『時の流れに of ハーリー列伝』
Another Story

狂駆奏乱華

第弐章
「巡り誘うは無限時空…」
第一節
「ローズ・クウォーツ」

  

木星と地球、この両者で行われた不毛な戦争は一人の英雄の活躍によって終結を迎えた。

……其の名は、テンカワ・アキト。またの名を『漆黒の戦神』…。

 これは彼が不特定多数の女性を妻に迎え、数年の時が経過した頃のお話……。





 前回ミツリに虹舞流の免許皆伝を貰ったハーリー君。平和な日々を過ごしていましたが、其処へ突然の闖入者が…。あのミツリさえ畏れるその少女の名は幽袮。唯一無二の存在。
 何故か幽袮と鬼ごっこをする事になったハーリー君。

 果たして無事に済みますかどうか……。




「ハーリー君、必ず勝つんですよ。私の事は置いておいて、幽袮は邪魔な存在の消去に迷う事はありません。必ず勝って生き残って下さい…」

 その言葉と共にミツリにそっと抱き締められるハーリー。この温もり、絶対に散らせはしないと、ハーリーはもう一度決意を固める。

「それじゃ行って来ます、ミツリさん。必ずもう一度帰ってきます」

「気を付けるんですよハーリー君」

「はい!」

 そうミツリに返事を返すと外に出るハーリー。そして精霊達を戻し、早速準備に入る。

(それじゃ行くよ皆)

(身体状態はオールOKです♪)

(生体制御も問題無しじゃ!)

(フィールドの方もいつでも張れるぞい。それとな坊。先程ミツリ嬢ちゃんから貰った情報を参考にしたんじゃが、残念じゃがこの世界から脱出した方が良い様じゃ。
 あの幽袮と言うお嬢ちゃん、普通の人間とはレベルが違いすぎる。普通に異世界に渡ったりしておる様じゃ。ハッキリ言って同じ世界に居ってはすぐに捕まえてくれと言っておる様なもんじゃぞ。
 ここの世界は儂がマーキングしておくから、この前話しとった方法があったじゃろう。アレをこの双剣(ロメス・アル・ハーレツ)でやれば行ける筈じゃ)

(そんなに拙い相手なんですか、あの娘は?)

(兎に角情報は行った先で見せる。急ぐんじゃ坊!)

(分かりました。兎に角行きます)

「それじゃ、行きますか…。アクセルダッシュ!!

 そう言うが早いか、ハーリーは静止状態からいきなりMAXスピードで駆け出す。その状態からいきなり双剣を抜き放ち振り抜くと、ハーリーの前方の空間があたかもガラスの様に高い音を立て砕け散る。そこへすかさずフィールドを纏い突っ込むハーリー。

 こうしてこの世界からアッサリ脱出したハーリーだが、はてさて次の世界は鬼が出るか蛇が出るか……。








「……で?」

「いや〜、初めての空間突破による次元間移動だったもんで、ちょ〜と計算が狂っちまったようじゃな♪ なに、間違いは誰にでもあるもんじゃ! 細かい事を気にするでない坊!!」

「…この何所とも知れない空間を漂っている事が細かい事ですか?」

 そう、今ハーリーが居るのは時空の狭間の何所とも知れない空間であった。予定では、ほんの短い時間で別の世界に着く筈だったのだが……。

「大丈夫じゃて! 今手近な世界に引き寄せられておるゆえ、そう時間も掛からず別世界に到着できるハズじゃ!! それより、今のこの時間を使って先程ミツリ嬢ちゃんから貰った情報を見ておいたらどうじゃ坊?」

