私は自分の手の中にある長さが半分になった刀身に視線を落とす。

 

 

 

 

どうやら・・・・私の負けらしい・・・・・

 

 

「勝負・・・・・あったわね・・・・」

「ああ。互いに相討ちといったところだな」

「え?!」

 

 

 

ピシピシピシッ―――――ガキンッ!!

 

 

 

ニースの言葉に驚く私の目の前で・・・・赤き魔剣の刀身はひび割れ、半ばから砕けた。

 

確かに相討ちらしい。

 

 

 

 

―――――その時!!

 

 

 

 

私とニースとの間を何かが通り抜ける!

その何かは三条の赤い軌跡を空間に描き、真っ直ぐに女王達の方に向かって飛んでいった!!

 

 

 

 

 

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

(いまだ!!)

 

 

俺は二人の剣・・・正確にはニースの剣が砕けたことによって

女王達を人質にとっている奴等が動揺した瞬間を狙い、

フェザーを装填したブラスターの引き金を引いた!!

 

 

 

ガガガゥン!!

 

 

 

連続で三連射したため音がつながって聞こえる。

 

フェザーは空中に真紅の軌跡を描きながらルナさんとニースの間をくぐり抜け、

攻撃を防ぐはずの結界をものともせず、

女王達の近くにいた三人の襲撃者の頭を寸分の狂いもなく眉間を貫いた!!

 

 

 

(良し!!狙い通りだ!!)

 

 

 

俺の全てを賭けた三発は見事に役目を果たしてくれた。

 

比喩でも誇張でもない、全てを賭けた最後の三発だった。

俺がこの世界に着いたときにデーモン相手に盛大に使ってしまったために残弾が少なくなっていたのだ。

 

 

拾いに行こうかとも考えたのだが・・・・

普通の弾と違い木や岩などで止まるような生やさしい物ではない。

少なくともあの森より彼方へと飛んでいっただろう。

 

いま撃った三枚のフェザーも城の壁に穴を開けて飛んでいった。これも回収不可能だろう。

 

 

 

(とにかく後はあの四人に任せ・・・・・って心配は無用か・・・・・)

 

 

 

 

 

 

 

           わたくし
「いつまでも 私 に触らないで下さい!!」

 

エルさんは喉元に突き付けられた刃をものともせず、腕を抱え込み襲撃者を背負い投げの要領で投げる。

地面に叩きつけるのではなく、途中で手を離し文字通り投げていたが・・・

魔導士という職の割には一介の戦士よりもなめらかで素早い動きだった。

あれでは不意をつかれる形となった男は為す術もなく、受け身もとれない形で床に倒れた。

 

 

 

「あんたもいつまでもあたいに触ってんじゃねえ!!」

 

 

こちらはアリスちゃん。彼女は男が反応するよりも早くしゃがみこみ、肘で鳩尾を痛打する。

全体重がのるように繰り出した肘だ、小柄な体格とはいえかなりの威力がある。

並の人間では当分の間、胃が食べ物を受け付けないだろう。

 

アリスちゃんは男がうずくまろうとするよりも先に後ろに回り込み、蹴りを放つ。

何らかの技でも使ったのか、男は前方に跳ばされ、エルさんが投げた男にぶつかるように倒れ込む。

 

 

「エル!!」

                 ブラスト・アッシュ
「わかっています。黒 妖 陣!!」

 

 

ドゥムッ!!

 

 

倒れた男達を包むように黒い何かが発生した。

その何かがおさまった後、そこには男達のなれの果てと思われる黒い塵しか残されていなかった。

 

この二人は怒らせないようにしよう。俺は頭の片隅に刻み込んだ。

 

 

 

 

 

 

「―――――ハッ!!」

 

レニスは男が持っていた刃を叩き落とし、男を殴り飛ばした!

どうやら身柄を拘束された際、持っていた武器は取り上げられたみたいだ。

 

しかしお粗末なのはその武器を男が腰に差していたことか・・・・

レニスは殴り飛ばすと同時に剣をつかみ、その手に取り戻していた。

 

 

「この国に仇なすモノは全て切り伏せる!!」

 

 

レニスの持つ剣が白き炎を纏う!

