ループ:1





さてさて、とうとう来てしまった。

何度目かは既に忘れてしまったがナデシコが建造されているドック。

今更、何の感慨も浮かばないが、それでも俺がこんな状態になってしまった原因のナデシコである。

複雑な心境になるのも仕方が無いだろう。



自慢じゃ無いが俺は自分が疫病神だと思ってる。

だが、それ以上にナデシコに関わったヤツラは不幸になってるのは気のせいか?

まぁ、戦争に関わること自体、厄介事を背負い込むものだから仕方が無い。

ん、待てよ。

そもそもプロスが詳しい説明もしないで民間人をスカウトしまくったのが悪いんじゃないか?

むむっ、プロス・・・結構、いや相当の悪人だな。

そうして俺は苦笑しつつドックへと入って行った。







プロスから渡された紹介状を見せるとすんなりナデシコのドックへと入り込む事が出来た。

俺が到着する前に届けた荷物でひと悶着が有ったが、プロスの許可は貰ってある。

それを理由に強引とも言える方法で納得させた。

流石に黒一色、その上バイザーで顔を覆っている危なそうな人物に強く文句は言えないのだろう。

あれ以来普段着と化しているこの格好に色々とお世話になりっぱなしだ。

防弾、防刃、耐熱、対冷・・・・うむ、完璧だねこりゃ。

しいて難点を言えば、街中でこの格好が目立つぐらいか。

最初のうちは警察に呼び止められたら穏便に弁解をしてたんだが、最近は面倒になってちょちょいと眠ってもらっている。

うーむ、自分では良識人のつもりなんだが・・・結構あくどい事してるなぁ。

まぁ、裏の職業についてる時点でまっとうな人間だとは言えないか。



おっと、色々考えてるうちに俺の足は自然と格納庫に向いてた様だ。

荷物の関係で俺は早めにナデシコに乗ったから、ヤマダ・ジロウは居ない。

いや、ここは敢えてダイゴウジ・ガイとでも呼んだ方がいいか。

わざわざヤマダと呼んで遊んでやる必要はない。

アイツはヤマダと呼ぶとうるさいからなぁ。

うん、そうしよう。

ヤツはダイゴウジ・ガイ、それでいいじゃないか。



ガイの印象はエステで転び足を折った以外に殆どない。

あの強烈なインパクトでガイの印象は決まったようなものだ。

可哀想だが俺にとっての認識はそうなっている。

自業自得だろうし問題無いだろう。

そんな事より俺には重要な用事があったんだっけ。



そう、俺の荷物が格納庫に届いているはずなのだ。

荷物といってもこんな物、普通のヤツは持って無いだろうなぁ。

とか考えてるうちに懐かしい声が聞えた。



「なんだぁ?

 誰だよこんなエステ置いたのは、聞いてねぇぞ。

 しかも何だこりゃ。

 欠陥品もいいところじゃねぇか。

 これを解体して直せってぇのか?」



ウリバタケ・・・それは俺の機体なんだけど・・・。

しかも俺の相棒を欠陥品扱いかよっ!

俺は顔をしかめつつウリバタケに近寄った。



「ああ、それ俺のだ。

 欠陥品とは言ってくれるなぁ。

 これでも一応、性能は良いと思うんだが。」


「ああ?お前誰だ?

 お前のエステって事は・・・お前パイロットか?」



俺の格好にめちゃめちゃ訝しげな顔をしながら、ウリバタケは答える。



「まぁ、そんなところだ。

 俺はテンカワ。

 このエステは個人所有の物だから勝手にいじらんでくれよ。」


「馬鹿言ってんじゃねぇよ。

 ディストーションフィールドも無けりゃ、重力波ビームの受信機構もねぇじゃねぇか。

 こんなエステ見たことねぇぞ?

 悪りぃようにはしねぇ、普通のエステ並に直してやる。」


「いや、良いんだって。

 これが俺にとって一番扱いやすいんだから。」


「おいおい、冗談も大概にしとけよ?

