研究施設への通路――――――

ウチャツラワトツスク島の、研究施設の水源と思われる湖にあった連絡通路に飛び移り、奥に向かい走って行く龍一。

走っていくうちに、自分の中の猛り狂う感情が鎮まっていくのを龍一は感じていた。

ここから先は戦場である。戦場では、冷静にならなければ死神が待ち構えていると言う事を龍一は知っていたので、自身の激情の鎮まりはとても有難かった。

暫くすると、急に通路が開ける。どうやら倉庫の様だ。

そこにはこの研究施設を占拠した部隊の兵士2名が巡回していた。様子からしてこの倉庫(らしき空間)に来てすぐの様だ。

その2人の兵士達を物影から覗きこむ龍一。

(奥に貨物用のエレベーターがあんな・・・。ツイてる事に今来てるし、こいつ等がエレベーターの前から離れたら乗るか。)

そう考えた数瞬後、兵士達はエレベーターの前から離れた。

(うし!!)

咄嗟に駆け出す龍一。兵士達もこんな所に侵入者がいるとは思わなかったのか、振り返りもしない。

彼は悠々とエレベーターに乗る事が出来た。

 

 

上昇するエレベーターの上で龍一は何やら見ながら1人呟く。

「まずは電算室かどっか行ってマップ取らねえとな・・・。コレにはそう書いてあるし・・・。」

 

龍一が見ていた物、それは・・・『誰にでも出来るスニーキングミッション 実践編』と書かれた本だった

 

本当に大丈夫か、コイツ?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

機動戦艦ナデシコ

魔剣士妖精守護者伝

第12話 現在龍一潜入中

 


 

無事に施設の屋上に出る。が、

「あれっ? 何で?」

自分のイメージしていた場所とは違う場所に出たらしい。

「ぐあっ! ざぶ!!!」

ちなみに現在−20℃。着崩した警視庁の制服に、例の防弾防刃耐爆仕様のコートを羽織ってるだけの龍一には、冗談抜きで凍死しかねない環境である。

このコートは、冬の北海道でも暖かに過ごせるぐらいの防寒性も持ち合わせている。しかし、当たり前な事だが北極圏での使用など考慮に入れられてなかった。

龍一は最初の叫びの後、一目散に最寄のドアに駆け込んだ。

 

 

 

「あったけ〜〜。」

ドアの内側―――つまり屋内は、屋上に比べると天国(龍一談)だった。

しかもついている事に、その部屋には端末が置かれていた。

「こいつは・・・。・・・うん、マップ下ろせるぞ。やっぱツイてる!」

早速自分の携帯モバイルと繋ぎ、この研究施設のマップをDLする。

そして敵兵だ来ない内に足早に立ち去ろうとした時、コミュニケに着信が入った。

「ん? 何だ?」

通信を繋ぐとそこには少々心配げな瑠璃がいた。

『兄様、何してるんですか? 今何処ですか?』

遭難したか、はたまた座礁したかとでも思っていたのか、瑠璃は不安げな声で尋ねる。

「例の施設の中だ。そういや親善大使は何処にいんだ?」

完全に予想外の龍一の答えに完全に固まる瑠璃。

「おい、何処なんだ瑠璃?」

この声に瑠璃は漸く我に返る。

『・・・・何やってるんですか!! 親善大使さんはもう助けなくても良いのに!? なのに何でそんな所にいるんですか兄様は!?』

「だあああ。声がでかいっつーの! 敵に気付かれたらどーすんだ!?」

珍しく声を荒げた瑠璃に少々驚きつつ、咎める龍一。元来物静かな瑠璃は、大声を出す事自体珍しい。

「あっ・・・。ごめんなさい・・・。」

自分のミスに思わず謝る瑠璃。その横から蛍が顔を出した。

『お兄ちゃん、危ないよ・・・。すぐに戻った方が良いよ。』

やはり不安げに龍一を見ながら言う。

『どうしたの?』

そんなやり取りの最中、ミナトはこの通信に気付いたらしく山下姉妹に声を掛けた。

 

 

 

 

 

 

 

