赤き力の世界にて

 

 

 

 

第17話「修行・・・・・・ゼルガディス・グレイワーズの場合」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ゼフィーリアが襲撃されて一週間・・・・

 

街の復興は街の住民の昼夜問わぬ努力により四日目ぐらいに一段落ついていた。

町の中ではチラホラと店を開け始めるところがようやく目立ってきた。

 

そんなある日・・・・

 

 

 

 

 

 

カランカラ〜ン・・・

 

店の中にドアベルの音が響き渡る。

 

 

「すみませ〜ん!」

「おう、いらっしゃい!・・・・ってアキトじゃねぇか。挨拶して損したぜ、なんか用か?」

 

 

俺はシンヤさんのもの言いに苦笑をしながら返事をする。

そう、ここはシンヤさんの店、『フェルフォート武器店』だ。

 

 

「今日はゼルの付き添いです」

「頼んでいたものができた頃だと思ってな」

 

 

俺の後ろからゼルとアメリアちゃんが店内に入ってくる。

 

 

「おお、できてるぜ!頼まれていたとおり俺が出来る限り強くしたつもりだ」

 

 

そういってシンヤさんが店の奥から持ち出してきたのは一振りの剣だった。

 

おそらく話に聞いたグロウとの闘いの時に砕かれた剣の代わりを頼んでいたのだろう。

しかし・・・・この人が趣味に走るとろくな事がないような気がする。

 

だが、俺の心配をよそにシンヤさんは武器の説明をはじめた。

                 ろくでもないもの
俺に出来ることは自爆装置などが組み込まれていないことを祈るのみだった・・・・

 

 

「形状はあんたがもっとも使いやすいと言ったブロード・ソードを元にしてある。

金属はとりあえず俺の知る限りで一番頑丈で魔力がかよいやすい合金を使っている。

頑丈さなどの方はリナ嬢ちゃんやガウリイの兄ちゃんの方が知ってるはずだ」

 

 

ということはミルガズィアさん達から教えてもらった例の合金という訳か・・・・

確かにあれなら頑丈かもしれない。

 

ゼルは手渡されたブロード・ソードを試しに三、四回振り回した。

 

 

「以前使っていたのより軽いな・・・その上、重心がしっかりしていて扱いやすい」

「そんな事ぐらい当たり前よ!逆にそれぐらい出来ねぇと俺は鍛冶屋とは認めねぇよ」

「でもそれだけじゃあ高位魔族にはとても・・・・」

 

 

アメリアちゃんがもっともなことを言う。

確かにあの金属とはいえ、グロウ程の高位となればどの程度効くかは怪しいものだ。

 

 

「まだ結論づけるのは早いぜ嬢ちゃん!このシンヤ様がそんな半端な仕事をするとでも思っちゃいけない!!

剣の柄に魔石が埋め込んであるだろ?」

 

 

確かに・・・ゼルの持っている剣の柄には鈍い色を放つ翠色の石が埋め込まれていた。

よく見ると中に五紡星の紋様が見える。

 

 

「その魔石はな、昔とあるつてでもらったものだ。何でも持ち主の魔力を蓄積する働きがあるらしい。

本来の使い方は魔術を発動させるときにそれを媒介にして威力を上げるというらしいが・・・・」

 

「そんな便利なものがあるんですか??」

 

「実際にそこにあるんだから仕方がない。俺は使えるモノは使う主義だからな。

話がそれたな、その魔石に・・・・・あれだ、

あんたが言っていた剣に魔力を通わす呪文・・・・・なんていったか?」

 

アストラル・ヴァイン
「魔皇霊斬 の事か?」

 

「そうそれ。それをかけると威力と切れ味がかなりパワーアップするはずだ。たぶん・・・・」

「何なんですかシンヤさん。そのたぶんっていうのは・・・・」

 

 

まさかやってみたらいきなり爆発するとかいわないだろうな・・・・

この人ならあり得るから安心は出来ない・・・・

 

 

「仕方がないだろ?まだ試してね〜んだから・・・予想では完璧なんだがな」

「それでも構わん。このままでは足手まといが関の山だからな」

 

 

その気持ちは分からないでもないが・・・・少しは構った方が良いと思うぞ、ゼル・・・・・

 

 

「まあ試した結果を教えてくれや。今後の参考にするからな」

「ああ、すまなかったな。かなり無理を言って・・・」

 

「何、気にするな!ルナちゃんからも頼まれていたし、

その上長年温めていた思想が使える人物に会えたんだ。こっちの方が感謝したいぐらいだ。

金に糸目はつけないとまで言われたしな。久々に思いっきり槌が振るえたぜ!」

 

 

 

ここまでは確かに良い剣を造ってくれたと思ってもいい・・・・しかし・・・・・

この人がこの程度で終わらすはずはない。絶対に!!

