守護者、そして……

プロローグ2





突然火星を襲った謎の艦隊は瞬く間に火星防衛軍と連合軍火星駐留部隊との戦闘に突入した。

それに伴い、付近を航行中の連合軍艦隊も急行し、歴史上まれに見る大規模艦隊戦闘の火蓋が落とされた。

しかし、圧倒的物量差で連合軍と火星防衛軍の勝利と思われたこの戦闘は、連合軍及び火星防衛軍の敗北に終わった。

相手はこちらの攻撃をほとんど受け付けず、また敵母艦と思われる物体からは『無制限』のごとく敵艦や敵機動兵器が吐き出され物量差による勝利は難しかった。

結果、敵母艦―後に連合軍はチューリップと命名した―にフクベ・ジン提督が旗艦の体当たりという荒業で大破させ、ユートピアコロニーに残骸が突き刺さるという事態が発生。

また全艦隊の70パーセント以上を失うなどの被害を出し連合軍は撤退。

残って火星住民の避難を続けた火星防衛軍は90パーセント以上が壊滅した。

この戦闘は後に第一次火星会戦と呼ばれることになる。




ユートピアコロニー郊外のシャトル空港周辺では先程から激しい爆発音が続いていた。

しかし、空港自体にたいしたダメージは無い。

その原因は四機のエステバリスだった。


「隊長! マズイぞ、これは!!」


紫一色に塗装されたエステバリスが、レールライフル(レールマシンガン)と呼ばれるレールカノンのマシンガンバージョンをフルオートで敵機動兵器に当てて上昇する。


「分かってる!」


漆黒のエステバリスが両手に持ったそれぞれのレールライフルの弾丸を周囲にばら撒き、接近している敵機動兵器を蹴り落とす。


「アキト! 十二機目のシャトルがでるぞ!!」

「分かった! 全員派手にやって敵の注意をこっちに引き付けろっ!」


紺色のエステバリスが放った弾丸が、アキト機が蹴り落とした敵機動兵器に命中し、四散させる。


「了解。私の目の前にいないで下さいね!! バッタ落としです!」


超高速で白いエステバリスがバッタ(白いエステバリスパイロット命名)の群れに突入し、連続した爆発音が起こる。

そして白煙を噴き上げながら避難民を乗せたシャトルがまた一機、宇宙(そら)へと上がっていく。

シャトル空港が無事なのは彼らのおかげだった。

火星防衛軍機動兵器師団第08小隊。通称、守護者(ガーディアンズ)。

近年地球に本社をおくネルガル重工が開発し、プロトタイプがテスト用として火星防衛軍に大量に配備された。

それに伴い火星防衛軍は機動兵器師団を編成。20近い小隊がエステバリスを保有した。

中でも改造した四機のプロトタイプエステバリスを保有している部隊があった。

それが彼ら08小隊であり、メンバーは一騎当千と呼ばれ有名になったパイロットたちだった。

しかし、流石の彼らも圧倒的物量差にかなうわけは無く、シャトル空港を守り抜くのに精一杯だった。

続いて白煙が噴き上がる……U.N.S.Fとペイントされ、連合宇宙軍の識別コードを発している輸送母艦が。


「こちら火星防衛軍機動兵器師団第08小隊隊長のテンカワ・アキト少尉! その母艦! どういうつもりだ!?」


漆黒のエステバリスのパイロットであるアキトが怒鳴る。


『五月蝿いわね! 決まってるじゃないの、逃げるのよ。火星住民と心中なんてごめんだわ。大体連合軍はもう撤退してるのよ。私たちが逃げたっていいじゃないの』

「貴様ぁっ!」

『確か、お前はムネタケ・サダアキだったな。憶えておく』


紺のエステバリスパイロット、アキトの双子の弟のテンカワ・カイトが冷たい声で言った。


ムネタケ・サダアキ中佐。

連合宇宙軍中将ムネタケ・ヨシサダの息子であり下位の者を見下し、上位の者には尻尾を振るという噂で有名な佐官だ。

今回は火星防衛軍との共同作戦でユートピアコロニー周辺の指揮をとるはずだった

しかし戦闘開始と同時に『自分を守れ』だの無茶苦茶な命令ばかり発し、各部隊が命令無視を決めてしまった原因である。