『何考えてるんですか山下さん!!』

山下姉妹から事の端末を聞いたユリカの第一声がコレだった。

ユリカと一緒に話を聞いていた他のブリッジクルーも頷いていた。なお、ムネタケは前回有ったやり取りの後、逃げる様に部屋に戻ったのでここにはいない。

「いや、だから、やっぱ真面目にお仕事した方がいいかな〜なんて(汗)。」

似合わない事言わないで下さい!』

「に、似合わねえことって・・・・・・。」

ユリカの大音量に引き気味の龍一の弱気な言い訳を、何気に酷い言い草で切り捨てるユリカ嬢。そのあんまりな言い草に凹む。

『ここは艦長の言う通りだと思いますよ。山下さん、早く帰還してください。』

前話の事をまだ根に持っているのか、氷のように冷たい眼差しで同じく冷たい声のルリ。

しかし何時の間に復活したのか、龍一は全く聞いていないかの様に辺りに目を配らせている。

そして、

「静かにしろ。敵が来る。」

まだうるさいブリッジを黙らせると、隠れた。

『来ませんよ〜?』

そうユリカが言った次の瞬間、自動ドアが開き兵士が2名入ってきた。

『すご〜い。何で解ったんですか〜?』

「気配がした。」

そう答えつつ腰のホルスターから愛用のUSPピストルを抜く。

足音がする。敵兵が近づいてきたのだ。

「しっかしここの研究員どももバカだよなー。自分たちじゃアレで隠したつもりなんだし。」

「ああ。実は筒抜けなのにな(笑)。」

どうやらこの施設を襲撃した理由を話している様だ。龍一(とブリッジクルー)が聞き耳を立てているとは知らずに尚も続ける。

「けどなんでクリムゾン何かに売ろうと考えたんだろ?」

「単純に高く買ってくれるからじゃないの?」

どうやらこの研究施設は組織ぐるみで情報を売ろうとして粛清されたらしい。

兵士達は、この後一通り見まわった後部屋から出ていった。

龍一はそれを気配で感じ取ると、隠れていた場所―――ロッカーの中から出てきた。

「いってえどんな情報売ろうとしたんだ?」

そう呟きながら端末を調べてみるがコレといった収穫は無かった。当たり前な事だが、重要なデータは全てプロテクトが掛っていた。少なくとも龍一には突破出来ない程度の物は。

ふと龍一はある部分をくいいる様に凝視していた。

『兄様、脱出しないのですか?』

そんな瑠璃の声も無視してモニターに映っているある文字を見ていた。

「ニタ研だったんだな・・・ここ・・・・・・。」

呆然としながら言葉を洩らす龍一。

暫く呆然とした後、その場から逃げる様に走り出した。

その顔は俯いていて表情はわからない。

ただ、龍一が凝視していたモニターには、

 

 

 

 

 

 

 

オーガスタNT研究所ウチャツラワトツスク支部

 

 

と表示されていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

研究施設通路――――――

『どうしたんですか兄様? いきなりむっつり黙りこんで。』

敵兵を回避しながら目的地に向かって突き進む龍一に瑠璃から通信が入った。

「何でもねえよ。」

素っ気無く答える龍一。だがその声には、若干の怒気が含まれていた。

『なんでもない訳無いじゃないですか。私、何か気に障る事をしたんですか?』

「しつけーぞ。お前じゃない。」

『それじゃ他の人ですか?』

「うっさい!そんな事言ってる暇あったら黙ってサポートしてろ。」

『・・・・・・はい、解りました。』

どうやら相当に機嫌が悪い龍一は、瑠璃にも当たり始める。それを察したのか、瑠璃はそれ以上何も言わなかった。

その瑠璃の態度が龍一には有り難かった。今の龍一は、他人に構っている余裕などは無かった。自身の、湧き上がるドス黒い感情を抑えつけるのに精一杯だからだ。

 

暫くして龍一は発電室があるエリアに入った。ここを経由する事で目的地までの距離を短縮する事が出来るのだ。

 

