機動戦艦ナデシコ

魔剣士妖精守護者伝

第11話 奇跡の作戦?

 


 

 

 

 

「・・・・・・・・・・・・・・」

アキトは不機嫌だった。

・・・彼自身が見た“夢”のおかげである。

「無様だな、俺・・・。・・・もう想いは捨てたのに・・・・・・。」

3日前にイネスから受けた忠告はちゃんと憶えているし理解している。しかし、それでも譲れない物がアキトにはあった。

「もうユリカとは同じ道を歩まないって決めたのにな・・・。何やってるんだよテンカワアキト・・・・・・。俺にそんな資格なんて無いのに・・・・・・。」

3日前にアキトが見た夢――――純白のウェディングドレスに身を包んだユリカと結婚式を上げるという内容の夢を、アキトは今日再び見てしまった。そのため、強烈な自己嫌悪に陥っていた。

「・・・こんなに未練たらしかったかな、俺?」

だが、想いは否定すればするほど大きくなる。

 

アキトは果たしてその事に気付いているのだろうか?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そうこうしている内に、ブリッジに到着するアキト。

アキトとルリの記憶通りだと、今回の任務は北極海域ウチャツラワトツスク島にとり残された、親善大使・・・と言うか白熊の救出である。

作戦説明があるので主要クルーとパイロットが呼ばれていた。

なお、龍一は瑠璃と蛍に、自分が“パイロット”として呼ばれた事が納得いかないと洩らしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「フォオオオオオオオオオオオオオオオ!!!」

アキトがブリッジの扉を開くと、彼に跳びかかる白い影・・・と言うか全身包帯男がいた。

「くっ!!」

反射的ににその全身包帯男の鳩尾に拳を叩きこむ。

フゴオオオオオオオオ・・・

アキトの拳を食らった包帯男は思いきり吹っ飛ぶ。

受身を取り、着地には成功した包帯男に2人の少女が駆け寄った。

「兄様、何やっているんですか?」

「お兄ちゃん、大丈夫!?」

半ば呆れ気味の瑠璃と、彼女とは対照的に心配そうに駆け寄る蛍。

ちなみに瑠璃はオペレーター用の制服だが、蛍は自分に合うサイズが用意されていなかったので私服(つまり着物)を着ている。

(龍一さんだったのか? ・・・てっきりガイだと思って思いっきり打ち込んでしまったからな・・・。)

ばつが悪そうに周りを見まわすアキト。・・・だが、皆苦笑している。・・・ざまーみろという顔もいるが・・・。

(もしかして・・・、皆もされたのか・・・。何やってるんだこの人は・・・。)

先程の沈み込んだ気持ちは何所に行ったのか、龍一の奇行に呆れ果てるアキト。

龍一はこれを見越してこの奇行に及んだ・・・・・・訳ではないと思う。

 

「ふご、ふぉおおおおお!!」

「はい、・・・けど仕方ありません。自業自得ですよ。」

包帯男ことミイラ龍一の言葉を聞き取る瑠璃。

「解るのかい、瑠璃ちゃん?」

「はい・・・。大体は・・・・。けど、今みたいな状況でしか役立ちませんけど・・・(^^ゞ」

皆を代表したアキトの質問に答える瑠璃。ある意味絆を感じさせる出来事だが、龍一がミイラのコスプレで鳩尾を押さえて咳き込んでいるので、感動もクソも無い(笑)。

ふごおおおおおお!!(怒)

「えっと・・・『痛えだろこのヤロー!!』って言ってます。・・・だから自業自得ですって・・・。さっきルリちゃんを腰が抜けるほど脅かした罰が当たったんですよ。」

当のルリはというと、ご機嫌斜めな様子でそっぽを向いている。

「フゴオオ。ふご、ふご、ふごおおおお。」

「『ちょっとした悪ふざけだろ!?』・・・兄様の場合、それがいつもエスカレートしますけど。」

端から見れば何を話しているのか全く解らない会話だが、どうやら瑠璃が優勢らしい。

ちなみに蛍は、ずっと龍一の左手を握っていた。

「フォフォフォフォフォフォフォ。」

唐突に笑い・・・いや嗤い出すミイラ龍一。

「ええと、『御礼だ、ゴルァ!!』って何するつもりですか兄様!?」

「ふぉおおおお!!」

瑠璃の制止も空しく、指先から包帯を発射する!!!

