ある日、時空管理局の管理外世界に機動六課が派遣された。
 そこは、第97管理外世界極東地区。

 簡単に言えば、地球の日本。
 さらに細かく言うと、鳴海市だったりするのだった。

 言うまでもなく、エースオブエース、高町なのはの故郷である。








 


GS横島 ナデシコ大作戦!!
分岐IF、リリカルなのは編


中編












「ごめん、なのは。久しぶりに帰ってくるから、いい情報を用意したかったんだけど……」


「ううん。いいよアリサちゃん。こっちも無理に頼んでることだし」


「無理なんかじゃないよ。横島さんの捜索は、私たちも望むところなんだし」


 六課の滞在場所である市の郊外のログハウスの前に、三人の美女が顔をつき合わせていた。
 高町なのは、アリサ・バニングス、月村すずかである。


 闇の書事件の最中に行方不明になった横島忠夫の行方は、未だに不明であった。
 なのはやフェイトが後ろ髪を引かれつつも地球を離れる事になった際、友人二人に横島の捜索を頼み、友人もそれを快く引き受けた。
 尤も、未だ手がかりすら掴めない様だが。


「横島……。フェイトさんのお兄さんですね」


「え、なに、エリオ。その横島って人知ってるの?」


「ええ。良く話してくれますよ」


(横島……。どこかで聞いたような……)


 スバルとエリオが話す傍ら、ティアナは既視感を覚え首を捻っていた。


「どんな人なんですか?」


「どんな人……うーん」


 スバルの素朴な疑問に。横島を知る人は、一瞬思案した後、言った。


「ちょっとHだけど、すごくいい人なの」
「自慢の兄さんかな。あとはなのはと同じ」
「殆ど会ったことない大恩人やね。めっちゃ女好きやって聞いとる」
「面白い人かな。ナンパばっかリだけど」


 上から、なのは、フェイト、はやて、美由希である。
 

 なのはらの大事な人だというからどんな人かと思ったら、結構な女好きらしい。
 ティアナとスバルは、目を丸くして顔を見合わせた。
 エリオとキャロはある程度話を聞いたことがあったのか、驚いていないようだ。
 ヴォルケンも、敵対時に数回程度だが面識はある為、それについては知っていた。嫌というほど。


 余談だが、実ははやては横島と面識が殆ど無い。
 事件中に数回会ったことがあるのだが、正直どんな会話を交わしたかも覚えていない。
 闇の書に飲み込まれたはやてを救出しに飛び込み、それが全てが丸く収まる決め手となったそうだが、それ以後横島は行方不明になってしまった。
 そのことについては、はやてにとって負い目になっているのだが、親友二人はまったく恨む様子も無いのだった。


「私との初対面の時もナンパされたんだよね」


「そうなんですか?」


「うん。急に現れたかと思うとナンパしてきて、どう断ろうかと考えてたら恭ちゃんと忍さんが通りかかってね」


 あの時はどう断ろうかなぁ、って思ってたんだけどね、
 忠夫ちゃん(横島)ったら、急にわたしから忍さんに狙いを変えてナンパしだしたんだよ。
 その気はなかったって言ってもムッときたね。あの時は。え、当たり前だって? ふふ。ありがとう。

 で、忍さんへのナンパは、恭ちゃんもいたし当然目は無かったの。そしたらまたわたしをナンパしだして。
 いい加減ちょっと頭に来たから、恭ちゃんに勝てたらエスコートに付き合ってもいい、って返したの。
 そしたらもう一触即発! 恭ちゃんは、恋人の忍さんをナンパして、返す刀で妹の私までナンパしだしたから完全敵認定。
 忠夫ちゃんも、恭ちゃんが相当気に入らなかったみたいで。え、何でかって? そうね……。その時の忠夫ちゃん曰く、

 ワイにはこの世で許せんものが三つある。それは……。
 イケメンと、金持ちのイケメンと、彼女持ちのイケメンじゃー!
 ってね。

 あっ、そうそう、そんな感じ。今の皆みたいに、私と忍さんもがくっ、ってコケちゃって。
 恭ちゃんもちょっと毒気抜かれちゃったんだけど、その時だったんだ。

 急に防御体勢を取った忠夫ちゃんが、防御しきれずに吹っ飛んだの。

 ……ん? 何を言ってるのか解らない?
 そうだね。でも、見たままを説明するとそうなっちゃうから。

 うーん……言っちゃっていいのかな……。
 まぁいいか。えっとね。わたしたちの使う技術に「神速」ってのがあるの。
 え? とても速く動く技術かって?
 うーん、傍から見るとそうかな。でも実際はもっと違うんだけど……。まあそれでいいや。

 恭ちゃん曰く、忠夫ちゃんから想像を超える脅威を感じたらしくて、咄嗟に神速を使ってしまった。って言ってた。
 で、神速の発動を、忠夫ちゃん曰く、とてつもなくヤな予感がして咄嗟に体が動いた結果、ガードしたけど堪えきれず吹っ飛んだって。

 それだけでも驚異的なんだけど、一番驚いたのは、
 生身の人間の分際で、生身の人間に対して超加速なんか使うな! って言った事かな。
 神速をしのいじゃう人は居る事は居るよ。偶然避けちゃうこともあるかもしれない。
 でも、神速を、またはそれに類する技術を知ってるのもそうだけど、
 ただ驚いただけで、スポーツか何かで反則をされた程度の反応しか返されなかったのが一番驚いたよ。




 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆




(まさか生身の人間が超加速(?)を使うとは。でも、偶然とは言え防げたから、付け入る隙はあるか……?)


 とは言え、『速』の文珠を使っていなければ偶然でも防げなかっただろうが。
 横島は確認の意味を込め、超加速のようなものの使用を誘うため恭也を挑発した。


「ちょっとビビったけど、大したことねーな! 次は完璧に防いだるわい!」


 その言葉に、恭也は表情を険しくする。
 と言うか、そんな強気な台詞を言われて素直に神速を使うだろうか。ただでさえ防がれたばかりなのに。

 横島は、使ってくる、と踏んだ。
 超加速のような技術を人間が使えるとは驚きだが、まさかそれ以上の物は持っていまい。
 ならば、それ以下のもので横島を倒せるとは思わないはず。

 使ってこないならそれでよし。『加』『速』かなんかで速攻で沈めればいい。
 使ってくるなら……。


(『反』『射』だな)


 この場合の反射とは、跳ね返す、と言う意味ではない。
 偶然とは言え、咄嗟にガードできた所を見ると、意識は加速できても、体まで通常通りに動かせるわけではないようだ。
 だから、反射的に防ぐ。
 超加速を使った瞬間、自分自身は反応できなくても、体を『反』『射』的に動かして、防いでみせる。


 恭也らの使う「神速」は、横島の世界の超加速とよく似ている。
 使用の感覚としては、自分以外の全てのものは止まっているのに自分だけは動けるというもの。
 神魔族の超加速も、自分以外の速度を極限まで遅くすると言うものである。
 両方に共通することとして、実際に物凄い速度で行動できるに関わらず、脳がその速度域を認識できる。
 とは言え、流石に人間の扱う神速は神魔族の超加速と違い、体までが完全にそれに付いて行けるわけではない。それは自分の動きがスローモーションのようになることからも伺える。横島の推測は正しい。
 
 だが自分の動きがスローになるとは言え、そんな反則的なモノをなぜ偶然とは言え横島が防げたか?
 神速は深く視覚に集中することにより深度が増す。とっさの神速では集中力が十分と言えなかったのだ。
 なので、自分ではゆっくりに見える攻撃動作も、実際はかなり勢いがついていたため、横島の動きが見えてはいても対応しきれなかったのだ。
 見た目ゆっくりとは言え慣性はしっかり働いていることだし。


「……面白い」


 恭也は、神速の使用に踏み切った。


「防げるものなら」


(『反』『射』!)


