作品注

  今回の最後はかなり痛いことになっておりますので、心の準備をお願いします。

  イタイのがだめという方は・・・・・・・・判断はおまかせします。

  では心の準備が出来た方は読み進めて下さい。














   城壁のような壁に囲まれた山に入っていく二人の女性がいた。

   一人は真紅の髪の男装した女性、真紅の羅刹こと天川 北斗である。

   もう一人は北斗に着いてきた紫苑 零夜。

   北斗は不機嫌を隠そうともせず、手に持った手紙を握りしめた。

   「ねぇ、北ちゃん。その手紙は本当にハーリー君が書いたと思う?」

   「わからん。しかしルリがそう言ったのだから、そうなのだろう」

   ちらりと手元の手紙に視線を向ける。

   その手紙は・・・・日本語ではなくやや特殊な独逸語で書かれていた。

   しかも流水の如く、達筆で。

   二人はルリに訳して貰ったその手紙の内容を思い出した。






   「北斗さんへ。

    大事なお話があるので山に来て下さい。

                        ハーリー」




   これだけなら一秒で無視するだろうが、続きがあった。





  「またテンカワさんが逃げ出したそうですね。

   それについての情報を持っています。

   来ていただけたら、その情報を渡します」





   と書かれていたからには行かねばなるまい。

   そういうわけで、今二人はここにいる。

   他の者たちも来たがったが、雪山と化したハーリーの山の危険性を考え、経
  験者であるこの二人が代表として選ばれた。






   膝まである雪を北斗がかき分け、その後ろを零夜が付いていく。

   「北ちゃん、ほんとに待ち合わせ場所ここでいいの? 」

   「ああ、この先の売店がそうだ」

   やがて売店が見えてきた。

   そこには冬毛に包まれた熊と防寒装備のチンパンジーと黒衣の青年が、囲炉裏
  にかけられた鍋を囲んで食事をしていた。

   鍋から立ちのぼる湯気と食欲をそそる香りが北斗達の所まで漂う。

   ぐぅ。

   「腹がへったな。まだハーリーも来てないみたいだし、どうだ一杯」

   「北ちゃん、なに使ってるかわからない物を食べるの・・・・?」

   「こうして食ってる奴がいるんだからユリカ達程の毒性はあるまい」

   北斗は熊達の側に歩いていく。

   「すまんが、一杯貰えないか」

   「がぅ」

   熊がなにやらメニューらしき物が書かれている紙を取りだした。

   そこには


    一杯      鮭   四分の一
            イワナ 一匹
            卵   二つ



   どうやら外界の通貨は使えないらしい。

   「むぅ、仕方ない。今から取ってくるか」

   「北ちゃ〜ん、ハーリー君がくるまで待ってようよー」

   北斗の袖をくいくいと引っ張る半泣きの零夜。

   「お姉さん達、ここは俺が奢りましょう」

   ドンブリから汁を啜っていた青年が二人に声をかけた。

   「いいのか」

   「ああ、ハーリーの知り合いなら代金は奴からふんだくるから構わないよ。
   それに俺はこう見えて美人には親切なんだ」

   「誰が美人だって」

   「あんたとあんた」

   肉を摘んだ箸で二人を指す。そして肉を口に放りこむ。

   「もしかしてナンパ? 」

   「良い度胸だ」

   北斗の拳が握られる。

   「よく言われる」

   青年は再びドンブリに口をつける。

   「あちっ」

   「無視するなぁ! 」

   北斗の拳が唸る。

   「北ちゃん!! 」

   青年は身体を反らして北斗の拳を回避。

   起きあがりつつ他のドンブリに鍋の中身をよそった。

   「はい、腹がへってるとただでさえ短気なのにさらに短気になるぞ」

   青年は湯気を立ち上らせるドンブリを北斗の目の前に差し出す。

   「いるか! こんなもの」

   その手を払う。

   青年は素早く腕を下げて回避。

   北斗の手を回避したドンブリに箸を着ける。

   「あっそ、じゃあ俺が食う」

   「北ちゃんが・・・・・・・いいように遊ばれてる」

   「きさまぁ〜〜」

   唸る北斗を無視して青年は食べる。

   「で、お二方はなんの用があってここまで来たんです。こんな辺鄙な山まで」

   「・・・・・・・・・俺の弟子に会いに来た」

   「弟子? ハーリーがあんたの弟子かい」

   「そうだ」

   「ここで待ち合わせをしているんですけど、なにか知りませんか」