次の瞬間、男は肩から脇にかけて切り裂かれ、返す刃で左右に別れた。

 

計四つに裂かれた男の亡骸は燃え上がり、鎮火の気配すら感じさせず灰となった。

 

 

 

 

 

 

 

「皆に負けてられんな!」

 

ガイウスさんは喉元に突きつけられたナイフの刃を素手で掴み、

 

 

バキン!

 

 

そのまま握りつぶした!

おそらく硬気功を使い、素手の硬度を上げたのだろう。

ガイウスさんならばたとえ鋼の剣であってもそう大した違いもなく握りつぶしただろう。

 

 

「貴様本当に人間か!」

「当たり前のこと言ってんじゃねぇよ。おまえらみたいなまがいモノの力と一緒にするな」

 

 

ガイウスさんは驚きに硬直した男を腕の一振りで弾き飛ばす。

 

 

「クソ―――――!?」

 

 

起きあがったと同時に既に目の前にいるガイウスさん。巨体に似合わないほどの神速だ。

 

 

「破ッッ!!」

 

 

腰を落としたガイウスさんは一歩踏み込むと同時に男の腹に掌底を当てる!

男は音もなく、その場にくずれ落ちる。

 

倒れた時にはもうすでに事切れていた。おそらく頭で理解するよりも先に命が消えただろう。

 

 

「鍛え方がたらん。生まれ変わったらまた来い。一から鍛え直してやる」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「どうやら・・・人質は無事解放されたようだな」

 

 

四人の闘いぶりをながめ、他人事みたいに呟くニース。

 

 

「仲間じゃないのか?」

 

 

俺は入り口の影から姿を現し、ルナさんとニースに歩み寄りながら質問する。

 

ゼロスはいつの間にやらいなくなっていた。少しの間注意をそらしていただけにもかかわらずだ・・・・

逃げ足が早いのか・・・それとも引き際を弁えているのか・・・・どちらにしても厄介そうなやつだ。

 

 

「仲間・・・・・と言えば仲間だな。今回に限ってと付くがな。人質を取るつもりはなかったのだが

奴等が勝手にな・・・相手の力量すら見抜けないのだ。自業自得というものだ」

 

 

ニースは俺に向きながら質問に答える。

いまは戦う意志は見られない。いまだけのようだが・・・・・

 

 

「やはりお前だったのか。テンカワアキト。」

「やっぱり気づいていたか」

「アキト君途中から気配がもれていたから・・・・私が気づいたのは最後の対峙の時だけどね」

「私も似たようなものだ」

 

 

おそらくフェザーを撃つために集中しだしたときからだろう。

気配を完全に殺しながらの集中はやはり無理があるようだ。

しかも三連射だし・・・・おかげでブラスターに組み込まれている回路の一部がおかしくなったみたいだ・・・・

     フェザーがない
まあ、弾切れだから良いけど・・・・ちょっと心許ない気もしないでもない。

 

 

「で?どうする?このまま帰るのか?それとも・・・・」

 

「今は戦う気はない。思う存分戦えたしな。

できれば今度はなんの気兼ねもなく全力で戦いたいものだ」

 

 

どこで戦うにしても人の迷惑は考えてほしい・・・

どう考えても未曾有の災害が起こりそうだ。

 

 

「私はもう勘弁してほしいわね・・・あなたとの闘いは疲れるわ」

 

「今はそれでも良い。二人が戦うのが定めであれば自然とその場は巡ってくる。

                                      スィーフィード・ナイト
では私の目的も果たした。また会おう。『赤の竜神の騎士』ルナ・インバース。

そして『異界の戦士』テンカワ・アキトよ・・・」

 

 

ニースはそう言い残すと虚空に姿を消した。

 

 

長い・・・・長い闘いの一日がやっと終わったようだ・・・・

 

 

「とりあえず女王様達の様子を見に行きましょうか」

「そうですね」

 

 

 

俺とルナさんは女王達のもとへ行こうとした・・・・

その横すり抜けるようにティシアちゃんがうつむきながらで走り去ってゆく。

 

