「……ふぅ」
 ふと思わず溜息が洩れる。
 溜息の分だけ幸せが逃げていくなどとは、誰が言った言葉だったろう―――


「……」
 やや前方に立つ黒い士官服といった姿格好の男が、小さく身じろぎをした。
 そんな格好の男など、ここには一人しかいない。
 アキトだ。


「……艦長。もう少し、ソフトに話し合えなかったのですか?」
「…向こうは初めから交渉する気は皆無だったようですが―――やはり、そうなんでしょうか……?」
 自分の、アキトを挟んで反対側にいた男―――プロスペクターがやんわりと何処かとりなす様に言い。
 答える際、アキトはそれまでの硬質なものからやや表情を和らげた。




(この場合、どちらの言い分が正しいのやら――――)
 まあ……あんなのが相手では何とも言えないが。
 先程まで通信ウィンドウに映っていた相手―――連合軍の参謀総長だったか? どうでもいい事だが―――を思い出して、つい顔を顰めてしまう。


 ―――当初は、交渉を行なう筈だった。事前に軍等へ根回しをし、その予定通り火星に向かうとはいえ、軍のいざこざが起きたばかり。まあ、此方で捉えた手札―――在り来りながら、醜聞とか言われるモノだ―――で、早い所地球から出たかったのだが。


 その際に出た参謀長の言葉が、
『何故火星にナデシコのような戦力をやらねばならん』
 ―――だった。


 意識して言ったか言わないかはどうでもいい。ただ、そんな言葉が出てくる時点で、火星への認識が窺えると言うものだ。

 結果、アキトの怒りが一時的なものながら沸点に達した、と。


 これまでの経緯で連中の事など殆ど見限っていたが、彼等の思考は予想以上だったという事か。無論―――悪い意味で。

(……軍が腐ってるのは知ってるけれど……相手が相手だったと言うか―――、……まあ、アキト君が怒るのも無理はない……わね……)
 アキトの軍人嫌いの一端はここら辺にあるのだろう、とも思う。

 こっちはその台詞を聞いた時、アキトの眼に一瞬殺気が浮かんだのを確かに感じてしまっていた。
 その時間近にいたプロスペクターやゴートにしても同意見だろう。

 時期を見て彼等との和解に至るのは、既に計画内に折込済みだが、
 アキトの感情がなまじ解かってしまっただけに、すぐ側にいる人間としては、見当違いだとしても彼等に鬱屈とした感情を向けてしまいそうだ。

 かといって交渉が思いっきり決裂したのは誰の目にも明らかだった。
 いっそのことプロスペクターに任せておいた方が良かった気もするが、どっちにしろ結果は似たり寄ったりな気がしないでもない。

 ―――そういえば、この後の処理は誰がするのだろうか?

(私以外で、だから……、あのアホは論外。……じゃあレンね―――)
 どこかの誰かの顔が浮かんで一瞬で切り捨てられ。
 すぐさま、滅多に表情の揺らがない女性を思い浮かべる。
 彼女の的確にして堅実な実務能力なら、まあ何とかなっている事だろう。

(まあ、頑張ってもらわないとね――――)
 今頃本社で遣り繰りを算段しているであろう人物二人を、今ははっきりと思い出し。
 他人事の様に付け加える。


(―――次の防衛ライン、どうする気なのかしら……?)
 と。
 エリナは表情を変えぬままに思考を切り替えた。






 ―――ナデシコは現在、大気圏突破の為に上昇の真最中である。










機動戦艦ナデシコ  もう一度逢う貴方のために

第8話 Aパート











 高度が次第に上がっているナデシコ。
 対していくらかの時間差でミサイルが飛んでくるものの、ディストーションフィールドを前にしては、あまり効いた様子は無い。
 艦内でも少し揺れるくらいの変化しかなく、主だった被害も整備班と生活班にある―――仕事中に鬱陶しいと思うか、ちょっとしたミスをするくらいだろう。