「防いでみろッ!!」


 先ほどより集中しているであろう超加速(神速)。これでは、仮に防御姿勢をとったところで、
 何とか軌道を曲げて防御部分以外に攻撃を入れてくるかもしれない。
 だがしかし、先ほどの攻防、横島はすでに『速』の文珠を使っている。
『反』『射』と『速』。これらを使えば、深く集中した神速の攻撃速度にも体が対応してくれるはず。

 恭也が吼えた瞬間、恭也の殺気に横島は「神速の領域に入る前に、反射的に」栄光の手で防御姿勢をとる。
 刹那、やはり木刀とは思えない凄まじい衝撃が横島を襲う。
 しかし、今度は腰を落とし衝撃に備えていたため、大きくのけぞる程度で済んだ。

 そして、


『超』『加』『速』


 横島は、文珠で超加速を発動させた。超加速のようなものを使う相手に遠慮はしない。
 たとえ相手が超加速を使えようと、使用直後に間髪入れずには使えないはず。それほど安い技術ではない。
 使えたとしても、「やばい、もう一回!」と思考する時間は、超加速で一発入れる時間としては充分すぎる。


(入る!!)


 恭也は、横島が超加速を使った事に気付いているようだ。しかし、やはり動けない。
 横島は、驚愕を顔に貼り付けた相手に、霊波刀を(手加減して)振り下ろそうとしたが、


「恭ちゃん!!」


 美由希は、攻撃を防がれ体制を崩した恭也を見て咄嗟に木刀を投擲していた。神速が使える彼女ならではの芸当だ。
 だが実際の所、彼女に勝負を邪魔する意図は無かった。
 ただ、恭也が危機に陥った、と言う事実に反応し、とっさに援護してしまったのだ。

 とは言え、横島は超加速中である。
 木刀が横島に到達する前に、霊波刀を十回は振れるだろう。だが。


 横島は、肩を竦めた。


「!?」
「!?」


 恭也と美由希は驚愕した。
 横島は、木刀を投げた美由希を見て目を丸くした。そして、肩を竦めた。木刀を投げられたのにだ。
 そして、当然のように木刀は横島の顔面に命中し、快音を響かせた。


 ちなみに、このやり取りは時間にするとほんの一瞬の事であり、表現すると、
 気付いたら恭也の攻撃を横島が弾いた瞬間に木刀を食らって吹っ飛びなぜか恭也が呆然するという図だった。
 日本語としておかしいが、側で見ていた忍はまさにこれを目撃しており、こう呟いた。


「……わけがわからないよ」


 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆




「それで、むっくり体を起こして言ったの。『やー、振られてもーたなー』って」


 わりかし本気で投げつけたのにねぇ。と美由希は肩を竦めた。
 だが、周りはそんな美由希に突っ込みを入れた。


「いや、振られたじゃないでしょ!」


「あたしに言われても」

 
 アリサの突っ込みも尤もだが。


「あー……。いや、あいつが訳のわからん特技を持ってるのは知ってたけど……」


「と言うか、なんで態々充分避けられる木刀を受けたのだ? 意味が解らん」


 ヴィータとシグナムが呆れを隠さず呟いた。


「後から本人から聞いたんだけど、咄嗟に勝負に割り込んでまで邪魔した事で、今は脈が無いな、って悟ったって」


「でも、勝てばデートできたんじゃ……」


「うん。私もそう思ったんだけど、一対一に割り込むほどに嫌がられたら、デートしたって楽しめないからだって。
で、避けなかったのは、お断りの返事を受け取ったって意味みたい。
別に、あの投擲にそんな意図は無かったんだけどね」


「へー、なかなかカッコええやん」


「そ、そうですかー?」


 はやてとリィンのやり取りを余所に、美由希は続けた。


「それからかな。恭ちゃんが忠夫ちゃんに一目置いたのは。本人は絶対認めないけど」


「美由希お姉ちゃんは、どう思ってるの?」


 なのはは、なぜかやや緊張した面持ちで尋ねた。美由希は「んー、」と唸り、


「改めて考えると難しい質問だねぇ。嫌いではないよ。好きか嫌いかで聞かれたら好きだけど……」


「そう言えば、なのはちゃんと横島さんってどういう出会いだったの?」


「どうって」


 姉にもっと問いたげななのはであったが、すずかの問いかけに出会いを回想する。


「あー……」


「なに、どうしたの? なんか変な事したの?」


「度肝は抜かれたかな……」


 遠い目をしたなのはに、エリオやはやてのテンションが上がった。


「聞きたいです!」


「そやね。なんか興味沸いてったわ」


「……なら、話すよりレイジングハートの記録映像見たほうが早いかな。だって見たままを話してもきっと俄かには信じ難いと思うし」




 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆




 横島が翠屋に入ってまず目に飛び込んだのは、美由希の母、桃子の姿だった。
 桃子は、横島に気付くと、にっこり笑って「いらっしゃいませ」と言った。


「み、美由希ちゃん、あの美人のお姉さまは……?」


「あら、お姉さまだなんて。うふふふ」


 頬に手をあて、特に訂正もせず微笑む母を見て、美由希はややこしい事になる前に先手を打つ。


「あの人、私たちのかーさんだからね」


「えっ」


 横島は、間の抜けた声をあげ、美由希と桃子を何度も見比べた。そして恭也を見ると、黙って頷いた。忍も。
 事実を受け入れられないのか、小刻みに震え何度も何度も母娘を見比べる。


「こんにちは。恭也と美由希の母の桃子です」


「んなこったろーと思ったよチクショーーーーー!!」


 その叫びと共に、横島は涙とともに翠屋を脱兎の勢いで飛び出した。
 ちなみに、なのはもこの場にいたので、最初の印象は、ただの変なお兄さんであった。

 横島は、三十秒で戻ってきた。





 その後、戻ってきた横島と翠屋の面々が当たり障りの無い挨拶を行った。そして、


「で、横島君はどういう経緯で?」


「…………立ち会って負けた」


「ナンパされて……」


 恭也は仏頂面で、美由希は苦笑しつつ答えた。


「ほう」
「まぁ」


 恭也の言葉に父の士郎が、美由希の言葉に桃子が反応する。


「いや、負けたん俺やん(文珠六個も使ってもたし)」


「何処の世界にあれで勝ったと誇るやつがいる? あれは負ける寸前で美由希が割り込んだからだろう」


 横島は、実力勝負ではなく、自分ではなく恭也を選んだことに負けたと言っているのだが、特に訂正したりはしなかった。


「伏兵結構、奇襲上等だろ。勝てば官軍、何でもあり。ワイもよく罠とか仕掛けるし」


「しかしだな……」


「君は、面白いことを言うね」


「あ、いや卑怯なだけっスよ」


 感心したような士郎の声に、横島がちょっと照れながら頭を掻く。


「おい、彼女持ちのイケメンは許せないんじゃなかったのか?」


「さすがに既婚者にンなこと言わんわ。……滅多に」


「おい」


 と、そんな感じで高町一家とわりと仲良くやっている横島。なのはとも当たり障りのない言葉を楽しく交わした。
 他に美人のお姉さんはいませんか、とか。
 お菓子類をご馳走され、グラスのジュースを三杯おかわりした横島だった。


「……あれ?」


「どうしたの?」


 横島は自分の体調に違和感を感じた。


「あれ、このジュース、なんか……」


「ああっ、かーさん、これお酒じゃない!」


「ご、ごめんなさい横島君。これ、隠し味に使うリキュールだわ!」


「ああ、いいっスよ。別にちょっとくらっと来ただけだし。何気にもうおれ酒飲める歳だし……」


「そうなのか」


 ちなみに、恭也は現在19歳だったりする。


(あー、なんか気分が高揚してきた気が……)


 横島は、酒に弱くはないが強くもない。
 最近まで未成年だったとは言え全く酒を飲んだことがないということもない。
 だが、バイト時代は金欠で、ナデシコ時代は、結構其の辺はしっかり管理されていた。
 元々素面で盛り上がれる男。酒は成人してから飲めばいい、と漠然と思っていた。


 だから、出されたシュークリームをがっつく前にガバガバ胃にアルコールを入れたせいで、通常より回ってしまったのだ。
 とは言え、気分が高揚している以外は頭の働きもいつも通り。特に問題はなかった。


「そう言えば横島君って、もしかして御神流の関係者なの? 神速使ってたよね」


「それは俺も気になっていた」


 この時期は、美由希の横島への二人称は横島君である。


「何? 横島君が御神流の……? 馬鹿な」


 士郎がこんな反応なのは理由がある。
 実は、御神流の男の剣士は現在士郎と恭也のみ。以前士郎がテロで生死の境を彷徨ったとき、
 恭也が最後の御神流の剣士になると思われていた程である。