「なっ!?」

途端に身を逸らすアキト。

「怖。」

笑い声が漢字になっている事からも解る様に、龍一にはその程度のアキトの動きは予想の範疇である。

どこでそのような技術を習ったのか、腕の包帯を微妙な角度で振う。

「ちっ!」

包帯は瞬く間にアキトの体に絡み付く。

数瞬後、アキトは包帯でぐるぐる巻きにされたアキトが床に転がっていた。

「何やってんだあんたは!!!」

とは言いつつも、アキトは自身の心の中にあった自己嫌悪の念が消えてきている事を自覚しており、龍一に感謝していた。

 

 

 

 

 

 

 

その後、エリナとプロスによる龍一への説教後、ムネタケ提督によって今回の作戦が発表された。

「今回の貴方達への命令は、敵の目をかいくぐって救出作戦を成功させる事よ。」

 

「救出作戦?」 × ブリッジ全員

 

ムネタケのその予想外の、そして似合わない台詞に驚くナデシコのクルー達。しかし救出する人物の正体はそれを更に上回る衝撃である。

「木星蜥蜴の攻撃は無くても地球の平和を守るというナデシコの目的は・・・果たさないと駄目よね〜。」

違和感大有りな台詞を吐くムネタケ。ブリッジクルーの表情がそれを物語ってる。

ブリッジの床に作戦地図が浮かび上がる。

「で、この北極海域ウチャツラワトツスク島にとり残された、親善大使を救出するのが目的よ。」

そう言って地図上の一つのポイントを指差すムネタケ。

「質問〜!!」

「何、艦長?」

「どうしてこんな所に、大使はとり残されたのですか?」

「大使は好奇心旺盛な方でね〜。現地はブリザードが吹き荒れる、大変な所なのにね〜。」

「フゴオオ。ふがああ。ふぐぐぐ、ふぐうう。」

「『自業自得だろうが。何が悲しゅうてそんな馬鹿の為に、地球圏最強の戦艦がわざわざこんなとこまで・・・。』・・けど、お仕事ですよ、兄様。」

皆にも解る様にミイラ龍一の言葉を訳す瑠璃。蛍はその姿を羨望の眼差しで見つめていた。

その後もムネタケの説明が延々と続く中、アキトは視線を感じそちらを向くと、ユリカと目が合った。

何か言いたげだったが、とりあえず龍一に巻き付けられた包帯を外すのに手間取っていた為無視する。

「お〜お〜、何だかアキト君と艦長の間がギクシャクしてる〜。」

「幼馴染の仲もこれまで、かな?」

「ほらほらリョーコ、チャンスチャンス!!」

などと楽しげに煽り出すヒカルとイズミ。しかし何処をどう見たらそうなるのだろうか?

「な、何を言ってるんだよ!! お前等!!」

煽られているリョーコも満更ではなさそうだ。

 

「ラブラブ話しはもういいわね!!いい事!絶対にこの作戦は成功させるのよ!!解ったわね艦長!!」

意外な事だが、ムネタケのこの一喝によりその話は途絶えた。

「は、はい!! 絶対成功させましょう!!」

話は勝手に了承の方向に向かっていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ナデシコ食堂――――――

