て言うかいい加減着替えろっての・・・」


 ジュンはいじけました。




 
 扉を今開けて 心の向くままに
 歩き出せる キミがくれた未来へ


 キミの何も知らず ただ 甘えていたね
 運命に気づかずに「わかりあえた」なんて
 かざした手が掴むのは 霞む煌星
 永遠で 束の間の恋
 キミのくれたぬくもりを抱きしめたまま
 立ちつくし 仰ぐ宙 自由に飛べなくて
 かざした手が掴むのは 霞む煌星
 忘れない 束の間の夢


 永遠で 束の間の・・・・・・






 最後のフレーズを言った瞬間、明乃は横島のほうを見た。


「!?」


 横島は驚いたが、その時には明乃は視線を元に戻していた。横島のほうを見たことも気のせいであったかのようだ。


「明乃ちゃん・・・」


 横島は、自分でもなんだかよく分からないが、明乃の歌が随分と心に響いた気がした。





「・・・いい加減着替えたほうがいいんじゃないか? 字面じゃ分からないけど、今の横島の格好、シリアスが台無しだから」


 ジュンの親切な突っ込みは、やはり横島には聞いてもらえなかった・・・。





 ――――――――――





『えー、思いのほかレベルの高かった本コンテストも、次でラストとなります!』


『・・・・・・』


 解説席に戻ったジュンだったが、気まずげな顔で黙ったままだ。勿論、誰も気にしない。


「・・・」


「・・・」


 横島と明乃も、微妙に赤い顔で黙ったままだ。


「たーく〜ん。やっほー」


「むー」


 枝織やモモがつついても反応は鈍い。


「むむ・・・」


「・・・むー」


 剥れる二人。なんか可愛い。


『最後の出場者は、ゲストの優華部隊からの出場者です!』


「何!?(優華部隊&横島)」


 やっと反応した横島と優華部隊は、自分の周りを見回す。


『ではエントリーナンバー11番! 各務千沙さんです! どうぞ〜!』


「いない! 確かにいないですよ!」


 京子が周りを見回しながら言う。


「変な歌を唄ったりしないだろうな」


「でも意外だな〜。千沙ちゃんがこーいうのの出るとはな〜」


「そんなに意外なんですか?」


「ああ。優華部隊のまとめ役だから、結構まじめなイメージ持ってたけど」


 横島はそこまで言って、他の隊員を見た。


「・・・ストレスでも溜まってたのか?」


 ぎく。





〜ドリーム・シフト〜


 大事なことなんて 自分で見つけるよ
 教室の窓から見てる 青空の下
 やりたいことばかり たくさんありすぎて
 机の前になんて じっとしていられない






「・・・明るい歌だな」


「そうですね」


「なっ! この歌は!?」


 急に、何故か隣にいたガイが驚く。


「知っているのかガイ!?

 ・・・てか何時から居たの?」


「ああ、この歌は・・・」





 非常ドアを 開けるたびに
 胸がなぜか ドキドキする
 新しい世界へ 飛び出すスリル
 君にも 教えたいよ

 ひとりじゃないさ
 くじけそうなときは
 闘う勇気を ささえてあげるよ
 未来はいつも
 僕らがヒーロー

 夢見る力は


 絶対無敵ライジンオー





「それが言いたかっただけかーーーーーーーーーー!!(横島&優華部隊)」



















































 続く。










イネス先生の、なぜなにナデシコ出張版

 良い子の皆さんお久しぶり。今日もなぜなにナデシコの時間がやってきました。ここではいつものように「GS横島 ナデシコ大作戦!!」のギモン・専門用語・モトネタ等を、解りやすく、かつコンパクトに説明するわ。


Q1:ルリの父が殆ど別人である件。
 
 仕様だから見逃して。


Q2:中村浩一郎って?

 登場作品:プレステ版、奏(騒)楽都市大阪

 大阪圏総長。馬鹿なナルシストのように見えるけど、先見派で頭も柔らかく、更に強くて人望も厚いスーパーな人。でも、ゲーム中では主人公の最初の敵なので弱いイメージしかもてないのが欠点(?)。新聞作りは門外漢なのね。辻巻元治の幼馴染で、「自分が全ての慣習を断ち切る」ことを義務と考えているわ。

 作中ではただの馬鹿だけど、ゲームとは微妙に違うから注意。でもくるくるポーズを変えるのは本当。そーなのかー。

 使用神器:烈神。CV:置鮎龍太郎(マジ)。


Q3:ミナトさんが着た振袖、なんで意味深なの?

 振袖は、「未婚女性の第一礼装」と言われてるから。つまり、「私はまだ未婚でフリーよ♪」という無言のメッセージが込められているから・・・かも。江戸時代初期では子供と18歳までの未婚女性が着る着物とされてたけど、今ではそうでもないみたい。ちなみに、既婚女性が着るので一般的なのは留袖。


Q4:もらい泣きって?