 そんなナデシコのブリッジでは、既に主だった面々がいる。


「さて、もうすぐ第四防衛ライン。…アキト君、どうするの?」


 地球に張られた六つの防衛線。
 それは幾重にも張り巡らされた代物だが、実質些か心もとない。
 既に降りてしまっているチューリップはもとより、そうでなくてもディスト―ションフィールドを纏い、重力加速を利用して落ちてくる相手には薄紙同然の代物なのだから。

 ただ、内側から出ていこうとするナデシコには効果がある。
 だが。

「…でも、おかしいわね? 第五、六次防衛ラインが機能していない……」
 別枠の画面には軍の動きを出しているのだが、どうにも動きが鈍い。

 機能していないわけではないのだろう。さっきからその相手が此方へと行動を起こしていたのだ。―――してはいたのだが。

「……各地のチューリップが再起動したんだろう」
 え。とエリナの目が丸くなる。
 続けて、
「…軍が大規模な行動を起こしたんで、それに釣られたな」
 エリナはその言葉を聞くと、ふとした考えが浮かんだ。

 アキトの方を見る。
 ―――先程のような雰囲気は消え、何処か面白がるような物すら窺えた。




「……確信犯?」
「……さて」








 ◆◇◆




 同時刻。
 宇宙ステーション『さくら』では、スクランブル態勢が整いつつあった。


「…ナデシコ、ねえ……?」
 これからデルフィニウムに乗る事になるパイロットの誰かが気の抜けた声で呟いた。
 さもあらん、と誰かが苦笑した。

「どうするんスか? 隊長―――」
 そんな事を言って誰かが陰鬱気味に、背後にて佇む男へと訊ねる。

「何がだ?」
 隊長、と呼ばれた男は己のしていた準備を一時止め、聞き返す。

「だって、ナデシコって一応、民間船ッスよ? 気が進みませんって、普通。適当に、ほったらかしにでもしときゃいーんじゃないすか」
「…上は面子が大事なのさ。誰より何よりも、な?」
 隊長であるその男は、一回り年下な部下の愚痴に浅く頷いた。
 表情にはたいして何も浮かんでいなかったが、口で何よりも雄弁に現状へのおおまかな感想を述べていた。

「でしょ? で、ナデシコにはネルガルお抱えの凄腕が乗っているってハナシだし、…ヘタすると俺達犬死にっぽいんですけど」
「……一応は、命令だ。さて―――行くぞ。時間だ」
 男の号令でその場に居た男達が動き出す。

 その際、愚痴っていた男が隊長に並ぶ。



「……宮仕えは辛いッスね――――」

「………全くだ。……辞表の準備をするべきだったか……?」
 






 ◆◇◆






【もうすぐ第三防衛ラインに入りま〜す】
 オモイカネが先んじて現在地点を出す。


「……」
 アキトは暫し黙考した。
 要は、自分も動くか、動かないかとの事だが。

 既にいつかの時のような事態ではないのだ。それにナデシコはビッグバリアの突破に備えて何の動きも取れない。
 だが、相手の機体は未だにデルフィニウムのままだ。イツキ一人に任せてもおつりが来るかもしれない。

 だからといって気を抜くわけにもいかないのだが。―――否、じっとしていられないのか。今の自分という人間は。
 己の中の、消える事の無い何かが微かに疼いている。


 もっとも、アキトが行動を示す前に、
「アキト君、格納庫に行くの?」
「ふむ。できればここで待機してもらいたいのですが……」
「……」
 ネルガル正社員三名からの注文が来たが。


「…いや、行きませんよ。パイロットの技術以上に、デルフィニウムとエステバリスのカスタムタイプでは―――――」
 基本性能に差がありすぎるだろう。
 それにイツキの機体は、射撃性能に関しては特化した機体であり、それに伴った電子機能も同じくして向上している。

