守護者、そして……

第三話

 

 

 

 

『アキトアキトアキトアキトアキトアキトアキトアキトアキトアキトアキト!!!』

「げはっ!?」

エステより大きいといってもアサルトピットの大きさはエステより若干大きいくらいだ。

そんな閉鎖空間で大声なんか叫ばれると、パイロットはたまったものではない。

現に空中にいた三機のうち、アキト機はふらつき、着艦針路を大幅にずれて見当外れのところに向かって飛んでいる。

カイト機は針路をずらしてナデシコに体当たりしているし、レナ機に至っては海の中に突っ込んで彼女自身は気絶している。

「うるさいっ!! 誰だ……げっ!」

あまりの大声にコミュニケの音量を最低にまで落としつつ誰かと探して真っ青になった。

顔を見た瞬間に封印していた記憶が蘇った。子供の頃の悪夢が。

「み…ミスマル……ユリカ?」

『やっぱりアキトだーっ! アキト、私ナデシコの艦長さんなんだよ。えっへんっ!』

アキトは子供時代を思い出し数々の悪夢を考え、次の行動を考える。

――――逃げる

「プ、プロスさんっ! 契約今すぐ破棄出来ますかっ!?」

『どうされました、何か不都合でも?』

どうしたんだ一体、とでも言いたそうな顔でプロスがユリカを押しのけコミュニケの画面に出てきた。

いやだ〜っ!! あの暴走能天気迷惑核弾頭なんぞと居れるかぁーっ!

叫びながらもサレナはナデシコからゆっくりと遠ざかっている。無意識の行動だろうか。

『こまりますなー。テンカワさんがいないと戦力ガタ落ちですよ? 費用の面から見て却下ですな』

それしか考えてないのか、プロスペクター。

「い、いや…でもですねっ!」

『ひっどーいアキト。……あ、もしかして照れてる?』

そこ。プロスとアキトの会話に口突っ込まない。

「誰が照れるかー!! 俺は…俺は」

『え!? アキトみんながいる前で告白? ユリカかんげきぃ〜っ』

「違うっ。俺にはもう相手が居るっっっ!!」

言ってからしまった、という表情になるアキト。とっさに言ってしまったがこれといって特にそんな仲の女性なぞいないのだ。

…雪谷食堂でアキトにしばしば頬を赤らめながら話し掛けてくる女性達のことは論外らしい。というか、気付いてない。

ユリカの性格である。すぐに追撃してくることだろう。

(誰か…誰か助けてくれ…)

ぐるぐると回転する頭で何とか冷静になって考える。

「あ〜う〜…今のはなんですか〜。新手の兵器ですかぁ〜?」

そこで漸く気がついたらしいレナが機体とともに空中へと上昇してくる。しかし、まだ頭が起きていないのか、それともユリカの声の影響か、ろれつが回っていない。

『誰っ、誰なのアキト! アキトはユリカの王子様じゃないの!?』

(どうするどうするどうする! ナデシコに知り合いの女の子なんか居ない…どうする俺っ!)

そこで、いまだにふらふらと機体をコントロールできないレナの機体が見えた。

 

――閃き。即実行。

 