 こんなエステに乗るのは自殺行為つぅもんだ。

 第一、DFが付いてねぇエステなんてエステとは呼ばねぇぞ?」


「そりゃぁ、個人で手に入れたエステだ、安物しか買えないって。

 俺が必死の思いで手に入れたエステなんだから、これでいいんだ。

 それに言っただろ?

 俺にとってはコイツが一番使いやすい。」


俺の言葉を聞いて何か考える事が有ったのか、ウリバタケは黙ってしまった。



「ん?

 どうした?」



そこで何かをひらめいたようにウリバタケはニヤリと笑う。



「ふっふっふ。

 そうか分かった、分かったよ。

 そりゃ、苦労して手に入れたエステだ。

 相当な愛着があるんだろう?

 お前も俺と同類か・・・。」



ちょっと待て。

今、何か妙な発言をしなかったか?

俺が反論をするよりも速く、ウリバタケは言葉を続ける。



「お前のエステはいじらん・・・が、お前用の予備機は用意しとくからな。

 出撃する時はこのエステは使うなよ。

 目の前で死なれちゃ目覚めが悪くなっちまう。」



ぬぅ・・・まぁ、いいか。

不当な発言は今回だけは聞き流してやろう。

あくまでもウリバタケは俺のエステを欠陥品だと思ってるらしい。

それで普通のエステを準備するという訳か。

それこそ無駄だと思うんだがなぁ。

俺はこの機体以外に乗るつもりないから。



「まぁ、考えておくよ。」



ウリバタケが納得していないようだったが、俺は言葉を濁して格納庫を後にした。







俺が次に出向いたのはプロスの部屋だった。

なにやら端末を使って仕事をしているようだが、何故か片手でそろばんを弾いている。

一体何をしてるんだプロス・・・。



「おや?テンカワさん、随分お早いですね。

 確か乗船はまだ先の予定でしたが。」



俺が不思議に思っていると、プロスは仕事が一区切りしたのか俺の方を向いた。

俺は何故そろばんを弾いていたのかを聞きたいのを堪え、プロスの質問に答える。



「いや、なに、俺の荷物が届いてるか確認するためだ。

 それになんだぁ?あのウリバタケって整備士は?

 人のエステを勝手にいじろうとしやがって。

 どんなクルーを雇おうと俺の知った事じゃ無いが、俺の物に勝手に触らんように言ってくれ。」


「いやはや困りましたな。

 性格はどうであれ、彼の腕は一流ですよ?

 ・・・。

 あ、名案が有ります。

 この機会にネルガル製のエステをご購入しては如何です?

 一応、ネルガルと契約して頂いてるテンカワさんにはお安くしますよ。」



こっ、こいつ。

まったく・・・商売しか頭に無いのか?



「ささ、これぐらいでは如何です?」



早速、金額を打ち込んだ電卓を俺の目の前に突き付けた。

ってか、近過ぎで見えねぇっての!