移動中のパイロットという者は暇である。

現在は作戦行動中なので、パイロットは全員待機状態ではあるが、要するにやる事が無い。

その為、パイロット3人娘はだれていた。

その横で――――、

「包帯巻いてっと結構動きにくいもんだな。」

龍一が全身を被っていた包帯を外していた。

「そう言えばイネスさんが医務室の包帯の数が妙に少なくなってるって言ってましたよ(怒)。」

アキトはその隣に座って、龍一をジト目で見ながら包帯を外す手伝いをしていた。

「ああ、この包帯医務室からくすねて来たもんだからな(笑)。」

「それって・・・まずいっすよ。イネスさんに怒られるぐらいじゃ済まないですよ。」

「だから黙っといてくんねえか? 流石にガイみたいにはなりたくねえ・・・(汗)。」

「だったらやらなきゃ良かったのに・・・(って言うかあんたが原因だろうが!)。」

因みにガイは、包帯が切れかけた事で機嫌の悪いイネス女史によって、その鬱憤を晴らす為か、かなりキツイ人体実験を受けている。

そんな会話をしているアキトに、

「やあ、テンカワ君。今暇ならちょっと付き合って欲しいんだ、け、ど・・・そんな意味じゃないよ君達。」

と、声を掛けてきたのはいいが、好奇の目で見られ、慌てるアカツキ。が、もう遅い。「禁断の・・・」とか、「艦長達も捲き込んで・・・」などの声が聞こえる。

ヒカルに至っては、良いネタ見つけたな顔をしているぐらいだ。

「あの、龍一さん・・・。なんで龍一さんまで引いているんですか?」

心なしか隣に座っていたアキトと距離を開けているような気がする龍一。

そんな彼は――――、

「まさかお前が両刃使いとは思わなかったぜ(汗)。やるな、アキト・・・・・・(汗)。」

「断じて違う!!!」

アキトホモ疑惑を真っ向から信じていたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ナデシコブリッジ――――――

食堂でシミュレーションルームに行く他のパイロット達と別れた龍一は、オペレーター席の近くにパイプイスで座っていた。

今ブリッジでは、ルリと蛍が瑠璃にオペレートを教えている所だった。

一般常識や、年頃の女の子としての知識は瑠璃が2人に教える立場だったが、流石にオペレートではそうはいかない。オペレーターではまだまだ素人な瑠璃は、2人のコーチの元で特訓中だった。

「結構難しいです・・・。私、上手にできるかなぁ・・・?」

中々特訓は大変そうだ。

「大丈夫だよ。オモイカネも手伝ってくれるしすぐにうまくなるよ。」

『そうそう。』

「だから自信を持ってください。きっと上手になれますよ。」

その為、少し落ち込み気味になっていた瑠璃を、3人が優しく励ましていた。

 

「ところで山下さん、何故シミュレーションルームに行かなかったのですか?」

先程の一件をまだ根に持っているのか、ルリは結構冷たい声で龍一に話し掛ける。

ちなみにブリッジには、オペレーターの3妖精と龍一だけしか居ない。仮にも作戦行動中なので、艦長ぐらい居なければならないと思うのだが・・・。

「ん〜? だってよ、どうせ勝てっこね―し。それにあそこ、MSのシミュレーターねえし。つまり行っても意味無し。行くぐれーならここでお前からかってた方がオモロイしな(笑)。」

そんな冷たいルリに、余裕の笑みで返答する龍一。

ルリは逆行前を含めて、今まで出会った事の無いタイプであるこの男が苦手であった。そのためか、ついつい接する態度がツンケンとした物になる。自分と瓜二つの人間である瑠璃が慕っている事も無関係ではないだろうが。

結局の所、ルリもまだ精神的にも幼い部分が残っているのだ。

「なっ・・・! ・・・それはともかく、それってパイロットとしての自覚が欠けていると思います。」

ブリッジに来た目的が自分をからかう事だと解り、更に冷たさ(と怒気)を増すルリの声。この様子を見て、瑠璃と蛍はどうしようかオロオロしていた。

「俺、臨時だぜ。それに正規のが5人・・・、アキトも含めると6人いるんだ。そうそう俺の出番が回ってくるこたぁねえよ。」

だが龍一には全く効果が無い。しかも逆に、

「そ〜んな怖〜顔してっと、アキトが逃げちまうぞ〜〜(邪笑)。」

「!!」

身振り、手振りも交えた龍一の強烈な反撃を食らってしまった。

「ルリちゃん、兄様も悪気は無いんです。ただ、ちょっと(?)人よりイジワルなだけなんです。」

「そうだよ・・・。だからルリちゃんの事、嫌いなわけじゃないんだよ・・・。」

からかわれて怒りに震えるルリを宥める瑠璃と蛍。その御陰で何とか平静を取り戻すルリ。

「・・・!、・・・ふぅ。・・・山下さんってまだまだ子供なんですね。」

と、このような反撃を返せる余裕も取り戻した。

「ああ。いつまでも子供の心を忘れねえってのは大切だべ。」

 

しかし龍一は全く気にしている様子はなく、寧ろそう言われて少し嬉しそうだった。

そんな様子の龍一に、反撃する気力を削がれてしまうルリだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

シミュレーションルーム――――――

あれから30分程ブリッジに居た龍一。ふとシミュレーションルームが気になったので向かった。

シミュレーターでは、アキトとアカツキが戦っていた。3人娘は既に居ない。帰ったのだろうか?

