「そ、それでは高杉さん。失礼いたします」

 

閉まるドアの向こうに婚約者を見送り、自分も部屋へと戻る。

とある女性に貰った伝説の酒、ボアビールを飲みながら意味もなくTVをつける。

丁度「木星プロ野球ニュース」の時間だ。

 

『来シーズンから導入される、流目カントクが「欲しい」と口にした選手は

 試合途中でも「木星タイタンズ」に移らねばならぬというルールに対し・・・・』

 

目を向けてはいるがTVなど見ていない。このまま彼女と結婚してしまっていいのだろうか?

 

「ああ・・・まだ見ぬカワイコちゃん達・・・エムクラン・クリスタルの輝きの前に消えたAOAの世の如く、

 時の狭間の向こうへ去っていったみんな・・・ ああシャミーちゃん、ヴァネッサちゃん、キムちゃん・・・・

 鈴明美ちゃんなんかやっと店外デートOK取れたのになぁ・・・・

 せめて夢の中では皆に再会できますように・・・・・・」

 

 

 

 

見るかもしれないこんな夢 5

 

 

 

 

5.5代将軍家家の治世のもと、ここは平和なナデシコ藩。

気候も穏やかで適度に豊か、ついでに人々の頭の中も適度にユルかったりする。

 

「たのもーーーーーー!」

 

おや、フクベ道場にお客さんのようですね。

 

「我が名は北山熊左ェ門!テンカワ殿に一手ご指南頂きたい!」

 

どうやら道場破りらしいです。

それを出迎えたのは――

 

「貴殿がテンカワ殿か?」

「んにゃ。オレぁタカスギサブロウタ。あんた道場破りかい?まあ、こっち来てくんな」

 

妙に軽そうな青年に連れられて道場の裏手に来た彼が見たものは、軽く百人は越えようかと言う人の列であった。

 

「あの・・・・これは?」

「あんたみたいにダンナに勝負申し込む連中がズンドコ来るんでね。ちょっとこーゆーシステム作ったんだ。

 まずこれに名前と武器、そんでよけりゃ流派の名を書いてよ」

 

大福帳らしきものを取り出す。

 

「整理券渡すからさ、順番来た時ココ・・道場に居りゃダンナと手合わせできるよ。

 それまでは寝てよーが町で遊ぼーが好きにすりゃいい。あ、あと十二文(約800円)払ってね」

 

見ると行列の最後の人は「2時間待ち」とか看板持っている。

 

「それとダンナがあんたらみたいの相手するのは朝九時〜十一時、昼二時〜六時の間だからね」

「その微妙な時間はなんだ?」

「ダンナの本業は料理人なんでね。その仕事の合間ぬって相手してやんだから感謝してくれていいよ」

 

サブの背中に向けて鯉口を切る北山某。 

 

「ふざけるなぁーっ!」

 

だが鞘走らせようとした刀身が完全に抜ききらぬ形で彼の動きは止まった。

伸ばしたサブの人差し指と中指がその喉元へ突きつけられている。

 

「ふざけてんのはアンタだよ。何度も言うけど頼みもしねーのにやってくるあんたらの相手、

 ワザワザやってくれてんだぜ、あの人。

 第一オレに勝てねえあんたがダンナに勝とうなんざずーずーしいにも程があるよ」

 

スゴスゴと去ってゆく北山某の背を見つめるサブに掛けられる声。

 

「あれ?追い返しちゃったの?」

 

見ると「新刊有り□」という看板を背負ったヒカルが居た。

何か勘違いしているらしい。

いや、行列目当てで幾つもの屋台が立ち並んでいる所を見るとそう間違ってもいないようだ。

 

「いや、余りにも身の程ってモン知らないバカが来たもんで」

「大変だね〜」

「いや、ダンナ程じゃないっすよ」

 

二人して仮道場を見ると、丁度挑戦者達が数人まとめて放り出されていた。

 

「鳳龍天昇流、比翼双一文字!」  ドゲシャ!

