漆黒の戦神アナザー

アネット・ディスブリングの場合

 

 

 

「―――――という訳で、またも某国総理はいらんコト言って国民の失笑と失望を買いました」

 

「まったく懲りない人ですね。以前『政治家が公務中に遊んで何が悪い』と発言して馬鹿にされたってのに」

 

「ではCMの後、次のコーナーです」

 

 

「はい、次のコーナーは『突撃レポーター、ナ・シーモトのホントの所はどーなんですか』です。

 今日のゲストはダレなんですか? ナ・シーモトさ〜ん」

 

「は〜い、突撃レポーターのナ・シーモトでぇーっすっ!

 今日のゲストは抜群の実力とボーイッシュなスタイル、それに相反するぶぁつぐんなプロポーションと

 美貌を誇る現代の歌姫、ロック歌手のアネット・ディスブリングさんでぇーす!」

 

「あ、こんにちわ。アネット・ディスブリングです。」

 

「さて本日はいきなり本題から入りましょう。歌手のトーマス・リックリックさんとの交際のウワサはホントーですか?」

 

「え? トーマスさん? デマですよ。トーマスさんは・・・まあ友達かな」

 

「ホントですかぁ」 いかにも疑わしそうにマイクを突きつけるナ・シーモト。

 

「では恋人とゆーか、好きな人ってのはいるんですか?」

 

「ボ、ボクにそんな人いませんよぉ」

 

「いーやうそだ。うそだうそだ。うわーたしは信じない。さあ皆さんご一緒に、

 

 

 ふおーんとの所はどーなんです、くゎー!

 

 

 

「だ、だからボクにそんな人・・・」

 

「いーや。私の調査によるとあなたはあの漆黒の戦神、テンカワアキトに接触してるそーではありませんか。

 それで何もないうわけがない! さあみなさんごいっしょに、

 

 ふおーんとの所はどーなんです、くゎー!

 

 

 

 

「あーもぉ、分かった、分かりました。言やいーんでしょ、言や。あの人に会ったのは半年ほど前かな」

 

「半年前というとあなたがイメチェンをした頃ですな」

 

「うん。あの頃ボクは、事務所の命令でいかにもアイドルって感じのフリフリドレス着て、

 甘ったるいソレ系の歌うたってたんだ。愛だの恋だの」

 

「言っちゃナンですがはっきり言って似合いませんな」

 

「似合ってないもんだからとーぜん全然売れなくてさ。

 前の年に姉が死んじゃった事もあってやめちゃおうかななんて思い始めてたんだ。

 でも姪っ子を引き取った――姉の子ね。七つなんだ――のもあって必死で頑張ってたんだ。

 それで、やっとの事でコンサートが開けるようになったんだよ。

 どん底だったその頃のボクのファーストコンサートだよ。もうどれだけ嬉しかったか。

 これをきっかけにボクの歌で世界を覆い尽くしてやるって感じだったね、あの時は」

 

「さぞかしテンションあがったでしょうね」

 

「でもその前日、コンサートが開かれる街が木星トカゲの攻撃に会っちゃったんだ」

 

「あー・・・・そりゃ・・・つらかったでしょーな」

 

「幸いにも近くに軍の特殊部隊が作戦行動中でね」

 

「それってひょっとして」

 

「うん。例のMoonNightだよ。お蔭で死者は最小限で済んだんだけど町とか公会堂とかみ〜んな焼けちゃってね。

 荷物も焼けたから衣装もなくてね。呆然と座りこんでたんだ、何も考えられずに。

 そしたら笑い声が聞こえてきたんだ」

 

「笑い声、ですか?」

 

「うん。エル――めいっ子ね――の笑い声だった。あの子の母親が死んでから一年間、笑い声も笑い顔も

 まったく見た事がなかったからね、何事かと思って見たら一人の少年と言っていい男の人に手を引かれて笑ってたんだ。

 で、落ちこんでるボクを見たその男の人は手に持ったマグカップに入ったミソスープとボールライス(おにぎり)を手渡したんだよ。で、話しかけてきたんだ。

 