「お〜、戦っとる戦っとる。なんだよアカツキ。随分一方的だな?」

モニターには誰が見ても解るぐらい物の見事にアキト機に追いまわされるアカツキ機があった。

『そんな事言っても彼、無茶苦茶強いよ。』

「そんなこった解ってるよ。俺らじゃどう足掻いても正攻法じゃ勝てねえってな。」

アカツキの泣き言をピシャリと斬り捨てる龍一。

『龍一さん、来たんですか?』

「暇だったからな。」

実際にはルリをからかい過ぎて、瑠璃と蛍に怒られたからだが・・・。

『そうそうアカツキさん。二つ目の質問は何ですか?』

どうやらもう1つ目の質問はもう終っていたらしい。

それと同時にアキトの機体は、アカツキ機の背後から忍び寄り、引き倒しつつ手に持つ銃を蹴り飛ばす。そして素早く自身の銃で、アカツキ機のコクピットをロックオンする。

その一連の動きだけでも、アキトがどれほどの技能を持っているのかが解る。

それは、誰が見ても見惚れる動きだった。

・・・何簡単さ。』

ここで一息つき、呼吸を落ち着かせるアカツキ。正直彼も、ここまで腕が違うとは思いもしなかっただろう。

そして、アカツキにしては珍しい真剣な目でアキトを見て口を開いた。

『君は彼女達の誰が一番好きなんだい?』

いきなり核心を突く質問である。

・・・は? 彼女達と言われても。誰と誰ですか?』

んが、アキトの天然さにものの見事に阻まれた。

『・・・本気で、言ってるのかい(汗)?』

アキトの天然ぶりに呆れ果てるアカツキ。内心「これは艦長に匹敵するね。」などと思っていたりする。

「お前・・・、バカだろ?(汗)

アキトの鈍感ぶりに、本当に心の底からそう思う龍一。乗船して1週間も経っていない龍一達山下兄妹でもおのずと察しがついていたのに、当の本人がこのザマなので無理はない。

『バカってなんすか龍一さん!!』

龍一の言いぐさに理不尽を感じて、怒るアキト。

「オメーをバカと呼ばずしてなんと呼ぶ!!」

それを問答無用で斬り捨てる龍一。

『そんな事よりも実際のところはどうなんだい?艦長にルリちゃんに、メグミちゃんに、リョーコ君に、イネスさんに、ホウメイガールズとか。君の事だから、まだ隠れて付き合ってる子もいるんじゃないのかい?』

アキトはその質問に心底驚いた顔をする。

『それは多分誤解でしょ?だいたい彼女達が俺に好意を持ってるなんて、どうして解るんです?』

「お前・・・やっぱバカ。」

『なんでっすか!!?』

アキトはまだ解っていない。とそこへ、

・・・これで全ての謎は解けたよ、テンカワ君。君はナデシコの男性乗組員、全ての敵だ。』

と言うアカツキの宣言が入る。龍一も頷くが、

『は?』

アキトはまだ何が起きたのか解っていない。

『今後はこのアカツキナガレ。・・・彼等の代表として君の敵となる!!!

『何故?』

アキトはまだ解っていない。自分が自爆した事に。

「バカもここまで来ると、哀れに見えてくるぜ・・・。」

龍一の本心からの言葉だった。

『ウリバタケさんに誘われていた、某組織への加入・・・、たった今、僕にも決心がついたよ。今後は暗闇に気をつけるんだね、テンカワ君!!』

そう言い残してアカツキは自爆した。

いかにアキトでも、この至近距離からの自爆は回避できず、模擬戦は引き分けに終った。

シミュレーターから出てきた後でも、アキトは今だ釈然としない様子だった。

それを見て龍一とアカツキは、アキトに心底呆れ果てたのだった。

 

 

やっぱり・・・現状が解ってませんね、アキトさん。

その様子を見ていたルリの言葉が全てを物語っていた(爆)。

 

 

 

しかし龍一は、かつてアキトに銃を突きつけた事を憶えているのだろうか・・・・・・?

