突如として変貌を遂げる熊の獣人。

イヤ、変貌というレベルを超えている。

しかも先程より状況は悪化しているといっても過言じゃない。

 

 

 

「グルルルルルルルルル・・・・・」

 

 

自分の置かれた立場を把握していないのか・・・それとも把握するだけの知性がないのか・・・・

白銀の獣は唸り声を上げて辺りを見回していた。

 

少しの間下を見回した後、今度は城に向かって吠え出す!!

 

 

「WOooooooo!!」

 

 

カッ!!

 

 

                                レーザー・ブレス
咆哮と一緒に吐き出される金色の閃光の吐息が城に向かって伸びてゆく・・・・

金色の閃光は城の一部を蒸発させそのまま空へとのびていった・・・・・

 

(気のせいかあの閃光・・・ディルスで見たメフィちゃんがやったのとよく似ている気がするな・・・・

それよりも・・・あれはとてもじゃないが携帯用のディストーション・フィールドの出力では

耐えるどころか周りごと蒸発させられかねない・・・・

下手な戦艦なら一撃で沈められるぐらいのエネルギーがあるんじゃないのか?)

 

 

俺はあれが自分を直撃する光景を頭の中からうちはらう。

 

 

「ねぇアキト君」

「なんですか?」

       大きなワンちゃん
「あの 白銀の狼 のお相手と残った人達13人のお相手と・・・・どっちが良い??」

「レナさんはどっちが良いですか?」

                     武器        ワンちゃん
「私がもっているこの獲物じゃあ白銀の狼の相手はちょっと難しいわね・・・・」

 

 

                                      レ イ ピ ア
確かに・・・レナさんが持っている武器は細身の剣。

何らかの魔法がかかっているのか刀身には薄く蒼い光がまとわりついている。

              レイピア        白 銀 の 狼
いくらなんでもこの剣では あの生き物 の相手は厳しいだろう・・・・

 

 

「わかりました。あの生き物・・・・二匹を倒します・・・・」

 

 

こことは別の場所であの白銀色の狼が体を起こしているのが見える。

大体の見当でいくと・・・・あの場所は警備団本部・・・・・・

しくじったなロウさん達・・・・俺も人のこと言えないけど・・・・・

 

 

「(どうやらあっちでも同じことが・・・)―――――!!そのあと俺は城に行きます」

                      ル ナ                    ル ナ 
「そうね・・・・悪いけどあの子のこと頼むわね。あの子が手こずるほどの相手では

私は足手まといにしかならないから・・・・」

 

 

どうやらレナさんも感じたみたいだな・・・・城から伝わる二つの大きな闘気を・・・

おそらくはルナさんとニースだろう。

なぜ急に気配を感じられるようになったのかはわからないが考えるのは後回しだ。

 

 

「残りの獣人は俺が先に片づけておきます。後のことはお願いします」

「まかせておいて。アキト君も気をつけてね」

「はい!」

 

 

残りの獣人は5人・・・あの熊の獣人みたいな状況になれば後々厄介なことになりそうだ。

うまい具合にあの狼への進路上にちらばってくれている上に、

仲間の突如とした変貌に戸惑い、狼狽えて動きが止まっている。

 

 

「ではいきます!!」

 

 

俺は一気に走り出す!

すれ違いざまに進路上の獣人を切り裂き、巨大な狼もどきに接近する!

 

 

      レーザー・ブレス
(あの閃光の吐息を使う前に片を付ける!)

 

 

迫りくる俺を敵と認識したのか狼は俺に向かって口を開け、閃光を放とうとする!

 

 

 ファイアーボール
「火 炎 球!!」

 

 

俺は唱えておいた呪文を狼の口の中に投げ入れる!

かなり効果があったのか狼はその苦痛から逃れようと暴れ回る。

 

鎧の特殊性から見て獣人達が精神系魔法を受け付けないのはおそらく鎧のおかげだろう。

そうなると残るは高位な精霊魔法となるが生憎と俺はまだ覚えていない。

魔導士達の魔法が効果がないみたいだからそれもどこまで通用するかわからないが・・・・

咄嗟の思いつき     体内攻撃
苦肉の策 で 口の中ということなのだが・・・・どうやら正解だったようだ。

 

 

俺は白銀の狼の手前で跳躍して攻撃・・・・・

 

 

「―――――!!」

 

 

奴の体毛みたいに思える触手から閃光がほどばしる!!

