機動戦艦ナデシコ

魔剣士妖精守護者伝

第4話  親父のお仕事?

 


とある所に座敷牢がある。ある男の手に負えなくなってしまった存在を閉じ込める為だけに作られた物だ。その牢には、一人の赤髪の美少女が入れられていた。

いつもは幼馴染の少女か、自他ともに認める姉代わりの女性以外に来客の無いその牢に、およそ来ないであろう人物が来ていた。

「愚息よ。仕事だ。」

その人物―――雰囲気や気配から誰が見ても只者ではないと判断するであろうその人物―――北辰を見やり、その少女は気だるそうに答えた。

「これはこれは我が親愛なる親父殿。内容は?」

…最大限の侮辱を持って。

「地球側の新型機動兵器の破壊と、軍要人の暗殺だ。お前は暗殺の方を。始末するのは枝織だ。我等は新型機動兵器を破壊する。しかしこれは陽動。本命はお前だ。」

「ふん。まあ退屈はしないか…。」

そう言い、赤髪の美少女――北斗は立ちあがった。これまでと同様に、楽でつまらない仕事だと思っていた。……少なくとも目的地に着き、仕事を行うその時までは。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ちっ!これほどまでに強い奴とは…。地球側はとんでもないな。」

そう言いつつも、任務を果たせず撤退している北斗。

木連最強の戦士北斗。その彼女をそこまで追い詰めるほどの人物が今回の彼女のターゲットだった。その人物とは、地球連合宇宙軍大将、山下将明――龍一の父親――だった。

今の北斗の状況は簡単に言うと敗走である。枝織に変わり、完璧に気配を消していたにもかかわらず「嬢ちゃん、まだまだ修行が足りんぜ。」の一言で見破られ、直接戦闘においても圧倒され、今に至る。

「ふっふっふっふっふっふ。お嬢ちゃ〜〜〜〜〜ん!!♪おじさんが教科書に乗っていない色んな勉強を教えてあげるよ〜〜〜♪」

もはや只の危ないおじさんと化して北斗を追い回す将明。その能力は凄まじいが、使い方を間違えている事この上無しである。

「くっ!まだ追ってくる!!」

彼女が今逃げている所、いや、今彼女達がいる場所は軍事スペースコロニーである。サイド7に存在するこのコロニーで連合軍が、いや将明が率いる連合軍中のある組織が新型機動兵器を開発していた。

「愚息よ。まさかお前がしくじるとはな…。」

…どうやら新型機動兵器の破壊工作も失敗に終わったらしい。

「貴様こそ…。四方天の名が泣くぞ。」

追っていた将明はその会話が聞こえていた。

「な、あの子があの蜥蜴野朗の娘??」

この世の不条理を感じ、目の前が真っ暗になる将明。どうやらとても容認できる物ではなかったらしい。

「ふっ。笑止!!」

そう言い持っていたサブマシンガンを乱射する北辰。他のものは将明の死に様を見るために振り返り、そこでとてつもない光景を目の当たりにする事になる。

北辰の放った多数の銃弾が将明に迫る。とその時に、右手に持っていた刀を使い……、

「オラオラオラオラオラオラオラ!!!」 

……すべて弾いた…。

 

 

ここは脱出艇。

なんとか逃げおおせた北辰一同。無論北斗もいる。彼女の貞操の危機は去った(笑)。んが、先ほど見せられたあの光景と、あの後現れた将明の舎弟部下達の凄まじい実力(北辰子飼いの部下より弱いが)を見せられたのがある種のショックだったのか、皆一言も喋らない。

彼らは、「地球は広い」と言う言葉を再認識した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

同刻、ナデシコから発進したシャトル――――

そのシャトルは、つい先程北辰達が襲撃した(がものの見事に返り討ちにされた)コロニーに向かっていた。龍一も瑠璃も宇宙(そら)へ出るのは初めてでないが、しきりに窓の外を見ていた。

「綺麗ですね、兄様。」

「ああ。いくら観てても見飽きねえな。」

静かに寄り添うようにして窓の外を見る2人。

余談だがこの光景を見たある兵士は、夫婦みたいだと言っていたらしい。

 

 

前世紀、21世紀から宇宙移民を始めた人類。彼らがまず手始めに行ったのが地球と月との間の、相対的な位置関係を保ったまま運動できる、力学的なつりあいの取れた場所、ラグランジュ・ポイントにスペースコロニーを建造する事だった。

ラグランジュ・ポイントは全部で5つある。このうちL1〜L3は、地球と月を結ぶ直線上に位置するポイント。しかしいささか不安定である。L4、L5は比較的安定したポイントである。