 作曲:溝渕 大智、マシコ タツロウ、武部 聡志 作詞:一青 窈(ヒトト ヨウ) 敬称略。

 2002年、台湾生まれの一青 窈さんのヒット曲よ。有名な歌だから聴いたことある人も多いんじゃないかしら。良い歌かどうかは聴く人によって違うからどうこう言わないわ。個人的感想を言わせてもらえばいい歌だと思うけどね。

 80%の速度で再生すると平井堅が歌っているように聞こえるのは有名な話。


Q5:まっくら森のうたって?

 作詞&作曲:谷山浩子 敬称略。

「みんなのうた」に登場する歌の一つ。みんなのうたの中でもかなりの人気曲らしいわ。不思議な歌詞と神秘的な曲が人気の秘訣かしら。

 ちなみに、タイトル付記に「本橋靖昭作「まっくら森」より」とあるけど、実際絵本になったのは2004年の話よ。 初回放送は1985年の話なのにね。


Q6:エントリーナンバー9番=バカ?

 9番→H→バカ。  H=チルノ。

 意味が分からない人はそれで良し。


Q7:Feel me, See me, Hold meって?

 作詞:伊邑早 作曲:慈恩礼音 敬称略。

 スターダスト・レビューと田村直美の企画ものデュエット「GeNTLe BReeZe」の曲。マイナー? オロナミンCのCMソングで流れたこともあったわね。

 で、作曲の慈恩礼音ってジョンレノンって読むの?


Q8:煌星って?

 作詞:江幡育子 作曲:磯江俊道 敬称略。

 ニトロプラスのゲーム、「”Hello,world.”」のトゥルーエンド時のエンディングテーマ。欠点はトゥルーエンドがノーマルエンドより燃えないこと(ぇ。


Q8:ドリーム・シフトって?

 作詞:篠原仁志 作曲:和泉一弥 敬称略。

 テレビアニメ「絶対無敵ライジンオー」テーマ。ライジンオーは一年では終了せず、五年三組→六年三組に進級した珍しいアニメよ。


Q9:なんで横島と優華部隊は最後に突っ込みを入れたの?

 千沙さんの搭乗機が雷神皇(らいじんおう)だから。






 あとがき。


 はいどうも。お久しぶりです。


 ・・・ええ、言い訳しません。遅れた理由はありますが、ただの言い訳にしかならないんで。ごめんなさい。


 で、今作ですが、実を言うと、ルリのエピソードも、横島&ジュンの女性化も、明乃の歌も、全ては最後の千沙の歌の前フリに過ぎません!(どーん)

 長い道のりでした。書いては消し、書いては消しの繰り返し。その際、ルリの育った施設の話は全部削りました。コンテストでのイツキの唄うシーンも削りました。それでも長ぇ!


 思えば、私がSSを書き始めたきっかけは、「時の流れにで千沙の搭乗機が雷神皇だったから」と「都市シリーズとナデシコSSのクロスオーバーを読んだから」ですから。本当です。前者を見たとき、

「雷神皇といえばあのライジンオーしかねーよなー」

 後者を見たとき、

「やっぱ都市シリーズと言えば逆襲のジャーだよなー。作者さんにメール送ろっかなー。「逆襲のジャーは出ないんですか?」って(実際メール出しました)」


 この二つを読んだ当時は自分がSSを書くなんて考えもしてなかったんですが。でも、きっかけになった二つのネタを書けて満足です。満足ですがまだ続きます。





 あ、結局この後は、色々あってユリカが艦長に戻りました。


 では、次回は何時になるか分かりませんが、このへんでさようなら。

 失敬。

 

 

 

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代理人の感想

マジか(爆)。

 

それはともかく、「まっくら森」は割とストレートに意表を突かれました。好きな曲だってのもありますけどね。

 

>「トレントだ」

トレントはD&Dがでっち上げた名称で正式にはエント。

おまけにエントは「喋って歩く樹」であって「木の精」ではないのでそこんとこヨロシク!

と、TRPGファンとして大人気ない突っ込みをしてみたり。

 

>まっくら森原作

これは元々本橋氏の構想していたファンタジーワールド「まっくら森」があって、「まっくら森」の話を本橋氏から聞いたNHKのプロデューサーが歌を作ってアニメもつけて放映したら大ヒットしてしまったんだとか。人生何があるか分からんものだ(笑)。

 

>ライジンオーは一年では終了せず〜

いや、TVが終了した後に「6年生の地球防衛組」(TVシリーズ時は5年生)を主人公にしたOVAシリーズが出ただけだから(笑)。