   「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ふむ」

   青年は二人をじっと見る。

   「な、なんですか」

   「これは、なかなかいけるな」

   いつのまにか自分でよそったらしいドンブリを片手に北斗は呟く。

   「二人ともわかりませんか」

   「なにが? 」

   頭に?を浮かべる零夜、夢中で食べ続ける北斗。

   「俺が・・・・・・・そのハーリーですよ」

   「ええ! 嘘ー!! 」

   「おやじ、もう一杯」

   熊にドンブリを差し出す北斗。

   ドンブリを器用に受け取る熊。   

   零夜は青年の姿を改めて見た。

   黒髪にサングラスの下には金色の目、黒いコートに黒いズボンと、アキトの服装
  を気にしてなのか黒ずくめの格好をしていた。

   背の高さはアキトと同じか少し高く、全体的によく引き締まった機敏さを感じ
  させる戦士の身体をしていた。

   昔の姿からは想像出来ない程の変わり様だった。

   「ほんとに・・・・・・・ハーリー君」

   「ええ、五年もあればかなり変わりますよ。・・・成長期ですからね」

   ハーリーはサングラスを外して軽く微笑む。

   「・・・・・・・(ハーリー君なんか格好良くなってる)」

   昔のような子供の笑顔ではなくやや男らしさが表に出ている笑顔だ。

   「・・・・・・・・(ぽっ)」

   何故か零夜の鼓動が一つ、トクン、と高鳴った。

   「・・・・・・ハーリー」

   北斗が、

   「おかわり、特盛りでな」

   ドンブリをハーリーに差し出した。








       運 命 と 世 界 に 愛 さ れ し 者

           第一話 運命と真紅の羅刹





   北斗が特盛を食べ終えた後、口を開いた。

   「マキビ、アキトの居場所はどこだ」

   「はふはふ」

   零夜もちゃかり鍋をごちそうになっている。

   「天川さんの居場所ですか。その前に俺の話を聞いて貰えませんか」

   「居場所が先だ」

   「だめです。話を聞いてからにして下さい」

   「マキビ。お前、ずいぶんと偉くなったものだな。お前に選択する権利があ
   ると思うのか。泣き虫だったお前が」

   「それは昔の俺で、今の俺とは違う。それに情報を持っているのは俺」

   「腕ずくで聞き出しても良いんだぞ」

   「なんでもかんでも力で解決させようとするのは、どうかと思いますよ。も
   う子供ではないはずですよね、あなたは」

  二人が見つめ合う。

   これでどちらかが頬を染める、なんて事があればおもしろいのだが、頬を染
  めるどころか火花が散りそうである。

   「なんか逃げた方がよさそうね」

   「がうがう」

   「うっきー」

   熊とチンパンジーに目配せして、零夜はゆっくりと立ち上がる。

   それでもドンブリと箸は持ったままだ。

   三人(一人と二匹?)が表に出て、零夜が一息ついてドンブリに口を着けよ
  うとしたその瞬間・・・・・・。

   売店が吹き飛んだ。なんのまえぶれもなく。

   黒い固まりが爆風でか零夜達の横に飛んできた。

   それは厚い雪の中に突っ込む。

   「熱いっ!!」

   爆風に煽られドンブリが零夜の手の中でひっくり返った。

   「うー、手が汚れちゃったよ」

   ドンブリの汁で手を汚した零夜に横から白いハンカチが差し出される。

   「えっ」

   そこには全身雪だらけになったハーリーが立っていた。

   「すいませんね。どうやら北斗さんを怒らせてしまったようで」

   「あ、ありがとう」

   素直にハーリーからハンカチを受け取り、手を拭う。

   「怒らせるって、北ちゃんに何をしたの」

   「いやただ、そんなに短気で全然大人にならないから天川さんが逃げるんで
  す、って言っただけだったんですけどね」

   「・・・・・・・ハーリー君、今の北ちゃんにその話題は禁句だよ」

   「マ〜キ〜ビ〜」

   売店跡から真紅の羅刹が飛び出した。

   全身を朱金の昂気で覆った北斗が弾丸の如き勢いで走る。

   「まったく、もう少し落ち着いてくれても良いのに」

   ハーリーはそうぼやきつつ右手に棒状の物を持ち、北斗を待ち受ける。

   間合いに入った北斗は強く足を踏み出した。

   北斗の足が雪を押しつぶし、ハーリーに昂気を纏わせた拳を、打つ。

   「ハーリー君!!」

   最悪の事態を想像した零夜が叫ぶ。

   その叫びに混じって虚空から声が響いた。