「みかみ流?」


「やはり、知ってるのかい」


「ああ、いや。俺のバイト時代の上司の苗字が美神って名前だっただけで。剣士でもないし」


 漢字はこう、とテーブルに水で字を書く。
 しかし、時間移動能力を持つ美神家と、神速を扱う御神流。時間を扱うという共通点は偶然とは言え面白い、と横島は思った。


「ま、俺は理論上なんでもできますから! なんでも!」


 やはりハイになって問題があったようだった。


「なんでも〜?」


 忍がニヤニヤと笑いながら聞き返す。明らかに本気にしていない。


「そ! なんでも。だから超加速の真似事もできたわけで」


「超加速……。神速ではなく? 参考までに、どんな技術なんだい」


「神速が何かは知らねっスけど、超加速は、加速すると同時に自分以外を極限まで遅くする能力で、一部の人外が使ってたっス」


 横島の発言に、桃子以外の大人連中が、俄かに緊張を帯びた。


「やはり……」


「あら、私としては、「人外」って部分に興味が湧いたわ」


 顔を顰める恭也を余所に、忍の唇がゆっくりと弧を描いた。


「え、あれ、ツッコミは?」


「嘘なの?」


「や、本当だけど」


「ふーん……。ねぇ横島君。酔いが覚めたら、ちょっとお話しましょうか」


「はいぃ! 美人のお誘いなら喜んでっ!」


「約束したわよ」


「おい、忍」


「ほっとくわけにも行かんでしょうが」


 恭也らのやり取りを余所に、美由希が笑顔で挙手した。


「はいっ!」


「はい! 美由希ちゃん」


「なんでも出来るって、ホントに?」


「大抵のことならなっ」


「じゃあ例えば……。人の心を読んだりも? ……なーんて、できるわけ」


「できるぞ」


 えっ!? とばかりに今度はなのはも含む全員の視線が集中した。


「出来るけど。やろーか? 心配せんでも浅いとこだけ」


「よ、酔ってるよね?」


「この程度の酔いで失敗せんわ」


 そう言う意味での問ではないのだが。翠屋は再度緊張感を帯びた。
 今更やっぱりいいですとは言えない雰囲気である。


「じゃ、じゃあわたしで!」


 そこでなのはがはいっと挙手した。


「なのは!? 無理しなくても……」


「ううん、わたしが一番ちっちゃいから、見られて困ることも少ないはずなの!」


「いや、別に無理に心読まんでもいいんだが。他の効果でも……」


「いいの!」


 半ばヤケになったようななのはに、横島は困惑の目を恭也に向けた。


「なんだこの流れ……」


「なのはは変に頑固なところがあるからな……」


「まーいーや。んじゃ、やるか」


『読』『心』


 軽く宣言すると同時、文珠を握り締めた手が碧に輝く。


「!?」


 本当に起こった超常的光景に、一同は息を飲んだ。だが横島はあくまで気楽な様子だ。
 文珠を握った手を軽くなのはの頭に当てた(当てる必要はない)。

 すると。


 横島の顔から赤みが消えた。そして、


「そぉいっ!」


「ぬおぁ!?」


 横島が急に霊波刀を恭也に向かって振りぬいた。恭也はすんでのところで屈んでかわす。


「何をする!?」


「何をするじゃねーよ! てめーなのはちゃんを辛い目に遭わせやがって!」


「何の話だ!」


「なのはちゃんが幼稚園児の時、構ってやらずに放置してただろ!?」


「!!」


 横島の言葉に、恭也のみならず、なのは含む高町家全員が顔を強張らせた。


「なぜ……それを……」


「心を読むっつったろ! それよりどういうことだ? ちらっと見ただけだから詳しい事は解らんが……」


「あ、あれはしょうがないの! あの時は……」


 なのはが、横島に向かって弁明する。
 曰く、
 
・その時期は、士郎が事故で重傷を負って動けなかった。
・桃子は、まだ軌道に乗ってなかった翠屋の切り盛りに四苦八苦で余裕が無かった。
・恭也と美由希は、父の看病と母のサポートで手一杯だった。
・だから、家族は誰もなのはの相手を十分には出来なかった。もちろん不可抗力。

 と言う事だった。


「……そっか。悪いな。事情も知らんと」


「……いや。あの時のなのはの事を思えば、責められても無理はない」


 横島は、子供は遊ぶのが仕事だと思っている。
 もちろん、特殊な環境や事情で遊ぶ事が出来ないもの、そもそも紛争などで遊ばせておく余裕がないものがあるというのは解る。
 しかし、横島は遊ぶことが出来るのに遊べなかったのは許し難い悲劇だと思っている。
 たかが幼少時の遊びと言うなかれ。平和な国の中流家庭の子供が、家族に構われず寂しく過ごす事がどれだけ心を傷つけるか。
 そもそも周囲に同年代の子供が居らず、修行の毎日だった恭也。周りも同じく遊び呆けてなど居ない紛争国の子供。
 彼ら彼女らはそれを辛くは思っても疑問は抱かない。前者は、比較対象が居ないから。後者は、回りも自分と同じだから。
 
 だがなのはは、周囲の子供が自分と違い、家族と共に楽しそうにしているのを見て、どんな気持ちだったか。

 横島自身はどうだっただろうか。
 思い出す間でもなかった。友達と遊び呆けていた。それだけでなく、度を越えた悪戯をしたときは、両親からしっかり怒られていた。


 なんて幸せだったのだろう。


 横島は、一瞬恭也に対し説教をしそうになった。
 忙しいとは言え、小学生にもならない子供を放置するのは何事か。
 忙しいからと。不器用でどう接していいか解らないからと。それを理由にしていいのかと。
 自分は普通に育ってきたくせに(横島は恭也の修行三昧の幼少時のことなど勿論知らない)、妹に対し何をしているのか。

 だが、所詮は当時の高町家のことを伝聞でしか知らない部外者だ。なのは自身も過ぎた事だと言い、今は幸せを満喫しているようだ。
 ならば、説教などおせっかいに過ぎると言うものだろう。