 

「あ!ティシアちゃん!!」

 

 

ティシアちゃんは俺の方を少し向き、横目で俺を見るとすぐさま走り出していった。

 

一瞬だけだが・・・・俺には涙が見えた。

 

 

「あの・・・・大丈夫ですか?」

「ええ、アキト殿。私は大丈夫だけど・・・ティシアが・・・・」

 

 

アナスタシア女王はティシアちゃんが走り去った方を見やる。

 

 

「あの子はまだ修羅場というものが未経験なので・・・・緊張が切れたのでしょうね」

 

 

確かに・・・長時間、喉元に刃を突きつけられ人質となっていたのだ・・・・

心的な疲労はかなりのものになる。最悪の場合は心に傷を負うことになる。

 

しかしあの目は・・・・・・・

 

 

「ティシアちゃん・・・大丈夫かな・・・・」

「アキト君。ティシアをお願い」

「え?ルナさんや女王様の方が適任なんじゃあ・・・・」

 

「私や女王様では駄目なの・・・ティシアは私の前では強くあろうとするから・・・・

それにこういったモノは男の役目でしょ?婚約者なんだし」

 

                                                 身代わり      身代わり
(それは成り行き上なっただけのはずでは・・・・誰が味 方は!味 方はいないのか!!)

 

俺は周りを見回したが・・・・女王と四騎士はルナさんの言葉にウンウンとうなずいていた。

 

 

孤立無援というわけか・・・ニースでもいいから戻ってきてほしい。

本当に戻ってきたら困るけど・・・・・

 

 

「仕方がない・・・ですね。このままにしておくわけにはいかないし・・・・」

 

「すみませんアキト殿。たぶんティシアは自分の部屋に行ったのでしょう。

私達ではあの子を励ますことはできても慰めてあげることはできないんです・・・・・・・・

あの子を・・・・お願いします」

 

 

女王はこの国の主ではなく、一人の母親として頼んだのだろう。

俺はこういうのには思いっきり弱い・・・・・

女全般に弱いのでは?という電波はこの際無視しておく。俺は受信できないしね。

 

 

「あたいが案内するよ。こっちだよ」

「ああ、ありがとうアリスちゃん」

「ん、別にいいよ。私達もティシアのことが心配だしね」

 

 

そして俺とアリスちゃんはティシアちゃんの部屋まで歩いていった。

 

やはり先程の戦いの余波からか・・・所々にヒビなどが見える。

全面改修の必要があるだろう。

 

 

「結構被害がでてるね・・・・まああんな闘いが中であったからしかたないけどさ」

「町中まで衝撃を感じたんだよ?この程度ならまだ良い方だよ」

「まあそうかもね・・・・」

「それにあの二人が他を気にしないで戦ったらこの場所は瓦礫の山だよ」

「瓦礫すら残んないんじゃない?この街ごと綺麗さっぱりと・・・・」

 

 

確かに・・・あの二人なら生身でチューリップ殲滅できそうだしな・・・・

 

 

「あんたも似たようなもんでしょ?」

「まさか・・・・生身ではせいぜい瓦礫の山だと思うよ」

 

 

俺は予想できる被害の最小のものを口にする。

ちなみに最悪なのはこの街が激震と大竜巻の団体にみまわれる程度だと俺は思っている。

 

 

・・・・・たぶん消滅よりはましだと思う・・・・・・

 

 

「だから似たようなもんだっていってんの。大体さっきのアレってなに?魔法じゃないでしょ」

「フェザーのこと?・・・・確かに魔法じゃないよ。アレは俺の世界のものだよ」

「凄いね・・・ねえあたいにもくれない?」

「残念だけどさっきので打ち止め。もうなくなったんだ」

 

 

あってもあげるつもりはないけどね・・・ゼロスとの約束もあるし・・・・

そもそもIFSがないと使えないしね。

 

 

「ちぇ・・・・なかなか便利そうだと思ったのに残念・・・・・ッと着いたよ」

 

 

俺とアリスちゃんは一つの扉の前で立ち止まる。

 

 

「じゃあ後はよろしく」

「え?アリスちゃんは一緒に来ないの?」

「別に行っても良いけど・・・あたいが一緒だったら中であったこと一部始終全て女王様の耳にはいるよ?」

 

 

それは今から俺が親には言えない事をするようないい方じゃないか・・・・

俺ってそんなに信用ないのか?