 

 

「口だけじゃなかったのか・・・・しかしこの程度なら!!」

 

 

俺は最初は驚いたもののすぐに気を取り直し、閃光を回避しながら狼に迫る。

そして一気に狼の首もとめがけて跳躍する!

 

 

 

斬!!

 

 

 

俺はすれ違いざまに白銀の獣の首をDFSで切りとばす。

 

白銀の獣はその巨体を地面に横倒し・・・事切れた。

幸い魔導士協会の前は大きな広場だったので民家が崩れるなどの被害は最小ですんだ。

 

俺はその様子を近くの民家の屋根に着地しつつ確認した。

 

 

「とりあえず一匹・・・・次は敵意のこもった視線で俺を睨んでいるロウさん達の狼だな・・・」

 

 

奴は同類を倒したことで俺を驚異に感じたのか、

ロウさん達を相手にせず俺に標的を変えたようだ。

 

 

                                                    間合い
(そっちの方が俺も余計な手間が省けていいが・・・この距離はちょっとやばいな・・・)

 

 

こちらに振り返り口を開けているのが見える。

 

この距離では先程の手は使えない。

                        レーザー・ブレス
たとえ使ったとしてもあの閃光の吐息の前ではかき消されるのが関の山だ。

その上俺には防ぐ手だてがない。

 

となれば取る手はただ一つ・・・・

 

 

(回避しながら近づいて一気に倒す!)

 

 

                屋根を飛び移った      レーザー・ブレス
そう考え、俺が行動を起こしたのと閃光の吐息が放たれたのと同時だった!

 

閃光が進路先にあった民家の屋根を蒸発させながら彼方へと飛んでいった・・・・

俺は屋根の上を飛び移りながら走り徐々に近づいてゆく!

 

 

 

「ガアァァァッッ!!」

 

 

 

レーザー・ブレス
閃光の吐息では俺の動きをとらえきれないと判断したのか、

狼はその巨体には似合わないほど俊敏な動きで俺を襲ってくる!

 

 

「近づいてくれるのなら好都合だ!!」

 

 

やはりある程度の知能はあるのだろうか、白銀の狼は触手から足止め代わりの閃光が放たれる!

その巨体にいくつもある触手から放たれる閃光である。

まるで空を埋め尽くそうとするかのように感じられる程の数だ。

 

俺は自分に向かって飛んでくる閃光のうち、あたりそうなのだけをDFSで捌きながら

白銀の狼の真下に潜り込みながら飛び上がる!!

 

 

「剣技! 竜爪斬!!」

 

 

白銀の狼の体に爪でつけられたかのような五条の傷跡が浮かび上がる・・・

直後、その傷にそって狼の巨体は切り裂かれた!!

 

 

俺は狼が完全にこときれたことを感じ、また現れないか周りを見回した。

 

 

(どうやらあれが最後だったみたいだな・・・残るデーモンはライルさんやロウさん達に任せよう。しかし・・・・・)

 

 

あの巨体が町中で暴れたからどうなるか・・・答えは俺の目の前にある。

                                   レーザー・ブレス
白銀の狼が通った後は瓦礫の山・・・閃光の吐息で一直線で削れた民家の数々・・・

 

全部が全部俺のせいとは言えないが・・・・・・・どうにも後味悪い・・・・・

 

 

(後で請求書まわされたりしたらどうしようか・・・・)

 

 

元の世界なら保険なり貯金があるのだが・・・

この世界ではただのコックのアルバイトである俺には被害金額を払うだけの金はもちろんない。

アルバイトで稼いだお金もほとんどは食費としてレナさんに納めた。

ちなみに残りは服などに使ったのだが・・・それは生活必需品なので仕方がないと思う・・・・

 

 

(・・・後で考えよう・・・いざとなったらアナスタシア女王に頼んでなんとかしてもらおう・・・・)

 

 

しかしこの考え通りに事が進めば二度と引き返せない何かがあるような気がしてならない・・・・

踏んではならない地雷原に迷い込んでしまったような・・・・・

 

 

(そんな事考えている場合じゃないな!!)

