●ハーリーの言解議状態『ハーリーの家、大広間にて』−−−−−−●

   ≪ハーリーの言像更新≫


   ハーリーの視線の先にはテーブルに着いているテンカワの名を持つ少女達とメイが居る。

   やや落ち込んだ顔のメノウと無表情の香織。

   それ以外の者は普通にハーリーを見ていた。

   「それじゃあ、改めて自己紹介をしよう」

   ハーリーは皆の顔を見回して立ち上がる。

   「この電詞都市の設計者であり管理人のマキビ・ハリだ。これから色々と長いつきあいになれればいいんだが、とにかくよろしく」

   彼の言葉に皆それぞれの反応を示す。

   返事を返す者や頭を下げる者、なんの反応も返さない者と。

   ハーリーは椅子に座り、口を開いた。

   「次は辰斗。お前の番だ」

   ハーリーの隣に座っていた香織がめんどくさそうに立ち上がる。

   「マキビ・辰斗だ」

   香織はそれだけ言うと席に着いた。

   そんな香織を見て、軽く溜息を吐くハーリー。

   「次はテンカワ・アイ。頼む」

   切れ長の目をした、金色の髪の少女が立ち上がる。

   テンカワアイは白衣のポケットに左手を入れたまま口を開いた。

   「ほとんどの人は知っているだろうけど、改めて言わせてもらうわ」

   アイはハーリーとその両脇の香織とメイに顔を向けて言う。

   「テンカワイネスの娘。テンカワアイよ。まぁ。母親の血を濃く引き継いでいるから、趣味とかはママとあまり変わらないわ」

   それだけで十分でしょ、と言ってアイは椅子に座った。

   つい、と隣に座っていた佳乃に視線で促す。

   「は、はい。あ、あの・・・・・・」

   どもりつつ肩のあたりで揃えて切られた黒髪の少女が立ち上がった。

   ハーリーの視線が気になるのか、ちらちらと彼の様子をうかがいながらおずおずと話し始める。

   「えと、私は佳乃です。テンカワ佳乃。お母さんはテンカワメグミです私もメグミお母さんと同じで歌とか本を読むのが好きです」

   ちらりとハーリーに目をやると彼は軽く頷く。

   「ありがとう、佳乃さん」

   「あ、の。以上です」

   佳乃はゆっくりと椅子に座り、大きく息を吐いた。

   「はぁ〜〜」

   「で、次は」

   ハーリーは佳乃の隣に視線を移す。

   「次は・・・・・・私」

   彼の視線を受け、長い桃色の髪の少女が小さく呟いて立ち上がった。

   「ロゼの名前は、テンカワ・ロゼ。ラピスママの子供」

   「よろしく、ロゼさん」

   ロゼはハーリーの方を見るとポツリと言った。

   「ロゼでいい」

   「そう、なら。これからよろしく、ロゼ」

   柔らかい微笑みを浮かべたハーリーが言い直した。

   「・・・・・・・ん・・・・・・・・」

   母譲りの色白の頬が僅かに赤く染まり、頷く。

   香織の眉がぴくりと動いた

   「・・・・・・・・・・」

   辛うじて喉まで出かかった言葉を飲み込む。

   「とりあえず、甘いお菓子が好き」

   ロゼはそう言ってテーブルの中央に置いてある大皿に視線を向けた。

   大皿の上には多彩なお菓子が乗って、食べられるのを待っている。

   今にも涎を垂らしそうな顔でじっとお菓子に熱い視線を送っていた。

   「あーと、すまなかった。でももう少し待ってくれ全員が終わるまで」

   「うーーー」

   不満そうに小さく唸るが大人しくロゼは席に着いた。

   「次は私ね」

   呼ばれもしないのにロゼの隣で座っていた少女が立ち上がる。

   「あたしの名前はエルゼ。テンカワエルゼ」

   気の強そうな目が印象的な黒髪の少女だ。

   「母さんの名前はテンカワエリナよ」

   ところでさ、と一度句切り、

   「ここであんたの頼みを聞けば、あたしの頼みを本当に聞いてくれるんだよね」

   「それはもちろん。おれの頼みを聞いてもらうんだからそれなりの報酬は払うよ」

   「絶対?」

   「ああ、絶対だ。・・・・・たしか、君が報酬として請求してきたのはこの国から脱出することと、戦闘機を一機だったな」

   「そうよ。でも、この国から逃げ出したいというよりは母さん達の元から逃げ出したいの」

   「理由を聞いてもいいか。どうして血の繋がった家族の元から逃げ出したい、なんて事を?」

   「知ってる? 家族なんてのは血の繋がっただけの、もっとも身近な他人なのよ」

   「随分と寂しいことを言うんだな」

   「そう? あたしの言っていることは間違ってる?」

   「いや、間違っているわけじゃないが。・・・・・・だからといって完全に正解とは言いたくないなぁ」