全くこれ以上無駄な話には付き合ってられん。

俺はプロスの勧誘を手で制し、話を本題へと戻す事にした。



「その話は遠慮しておく。

 で、聞きたい事があるんだが。

 俺の部屋は準備出来てるか?」



もちろんコミュニケも貰う必要があるのだが、本来は知らないはずの物だ。

とりあえずは艦内での生活について聞けば何とかなるだろう。



「えー、申し上げにくいのですが、テンカワさんの部屋はまだ準備が出来てませんのです。はい。

 空き部屋は有ることには有ります。

 ですが生活用品や家具などが、まだ届いて居ない状況でして。」


「いや、構わんぞ。

 俺としては寝る場所さえ確保できれば問題無い。

 贅沢を言わせてもらえれば、一人部屋にして貰えると有り難いんだが。」



俺の言葉に少し考える素振りを見せたプロスだったが、答えは決まってるのだろう。

既にナデシコに乗り込んでいるヤツの部屋は準備が出来ているはずだ。

その状態で俺の部屋が無い。

となると、まだ乗り込んでいないパイロットに当てられる部屋しか空いてないだろう。



「分かりました。

 それではテンカワさんに生活班ではなくパイロットの個室を使って頂きましょう。

 最初からナデシコクルーの警護及び予備のパイロットとして働いて頂くつもりでしたから。」


「そりゃ有り難い。

 それで、俺の部屋ってのはどこだ?」


「あ、忘れてました。

 テンカワさん、これを使って下さい。

 これはコミュニケと呼ばれる物でして、クルー同士の通信や簡易式ナビゲートシステムが内蔵されてるネルガル自慢の新製品です。

 もちろん一般向けの製品では有りませんけど。

 これで部屋を検索すれば見付かりますよ。

 それとこれはセキュリティーカードです。

 パイロットが出入り出来るレベルのカードですから。」



よし、予定通り。

受け取ったカードを懐にしまう。

コミュニケを腕に付け、早速慣れた手つきでコミュニケを操作した。

俺の部屋はエステのハンガーとブリッジの丁度中間辺りだ。

食堂が近いのも有り難い。

色々、情報を引き出していると、プロスが俺に訝しげな視線を向けてる。



「・・・随分と簡単に扱いますねぇ。」



まずい・・・一応、初めて使う物だった。

それなりにてこずってる様に見せかけた方が良かった・・・。



「・・・俺も似たような物を使ってたからな。

 ほ、ほら、GPS・簡易端末内蔵の時計があるだろ?

 それと同じようなもんさ。」


「まぁ、そうですねぇ。

 私のような"おじさん"にはそういう物に弱くて参りますよ。

 使いこなすまでに苦労したものです。」



言葉では納得してるように聞えるが、プロスは疑問に思ってるだろう。



「それじゃ、俺は新しい自分の巣を見てくる。

 必要ならこれで連絡が取れるんだろ?