 横島は少しでもなのはに幼少時に体験し損なったモノを取り返そうと決心した。
 まだ酔いが残っていたのかもしれない。


「なのはちゃん!」


「は、はい」


「遊びに行くぞ!」


「!?」


「いや、横島君、遊ぶのはいいけど、流石に大の大人と子供じゃ無理があるんじゃない? それに職質されかねないわよ」


 忍の冷静な突っ込みにも動じない。職質はともかく、実際横島なら小学生の子供とも遊べる。
 しかし、大人の横島と遊んだ所でなのはが楽しめるかどうかは別問題。だから、


『少』『年』


 横島が文珠を発動させる。文珠の輝きに全員目が眩む。
 光は一瞬で収まり、そこには、肉体年齢十歳の横島が。

 全員の目が、点になった。


「さ、遊びに行くぞ! なのはちゃん、友達を集めろ!」




 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆




「「「えええええええええええ!!」」」


 はやてとアリサとすずかの絶叫が周囲にこだました。


「ウソやん! なんでもアリなん!?」


 叫べるだけはやてはマシなほうであった。ほかは呆気に取られて言葉も無い。
 美由希だけは、「ああ、あったあった」とのんきに言っていたが。


「こ、この人が、あの時期一緒に遊んでたタダオ君!?」


「ウソでしょ……」


 当時一緒に遊んだ記憶のあるアリサとすずかは、かすれる声でそう言うのがやっとだった。


「そうなの。度肝を抜かれたわたしの気持ち、わかってもらえた?」


「度肝がどうこうってレベルじゃないでしょ……。て言うか、小学生女子と一緒に遊ぶ二十歳男ってどうなの……」


「ふふ、でもアリサちゃん、タダオ君……じゃなくて横島さんが来なくなってから寂しそうだったでしょう。
『今日はタダオは来ないの?』とか言って」


「あ、あれは急に現れたやつが急に来なくなったから気になっただけよ!」


「へぇ〜」


「つーか、聞いてる感じだと、子供になってなのはたちと遊んだのって、一回じゃないように聞こえるんだが……」


「うん。ジュエルシードの件が片付いた後は何度も」


「うおお……」


 ヴィータの呟きにあっさり頷くなのは。ヴィータは横島に戦慄した。ドン引きしたといってもいい。


「なのは」


「なに、フェイトちゃん」


「私、子供の兄さんと遊んだ事無い」


「うん。あのときフェイトちゃんミッドにいたし……あ、ごめんなさい。その虹彩の消えた瞳、やめてもらえませんかスイマセン」


 バンダナを巻いた左腕を掻き抱き、フェイトはなのはににじり寄った。ハイライトの消えた瞳が真面目に恐い。


「ねえ、ティア。あの人って……」


「落ち着いて。まだ他人の空似って可能性が」


「可能性が? ちょっと無理があると思うよ」


「び、微粒子レベルで……」


 そんな二人を余所に、はやてが一つのデバイスを持って来た。


「なあなあ、もうちょっと横島さんの記録映像見てみぃひん? 私めっちゃわくわくしてきたわ」


「はやてちゃん、いい趣味とは言えないわよ」


 シャマルがたしなめるも、はやては止まらない。


「過去の事件の記録映像のチェックや! 別に法には触れてへん!」


「大丈夫なの、なのはの部隊」


「う、うーん……」


「僕は見てみたいです!」


「わたしも!」


 エリオとキャロは、横島の映像がもっと見られると言う事で賛成票に投じた。
 憧れていた横島が想像以上に凄い人だと知り、好奇心が押さえきれないようだ。

 比較的真面目なヴォルケンは難色を示したが、主はやてが乗り気なのである。強くは反対できなかった。
 フェイトは言わずもがな。美由希やアリサ、すずかも見てみたいようである。


「ところでそのデバイス、クロノ君のS2U?」


「せや。デュランダルがあるけど、予備も定期的に整備しておきたいって、六課に預けられとったんよ」


 そんなこんなで、結局記録映像は再生された。横島が登場する場面で、比較的長い部分を。




 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆




「もうすぐよ……もうすぐ、アルハザードへの道は開かれる……!」


 プレシア・テスタロッサは狂気に彩られた瞳でなのはらを睥睨する。どんな言葉も届きそうに無い。
 背後には、なにやら液体で満たされたカプセルに浮かぶフェイトと瓜二つの少女。彼女がアリシアだろう。


「その辺にしとけよプレシアさんよ。アリシアちゃんはそんな母さんは見たくないって言ってるぜ」


 プレシアの瞳の焦点が、ぎろりと横島にあわさる。その殺気は、質量すら伴っている気がする。


「……今、なんて言った? もしかして、何も知らないあなたが、勝手にアリシアの気持ちを代弁したの?」


「実際アリシアちゃんから聞いた」


「なんですって」


「言ってなかったが、俺は霊能力者でね。幽霊と会話できるのさ」


「……」


 プレシアはデバイスを横島に向けた。妄言に付き合う気はない。
 しかし魔法を行使する前に、横島は言う。


「なんなら、会話させてやろうか?」


「なん……ですって?」


『具』『現』


 横島は返事を待たずに文珠でアリシアの霊を実体化させた。
 本来ここまで簡単に具現化できるものではないのだが。


『……』


「あ、アリシア!? 本当にアリシアなの?」


「横島……。なんだあれ」


 クロノがぎぎぎ……と顔を横島の方へ向けて言った。


「なんだ、ってアリシアちゃんの霊だって言っただろ。ちなみに、アリシアちゃんは「母さん」って言ってるぞ」


「幽霊って、そんな非科学的な」


「魔法があったんだから、幽霊の一人もいていいだろ」


「何だその理屈!」


 横島とクロノが漫才している間、プレシアとアリシアが静かに、時に煩く会話していた。
アリシア曰く、プレシアのそばにずっといた。
 自分を生き返らせるために病気の体をおして更にぼろぼろになっていくのを見ているのが辛かった。
 フェイトにあんな仕打ちをするのは流石に許せない。
 もう自分のことはいいからフェイトを幸せにしてやってくれ。

 概ねそんな主張をした。


 最初はアリシアを偽者なのではないかと疑っていたプレシアだが、
 二人しか知らない思い出や、この時の庭園での自分一人の時の様子を詳しく描写されては、プレシアも信じざるを得ない。
 アリシアとずっと一緒だった事に涙を流して喜ぶプレシアだった。

 その光景に、しんみりする一同。フェイトだけは寂しさと悲しさが混じりあった表情だったが……。


 そのとき、ふと横島はカプセル内のアリシアを見てデジャヴュを感じた。
 あれ、どっかで見たような。


 魂が無い以外はまったく問題が無い体。
 直ぐ側には本人の霊。




 ……………………。

 あれ?




「これもしかして、アリシアちゃん生き返るんじゃね?」




「えっ」


 ポツリと呟いた横島に、その場の全員の視線が集まった。
 そして激しく反応したのはやはりプレシアだった。


「どういうこと!?」


「い、いや、絶対生き返るって決まったわけじゃ」


「い い か ら こ た え な さ い」


「は、はいっス!」


 横島はおキヌちゃんの事例を思い出した。記憶力に自信は無いが、なんとか脳を掘り起こす。
 おそらくだが、邪霊の近づけない結界、保存の状態の良い遺体、生命力溢れる若い乙女、地脈の巨大なエネルギー、
 そして、そこに括られた霊。……だったはず。

 邪霊の近づけない結界→結界は無いが、邪霊はここ付近に見当たらない。痕跡も無い。
 保存状態の良い遺体→文句なし。
 生命力溢れる若い乙女→若すぎるくらい。
 地脈の巨大なエネルギー→これは無い。でも文珠かジュエルシードがあればあるいは?
 括られた霊→目の前にいる。

 エネルギー以外は完璧だ。おキヌちゃんのときと比べても殆ど遜色が無い。
 エネルギーはジュエルシードでも十分な気はする……と言うか一個あたりの出力は、文珠よりジュエルシードの方が断然上だが、
 大きくなりたいと言う猫の願いを、文字通り巨大化させて叶えた事例からすると、利用するには不安が残る。
 でもエネルギー目的だけで使用すればどうか。

 しかしやっぱり不安は拭いきれない。
 復活と言うから難しく聞こえるが、これだけの好条件が揃っているのだ。
 そこにある魂を、魂以外は完全な本人の肉体に入れるだけ。
 ジュエルシードを使わずとも、イメージした事を実現する文珠を複数個使用すれば、行けるはずだ。


 
 やると決めたら、確かめなければいけない事がある。



「プレシアさん。これは真面目な話なんスけど、やる前に確かめないといけないことがあるんス」


 横島のシリアス顔に、絞め殺さんばかりに横島に迫っていたプレシアも、勢いを削がれた。


「……なに」


「プレシアさん。アリシアちゃんは……」


 いつになくシリアスな横島に、ごくりと誰かが固唾を飲む音が聞こえた。
 そして、横島はゆっくりと問いかけた。









「処女っスか?」









 だああっ!!


 ユーノとクロノとアルフと霊体アリシアがこけた。この記録映像を見ていたエリオとキャロ以外の全員もこけた。


「フォトンランサー」


「だあっ!? なにすんじゃ!」


 殺意をも通り越して能面のような顔で致死性の魔法を連発するプレシア。
 横島はそれを紙一重で全て回避していた。


「クロノ君。しょじょって何?」


 なのはとフェイトが、純粋な疑問の表情でクロノを見た。


「……いや、もう少し大人になれば解る。恐らく。うん」


 クロノは二人の視線から目を逸らすしかなかった。




 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆




「あ、あははははははははははっ! あはっ、あはっ、なんやこのセンス、サイコー! サイコーや! ひーっ、く、苦し……!」


 はやては屋外にもかかわらず、地面に転がり腹を抱えて大爆笑していた。


「は、はやてちゃん……。ちょっと笑いすぎよ……」


「シャマルやって肩震えとるやんっ……あは、あはははははははははは!」


 何気に、横島の醜態に爆笑したスカリエッティらの反応に似ている。


「フェイトさん、しょじょってなんですか?」


 キャロが、映像内のなのはとフェイトと同じように、純粋な目で見上げた。エリオも。


「お、大人になれば解るよ……うん」


 そしてクロノと同じように誤魔化すフェイトだった。




  ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 

「死になさい」


 能面のごとき表情から察せられる純粋な殺気。
 デバイスの先端はバチバチと帯電し、打たれ強さに定評のある横島でも、冷や汗が止まらない。
 この時になって、やっと横島は自分の発言が何を招いたか気付く。


