まずは、taka氏(74)のSS、『戦神アナザー・婦警の場合』をお読みください。

これは、その流れを汲んでおります。









それでは、本編をどうぞ。
















 欧州・トランシルバニア地方

 夜

 某所








 法衣を着た、若い女性が、一人佇んでいた。

 玲瓏たる月の光に、委ねるように、その淡い光を受けながら、目を瞑っている。





 ざっ、  と足音が聞こえた。





 彼女は、閉じていた瞳を開き、戸惑いがちの男を見つめる。

 年は、30半ばを過ぎたところであろう。

 男は十字を切り、懐から十字架を取り出す。


 それに応えるかのように、彼女は一礼した。

 そして静かに十字を切る。


 「……もしかして、貴女が?」

 男は、再度確認した。


 そう思わず言ってしまうのも、仕方の無いことだったかもしれない。

 何しろ、彼女はあまりにも若すぎた。

 彼には大学に入ったばかりの娘がいたが、彼女はそれよりも幼く思える。




 彼女が軽く肩を竦めるのを見て、男は慌てたように弁解した。

 「いや……貴女が、あまりにも―――」

 「人を見かけでは判断しない事です。それより、情報を―――」

 遮るように、彼女は言った。






 男は簡単に状況を説明し、レポートを彼女に差し出した。

 それを受け取り、彼女は軽く目を通すと、そのまま法衣の中へとしまう。



 「場所は、こちらで間違いないのですね?」

 「はぁ、そう聞いておりますが」

 「ご苦労様。後は、私がやりますので帰っていいですよ」


 彼女がその方向へと向かっていくのを見て、男はぎょっとしたように、慌てて言った。

 「それは、ぞっとしませんね。今は、『彼ら』の時間ですよ?」


 男に向かって彼女は目を細め、唇を歪めて冷笑した。

 「それが何か?」


 いや、それは……と、男がうろたえるのを最後まで見ず、再び踵を返した。







 暗がりの中、彼女は用紙を確認した。


 「……戦艦、『T.A.同盟』、可能性は―――」


 暗さを問題ともせず、一通り目を通すと、そのまま後ろへ投げ捨てた。


 ボッ、    と、投げ捨てられた紙は、炎を空中で纏い、そのまま風に乗って散らばっていく。






 「なるほど、強力な結界だ」


 彼女は呟く。

 