 

「大変だね」

「いや、まったくッス」

 

 

「は〜い、今日はここまでで〜す」

 

ネルガル屋のエリナが仕切っているらしい。

 

「お泊まりは豪華な宿屋から格安な木賃宿までネルガル屋がお世話しますよー。

 滞在費が足りない方はウチが口入れ屋(職安の事)もやっておりますからね」

 

うむう・・・相変わらず商売上手いな。

 

「すみません、エリナさん。俺の都合でご面倒おかけして」

 

さして疲れた様子も見せず道場から出てきて謝るアキト君にさりげなく流し目で秋波を送るエリナ。

 

「気にしないでいいわ。ウチにも良い商いになるし、何よりも貴方の役に立てるのが嬉しいの」

 

おお、ちゃっかりアピールしているぞ。

 

「それより夕方の仕事早く行ってらっしゃいな。」

「んじゃお言葉に甘えて失礼します」

 

 

んでもって夜。妹のルリを連れてアキト君は自宅へと帰っていきます。

ルリはそりゃもー幸せそうですな。

だがアキト君はふと足を止め横の闇を見つめました。

 

「いつまでそんな所にいるんです?」

 

その声にふらりと出てきたのは抜き身の刃を構えた北山某。

 

「テンカワ、あんたを倒してオレは名ァ上げて仕官すんだ。その為に死んでもら」

 

ドゲシ!

 

「ホシノ流暗殺術の技が一、東洋大巨人的手刀打!」

 

手を開いて親指を額に当て、一言「アポゥ」とルリ。

この一言がポイントらしい。

「ゲーホゲホゲホ」と咳き込む北山某が怒りに燃えてルリを睨もうとするがその眼光にちょっちビビる。

 

「あなたは罪を犯しました。朝はリョーコさんがつきまとうわ、それ以外にも常に多くの女性が集まるにいさま。

 家への帰り道を歩く今だけが私がにいさまを独占できる時間だと言うのに・・・罰を受けるがよろしいでしょう。

 ホシノ流暗殺術の技が一、東洋大巨人的前ゲリ!」

 

ドゲシ!     「アポゥ」

 

地面に崩れ落ちる北山某。

 

「な、何て一撃だ・・・今のケリなんか、まるで十六文もある足で蹴られたかのような」

 

ズビシ!

 

「ホシノ流暗殺術が技の一、黒呪術士的手刀突き!」

 

声も出せずに崩れ落ちていく。

 

「お・・・乙女の足のサイズをコトもあろうに十六文・・・・もう許しません。あなたの罪、万死に値します。

 にいさまの前だから殺しはしませんが二十万回は死ねるくらいの苦痛、味わってもらいますよ。たっぷりと。

 ホシノ流暗殺術が技の一、緑色巨人的爆弾斧!」

 

彼の顔面に直角に曲がったヒジがめり込む。  「いっちばーん!」

 

 

 

「手刀打手刀打手刀打手刀打ィィィ!」

「突き突き突き突き目潰し手刀打手刀打ィ!」

 

少年漫画なら見開き8ページは使いそうな連撃がもはや辛うじて人の形を保っている北山某を打ちのめしていく。

ふっと攻撃がやみ、地に倒れ伏そうとする彼の頭を、ぐわしとわしづかみにする。

 

「ホシノ流暗殺術が技の一、林檎飲料作成的鉄爪掴み!」

 

ミシミシメキメキと音を立てて締め付けられる自分の頭に絶叫を上げる北山。

 

「ぐがあああああぁぁぁぁ・・・・・」

 

くじけようとする彼を無理矢理立たせる少女。

両手で顔の前にX字を作り、両足をそろえてジャンプ!