だが――――

「見るな!!!」

突如叫びながら通路を見渡す。これは見間違いではない。

銃を握る右手に力が篭る。そして反射的に左手もUSPハンドガン(45口径ハンドガン)を握る。

『ひ・・・・・・!!』

『あ、あ、あ、・・・・・・。』

この光景を見て震え上がる瑠璃と蛍。他のブリッジクルーも似たような反応だ。龍一の忠告は意味が無かったらしい。

「こいつぁひでぇな・・・。」

顔を顰めながら、改めて周りを見まわす。

「倒れてんのは・・・いや、ホトケ(遺体の意)は5人・・・。皆急所をヤッパ(刃物)で切られたり突かれたりしてんな。こりゃ相手はプロか・・・。」

龍一の言葉が示す通り、通路には血塗れの5人の男の死体が転がっていた。辺り一帯は血の臭いで蒸せ返っている。

この光景を前に、先程心の中で渦巻いていたドス黒い感情は徐々に鎮まっていく。代わりに刑事としての性分が、彼の気持ちをこの死体達の調査に向わせる。

先程の兵士達―――アメリカ方面軍の制圧部隊―――とは武装も服装も違う。

『どうやらここの警備員の様ですな。』

プロスが死体の所属を龍一に伝える。

「そうすか・・・。しっかしこりゃマジひでーな・・・。まるでスプラッター映画の1シーンだ・・・。」

恐らくは被害者の物と思われる血液が、辺り一面の床は勿論の事、壁や天井にまで多量に飛び散っていた。

「ブリッジの連中は、これから1ヶ月は肉を食えねえだろうな・・・。」

被害者の死体を調べている龍一は、顔を顰めながらも何となくそんな言葉を呟いた。これは自身の実体験に基づいた言葉である。

ブリッジクルーは皆(プロスとゴートは除く)顔が青い。女性クルーに至っては、皆込み上げて来る嘔吐感に必死で耐えている。

 

しばらく後、龍一は死体の検分も程々にドアの向こう―――発電室に歩を進めた。

親善大使の居るエリアへの大幅なショートカットになるからだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

発電室内――――――

室内は薄暗い。

その薄暗い発電室の通路を、警戒しながら歩いている4人の男達がいた。

常に油断無く、時々何かに怯えているような素振りを見せながら、彼らは陣形を組ながら通路を進んでいく。

緊張の為か、H&K MP5(サブマシンガン――拳銃の弾丸を発射する機関銃――の傑作)を握る手に力が篭る。

恐らくはこの施設で生き残っているスタッフは自分達だけだろう。自分達はこの研究施設の警備員の中でも最も厳しい訓練を受けてきたのだ。

こんな所で、上層部の連中が勝手に起こした行動の御陰で殺されるのは真っ平御免だった。

生き残りたい。その思いで、今までアメリカ方面軍の部隊の追撃をかわしてきたのだ。

発電所の出口まで後少し――――

 

ヒュン、ヒュン、ヒュン、ヒュン

 

風切り音かした。刹那――――

 

ドサッ、ドサッ、ドサッ

 

陣形の最前列の男が後ろを振り返ると、今まで共に脱出の為に戦ってきた仲間達が倒れていた。彼らの額や胸にはナイフが突き刺さっていた。

「―――ッ!!?」

男には何が起こっているのかすぐには理解できなかった。が、敵がいる事は理解できた。

「うあああああああ!!!」

 

ドガガガガガガガガガガ!!

 

恐怖に駆られ闇雲にMP5をフルオートで乱射する。

結局男は弾切れを起こすまで撃ち続けた。だが手応えは無い。

男は即座にリロードする。その時―――

“ソレ”は現れた。

パイプが張り巡らされた天井から飛び降りて。

“ソレ”は男だ。年の頃は20代後半。中肉中背のラテン系。眼光が鋭いのと、軍服の上からでも解る鍛えられ、均整のとれた肉体以外はさして特徴の無い男である。

男は腰の鞘からナイフを取り出し、眼前に掲げて嗤った。

恐怖に心を乗っ取られた警備員の男は、リロードが完了したMP5を乱射する。

「ああああああああああ!!!」

 

ドガガガガガガガガガガガガ!!

 

だがその男は高速で回転し、サブマシンガンの銃撃をナイフで弾きながら近付いていく。

そして、横を通り過ぎると同時に喉笛を切り裂く。

この一撃で、警備員の男は動かなくなった・・・・・・。

 

 

 

 

龍一は入って来るなり顔を顰めた。血の匂いがしたからだ。それも僅かではない。

警戒しながら歩を進める。条件反射か、銃は両手に1丁ずつ。2丁拳銃だ。

少し歩いた所で、彼は階下の先程の惨劇の現場を目撃する。

「――ッ!?」

ジュルジュル、ジュルジュル

胸や額に深々と投射用ナイフが刺さった死体を見て、思わず目を覆うブリッジの女性クルー。

 

ジュルジュル、ジュルジュル

 

何かを啜っているような音がする。

(・・・! あれは―――ッ!?)