「そ、それは…レナちゃんなんだよ!」

『はえ?』

呆然としているレナに向かってアキトは短い文章をこっそりと送信した。

曰く「あとで詳しく説明するから今は助けて」

『や〜ふぉ〜るぐ。…というわけでえ〜と…艦長。申し訳ありませんが隊長に手を出さないで下さい』

『が、が〜〜〜ん…』

ユリカにしてはあっさりと信じた。彼女らしくないとは思ったが気が動転でもしているのだろう。

この後しつこくこのことについて何か言ってくるだろうが、とりあえず今は何とかなった。

『あ〜…こちらカイト。着艦するぞ〜。やってらんねぇ…

状況を見守っていたカイトが呆れた声で通信しながらさっさとナデシコへ着艦する。

『同じく。隊長、お先に失礼します』

出たときと同じように後部発着場へ三機が着艦。カタパルトは基本的にエステサイズの機体しか射出できないのだ。

格納庫は設計途中で連合軍、機動軍の規格に合わせたらしく、10mクラスの機体は格納できる。

おそらく機動軍採用の人型機動兵器AFP−98Dヴェルクトの臨時導入でも考えていたのだろう。

が、カタパルトのことを忘れるのは間抜けというかなんというか。

「よっと」

機体を固定し電源を落とす。ハッチを開け、整備・固定用のロック機構から降りようとした時、先程騒いでいたウリバタケ整備班長が声をかけてきた。

「済まねえがアサルトピットのハッチの横に小さいカバーがあるんだ。そこに整備モードに入るスイッチがある。入れてくれ」

アキトが言われたとおりにハッチの横を見ると確かにカバーがある。開けるといくつかのボタンがあった。

「どれですか?」

「スパナのマークが描いてある奴だ。右側にある」

「ああ、これっすね」

ボタンを押すと簡易整備モードに入り、一部の装甲が開いて内部機構を露出させた。

「OKだ。すまねえな」

「いえ。じゃ後はお願いします。ウリバタケ整備班長」

「う〜む。なんか背中が痒くなるな。ウリバタケでいいぞ。えーと」

そういえば自己紹介してなかったな、と思ってアキトは言った。

「アキト。テンカワアキトっす。よろしく」

「おう。よろしくな」

そういうとウリバタケは整備員に指示を飛ばし始めた。それを見てアキトはタラップを降り、通路へと向かった。

昔ならこの後、報告書の提出なのだがナデシコにはそんなものの存在が無いらしい。ないのはいろいろと問題があるとは思うが、何か思惑があるのだろうと勝手に納得する。

「あ、隊長。ちょっと」

アキトの返事を待たずにレナがアキトを自室へ引き込む。

パイロットや整備の人間は緊急時に対応できるために格納庫に近い位置に部屋がある。

そして彼女、レナの部屋はもっとも格納庫に近い。反対側はウリバタケの部屋だ。

余談だが今の彼女はパイロットスーツ姿だ。

 

……どーやって着替えた。というか何時着替えた。少なくても出撃直前までメイド服だろうお前。

 

「どういうことです? 私には………アレスがいます」

どうやら先程の発言のことを聞いているらしいと悟ったアキトは素直に話した。

子供の頃のことから現在の様子、感情、全てを話してから改めて協力を仰ぐ。

「う〜ん…隊長。アレスが見つかるまでの期限付き。一回フォローにつき隊長の手料理一食…でどーですか?」

「良し!!」

彼女の手を握ってぶんぶんと振り、涙を流しながら喜ぶアキト。

 

――――それ程嫌だったんかい。

 

レナはレナでアキトの手料理を条件につけるあたり、味を占めたかもしくは餌付けされたか。顔の表情を見る限り、後者らしい。

「…あとでばれたら恐いですよ? お仕置きが」

ぼそりとレナがアキトにとっての恐怖の代名詞を口にする。

「あ、あはははは……じゃ、俺はもう行くよ」

その言葉を聞いた直後にアキトは硬直し、冷や汗をだらだらと流しながらも180度向きを変え部屋を出て行こうとする。

「あ、隊長。どうやらこの艦にキノコがいるみたいですけど…」

とたんにアキトの顔が険しくなった。

「…後で対策会議を開く。1600時にカイトもつれて俺の部屋に来てくれ」

「了解」

それだけ言うと、アキトは部屋を出て行った。

「キノコ…俺達の前に現われるか…いい度胸だ」

 

 

 

 

同日火星 連邦政府機動軍火星駐留軍基地

 

 

一年前の火星会戦から増援と補給を断たれながらも彼ら機動軍の軍人達は必死に戦っていた。

基地というよりは既に要塞と化してしまった基地には彼らと避難してきた民間人数百名が居る。

補給の当てがないために技術者や整備班が独自の生産工場まで作ってしまった。材料は撃墜した蜥蜴どもの残骸や連合軍の残骸、民間人を守るために散っていった同胞たちが使用していたものの残骸だ。