「そうですね。今の内に見ておきますか」

 そうしてラプラスが先程貰った情報をハーリーに見せていく…。

「この大虚空(オホソラ)って服に付いてる、【まほら鈴】って視認出来ない鈴の音色って、どうやって聞き分けたらいいんだろう?」

「それについては心配無しじゃ! 儂がその方法なんかを理解しておるから、すぐに知らせてやるぞい!」

「取り合えず相手が接近して来るのは感知できるから、後は何とか上手く切り抜ければ逃げ切れるかな?」

「まあ、その辺は悩んでも仕方ないですよマスター。兎に角最善を尽くしましょうよ、ね♪」

「判ってるさ鳳燐。この勝負、負ける訳には行かないからね!」

 そうこう言ってる内に、何やら体が引っ張られているような感じが何時の間にかしていた。どうやら終点が近いようだ…。

「さて、どんな世界に出るのやら……」







ヴィーッ、ヴィーッ、ヴィーッ、ヴィーッ、ヴィーッ、

 先程まで静謐であった研究所に、緊急事態を報せるレッドアラームが鳴り響いている。こう言う事態に縁の無いここの研究者達は、勿論当然の様に混乱していた。

「何だ?! 何があった」

「判りません! 先程から警備の者に連絡しているのですが応答が無くて……」

「えぇ〜い、使えん奴等め!!!」

 そんなセリフを吐いていると、ドアが開き時代錯誤としか言い様の無い格好をした連中が入って来る。首から下を覆うマント(?)といい、頭に被る笠といい、時代を2、300年は間違えてるのでは、と思わせる格好だ。

「な、何だ貴様らは!」

 研究者の一人が突然の闖入者に誰何の声を上げる。が、時代錯誤な格好の闖入者七人は研究者の誰何の声を無視し、室内に設置されている実験用のシリンダーを見回す。そしてその目はある1点で止まる。そこに居たのは……

「金色の瞳。あの娘か、人の業にて生み出されし白き妖精……」

 そう言ったのは七人の頭らしき、左目が赤い義眼の男。シリンダー内の金色の瞳の少女を見て舌なめずりをすると、おもむろにそちらの方へ歩き出す。
 途中、研究者が何人もいたが殺気も放たず物を退かすかの様に斬り捨てて行く。目的の少女の前では、邪魔者は物同然の様だ。
 そして後数人斬り捨てればシリンダーに着くという時、ソレは起こった。

パキィーン

 そんな甲高い音と共に、空間が割れたとしか表現しようの無い現象がシリンダーの手前で起こり、そこから突然人が降って来た。

「痛たたた。着地には失敗したけど、何とか無事に到着したみたい……って、何だか修羅場っぽいな」

 勿論現われたのは次元間移動中のハーリーである。

 とりあえず状況を把握しようと周りを見回してみる。そこに在ったのは、幾人かの死体と研究者らしき数人、血濡れの刀を持つ男とその仲間、そして自分の背後で震えている金色の瞳の少女が一人…。
 どお見てもヤバイのは目の前の時代錯誤集団。その暗く澱んだ眼がどんな職種かを物語っている。

「着いて早々厄介事か。こんな幼い少女を見捨てる訳にも行かないし、ここは引いてくれると嬉しいんですけど……。そう言う訳には行かないみたいですね」

 少々溜め息を付き刀を持つ男に問う様に聞いてみるハーリー

「フッ、単独で自由に跳躍出来る様だな。面白い、お前も我が結社のラボにて栄光ある研究の礎と成るがいい」

 あまり人の話しを聞いてない様だ。

「そういうセリフは勝ってから言った方がいいと思いますよ?」

「笑止!」

 言うが早いか、何時抜いたのか両手に刃を持ち、踏み込んで来る爬虫類眼の男。(ちなみに研究者達はとっくの昔に逃走してます)

ガキィーン

 と、こちらも何時抜いたのやら、ハーリーが双剣で刃を受け止める。

「仕掛けて来たのはそちらです。余り容赦はしませんよ?」

 そう言うが早いかハーリー達は容赦なく両手に持つ二刀で激しい打ち合いを始める。
 時には一刀を盾に、囮に、フェイントにと二人の攻防は苛烈を極め、見る側からすればまさに剣舞。まるで息の合った殺陣の様にも見えた。しかし行われているのは生死を賭けた真剣勝負。部外者は手出し所か、見ているより他に無かった。