不意に龍一は見つけてしまった。その音の音源を。

惨劇の現場から程近い壁に、連合軍の士官服を着た男が、警備員の男を壁に押し付ける様にして首筋に口を押し当てていた。

警備員の体は痙攣している様に時折震える。しかしこれはホ○シーンなどでは無い。 

何故ならこの連合軍人(と思われる)男は、警備員の男の首筋から

 

 

 

 

 

血を啜っていた―――

 

 

 

(――!!?? 吸血鬼!?)

この光景に思考が一瞬凍りつく龍一。食人や吸血の性癖を持っている人間の事は、話にはよく聞いていた。が、実際生でその光景を見る事になるとは思っても見なかった。

ブリッジは、叫び声に包まれた。中には失神する者(ジュン、メグミ)も居た。ちなみにルリ、瑠璃、蛍の3人は、咄嗟にミナトに抱きかかえられたのでこのショッキングな光景は見ずに済んだ。

ジュル、ジュル・・・ピタッ

ふと連合軍人(と思われる)男が血を飲むのを止めた。そして―――

「カァァァァァァァァァーーー!!」

後ろを向く。・・・気付かれた!!

「げっ!」

龍一は予め狙いを付けていたハンドガンを撃とうとする。しかし、龍一の指が反応するよりも早く連合軍人(と思われる)男は龍一の視界から消えた。

と同時に、何が起きたのか理解するよりも早く、何やら背中に圧迫感のような物を感じて、半ば本能的にその場から咄嗟に飛び退きながら後ろを向く。

 

そこには、先程視界から消えた血を啜っていた連合軍人の男がいた。

 

(跳んで来たってのか!!? この距離を!!??)

どう見積もっても、先程男が血を啜っていた場所からこの場所まで直線距離にして5m、高低差は3m。無論こちらが高所である。

その距離を、この男はたった1回跳躍で跳んだのだ。

背中に冷たい物が走る。と、同時に龍一は、自身の頭が妙に冴えてくるのを感じた。

およそ考えられる相手の動きを、脳内でシミュレートしていく。

だが、脳内シュミレートは中断された。

喉笛に銀の刃が迫ったからだ。

「ちっ!!」

 

ドン、ドン、ドン、ドン、ドン、ドン、ドン、ドン

 

咄嗟に両手のUSPハンドガンを連射する。この至近距離で、45口径を誇るこのハンドガンの弾に当たれば相手を挽肉にだって出来る。

だが男は先程のように、高速で回転して銃弾を弾きながら近づいてくる。

「いいっ!!?」

このままでは殺られると判断し、龍一はバク中でその場を離れる。と、同時にそのままかの惨劇の場所である階下に降り立った。・・・どうやら勢いがあり過ぎたらしい。

階下に着地した龍一が初めに見たもの、それは警備員の死体が握っているMP5だった。

「くそっ!!」

もう迷っている暇は無い。左手のハンドガンで男を威嚇しながら、死体が握っていたMP5を蹴り上げる。

ハンドガンをホルスターに仕舞ったのか、何時の間にやら開いていた右手でMP5をキャッチすると同時に乱射する。

だが男はまたもや消えていた。

だが、今度は先程より幾分か余裕があったので、相手の気配が読めた。

男は天井近くに張り巡らされたパイプの上に居る。

龍一は、また別の死体からMP5を蹴り上げ、左手に持つ。・・・何か2丁拳銃にこだわりがあるのか?

そして、天井近くにいる男に向けて両手のMP5のトリガーを引いた。

「どらあああああ!!!」

 

ドガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガ!!

 

だが、手応え・・・と言うか当たった素振りは一切無い。

「シャアアアアアアアアーーーーーーーー!!」

と、男の声が銃声を切り裂く様に響くだけだ。

MP5の弾が尽きた頃(と言ってもものの数秒後)、男の声もまた聞えなくなっていた。

気配で解る。もうこの部屋には居ない。

脅威は去った。

 

『人間の反応速度とは思えないな・・・。何者なんだ、奴は?』

ブリッジに報告しに来たのか、何時の間にやらブリッジ入りしていたアキトがここで放った最初の言葉だった。ショックの為か、呆然としている。

「俺もそう思う・・・。こんなトコでホンモンの化け物と会うとはな・・・。」

龍一はアキトのその言葉に、冷や汗を拭いながら同意する。

ブリッジはまだ混乱が収拾していなかった。気絶こそしなかった物の、ユリカは腰が抜けていたし、エリナやミナトも顔が青い。彼女に庇われた妖精達は、今の映像を見ていなかったのでそうでもないが。