食糧もプラント栽培で味の保証は出来ないが何とか作れるようになった。

もはや、コロニーである。

そこは僅かな休息という名前はあるが平和という名前とは無縁の戦場も兼ねている。

そう、戦場なのだ。

 

「偵察6番機より入電『敵接近中。戦艦1 巡洋艦6 駆逐艦8 機動兵器約3000。ゾーンB−30より速度0.5で基地に接近中。AMIMでの攻撃許可要請』以上」

「許可しろ。外すことはスペシャルネイヴィの名にかけて許さん」

『ヤーフォールグ』

複数のオペレーターとパイロットと司令の声が統合作戦司令部内に飛び交う。

「偵察6番機より戦闘コード発信。攻撃開始します」

正面スクリーンに基地周辺の地図があり、やや離れたところに青の輝点が急加速して新しく出現した多数の赤い輝点に向かって飛んでいく。

偵察機の機種はVF−21Cスノウティア。本来は戦術空間戦闘機である。しかし、機動兵器の出現と、従来の偵察機では敵を見つけて退避する前に撃墜されてしまうので現在は臨時に偵察機としてローテーションを組んでいる。

「6番機は確か…ロウェル中尉だな」

司令部の司令席に座っていた中年の男性が呟く。

「彼は歴戦の猛者です。逃げ切るでしょう」

『016、アームズ2シュート』

声と共に白い点が四つ出現し、赤い点に向かっていきすぐに消える。迎撃されないように超至近距離での攻撃だ。そのまま青は赤の円を高速で通過し、迂回して帰還ルートに乗る。

「戦艦迎撃用空間ミサイル全弾命中確認。指揮個体と見られる戦艦及び右翼の巡洋艦2撃沈。敵の統率が若干乱れました。再編成まで推定10秒」

「良し。展開したヴェルクト部隊及びスノウティア部隊は攻撃待機。敵接近まで現状維持」

『ヤーフォールグ』

司令官の命令に答えるパイロットたち。その顔は多少の疲労感はあるものの諦めてはいない。

「016敵攻撃範囲から離脱。帰投コースです」

スノウティアは空間戦闘機として開発されたものの、ディストーションフィールドも装備していないし全体的な性能は機動兵器に劣る。装甲も数発の20ミリ電磁加速砲弾を弾く程度のものだ。

そのスノウティアが取る戦術はただ一つ。DI(デュアルインダストリー)社製大出力重力波スラスターを二基装備し、機動兵器を圧倒する速度で肉薄。機動軍特製の対艦ミサイルや空間巡航ミサイルを発射し一撃離脱するのである。

通常の機動ならば内蔵の小型レーザー常温核融合炉の出力でまかなえるが、大出力重力波スラスターを最大出力にて使用するとあっさりとエネルギーが切れる。そのためにバッテリーがあるのだが、それすらも巡航速度での飛行を30分ほど行えるぐらいのものだ。

最大出力ならば3分も持たないだろう。

そのため対艦攻撃後はそのまま全速で敵攻撃圏内から離脱、出来る限り迅速にエネルギー供給エリアに入ることだ。

「敵艦隊前線部隊と接触まで後10分」

「対艦・対空戦闘用意! ミサイルランチャー、高射砲台支援攻撃用意。管制はマニュアル!」

「完了! 当初の命令道理に目標セット!」

「距離800で攻撃開始。ランチャーは第一射で防御体制。砲台は撃ち続けろ!」

「命令受諾」

そして、赤い点からなる円がじりじりと近付いてくる。

基地を中心とした青のラインに敵が接触した途端、司令が命令を発した。

「攻撃開始! 連中に我々の力を見せてやれ!!」

威勢のいい返事と共に空が煙と火線で覆われた。

 

 