・・・・・・憶えていないような気がする・・・・・・・・・・・。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ナデシコブリッジ――――――

「ほんと、信じられません! どうしていちいち敵を呼び寄せるわけ!!」

ま〜ま〜、済んじゃった事は仕方ないんじゃないの?」

「貴方ね!!」

「人生前向き前向き。」

現在ナデシコは氷山の下に隠れている。

・・・ユリカが何故かグラビティーブラストを放ってしまい、敵を呼び寄せてしまったからだ。

そして先の様にカンカンに怒ったエリナに説教を受けていた。

「プログラム管理は私の責任です。今回の失敗は、私が持ち場を離れていたのが原因です。ごめんさい。」

上記の事と、過去を知っていたのに防げなかった事で頭を下げるルリ。

もっとも、過去の事は彼女とアキトしか知らないのだが。

うっひょ〜、ルリルリひょっとして艦長を庇ってたりして!!」

「馬鹿ばっかも卒業か?」

ヒカルとウリバタケが騒いでいるが、無視するルリ。

「命名バ艦長ってのはどうだ?」

「さすがにそれはマズイですよ兄様・・・。」

「お兄ちゃん・・・、艦長さんが可哀相だよ・・・・・・。」

かなり不謹慎な発言をする龍一。瑠璃と蛍に即座に咎められるが、その発言を聞いていたのかユリカは何時の間にか居なくなっていた。

「それでは、作戦は警戒態勢を引かれた西側を諦めて、東側の氷山を低空飛行で向かう事にする。」

居なくなったユリカに変わり、ゴートが作戦の指示を出す。

「ま、座礁する確率は72%・・・シビアと言えばシビアな数字よね。」

それに何所から聞きつけてきたのかイネスが意見する。

 

 

 

それから暫く後――――、

『敵襲!! 敵襲!!』

そのオモイカネの報告で、アキトとユリカが居たヴァーチャルルームを監視していたルリが我に戻る。

ただ最後の方で、アキトの目が、かの『黒い王子』に戻っていた事が気がかりだったが・・・。

そんな中、ユリカもブリッジに戻ってきた。

「あら、帰ってきたわね。」

「皆さん、遅れてゴメンナサイ!!」

チン・・・もといムネタケの嫌味も気にしないでブリッジクルーに元気に挨拶するユリカ。

その復活ぶりに、ルリもホッと胸を撫で下ろす。

その最中だった。

 

『ブリッジ、おいブリッジ!!』

「どうしたんですか、ウリバタケさん?」

ウリバタケからの通信がブリッジに入る。

「アキトの奴、自分のエステバリスのリミッターを解除しやがった!! あれはエステの慣性制御を明らかにオーバーした機動だ! 普通の人間ならあそこまで加速すれば、強烈なGで気絶してるぞ!!」

「そんな!! アキト!!」

ウリバタケの通信を聞いて動揺するユリカ。

そんなブリッジの状況を他所に、アキトの駆る漆黒のエステバリスはとんでもない加速で(それでもガンダムMk-2には負けるが・・・)敵に迫り、

 

「うおおおおおおおおおおお!!!」

 

狂相を浮かべ、獣地味た声を上げながら、手にした光の剣で片っ端からバッタ達を撃墜していく。

フィールドを強化されてる筈のバッタ達を、紙の様に切り裂いていく黒の鬼神。

その雄々しく、恐ろしく、どこかもの悲しく、痛々しささえ感じる戦いぶりに、ナデシコクルー達はその黒の鬼神の演舞を見ている事しか出来なかった。

 

 

 

 

丁度その時、何時の間にかブリッジに来ていたイネスから、DFS(ディストーションフィールドブレード)の説明が入る。

 

「つまり、・・エステバリスの纏うディストーションフィールドを、剣の形に収束する装置なのよ。」

説明が出来てとてもご満悦なイネス女史。しかしその余韻をぶち壊すある男がいた。

 