「と言うか、少しでもアリシアがそういう事しそうな年齢と性格に見えるの? マジ氏ね」


「いやっ、ちがうっ! 一応念のため確認しただけなんやっ! 生き返る条件の一つなんやーっ!」


「……そうなの?」


「そうなのっ! 邪霊の近づけない結界、保存の状態の良い遺体、生命力溢れる若い乙女、地脈の巨大なエネルギー、そこに括られた霊!
ほらっ、若い乙女ってあるだろ!? だから一応念のため! 念のためなんやー!!」


「……私の知る限り、特定のボーイフレンドも性犯罪に巻き込まれたことも無かったわよ」


 シリアスが吹き飛んだせいか、やや半眼で、しかし律儀に答えるプレシア。


「でも横島さん、本当に人が生き返ったりするの?」


「俺は、一度人が生き返る場面に立ち会ったことがある」


 なのはの疑問に、横島はシリアス顔で過去のおキヌちゃんのことを思い返した。
 絵空事と思われたことが俄かに真実味を増し、全員が息を呑んだ。


「アリシアちゃんは生き返る。全てが上手く行きさえすれば……!」





 ちなみに補足だが、横島は「生命力溢れる若い乙女」と言っているが、実際彼が聞いた話は「生命力溢れる若い『女性』」であり、
 処女性云々については特に触れられていなかったりする。

 要するに横島の記憶違いである。




  ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆




「呼んだ?」


 記録映像を見ている皆の前に、ひょいと青いジージャンを羽織った金髪の女性が顔を出した。


「うわっ、アリシアさん!?」


「そーだよー。て言うかエリオ。最初っからあたしも同行してたでしょうが」


 そう言ってエリオの頭を抱え、ぐりぐりとこめかみを押すアリシア。柔らかい何かが顔に押し当てられ非常に羨ましい。


「い、いたい!」


「エリオに何するのよアリシア! ……ってそう言えば、アリシア、生きてるんだっけ」


「はあ!? なにボケた事言ってんのフェイト……って、この記録映像、忠夫兄さん!!」


 フェイトに怪訝な眼を向けたアリシアは、尊敬する横島を発見し、映像に被りついた。


「アリシアちゃん、まさかこんな過去があったなんて……」


 すずかの言葉に、アリシアは決まり悪げに頭を掻いた。


「や、て言うか一回死んだけど生き返りましたーなんて普通誰も信じんでしょ?」


「そりゃそうだけど」


「そんなことより、忠夫兄さんの記録映像見るんなら早く言ってよ! いっそ最初から見せてよ!」


「なんで横島さんをここまで尊敬してるのか疑問でしたけど、納得しました」


 キャロの言葉に、エリオも深く頷く。


「理不尽で暴力的で傍若無人で天邪鬼なアリシアさんも、こんなことがあったなら尊敬するのも解ります」


「あ? なんなのエリオ? 喧嘩売ってんの? 高値で買ったるわよ!?」


「もー、ちょっとは落ち着きなよアリシアちゃん。この前プレシアさんがため息ついて言ってたよ。
『アリシアも少しはフェイトを見習って欲しいわ……』って。この時期のプレシアさんを見ると信じられないけど」


「んがー! 何言っちゃってんの母さん!」


「あはは……」


 この時期のテスタロッサ家を知るなのはの言葉に、アリシアは頭を抱え、フェイトは苦笑するしかなかった。




  ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆




「でもプレシアさん。やる前に、三つ心に留めておいて欲しい事があるんス」


「……何よ」


 何を言われるか薄々感じ取ったプレシアは、ちょっと顔を顰めた。


「一つ。復活に失敗しても怒らない」


「別に。そうなったら改めてアルハザードを目指すだけよ。アリシアと二人でね」


「……」


 その言葉にフェイトは悲しそうな顔をしたが、プレシアは無反応だった。
 横島は努めて見ないようにしていたように感じたが。


「一つ。成功したら、フェイトちゃんを娘として引き取る」


「……っ」


 プレシアの顔が苦々しげに歪んだ。きっと言われる事を予想していたのだろう。


「あ……」


「横島さんっ」


 フェイトの顔がぱぁぁ……と輝く。なのはも右拳をぐっと握り、喜びを表現する。


「だ、だめよそんなこと!」


「……!」


 必死に拒否するプレシアに、みるみる表情が暗くなるフェイト。


「そんなっ!」


「このッ、この鬼婆まだ言うか!」


「いや、これはプレシアが恥を知っていたと言うべきだろう」


「クロノ君?」


 アルフの激昂を、クロノが冷静に押し止めた。


「いいか。この際好きか嫌いかは関係ない。
娘の代用品として作った存在だが、残念ながらプレシア・テスタロッサの期待に応えるものではなかった。
それにイラつき何度も折檻を加え冷たい態度をとり続けてきた存在だぞ? いくらアリシア・テスタロッサの復活の対価だとしても、
復活した途端、いきなり掌を返して『(アリシア復活の対価だから)これからはあなたは本当の娘よ!』なんて、
普通少しでも恥を知っているなら言えるわけが無い。違うか? 納得行かないなら自分がプレシアの立場として考えてみろ。

プレシア・テスタロッサのフェイト・テスタロッサに対する気持ちが真剣であればあるほど、心情的に受け入れ難いはずだ」


 そのクロノの言葉に、なのはやユーノ、アルフは想像を巡らせて見た。そしてうっっと顔を顰めた。確かに普通の神経では無理そうだ。


『……! ……!』


 その時、アリシアがプレシアに何かを訴えた。


「なんて言ってるんだ?」


「『私、ずっと妹が欲しかったの。母さんも知ってるよね』って言ってる。ああ、プレシアさんが更に弱りきった顔に」


 横島の他人事のような言葉に、プレシアはきっ、と横島を睨むが、横島は何処吹く風だ。


「大方、あのずっと前から大嫌いだった宣言も、少しでも早く自分を忘れさせるための方便だろ? 社会復帰も早くなりそうだし」


「なっ、何を根拠に!」


 大声を出した事に気付き、咳払いを一つ。そして、フェイトからの視線を努めて無視して言う。


「仮に私の気持ちがあなたの言う通りだとして、フェイトを受け入れるなんてなおさら無理よ。なぜなら、私はもう、長くないから」


「んなモン、ワイが治したる」


「へっ」


 プレシアの搾り出すような声を、横島が一瞬で一刀両断した。


「ま、手の施しようが無い部分だけな。医者の商売あがったりやし」


「え、その、治せるの? コレ」


「人を生き返らさんとするやつが、病気の一つ治せんでどーする」


「説得力があるのか無いのか……」


 クロノが頭を押さえてため息をついた。


「だからプレシアさん。フェイトちゃんをいきなり受け入れろとは言わん。でも努力して」


「努力……」


「最初から上手くいかんのは百も承知。ぎこちなくてもええ。とにかく一緒に暮らしたって」


「でも、私は犯罪者よ。私が死ぬ事で、アリシアも…………フェイトも、風当たりが弱くなるって言うのに」
「だから!」


 横島は、プレシアの語尾に言葉を重ねた。


「だから、二人じゃなく、三人で力を合わせるんやろ」


「……!!」


「力を合わせて、苦労を半分、幸せを倍々にするのが、ええ家族ってもんやろ。
クローンでも、血の繋がりがなくても、種族が違っても」


 その言葉に、ほろ苦い苦笑を湛えつつも、なのはも力強く同意した。


「そうだよ! 今なら解る。最初は違っても、途中からでも、家族は、いい家族になれるの!
私も手伝う! 何が出来るかは解らないけど……えへ」


「しゃーない。あたしも、フェイトの為に一肌脱ぐよ!」


「アルフ……」


「さーどーするプレシアさん。努力してみる?」


「……………………」


 プレシアは、たじろぎつつ唇を噛み締める。そして、




「フェイト」


「はい」


「正直に言わせてもらうけど、私、あなたを娘として愛していないし、愛せる自信もないの」


「……はい」


「それでも、いいの?」


「はい」


「そう。なら、何も言うことはないわ」


「はい……!」


 フェイトは、冷たいとも言える言葉に、それでも嬉しそうに頷いた。
 そっけないように見えても、心底では歩み寄ろうとする気持ちを感じたから。
 少なくとも、フェイトと、そして横島はそう感じた。