 何かあったら連絡をくれ。」



俺は逃げるようにしてプロスの部屋を後にした。

プロスの部屋を出て、自分の部屋に向かいながら俺は気を引き締める。

同じ事を何度も繰り返すのは、確かに有利だ。

だが、今みたいな既に経験したが故の失敗をしやすい。

・・・まぁ、いいか。

バレたっていいし。

でもなぁ・・・死ぬのは嫌なんだよなぁ。

だって死ぬほど痛いし。

って、そりゃ死ぬからか。



そうこう考えてるうちに、割り当てられた部屋に到着した。

内装は・・・なんだ充分じゃないか。

今まで住んでた場所が場所だけに、有る程度の空間とベッドさえあれば文句は無い。

早速、俺の持ち物であるアタッシュケースをその場に置き、ベットに横になる。

今までのベッドより、戦艦に備え付けられたベッドの方がふかふかで寝心地が良いのがちょっとだけ悔しかった。



「さぁて、これからどうするか・・・。」



ベットを背中に馴染ませる様に何度か寝返りをうつと、これからの事に頭を悩ませる。

俺が呟いた言葉の本当の意味は誰にも理解出来ないだろう。

"今回"はどうするべきか・・・。

今回は流石にちょっと稼ぎすぎたからなぁ。

エステを自由に乗り回したいからって・・・やっぱまずかったか。

前回は戦争には関わらず平穏に暮らしたのだが、既に俺にとってエステに乗るのは空気を吸うのと同じぐらい当たり前の事になってしまった様だ。

もちろんそれは戦闘も同じ事であり、俺は一種の戦闘狂になってしまったのかもしれない。



あ〜、やめやめ。

俺は懐から取り出した煙草に火を付け気分を切り替える。

大事なのはこれから何を楽しむかだ。

うん、それが大事だ。

肺一杯に紫煙を吸い込むと、ちょっとだけ気持ちが落ち着く気がした。



煙草がちりちりと心地よい音を立てる。

都合の良い事に蜥蜴はまだ攻めて来てない。

静寂。

少しは空調の音がするが気にする程ではない。

暫くの間、俺はぼーっとした時間を楽しむ事にした。







「むぅ、テンカワは今の所おとなしくしているようだ。」



余り使い慣れない端末を操作しながら俺は呟いた。

やっている事は艦内の警備と言う名の監視だ。



「ええ、彼なら大丈夫ですよ。

 プロ中のプロです。

 お金を払っている限り契約した内容を破棄する事は有りません。」


「しかし・・・テンカワの素性は余り判って無いのだろう?」



俺の心配を余所にミスターは余りにも楽観している、いやテンカワを信じている。



「いえ、念の為に一応調べました。

 彼の口からは教えて頂けませんでしたが、彼が請け負った仕事の経歴は大体判別出来ましたから。

 もちろん自分の口から雇い主の情報を漏らす様でしたら"何でも屋"としては考え物ですが。」



むぅ、そういう事は早く言って欲しかった。

俺のやっている事は無駄ではないか。

俺は顔をしかめるのを何とか堪え、出来るだけ無表情でミスターに問う。



「それでは何処からテンカワの素性を?」


「ほら、この前スカウトしたオペレーターのホシノさん。

 彼女に頼みまして、ちょちょいと調べてもらったんですよ。」


「・・・ミスター、それは犯罪ではないのか。」


「いえいえ、バレなければ犯罪ではありません。

 証拠が無ければ訴える事も出来ませんから。」



ミスターはにこやかな笑みを浮かべ言いきった。



「幾らテンカワさんがいくら優秀で仕事の痕跡を残さなくても、依頼主がお金の流れを管理出来て無いと意味が有りません。

 それどころか依頼主のホストコンピューターに残っていた情報も有りましたし。

 まぁ、それだけホシノさんの腕が良いと言う事ですか。

 テンカワさんを監視するのも良いですが、私は彼女の方が怖いですよ。

 ネルガルも気を付けないといけませんねぇ。」



笑顔で口振りも冗談めいているが、ミスターの本心は読めない。

軍人出身の俺から見てもミスターの実力は謎に包まれている。

現に俺はミスターに隠し事をする自信はない。

そのミスターがこう言うのだ。

幾らテンカワが素性の知れない何でも屋だとしても契約を破る事はないと思って良いだろう。

俺は素直に端末を終了させた。







「あぁぁぁ、暇だ・・・・。」



誰も聞くヤツは居ないが、俺は言葉通り余りにも暇なのでつい独りごちる。

日々平穏、それは確かに良い言葉だが、逆に言えば何も無い毎日と言えるだろう。

それから抜けるのを覚悟してナデシコへ乗った訳だが・・・。

蜥蜴の襲撃も無く、ただ待たされるのも慌しいのを覚悟してただけに暇だ。

3本目となった煙草をダストシュートの角で消し、思い付いたように持って来たアタッシュケースを開ける。