 イツキ機による長距離狙撃を実行すれば、彼等がナデシコに到達するまでに撃ち落される事だろう。―――まあ、こちらから攻撃する訳にもいかないので、実際にはやる事は無いが。


 アキトがそう答えようとした時だった。

<―――アキトさん……!>
「……フィリアさん?」
 唐突にフィリアからウィンドウが開く。
 背景からして医務室にいるようだ。
 珍しく、少し慌てているように感じた。実際その通りのようだが。

「何か?」
<…ヤマダさんが医務室から脱走してしまいました……>
「……」
 途方に暮れている様子のフィリアの言葉に、アキトが沈黙する。
 同じく耳を傾けていたエリナやプロスペクター達にしても、頭痛を堪えているかのように渋い表情だ。


 そんな状況下ですぐに行動に移ったのは、沈黙を保っていたゴートだった。
「…リカルド」
<……あ?>
 無骨な呼び出しに、仕事中だったリカルドが顔を出す。

「……パイロットのヤマダがそっちに向かった筈だ。……手段は問わない、あの馬鹿を止めろ」
<……まあいいけどな。
 …おーい、タナカ、班長呼んで来い。で、ヤスダさん。ちょっと面子集めてこっち集合――――>

 ウィンドウの先で、リカルドが人を集め出し始めた。


 アキトがバイザーを片手に玩びながら、やけに深い息を吐く。

「……やはり、行って来ます。
 どうせビッグバリアを抜けるまでやる事有りませんし……」
<あ。そりゃあ駄目だ>
 アキトの動きを遮る様にウィンドウが大きく開き、再度リカルドが現れる。

「…何故です?」
<お前の機体は整備で分解しちまってな。直すのにあと数分少しはかかるか―――>

「その必要は、まだ無かったと思ったんですが?」
<機体剛性のデータ取りとか兼ねてる。……前にも言ったろう。お前の乗る機体そのものの負荷はこっちとしちゃあ見逃せねーんだよ。
 ―――つーか、アキトよう。ここは一つカザマに任せておけや>






 ―――格納庫。
 イツキは既に自分の機体内で待機中。シート周り等のちょっとした調整をしつつ、出番が来るのを待っていた。
 既に機体は半分起動した状態で、待機している格納庫の状態も垣間見る事が出来る。

「……?」
 不意にモニターに移った光景に、首を傾げた。
 妙に整備班の様子が慌しくなっていたのだ。交戦時だから、というのとは少し違うような―――

 加えて、それとは別方向から、見るからに怪我人という男が、ぎこちない足取りでひょこひょこピンク色のエステバリスに向かって歩いていたが。

 その後ろから、
 整備班の服の上にツナギを着た男が音を立てない様に駆け寄るという真似をしでかしつつ、やってきていた。

 ツナギを纏う整備班の男は二人のみだが、この男は―――


「……あ」


 そして、男―――リカルドは怪我人に向かって、やけに堂に入った浴びせ蹴りを放った。
 ―――怪我人が大袈裟なくらい派手に吹き飛んだ。
 音声を拾っていれば、さぞかし盛大な音の羅列が聞けた事だろう。

 そのまま手早く合図すると、他の整備員が担架やらロープらしきものを手に集まり出し、そのまま怪我人を連れ去って行ってしまった。


「……」
 僅かな時間で起きた、目と鼻の先での出来事に暫し唖然としていたが、ウィンドウの向こう側からルリが声をかけてくる。

<イツキさん。そろそろ出番だそうです>
「…あ、ルリちゃん。……今、整備班の人達が何かやってたんだけど」
 ルリは僅かに首を傾げた後、頷いた。
<そうみたいですね>
「何かあったの?」
<さあ? よく、わからないです>
 実の所、ルリは一連の出来事を見物していたのだが、その時は首を傾げるしかなかった。いつものように「バカばっか」とか言い出さない辺り、本気でよく解かってないようだ。