おかげでまともな指揮もされずに各部隊は戦闘に突入し、面白いように撃破されていった。

この戦いでの指揮官がもっとまともな人物だったら敵にもう少しダメージを与えられていただろう。


『今の通信記録は押さえました。後で覚えておきなさい!』


白いエステのパイロットで08小隊唯一の女性、ミズキ・レナがムネタケを睨みつける。


『勝手にしなさいな。生き残れたら……ね』


嫌な笑い声とともに通信回線が切断された。

後に残されたのは四機のエステバリスと四十機近い非武装の民間シャトルだけだった。

全員の頭に『絶望』の二文字が浮かび上がる。


「全員何をしている!? 空港を守れっ!!」


紫色のエステから通信が繋がり、それによって全員の意識が戦場へと向けられる。


「助かったアレス!」

『そんなことを言う暇があったら……バッタを叩き落せっ!!』


敵の周囲網が若干狭くなったがまだ問題はない。

彼らは再び戦闘を再開した。




三日後、


彼らはいまだに戦っていた。

エネルギーは空港に新設されていた発信機により送信され続けている重力波ビームにより切れることは供給範囲外に出ない限りなかった。

しかし、パイロット・機体共既に限界だった。

この三日間、ろくに休みもせずシャトル空港を守っていたのだ。当然だろう。


「弾切れだ」

『こっちもだ』

『同じく』

『私もです』


撃ち尽くしたレールライフルを投げ捨てて(レナ機はレールカノン)遠くから侵攻して来る敵艦隊を見るアキトたち。

これまでにない大戦力である。しかも飛び道具の弾は丁度切れた。


「悩んでも仕方がないか。全機、イミディエットブレード装備。これより斬りあうぞ」

『『『了解!!!』』』


全機がイミディエットナイフの刀身を長くしたブレードを構える。


「レナ! 先陣は任せる」

『了解です』


直後にレナが突入し、一秒遅れで他のエステも突入していった。




バッタを叩き落している頃、奥にいた戦艦の船首にエネルギーが集束していく。


「!? グラビティブラストを撃つ気か!?」

『何だとっ!? 最後の大型シャトルが出るってのに…』


バッタの厚い雲に覆われているために突入すら難しい。


『全機、俺の援護をしてくれ。それとバッタの注意をそちらへ』


アキト達にアレスから通信が入る。


「いいが……どうする気だ?」

『ふっ……見てのお楽しみに決まっている』


そういうやいなやアレス機、プロトタイプエステバリスカスタム04号機『プロビデンス』は加速する!

バッタたちの攻撃や護衛官からの攻撃を必要最低限の動きで回避し、突入!

肩に攻撃が着弾し、右腕が脱落してしまったプロビデンス。

しかし、アレスはプロビデンスをさらに加速する。

戦艦のディストーションフィールドをブレードを犠牲にして突き破り、グラビティブラストの砲門の下にとりつく。


『アキト、カイト。お前達と出会えてよかった。お前達と出会わなければ俺は一生くだらない人間で終わっていただろう…』


アレスの通信が全機にリンクされる。


『アレス!! やめてっ!!』


アレスが何をするか気付いたレナが大声を上げる。


『レナ…何度も助けられた。本当に感謝している。できればもう少し一緒に居たかったが無理らしい。今まで面倒かけてすまない』

『…そんなこと……ないよぉ……』


レナの嗚咽がコクピットに響いた。


『愛している。何時までも』


グラビティブラストが集束し、発射態勢に移る。


『御武運を。貴方達と出会えて光栄です。貴方たちは最高のチームです。その一員となったことを俺は誇りに思います。願わくばこの先、貴方がたが進む道に幸多きことを』


その声を残してプロビデンスは自爆した。

アサルトピットに内蔵された高性能爆薬に火がつき、戦艦を吹き飛ばした。

フルチャージされたエネルギーとエンジンのエネルギーが一斉に解放され辺りに襲い掛かった!