「つまり、なんちゃって断○剣なんすね?」

「違うわよ!!」

言うまでも無いが龍一である。

「大体○空剣と動作原理自体違うでしょうが!!」

「だからなんちゃってって付けたじゃないすか?」

なぜかダン○ーガを知っているイネスの突っ込みを楽々かわす龍一。

 

どうやらアキトにもこの会話が聞えていたらしく、アキトの機体は目に見えて動きが鈍くなった(笑)。

 

 

 

 

それ以外にも要因はあった。

馴れない武器を初めて実戦で使った事も、3日前に見た夢の事も。そして、自分がアカツキに狙われる事になってしまった事も(笑)・・・・・・。

そのような様々な要因が不幸にも重なった為に・・・・・・、

 

「アキトさん、後ろからバッタが・・・!」

「・・・・・・・・・へっ? なっ!?」

 

普段では考えられない事だが、注意力散漫になり、自機の後ろから迫るバッタに気付かず、追突される。

「なっ・・・!!」

「「「「アキト(さん)(テンカワ)!!!」」」」

そして不幸は重なる物で、安全装置が働いたのかアサルトピットが自動排出された(汗)。

「ったく! 何考えてんだよオメーは!!」

急いで回収に向かう龍一のガンダムMk-2。

その後はMk-2が中心になって敵は全滅された。

DFSの実戦1回目は、散々な結果に終わってしまった・・・・・(爆)。

 

 

 

勿論アサルトピットはしっかり回収されたが・・・・・・・・。

 

 

 

 

 

 

 

その後、クルー達の心にでアキトの戦いぶりと、アキト自身に対する恐怖が生じ・・・・・・・るハズだったが、1人の人間(MS乗り)によってそんな物は吹き飛ばされた。

 

その男が言うには、

「人間ってのは、何かを守る為にゃあテメェの命(タマ)だって掛けれるモンなんだよ・・・。それに・・・、最後の最後でオチまで付けてくれる奴が、ナデシコ落としたりしねえだろ?」

これを聞いた時、某妖精は涙目で嬉しそうに笑みを浮かべ、そのままコンソールに頭をぶつけた(笑)。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして今、親善大使を救出する為、1体の機動兵器がウチャツラワトツスク島に向かって飛行していた。

その機体はトリコロールカラーである。

あれからルリをからかいまくっていた龍一は、とうとうブリッジの女性陣を全員敵に回してしまう羽目になり、大使救出の貧乏籤を引く羽目になった。

・・・・・・とは言うものの本当の所は、瑠璃と蛍に怒られたから、である。

ちなみにムネタケが言うには、大使は島の研究施設にいるとの事。

またも前回と違う点に、アキトとルリは首をひねっていた。

 

 

「ありゃ何だ?」

無事にウチャツラワトツスク島に着いた龍一が見たものは、この−20℃での極寒の世界でも凍りついていない湖だった。

「明らかに怪しいぞ。っつーか怪しすぎる・・・。何で凍ってねえんだ?」

ガンダムMk‐2を湖岸に着地させる龍一。んが、

 

ベキ、ガラガラガラ

 

「どわ!!」

Mk‐2の重みの所為か(全備重量54.1t)崩れる岸壁。

 

ジャボン

 

そのまま着水した。

「っててててて・・・・・・。いきなり崩れんなよな・・・。根性の無え岸壁だな。」

かなり無茶を言う龍一。

『兄様、大丈夫ですか?』

と瑠璃から通信が入った。

「ああ。丈夫だかんな。」

『よかった・・・。』

心底安心した様に呟く瑠璃。

「そう思うんなら、何でこんな所によこしたんだろうねぇ?」

『えっ・・・。そ、それは・・・。』

龍一にジト目で見られ、詰まる瑠璃。力関係は龍一の方が遥かに上だから仕方ない。

『この湖は、どうやらこの島の・・・、つまり目的の研究所の水源みたいですね。』

この凍りついていない湖を見たルリは、こう分析する。

「へ〜・・・。おっ! あんな所に通路があんぞ・・・。あそこから侵入できそうだ・・・・・。」

Mk‐2が落ちた反対側の、岩がせり出して屋根の様になっている場所に、連絡通路らしき物があった。

なお、岩がせり出していると言っても、その下は頭頂高18mを誇るガンダムMk‐2であっても、余裕で歩けるほどのスペースがあった。

しかも丁度いい事に、連絡通路はMk‐2の胸辺りの高さにあった。

そして、龍一がその連絡通路にMk‐2を寄せ、飛び移ろうとした時である。

 