 そして激しい打ち合いの後、離れる両者…。

「面白い! 貴様ほどの使い手がおろうとは、まったく愉しませてくれるな少年!!!」

「結構やりますね。でも今は余り人の生き死にに関っていられ無いんです。ここは引いて貰います!」

 おもむろに地蛇剣を鞘に仕舞い、天蛇剣を右手に持ち替え水平に構える。

神炎祓濯(かえんふったく)!!!」

 振り払うと同時に爆炎が辺りを舐め、ハーリーより前方が火の海と化す。

「くっ! 妖しの技を使いおるか。良かろう、此度は引こう。次にまみえる時を楽しみにしておるぞ少年。我が名は北辰…。汝が名は?」

「…マキビ・ハリ」

「マキビか、憶えておくぞ」

 ニヤリと笑いながらそう言うと、後ろの六人と共に素早くこの場から消え去る。

「行ったか…。それにしても危ない目をしたおじさんだったな。あんまり再会したくないな…」

 ぼやきながらパチンッと指を鳴らすと、先程まで在った火の海が幻の様に消え去った。しかも何故かその辺に散乱していた死体も血糊も跡形も残さず消えていた。

「すみません、浄化の炎です。無念を残さず成仏して下さい……」

 消え去った人達に少し祈りを捧げ、先程震えていた少女の方へ向く。

「大丈夫だった? もう心配要らないよ」

 笑顔でそう言うと、ボォ〜としているのか無表情なのかハーリーを見詰めながら小さく頷く。もう震えは止まっている様だ…

「しかし、どうやったら開くんだろ、これ。そんな所に入ってちゃ話しも出来ないよ…」

 シリンダーを開けようとするが、どうやっていいのかいまいち判らない。

「これかな…」

 偶然触れたのはこの部屋のコントロールパネル。適当に押して行くと少女の入っているシリンダーが開きだす。
 ハーリーは取り合えず、その辺に掛けてあった白衣を持て少女の方へ向かう。

 そう、その肌白で薄桃色の髪の金眼の5、6歳位の少女は全裸だったりする。まあ、ハーリーにそのケは無いので平然としているが……

…………薄桃色?

「僕の名前はマキビ・ハリ。君の名前は?」

 その少女はふるふると首を横に振り、小さな声で、

「…名前、無い」

「え? 名前が無いって……」

(マスター、この子きっと違法で創り出された存在じゃないでしょうか? どうやらここ、何かの実験施設みたいですし…)

 うすうす少女の正体に感ずきつつも、取り合えず一般論を言って誤魔化す鳳燐。

「そっか。でも名前が無いと呼びずらいな。君とかお嬢ちゃんだけでも不味いだろうし…。そうだな……………。綺麗な薄桃色の髪だから、ローズ・クウォーツってのはどうかな?」

 少々悩んで、そう少女に聞いてみる。

「…ローズ…クウォーツ? 私の名前?」

「そお、君の名前。気に入らなかった?」

 少女は首を横に振りながら、

「ローズ・クウォーツ……。その名前でいい」

「よかった。それにしてもこれからどうしよう。早く逃げないといけないのは山々だけど、ローズを置いてく訳にも行かないし……」

(取り合えずここがどういった世界か調べましょう。話しはそれからですマスター)

(そうだね。でもどうやって調べるの鳳燐?)

(幸いここは科学が発達してますから、取り合えずそこの端末を使って、後はマクスウェルさんに任しましょう)

(おぅ? やっと出番の様じゃな)

 そんな訳で早速パネルにハーリーの手を置き、調べだすマクスウェル老。
 それでまず判ったのは……

(どうやら元の世界軸に帰って来たようですな。時間軸の方は6、7年程ずれておるようですがな)

(元の世界って、僕が記憶を無くす前のですか?)

(その通りですマスター。しかし、どうやら完全に元の世界ではないようですな。この世界に漆黒の戦神なる存在はおらん様です。)

(それじゃ、精神が過去へ跳ぶ前の元々の世界なのかな?)

(それは何とも言えませんな。元々はそうだったかも知れませんし、我々が来た事で変わったかもしれませんし、変わったとも言い切れません。今の時点では何とも言えませんが、この娘さんを助けた事で多少なりとも変化が在ったのではないのですかな?)

(それで、ローズの事はどうすれば良いと思う)

(アカツキさんに…、ネルガルの会長さんに預けた方が良いと思いますよマスター。幸い、ナデシコで戦った後ですからそれ程悪い人じゃないはずですし…)

(他に当てもないし、そうしようか…)

 この話し合いが終わるのに10〜20秒程。外から見ればボ〜としている様に見える。当然ローズも気になり袖を引っ張ってみる。
 引っ張られて5秒ほどで気が付くハーリー。

「ん? どうしたのローズ?」

 ハーリーがそう言うと、ハーリーの顔をジィ〜と眺めてから首を横に振る。どうやら何でも無いと言いたいらしい。

「そお? それじゃあここを出ようか? 何時までも居て、気持ちのいい所じゃないからね」

 ローズは頷くと、ハーリーの後をテケテケテケと付いて行く、

「あ、ちょっと待ってローズ」

 嫌な予感がしてドアの前でローズを待たせ、ハーリーはそっと外を見てみる。

 血と肉の乱舞する地獄絵図が展開されていた。とてもではないが小さな子供には見せられない。気分が悪くなりそうなので、細かな描写は削除!