「HQ、HQ応答してくれ。くそっ、連中は別働隊まで用意してやがった。ゾーンA30より機動兵器50機接近中。これより交戦する!」

ロウェル中尉はそう叫ぶと右手に見える黄色い機動兵器の群れを見て舌打ちした。

こちらに向かって一直線に進んでくる。

機体を旋回させ、バッタの群れへとコースを変える。

高度1万メートル。敵はそれよりも2000メートル下方に位置している。

NDLS――ナノマシン・データ・リンク・システム――内蔵のスロットルレバーを軽く押し、速度を上昇させながらバッタ達と同高度まで降下する。

 

現在、兵器群の操作方法は三つある。

一つは従来と同じマニュアル操作。これらは主に艦や地上の固定砲台などだ。

もう一つがIFSと呼ばれ、連合軍を含める大多数の機動兵器に使用されている操作方式だ。初期の簡易型からネルガルの最新型までいろいろある。

そして最期に、機動軍のみが使用しているNDLS。これは基本的に言えばIFSより性能がよい。民間用、軍用、特殊型の三つに分類されるが、基本的に情報端末とのやり取りが可能なIFS、とでも言えばよいか。

一応IFS対応のシステムも使用できる。機動軍での機械類の操作は大抵NDLSである。また、IFSのように常時ナノマシンの紋様が現われることも無い。

 

「ちくしょうが!」

内臓が押し上げられるのを感じながらロウェル中尉は毒づく。

先程対艦攻撃をしてしまったために主動力は燃料切れにより完全停止。現在はバッテリーでの飛行をしている。

本来、スノウティアの主動力であるレーザー常温核融合炉はバッテリーとの並行使用で3分間の最大出力を発揮したあと、一旦通常レベルまで下がり、バッテリーを充電し終わると再び三分間だけ最大出力での機動をする。ということを繰り返せる。

しかし、火星……特に木星蜥蜴が侵攻してきてからは燃料である重水の補給が追いつかなくなっている。

基本的に水のなかに含まれている重水は21世紀後半から科学的に生産できる。しかし、火星では水自体が貴重なのだ。

飲料水である水とのバランスを考えながら重水を精製しなければならない。

現在は週に一度敵の制空権内を強行突破し付近の湖から水を補給しているが、それが出来なくなれば戦力の3分の1であるスノウティア全機が使用できなくなってしまう。

それほど苦しい状況に立たされている。そのために一回の出撃にあたり最小限の燃料しか補給されないのだ。

「…いけるか?」

バッテリー残量を気にしながら、兵装セレクト。

『アームズ1、セット』

搭載された簡易AIが音声で設定変更を報告する。

主翼の付け根に装備された20ミリ巡航機関砲を選択し、正面のバッタに照準、発砲。

電磁加速された20ミリ徹甲焼夷弾はバッタのフィールドを貫き、内部を焼いて、撃破する。

「もうすこしでエネルギーエリアだというのに…」

毒づき、機体をロールさせながらバッタの群れにつっこみ、二度発砲。そのどれもが一撃のもとにバッタを粉砕する。

初期のバッタは兎も角、今は低出力ながらも一応ディストーションフィールドが装備されている。

そのバッタには従来の20ミリバルカン砲が無力な事が明らかになり、スノウティアの機銃は電磁加速型20ミリ巡航機関砲20ミリレールガンに変更された。火力上、バッタを一撃で撃破出来るが連射速度が分間60発まで低下した。

ベテランが扱えばバッタに対しても有効だが素人が扱えば無駄弾をばら撒く機銃だ。

しかし、現在の機動軍スペシャルネイヴィには素人など居るはずも無く―人員の補充も出来ず、素人が居たとしてもすぐに死んでしまう―なんとかなっている。

そして彼ロウェルには今の状況ではありがたかった。

レールガンということは電磁加速である。電磁加速といえば電力を使用する。それも、かなりの出力をだ。

バッテリーの残存が気になる彼としてはこれが従来の機関砲並の連射速度を持っていたのならばとっくの昔にバッテリー切れを起しているということで、連射速度が遅いのはありがたかった。

「くそっ…ミサイルが来るか?」

樽の外周をなぞりながら回転するような機動マニューバでバッタの機銃を回避しながら反転。再び突撃し2機を撃破。その後にエネルギーエリアへと一直線に突き進む。

「分の悪い賭けだが…」

彼はそう言ってスロットルを全開にした。重力波スラスタが全力で稼動し、機体が跳ねるように加速する。

バッタの群れをぐんぐん引き離していく。

 