そこに詰められているのは、代えのボディースーツと武器類。

もちろんプロスさんの許可を貰ってるから問題なしと。

これらの手入れは俺の日課になっている。

どんな時代になっても武器はマメな手入れが必要なのは変らないだろう。

いざと言う時、自分の命を預ける物なのだから。



まず俺はUSPと呼ばれるハンドガンから手を付ける。

何やら聞いた話では随分古い歴史が有るらしい。

そのスジの店で骨董品扱いされていた物を偶然にも手に取り、気に入って使い続けている。

俺の手に馴染むと言うべきか、まさにピッタリと言う表現が正しいだろう。

もちろん骨董品をそのまま使っている訳ではない。

パーツ毎に同じ物を作って貰い、新しい物として生まれ変わったのがコイツだ。

もちろん素材となる合金が作られた当時とは比較にならないぐらいの強度を持っている。

その結果、そこら辺で手に入るハンドガンよりかなり高い精度を誇る銃となってしまった。

もちろん精度が高いのは助かるのだが・・・その分、金がかかったのが痛い。

それでも気に入っているのだから文句は無いか。



俺はまず既にオイルで黒くなってしまっている布を広げた。

その上でパーツ毎に分解し、スプレー式のオイルを丁寧に吹きかけながら逆の手順で組み立てる。

馴れた作業だが手は抜かない。

組み立てた段階で、片目を瞑りながらフレームと照準を正面に向け簡単に確かめた。



「よし・・・。」



次にボール紙で出来た箱に並べられて入っている弾丸を1発づつマガジンに入れる。

3マガジン分詰めるのは結構手間だが文句は言ってられない。



チャリ、チャリ、チャリ・・・。



暫く室内には単調な音が繰り返し響く。

単純作業なのだが硬い金属がぶつかる音が、俺のお気に入りでもある。

だからだろうか、気付くと4マガジン目に取りかかろうとして手が空を掴んだ。

いつの間にか終わってたらしい。



「ありゃ?」



俺は間抜けな声を出してしまった。

誰も見てないのに恥ずかしくなり辺りを見まわす。

俺はコリコリと頭を掻いて、何も無かった様に作業を続ける事にした。



マガジンを抜いた状態でスライドを引く、もちろん弾が空だからスライドは戻らない。

その状態のまま薬室に1発の弾丸を込めてスライドレバーを戻す。



チキンッ・・・。



心地よい金属音を立ててスライドが戻る。

最後にマガジンを挿入してメンテナンスは完了。

もちろん撃鉄は起こしたままで、セイフティーをオンにする。

こうする事で通常より1発多く弾を装填する事が出来るのだ。

この1発で命を分ける事が有るのだから馬鹿にならない。



ハンドガンの手入れはこれで終わり。

だが、まだナイフが残っている。

ナイフと言っても俺が使うのは2種類有り、全長15cmぐらいの投げナイフと刃渡りが35cm近くも有る小刀じみた物だ。

投げナイフは3本。

これも長く愛用してる方だと思う。

何故なら・・・投げても拾うから。

武器を現場に残してくるのは敵にこちらの攻撃手段を知らせることになる。

ただ単に、俺が貧乏性なのかもしれないが・・・。



まぁ、ハンドガンに比べてナイフの手入れは簡単だ。

日本刀みたいに刀身が薄い訳でもなく、刃零れも殆どしない。



以前ナイフを購入した時の事をぼんやりとした頭で思い出す。

刃物を扱ってる店の主人に日本刀を勧められた事が有った。

だが、俺にはあんな物を実戦で使うヤツの気が知れない。

第一、使える地形が少なすぎる。

建物内でも振り回せない、森では木が邪魔だし・・・何処で使えって言うんだ。

だだっ広い地形だったら囲まれて有無を言わさず蜂の巣だろう。

今度は刃物用の布で投げナイフにオイルを塗り終わって、自分がくだらない事を考えてる事に気付いた。



もっと真面目に手入れをしないと危ない。

最後に残ったのは刃渡り35cm程のナイフだ。

コンバットナイフと言うには厚みが足りないかもしれないが、刃の逆には立派にノコギリの様な部分が有る。

これも特注で作ってもらった物で、使われてる合金にはレアメタルが含まれてるそうだ。

値段も高かったが、それに見合って剛性が高い。

それこそ手入れなんかしなくても刃零れすら起こさない程。

だが、それでも手入れを欠かす訳にはいかない。

俺は綺麗に布でオイルを薄く塗り、黒い皮の鞘に収める。



「ふぅ・・・。」



武器の手入れを終えたら退屈だった心が何故か落ち付いているのに気付く。

俺って武器依存性?

俺は嫌な考えを消す様に頭を振る。

俺は刃物を眺めてにやけるような趣味は無い!