 

俺は不吉な考えを頭の隅に追いやり城に向かって走り出す。

 

 

城に大きな二つの闘気が感じられる。しかもそれはさらに高まっているようだ・・・・

感じられる氣に大きな差はない。どちらに戦況が有利に働いてもおかしくはない状況だろう。

 

俺は民家の屋根を跳び越えながら最短ルートで城門まで走った!!

 

 

 

 

 

 

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

 

そして俺が城門に着いたとき・・・そこは不自然なほどひっそりとしていた。

本来町がこの騒ぎなのだから警備の兵なりがいるはずなのだが・・・・

 

 

「そこで見ている奴。何か用でもあるのか」

 

 

どうやら先程からこちらをうかがっている奴のせいなのだろう。

 

 

「おや?ばれてしまいましたか?」

 

 

城門の上突如として姿を現す男が一人。

隠れていたのではない。なにもないところから忽然と現れた。

 

そこそこの顔立ち。特に鍛えていそうには思えない体つき。

特にへんてつもない神官服・・・ただし色は真っ黒・・・

 

色については俺も人のことをとやかく言えた義理ではないが・・・・

 

顔には張り付けたような笑顔。どことなくプロスさんに似ているような感じがする顔だ・・・

 

総合的に見ると決して人に害なす存在には見えない・・・見えないが・・・・

 

 

「魔族・・・そこそこ高位の・・・」

「そ・・・そこそこ・・・・・・これでもいちおう結構高位のつもりなんですけど・・・・」

「すまないな。なにせ出会ったことがある魔族というのがニースやグロウ、ゲイブだけだからな」

「そうでしたか。貴方がグロウさんが言っていた人間ですか・・・・それで納得しました」

 

 

                                        うなず
青年は何やら納得のいったような顔で一人頷いている。

 

 

「やっぱり奴の差し金か」

                                              頼 ま れ た か ら
「差し金なんて人聞きが悪いですね・・・ただ単にやむにやまれず協力しているだけです」

 

 

そして男は城門の上から飛び降り・・・羽毛の如く音もなく着地する。

 

 

                               グレーター・ビースト                           プリースト
「自己紹介が遅れましたね。僕は 獣  王 ゼラス・メタリオム様に仕える獣神官のゼロスと言います。

             プリースト
できれば『謎の神官』とか『正体不明の好青年』なんて呼んでほしいですね」

 

 

青年・・・ゼロスはなんの害もないような笑顔をしつつ自己紹介をする。

しかしそんな酔狂な名称で呼ぶ奴なんかいるのか??

 

 

「それはご丁寧に・・・俺の事は知っているようだが一応名乗っておこうか・・・

俺はテンカワ・アキト。この世界に住む者から見れば異界の人間だ」

 

「ええ、魔族の中では結構有名ですよ。魔法も使わず素手で純魔族を倒した人間だって・・・」

 

                          中級魔族のゲイブ
(う〜ん・・・・そうなのか?あの程度の相手を倒しただけで有名なのか??

ルナさんや北斗でも楽々やってのけそうな事なんだが・・・)

 

 

俺はこの世界に対する認識と基準がずれていることに首をひねる。

 

 

「ところでどこかにお急ぎですか?ここは一方通行なんですが」

 

 

つまりここは通さないということか・・・・随分回りくどいことを言う・・・・

 

 

「すまないが時間がないようなんでな・・・ここを素直に通すのか・・・

それとも俺と闘うのか・・・好きな方を選んでもらう」

 

 

俺は全身に蒼銀の昂氣を纏いながらゼロスに逆に問う。

 

城の方からは時々大きな振動が伝わってくる。

このままあの二人の戦いが過激になっていくと城はおろかこの国自体が危ない。

 

 

「リ、リナさんのお友達のわりには真面目な人ですね・・・・」

「俺は時間がないと言ったはずだ」

 

 

俺は腰に下げてあったDFSを掴む。

 

 

「そんなに凄まないで下さい。僕は結構気が小さいんですから・・・・・通ってくださって結構です」

 

 

ゼロスは引きつった笑い顔をしながらいともあっさりと俺を通す。

逆にここまであっさりといくと不安になってしまう。

 

 

「いいのか?そんなに簡単に俺を通して・・・・」

 