ピィィィィィィィィィィ…

 

後部警報。どうやら敵にロック・オンされたらしい。続いてバッテリー警告。既にバッテリーゲージはレッドだ。

 

ガスッ

 

急に速度が落ちた。スラスターがフレームアウトしたのだ。

そして計器類がダウンする。どうやらバッテリー切れらしい。

後ろを見ようとして、彼は諦めた。バッテリー切れということはコクピット外部を投影するモニターが死んでいるということで、後ろを見ても意味がないからだ。

どうせ、やや離れたところからバッタに内蔵された小型空対空ミサイルが発射された際に出る白煙が盛大に吹き上がっていることだろう。

しかし彼は諦めてはいない。それどころか口元に笑みを浮かべている。

「どうやら…賭けに勝ったようだな」

そう彼が呟いた瞬間、ダウンしていた計器類が再起動した。

バッテリーゲージが『Charging OutsideLine Supply』と表示された。

エネルギー供給エリアに入ったのだ。

「よし!」

 

ビィィィィィィィ!


 

後方からミサイル群が迫ってくる。後部センサーが先程よりも耳に響く警報を発する。

その警報音はコクピット内にやかましく鳴り響いた。

「うるさい! 黙れ! んなことたぁ分かってんだ!!」

計器を殴りつけると、機体を急旋回させる。

その強烈な横Gに体が悲鳴をあげるが、追って来たミサイル群のほとんどはGに耐え切れず空中分解した。

機首を上に向け上昇させる。フレームアウトしたときにも相当な速度だったのだ。短時間とはいえ機首が下がった状態で高速移動すれば当然高度は下がっている。

だから上昇したのだ。

高度を上昇させると再び敵を正面にし、機銃を発砲する。

何せ小口径とはいえレールガンである。通常の機銃とは射程も火力も違う。

「エネルギーさえあれば…こっちの勝ちだ!」

そう叫ぶと彼はフルスロットルでバッタの大群へつっこんだ。

 

 

「敵艦全て撃沈! なお12機損傷! 小破8中破3被撃墜1」

「撃墜された機体のパイロットは?」

オペレーターの報告を聞き、司令は問い掛けた。

この基地において人材は貴重である。機体よりも人命のほうが優先されるのだ。

「ベイルアウトを確認。僚機に回収されました」

「分かった。引き続き残存戦力を掃討しろ。弾薬が損耗した機体と被弾した機体は下がらせろ」

「ヤーフォールグ」

「偵察6番機、敵機動兵器群撃破。主翼に3発ほど被弾したそうです」

「帰還させろ」

「了解」

一通りの指示を出し、司令は椅子に腰を降ろした。

額の汗をぬぐい、手袋を外しながら一息つく。

「何とか…今日も生きられたようだな。しかし…いつまで耐えられるか…希望的観測は無用だな」

彼が見つめる正面スクリーンには最後の赤い輝点が消えた。

 

 

 

 