   エルゼの言葉に複雑そうな顔でハーリーは頬をかいた。

   「ハーリー」

   口を閉じていた香織が彼に呼び掛けた。

   「例え血が繋がっていようと、家族としてのふれあいがなければ家族とは言えないだろう。だが逆に、ふれあいさえあれば例え血が繋がっていなくとも家族になることはできる」

   香織はハーリーを見上げて、

   「エルゼには血が繋がっていても、本当の意味での家族と言える人は居なかったんだろ。悲しいことに」

   「そう、だな」

   ハーリーは香織の頭に手を置いてゆっくりと撫でる。

   「でも、俺とお前も血は繋がっていないけど、家族だもんな」

   「ふんっ、当たり前だろ。そんなこと」

   そう言い捨てたが香織の頬は赤く染まっていた。

   「なんだ、あんた達血が繋がっていなかったんだ」

   やや驚いた顔で言ったエルゼにハーリーは応える。

   「ああ、だから結婚もできるぞ」

   「は、ははは。ハーリー! 何言ってるんだよ!!」

   顔はおろか、首筋まで真っ赤にした香織がハーリーに怒鳴った。

   「まあまあ、そう怒鳴るな。ちゃんと胸と尻が大きくなったら俺のお嫁さんにしてやるから。昔の約束通り」

   「・・・・・・・・・・」

   怒りか羞恥か、あるいはその両方なのか。感情の高まりすぎた香織の口はパクパク動くだけで声は出ない。

   「そう言えば、そっちの3人も同じ事を要求してきたな」

   ハーリーはエルゼの横にいる、レナ、サーラ、リサを見る。

   「そうやな。私が要求したのはどんなもんでも整備できる腕とこの国からの脱出やな」

   黒髪を大きなお下げにしたレナは腕を組みつつ、言った。

   「そうやね〜。私はそれとナデシコ級戦艦を一隻でしたわ」

   頬に手を当てて、糸目の少女、サーラが独特の発音でレナに続く。

   「で、私も同じで。それと母さん達と互角に戦える機動兵器を一機」

   ストレートに流したボリュームのある銀髪の少女、リサが最後に言った

   「お前達揃ってそんなもん要求して、どっかの国に喧嘩でも売る気か」

   特にお前は、とサーラに向けて、

   「戦艦なんてバカみたいに高くて、バカみたいに戦闘力が高い物を要求してきて。それもにナデシコ級だなんて。いったいいくらかかると思ってるんだ。さらに戦闘に使っても平気な赤い炊飯器なんて、武器にでもするきか、まったく」

   「いやー、実はそうなんですわ」

   サーラはそう、言い切った。

   「は? どういうことだ」

   ハーリーはサーラの言葉の意味がわからず聞き返す。

   「私のお母はんはテンカワ・サラ、言うんですけど。なんでも消化器を武器にして戦った言う話を聞きましてな」

   「・・・・・・・それで、赤い炊飯器か」

   「はいー、そうなんですわぁ。でも」

   ちょっと心配そうに、

   「もしかしてダメですか。だめなら我慢しますわ」

   「別にだめじゃないぞ。戦闘につかうには少し強化しないとだめだから面倒なだけで。それに炊飯器なら逆襲のジャーというものもあるし」

   「そうなんですかぁ。それなら私頑張ってやらせていただきますぅ」

   もとより細かった目をさらに細めてサーラが嬉しそうに微笑んだ。

   しかし、何かを思い出したようにハーリーを見つめる。

   「それで、戦艦の方はどないですかぁ」

   「そちらの方も了解した。・・・・・・・でもな俺の頼みを完全に達成してくれてからだぞ」

   ハーリーのやや疲れた顔とは対局の顔でサーラが応えた。

   「はい、おまかせですわぁ」

   「ところで自分にも機動兵器は貰えるんですか?」

   リサがハーリーとサーラの間に割り込む。

   「もちろん。戦艦と比べれば重騎の一機や二機、安いもんだ」

   「あの、重騎ってなんですか」

   「ん?。 ああ、重騎って言うのは俺のいた世界でのエステパリス見たいなものさ」

   「それって強いですかっ!」

   「それはもう、と言いたいところだが。完全な重騎はあげられないな」

   「なんでですかぁ? バカ高いサーラの戦艦は良くて、それよりかなり格安の、その、重騎ですか? はくれないんですか」

   リサは唇を尖らせて、ハーリーに不満をぶつける。

   「もしかして・・・・・自分の事嫌いですか?」

   上目遣いにハーリーを見つめた。

   「そう言う訳じゃないんだ。ただちょっとした事情があってね。でも大丈夫。こっちのエステを俺の持つ異世界の技術で強化した後、重騎の十八番、凌駕紋章を組み込んであげるから」