「ま、それも無事復活できたらっスけどね」


「……そうね。で、三つ目は何かしら」


「あ、そういえばあと一つあったんだ」


 なのはは、「あ」と口を抑えた。二つ目についての問答が長かったからつい忘れていたのだろう。


「三つ目は、アリシアちゃんが無事復活しても、霊体時はもちろん、生前の記憶もおそらく残ってないことっス」


「なんですって」


 プレシアだけでなく、フェイトやアルフも息を呑んだ。
 プレシアは、あくまで生前のままのアリシアの復活を望んでいる。
 そもそもフェイトに辛く当たったのは、記憶は残せてもアリシアとは性格が微妙に違ったことも原因の一つである。
 これではフェイトの二の舞ではないのか。


「どういうこと!?」


「……上司の受け売りをそのまま言うと、幽霊の時の記憶は夢のようなものらしいんス。
いくらとどめようとしても、手のひらから水がこぼれる様に失われてしまう、と」


「そんな……」


 プレシアは、がくりと膝を付いた。


「でも、水はこぼれても、手に雫は残ります」


「……え」


「以前人の復活に立ち会ったって言いましたけど、生き返った人は、確かに記憶を失ってました。
でも、後で思い出しましたよ。ちゃんと」


「なら……」


「すぐ思い出すかもしれない。一か月後かもしれないし、十年後かもしれない。……思い出さないかもしれないス」


「……」


「やりますか?」


 その質問の後、誰もかれもが沈黙したが、ややあってプレシアは言った。
 元より、答えは決まっていた。


「……やってちょうだい。いえ、やってください。お願いします」


 プレシアは深々と頭を下げた。


『……!』


 アリシアがプレシアに向けて何か言った。横島とプレシア以外には当然聞こえない。が。


「今のアリシアが何を言ったか僕にも判った。「必ず思い出すから!」だろ」


「正解」


 クロノの言葉に横島はにやりと笑い、言った。


「じゃあやりますよ! みんな下がって!」


 横島の言葉に、全員が後ろに下がる。
 フェイトは、不安げに瞳が揺れるプレシアを見て、その手をぎゅっと握った。
 
 プレシアは驚いたように目を見開いたが、振り払うようなことはしなかった。


(……さて。あの時は霊波刀を刺したけど、別に今回はそんなことする必要ねーよな。
……ん。でも、気分の問題もあるし、今回も刺してみるか。うん。そうしよう。
文珠は……これだけの好条件だからたぶん『復』『活』で行ける。けど念を入れて三文字で行きたいかな。
でも復活的意味で三文字……? なんかあったかな。『超』『復』『活』……違うな。『反』『魂』『法』……よし、これだ)


 要は文珠三つ分の出力を得られれば良いのだ。反魂だろうが蘇生だろうが生き返られるなら何でもいい。


「よし!」


 横島は右手に栄光の手を顕現させ、そこから霊波刀を伸ばし、腰だめに構え、一気にカプセルに突き刺した。
 勿論アリシアに触れないように。


「っ!」


 それを見たプレシアは、反射的に駆け寄りそうになるが、袖を引かれ、何とか踏みとどまる。
 

 驚いたようにフェイトを見る。フェイトはゆっくりと被りを振った。
 その目は、アリシアの復活を微塵も疑っていないかのように揺らぎ無く澄んでいる。

 プレシアは、無様な姿を晒さずに済んだことに、ちょっとだけフェイトに感謝した。


 横島は霊波刀を突き刺したまま、篭手の部分に『反』『魂』『法』の文珠を叩きつけた。
 すると、膨大な霊気の碧光が、霊波刀を通じカプセル内を満たした。

 流し込まれた霊力に、カプセル自体が光り輝いているのかのようだった。
 あまりの光の強さに、誰一人まともに目を開けていられない。
 まるで永遠のような時間だったが、実際には十秒も経たずにカプセルが砕け散った。


「アリシア!?」


 砕けたカプセルだが、内から外に向けて砕けたため、アリシアに傷が付いているようには見えない。


「まだ来るな!!」


「!!」


 プレシアを制止し、ジージャンを脱いで倒れ伏す裸のアリシアに掛け、できるだけ優しく上半身を起こした。



 鼓動は、あった。



「生きてる……」


 横島の呟きに、一同の顔に喜色が徐々に浮かんでいく。


「アリシア!!」


 プレシアと、少し遅れてフェイトがアリシアに駆け寄る。
 横島は苦笑し、今度は邪魔をする事無くアリシアの身体をプレシアに預けた。


「ああ、暖かい……! 鼓動もある……。この日を、この日をどれだけ……っ!」


「母さん、良かった……」


 涙を隠す事無くアリシアを抱きしめていると、不意にアリシアの閉じられた瞼が、苦しげに震えた。


「アリシア!?」


 プレシアの声と強い抱擁に気付けされたかのように、アリシアの瞳がゆっくりと開かれていく。
 瞳は半分開いた時点で開くのを止めた。

 そのまま寝ぼけているかのようにぼーっとしていたが、徐々に目の焦点が結ばれ、ゆっくりとプレシアを見た。


「母さん……」


「アリシア!? 私がわかるの!?」


「覚えてるよ……。わたし、忘れてないよ……」


「アリシア!」


 プレシアが、感極まったかのように強くアリシアを抱きしめた。
 アリシアは死にそうな顔でプレシアの腕をタップするが、号泣するプレシアは気付かない。


「母さん、アリシアがまた死んじゃう!」









 そんな心温まる(?)光景を横島は眺めていた。
 なのはもユーノも、そしてアルフも、目の前の光景に一喜一憂。実に平和な光景だ。
 勝算は充分だったとは言え、横島は大きく安堵の息を吐いた。

 
「横島」


「クロノ? お前はあそこに混じんねーの?」


「柄じゃない。それに聞きたいこともある」


「聞きたいこと?」




「横島。アリシア・テスタロッサに何をした?」




「―――――………………はっ」


 横島は、目を丸くした後、感心したように息を吐く。


「アリシア・テスタロッサを抱え起こした時、後頭部に添えた手から光が漏れていただろう」


「目ざといねぇ。クロノ君」


 にやりと笑う横島だが、


「そんなバレバレの悪い笑顔はしなくていい。
勘違いするな。今更お前を何かを企む悪党だと言うつもりはない。ただ、何をしたか気になっただけだ」


「……」


 横島はちょっとだけ迷ったようだが、大人しく手を開いた。


『復』『元』


「復元……?」


「そ。これでアリシアちゃんの記憶をちょいと復元したってワケ」


「……は?」


 クロノとしては結構珍しい呆け顔だった。
 クロノは、ちらりとアリシアらの様子を確認し、聞かれていない事を確認すると横島に小声で問いかけた。


「な、何だその能力……? いや、この際能力のことはいい。アリシア・テスタロッサの記憶は本当は戻ってなかったのか?」


「まぁな」


「なん、だと……」


「いやいや、あくまで復元なんやから本当に記憶が全部吹っ飛んでたら復元できなかったぞ?
ゼロには何をかけてもゼロなんやから。だったら記憶が戻るのが早いか遅いかの違いでしかないだろ。
本当はほぼ全てなくなる記憶を、ほんの少しでも気合で残したアリシアちゃんへのサービスみたいなもんだ」


「ではなぜ記憶を戻した事を言わないんだ?」


「おいおい、今更『記憶を戻したの僕でちゅ!』ってアピールするなんざ野暮の極みだろ。いいんだよ」


「しかし……」


 クロノにとって、横島ヘの評価は決して悪い物ではない。しかし、女好きのお調子者であるという評価は不動である。
 細かい事だと分かっているがそんな彼ならアピールしないのが不思議だ。したところで、恩着せがましいとは思われなかっただろうし。


