そこは、夢の園だった。


 甘くて、淡くて、自分を必要としてくれた。


 物事皆、何もかもが祝福されていて、自分はその一部だった。


 こういうのは、聞いたことがある―――それは、エデンの園というのだ。



 しかし、そこには食べていけないものがあった。


 けれど、その『実』を食べれば、重大な能力を得ることができる。

 それは、『絶対的な力』と、成り得る。


 けれど・・・・・・・


 僕は気づいていた。

 幸せは続かないことを―――いつか、彼女が来ることを。


 そして、来た瞬間それは終わるだろうと。



 現実は、残酷だ。

 現実は、考えもしない方向からやってくる。






 食べたものは、禁止されていた実


 祝福の園は、荒野と化す。




 そして、僕は今―――――――ダンボール箱の中にいる・・・・・・・・









ハーリー列伝
第四話










 ――――突然の閃光。

 光、光、光・・・・・目を覆いつくす、一面の光。


 空を舞う、自身の体と青い空。

 白いもやが、空を飛び交うのが見える。


 ………きっと、人の魂だろう。証拠も、何もないが。




 「は・・・ハリ君!大丈夫?」


 ランさんの声が聞こえた。僕は急いで身を起こす。

 少し体が痛んだが、異常は見られない。頭も打ってはいない。


 「は・・・はい!」


 体を抑えながら起き上がる僕を見て、ランさんは少し眉を顰める。


 「待ってて!今、消毒薬持ってくるから・・・」


 言うや否や、だっと駆け出す。

 僕はため息をついた。


 ようは、装置が誤作動して爆発した。・・・それだけのはずだ。


 なのに・・・その小屋は跡形も無く消え去り、半径五メートルぐらいのクレーターが出来上がっている。



 何なのだろう?





 「ハリ君・・・大丈夫?」 戻ってきたランさんが僕の擦り傷を治療し始める。


 「だ・・・大丈夫ですよ」 そう言いながらも、僕は治療を任せている。


 慣れって、怖いものだと思う。


 ・・・何はともわれ、ここにきて2ヶ月は経過した。


 うまく適合できた・・・・・っていうか、適合させられたというか・・・・・


 どちらにせよ、居心地はいい。






 「おかしいねぇ・・・失敗するはずはないんだが・・・」


 後ろっから、ランさんのノーパソを覗く。

 書いてあるものは、埋め尽くす数値だ。


 そう、それは周辺にある電子を取り入れ、エネルギーに転換する。

 生まれでたエネルギーを直接空間にぶつけ・・・『揺らぎ』を生じさせる・・・・・


 どう考えても、爆発する要素はいっぱいだ。


 ・・・うん?


 ふと見た場所の小数点がおかしい。


 「・・・ランさ・・」

 「・・・うん?」


 「ここ・・・・」 指で指す。 「0.044527・・・、でなくて、0.044517・・・じゃないですか?」




 「え・・・?えええ〜〜〜!?」 別のソフトを起動させ、計算。 「ほんとだ・・・・」

 呆然とした呟き。

 「そうか・・・それで失敗したんだ・・・・ありがと!ハリ君!」



 いきなり、唇を奪われた。






















 「・・・おい、ハリ君!!」


 ふと呼びかけられる。


 「シュウさん?」 僕は言った。 「・・・なんでしょう?」


 シュウさんは、他の人に天才だとよく言われている。

 ほんの二ヶ月前、少しシュミレーション勝負をした。当然、楽勝だったけど。


 「少し、見てくれないか?」 彼は微笑みながら言った。 「所長が、褒めてたんでね」




 ふとそのデータを覗くと、訳のわからない図が浮かんでいる。・・・何だろう?この記号は・・・




 「・・・シュウさん・・・」

 「?・・・何だ?」


 「この、Cl・・・って英文字は何ですか?」

 「何言ってんだ?」 彼は失笑する。 「塩素じゃないか」


 「・・・では、このArってのは・・・」


 「・・・アルゴンだ」
 何故だか、薄寒いものが背中を通る。



 「・・・なぁ・・・・」

 「はい・・・・」


 「まさか・・・化学式を知らないなんて、言うんじゃないだろうなぁ?」


 「・・・化学式?」


 「・・・・・・・」

 「・・・・・・・」


 「そ・・・そろそろ・・行きますね・・・」


 「おい!冗談だろ?何でそれで、所長の手伝いできてんだよ!!」


 「だって・・・」 ハーリーは言った。



  「その時は、全部数値に変換されてるんですもん!」









 ハーリーが去った後、シュウは呟く。


 「数値に変換?・・・で、あの坊やは数値じゃないと理解できない?

 おいおい・・・冗談だろ?何だよ・・・そりゃ・・・」


 彼の中で渦巻いているのは一つだ。


 ・・・効率が悪いんじゃないのか?









 それは、一面的には正しい。


 それには、ハーリー以外ならという条件がつく。

 『そんなもの、覚える必要なし』

 そう思っているハーリーにとって、数字は遥かに効率がいい。


 慣れ親しんできたものの方が、使い方が良くわからないものよりも、使いやすいと。







 もちろん、それはただの逃げに過ぎないのだが・・・・・









   *  *  *









 「・・・それで、吐きましたか?」 


 「ええ・・・ようやく・・・ね」




 二人の女性が話している。




 「アカツキ君が、思いっきり隠してくれたから・・・苦労したわ」


 「わりに、嬉しそうですね」


 「そうでもないわ。結構疲れるのよ・・・拷問って」

 そういう彼女の表情は、やはり楽しそうだ。


 「・・・それで?」


 「マキビ=ハリ。彼に一任したらしいわ」


 「迂闊でしたね」   「・・・そう・・ね」


 ・・・一番何も知らないと思っていた者が、実は一番重要だったとは。




 「至急、同盟メンバーを集めてください」


 「もう、連絡は取ったわ」


 「早いですね・・・で、仕事は大丈夫ですか?」


 「もちろん・・・しっかりと今までさぼってた仕事に、私の分を上乗せしておいたから」




 「ふふ・・・・」


 「ふふふ・・・・」




 二人の笑みが広がる。


 遠い、遠い、その島へと届く。


 笑みはやがて、彼に悪夢を見せる。






 「う〜〜〜ん〜〜〜〜〜〜〜」




 怖い夢を見ていた。


 何もかもが、一瞬でなくなる夢を。


 何もかも。全て。真っ白になって・・・・・



 ふと、体に柔らかい何かが触れる。




 それだけで・・・それだけで・・・悪夢は消え去った。

 彼は、祝福の地に居るのだから。












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 後書き

 ごきげんようです。どう〜も〜〜♪

 で・・・次回そろそろ逃亡編(・・・激闘編?)に、突入しま〜す♪


 では、今回変な乗りですが、一応一言。


 『ハーリーの征く先きは、ここにある』


 ・・・・・あるのか?未来・・・




 あ、感想

待ってますね。




 

 

代理人の意見

 

ない。(きっぱり)