とりあえずは終わった。木星と地球は互いに歩み寄る為の努力を始め、クサカベとその配下はもう存在しない。

俺の知る、悲しみと憎しみで舗装された道は途切れた。

あとは時の流れに漂う最後の悪霊、テンカワアキトの始末をつけるだけだ。

まずはナデシコを離れねばならない。いまどきカ−ナビも使わず、ガソリンエンジンの車を使う最高の逃がし屋「ロ

−●バス●−」との約束の時間は二時間後、そろそろ準備を始めねば。

 

 

 

もう一つの結末

 

 

「アキトさんいらっしゃいますか?」

 

「ルリちゃん?なんだいこんな時間に」

 

「フォ−トナム&メイスンのいい葉が手に入ったんです。お茶でもどうですか」

 

断れば怪しまれるだろう。

 

「分った。すぐ行くよ」

 

もしかしたら、俺が出て行こうとしてるのに気づいて引き止めるつもりかもしれない。

睡眠薬の中和薬と抗筋肉弛緩剤は飲んで行こう。ネルガル情報部が使用するこれを飲んでおけばどんな薬もま

ず効きはすまい。

 

 

 

ティ−カップからの香りが顔を包む。コ−ヒ−も悪くないがやはり紅茶の方が良いな。

 

「で、どうするんです?」

 

「どうする、とは?」

 

「とぼけないで下さい! いちおう和平は成立しました。

 『火星の後継者』達も動き始める前にほぼ壊滅しました。

 この後アキトさんはどうされるのですか?」

 

やはりその話か。だが今は知られる訳にはいかない。

 

「完全に和平が成立するのを見届ける。その後はその後さ」すまないルリちゃん、憎しみに憑かれた悪霊は平

 和な光の中には存在してはいけないんだ。」

 

ふう。ルリちゃんがため息をついて、ニンマリと笑う。アレは……なんかイタズラを見破っているかのような

・・・・・・ってまさか!

 

「●−ドバ●タ−にはキャンセルの電話をいれておきましたよ」

 

「!」

 

ガタン!つい席を立ってしまう。

 

「ふっふっふっふっふっふっふっふっふ。なめられたものですね。このわたしから逃げられるとでも?」

 

ゆうらりと立ちあがり俺に向かって含み笑いをするルリちゃん。

顔にベタかかったりしてなんかキャラ変わってるよ。

 

だがその時、周囲の風景が歪む。いや目の前の自分の手すら歪んでいる!

 

「アキトさんが逃げるのに気づいてたというのに『タダのお茶』を出すワケないじゃないですか」

 

し、しかし俺は・・・・・・・・・

 

「別に薬なんかいれてませんよ。入れたのは・・・・・・」

 

後ろのキッチンに合図をするルリちゃん。すると数人が飛び出してくる。

 

「オレと!」「あたしと!」「あたしのアキトへの愛がてんこもりにはいってるの!」

 

リョ−コちゃんとメグちゃんと・・・ユリカか。あの三人の入れた茶はヘタな毒より強力なのか。

こりゃ旦那になる男は大変だ。

そんなバカな事を考えながら俺の意識は闇の底へ・・・・・と・・・・・・・・・落ちて・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

 

強い刺激臭がオレを闇の底から引きずり出した。昔嗅いだ事がある、これは気付け薬だ。

目を開くと気付け薬の子ビンを手にしたルリちゃんがニンマリと俺を除きこんでいる。

その格好は・・・ってなんだそりゃ!

 

「ルリちゃん」

 

「なんですかアキトさん」

 

「多分俺には事情の説明を要求する権利があると思うんだけど」

 

「ではこちらに来てください」

 

ルリちゃんに文字通り引きずられて行く。

ズルズルガチャガチャと。やがてひとつの扉を開けると、そこには多くの俺が、いや時を越えて以来俺と

ルリちゃんがかかわった多くの人達が待ち構えていた。

 

右を見ると、フクベ提督がグラシス少将と共にうれしそうな表情をしている。

左をみると、ジュンとマキビ君がボロボロ涙を流している。

そして正面には・・・・・・・・・・・・・・・・

 