「はぁ、クロノよ。さっき魔法があったんだから、幽霊の一人もいてもいいって言ったろ」


「ああ」


「魔法や幽霊があったんだ。奇跡の一つ、あったっていいだろ」


「…………」


「奇跡も魔法もあるんだよ」


「そのセリフはいらなかった」


 クロノは突っ込みを入れつつ。頭をがしがしと掻いた。全然説明になってない。納得も行かない。
 しかし。


「……横島」


「んー?」


 クロノは微笑を浮かべて言った。


「横島って、けっこう気障なことするんだな。顔に似合わず」


「そこはカッコいい事って言えよ! お世辞でもえーから!」




  ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆




「きゃーーーーーーん!! めっちゃカッコええーーー!!」


「お、落ち着けよはやて……」


「忠夫兄さん! 私にこれ以上フラグ立ててどうするつもり!? 私の好感度はとっくにFULLよ!
神にーさまなら「LC、エンディングが見えたぞ!」って言うレベルをとっくに通り越してるわよ!?」


「アリシア……。同感だけど恥ずかしいから……」


 これを見ていた皆は、結構感動していたりカッコいいなぁと思ったりしていたのだが、
 はやてとアリシアのテンションのせいで結構台無しっぽかった。


「それにしても、アリシアさんのその服、元々は横島さんの物だったんですね」


「そうなの!」


 エリオの言葉に、自分の身体ごとジージャンを抱きしめる。


「アリシア、ずっとその服はなさなかったもんね。結局そのままもらっちゃうなんて。ずるいなぁ」


「フェイトだって私だけずるいって兄さんのバンダナ貰ったじゃないの! その腕のやつ」


 フェイトの腕には、横島のバンダナが巻かれていた。バンダナを掻き抱き、えへへとはにかむフェイト。


(ずるい……。羨ましい……。妬ましい……」


「なのはちゃん、声に出とるからな」


「はっ」


「あはは。で、このあと忠夫ちゃんの後見人にプレシアさんがなってくれたんだよね」


「だからフェイトちゃんらは横島さんの事を兄さんって呼んどんやね」


 一同、なるほどと頷いた。


「それより母さんよ。このあとの母さんったらびっくりだったわよ」


「どうなったんですか?」


「どーもこーも、あの後兄さんに土下座してね、生き返らせたこととか病気のこととか、感謝の言葉もありません、
って敬語で言うのよ、敬語で!」


「ああ……。あれは兄さんも引いてたね」


「二人共、流石にその言い方は……」


 なのはが嗜めるように言うが、彼女自身も口の端が微妙に引きつっている。当時のことを思い出したのだろう。


「でもあれ、感謝どころか尊敬、敬愛すら通り越して崇拝よ! 冗談抜きで生き神扱いだったし。
兄さんが泣いて懇願したからだいぶ表面上は押さえてくれるようになったけど」


「うん……母さん、あの時あと5年若かったら愛人になりそうな勢いだったね……さすがに今は否定してるけど」


 横島なら容姿次第で四十過ぎでも全然OKである事は、プレシアに対するトップシークレットである。


 横島を敬愛する、自由人アリシア・テスタロッサでもドン引きの母であった。


 何はともあれ、横島の記録映像上映会は、概ねの好評を得て終了した。
 あまり関わりがなかったヴォルケンは、特に横島の人となりについて見直したようである。
 美由希は何を考えているのかニコニコしているし、エリオとキャロの目は尊敬で輝いていたし、
 アリサとすずかも捜索に一層の気合を見せているし、はやてはそんな横島の失踪の一因であることにやや後悔が見られた。


 だが、そんな面子なのかで微妙な表情を浮かべている者がいた。


 ティアナとスバルだった。


「……」


「……ティア」


「言わないで」


「でも、この流れじゃ言わざるを得ないような」


「わかってる。でも覚悟とタイミングを頂戴」


「……」


 約十年前の記録映像と服装以外の見た目が変わっていないが、他人の空似というには無理がある。
 数回深く深呼吸をし、ティアナはなのはに話しかけた。


「あの、なのはさん」


「ん? なにかな、ティアナ」


「私たち、その横島って人に、会ったことあるんですけど」


 決して大きい声ではなかった。しかし、場が水を打ったように静まり返った。


「えっ、どういうことかな? 子供の頃に会ったことあるの?」


「いえ、最近……」


 その言葉を発したときの事を、彼女は後に述懐する。「視線には質量があるのだ」と。


「え? どういうこと? え? え?」


 なのはとテスタロッサ姉妹の目から虹彩が消えた。怖すぎる。


「どういうことや? 最近ってことはミッドやろ? なんでなのはちゃんらに会おうとせえへんの?」


「わ、わかりませんよ! だから、クロスミラージュの記録映像を見て確認してもらえたらなぁ、と」


 アリシアは無言でデバイスを受け取り、再生した。





『こんにちは! ボク横島! ねーねー君可愛いね! ちょっとボクとお茶しない? キミとは仲良くなれそうな気がする!』


『あ、あははは……。ごめんなさいお兄さん。今ちょっと忙しくて……』





 ……。


「横島さんだこれー!?」


「何平然とナンパしてんのよコイツ!!」


「アリサちゃん、落ち着いて!」


「他人の空似じゃないのか?」


「ううん、違う!」


 シグナムのコメントに、アリシアは震える体を抑えつつ否定する。


「バンダナはフェイトに譲ったから無いし、私がジージャン貰っちゃったから、って母さんが選んだこの黒いジャケット……!」


「うん。間違いないよ!」


「でも、老けとるようには見えへんなぁ。桃子さんやプレシアさん並の若作りなんやろか?」


「さあ……」


 映像は続く。
 ティアナに邪険に扱われつつも、突如襲ってきたガジェットを簡単に破壊し、瓦礫の下敷きになろうとしている少女を救った。
 さらにライフル掃射の命中率も高く、深く切り込んでも全く危なげがない。


「強い……。飛べることを差し引いても」


 美由希が真剣な眼差しでゴクリと喉を鳴らした。


「美由希さんの話で解ってたつもりだけど、横島さんって本当に強かったんだ……」


「そうね……。なのはたちもいつもこんなことやってるの?」


「やってるけど……それにしても確かに強いの。まだ余裕ありそうだし」


 そんなこんなでガジェットを殲滅した横島だが、




『確保』


『えっ』
『えっ』




「タイーホキタ――(゚∀゚)――!! ってなんで逮捕したん!?」


「いや、その」




『あんたのあの銃、質量兵器でしょう』




「あっ」


 はやては映像内の言葉にぴしりと固まった。仮にも部隊長が、言われるまで代表的な違法行為に気付かなかったからだ。


「はやて……」


 ヴィータの視線が痛かった。





 で。


「結局、連行中に逃げて行方は分からずか……」


「でもシグナム、ミッドにいるってわかっただけでも大きな前進だよ!」


「確かに。だが、なぜ奴は我々にコンタクトを取らないのだ?」


「それは」


 そうだった。実際、なのはやフェイトはミッドではかなりの有名人だ。ミッドで生活していたら存在に気付かないとは考えづらい。


「あの、横島さんは次元漂流者になってたんじゃないでしょうか」


「どういうこと、エリオ?」


「ミッドに来たのが最近なら、フェイトさんたちに気付かなくても納得がいきます」


「うーん。一番しっくりくるのはそれかなぁ。見た目も変わってないし」


「ま、なんにせよミッドで探そう! 話はそれから!」


 なのはが勢いよく立ち上がり、フェイトらも強く頷くが。


「なのはちゃん。仕事が終わったらな」


「あ」


 衝撃の事実が明らかになり、当初の目的を忘れていたなのはだった。








「ふぅ……。やっと肩の荷が降りた気分だわ」


「お疲れ様、アリサちゃん」


 六課が出払い、人気のなくなった別荘。出動しないアリシアも、ふらりと姿を消していた(出歩くなと言われたに関わらず)。


「それにしても横島さんか……。映像を見た感じじゃあプレシアさんに生存伝えたら喜びそう」


「そうね」


 プレシアは、アリシアがデバイスマスター、フェイトが執政官になった後は鳴海市で暮らしている。
 高町家には良くしてもらっていると、穏やかな顔で話していた。
 愛する娘たちが独り立ちした今、横島の件だけが気がかりだったがやっと真に心が休まる時がきそうである。

 横島に対する深い感謝の念を聞くと、少しばかり反応が怖くはあるが。


「恭ちゃんや忍さんにも教えないとね」


「はい。お姉ちゃんもずいぶん気を揉んでましたし」


「でも、恭也さんがどんな顔するかしら? 結構複雑そうな関係だし」


「うふふ」


 美由希はそれを想像し、忍び笑いを漏らし二人から離れた。残りの作業を終えるためだ。
 今のなのはらはやる気に満ち満ちている。帰ってくるのは早いだろう。


 美由希は、横島と交わした何気ない会話を思い返す。





 なあ美由希ちゃん、今付き合ってる奴いないならワイと付き合って見ぃひん?