『何落ちこんでるんだい。取り敢えずではあるけど生き延びた幸運を喜ばなきゃ』

 

 なんて言うんだ。だからついボク怒鳴ったんだね。

 

『あんたに何がわかるんだ。ボクは何もかもなくしちゃったんだぞ。

 やっと掴んだチャンスも未来もなくなったんだ。もう歌手としてやっていけない』

 

 なんてね。そしたらアイツ不思議そうに首を傾げて言ったんだ。

 

『君はまだ生きてるし家族も守りたい者も無事だ。こうして美味しい御飯も食べられるし声が出せて歌も歌える。

 何一つ無くしたりしてないだろ。君はまだ歌が歌えるじゃないか』」

 

「そりゃ真理・・と言っていいでしょうなぁ」「どっかで聞いたせりふですな」

 

「その言葉でつっかえが取れたんだろうね。ボク急にお腹すいてね、目の前のライスボールにかぶりついたんだ。

 サーモンの塩焼きが入っててね、辛いけど美味しかった。

 そしたらエルが『お姉ちゃんが笑った』って嬉しそうな表情するんだ。

 この一年ボク自身が笑う余裕をなくしてたんだってその時分かったんだ。

 で、そんなボクを見てその人も嬉しそうでね。

 

『そう喜んでもらえると作った身としては本望だ』

 

だって。

 

『そのおむすびの礼と言っちゃなんだけど、君の歌を聞かせて欲しい』

 

『でも、マイクも衣装もないのに』

 

『君自身の生の姿、生の声で皆を励まして欲しいんだ』

 

 って言うからついつい

 前から密かに作ってたボクオリジナルの歌を私服で――ちなみにジーンズの上下だった――歌ったんだ。

 無我夢中で歌い終わったら辺り一面に人がいて、ボクに拍手してくれてた。

 ボクの歌に喜んでくれてたんだ。ボクの歌を素敵だって言ってくれたんだ。

 なにかこう、感動しちゃってね。その時いきなり壁突き破ってバッタが二匹現れたんだ。

 やっと何かを掴んだってのに死んじゃうんだ・・頭の片隅でそんな風に感じてたんだ、妙に冷静にね。

 そしたらさっきの男の人がバッタを蹴り飛ばしてね。

 

 『歌は静かに聞くもんだよ』

 

 一発で魂のそこまでシビれちゃったよ。あんな風にシビれさせる歌を歌いたいとも思ったね、あン時は」

 

「ケ・・・ケリ一発・・・・・です・・・・か?」

 

「そしてボクに話しかけてきたんだ。

 

 『自分は料理を作ることと戦う事しか出来ない。だから君の歌声で皆を元気付けて欲しいんだ』

 

 で、ニッコリ。これでもーKOされちゃった。

 するとエルが『エルも歌う、御飯作る!』なんて言い出してその場全員で大笑い」

 

「それがテンカワアキトだったんすね」

 

「うん。巷では『戦神』だのなんの言ってるけど、ボクに取っちゃあの人は料理ずきの優しいにーちゃんさ」

 

「それにしてもなんかこー・・・・・公共の電波使って惚気聞かされただけのような気もしますが、

 まあ、それが『彼』との出会いだったと」

 

「そうだね。やっぱ・・・・惚れちゃったんだろうね。あれ以来昼となく夜となくあの人の顔が浮かんできちゃうんだ」

 

「では最後に『彼』に向けてのメッセージを」

 

「あの時のライスボールの礼もしたいし、一度会いたいな。エルも会いたがってる。

 そん時はコンサートをオールナイトで君だけのためにやったげるよ・・・・って何書いてんの?」

 

「いや、ちょっと某組織の入会希望を・・・」

 

 

 

 

 

「フンフンフフーンフーン」

 