♪♪♪〜〜

 

「ん? 今何か聞えなかったか?」

『何も聞えていませんよ兄様。』

『私も・・・、何も聞えなかったよ・・・。』

瑠璃と蛍は首をかしげる。他のクルーも同様だ。

『案外山下君の空耳かもよ?』

ミナトは茶化す。これはブリッジがリラックスしている証拠だ。

「そんな訳ゃねえっすよ。確かに聞えたんだ・・・。」

 

♪♪♪♪〜♪〜 ♪♪♪♪〜♪〜 ♪♪♪♪〜♪〜 ♪♪♪♪〜

 

「ほら、やっぱし間違いねえって! けど・・・どっかで聞いた事あるな・・・。」

『そうですね・・・。確かに聞えました。』

『うん・・・。聞えた・・・。けど・・・、なんだろ、この曲・・・。少し怖い感じがする・・・。』

今度は聞えた。瑠璃、蛍も同意する。

『ルリちゃん、この海域で他に航行している船は?』

『無いですよ。それにこんなにブリザードが激しいと、レーダーも対して役に立ちません。』

ユリカは付近の海域に航行している舟が無いかルリに調べさせる。しかし、そのような舟は無かった。

 

♪♪♪♪〜♪〜 ♪♪♪♪〜♪〜 ♪♪♪♪〜♪〜 ♪♪♪♪〜

 

そんな事をしているうちに、謎の曲はドンドン大きくなっていく。

「解ったぞ!!」

『何がです、兄様?』

 

 

 

「この曲だよ。・・・なんでワルキューレ騎行なんだ!!??」 

『ワルキューレ騎行って何ですか〜?』

『うむ。映画、「地獄の黙示録」に使われていた曲だ。』

?なユリカにゴートが教える。

そして曲が大きくなっていくと同時に、大型V‐TOL機を中心に戦闘ヘリや、MS(モビルスーツ)を護衛とした編隊が飛んで来た。ちなみに音源は大型V‐TOL機の様だ。

ズキン・・・・・・

『あれは・・・、機体に付いているマーキングから見て、アメリカ方面軍ですな・・・。』

今まで沈黙を守ってきたプロスがとうとう口を開いた。

「あの〜、何かあの連中、俺が潜り込んで親善大使救出せにゃならん研究所を占拠してるんすけど・・・」

ブリザードの為か、それとも動力を最小限に絞っていた為か、Mk‐2は見つからなかった。

そのMk‐2、湖の淵から顔を出して様子を覗っていた。

Mk‐2から見るに、施設はもう占拠されたみたいだ。

「さすが・・・。デルタフォースでも乗ってたのか? まあ何にせよどうやらむこうがしてくれるみたいっすから。俺は帰還するぞ。」

Mk‐2を出そうとする龍一だったが、

『待ちなさい。』

ムネタケが止めた。

 

「こら! チンタケ!! どうゆう用件だコラ!!?」

『・・・(怒)。上層部から、「親善大使は何があっても回収しろ」って命令されてるのよ。どうやらその親善大使、とても貴重なデータを持ってる様なのよ。・・・まぁどんな内容かは教えてもらえなかったけど。」

今にも掴みかからん勢いの龍一に、止めた訳を説明するムネタケ。

「あんたが持ってる情報、そんだけ?」

『それだけよ。』

「じゃ、俺帰るわ。」

『ちょ、ちょっと待ちなさいよ!!』

『は〜い。山下さん、早く帰艦してくださいね〜。』

『な、何許してんのよ艦長?』

ズキン・・・・・・

『ナデシコには理不尽な命令に対する、拒否権が認められています。それを行使するまでです。』

『な、な、な、な・・・。』

『そんな得体の知れないデータの為に命は賭けれませんし〜、親善大使さんもアメリカ方面軍の方々が保護してくれると思いますし〜。』

そのユリカの通信を最後にナデシコとの通信を切る龍一。

 

 

そしてMk‐2を発進させようとした時だった。

ズキン・・・・・・

(・・・っ何だ? さっきから感じる痛みとプレッシャーは・・・・・・? ・・・けどこのプレッシャー、どっかで・・・?)