…は、は。壮絶……。ローズ、ちょっと待っててくれる?」

 そう言って外に出てドアを閉めるハーリー。何だろうと首を傾げるローズ。すると外から何か声が聞こえてくる。小さくてよく聞こえないがハーリーの様だ。

「我示す、如何なる絆に彷徨いし、天へと翔け逝く業抱く者よ! メギドフレア!」

 それから待つ事しばし、

「それじゃあ、行こうかローズ」

 爽やかなスマイルで入って来るハーリーに、コクッと頷き付いて行くローズ。

 ローズはハーリーと、何時もと変わらぬ廊下を行く。先程まで存在していた余り描写したくない物体の数々は奇麗に消え去っていた。

 そしてハーリーとローズは何事も無く研究所を出た。

 …その他の研究員なんかは如何したんだろう?(汗)

「いや〜、自然が気持ち良いな〜」

 やけに爽やかなハーリーが体いっぱいに風を受けてそう言う。

「さて、そろそろ行こうか」

 そう言って裸足のローズを肩車して双剣を抜く。

(ラプラスさん、ナビゲートお願いします。今度は間違えないで下さいよ、ローズが居るんですから!)

(任せておけい坊! 今度は別に世界を超える訳じゃないから大丈夫じゃて)

「しっかり捉まっててね、ローズ。…双蛇は翔け行く、此方より彼方へ!」

 前方の空間をX字に斬り付けると、丁度一人入れる位の穴が開く。

(フィールド展開OKじゃ)

(それじゃあ、行きます!)

 フィールドを纏い、ローズを気づかいながら、ハーリーは空間の穴へと消えていくのであった………






≫≫一方その頃のネルガル会長室

「それ本当かい?」

「はい。どうやら此方にも知らされていなかった研究所らしいのですが、先程襲撃が有ったと…」

「それで、そこにマシンチャイルドが居たって?」

「どうやら違法に造られていた様です。現在の状況は不明ですが……」

「それじゃゴート君、ちょっと見て来てくれる?」

「了解しました」

 そう言って会長室より退室するゴートを見送りながら、深い溜め息を付くネルガル会長アカツキ・ナガレ。ロン毛を気障っぽくきめ、憂いの表情を示す。

「まったく、せっかく平和になったってのに、なんでこうも事件が起こるのかね?」

 独り言を呟きながら、先程中断した書類の続きを片付けようと机に向かった時、アカツキはフッと気が付く。
 何やら窓の方にX字の傷の様なものが。(何だろうと?)と思っていると、突然X字を中心に空間が砕け人一人通れる位の穴から、薄桃髪の女の子を肩車し両手に剣を持つ少年が現われる。

「ボソンジャンプ? にしてはボソンの輝きが無かったし、どうやら現象が違うみたいだけど、君は一体誰だい? 他人の家に土足で踏み入る様な真似をして、失礼だと思わないかい?」

 突然現れた不信人物(凶器付き)を前に、余裕っぽい口調のアカツキ

「あ、これは失礼(カチャン) えっと、アカツキ・ナガレさん、ですか?」

 双剣を仕舞い、ローズを肩から降ろしながら、アカツキに問うハーリー。

「いかにも僕がネルガル会長アカツキナガレだけど? そう言う君は誰だい?」

「すみません、名乗るのが遅れました。僕の名前はマキビ・ハリ。アカツキさんにちょっとお願いがあって来たんですけど…」

「いきなり、何だね。で? 僕にお願いってのは? こう見えても一応会長なんて職業に就いちゃってるから、結構忙しいんだよね。もうすぐ怖〜いおばさ(ゾクッ)…いや、え〜と、お姉さんもやって来ちゃったりして、時間が無いから出来るだけ手短にね(汗)」

 途中引きつる顔を見ながら、

「簡単に言えばこの子を、…名前はローズ・クウォーツて言うんですけど、保護して貰えませんか? 実はこの子のいた研究所みたいな所が襲撃されちゃって、身より所か名前すら無くて、名前は僕が付けたんですけど。それで如何し様って事になって…、それで……」