さてさて、今紹介した全部で5つのラグランジュ・ポイントには、それぞれサイドと呼ばれるコロニー群が存在している。各サイドはそれぞれ数十〜数百基のコロニーで構成され、全ラグランジュ・ポイントの合計では数百基以上にものぼり、100億以上の人口をそこに住まわせている。

サイドは現在8つ存在し、L1にはサイド5、L2にはサイド3と8、L3にはサイド7、L4にはサイド2と6、L5にはサイド1と4がそれぞれ位置している。

各サイドには呼称…というか別名も存在し、サイド1はザ―ン、以下、サイド2ハッテ、サイド3ムゾン、サイド4ムーア、サイド5ルウム、サイド6リーア、サイド7ノア、サイド8ガイア、という。

龍一達が向かっているのはサイド7、元ノアである。

ちなみにこのサイド7とサイド8は今大戦が勃発した時にはまだ開拓途中で、建造されていたコロニーも一桁だった。元々は各サイド毎に当然の如く軍事基地は存在していたのだが、この2つのサイドは特にその傾向が顕著だった。なぜならサイド7と8には開拓当初(10年程前)から軍事コロニーが存在していたからだ。そしてサイド自体が軍事基地として機能できる体裁も整えてあった。

そして、それは今大戦の勃発で決定的となる。

なぜなら、連合軍はサイド7と8をサイドごと徴発してしまったからだ。以後サイド7と8はそれぞれもとから存在していた軍事コロニーの名前を取りサイド7はグリプス、サイド8はブレイウッドと呼ばれる事になる。

今龍一が向かっているコロニーはサイド7、1バンチ。密閉型の軍事要塞コロニー、グリプス1である。将来的にはこのコロニー、超大規模な工場コロニーとして使われる予定らしいが、今は戦争の真っ最中なので落とされない様に要塞化されている。その結果、連合軍が所有する宇宙拠点の中で1、2を争うほど強力な宇宙要塞と化してしまった。このコロニーは、これほどまでに強大な戦力を所有できる将明の、連合軍内部での権力を暗に示していると言っても過言ではない。

ちなみにこのサイド別名やそれの元になった軍事コロニー名である『グリプス』。この名はサイド7駐在艦隊と駐在軍団の事も指しているが、本来は山下将明指揮下の治安維持組織を指す言葉であった。この組織、連合軍内の組織でありながら将明独自の判断で動く事を許され、休暇が多いなどを初めとする特権を幾つか持った、いわば連合軍内部に存在するもう一つの権力体系なのである。なお、グリプスと同等の特権と権力を持った勢力が、連合軍内部にはあと2つ存在する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