 

 

「別に構いはしないけど・・・・変なことをするわけでもないし」

 

 

俺はジト目でアリスちゃんを見やる。

その意味が分かったのかアリスちゃんは慌てて手を振りながら、

 

 

「冗談だって!それに私もいない方が良いと思うよ・・・・

良くも悪くも昔から知ってる仲だしね・・・・やっぱりこの場合はあんた一人の方が良いんだよ」

 

 

アリスちゃんはちょっと寂しそうに目を伏せながら言う。

 

 

「だから・・・・ティシアのことお願い。適任なのはあんただけなんだ」

「・・・・・・わかった・・・・何とかやってみるよ」

 

 

アリスちゃんは俺の返事を聞くと少しだけ微笑んで来た道を戻り始めた。

 

 

(仲がいいんだな・・・・本当の姉妹みたいに・・・・・さて!ここからは俺が頑張らないとな)

 

 

コンコン・・・・・

 

 

「ティシアちゃん?アキトだけど・・・・良いかな?」

 

『・・・・・・・・・・・・・・』

 

 

返事がないな・・・・・確かにティシアちゃんの気配はこの部屋からする。

間取りまでは知らないからどこでどうしているかはわからないが

決して俺の声やノックの音が聞こえない位置にいるわけではないのはわかる。

 

 

 

ガチャ・・・・・

 

 

 

どうやら鍵を開けてくれたようだな・・・・

 

 

「入って・・・良いかな?」

 

「・・・・・・どうぞ」

 

 

ティシアちゃんの消え去りそうな声が扉の内より聞こえてきた。

まだ・・・・・泣いていたのかもしれない・・・・・

 

俺は少々迷ったが、意を決して扉を開け中に入った。

いつの間にか日は地平線にほとんど隠れているらしく、部屋の中は薄暗く沈んでいた。

 

ハッキリは見えないがティシアちゃんはベットの上に腰掛けているみたいだ。

俺はティシアちゃんから離れすぎず、近すぎすぎず・・・・普通の会話ができる程度の距離をとった。

 

 

「お母様に・・・・・言われてきたの?」

「まあ確かに頼まれたことでもあるけど・・・・でもそれだけじゃないよ。俺も心配だったから・・・・」

 

 

俺は包み隠さず全部話すことにした。

ティシアちゃんは聡明な子だから嘘を言ってもすぐにわかるだろう。

 

 

「ありがとう・・・・お母様やルナ姉様が気を使ってくれたんでしょ?」

「自分たちではティシアちゃんを励ますことはできても慰めることはできないって・・・・・」

「そう・・・・・・・」

「だからって訳でもないけど・・・俺で良かったら相談に乗るよ?」

「―――――!!」

 

 

ティシアちゃんの思わず息をのむ音が聞こえる。

 

もし・・・慰めるつもりであれば相談なんて言い回しは使わない・・・・・それがわかったのだろう。

 

 

「いつ・・・・・気が付いたんですか・・・・」

 

「最初・・・・すれ違った時は怖かったのかと思ったけどね・・・・

俺が声をかけて振り向いたときにティシアちゃんの目を見てね・・・・なんとなく違うなって思ったんだ。

確信したのは今さっきなんだけどね」

 

 

そう・・・・俺の見たティシアちゃんの目は恐怖に怯えていたわけではない・・・・

何かに憤り、くやしそうにしている目だった。

 

 

「・・・・・・・・・・・・・」

 

 

ティシアちゃんは再び黙りこくる。

沈んだ感じじゃないから何を言えばいいのか考えあぐねているのだろう。

 

俺はティシアちゃんが考えがまとまり話してくれるまで待つことにした。

 

 

「悔しかったんです・・・・腹立たしかったんです・・・・」

 

 