   「異世界の技術? 凌駕紋章?」

   リサが聞き慣れない単語を耳にして首を傾げる。

   「ああ、そう言えばまだみんなには話してなかったね」

   ハーリーが皆の顔を見回してみれば、香織以外の者が首を傾げる。

   「と、その前に自己紹介を終わらせてしまおう」

   彼はまだ自己紹介を終えていないメノウの方に顔を向けた。

   ハーリーは優しく、やや俯いたまま顔を上げない少女の名を呼ぶ。

   「あ、はい」

   メノウは怯えるようにゆっくりと顔を上げた。

   その弱々しい視線は香織に向けられた。

   しかし、それに気がついているであろう香織は、メノウの視線を完全に無視している。

   じわっとメノウの顔に悲しみがわき出た。

   ここまで露骨に拒絶されたことがないメノウは下唇をきつく噛んで、なにかを堪えるように俯いてしまう。

   「メノウ。改めて自己紹介、できるな」

   優しく笑顔を見せながら、だがハーリーは拒否を許さない声でメノウに再び促した。

   「で、でも」

   聞き取れないくらい小さな声で呟き、ハーリーを見る。

   メノウはハーリーの目を見て、息を飲んだ。

   笑顔のはずのハーリーの目が、こう言っているように見えた。

   「・・・・・・逃げるな・・・・・・」

   メノウは唾を飲み込み、確かに頷いて、顔を上げる。

   ゆっくりと立ち上がり、僅かに躊躇った後。両手を振り上げ、掌をテーブルに叩き付けた。

   初めて大きな音がこの部屋に産まれて、テーブルの上にあったカップ達やお菓子の皿が一瞬浮き上がり、落ちて固い音を響かせる。

   さすがに香織もこれには驚き、メノウを見てしまった。

   香織が自分を無視し続けられず見たことに対し、メノウは勝ち誇ったような笑みを浮かべた。

   「わたくしの名はメノウと言います。テンカワ・ルリの娘です」

   吹っ切れたのかさっきまでの弱々しい姿とは打って変わって、堂々と香織を見、そしてハーリー達を見る。

   小さく舌打ちし、香織はまたメノウから視線を外し、無視を開始した。

   だが、メノウは気にしたふうもなく言葉を続ける。

   「先ほどハリ様に命を救われ、今度は私がハリ様を救う番ですわ。ですから私は特に望む物はありません」

   ちらりとハーリーに目を向けると、

   「でも。ハリ様が許してくださるのでしたら、いつまでもお側に置いていただきたい、これがわたくしの望みですわ」

   メノウはそう言って、椅子に座り、ハーリーに笑顔を向けた。

   ハーリーも満足げに笑みを浮かべ、軽く頷いてみせる。   

   「もし、俺を無事に助け出してくれたのならその望みを必ず叶えよう」

   その言葉とハーリーの対応に香織の目つきが変わった。

   「・・・・・この、野郎」

   香織の口から怨嗟の呟きが漏れる。

   我慢できないと、立ち上がりかけた香織の腕を掴んだ者がいた。

   香織は自分を止めようとした奴を睨み付ける。

   「そんなに睨むなよ。辰斗」

   香織を抑えたのはメイだった。

   自分を睨み付ける香織に怯むことなく言った。

   「ここではやめておけ。ハーリーに怒られるぞ」

   「うっ」

   ピシリと香織の動きが止まる。

   そして、しぶしぶながら椅子に深く腰を降ろした。

   しかし、これくらいはとメノウを睨み付ける。

   だが、今度は私の番と言いたげに、メノウは香織を完全に無視した。

   「くぅぅぅぅぅぅ」

   悔しげに手を握り締めてうめき声を上げる。

   「ハーリー。俺はまだやってなかったよな」

   メイが手を挙げてハーリーを呼んだ。

   「おっと、それはすまなかったな。やってくれ」

   「それじゃ、やらせてもらうぜ」

   ハーリーから許可をもらったメイは立ち上がった。

   その場にいる者達の顔を見回しながら口を開いた。

   「俺の名はヤガミ・・・・・」

   やや躊躇ってから、

   「ヤガミ・メティス。だが、わけあってメイと名乗っている。だから

   メティスとは呼ばないでくれ」

   ちらりとハーリーを見て、

   「とりあえず色々と要求しても言い様だから俺も言わせてもらう」

   「いいぞ。ただし、あまりにも非常識なのはやめろよ」

   「戦艦やエステ、戦闘機を報酬としてくれてやる約束をした人間の言葉とはおもえんがまあいい」

   拳をつくり、

   「俺が要求するのはオヤジである。ヤガミ・ナオよりも強い力を俺に与えることだ。出来ないとは言わないよな」

   「ああ、言わないさ。でもな、力を持てるかどうかはお前の才能と努力次第だ。訓練がきついからって、逃げるなよ」
   「はっ、望むところだ」

   ハーリーの言葉に、不敵な笑顔でメイは言い切った。

   「皆の自己紹介も終わったところで、ちょっと休憩にしよう」

   そう言うと共にハーリーは胸ポケットからハンドベルを取り出し、振るう。透き通るような綺麗な音が部屋の中に響きわたった。

    ≪新しいお客様が一名、この頁に入状されました≫

   :一人の贋作外殻の方です。

   :匿名設定により名無し様とします。

   そう表示が出て、部屋の扉が開く。

   そこに立っていたのはさっき紅茶を持ってきたメイド服の少女。

   「失礼いたします」

   彼女は一礼したのち部屋に静かに入ってきた。

      ≪ハーリー様の言解議状態を終了します≫

  

 

その3へ続く