「それで僕の名前がどうして出てくるわけ? その辺、もうちょっと詳しく教えて欲しいよね」

 調べた経緯なんかをマクスウェルに聞きながら、ハーリーはこれまでの事をアカツキに説明する。

「ふ〜ん。もしかしてその研究所って、さっきゴート君が言ってた奴かもしれないね。でもそうするとその子はマシンチャイルド……って、目を見れば一目瞭然だったね。その金の目が何よりの証だ。
 OK、いいよマキビ君♪ この子の保護は元々考えてた事だしね。それに僕もこんな小さな子で実験しようってやつ等は許せないからね。君の言ってた例の研究所の大元から潰す様に言って置くよ」

「本当ですか!! そうして貰えると助かります」

「あと気になるのは、マキビ君の言ってたマントと笠の七人組だね。そいつ等確かに『お前も我が結社のラボにて栄光ある研究の礎と成って貰おう』って言ったんだよね、マキビ君?」

「ええ、確かにそう言ってましたけど…」

「これは結構不味い事になってるかも知れないね。その言葉からしてバックには結構でかい組織がいそうだし、何かの実験をしてるみたいだ。それに最近不審な事故が相次いでるんだよね。これは色々調べてみる必要がありそうだね…」

 態度はおちゃらけているが、そう言ってる時の目は大企業のトップらしい鋭い目をしていた。

 とりあえずこれで一安心とホッと一息つき、どれ位の時間が経過したのか見る為に懐から水晶盤を取り出す。
 30ある火の内の1つが大体半分ぐらいになっている。

「大体半日か…。まだ少し余裕があるな」

 ハーリーが少し思案に耽る。思うのは先程遭遇した爬虫類眼の男、北辰の事である。
 あの男、果たしてこのまま放置しておいてよいものか。もしまたローズを狙ってきたら、その時自分が居るとは限らない。それに北辰は相当な強者、果たして護りきれるだろうか?

「やっぱりここにいる内に、決着を着けておいた方がいいかな……」

 そう呟くと、さっきからハーリーにずっとくっついているローズに、目線を合わせる様にしゃがみ話し掛ける。

「ごめんねローズ、僕もう行かないとならないんだ」

 ハーリーのその言葉に、ローズはちょっと驚きの表情を浮べた後、ジッとハーリーを見つめ抱きついて来る。

「やだよ…。ずっといてよ…」

 小さなその声に何とも言えない表情を浮べながら、

「…ごめん。如何してもやらなくちゃならない事があるんだ。それが終わればまた会いに来る! 約束するよローズ!」

「………絶対?」

「うん、絶対!」

「本当に?」

「うん!」

「…じゃあ、待ってる。約束だよ?」

「約束するよローズ」

 その時初めて見せたローズの笑顔に、ハーリーはしばし見惚れた。

 何て綺麗な笑顔をするのだろうか。ただ純粋に惹き付けられる。純粋無垢な少女の表情に……。

「そうだ、ちょっと待ってて」

 おもむろに後ろを向き少し離れると、何やらゴソゴソしだし、数秒後に戻ってくる。

「はいこれ。お守り代わりにローズにあげる」

 ハーリーが取り出したのはビー球サイズの赤い宝石の様な物。

「…奇麗」

 石を覗くローズに微笑むハーリー。

「じゃあ、僕は行きますんで。またね、ローズ。次に会う時まで元気にしてるんだよ?」

「うん」

 再会の約束をすると、ハーリーは後ろを向き双剣を抜く、

「双蛇は追い行く、彼の者の元へ!」

 空間を十字に斬り付け穴を空け、フィールドを纏いそこに突っ込むハーリー。

 そしてネルガル会長室からハーリーの姿が消えた、

「しかし彼って何者なんだろうね?」

 正体不明と認識されたまま……

 









≫所変わって飛行中の某シャトル内

 突然侵入して来た妖しい七人組が、乗客の男女に口上を垂れ始める。

「テンカワ・アキト、ミスマル・ユリカ、お前達二人は我が結社のラボにて栄光ある研究の礎と成って貰う」

 また言ってるよこの人は。

「何なんですか、貴方達は! せっかくの新婚旅行なのに、ぷんぷん!」

「我等は火星の後継者の影。人にして人の道を外れたる外道…」

 北辰がニヤリと笑い、六人衆が二人を捕らえようと動き始めたその時、

パキィーン

 という音と共に、空間を割りハーリー出現!