 またそんなこと言う。どうせ誰にでも言ってるんでしょ。


 誰にでも言うけど全部本気やで!


 …………うそばっかり。


 え?


 んーん。本気で誰にでも言う方がどうかと思うよ。


 えー。美由希ちゃーん。


 はいはい、私が三十路前になっても売れ残ってたらねー。


 ええー、何その断り文句! 美由希ちゃんが三十前まで売れ残るわけないやん!





 似たような会話は幾度もあった。今思い出したこれもその内の一つに過ぎない。
 それでも。


「ところがどっこい、まだ売れ残ってるよ。忠夫ちゃん」


 自分の言葉にクスリと笑い、箒とちりとりを取りに行く美由希だった。




















 おまけ。

 横島の「人外」発言について忍とOHANASHIしたよ!


「ねぇ横島君。吸血鬼って聞いて、どう思う?」


「吸血鬼?」


 忍は、横島がなのはと一緒に遊びに行っ日、カフェに呼び出して詳しく話を聞いていた。
 横島は怪訝そうにオウム返しした後、少し思案して言った。


「正直いけ好かん連中やな」


「……っ、何故?」


「だって知っとる奴らみんなイケメンやもん」


「…………は?」


 忍と恭也は目が点になった。


「あいつが来てからもー、ほかの男の立場なしで、最初はとにかくムカついたなー。ま、結局よくつるんでたけど」


「そ、そうなの」


「あ、でも吸血鬼の男がみんなイケメンなんやったら、女も美形ばっかりなんやろか!? うわ、会いたくなってきたかも!」


「び、美形!? う、ううーん、そうかもねー。そうかも知れないわねー」


「忍……」


 忍は、恭也のジト目を努めて無視しつつおどけた。


「それじゃあ、人狼は?」


(さくらさんのことか……)


「ああ、大食い?」


「は?」


「確かに可愛い奴ではあったが、毎朝数十キロの散歩はマジ微妙な思い出やなー……」


「……」
「……」


「でもなんでそんな事きくん?」


「え? いや、もしかしたら必要になるかなーと」


 だらだら汗を流す忍を余所に、今度は恭也が尋ねた。


「ならば妖狐は?」


「クソ生意気なガキ」


「……」
「……」


 間髪いれず答えた横島に、再度二人は押し黙った。


「普段は全くのカス扱いのクセに、きつねうどんをたかる時だけしつこいんだからなー。
ま、大人になったら性格丸い超美人になっとるし、そう思えば我慢できるか……」


「……………………幽霊は?」


「幽霊……。うーん、一口に言うても千差万別としか言い様がないなー。それは人間についてどう思う? って言うとんに等しいやろ」


「む。確かに」


「でも一番なじみ深い幽霊はやっぱおキヌちゃんやな。可愛くてー、優しくてー、メシも作ってくれてー、美神さんのストッパーでー」


「身近な知り合いなのか……」


「おう。あ、そう言えば、幽霊に労働基準法はないからって、美神さんが日給三十円で雇っとったなー」


「さんじうえん?」


「……」


「で、でもでも、自動人形とかアンドロイドとか、さすがに心当たりはないでしょ?」


「あるぞ? マリアがそうだな」


「えっ」


「1000歳越えの錬金術師のじーさんが作ったやつでな、人工的な魂の合成が成功した世界初の例とかなんとか」


「あ、はい」


「でな、ワイそいつと一緒に生身で大気圏突入したことあんねん! ロボットに生身ってのも変やけど」


 恭也は後に父と忍に語った。
 自分は、なんと狭い世界で生きてきたのだろうか、と。


 それを横島と長い付き合いのある人物が聞いたらこう言うだろう。
「横島が特殊すぎるだけだ」と。


「?」


 横島はさっきから変な反応ばかり返す美形カップルを怪訝に思いながらも、おごりのリンゴジュースを呑気にちゅー、と啜るのだった。




 おまけ2

 六課が地球に出張している頃、横島は再度買い物にミッドを訪れていた。


「お、本屋があるやん」

 
 横島は、エロ本目当てにふらふらと本屋に近付く。
 入口付近に、新刊の雑誌が平積みされていたため、何気なく手に取った。


「おおっ? めっちゃ可愛い子やなー」


 表紙は、何処かで見たことがあるような白い衣装のバリアジャケットを着た魔導師が飾っていた。


「なんか特集記事が組まれとる見たいやな。お、この金髪の子もイケとんな」


 そこで、横島は特集を組まれている女の子の名前を確認しようとした。


 が。


「……っ!? あ、あ……? そ……んな……」


 横島は、雑誌を持ったままガタガタと体を震わせる。
 いつになくシリアスな表情で、雑誌の両端を強く握り締め、穴が開くほど表紙を凝視している。


 そして。










「字が読めんから名前が解らん」










 サーチャーで横島を監視していたスカリエッティとウーノが、ズコーとこけた。












 このSSのアリシアについて。
 性格は明るく元気で、傍若無人なところがある。細かいことは気にしない。
 妹と同じく美人でナイスバディだが、身長も総合的なスタイルも妹のほうが上だったりする。
 母親のプレシアから、性格について、少しでいいからフェイトを見習って欲しいと願われている。
 デバイスマスターの資格を持ち、フェイトやエリオ、キャロと一緒に住んでいる。魔法は得意ではない。
 
 横島を深く敬愛しており、彼からもらったジージャンが宝物。いつも着ている。
 安物で色褪せたジージャンでも、アリシアが着たら結構似合ってるのが不思議である。
 ジージャンを馬鹿にするやつは許さない。馬鹿にしたことを訂正しないやつは絶対許さない。以後はまともに相手しなくなる。
 ナンパで「もっといい服を買ってあげるよ」なんて言われた日には、そのナンパ男は確実に可哀想な事になる。

 フェイトはジージャンが羨ましかったため、バンダナを譲ってもらった。左腕に巻いている。
 本気を出したり、気分的に気合を入れたいときに、鉢巻のように額に巻いたりリボン代わりにすることもある。
 エリオとキャロから尊敬されているフェイトだが、自分よりアリシアに懐いている(と思っている)のが悩み。
 ちなみに、フェイトもアリシアもテスタロッサ姓のままである。

 横島は、ジージャンとバンダナを譲ったお詫びとして、プレシアから黒いジャケットを買ってもらった。
 横島は気付いていないが、市販品としては結構いい値段。
 それ以外にも色々世話を焼いてもらっている。横島に深く恩を感じているプレシアは、もちろんそれを喜んでやっている。




 ミッドチルダの言語について。
 ミッドチルダ語と言う架空の言語が使用されているという原作設定あり。
 アニメでは作劇上の演出として英語の音声で表現されているが、文字は英語とは別物。

 ちなみに、ベルカ語は独逸語の音声で表現されている。
 










 あとがき
 嘘予告にやっと繋がったか……。

 そして恭也よ。お前の知る人外は全て、横島が既に通り過ぎた道だ!

 それはともかく、プレシアとの絡みの時にクロノのセリフが多くて他のキャラのセリフや描写が少ないのは、
 彼のデバイスの映像だからです。他の人も本当はもっと様々なセリフを言ったり行動してたりします。

 ユーノェ……。



 あ、後編はまだ完成してないので、中編ほど早くは投稿出来ません。
 悪しからず。

 

 

 

 

 







感想代理人プロフィール

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代理人の感想
いやー、笑った笑ったw
これでこそ横島!

一番笑ったのは「タダオちゃん」の正体にショックを受けたアリサとすずかだったけどw

>愛人問題
本編のプレシアさんがいくつかは知らないけど、
普通に若いツバメを囲う有閑マダムとかやってても十分絵になるよなあ、あの人w
横島なら100%射程範囲内でしょw




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