<時の流れに>
本編第八話 補足

 

運命の邂逅・・・

 

 

 

 

 

 

 ヤマダ・ジロウ。自らをダイゴウジ・ガイと自称する男がいる。

 

 一言で言うと、濃い男である。

 

 今でも包帯の隙間から覗ける太い眉毛。それだけでなんとなく全てを判断されそうである。

 

 

 が。この男を正確に表わすのは、そんな物ではなく―――――、

 

 

 その身に纏った理不尽なまでの暑苦しさ。それが、外見以上にこの男の全てを表していた。
 それが全身を包帯で覆われていても些かも減じられていないのは、この男の生まれ持った業のような
物だろう。

 

 

 ま、それはともかく―――――、

 

 

 

 取り敢えず、目が覚めたら激痛が走った。
 それは、まあ、どうでもいい。そうじゃなかったら医務室などに居はしない。
 それはともかく、だ。

 

「・・・・・・・・なんで、俺は拘束されてるんだ???」

 

 そう。彼の身体は特製のロープによって、ベッドに『拘束』―――
  と言うよりも文字通り『固定』されていた。

 

 

「―――――説明しましょう、か―――?」

 

 何時からそこにいたのか――――、
 白衣を身に纏った妙齢の女性がいた。

 

「おう」

 

 ガイは、何の疑問もわかなかったらしく、相手の名前も聞かないまま頷いていた。

 

 その瞬間からこの男の将来が決定していた。

 

「アナタ、自分が重傷者という自覚があるわね?」

 

「おう」

 

「で、この所の記録を見せてもらったけど、アナタの場合脱走癖があるようね?
  それに加えて今のケガだと迂闊に動いてもらうと悪化する可能性さえあるのよ」

 

 それを差し引いてもガイの置かれた立場は微妙な物なのだが、

 

 そこまで言うと、その女性――イネスの目が不自然に輝く。

 

「ま、それはともかく――――早くココから出たい?」

 

「当たり前だ!」

 

 その返答に、イネスの口元にうっすらと――――、物騒極まりない笑みが浮かぶ。

 

 ガイの返答。それは、ある種の禁句だったのだが―――、生憎とこの男にその辺りの機微を判れ
と言うには酷な話、なのだろう。

 

「・・・・ここに、実験段階の新薬があるわ。
 安心なさい・・・・・、成功すればそのケガ、今なら一ヶ月の所を一週間と経たずに全快する事が
  可能よ?」

 

 その言葉を素直に信じていれば、まだ苦しまなかったかもしれない。

 

 ただ―――、

 

 彼は何処まで行ってもアホだった。

 

 つまり、自身の感想がそのまま、脊髄反射の導くままに口から出ていってしまったのだ。

 

「・・・・失敗したときは、どうなるんですか?」

 

 その時――――、

 

 ようやくにしてガイは自らの立場を正しく理解した。

 

 直後に浮かべたイネスの笑みが、

 

 獲物を前にした肉食獣を思わせたのだ。

 

 

 

 

 

 間。

 

 

 

 

 

 

「いやだぁぁぁぁああああッッッ、
  人体実験なんていやだぁぁぁぁぁああああああッッッ!!!!!!!」

 

  逃げようにも、身体はロープで完全に固定されている。

 

 彼の世界が真っ白になっていく―――――

 

 その時、天啓のようにある一人の人物が思い浮かぶ。

 

 そうだ、アキトだ!
 アイツなら親友のピンチを黙って見過ごすはずがない!!

 

(助けてくれ、アキト!!!親友の最大のピンチだッッッ!!!!)

 

 

 

 ガイは、天まで届けと魂の咆哮を上げた。

 

 

 

 

「・・・・・・ん?」

 

「どうしました、アキトさん?」

 

「いや、何か誰かの叫び声が聞こえたような・・・・」

 

「気のせいじゃないですか?」

 

「そうかな?―――そうだね」

 

 ポニーテールの女性に笑って答えると、彼はまた目の前の鍋とにらめっこをする。

 

 

 テンカワアキト。後に『漆黒の戦神』と呼ばれることになる男である。

 

 ―――だが、今回のこの話とは概ね関係がなかった。

 

 

 

 

(ああッ、何で来ないんだアキト!俺を見捨てていく気か!?
  ピンチなんだぞ、ピンチ、俺のピンチ。
 はッ、まさか―――!?)

 

 この時、頭にある映像が思い浮かんだ。
 その映像、アキトは爽やかな笑みを浮かべ、親指を立てていた。

 

(俺のことを信用してくれるのか!?俺なら切り抜けられると・・!?
 くッ、感動したぜ!
 そうだよな、都合のいい時だけ頼ったらダメだよな!!)

 

 

 よっしゃぁ、俺は立ち向かって見せるぜ!
 この白衣の悪魔に!!

 

 決意も新たにイネスを見る。が―――――

 

「フフフ・・・・・・・」

 

 ・・・やっぱ駄目かも。

 

 

 数秒後、ガイは意識を手放した。

 

 

 

 

 

 この後、

 

 この男は暫くの間ナデシコクルーの間で、完全に忘れ去られる。

 

 僅かに何かを知る者達も、決して口を開くことはなかった。

 

 

 ただ、次に登場したとき、
 この男はどういう訳か完治していた。

 

 ―――――らしい。

 

 

 

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 

 初めて書く短編。
 今回はガイです。

 

 『時の流れに』を読んでて思ったんですが、
 イネスさんとガイのファーストコンタクト。その時、どんな感じだったのだろう?
という疑問のもとに書いてみました。
 時期的には8〜9話あたりでしょうか。

 

 

 

 

管理人の感想

 

 

 

かわさんからの短編の投稿です!!

いや〜、いままでシリアスで決めてこられていたかわさんが・・・

この手の話を書かれるとは(笑)

まあ、確かにこの場面の描写は無かったですよね。

・・・でも、既にこの頃からガイはイネスさんの実験台だったのか(苦笑)

なるほど、今の本編の流れの頃には抗体も出来ますね(笑)

 

それでは、かわさん投稿有難うございました!!

 

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