気になるが、ナデシコに戻る為に今感じた痛みもプレッシャーも無視しようとする龍一。

しかし、

ズキン・・・・・・

無視すればするほど、

ズキン・・・・・・

痛みは、

ズキン・・・・・・

強くなっていく・・・・・・。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして、とうとう無視できない程の痛みになる・・・・・・・・・・・・。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「グッ、ガアアアアアアアアアアーーーーー!!! 」

 

全身に痛みが走る。

まるで切り裂かれる様に。

左目が痛い。

抉り取られる様に。

この時龍一は気付く。これは、あの“夢の中”の痛みと同じだと・・・・・・。

(同じだ! あの時と同じだ!! 11年前と同じだ!!!)

痛みは同じ。だが彼の体の傷は、痕は残っているが当の昔に完治している。

なのに何故・・・・・・?

これは現実の痛みではなく、幻の痛み。

 

 

ファントムペイン――幻肢痛である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

5分ほど経っただろうか・・・・・・・・・?

全身の痛みは治まって来た。

だがそれと比例する様に、龍一の中で先ほど感じたプレッシャーが誰の物なのか、漠然とした予想が確信に変わっていった。

「アイツが・・・・・・、アイツがあの部隊の中に居る・・・・・・。」

そしてそれに呼応する様に、心に久しく燈っていなかった暗い炎が燃え上がった。

コクピットに持ち込んであった刀に自然と手が伸びる。

ズキン・・・・・・

「っぐあっ!!」

だが、まだ完全に痛みが退いた訳ではなかった。

むしろ左目に関して言えば、痛みは更に増していた。

しかし皮肉な事に、この痛みが龍一に冷静さを取り戻させた。

(あのまま行ってもアイツに返り討ちにされるだけじゃねえか!)

だが龍一はその言葉とは裏腹に、コクピットハッチを開け、刀を持って連絡通路に飛び移った。

今だ痛む目は無視し、連絡通路を歩いていく。

言葉と本音は違う。

龍一は本音を優先させた。

 

そして自らのトラウマの元と対峙する為に、

 

 

「どうりてあんな夢、今になって見ちまう訳だ・・・・・・。こう言う事だったんだな・・・・・・。」

 

 

龍一は研究所に向かって走り出した。

 

 

 

第12話へ

 


後書き

みなさんどうも。核乃介です。

・・・・・・いやあ、地上編はイイ!!

自由度が高い!!

それはさておき、随分と全編と終盤にシリアスの落差があるような(汗)。

何かアキトがとんでもない事になっております。ホモ疑惑が浮上したり、バカ呼ばわりされたり、バッタに撃墜されたり・・・。

ほのぼの目指してたはずなのに何故かギャグ調になっちまった!! 時ナデアキトに対する突っ込み(?)を入れていただけなのに・・・(笑)。

ルリもルリで龍一にイジメられているし・・・・・・。はたして妖精の反撃はあるのか!?

けど龍一、あったら容赦無く仕返しそうだな・・・・・・。

さて次回は、・・・・・・・・・・・・・・・・・シュチネーション的にメタルギアソリッドになりそうだ・・・・・・(笑)。

 

それではまた。

 

 

 

 

 

 

代理人の感想

な〜んか、龍一くんが妙に物わかりがよすぎるような(苦笑)。

何が言いたいかというと物語の中のキャラクターが分かりそうもないことにまで

平然と理解し、突っ込んでいる事に対していまいち説得力のある説明が為されていないと言うことです。

アキト軸ではない、龍一軸の方はよくまとまってるんですが。

 

※ファントムペイン

例えば四肢を失った人が、失った筈の腕の指先に痛みを感じるという「本来ありえない痛み」のこと。

脳ないし神経が「記憶している」四肢の感覚がなんらかの切っ掛けで発現してしまうのが原因と言われる。