おお!その姿勢で繰り出す技こそ数百年後、ロボット工学者光○寺博士が

あまりの強さと美しさに自らの作品に授けたと言う伝説の・・・・

 

「ホシノ流暗殺術が最高位の技の一、電磁最終撃!」

 

パリン

 

どこかでギヤマン(ガラス)の割れる音がする。

ぎょりぎょりぎょりと妙な姿勢で跳ね飛ばされ、あってはならない形で地面に叩きつけられる北山さん・・・

何か可哀相になってきた。

しかしルリは手加減などしない。

ボロボロになった、かつて北山と名乗っていたモノをもう一度立ち上がらせる。

一歩、ニ歩と後ずさり距離を取り、最後の攻撃をかけようとするルリに、

彼は空ろな目でその場にいる今一人の人物・・・アキトに救いを求めるが、

相手は目を閉じ、力無く首を振るだけであった。

 

「ホシノ流暗殺術が技の一、花王石鹸的後頭部回し蹴り!!」

 

ずも゛!

 

六尺(約180cm)近く跳ねあがり、北山の後頭部へと回し蹴りを叩きこむ。

ゆっくりと崩れ落ちてゆく北山を、もう少女は見ようとすらしなかった。

 

「1、2、3、だあー!」

 

天へと拳を突き上げる妹を、アキト君は何やら人外の生命体でも見るかの如き目で見つめていたのでした。

 

 

 

後書き

 

「なんですコレ!プンプン!」

「半年ぶりのゲストはユリカかい」

「前から思ってたんですけど、あなたの作品、ユリカの出番少なすぎ!」

「うむ、良い機会なので私の使うキャラ、使いにくいキャラについて話そう」

「使うキャラの筆頭はやっぱルリちゃん?」

「うむ。もともと一番のお気に入りだし。王道好きのキワモノ好みという点でもツボに入りまくったキャラだ。

 また私の書く彼女はいわゆる『壊れルリ』や『サイコルリ』の影響を受けているので大変書き易いのだ。

 後書き易いのはエリナ・イネス・リョーコの三人。同時に一番のお気に入りでもある。

 こいつらセリフの中身や喋る内容が判りやすいんだ」

「んじゃ使いにくいキャラは?」

「筆頭はやっぱりメグミちゃんだな。彼女はあまりにも『普通』なのだ。」

「アレがふつ〜?」

「そう言うな。誰かと恋を争う時、目標とイチャついてライバルに見せつけるってのは普通だぞ。

 確かに策好きかもしれんが年中そうってワケでもあるまい。そんな風に特徴を出しにくいのだ。

 しかも艦内における地位が低いと勘違いしているらしく言葉がひどく丁寧だ。

 他者への呼びかけなどがルリと重なるので私としてはルリちゃんを優先せざるを得んのだ」

「ユリカは?」

「ひどい事を言うようだが私は君が嫌いなのだ。

 TV放送時にも君だけは選ばないでくれとアキト君に祈っていたし。

 色々理由はあるがやはり好みとしか言えん。

 まあメインにする事はないだろうが不幸にする事もありえんので安心したまえ。」

「ところでもひとつ聞きたいんだけど」

「知らん」

「前回のヒキは?」

「知らんといったら知らーん。

 あ、あと鋼の城さま、大変ご迷惑をおかけしました。

 多分これからもかける事になると思います。ご容赦下さい」

「その迷惑に値する作品を書けばいい事じゃない?」

「努力いたしますです、はい」

 

 

管理人の感想

 

 

影竜さんから十六回目の投稿です!!

いやはや、感無量の一作ですね(笑)

何しろ、輸送された作品を鋼の城さんがHTML化をして送ってくださったのですから。

う〜ん、重みのある作品だ(笑)

作品の中ではルリちゃんが、アレですけど(笑)

う〜ん、今回の本編のイツキとちょっとかぶってしまいましたね。

それにしても、ルリちゃんって強ぇ〜

 

では、影竜さん投稿、有難うございました!!

 

影竜さんはご自分のメールアドレスを持ってられないそうなので、

感想はこの掲示板に出来れば書き込んで下さいね!!

宜しくお願いします!!