「…ふーん」
 イツキはそんなルリの答えの内側に気付いたのか、少し困ったような表情を込みで微笑した。本人が目の前にいたとしたら、思わず頭でも撫でていたかもしれない。

<……?>
 ルリがイツキの微妙な表情に疑問符でも浮かべたような仕草を見せるが、イツキは内緒だと言いたげに一つ微笑をして、意識を機体の方に向ける。
 手の甲に浮かぶIFSが輝き、機体が駆動を開始する。


「……では。イツキ・カザマ、行きます―――」
 イツキの駆るエステバリスのカメラアイに光が灯った。








 ◆◇◆








 ある、ステーションが其処には存在している。
 其処は他のステーション―――例えば『さくら』と同じような、一部の防衛ラインの火器管制を役割に持っていた。
 そう。「だった」のだ。

 その場所は今、辺り一面を覆う紅の世界のもとに、その機能を停止させていた。


「―――」
 男が一人、立っている。
 白髪の男だ。とはいっても年老いているわけでもない。
 人並み以上には整った顔立ちを、白い、背にまで届くぼさぼさの髪が、途切れ途切れに見えなくさせていた。


「――」
「…………ッ―――――」
 たった今、この場所にいた、白髪の男以外の人が全て息絶えた。
 男がそれを成したのだろう。身に纏う元は白かったであろう制服が紅に染まりきっていた。腕といわず脚といわず―――紅く。
 男がそれまで歩いてきた道順を見直せば、更なる“紅”を垣間見ることだろう。無機質な空間に、鉄錆のような生臭い匂いが漂っていた。
 そしてその空間の中、男は無貌のままだった。

 男はこの地に踏み入れてから、ずっと歩き止める事無く続けてここに来ていた。そうして今、目の前にあるのは巨大なスクリーンの類とコンソール等。このステーションの存在理由の塊のような場所、管制室だった。

 暫しそれを眺め―――、

 やがて。男はつい今頃になってやり方を思い出したかのように、表情を浮かべた。
 笑ったのだろう。頬を動かし、唇を吊り上げたからには。


 しかし、

 その笑みは、とても、とても、とても―――――


 歪つ過ぎて見えた。








 ◆◇◆








「でぇぇぇぇぇひぃゃぁぁぁあああ――――っ!?」
 自分でもよく解からない声で男は絶叫した。
 男は久しく味わっていなかった恐怖に襲いかかられていた。
 否―――、男達は、と言うべきか。

「隊ぃ長ぉぉっ、こりゃダメッスよ、死にますって――――――!?」
<――泣き言なら聞こえんぞ……!>
 そう言ってる内にも、彼等の仲間の機体が一機被弾した。

 ―――彼等はデルフィニウムのパイロット達である。先程ステーションより発進しナデシコと対峙する事になった。
 その時、白いエステバリスが向こうから出、暫し睨み合いが続いたのだが、先走った一人が発砲した途端に向こうからの攻勢が始まった。
 有り体に言えば役者が違ったのだろうか。たった一機にあしらわれてしまっているのだから、その通りなのだが。

 相手の弾丸は丁寧な事にコクピットからは逸れており、帰還するくらいならどうにかなる状態で止まってる。更に加えて、動ける機体はもう自分を含めて三機のみで、そろそろ降伏勧告なり何なり来そうなものだ。

(…それはそれでいいか)
 ついそう思ってしまうのは男の性癖故か。目の前の現状に肝を冷やしつつも、早いとこそうならないかと続けて頭の片隅に浮かびかけた、その時―――アラートがけたたましく鳴るのに遅れ、

「は――――――」
 男の目の前で、味方機が爆発四散した。
 
 ミサイルだった。それに遅れて相当数の同じ物がこちらへと飛んできていた。
 もう第二防衛ラインに到達していたとでもいうのだろうか。しかし、それはありえない。予定の地点まではまだ余裕があることは此方でも把握している。