『改造でもされたのかしら? それとも本物の吸血鬼かしらね。まあどちらにせよ、興味は有るけど個人的に関わるのは遠慮したいわね。』

医務室からこの映像を見ていたらしく、イネスはそんな事を呟いた。

とか何とか言ってる内に、先程の連合士官の吸血鬼?が知らせたのか、

「こっちで声がしたぞ」

「敵が侵入したのか?」

などという声が聞えてきた。

「気付かれた!」

『早く逃げるんだ龍一さん!!』

『兄様、早く!』

すぐさまMP5を投げ捨て、その場から離れる龍一。だが、

「居たぞ!!」

「撃て!!」

アメリカ方面軍の兵士達の動きは思いのほか速かった。

「くそっ!」

苦し紛れか、ホルスターからUSPハンドガンを抜き後退しながら銃撃を浴びせる。が、

「くそっ! やるな!」

「中々手強いぞ!」

追って来る兵士達はアーミーナイフでその銃撃を弾いている(汗)。

『一体どんな訓練を受けているんだ(汗)?』

アキトの呟きは至極ごもっともなのだが、こんなとんでもない連中を相手にしている龍一に、言い返す余裕は当然の事ながら無い。

龍一はここの手摺りを越え、3m下の階に飛び降りた。

ちなみにこの発電室、20m程の縦長の構造をしている。

「奴め!」

「逃がさんぞ!」

追っ手の兵士達は装備しているアサルトライフル、M4A1ライフルをフルオートで銃撃を浴びせる。殺る気満々である。

「どわわわわわっ!!」

龍一はその銃撃から逃れる為に、再び階下に飛び降りる。

それを何回か繰り返し、漸く発電室最下層に到達した。

とっととこの部屋から脱出する為に出口に向かおうとして、その出口前にアメリカ方面軍の兵士達が5人たむろっていた。

兵士達はナイフを構えたり、素手で構えたりと戦闘準備は万全らしい。

ここから無事に出るためには、彼等を倒す必要がある様だ。

ここは狭いので一対一の対決になるだろう。団体で来られたらともかく、サシであれば勝てる。

頭は冴えてくるが、先程の様な冴え方ではない。何時ものケンカ戦闘時の冴え方だ。

龍一もUSPを仕舞い、身構える。

それが戦闘開始の合図となった。

 

1人目の男がナイフで切り掛かってくる。

右薙ぎ、左薙ぎ、上払い。

それを軽く避け、上払い後のガラ空きになった脇腹に拳を叩きこむ。

この一撃で1人目は沈んだ。

 

1人目が沈むと同時に2人目が襲いかかってきた。

2人目もまたナイフである。

1人目と違い突きをメインに攻めて来る。

龍一は何発目かの突きを、自身の左手と脇腹に挟み込む。

相手が戸惑っているその隙に、顔面に右ハイを撃ち込み、振り抜き、そして返す足で蹴り飛ばす。その際、挟み込んでいた相手の左腕を開放するのを忘れない。

2人目の兵士は、(近くだが)壁まで飛んで激突した。

 

3人目は素手だった。殴り掛って来るが、それを捌くのに然したる苦労は無かった。

偶々相手が放った蹴りをフン捕まえて壁に叩きつけた。

 

4人目は3人目と同じく素手。

とにかく果敢に攻めて来るが、ボディのガードに空きがあった。

龍一はすかさず鳩尾につま先を叩き込む。

相手が前のめりになった所で、そのまま足を蹴り上げ顎を蹴り上げた。

男は床に大の字で倒れ込んだ。

 

最後の1人が龍一と向かい合う。その男は龍一の左目――義眼――が赤く光っている様に見えた。

目の錯覚か? 僅かだが戦いとは別の事を考えてしまう。・・・それが致命的な隙だった。

一瞬後の彼の視界には、龍一の靴の裏が一杯に映っていた。

 

 

 