ぽつり・・・ぽつりと話しだす・・・・・

今は俺が口を出すときじゃない・・・・俺は黙って聞くことにした。

 

 

「あの程度の相手に捕まっていた自分が・・・・怯えていた自分自身が・・・・」

 

 

あの程度とは言うものの、襲撃者達は充分危険なレベルの力量の持ち主だった。

        四 騎 士
その上あの四人が手出しできないような計画まで練っていた。

何もできなかったと言うがそれが当たり前なのだ。

 

 

「確かに・・・得体の知れない気配でしたが・・・・でも何とかなったはずです。

なった・・・・かもしれないんです・・・・でも・・・・私は動けなかった・・・体がすくんでしまって・・・・」

 

 

女王様の話によると修羅場とか戦場といったモノには今まで無縁だったらしい。

その状態で無謀に暴れ回らないだけまだましに思える。

無意識の内とはいえ人質としては最善の行動をとったというべきだろう。

 

 

「ティシアちゃん・・・昔話を聞いてくれるかな」

 

「アキトさん?」

 

 

唐突な申し出を疑問に思ったのだろう。戸惑うような感じで俺に話しかけてきたが、

俺の真剣に話をしようとするのを感じてくれたのかなにも聞いてこなかった。

 

 

「昔・・・・俺が初めて戦場に立った頃の話しさ。

あの時の俺は・・・・敵が怖かったんだ。どうしようもないぐらい・・・・・

戦闘の音を聞くだけで身体が震えてまともに動けない程ね」

 

 

時間的には約一年と少々・・・俺の感覚的にはもうかなり昔の話になる。

 

 

「その所為で働いていた所が首になったんだ。そしてその後、些細なことから戦艦に乗ることになったんだ」

「戦艦・・・ですか・・・」

「そう、戦艦。大空を駆けさらにその先まで行くことができる船」

「空を飛ぶんですか?船が?」

 

「魔法がない代わりにね、俺の世界では科学というものが発達しているんだ。

ちょっと話がそれたね・・・・そこで乗ったらいきなり戦闘になってね・・・俺はどうしたと思う?」

 

 

ティシアちゃんは暫し考えるとおもむろに、

 

 

「勇敢に戦った・・・・ですか?」

 

「はずれ。言っただろう?俺は敵が怖かったんだって・・・・・・

正解は逃げ出した。自分一人だけでね」

 

 

俺の答えに酷く驚いたらしく、声を出そうとしたようだがなにもでてこないようだ。

 

 

「そんな・・・嘘でしょう?」

 

「本当のことさ・・・・でも今は何とか手の届く範囲の人達を守ったり、

手を差しのべたりするだけの力を手に入れたつもりだよ・・・まだまだ足りないけどね・・・・」

 

 

そう・・・・まだまだ足りない・・・・

俺の脳裏に力が足りないばかりに消えていった人達がうかんでは消える・・・・・

 

 

「・・・・・・・私にも・・・・いつかできるでしょうか・・・・・・」

「できるさ!挫けず諦めない限りね・・・・」

「でも・・・・・それでも無理な場合は・・・・・」

 

「さっきも言ったよね?俺もまだまだ力が足りないってね・・・俺も同じさ。

だからそう言うときは・・・・」

 

「そう言うときは?」

 

「仲間に頼ればいいさ!四騎士や騎士団のみんな。それにルナさんや女王様。

みんな喜んで手を貸してくれるよ」

 

「・・・・・うん」

 

「偉そうなこと言っちゃったけどね・・・俺もその事に気が付いた・・・

いや、気が付かされたのは随分と後になってのことだけどね・・・・」

 

 

俺の脳裏に浮かぶナデシコのみんな・・・・

楽しかったことや嬉しいこと・・・自分らしくあれる場所・・・・俺が守りたい居場所であり、帰る場所。

 

                                                             スタートライン
暗闇の底に落ちた俺を光ある処まで引き上げてくれた・・・・俺の出発地点。

 

 

「私も頑張ってみます。みんなに手伝ってもらいながら」

「うん、それが良いよ。何だか俺も慰めるというよりも励ましちゃったかな?」

「いいえ、そんな事ありませんよ・・・・でも・・・・・」

「でも?」

「今だけは・・・・泣かせて下さい・・・・本当は・・・・」

 