 それでは―――何だというのか。

「なんなんだよ……」
 通信からも悲鳴と怒号が響いている。
 ミサイルは確認しただけでも目を覆いたくなる数だ。仲間がどれだけ生き残ったのか、見当もつかない。


 そうしている内にも、切れ目無くミサイルは来る。

「どうなってんだよっ」
 そしてそれは、男のもとにもやってくる。


 男は呪いの叫びを上げた。






「な――――――」
 イツキもまた目の前の光景に一瞬呆然となった。予測よりも奇妙に早いミサイルの接近には気付いていた為距離を取ったのだが、その為にその光景をより正確に見ることとなったのだ。

 しかし、未だに現実感が沸かない。
 誰が想像するだろうか。味方が未だ残る状態で、巻き込む事が間違いの無いミサイルを―――未だその地点に達していない筈だ―――打ち込んでくるなどと。
 此方もオモイカネが察知していなければ、どうなっていたか。

 事故か、故意か。もし後者だと言うのなら――――

 と、イツキの方向へも当然の如く迫ってくる。
「!」
 少し初動が遅れるものの、ライフルを点射。推進部分が火を吹く。
 どうにも、飛んでくるミサイルの弾頭は考える間を与えてはくれない。
 イツキは唇を引き結んで迎撃を始めた。

 ミサイルの進路に機体を送り込んで、弾頭部分に狙いを定めてひたすら撃つ。時には直接ミサイルを蹴りつけ破壊し止める。
 正確なその位置は、ルリとオモイカネが手を回したのか足の速いミサイルが優先的にピックアップされて伝えられてくる。
 それを頼りに機体を右に左にと急行させた。

 ただ、それでも何基かはすり抜けてナデシコの方へ、或いは動けないデルフィ二ウムへと向かう。

「くっ――――」
 ライフルのモードをオート連射を変更し、狙撃しようとしたが、
 そのナデシコ側から何かの光が見えたかと思うと、ナデシコ方面のミサイルから順に落ちていった。

 イツキは周囲に溶け込むような配色のエステバリスを確認すると、機体をまたミサイルの飛んでくる方へと向けさせる。
 誰が乗っているかなど分かりきっているからだ。


 宇宙へと至ろうとしている今、パーソナルカラーから迷彩色の如くなってしまう漆黒の機体―――アキト機がライフルを手に、ミサイル群を薙ぎ払っていた。

「―――ルリちゃん、オモイカネ。原因を調べられるか?」
 アキトは間に合った事にまずは安堵し、続いてナデシコに呼びかける。

 応えは早く、
【おっけー】
<わかりました>
 そんな二つのウィンドウが消え、入れ替わりにイツキのウィンドウが浮かびあがる。

<アキトさん――――>
「…援護を。この一波を片付けたら、一気に地球を抜ける!」
<了解!>
 アキト機が加速し、下より迫るミサイル群へと駆け、射撃のみに切り替えていたイツキ機がその後方から追随する。

 黒と白の機体が、光の尾を残してミサイルが群れなす中を駆け切り。
 二機の機動に一拍遅れで次々に爆発した。





 漸くにしてか、第一波のミサイル陣が途絶えた。

 それを確認すると、イツキはアキトに通信を開こうとするが、
「……と、あれ?」
 今の内にと通信を開こうとしたが、繋がらない。着信を拒否しているのか、誰かと通信中のどちらかか。


 そのまま待っていたら、アキトから話しかけてきた。
<―――さて、一応は収まった所で、撤収するよ>
「…アキトさん、あの人達は――――?」
 イツキの目には、丁度デルフィニウムの姿が映っていた。そのどれもが何かしらの形で損傷しており、一つとして無事な機体がない。
 最早、自力で行動は出来ないだろう。