「いいんですよ。所詮私は頼まれただけなんですから。痛い目をみるのは馬鹿げてますしね。

それに僕は勝算が少ない戦いはしないことにしてるんです」

 

「そんな事でいいのか?」

「それが僕の長生きの秘訣なんですよ」

 

 

ゼロスはウィンクをしながら断言した。なかなかいい根性をしている。

 

 

(長生きって・・・そうか。魔族というヤツは不老不死に近いんだったな・・・)

 

 

俺は相手にしている時間が勿体ないと判断して城に入る。

その後をなぜかゼロスがさも当たり前のようについてきている。

 

 

「なぜついてくるんだ?」

 

「案内役です。それにいまおこなわれている戦いは何万年ぶりかの神と魔の戦い。

見逃すにはかなり惜しいですからね。いや〜見に行く口実ができて嬉しいですよ、まったく」

 

「あの二人が本気で闘えばこの都市は消滅するほどの惨事になるというのに気楽だな」

 

「そこはそれ。所詮僕は魔族ですか人間がどうなろうが知ったことではありませんから」

 

「その割には人は殺していないな」

 

「気づいてましたか」

 

 

城門の影に転がされている人達。おそらくは警護か何かの人達なのだろう。

気絶はしているものの誰一人として死んでいる者はいなかった。

 

 

                                           スィーフィード・ナイト
「殺す必要もありませんでしたし・・・なにより『赤の竜神の騎士』殿に人を殺すなと言われてますから。

上司の命令ならいざ知らず、頼まれごとであの人に手を出したくはありませんしね」

 

「もしあそこで人を殺していたなら問答無用で俺もお前と闘っていた。かなう敵わないは別としてな」

 

「謙虚ですねぇ・・・僕が楽に勝てる相手だったら城門を通してませんよ」

 

「そんなものか?」

 

「そんなものです・・・・そろそろ戦いの場に着きますね・・・

あの先の広場の向こうがその様ですね・・・」

 

「ああ、そうみたいだな・・・・(謁見の間か・・・確かに大きさには不自由はないが・・・・嫌な予感がする)」

 

 

謁見の間の入り口は荘厳な扉があったのだが・・・・どうやら何らかの衝撃で吹き飛んだようだ。

いまはその残骸が名残としてあるだけになっている。

 

 

俺は気配を絶ちつつ中の様子をうかがう。

 

 

そこでは赤い闘氣を纏う戦士達が激戦を繰り広げていた!

 

 

 

 

 

 

(第十五話に続く・・・・)

 

 

―――――あとがき―――――

 

どうも、ケインです。

今回はゼフィーリアで暴れるアキトでした。

 

アキトの強さを表すことが出来たのかどうかは不安ですが・・・・・まあ開き直ります。

今の私ではこれ以上は無理ですから・・・・・

 

今回の話でいろいろと以前見かけたものが現れてきましたね・・・・

白銀の獣やら上半身で元気に生きてるやつとか!!

 

ただ単の思いつきで出したのではないのであしからず。ちゃんとあれこれと裏でつながっております。

 

次の話はルナさんがほぼ中心になる話になります。(大体7割程度かな?)

ニースとの闘いの行方は!?(大層すぎるかもしれないな・・・・)

今回のサービスは年賀状でほしいかどうか言ってください。ただし次の話の前編のみ(まだできてないので・・・)

今回は新年の記念として全員に送ります(ほしい人だけですが)いないかもしれませんが・・・

最後に・・・K・Oさん、強さん、皇咲さん、鳳凰さん、Sakanaさん、watanukiさん。

涼水夢さん、encyclopediaさん。あと、名前を書いてない方も一人いましたが・・・

感想ありがとうございます。

 

では第十五話「それぞれの戦場・・・《ゼフィーリア・サイド》」で会いましょう。

 

 

代理人の感想

出たッ(笑)!

謎の神官、ノリと気分で滅びを振りまく笑顔魔人!

高位魔族の癖に人間の精神攻撃(「生きてるって素晴らしい」攻撃とか(爆))には妙に弱い、

あの正体不明の獣神官が遂に出ました(笑)!

しかも不真面目(爆笑)。

 

やっぱりね〜、こうでなければゼロスとは言いがたいですね(爆)。