そう自分に言い聞かせて武器を普段付けている場所に装着した。

いつものコートを着ていれば持ってる武器は全て隠せる。

その意味でもこの黒いコートは有り難い。

とりあえず、これで今日の日課は終了っと。



さぁて余った時間はどうするか・・・。

第一候補に挙がったのは惰眠を貪る事。

確かに俺にとって至福の一時である。

だが、たった今装備した物を外して寝るのも勿体無い。

俺は暇つぶしの場所を少し考えた。



む、名案が浮かんだ。

今日は朝から飯を食っていない事を思い出したのだ。



「腹が減っては戦も出来ぬって言うからな。」



俺は装備のおかげで10kgは増えた体重で食堂に向かった。







目の前にいきなりウィンドウが開いて私はびっくりしました。

もちろんすぐにオモイカネからの報告だと気付いて落ち付きましたが・・・。

報告の内容を読んで落ち付ける状況では無いのを知り、急いで現在の最高責任者であるプロスさんに報告をします。



「プロスさん、敵襲です。

 現在、地球連合宇宙軍が迎撃体勢に入ったようです。」



プロスさんが焦っているのを初めて見ました。

それだけ状況が悪いということでしょう。

このままナデシコが沈められて私も死ぬのでしょうか。

私はいまいち死ぬと言う事を認識出来ずにただ淡々とプロスさんに現状報告をしました。







久々にホウメイさんの飯を食えると言う事もあって、俺の足取りは軽かった。

何しろ最近ろくな物を食ってなかったから。

今日の朝は携帯固形食料だろ・・・昨日の夜はカップラーメンだろ・・・その前は・・・。

いや考えるのはやめよう。

ろくな食生活をして無いのも確かだが、そんな事よりホウメイさん以上の料理を食える機会なんか滅多に無い。

俺の足取りも軽くなるはずだ。



その現状を知るまでは・・・。



突然、コミュニケが振動する。

誰かからの通信だろう。

だが、俺は目の前に旨い食い物が待っている状況で、通信に出てやるほど人間が出来てはいない。

軽く無視して食堂に向けて歩き続ける。



・・・。



しつこい・・・。

俺がコミュニケを捨てようかと一瞬迷ったその時、艦内の明かりが警告ランプに変った。

艦内は耳障りな、けたたましい警告音に包まれる。



「おいおい、冗談だろ?」



人間、信じられない状況に陥ると笑うものだ。

俺もそれに漏れず引き攣った笑いを浮かべながらコミュニケの受信ボタンを押した。



「テンカワさん!何してたんですかっ!?」



珍しいプロスの怒鳴り声。

それを聞いて俺の顔はますます引き攣っているだろう。

プロスは俺の答えを待っている。



「・・・蜥蜴か?」



プロスはズレた眼鏡を人差し指で直しつつ、なんとか平静を保とうとしているらしい。



「そのまさかです。

 宇宙軍が迎撃してますが・・・時間稼ぎになるかどうかも怪しい所でしょう。」


「・・・ナデシコの状況は?」



現状は分かっているが、確認したかった。



「艦長の乗艦予定は3日後でして・・・現在、ナデシコは最低限の機能しか使えません。」


「つまりこのままじゃナデシコはただの棺桶って事か?」


「只今、艦長に連絡をして至急こちらに向かって頂いてるのですが、最低でも2時間は・・・。

 それでナデシコで唯一IFSを持っているテンカワさんに時間稼ぎをお願いしたいのですが。」


「・・・敵の数は?」


「それが現在も増加中でして・・・不明です。」



プロスも言いにくそうだ。

エステ1機で最低2時間、数え切れない程の敵を相手にするってのか・・・。



「俺に死ねと?」



俺はこれ以上無いほどの笑顔で、にっこりと微笑みながらプロスに返事をする。

流石のプロスもこれは効いた様で黙り込んでしまった。

これ以上話してても状況は悪化するばかりだ。

プロスに愚痴をこぼしてても仕方が無い。



「・・・分かった。

 とりあえず出撃する。」



俺の言葉に驚いたのかプロスは目を丸くしている。

だって仕方ないだろうが・・・俺だってやだっての!

でも・・・いざとなったら一人で逃げてやる!

俺はちょっぴり暗い考えをしながら全速力で格納庫へ向かう。



「そっ、そうです!

 テンカワさんはネルガルと契約をしているんですから!

 最低でもクルーを避難させる時間は稼いで下さい。」



おいおい、プロス・・・やけになってないか?

この状況じゃ当たり前か。



「ちくしょぉ!何で俺がこんな目に合うんだよっ!」



俺は情けなくも泣きそうな声を出しながら全力で走る。

途中、食堂を通り過ぎた時に俺は思った。

"腹が減っても戦はさせられる。"



「ちっくしょぉ!ちっくしょぉ!」



情けないがこんな状況じゃ泣き言も出るってものだ。

俺は自分の不幸を呪いながら格納庫へと急いだ。







うるさい嫁と離れて自分の夢に没頭出来ると思って乗ったナデシコ。

その夢はナデシコが飛び立つ前に終わってしまうだろう。

艦長が不在で殆どの機能を眠らせたままの状態で、敵が目の前に居るのだ。

一介のメカニックに過ぎない俺でも絶望的だって事は分かる。

その時俺は見た。

人とは思えないスピードで足音も立てずに滑る様に迫ってくる黒い人影。

こんな状況だからか、俺は思ったね。

ありゃ死神だって。



だが・・・俺は今置かれて居る状況よりもその人影・・・テンカワに驚かされた。

何せヤツが走り寄って来たと思うと。



「・・・エステ貸して下さい。」



なんて言いやがったからだ。

しかも半泣きの状態で。

確かコイツパイロットだよな・・・。

最初見た時は余裕と言うか、貫禄と言うかそんな雰囲気を感じたんだがアレは見間違いだったのか?