   ≪運命とは砕かれぬもの≫

   「マキビ」

   北斗の口から驚きの隠った声が漏れた。

   「えええ!!」

   予想と全く違う結果に零夜が驚きの声を上げた。

   ハーリーの持つ黒い棒状の物から出た、闇色の刃が北斗の拳をしっかりと受
  け止めていた。

   「運命とは砕かれぬもの。そう言いましたよね」

   ハーリーの口元にわずかな笑みが浮かぶ。

   北斗は小さく舌打ちすると、大きく後ろへ下がった。

   「マキビ、いったいなんだそれは」

   「これですか」

   闇の刃が消えた棒状の物を軽く振った。
              ゲレーゲンハイト
   「これの名は強臓式武剣  運  命  。俺の相棒ですよ」

   再び運命から闇の刃が突き出した。

   「これの力は空間を文字的に書き換えることができる。と言った物です。
   簡単にいえば現実を別の現実に変えることができる」

   小さく苦笑して、
        エアクレーン
   「それを 言 実 化 と呼んでいます」

   あたりに沈黙が漂う。

   ・・・・・やっぱりこの人達にはわからないか。

   「さあ、北斗さん。続けましょうか。こんどは全力でお願いしますね」

   「どういう意味だ、マキビ」

   「後からあれは全力じゃなかった、なんて言わなくていいように」

   北斗はちらりと足下に視線をやった。

   ・・・・・こんな悪い足場だとおもしろくないな。

   「これを切り抜けられたら全力で戦う資格ありと認めてやろう」

   全身の昂氣を拳に集め、

   「おおおおぉぉぉぉぉ!!」

   雪に覆われた大地に昂氣の一撃。

   拳を受けた地面が陥没し、クレーターが作られる。

   だがそれだけでは北斗の力は吸収仕切れずにハーリーの山全体が震えた。
   
   「なんてことを」

   「北ちゃん。・・・・・・もしかして私のこと忘れてない?」

   「がぅぅぅ」

   「モッキー」

   この現象が自分に関係ないことであれば、熊と猿がお互いを抱きしめるという
  世にも珍しい光景をのんきに見ただろうが、今はそれどころではなかった。

   「マキビ! これを乗り切って見せろ!!」

   北斗の遙か後方でゆっくりと動く物があった。

   雪山の白い津波、雪崩だ。

   北斗の一撃により山が震撼し、雪崩が起きたのだ。

   ゆっくりとだが確実にその速度と質量を増大させつつ、雪崩は山を駆け下りる。

   「俺はお前を信じてるぞ!! 」

   北斗はそう言い放つと雪崩に向かって、飛んだ。

   昂氣によって体重を激減させた北斗の身体は今や箸より軽い。

   箸より重い物を持てない人間でも安心だ。

   まぁ、持とうとする人間はこの世界でただ一人だろうが・・・・・・。

   雪崩の向こう側へ着地した北斗を見て、

   「俺だけならまだいいけど、零夜さんを巻き込むなんて」

   零夜の方に顔を向け、

   「信頼されてますね」

   「北ちゃんに忘れられてるだけよぉ〜〜〜」

   大自然の驚異に対して零夜はペタンと腰を雪の上に落とした。

   「ああ、私はここで死ぬのね」

   雪の上で泣き崩れる零夜。

   「でも、北ちゃんに殺されるなら」

   「なら零夜さんだけ死にますか」

   ハーリーの背後に熊達が避難している。

   「だって私はハーリー君みたいに不死身じゃないもの」

   その言葉に苦笑。

   「どちらにするかは任せますが。死にたくないのなら俺の後ろにいて下さい」

   ハーリーは腰を落とし運命を突きの形で固定。

   視線に力があり、その視線の見る物は雪崩ただ一つ。

   零夜も渋々ハーリーの後ろに避難。

   そこから見える光景は壁の様に視線を阻むハーリーの広い背中。

   ・・・・・いつの間にハーリー君はここまで大きくなったんだろう。

   零夜は考える。

   昔のハーリーはいつも泣かされて、ハーリーダッシュを披露していたひ弱な存在
  だったはず。

   それが今では北斗と互角に近い実力を持っているかもしれない。

   零夜にはたった五年で別人の如く変貌したハーリーに驚いていた。

   ハーリーはもう目の前に迫った雪崩を見据える。

   体内の微小相転移エンジンの活発化に伴い、身体が、精神が高揚していくのが
  わかる。

   腕に取り込んだ接続端子から運命にエネルギーが流れ込む。

   そのエネルギー量は単二型精燃槽(乾電池ともいう)二十本分。

   二ヤードほどしかなかった闇の刃が伸びる。(一ヤード90p)