5人のアメリカ方面軍兵を3分と経たずに昏倒させた龍一は、すぐさま昏倒している兵士達から装備を奪い始める。

『お兄ちゃん、さっきはとってもカッコ良かったのに・・・。今はカッコ悪い・・・。』

『兄様・・・、それって犯罪ですよ(汗)。情け無いですから止めて下さい・・・。』

先程ミナトに庇われた為か、信頼する龍一のカッコイイ戦闘を生で見れた為か、ツッコミを入れる余裕がある山下姉妹。

「だーー! 装備の現地調達はスニーキングミッションの基本なんだよ! っにしてもコイツ等・・・、装備から見てデルタフォースみて―だな・・・。よく今まで潜入バレ無かったな、俺(汗)。」

そのツッコミを受けながら、改めて自身がとんでもない無茶をやらかしている事を痛感する。

自分は今とてもヤバい状況に置かれている事を痛感しながらも装備――M4A1ライフルとそのソーコムピストル、そしてそれらの弾丸――の回収を進める。・・・これで暫くは弾切れの心配は無くなった。

『瑠璃さんが貴方に言いたいのは、何で装備の回収なのに財布まで抜き取る必要があるのか、と言う事だと思いますけど山下さん。』

装備の回収のドサクサに紛れて犯罪行為を行ってた龍一に、ルリは絶対零度のツッコミを入れた。

「いやあ、役得役得♪(汗)」

『何処がです。』

ルリにジト目で睨まれる龍一は視線でアキトに助けを呼ぶが、

『どう考えても貴方が悪いですよ。』

と切り捨てられた。

「いやな、どんな時も余裕を持てってこの本にも書いてあるし(汗)。」

そう言って、『誰にでも出来るスニーキングミッション 実践編』懐から出す。

どうやら潜入してからの龍一のおちゃらけた態度は、この本の所為でもあるらしい。

『所詮は本じゃ(汗)。』

「いたぞ!!」

「バカ! ここから撃てば仲間に当たるぞ!」

「回りこめ!!」

「げっ!」

龍一はすぐさま発電所から逃げ出した。

 

 

 

 

 

 

 

研究所エリア、ロッカー室――――――

「撒いたか・・・・・・。」

親善大使のいるエリア――――目的地の研究所エリア――――に辿り着いた龍一。

追っ手のアメリカ方面軍兵を無事に撒けた彼は、今撒く為に逃げ込んだロッカー室の中に居る。

『・・? ・・・何だか山下さんの左目が赤く光っているような・・・。』

逃げ延びて一段落した龍一からの通信に出ていたユリカは、ふとその事に気付く。

『ミナトさん達大丈夫でしょうか・・・?』(ルリ)

『皆かなり具合が悪そうだったね・・・?』(蛍)

『後で御見舞いに行きましょう。』(瑠璃)

この様に現在のブリッジ、居るのはユリカの他に、ルリと山下姉妹、そしてアキトだけである。先程の吸血鬼ショックで気絶したジュンとメグミは医務室へ、エリナとミナトは御手洗いにそれぞれ行っている。理由は推して知るべし、である。

ちなみにゴートは気絶人を運びに、プロスは状況が状況なだけに、艦長の代理で機動戦の報告を受けにそれぞれブリッジから出ている。

『艦長、兄様の左目は義眼なんですよ。昔事故があってそれで・・・。』

『ほえ〜。そうなんだ。』

何だかんだいっても流石はナデシコの艦長である。・・・先程までアキトに着きっきりで慰めてもらった事もあるだろうが。

「こいつは只の義眼じゃなくて複合センサーアイだ。サーマル(赤外線)ゴーグルも暗視ゴーグルも兼ねてんだ。中々に便利だぜ。」

もっとも左目潰されたのは事故じゃねえけどな、と龍一は心の中で付け足した。

「ん?」

ふと龍一はテーブルの上に置きっぱなしになっているIDカードを見つけた。

『物凄く無用心ですね。ここの管理能力はどうなっているんでしょうか?』

管理のズボラさに頭を抱えるルリ。

「まあ、ザルだからこそ素人の俺が潜入できたんだ。その辺は感謝しねーとな。」

何かの役に立つであろうIDカードを懐に入れれつつそう呟く。

『お兄ちゃん、大使さんはここに居るよ。』

蛍は龍一のモバイルに情報を送信した。

「ん? こんなん何処で?」

『ここのコンピューターハッキングしたの。』

ちょっと申し訳なさそうに言う蛍。その姿に龍一は苦笑する。

「ったく、よく出来たな。ま、有難く使わせてもらうわ。ありがとな。」

龍一は蛍に優しく笑って礼を言った。

 