どう見ても臆病者・・・いや、パイロットって感じがしねぇぞ。



「お前・・・テンカワって言ったよな?

 エステをどうするきだ?」


「敵を食い止める以外に何があるってんだっ!」



おおっ!?逆ギレしやがったぞコイツ。

何か関わりたく無いタイプだな・・・格好も怪しいし。



俺はとりあえずこれ以上関わり合いたく無い一心で、視線を逸らしながら親指で後に置かれてあるピンク色のエステを指差す。

それを見たテンカワは異常に素早い身のこなしで、エステに乗り込んだ。



「ちくしょぅ・・・ちくしょぅ・・・。」



乗り込む寸前に聞えた呪いのような言葉は聞えなかった事にした・・・。

そりゃまぁ、こんな状況で出撃しろなんて言われたら泣きたくもなるか。

俺はちょっとだけテンカワの認識を改めて、せめて激励してやる事にする。

絶対に手伝わないけどな。



「死なない程度に頑張れよぉ〜。」



俺達が逃げる間、時間稼ぎをしてくれれば問題無いからな。

俺はメカニック。

エステを完全なコンディションに整備するまでが俺の役目なのだ。

戦うのはパイロットだ。



「俺達が逃げるぐらいは時間を稼ぐんだぞ〜!」



そう言った瞬間。

ギンッ!っとエステが目を光らせて俺を見やがった。

おおっ!?こえぇ・・・。

俺は敵に晒されてるこの状況よりも、あのエステに恐怖を感じてしまった。



「あ、いや、やばくなったら逃げるんだぞぉ〜。」



俺が言い直すと、渋々といった様子でエステが搬入用リフトに乗り込む。

そしてすぐさま飛び立ってしまった。

文字通り飛んで行った、ブースターを思いきり吹かして。

俺達整備員は離れてたから噴射熱にやられなかったものの、近くに居たらかなりヤバかった。

何しろ俺達は遠くに居たのにも関わらず、突風で床に尻を付いてしまっている。



「何だったんだ・・・アイツは・・・。」



俺の言葉は回りの整備員一同の心境を代弁したに違いない。

俺達はテンカワの行動によって、敵に囲まれている状況を忘れてしまっていた。







後書きと言う言い訳のコーナー

はい、お馴染みとなってしまったこのコーナーです。(なってません。)
前回と今回の前半を見て『おおっ!?アキト君が強くてカッコイイ!』とか思ったそこのアナタ!
それは違います(笑)
結果はご覧の通りです。
敵を前にして半泣きのアキト君、原作では近い物がありましたが泣いて無かったはずです。
さてこれからはどうなるでしょう?
私にも分かりません(苦笑)

代理人さんの洗礼によってMアキト君が目覚めてしまったのかもしれません(違
ああっ、今回は一体どんな"お仕置き"が待っているのでしょうか。
皆さんからもお仕置きメールをまってます。
私もドキドキです(笑)

 

 

代理人の叱咤(・・・・・・恒例にするつもりか?)

いや、Mに目覚めたのはアナタでしょう(爆)。

アキトじゃなくて。

 

 

で、今回の叱咤ですが・・・・・

極々基本的なてにをはのケアレスミス以外はさほど目立つ物はありませんでしたね〜。

ご期待に応えられず申し訳ない(爆死)。

 

 

しょうがないので行数稼ぎに感想でも(オイ)。

 

アキトくんがプロフェッショナルぽかったと思えば妙に情けなかったり。

やはりアレですか。

人間そう簡単には成長しない

所詮アキトは貧弱なボウヤとしてしか生きられないと、そう仰りたいんですね(爆笑)。