   ハーリーが運命を突き出した。

   その間も刃は伸び続けている。

   刃が雪崩を貫き、さらに太くなり伸びていく。

   ついに伸びきった時には、刃は八十ヤードにも達し、太さも二ヤードに達した。

   ≪運命とは切り開くもの!≫

   ハーリーは雪崩を貫いている運命を振り上げた。

   斬。

   雪崩が切り開かれた。

   雪崩を切り開いた闇の刃がパッと砕けて消えた。

   「大丈夫ですか」

   ハーリーが振り返る。

   「・・・・・・あうあう・・・・・・」

   零夜は雪の壁に取り囲まれただけですんだことに驚き、頷く事しかできない。
   
   「それじゃ、北斗さんとの決着を着けてきますね」

   ハーリーは天井部分にある壁の切れ目に向かって跳ぶ。

   ≪世界は運命の足枷とならず≫

   雪の壁の上に降り立ったハーリーは北斗目指して走る。

   その足は雪に沈むことはなかった。










   「やはりきたか、マキビ」

   ・・・・・しかし、ほんとうにあれを切り抜けてくるとは。

   内心の驚きを表に出さないようにしながら北斗はハーリーと対峙した。

   「まあ、あの程度ならどうってことはありませんよ」

   闇の刃を突き出した運命を構え、

   「つぎで終わりにしませんか。いい加減時間も押してることですし」

   「はっ! マキビ、お前の口からそんな言葉がでるとはな」

   北斗は自分の持つ最大の技を使うべく構えた。

   「良いだろう。次で終わりだ」

   朱金の昂氣が集まるべき場所に収束されていく。

   ハーリーは走り、一気に北斗との距離を縮める。
   大技を喰らえばハーリーとて無事ではすまない。

   ならば使われる前に決着をつけるのみ。

   二人の距離が10メートルを切った。

   「これで終わりだ。蛇王双牙斬!!

   北斗の昂氣で作られた破壊の力がハーリーに撃ち出された。

   朱金の力の塊がハーリーを襲う。

   だが、ハーリーの口元には笑みが浮かび、言葉が出た。
 
  「あなたの負けです。北斗さん!!」

   運命の刃が無造作に振られ、時計回りに空間を叩き斬った。

   詞は一つ。再び虚空より声が響いた。

   ≪我が運命は未だ死を告げず≫

   それだけだ。

   それだけで、北斗の朱金の力はハーリーの背後に抜けた。

   「ばかな!!」

   北斗は自分の目を疑った。

   蛇王双牙斬がハーリーの力で無効化されたなどとは信じられなかった。

   だが、現実に北斗の放った力はハーリーを捉えてはいない。

   ・・・・・考えるのは後だ。今はただ目の前の敵を倒すのみ。

   北斗の動揺は長くは続かない。

   ≪運命は真紅の羅刹を打つ≫

   大技を放ったばかりの固まった身体に鞭を打ち、強引とも言える動きで回避。

   ≪真紅の羅刹すら運命からは逃れられず≫

   昂氣を纏わせた腕で運命の刃を受ける。

   ≪守りの鎧は砕かれるが運命≫

   「ぐうっ」

   昂氣の鎧が刃に砕かれ、腕に激痛が走った。

   運命を振り下ろし、無防備になったハーリーの顔を蹴りつける。

   ≪運命は流れゆくもの≫

   ハーリーの身体が蹴りと同じ方向に流れた。

   結果としてハーリーは北斗の背中を取ることになる。

   北斗は振り返りつつ攻撃しようと・・・・・・。

   無駄だ、とハーリーの唇が動いた。

   ≪運命の流れはなによりも速い!! ≫


   詞により強化されたハーリーは北斗の動きを上回った。

   北斗は背後より刃が迫るのを感じ、己の中で叫んだ。

   ・・・・・アキト以外の者に負けるとは!!