 そして辺りを見回し、北辰がいるのを確認するハーリー。

「またお遭いしましたね、北辰。ローズの為です。貴方達にはここで去んで貰います」

「現われおったなマキビ・ハリ。待ち望んだぞ貴様との再会! 今度こそ決着をつけようぞ!!」

「今回は遊んでる時間はありません。本気モードで逝かせて頂きます!

 双剣をおもむろに抜くと、突然双剣を炎が覆う

「浄化せよ紅蓮! 消魔鳳凰斬!!

 双剣から派生した炎を全身に纏い、あたかも鳳凰が如く翔け抜ける。いつ斬られたのか、突然六人衆が炎にその身を焼かれだした。

「虹舞流魔双剣術 赤の技 消魔鳳凰斬……。穢れし魂、輪廻の環へと還るがいい…」

「「「「「「リフレェ〜〜〜シュッ!!!!!!」」」」」」

 六人衆が突然そう叫ぶと、恍惚の表情を浮かべながら炎と共に消え去った。

 問答無用で身も蓋も無いな(ヲイ)

「馬鹿な?! 六人衆を一瞬で! しかもあんな冗談の様な死に方で!! それが貴様の本当の実力というわけかマキビ・ハリ!」

「安心していいですよ。貴方は別の所に逝って貰いますから

「ぬかせ! そう簡単にやられると思わぬ事だ」

 ハーリーは聞く耳持たず、双剣を北辰に向ける。

「無限の海へと続く扉よ、今ここに開き足らん! 無限力場落(ディラック フォール)!!

 突然北辰の足元に黒い穴が開く。

「何ぃぃ!!」

 咄嗟に何かにつかまろうとしたが、手の届く範囲で掴める物は無く、そのまま落ちていくと思いきや、

「只では死なぬ!!! ぬははははは!」

 北辰は言うが早いか懐のスイッチを入れる。

 するとシャトルの後方が爆発しだした。

「悪足掻きを!」

 既に閉じた穴にそう言って振り返り、ハーリーはシマッタ!という顔をした。

 ハーリーの後ろにはアキトとユリカが居た訳だが………、
 ハーリーすっかり忘れてやがったな?

 ともかく、爆発に焦る二人に近づき、二人を自分に密着させる様にくっつける。

「あん、君何するの? 私にはアキトっていう立派な旦那様が……」

「こんな時に何逝ってるんです!お二人とも僕にしっかり捉ってて下さい! ラプラスさん、フィールド全開!!」

(任せておけ!!)

 ハーリーを中心に、3人を包むフィールドが展開するが速いか、シャトルが爆発した。





「お二人とも大丈夫ですか?」

「あ、うん。俺は大丈夫。ユリカは?」

「うん! 私もぜんぜん大丈ぉ〜夫!!まっかして〜!!! ブイ♪
 それにしても凄かったねさっきの爆発! でも何で私達無事なんだろう?」

 ハーリーはフィールド内に空間支配を掛け重力制御を行い、落下速度を緩和している為、現在ゆっくりと地上に下降中である。

 ちなみに地上数千mな為、地上に着く迄に数時間掛かった。

「じゃあ、そのローズちゃんをアカツキの所に預けたんだね、ハーリー君は?」

「はい。今の僕の状況じゃ、一緒に行くのは危険ですから…。そうだアキトさん、ユリカさん、ローズと仲良くしてやってくれませんか? 結構人見知りする所がありますし、あんな事が有った後だし、心配なんです」

「それならお任せだよ、ハーリー君! ナデシコの皆に頼めばすぐに明るくなれちゃうよ♪ それにその子、マシンチャイルドだったらルリちゃんの妹みたいなもんだよね! なら別に家で一緒に暮らしてもオールOK!!!」

「まだそのローズちゃんの了解も得てないだろう、ユリカ? とにかくそんなに心配する事は無いと思うよハーリー君。ルリちゃんも昔は感情を余り外に出さ無い子だったけど、ナデシコに乗って随分変わったからね。ローズちゃんもきっと変われるよ、いい意味でね!」

 好意的なテンカワ夫妻の言葉に少し安心するハーリー。

「ローズの事、宜しくお願いします」

 そんなこんなで色々話している内に、瞬く間に時間は過ぎ、もう地上に着く頃だった。

「無事到〜着! ありがとうハーリー君♪ よく考えるとハーリー君って私達の命の恩人なんだよね! Wでありがとうだね!!!」

「だな。今度ローズちゃんに会いに来る時は、うちの屋台に是非寄ってくれよハーリー君。今回のお礼に特製のラーメンを御馳走するからさ!」

「はい! その時は必ず寄らして貰いますよアキトさん」

 とその時、不意にラプラスの声が頭に響く。

(拙いぞ坊! 落下に時間を食いすぎた。あの嬢ちゃんが迫って来ておるぞ!! 急いでこの世界を脱出じゃ!!!)