だがその横で、ルリは驚愕の表情を浮かべていた。

(まさか、私が気付かない間にこんな事が出来るなんて・・・。信じられない・・・。)

 

 

 

 

 

 

 

 

研究所エリア、大使の居る部屋・・・の前――――――

龍一は、ようやく親善大使の居る部屋まで辿り着いた。ちなみに研究所エリアに入ってからは、敵に見つかる事も無かった。

「さっきのIDが使えるみてーだ。ツイてんな、俺。とっとと終わらしてこんなトコからおさらばだ。」

IDカードをスロットに差し込む。扉のロックが開いた。

『けど何でこんなに分厚いドアなんでしょうか? まるで牢屋みたいです。』

「牢屋は鉄格子だと思うがな、瑠璃。」

「た、例えですっ!!(赤面)

龍一はこの隔離施設のような部屋に、緊張の面持ちで入っていく。

アキトは何でこんな所に入れられているのか訝しんでいたが。

『あの、山下さん。親善大使は・・・。』

「おう、大使さんがどうかしたのか?」

「グルルルルルルル。」

『あの、その親善大使なんですが・・・。』

何所と無く言いにくそうなルリ。

「だからどうした?」

「グルルルルルルル。」

取り敢えず聞えてくる唸り声は本能が無視を命令する。

『いえ・・・、だからその・・・。』

不意に立ち止まり、上を見上げる龍一。・・・やっぱり無視できなかった。

「・・・何だ・・・・・・コレ・・・・・・・・・・?」

『だから親善大使は白熊だ・・・ってもう手遅れですね・・・(汗)。』

「グルルルルルルル。」

 

 

 

 

 

 

 

そこには、凶悪な顔をした、隻眼体高6mの白熊が居た(爆)。

観測器具は申し訳なさそうに背中にちょこんと乗っかっている。

 

 

 

「あんなの前(の歴史)には居なかったぞ!!!」

如何やら目の前で展開されている理不尽?に着いて行けなくなったのか、アキトは禁句(傍から見れば電波な言葉)を言ってしまった(笑)。

だが幸いな事に、ブリッジに残っていた数少ない人々の注目は、冗談みたいな白熊に集まっていたので、アキトの言葉に関心を持つ人間は居なかった。

 

 

「俺、生きて帰れんのか(滝汗)?」

この冗談みたいな白熊を見て、顔面蒼白の龍一が呟いた言葉がコレだった。

 

 

 

第13話へ

 


後書き?

どうも、核乃介です。今回は“まだ”トラウマの元とは対面していません。・・・予定では会う事になってたのに・・・。

それはともかく(いいのか?)、龍一の赤く光る目、実は義眼(というか複合センサーアイ)でした。これまでもそれを匂わせるような描写は時々あったんですが、解りましたか?解らなかったら申し訳ございません。

なんだか人外な動きをする奴が出て来たり、ここの研究施設がアレだったり色々問題シーンがありますが、ま、ここはひとまずツッコミ無しで見ておいてください。

今回はおちゃらけましたが、次回はシリアスに決めます(汗)。

それではまた13話の後書きでお会いしましょう。・・・・・・えっ? いや? そげな事言わんとってくださいよ。

・・・・・・ちなみに天然ですよ(何が)。

 

それでは別人28号さん、感想どうぞ!!

 

 

 


コメント代理人 別人28号のコメント


う〜ん メタルギアかと思ってましたが

なんか、バイオハザードも混じってたような・・・

銃弾はじいてた人達もスゴイ

もしかして ここのお偉方に「ヤ」の付く人いたりしません?




武器の現地調達はともかく、彼等はなんでサイフも持ってたんでしょう?

私、よく知らないけど普通なのかな?

彼等があの格好のまんま自販機前でコーヒー飲みながら雑談してたり

社員食堂でご飯食べたりしてたら それはそれでおもしろいのですが

・・・あ、吸血鬼の彼はトマトジュースで(爆)




それにしても、ああいう状況で気を失うのはヒロインの役目ではないですか?

ミナトはともかく ジュン・・・


やはり、ジュンはキャラ的にヒロインなんでしょうかねぇ?

可憐に倒れちゃってください






追申

龍一の持つ本の著者、聞いてもいいですか?