・・・・・・・・・・・・・・・え------と・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

「で、事情をきかせてもらえるかな?どうやらここは教会みたいだね」

 

ウンウン。正面にいる彼女達がうなづく。

 

「俺が白いタキシ−ドを着てるのもまあいい。

 ガチガチに括った手鎖と、なにやら鉄球のついた足かせも百歩譲ってよしとしよう」 ウンウン。

 

「この首輪はなにかな?しかも鎖がひ−ふ−み−よ−いつむ−なのや・・・・・

 15本も付いてるのは何故か、そこを是非に聞かせてもらいたいね」

 

正面でウェンディングドレスを着て、俺の首輪に付いてる鎖を握っている彼女達に聞いてみる。

なんとなく答えは解っていた。

だが聞かずにはいられない。

 

「わかんないの?」

 

ニッコリと笑う白いドレス姿のユリカ。

もう一度見たくて、決してみてはいけないと誓った姿。

 

「しっかりしてください、アキトさん」

やはり純白のドレスを着たメグちゃんが微笑む。

 

「ひょっとして説明して欲しいのかしら?」

 

イネスさんがニンマリと笑う。

 

「大丈夫かよ?」

真っ赤なドレスが似合うよ、リョ−コちゃん。

 

「このニブチンにも困ったものね」

ス−ツ以外の服を着たエリナさんを見るのは始めてのような気がする。

 

「解ってるんでしょ」

 

作業服も似合うけど、ドレスもいいね、レイナちゃん。

 

「アキトさんには償いをしてもらいます」

 

「償い?」

 

「アキトさんの望みはご自分が決して幸せにならない事、そして最大限に苦しむ事でしょう。

 でしたらアキトさん自身が幸せになる事こそが最大の苦しみのはず。

 好きなだけ苦しんで下さい。

 私達がずっと一緒ですから」

 

ル、ルリちゃん・・・・・・・・・・・・

 

「守ってくださいね。私達を、そして私達のしあわせを」

 

サラちゃん、アリサちゃん・・・・・・

 

「「「「「よろしくお願いしま−す」」」」」ホウメイガ−ルズのみんなまで・・・・・・

 

「アキト・・・・・・・一緒、ずっと一緒」

 

ラピスまで・・・・・・・・

 

「まだ解かってくれないんですか?

 私達はもうアキトさんと一緒にいる以外の幸せなど考えられないんです!」

 

迷う俺に叫ぶように告げるルリちゃん。

 

「それともアキトさんはご自分の『償い』が私達全員の幸せよりも重要だとおっしゃるんですか?」

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

「解ったよ」

女性陣の顔が喜びに包まれる。俺は彼女達のこの笑顔を消そうとしていたんだな。

 

「どのみち俺に選択権などありはしないんだろう?」

 

 

「もちろん!」×15 

 

 

まあこんな償いもいいだろう。

シュン隊長とサブロウタ君の明らかに面白がってる顔を見ながら、俺はこの状況を拒むことを諦めた。

 

「あと残念ですがわたしとラピスはあの・・・・その・・・・お勤め(真っ赤)はしばらく無理なのでガマンして下さい」  

 

ルリちゃんがささやく。

 

「もう何があろうとも逃がしません。時の果てまでも追いかけて、ようやく捕まえたんですからね。ア・ナ・タ」

 

自分で言ってテレてるよ。

背中に突き刺さるナオ夫婦のあきれとウリバタケさん達の殺意、その他諸々のこもった視線を背にあびて。

15人の花嫁達とともに俺は祭壇へと歩いて行く。

 

そう、俺はきっとここに立つ為に越えたのだろう。

 

あの、時の流れを。

 

 

 

終わり

 

 

 

 

管理人の感想っす!!

 

投稿有難う!! 影竜さん!!

 

以前、影竜さんが掲示板に書かれていた短編です。

しかし見事に話しがまとまってますね。

・・・じゃあ、これを本当のエンディングに(ガスゥ!!)

 

はう!!

 

ど、どうや読者様から激しい突っ込みが(汗)

それではBenも、影竜さん並のエンディングが書けるように精進します。

 

では、影竜さん投稿本当に有難う御座いました!!

 

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