<こちらで回収する。向こうの了解も得た事だしね>
 どうやら先ほどのは、向こうのパイロットとの通話だったようだ。
「連れて、いくんですか?」
<ああ。この分じゃ、戻るに戻れないだろうしね。
 でもまあ―――、次の補給先で降ろす事になるかな>
「そうなんですか」
 次の補給先―――コロニー『サツキミドリ2号』だろう。
<今の内に回収して、戻るよ>
「はい」


 それから程なくして回収は終了し、ナデシコへと帰還する。
 デルフィニウム部隊。―――その生き残りは、最終的に十名中三名だった。






 アキトはエステバリスから抜け出ると、その足でブリッジへと急ぐ。
(予定より時間を食った……)
 これからの事を検討しなければいけない。というのもあるが、ブリッジの面々に呼ばれる前に戻ってしまえという気持ちもある。
 戦闘中、オモイカネがミサイルを検知したや否や、ブリッジを抜け出したのだ。抜ける際も碌に説明もしないままだったから、エリナ達への対応が思いやられる。
 ブリッジを出る際、ちらりと見た顔を思い出し、ついつい微苦笑した時だった。

【…アキト】
 小さなウィンドウが浮かぶ。
 アキトはそれに視線だけ向け、囁くような小さな声で、呟く。オモイカネは唇の動きをトレースして聞き取る。
「オモイカネか。…何か判ったか?」
【アレを発射させたステーションは、判明したよ】
「詳細は?」
【……不明。ミサイルの操作が終わった頃には、そのステーション自爆してるんだよ。地上の方でも情報が錯綜してるみたい】
「生存者は―――」
【0、だよ】
 ―――やはりか。深く息を吐く。

「―――オモイカネ。エリナやプロスさん達に通達。全速力でサツキミドリ2号へ向かう。理由は―――そうだな、相転移エンジンの稼動試験とでも言っておいてくれればいい」
【うん】
「同じく、ルリちゃんには航路の広域探査を頼んでくれ」
【はぁ〜い】


 それきりにして変わらぬ静かさが戻る。
 何処からだろうか、微かに届く喧騒は、遠く離れた場所から聞こえる。


 アキトは顔の半分を覆うバイザーを外し、持て余すようにそのまま懐にしまう。
 素の状態の顔には細まった目の所為か、鋭いものがある。―――或いは、苦々しさに近いものが感じ取れた。

 今の話を胸中で反芻する。
 何かが起きた。それは間違いないだろう。
 幾つかの予測をしようとして、止まる。今の自分が考えてもどうにもならないように思えたのだ。

 実際、今回の件については不自然なものが多く、こちらから情報を送っておけば―――送っておかなくても耳に入るだろうが―――アカツキが動くだろう。

 そう理解していながらも、もどかしさを感じるのは、以前のように動けない自分が歯痒いだけだ、が。

 ただ、一度幕が上がった以上、一旦の幕が降りるまで踊り続けるしかないのだ。


 アキトは暫くの間目を伏せると、静かに息を吐く。
 急いでいた筈の足は、止まっていた。












後書き



 ……順調に遅れています。ごめんなさい(汗



 今回はエリナの出番をと思ったんですが、あっても苦労性は変わりませんか。元々裏方の人だし。
 次回はお約束の三人組をフル活動(予定)です。


 それと、人物設定、要ると思う人いるんでしょうか? いないのなら削除を頼みますが。元々(自分で)忘れない為のメモ帳以上の役割無い、という事を今更思い出しまして(苦笑

 




追記:以前文体に関して聞いたんですが、ものの見事に票が割れてました。さて、どうするかな……。
 ……でも、総括して「さっさと続きを書いとくれ」というのが一番多かったですね(爆

 ……耳が痛いなぁ(汗


 ……善処します、としか言えませんが。
 就活あるし、某所のも再開したし。……月に1、2?くらいかと(苦

 

 

 

代理人の感想

普通怪我人に浴びせ蹴りかますか?

 

・・・・・・・・と思った人が何人いる事やら(笑)。

既にしてこう言う扱いがスタンダードですしね〜(爆)