「すいません! 急ぎの用が出来たんでこれで失礼します。アキトさん絶対今度食べに行きますんで。ユリカさん次に会う時までお元気で! それとローズの事お願いしますね! それじゃあ、また! アクセルダッシュ!! 」

 早口で二人に別れを告げると、一瞬で走り去る。まさに疾風迅雷である。

「何だか嵐の様な子だったね……」

 ユリカがアキトにそう告げている最中、先程までハーリーが居た場所に突然どこぞの民族衣装の様な服装の10歳前後の少女が現われた。勿論ハーリーを追っかけて来た幽袮である。

「残念♪ 一足違いだったみたいだね。でも、まあいいか♪ そう簡単に捕まっちゃ面白くないもんね♪ もっともっとわたしを楽しませてよ、お・に・い・ちゃん♪」

 楽しそうに笑うと軽いステップで一歩踏み出し、溶ける様に姿を消した、かと思うと数十m先に現われまた消えた。

「今の子、一体誰だったんだろう? 声がルリちゃんそっくりだったけど……」

「さあ。でもあの口調だと、あの子が追っかけて行ったのって、もしかしてハーリー君なんじゃ……」

「え! あんな可愛い子に追い掛けられてるなんて、ハーリー君も隅に置けないね♪」

 ただし命懸けだけどね。

 この後、テンカワ夫妻は救出されるのにさらに数時間かかり、救出後ナデシコの仲間達に再会し無事を喜び合ったそうだ。

 そして後日夫妻のもとに新たな子供が来たかどうかはまた別のお話し。





 さて、何はともあれ何とか今回は逃げ延びたハーリー君。
 勝利のその日まで残り29日!!



 


あとがき

 ハオ!どうも神薙です。狂駆奏乱華の第弐章第一節をお送りしました!

幽袮「こんにちは♪ 今回あんまり出番が無かったので、あとがきに出張って来た幽袮でぇ〜す♪」

 おう?! 何でこんな所に居るんだ、君は?

幽袮「出番が少なかったから。最後の一言だけじゃ流石にね……。それとも邪魔だった?」

 いや、全然そんな事は無いが……。でも出番に関しては基本的にそうだろ? 君追いかける側だし。あんまり出番が多いと色々困った事に……

幽袮「ふ〜ん。それじゃあ暫らくはここに遊びに来たげるよお兄ちゃん♪」

 おう、よろしくな。さて今回のお話しだが……

幽袮「何で第一節なわけ?」

 うぐ?! 本当はもっと短く済ますつもりが、細かい所が気になって色々書き込んでる内に気が付けばこの大きさに……。まだ書きたい事が有るので、いっそ別けてしまえと…。幸い章単位でお送りしてたし。

幽袮「まあ、お話しが膨らむのは良い事なんじゃない? これでもっと早ければ言う事無しだね♪」

 ぐはっ!! ど、努力します(涙)

幽袮「それにしても、シャトルのシーンで助かる二人って珍しいよね?」

 そうか? 多分誰かがどっかでやってるだろう。それよりも北辰だろ? アッサリ理不尽に消しちゃったし。どうすんだ?(ヲイΣ・д・)

幽袮「書いたのお兄ちゃんでしょ?」

 そうなんだが……、まあ、細かい事は気にしない様に。

幽袮「別にそれはいいんだけどね、わたしが困る訳じゃないし。それよりも、もうちょっと出番増やしてよ」

 努力はしよう!結果は分からんが……

幽袮「とにかく頑張ってよ、お兄ちゃん。 あ、わたしそろそろ行かなきゃ…」

 それじゃそろそろ終わりにするか。

幽袮「うん。それじゃまた次で会おうね♪」

 でわでわ、再見!

 

 

 

代理人の感想

「リフレェ〜〜〜ッシュッ!」で爆笑。

よほどストレス溜まってたんでしょうなぁ。

あんなのが上司だし(笑)。