   だが、その一撃はやって来なかった。

   ハーリーの気配も忽然と消え失せている。

   「マキビ? 」

   北斗は背後を振り返った。

   そこには誰もおらず、一面に雪に覆われた大地があるだけだった。

   そして、ただひとつ声が響いた。

   ≪世界は運命をかの地へと運ぶ≫

   「どこへ行った! マキビ!!」

   むなしく北斗の声が響いた。













   「いたいよー、いたいよー」

   一人泣きながら雪原を歩く半裸の女性。

   新品だった防寒服はほぼずたずたに破れ、服としての機能はもはや果たされては
  いない。

   その虚ろな目は何を見ているのか、ただ虚空を見つめて、涙を流す。

   ハーリーの山を襲った突然の猛吹雪。

   さっきまでの晴天が嘘のように今は五メートル程度の視界もない。

   女性はすでに凍傷の前兆の現れている手足をぎこちなく動かし、前へと歩く。

   「いたいよー、北ちゃーん。どこにいるのー」

   声に感情の起伏が見られない。

   あの後、北斗を追って切れ目から出た零夜はどこからか飛んできた朱金の力を
  身体に受け、虫のように吹き飛ばされ、大けがを負った。

   まともに受けた左腕は原型を留めていないほどに変形し、大量の血を流した。

   だが、今は腕が凍り付きかけていることで出血死は免れることができた。

   しかしある意味出血死よりも苦しみを長引かせるだけかもしれない。
 
   冷気による凍傷がその手足を白く変色させ、蝕んでいた。

   体温の低下による朦朧状態に陥った零夜にはもう自分がどこに向かって歩いて
  いるかはわからない。

   ただただ、北斗の名を呼び、雪混じりの豪風に押されて歩くだけだ。

   「零夜さん!!」

   豪風を貫いて声が響いた。

   だが零夜は聞こえないのか、その声とは別の方へ流されるように歩く。

   横から零夜の腕を黒い手が掴んだ。

   「零夜さん、大丈夫ですか」

   その黒い手、ハーリーの手が零夜を引き寄せ、抱きしめる。

   「あっ、北ちゃん。だめだよ一人で歩いちゃ・・・・すぐに道に迷うんだから」

   今にも壊れそうな儚げな笑顔をハーリーに向ける。

   「・・・・・・・・零夜さん・・・・・・なんて酷い」

   ハーリーは零夜の姿を見て、愕然とした。

   しかし、それも一瞬のことだ。

   すぐにハーリーは自分の着ていた黒い厚手のコートで零夜を包む。

   ハーリーの持つ防風盾符の影響下に入った零夜はもう風にさらされることはない。

   「いつまで立っても家に来ないと思ったら、こんな事になってるなんて」

   思わずハーリーの零夜を抱きしめる腕に力が入る。

   「いたいよ、ほくちゃん」

   「すまない」
 
   「いいよ。でも、もう勝手にどこかに行っちゃだめだよ」

   ハーリーは叫びたくなる衝動を抑えこみ、立ち上がった。

   「ほくちゃんって、とってもあったかいね」

   腕の中の零夜がハーリーの胸に顔をくっつける。

   零夜の言葉が胸に突き刺さる。

   ・・・・・もう零夜さんには、俺と北斗さんの区別もつかないのか。

   ≪世界は運命の足枷とならず≫

   ハーリーの呼びかけに応えた世界は、自身の一部である雪による足枷を彼には
  作用させない。

   雪に沈まぬハーリーは北斗と自分のもっとも大事な存在が待つ家へと走った。





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 後書き

  再びこんにちは、kageto2です。

  何故か今回はこんな痛い、イタイ物になってしまいました。

  おかしい、こんなはずではなかったのですが。

  やはり、風邪ひきの時に書いたのがいけなかったのか。

  
  次回、ハーリーは零夜さんを救い、当初の目的を果たすことが出来るか?!
  では次回でまたお会いしましょう。

  なお、この中に嘘、間違い、勘違い等々があるでしょうが見逃して下さい。
      

 

 

代理人の感想

う〜む、強い(笑)。

確かに強い。

本当に強い。

 

 

 

だが問題は、何ゆえ独逸語!?というその一点に尽きるかと(笑)。