 

最後の方の言葉は小さくて聞こえなかった。聞かない方が良いのだろう。

 

ティシアちゃんは俺に抱きついて静かに泣き始めた。

今まで胸の中にたまっていたものを全部出してしまうかのように・・・・

 

 

「俺にはこんな事しかできないけど・・・・偶には泣くのもいいよ・・・・」

 

 

俺は子供をあやすように頭をなでた。

 

 

少しでも心落ち着くように・・・・

 

 

暗く沈んだ部屋に・・・・しばらくの間、静かな嗚咽が響き渡った・・・・・

俺には・・・・一人の女の子が強くあるために一歩踏み出した瞬間に思えた。

 

 

 

 

 

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

 

暗く沈んだ部屋・・・・・

そして部屋を埋め尽くさんばかりの巨大な水槽の数々・・・

人一人が入れる物から竜でさえ閉じ込めておけそうな物まで種類は数多い。

 

部屋を照らす光源は中身を照らす為につけられた光のみ・・・

中はごく一部の水槽にしか入っていなく、その中身も自然界には生息してはいない不可思議な生き物が数多い。

中にはどう見ても変な白い鎧にしか見えない物まである。

 

もしもこの場にリナがいれば、それを見てこう呟いただろう

 

『ザナッファー』

 

と・・・・・

 

 

しかし今そこにいるのはゼフィーリアで激戦を繰り広げたニースと、

何やら小さな水槽を熱心に整備している若い男の二人だけ・・・・・

 

男はくすんだ金髪で白衣に身を包んでいる。

身だしなみに気をつければそこそこだろうが、今は何処の誰が見ても『冴えない科学者』にしか見えない

 

 

「頼まれたものだ」

 

 

ニースは手に持っていた長さが一メートルくらいに折られた赤い刀身を差し出す。

それはあの闘いのおり、ニースが折った赤竜の剣の刀身だった。

 

 

「はいご苦労様。思う存分戦えましたか?」

 

 

ニースは男の言葉を聞くと不満げな顔つきをした。

 

 

「確かに闘いはしたが相手は手加減している・・・全力をだせない状況だったのだ・・・・

不満こそあれ充分とは思えない」

 

「それは残念ですね・・・・おっと!危ないところでした。

私が持てば拒否されるでしょうからね・・・・今もあなたが力を使って押さえつけているのでしょう?

すみませんがそのままこの水槽に入れて下さい」

 

 

ニースは手に持った刃を液を浸した水槽の中に入れる。

不思議なことに刃は沈むことなく水槽の中央を漂っている。

 

 

「これが私のものだ」

 

 

今度は赤い鉄くずのような物を取り出す。

 

 

「それはこちらの水槽に入れて下さい。

しかし・・・・あなたの剣がこの様な状態になるとは・・・・恐ろしいものですね」

 

「それだけは確かだな・・・・・」

 

 

ニースはルナとの闘いを思い出しているのか

水槽にただよっている赤い刀身をすかして遠い何かを見ているような眼差しをする。

 

 

「これで助けだしてもらった義理は果たしたな」

「はい、確かに。これからどうなさるんですか?」

「しばらくは休む。力を回復させたいからな・・・・次の闘いに備えてな・・・・」

                             スィーフィード・ナイト
「闘い?ああ、今度は全力で『赤の竜神の騎士』と闘うということですか?」

「それもあるな・・・・」

 

 

なぜかニースの脳裏には次に戦う相手はルナではなく、アキトを想定していた。

理由はない。ただの感ではあったが・・・・不思議と外れているという気はしなかった・・・・・

 

 

「ならここで待てばいいですよ」

「断る。ここは気にくわない」

 

 

ニースは嫌悪感をあらわにして即答する。迷いも躊躇もあったものじゃない。

その視線は奥の暗闇に向いていた。

 

 

「でも、相手がまた場所を気にして全力を出せなかったらどうするんですか?