誘爆。

それによりチューリップが吹き飛び、護衛艦を巻き込んでいく。

周囲に残ったのは、プロビデンスが予備として持っていたブレード一本。

ブレードはまるでアレスとプロビデンスの墓標のように、火星の大地に突き刺さっていた。


『『『アレスーーーーーーーーっっ!!!!!』』』


三人の叫び声が辺りに響いた。

その後ろではシャトルが宇宙へと飛び立っていく。アレスが己の命をかけて守ったシャトルが。




「あああああああああ!!」


狂ったようにレナのエステが残りのバッタ目がけて突入し、斬り裂き、斬り裂き、斬り裂いてゆく!!


「おおおおおおおおおおぉぉぉぉっっっ!!!」

「死ねえええぇぇぇぇぇぇ!!!!」


アキトとカイトもそれにならうように無茶苦茶に手当たりしだいバッタを斬り裂く。

全員の目からは涙がとめどなく流れていた。

その時、ソレは起こった。

まずレナのエステ―03号機、アブソリュート―の両腕が吹き飛び、続いて脚部が脱落し崩壊する。


「なっ……動いて…動いてアブソリュートっ!!」


しかしその願いはかなわずにアサルトピットは地面へと叩きつけられる。

それに倣うようにアキト機―01号機、サレナ―とカイト機―02号機、ナイト―が崩壊し始める。


「何故だっ!?」


アキトが叫ぶ。

それすらも虚しくコクピット内に響くだけ。アサルトピットは地面へと墜落する。



数日間連続で戦闘し、機体に負荷をかけ続けた。

ろくに整備もしないでの長時間の高機動戦闘。

突然というより、この事態は当然といえた。

ここで言っておこう。

彼らに非があるという訳でもない。

彼らが悪いという訳でもない。

彼らには整備する時間も、修理パーツや工具すら無かったのだから。

敵は彼らに休息を与えずに連続した波状攻撃をしてきたのだから。

むしろ、ここまで持ったのをほめるべきだろう。



崩壊したアサルトピットから三人ははいずりだした。そして寄り添うように集まる。

周囲は赤いセンサーアイを光らせたバッタの群れ。

もう彼らに抵抗する体力など存在していなかった。そんなものはとうの昔に尽きている。

今まで気力でカバーしていたに過ぎない。


「あの世への道連れはもう少しおおけりゃよかったな、アキト」

「ああ…どうせならここにいる奴等を俺とカイトとレナと…アレスの道連れにしてやりたかったよ」

「アレス……ごめん、今いくから」


そして三人はゆっくりと目を閉じた。バッタが近づいてくる音が聞こえる。

三人の体が発光する。バッタが攻撃を繰り出す前に三人は………消えた。




――こうして第一次火星会戦は幕を閉じた。

多大な死者を出した戦闘はそのほとんどが民間人という結果。

奇跡的にも08小隊の送り出したシャトルは五十機全て、無事に地球にたどり着くこととなる。

そしてこれが数々の悲劇を生み出す悲しい戦争の始まりだった。

後世の歴史評論家たちは第一次遺跡戦争と呼び、今後五十年以上の間に何度も勃発した遺跡戦争のはじまりでもある。


<遺跡戦争とその悲劇(西暦2384年発行)より抜粋>



あとがき


……とみせかけて独り言(笑)


ようやくプロローグ終了。

皆様お気付きの通り、ミズキ・レナはプロローグ1にて逆行したこの物語の第二の主人公です。

(第一はアキト&カイトコンビ)

ここで一言。遺跡戦争は設定上、最終的に17回発生しました。そのキーとなったのは火星遺跡、そして初代ナデシコ〜ナデシコC、ユーチャリスまでの関係者とその関係者……という設定です。

しかし! ………絶対書きません。ええ、書きませんとも。(書けないともいふ)

数々の悲劇……シリアス&ダークと思われそうですよね。

でも、どっちかというと明るい方です………予定としては

それでは次回の執筆に取り掛かります。