『待ちたまえ! 君らは何だか世界の敵っぽい』


 「さてさて……」

 戦術指揮者は、にこりと微笑んで言った。

 「とりあえず、目標に辿り着くまでは時間がありますね。それでは、皆さん♪

 しおりの121ページを見てください」


 バラバラっと、紙をめくる音。


 だが、不意にそこで、え?あ? と、困惑する少女の姿がある。

 黒髪ではあるが、その金色の瞳が、彼女の生まれを表していた。

 「……あ、あの……」


 「うん? どうしたのかな?琥珀ちゃん」

 そう戦術指揮者が言うと、彼女は恥ずかしげに頬を染め、恐る恐る言った。

 
「……ごめんなさい。忘れてきてしまいました」


 「もう、しょうがないなぁ……ええと、ラピスちゃん」

 「?」


 「見せてやってください……琥珀ちゃんも、ちゃんとお礼を言うんですよ」

 「はい」




 
 こうして、同盟は静かに、そして来るべき任務のため、英気を養って行った。



















 一方その頃、ハーリーは。


 この前の電波の名残だろうか? などと、考えたりしていた。

   









ハーリー列伝

第八話










 


 『絶対に1パック380円で見つけて来い、とルリは言った』

 
 ルリさんは、今でもアキトの事を探している。

 正直言って、もうルリさんの事も覚めた今となっては、彼女の横暴さばかりが目に見える。

 あれは、青春の思い出だったのだ。 




 だから、ハーリーはダンボールの中にいる。



 ルリは天下一武道会に行った。

 ルリが無事に決勝戦で
魔ジュニアに勝ったのかどうかは、ハーリーにはわからない。


 でもそれは、ルリにとってはどちらでもいいことだったのかもしれない。

 ルリは、
ものすごく魔ジュニアになりたがっていた。

 ルリはきっと、
ギニュー特戦隊だったようにも思う。

 だから大口あけて
「かかったなぁ!」とか叫べば、身体を入れ替えられたはずなのだ。きっと。


 ルリは間違って天下一武道会に行ってしまったのかもしれない。という気が、ハーリーにはしている。




 ルリは天下一武道会に行った。

 本当のことを言うと、ハーリはそのことが少し心配だ――なんてあるはずがない。


 一昔前ならそう思ったのかもしれないが。


 …………あれは、青春の思い出だったのだ。

 そして、ようやく、艦長の横暴から開放されたからである。


 しかし、ハーリーは知っている。

 また、きっと、次のルリが現れるのだ。


 もしかしたら、ルリみたいにずいぶん乱暴な奴かもしれないけれど、このドラゴンボールを大事に守って、

 ずっとこのダンボールの中にいれば、きっと次のルリが探しに来てくれる。―――って、嫌だな。逃げようか。




 ルリは竜の死の謎を解きに行った。

 あれからずいぶんと時間が経った。もう猫と一緒に冷凍睡眠できる時代だ。


 ハーリーはルリのことを忘れようとしている。

 ルリと一緒に戦ったことや、ルリと一緒に戦艦を作ったことを思い出して、いつもいつも吐き気をもよおしている。



 しかし、ハーリーはたいそう頭が悪い。

 化学で6点をとることがあるし、歴史はまるでダメだ。

 古典や英語も最近になってさらに悪くなったし、時々頭の左側の感覚がなくなることがある。

 勉強意欲がなくなって、いきなり眠り込んでしまって、目がさめて掛け時計を確認したら朝だった、などと言うことも増えた。

 そのわりに、数学と物理がいいのは、確かに、不思議ではある。

 ルリのことを早く忘れようと思う。



 ルリは同人誌即売会に行った。

 しかし、ハーリーは、ルリというのがどんな猫だったのか、もうはっきりと思い出すことができない。

 腹黒い猫だったことは憶えている。確か瞳が
金色だったようにも思う。


 しかし、それ以上のことは何故か全てプロテクトがかけられてしまっている。

 それでも、ハーリーが今でも、ルリについてたった一つだけ、何にもましてはっきり憶えていることがある。


 いつ、どんな状況だったのかはわからない。


 しかし、ハーリーは、


 ルリが 
「アキトさんが見つかったら合図を送りなさい」 と言っていたのを憶えているのだ。



 ハーリーは思う。

 アキトは僕が隠した。


 見つかった時、自分は既に用がなくなっているだろうし、合図を送る意味はあるのだろうかと―――もとい、

 自分はもうルリのことをあまりはっきりと思い出すことができないけれど、ルリの方は自分のことを覚えてくれているかもしれない。

 僕が居場所を知っているのをわかっていて、今でもナデシコ片手に徘徊しているかもしれない。


 くっくっくっくっ…………さあ、アキトさんはどこです?……と。


 そろそろ、ここから離れた方がいいのかもしれない。

 ………嫌な予感がするから。














 
 そこは戦場だった。

 ラッパの音が鳴り響き、銃声が聞こえ、爆音が鳴っている。


 「アキトさんが見つかまるまで、ここにいなさい」


 そう誰かが言っていた。そして、通信機を置いていった。


 けれどわかっている。

 それにはきっと、発信機がしこんであるのだ。

 そのまま持ち続ければ、ひどい目に合うことは間違いない。

 当然のごとく、ハーリーはそれを踏み潰した。


 グシャッ♪ ……と。




 だから、ハーリーはダンボールの中にいる。


 渡された食料は、パンひとつだった。

 しかし、ここは戦場だ。沢山の人々が
殺り合っているのだ。

 なので、そこら辺に、良さげに死体が落ちてたりして、まぁ、食料にはことかかない。


 もっとも、今は夏だし、ほっといたら腐るはず……っていうか、確実だが。













 ……あいつが、死ぬとはなぁ。


 戦場に、ダンボ−ルが時速約1メートルぐらいのスピードで、ぼんやりと這いずり回っている。

 ダンボールには、
『愛媛の蜜柑』と書いてある。


 「うん?…何だ。ダンボールか……」



 しかし、あるとき、士官の一人が、妙なことに気づいた。

 時々、そのダンボールが動くのは、風のせいだと思っていた。

 しかし、爆風をものともせず、そこにありつづけ、そして今、唐突に向きを変えた!




   ……何がいるんだ、何が………

 「中尉!」


 ハーリーは、眼前の風景をダンボールのとっての中から、じっと見ていた。

 そして、想いの果ては、乱雲と共にある。


 突如、謎の白い戦艦があらわれた!

 その艦はもしかしたらどこかで見たことのあったのかもしれない。

 しかし、それを落ち着いて愛でることなど、不可能だった。

 ここは戦場なのだ。

 戦場に、戦艦が来ているのだ。

 地上は、混乱に陥り、高射砲を放つ!

















 ……戦いは17秒で終わった。黒いエネルギー波が地上のすべてを焼き払ったのだ。















 ハーリーは、じっとその光景を見ていた。


 ……どう逃げようか画策しながら。























 後書き

 ……最近、普通のシリアスなSSが書けません。

 どうやら、毒電波を受信し過ぎたようです(少し泣き)


 :予告:

 世の中不幸というものは色々形があるようだが、

 けれどやはり僕も不幸という一つの形には違いないだろう。

 幸福になれるか否か。

 それは全て僕の存在意義にかかっていると言っても良い。

 無論、それはふとした拍子に変わるものではあるが。

 もとい、

 どうして僕は不幸であるのか。

 次回:『不幸論議』

 ……幸福は、どこに転がっているのだろう?







代理人の感想

あ〜。そう言えばここから始まったんでしたね〜。

SSBBSにコレが掲載されて早いくとせ。

月日のたつのは速いものよの〜(笑)。