ここなら周りに迷惑をかける心配はありませんよ?」

 

「・・・・・・・・・・・・・そうだな・・・・だがそれだけだ。

それまで私は私の思うがままにやらせてもらう」

 

 

そう言い残すとニースは何処かへ転移しようと空間を歪める。

 

今、まさに転移をしようとする瞬間、ニースは悲しげな表情で男に振り向き、呟いた。

 

 

「やはり・・・・やめる気にはならないのか・・・・・

私より・・・・・彼女に一番近かったお前がよく知っているはずだ。・・・・・・はこんな事を望まないということを」

 

 

最後の方に呟いた誰かの名前は、誰にも聞かれることはなかった・・・・・・

男の方も聞き直すこともなく、誰のことを言っていたのかは承知しているようだった

 

 

「それでも・・・・私は止まれないんです・・・・・あの瞬間から・・・・

彼女が奴等に殺された瞬間から私のすべてはなくなったんです・・・・・・・永遠に・・・・・」

 

 

 

男はもういないニースに向かって返答をする・・・・

無意味なことをわかりつつ・・・・自分の意思を確認するし、より強固とするために・・・

 

男は部屋の一番奥まで歩いてゆく・・・・

そこには他の水槽とは違い、中身をみせないように大きな布をかぶせてあった。

その周りにはこの世界の科学技術をはるかに超えていると思われる機械の数々・・・・

まるでこの部屋の一角だけは異世界ではないのか錯覚してしまいそうになるだろう。

 

 

「もうすぐです・・・・もうすぐ完全なる力が手に入ります・・・・・」

 

 

男は何かの郷愁にとらわれたかのような遠い目をして水槽を眺める。

 

 

「私の復讐劇の開幕まであともう少し・・・・・やっとここまでたどりつけました・・・・」

 

 

男は水槽に掛けられていた布を取り去る。

中には年の頃は十四、五歳位の少女が胎児のようにひざを抱えて培養液の中に浮かんでいた。

 

 

「その為に・・・・あの方に至るための鍵・・・私の最終祈願のためにも・・・・・

・・・・頑張って下さいよ・・・・・私の可愛い娘・・・・・・メアテナ・・・・・」

 

二人から少し離れているところ・・・刃のおさまった水槽に浸かるチューブの元にあるモノ・・・・

命なき巨人は・・・・・・ただ静かに鎮座し、二人を見つめるだけだった・・・

 

この男の心にあるのは狂気か、それとも悲しみなのか・・・・答えは今だ誰も知らない・・・・・

 

 

 

(第十六話に続く・・・・)

 

 

 

―――――あとがき―――――

 

どうも、ケインです。

とうとう黒幕的?な男が登場しました。

あの男の正体はまだまだ秘密ですが・・・・・ひねくれた回答ですから誰も当たりません。(キッパリ)

ニースも「魔王の一欠片」の持ち主ではありますが、これもまたひねています。(私の性格もそうです)

 

次の話は・・・・反省会というか情報交換の話になるでしょう。

リナが質問の嵐にあうでしょうね・・・関わりのあることばかりですし・・・・

 

最後に・・・・K・Oさん、強さん、岸田さん、ヨシノブさん、悠久さん、Murasimaさん。

川嶋さん、高橋さん、加藤さん、KOQUさん、リンさん、watanukiさん。

矢吹さん、あめつちさん、蒼夜さん、涼水夢さん、encyclopediaさん。

感想ありがとうございます。

(これからは『赤き・・・』の感想は『赤き・・・』のあとがきで、『悠久』は『悠久・・・』の後書きで書きますので・・・)

 

では次の話「第十六話・真実への模索(仮)」であいましょう。

次は一話でまとまるはず!前後編は結構時間が喰いましてね・・・・・では!!

 

 

 

代理人の感想

場合によっては質問の後に教育が待っていそうな気もします(核爆)。

まぁ、ルナさんは多分その場には・・・・・・・・・・・・いないとは言いきれないか(笑)。

 

 

 

>俺は受信できないしね

じゃあお仕置の後に時々受信してるアレはなんなのでしょうか(笑)?

ひょっとして霊界通信(大笑い)?