 一瞬、空の月を見上げると、後は再び歩き出した。











 漆黒の戦神  ≪≫外典≪≫

  
*前編*










 
 欧州・トランシルバニア地方

 深夜

 とある教会にて。







 黒衣に身を包んだ男――テンカワ=アキトは、手に御椀を持ちながら歩いている。

 湯煙を放つそれは、彼の技がつまった一品だ。

 それの名を、 『テンカワ特製ラーメン』 という。


 「セラスちゃん」

 アキトはそう言うと、コトンと御椀を置いた。

 そこで、うーっと唸るように見つめているのは、金髪の麗人、セラス=ヴィクトリア。

 何を隠そう、アキトをこの状況に追いやった、その人である。
いや、アキトの自業自得という説も、かなり有力ではあるが。


 「……これが、『ラーメン』。なるほど」

 食欲をそそる匂いであるのかもしれない。


 フォークを手に取る。

 そして、彼女は食べ始めた。

 フォークを使い、教えられた通り、掬い上げるように麺を取り、口に運ぶ。

 啜るように口に入れ、汁をすすった。


 言葉なしに食べる。しん、と静まり返る中、彼女の咀嚼する音のみが空間に響く。

 アキトも、それを真剣に見つめている。

 御椀を持ち、汁をすする。

 ゴクリ。と、彼女の咽が嚥下する。


 ……妙にシュールな光景であるかもしれない。

 そして、空になった。


 金属が擦れるような音がした後、

 「美味しかったです」


 アキトは嬉しそうに笑った。

 「味見は本当に最小限しか行ってないから、心配だったんだけど」


 そう言うと、セラスはじっと、アキトを見つめた。

 「真逆とは思いますが、異物は取り込んでませんよね?」

 「……ああ。何しろ、体が受け付けない」

 寂しそうに笑うアキトを見て、セラスは軽くため息をつく。


 「――恨んでます?私のこと」

 えっ? と驚いたような顔をする彼に向かって、セラスは言う。

 「……だって、もし私があんなことしなければ―――アキトさんは人間でいられたのに……」

 と、アキトは ぽん。 と、彼女の頭に手を乗せた。


 驚いたように顔をあげるセラス。幾分顔は薔薇色に染まっている。


 「それは、俺の自業自得だよ……勝手に暴走して、傷ついて、それで助けてもらった。

 それから後だって、何度も窮地を助けてもらった。

 だから――感謝すれこそ、恨むなんてことは、全然ない」


 ……ま、そりゃ、食べ物には未練もあるけど。 と、彼は笑った。

 そんな彼を見て、セラスもほっとしたように息を吐き出した。








 ――と、


 「えっ?」


 セラスは、ばっと飛び起きた。



 「セラス……ちゃん?」

 アキトが、呼びかける。




 「―――結界に、穴?」



 虚空を見つめるように呟き、それから、




 「侵入者……か。―――えぅぅぅぅ、しつこいなぁ。結構、場所は変えているのに」


 「もしかして……」

 「たぶん、十中八九」


 彼女達から身を隠すために張ったのだが、それが逆に彼の露見することとなったのかもしれない。

 それとなく、さり気無く結界を張ったつもりでいたのだが。



 ――結構、ここも気に入っていたのに。

 何しろ、愛しい彼が見つけ出した場所なのだ。



 ふぅ、   と、ため息。


 「とりあえず、ここを出よう」



 セラスは、こくん。と、頷いた。
















 空にあるのは、どこまでも玲瓏たる真円の月。

 幽玄たる光が、辺りを包んでいる。




 その中を、二つの影が歩いている。


 「セラスちゃん」

 アキトは、鼻をつまみながら傍の女性に語り掛ける。

 「……何だ?この臭い」


 その匂いは、別段嫌な香りだとは思えないのだが、ひどくいらいらする。


 「――これって、もしかして……」

 「セラスちゃん?」

 彼女は、何かを思うように、考えを巡らしている。


 「もしかしたら、侵入者って……あの首切り判事じゃないかも…・・…」

 「どういうこと?」

 「……ええと、行ってみればわかります…よね?」


 アキトは頷く。

 それを合図に、二人は走った。


 ……ひどく、嫌な臭いだ。
 
 臭いがきつくなっていく。


 その匂いはもはや、『嫌な臭い』になっていた。頭ではあくまで香りなのだが。

 戸惑いつつも、彼らは走る。






 ―――と。


 少し開けたところ―――そこに、一人の女性が佇んでいた。

 幼い体つきの女性である。

 顔も、それに準じている。

 もしかしたら、未だ、十代なのかもしれない。というより、たぶんそうなのではないだろうか?



 「良い月ですね」

 彼女は、ただ、謡うように言った。


 アキトは、幾分戸惑ったような顔つきで、彼女を見ている。



 ヒュン



 瞬間的に風を裂き、何かが飛んできた!

 素早く回避行動を取る!



 カカン! カン!

 

 二人が一瞬前まで居た空間を何かが過ぎ去り、その先にあった木に打ち込まれる。

 それは、幾分大きめの釘だ。

 釘が打ち込まれている!


 「なっ!?」


 「貴女は!」



 二人が、同時に声をあげた。


 アキトは、困惑に満ちた表情で。

 セラスは、敵意に満ちた表情で。
 

 そして、それを行なったかと思われる少女も、じっとこちらを睨んでいる。




 「――その技、埋葬機関の―――!!」

 セラスが、叫んだ。



 「埋葬機関?」

 アキトが、戸惑ったように声を上げる。




 彼女は、静かな殺気を放ちながら、セラスを見、アキトを見た。

 「子を入れたという話、本当だったようですね。しかも―――漆黒の戦神を


 吐き捨てるように呟く。




 「埋葬機関……って?」

 アキトが、再び呟く。



 「十三課と似たようなもんです。 ただ、あれは異端審問で、こちらは―――」


 「吸血鬼専門。 貴方達みたいなの専門の殺し屋ですよ」

 彼女はそう言うと、じっとアキトを見つめる。


 「漆黒の戦神――このような形で、お会いしたくはありませんでした」

 結構、ファンだったんですよ。 と、肩を竦める。


 夜の空間を。月が。彼ら三人を、平等に包む。



 「ですが。不浄者に、変わりはない――!!」


 殺気が空間を走る。

 アキトは思わず身構えた。


 そして、静かに黒い短剣を両手に持つ。

 月明かりに照らされたそれには、一面に儀式的な文字を彫り込まれているのが、見て取れた。


 「祝福儀礼――!!」

 アキトは唸る。

 一度、あれに手痛い目にあわされたためだ。






 「それでは、参りましょう」


 彼女は右手と左手、その黒い短剣を胸の前で交差し、十字を形取る。


 「灰は灰に、塵は塵に――死者は土くれに」






 瞬間! 彼女が跳んだ。





 同時に、アキトとセラスもそこを離れる。



 展開される、三つの影。







 それが、闇夜の舞闘の、幕開けだった。



 

 









 中書き

 と、言う訳で(何が? 戦神・外典です。 
 次回は、たぶん、おそらく、言うまでもなく、戦闘ですね。

 
 こんなんなりましたよ〜〜takaさん(^O^)≫



 ――それでは、また、近いうちに。




 

 

 

代理人の感想

埋葬機関というと・・・・やはり第七位の(そして人気投票は六位の(爆))あのおねーさんでしょうかね。

でも結局の所行動パターンは首切り判事と大差なかったり(爆)。