サイド7・1バンチ グリプス1宇宙港――――

ここに龍一達が乗ったシャトルを心待ちにしている一人の男がいた。将明である。

「ふっふっふっふっふっふっふ。さ〜〜〜〜〜あ、早ーーく来い瑠璃。パパが待ってるぞ♪」

かなり上機嫌に瑠璃(と龍一)を待っている将明。周りには多数の手の空いている将兵が出迎えに集まっている。その光景は誰がどう見てもVIP扱いである。

「大将かなり機嫌良いぞ。」

「ほら、例のネルガルの新造戦艦。あれから坊ちゃんとお嬢様をうまく助ける事ができたからだぜ。」

「なんだ。俺はてっきりさっき侵入したあの例の女の子が可愛かったからだと思ってた。」

「けど大将、返り討ちにしただけだろ?」

「いや、だって大将だぜ?どさくさにまぎれて触るぐらいはやってるだろ?」

「「「「そうだよな〜〜〜〜〜。」」」」

どうやら一同の意見は一致したようだ。

そんな最中、ようやくナデシコを脱出したシャトルが宇宙港に入航してきた。

ハッチが開き音無大佐が、その次に龍一と瑠璃が出てきた。

「これじゃまるでVIPだな。」

周りに多数の出迎えに集まっている将兵を見て龍一が思わず口にする。

「俺は呼んでねえぞ。手ぇ空いてる奴等が勝手に集まっただけだ。」

「親父?」

「よう龍一。」

いきなり将明に声を掛けられ振り返る龍一。

「父様!」

「瑠璃。元気そうだ。よかったよ。」

嬉しそうに駆け寄る瑠璃と、その瑠璃を片手で軽々と抱きかかえ満面の笑顔を向ける将明。なぜか龍一は腕組みをして何度も頷いている。

「案外楽でしたよ大将。それと、面白い奴を見つけたんですが……。」

「ご苦労だった音無。で、面白い奴ってえのは?後で聞こう。」

音無に労いの言葉を掛けた将明は音無曰く「面白い奴」に興味を惹かれた。音無程の男が面白いと言う人間なのだ。中々に面白い話が聞けるだろう。

「親父。この人だかりは?もしかしたらこいつ等全員瑠璃目当てか?」

「だと思うぜ。可愛いからな。」

そう言って親バカそのものの顔になる将明。

「それは置いといて。で、これからは?」

これからの予定を聞く龍一。翌日に即行で帰れるとは思っていない。そして将明の返答もその通りだった。

「地球へ向けての戦艦が1週間後に出る。それに乗って帰れ。わざわざお前達の為だけに船出すわけにもいかんからな。それまではここにいろ。」

そして兵士を何人か呼び出す将明。

「例の部屋に案内してやれ。」

「イエス、サー。さあ、こちらに。」

そう言って兵士達に案内される龍一と瑠璃。

彼らが行った後、音無を呼ぶ将明。

「で、例の面白い奴ってえのは?」

「彼の名はテンカワアキトと言います。彼は……。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

案内された部屋に入る龍一と瑠璃。なぜかまたもや同室だった。

「ここです、坊ちゃまにお嬢様。なにかあればそこの電話でお呼び下さい。どうぞごゆっくりと。」

そう言い立ち去る兵士達。後に残された龍一は不満そうだ。

「なんだでだ?」

「兄様、同じ部屋なのが嫌なんですか?」

不思議そうに聞いてくる瑠璃。

「違う。なんで俺が坊ちゃんなんだ?幻想水○伝Tの主人公か?」

「グレ○オさんはいませんよ。」

とりあえずつっこみを返す瑠璃。そのつっこみを無視し部屋に入る龍一。そこには一人の美青年が椅子に座っていた。

「えっと、レナードさん。何故ここに?」

「いやあ、君達がやっとグリプスに着いたから先回りしたんだよ。」

彼は龍一の幼馴染で親友でもある。高名な科学者である両親が早死にした為、彼らの友人であった将明が引き取り面倒を見て来た。その意味では兄弟とも言える。両親の才能を受け継いだレナードは、インターネットによる独学でMIT(マサチューセッツ工科大学)に入学したが、ハッキングのやり過ぎでMITを追われてしまった。なお、彼は兵器開発の天才であった為、MITを追われた直後ネルガルを始めとした色々な勢力にスカウトされたが、結局はグリプスの機動兵器開発の責任者に収まった。将明に対する恩返しの意図もあったのだろう。

レナードは立ち上がり、そして部屋を見回した。

「良い部屋だよ、ここ。一流ホテルのスイートルーム並なんだから。さすがはVIP専用。」

そう言われ部屋を見回す2人。2人には詳しい事は分からないが凄い部屋なのだと言う事は分かった。なぜなら、あまりくつろげる雰囲気では無かったからだ。

「こんなに広いと落ち着かん。もっと小さいほうが良いぞ。」

「たしかに、寝室だけで私の部屋の1.5倍はありますよ。」

とても一般的な意見を口にする2人。

「まあ、その通りだけどね。それでも将明おじさんは君達に最大限のもてなしをしたかったんだよ。」

「けどレナード、なんで軍事コロニーなんかにこんなどこぞの高級ホテルのスイート並の部屋があるんだ?」

当然の質問をレナードにする龍一。

「だからVIP専用なんだって。」

それに当然の如く答えるレナード。

「それにしても高級すぎるぞ、これは。俺らの血税を何だと思ってやがる。」

「着服したり横領したりするよりはマシだと思うけど?」

「そう言う問題では無いと思うんだが…。」

たしかにそう言う問題ではない。

「僕はこれで帰るよ。それじゃ。」

そう言い部屋を出るレナード。ふと思い出したように部屋に顔を覗かせ、

「ああ、ゴムはちゃんとベット脇のテーブルに置いてあるから安心してくれ。」

「帰れ!!!」

電気スタンドを投げつける龍一。見事に命中した。

「ぼ、僕は君と違って丈夫じゃないんだぞ。痛ててて…。」

「そんな台詞がはけんなら十分丈夫だ。」

「い、痛そう…。兄様、やり過ぎですよ。」

「僕の味方は瑠璃だけか。君はなんて優しいんだ。そこにいるアホに比べたらまさに月とミジンコぐらいの差が…。」

「失せろ!!!」

レナード退散。残された瑠璃は龍一に質問をする。

「兄様、ゴムって何ですか?」

「お前はまだ知らんでいい」

 