 鼻歌を歌いながら、今にもスキップしそうな雰囲気で歩いているのはヤガミ・ナオ。

 久々に長距離通信とは言え、恋人と話が出来たのだから当然と言うべきか。

 そんな彼の顔が一瞬にして蒼ざめる。

 

 ・・・・・二、三百年ほど前に北米大陸に存在した

 差別的教義を掲げたヤバめの宗教団体

 のカッコをした一団が歩いているのだ。

 

 先頭の、蝋燭を持った小さな人影はたぶん妖精のコンビだろう。

 では、一際大柄な――多分スバル・リョーコだろう――が引きずっている棺桶は・・・・

 数個ならいつもの馬鹿どもだろうが一つならおそらく・・・・

 壁にへばりついた彼の傍を通る時棺桶のフタが僅かにずれ、声が聞こえる。

 

「ナ・・・ナオさん助・・・・」

 

 その時覆面の一統が揃ってこちらをふり向く・・・かなり怖い。

 少しの間固まっていたが慌てて首を振る。微速度撮影でもブレそうな早さで。

 すると一行はまた歩きはじめる。

 

「お・・・・おぼえてろお・・・」

 

 

 すまんアキト。やはり俺は自分の身が可愛いんだ。

 

 

 引きずられていく棺桶に向けて彼は呟いた。

 

 

 

 

 

 

あとがき

 

「出番が・・・・無いです・・・・」

 

「お・・・落ちついて・・・」

 

「あなた本当にアキルリ派なんですか? 『真紅の羅刹』に入ってるとも聞きますが」

 

「いや、北斗は男の心を持った女性だと思うだけだ。絶対的アキルリ派なのは間違いない。

 で、今回は『四方天』に付いて話そう」

 

「本編にも採用されたあなたのオリジナルですね」

 

「『時にはこんな夜 第二夜』後書きでも多少書いたが、クサカベと言う人物の有能さを表す為に考えた設定だ。

 その中から『東』と『西』について。

 まず『東』こと東舞歌。戦略・戦術に長けた木連版ユリカとして考えた。

 さらにBenさんが『カグヤは出さない』と言うのでイメージ的にカグヤとシルフィール(スレイヤーズ)を混ぜた。

 ちなみに私はガウ×シル派。

 アキト君の木連妻(予定)でもある。後アキト君が『四方天ども』などと言っているが

 女の子に甘いアキト君が女の子のいるチームをそんな風に言うとは思えんので、

 兄がいたと設定したら鋼の城様が実に素晴らしいSSを書いてくださった。多謝!」

 

「で、『西』。

 実は四方天の設定のキモなのだ。外見はくたびれたオッサンで『ガガガFINAL』の八木沼長官みたいな感じだ。

 美人妻とかわうい双子の娘がいるという設定で情報収集・分析と経済運営のエキスパート。

 必殺技は『小遣いカット』。支給する予算と情報を減らすぞって意味であり、北辰も頭が上がらんのだ。

 ちなみに影竜的には帰還したサブが接触したと言う事になっている。」

 

「一番困ったのが『本来の歴史上の彼ら』だ。二人とも賢明にして精神バランスの取れた人物と考えた以上

 草壁に加担するとも思えないし思いたくない。

 よって『火星の後継者』決起前に二人、いや三人とも北辰に暗殺されたと言う事になった」

 

「辛うじての辻褄合わせですね」

 

「いや、そーゆーの考えるの好きなんだ」

 

「で、次の作品は?」

 

「長めのを一本作成中。あと漆黒の戦神アナザーにもう一本ネタがある」

 

「さっさと書きなさいな。私とアキトさんのらぶ話を」

 

「努力しま〜す」

 

ビデオ「雨に唄えば」を見ながら

 

 

代理人の感想

 

いや、白頭巾と松明はヤバいっしょ、さすがに(汗)

そう言えばあれって宗教団体だったかな?

政治団体として登録していると言う話も聞くけど。

・・・・・つくづくUAは自由の国だ(苦笑)。