ナデシコの居住区。パイロット用の物は一人一部屋がほとんどだ。

その中、テンカワアキトの部屋に三人の男女の姿があった。

部屋の主であるテンカワアキトと弟で隣の部屋の主であるテンカワカイト、同僚のミズキレナの三人だ。

「ここにキノコが乗っている」

アキトの重い声でその場の全員が殺気を隠さず、表へと出す。

「…やはり、殺すか?」

「ナデシコ内での殺しはな………脅して、ご退場願う」

「例の通信記録は私の部屋に…あれ?」

レナの正面にコミュニケとは違う空中投影ウインドウ、機動軍採用のAirLaserScreenが展開された。

「どうした?」

「…連合軍よりナデシコの拿捕が命令されたようです」

怪訝そうなカイトに対しレナが説明した。

「あいかわらずだな、連合は」

「まあ…それこそが今日まで連合を存在させていたんですけどね」

苦笑しながらレナは次の行動を質問する。

「ということはココに居る軍人は艦内制圧に出るな」

「各自私物を教えてくれ」

カイトの言葉にアキトが口を開いた。

私物とは、『私物として持ち込んだ武器』のことだ。

「俺は45口径とスプラットライフルだ。後はナイフくらいか?」

「俺はカイトの装備に大型ブラスターだな」

「私はMk80、スプラット、12.7ミリMG、ナイフ……そしてハリセン各種ですね」

カイト、アキト、レナがそれぞれ指折りしながら答える。

「ハリセンか…懐かしげな」

アキトが苦笑しながら言った。

レナの改造癖が生み出した数々のハリセンは武器にも使えるものがある。

何度かその犠牲になった経験があるアキトとしては、懐かしい以前に恐怖の対象でもある。

…………お仕置きよりは怖くないようだが。

「まったく。面倒なことに代わりは無い」

「そうですねぇ。蜥蜴用なら『あきづき級』でも建造してればいいのに」

カイトの呟きにレナが相槌をうつ。

ちなみにあきづき級は、機動軍が新規建造しているともっぱらの噂である防空巡洋艦だ。

主な特徴は対DFとして従来のレーザー兵器から実弾系・高初速弾である電磁加速砲に切り替えているところだ。

何せ、対空機銃・主砲・副砲すべてが電磁加速砲。ミサイル発射管を除けば武装はすべて電磁レールガン。

しかも試験的にディストーションフィールドも搭載しているらしい。

一応、機動軍作戦部長サキ・ランスバール中将が唱える機動軍再生計画の目玉らしい。

「あれ? 機動軍って戦力はほとんど解体されたんじゃ…」

アキトが首を傾げる。

連邦機動軍と名の付く軍隊は実質地球圏を制覇したともいえる連合・連合軍に取って代わられ、規模を縮小されていた。

もともとが一国の軍隊なのだから当たり前といえば当たり前なのだが、数に対して平時の維持費がかかりすぎるというのが縮小の表向きの理由だ。

実際には連合の圧力がかかったなどと、いろいろな噂がある。

「この非常時にはそれも通用しなかったんですね。これが」

おし寄せてくる木星蜥蜴に対して連合軍は虫の息。使えるものは使ってしまえ、ということでモスポールされていた機動軍艦艇が再び日の目を見ると同時に大規模な建造計画も立ち上がっている。

ということで、新生連邦機動軍の登場になったのだ。

「なるほど…まあ、機動軍はナデシコに干渉しないんだろ?」

「『再編成に忙しくて動かせる艦艇なんか救命ボート一艘もだせん』が、3日前の誰かさんの台詞です」

「なら、やっぱりキノコと連合だよなぁ」

カイトがめんどくさそうに呟いた。

「まあ、仕方ない。恨みは面倒ごとやらかしたキノコにぶつけるとして……各自武器隠しもって連中の制圧まで適当に待機していろ」

「「了解!!」」

アキトの言葉にカイトとレナが敬礼しながら答えると、それぞれが部屋を出て行く。

二人が出て行ったあと、アキトは大型のブラスターを隠し持つと食堂へと向かっていった。





あとがき
ども。遅筆なKEIです。
第三話をお届けにあがりました。
それとなんですがね………第二次αの魅力と重力に逆らえず、また4話のお届けタイミングが遅れそうです(汗
読んでくれてる方、すみません。
今、簀巻きにされてアキト君達にまだまだ冷たい日本海へと放り込まれようとしてます。
丁寧におもりつきです。逃げ出せそうにありません。
生きて帰れるか、微妙なところです。
あ、あと…

「「「せーのっ!!」」」

ドバッシャーン!



管理人の感想

KEIさんからの投稿です。

何だかトラウマと化してますね、ユリカとの過去が(苦笑)

無理矢理レナを彼女にしてまで、その追撃を逃れるとは・・・

今後はやはり、キノコ狩りへと続くのですが、どんな目にあわすことやら(笑)

 

では、無事に日本海から帰還される事を祈っております。