 

 

その日の夜――――

「ふーー、いいお湯だった。兄様も早く。冷めますよ。」

「ああ。今入る。」

部屋と一緒でこれまた豪華な食事を食べた後、瑠璃は風呂に入った。馴れない環境にいたから疲れているだろうと龍一は判断し、早く風呂に入って早めに寝るように言ったのだ。

「兄様。ここのお風呂はとても広いんですよ。泳げるぐらいでした。」

とても嬉しそうに語る瑠璃を見て思わず苦笑してしまう龍一。思えば彼女はまだ12歳なのだから当然だ。

「入ってくるわ。」

「ビール用意しておきますね。」

何故か自然だ。

風呂場に入る龍一。たしかに瑠璃の言う通り無駄に広い。

「完全に税金の無駄使いじゃねえか。」

そんな龍一に横から声が…。

「やあ、中々いい湯だよ。」

「やあ、じゃねえだろ!!なんでお前がここにいる、レナード!!

そう言っていきなり首を締めにかかる龍一。

「ぐ、ぐるじい…。」

どうやらギブの様なのでとりあえず手を離す龍一。

「なんでお前がここにいるんだ? てか何時入った?」

落ち着きを取り戻し、ひとまず冷静に聞く龍一。そしてレナードの答えは…、

「ふっ。そんな質問は愚問だね♪ もちろん君との裸の付き合いの為に決まってるじゃないか。」

それに対する龍一の返答は極めてシンプルだった。

「沈め!!!」

「た、単なる信頼を込めたジョークじゃないか!」

「場所を考えろ!!」

「ギブ、ギブ、ギブ!マジやばいよ!」

 

「何騒いでのかな兄様?お風呂が大きい事がそんなに嬉しかったのかな。」

瑠璃には風呂場での会話は聞こえてこない。知らないと言う事は幸せなのだ。

 

 

その夜、寝室――――

風呂から上がった(レナードを殲滅した)後、龍一はビールを飲みながら放映されていた映画を見た。瑠璃も付き合っていたたが、睡魔には勝てずソファーの上で眠ってしまった。とりあえず毛布を掛けていたが、今は映画が終わってしまったので抱えて寝室まで運んだのだ。

「コイツはこんなに軽かったのか。まあまだちっこいから仕方ねぇか。」

ふとあどけないルリの寝顔を見て微笑む龍一。

「コイツのこの顔。やっぱ大切な物なんだよな。…けど、コイツはマシンチャイルド。何時狙われるか分かったもんじゃねえ…。そろそろクリムゾンも動き出すかな。面倒な事が起きなきゃ良いけどな。」

瑠璃を寝かせ、ふと真顔になる龍一。

「俺に出来る事、お前にしてやれる事はこんな事ぐらいか。この事お前が知ったらどう思うかな?やっぱ恐れるか? それとも軽蔑するか? それでも俺は後悔はしねぇ。お前を守る為に自分で選んだ道だからな。」

そう言って瑠璃の隣のベットに入る龍一。

「お休み、瑠璃。」

ほんの一瞬の跡、龍一は眠りについた。龍一も疲れていた様だ。

 

 

翌日、何故かベットにレナードが入り込んでいて、寝起き一番で戦闘になった。

 

 

 

第5話へ

 


後書き

どうも皆さん。この魔剣士妖精守護者伝第4話を読んでいただき誠に有難うございます。

さてさて今回、親父こと将明の能力と作品世界観を説明しました。この将明の指揮する治安維持組織(?)でありサイド7駐在艦隊(軍)グリプスですが、元ネタは名前からもわかる通りあの神に反逆した巨人族の名を冠した某連邦のタカ派です。ちなみにグリプスはコロニーに毒ガスを注入したりはしていません。

親父こと将明はこの作品の中では最強クラスの戦闘能力の持ち主です。北斗も超えています。軍人としてもとても優秀です。しかしあくまでも『最強クラス』なのであって、決して最強ではありません。なお純粋な人間です。念の為。

あとレナードですが、コイツは決してホ○ではありません。あれはただのギャグです。彼自身の言う通りノーマルです。

それでは第5話をお楽しみに。

 

 

 

代理人の感想

まさか北斗があっさりと負けるとは・・・・・・山下将明、

最強の変態オヤジだ。(核爆)

 

・・・変態的な所を除くと、何とはなしに某伊吹一番を連想する私は間違っていますか(爆)?