 

 

「シンヤさん。まだこの剣について説明は終わってないんじゃないんですか・・・・」

 

 

良いモノか悪いモノかはまだ分からないがまだ何かしらの機能があるはずだ。

 

 

「おっ!よくぞ聞いてくれた!さすがは俺の思考を理解している男だ!!!」

 

 

あまり理解はしたくありませんけどね・・・・

 

 

「ははははは・・・・・知り合いによく似た人がいましたから・・・・」

「そいつは会ってみてぇな・・・・まあいい。実はその剣にはもう一つ隠された機能があってな」

「自爆ですか?」

「それもいいと真剣に悩んだんだがな・・・・」

「おいおい・・・・・」

 

 

ゼルが控えめにつっこみを入れる。

しかしシンヤさんは何処吹く風で聞き流す。

 

 

「その剣の柄の先の部分に付いている部分を捻ってみな」

「ここをか?」

 

 

ゼルは柄の先の部位、赤くなっている部分をやや力をこめながら捻る。

 

キン!ジャラララ・・・・・

 

軽い金属音がしたと思うと剣の刃の部分が大体小指ぐらいの長さで分離していった。

 

 

「こいつは・・・・」

「ムチ・・・・みたいに見えますね・・・・」

 

 

アメリアちゃんが言うとおり、分離した刃は鋼線で繋がっており、確かにムチに見えなくもない。

 

 

「嬢ちゃんの言うとおりだ。剣からムチになる。なかなか良い物だろう?

中の鋼線も合金を元にして造ったうえに魔法で強化してある。生半可なことじゃ切れねえから安心しな。

ちなみに捻った部分を元の位置に戻すとまた剣に戻るからな」

 

「確かに使い方によっては戦力になりそうだが・・・・肝心な鞭の使い方は俺はあまりしらんぞ・・・・」

「私も知りません」

「俺も・・・・」

「俺だってしらん」

 

 

シンヤさんは胸を張りながら堂々と言った。

かなり・・・・イヤ、もの凄くいい加減だ。

 

 

「まあとにかく俺はやるだけのことはやったんだ。使いこなせるかどうかはお前さん次第だ」

「気楽に言ってくれるな・・・だが気に入った」

 

 

ゼルは苦笑はするモノの文句は言わずその剣を受け取った。

 

ちなみに金額の方は実用性の割にはかなり安かったとだけ言っておく。

 

 

 

 

 

「しかし・・・ムチの使い方を熟知している奴の心当たりは俺にはないぞ・・・・

アキトの知り合いにムチを使う奴はいないのか?」

 

「一人だけ・・・・熟知しているかどうかは分からないけど心当たりがあるけど・・・・」

「この際だ。会いに行くだけ行ってみる。そいつは何処に居るんだ?」

「案内するよ」

「頼む」

「わかった。とりあえず城の方に行こうか」

「城にですか?まだ城は改修の途中ではないんですか?」

「用があるのは城の西側にある空竜騎士団の宿舎だよ」

 

 

四竜の宿舎などの施設は、それぞれ城を中心にして四方に位置している。

先に述べたとおり西に空竜。東に火竜。北に水竜。そして南に地竜といった配置になっているらしい。

 

 

「騎士団の宿舎?騎士が鞭を使うのか?」

「会ってから説明するよ」

 

 

 

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

「で?あたいの所に来たって訳?」

「そうなんだ。アリスちゃんなら使っているような気がしてね」

 

 

俺達は宿舎にアリスちゃんの居場所をたずねた後、応接室に通された。

そして後から来たアリスちゃんにあらかたの事情を説明をした。

 

俺は暗器各種などの扱いが長けている事を本人から聞いていたので頼ってみたのだが・・・・

この際、鞭は暗器かどうかという疑問には多少目を瞑ることにする。

駄目なら別の人を紹介してもらえばいいことだし・・・・・・

 

 

「ま〜・・・一応使えることは使えるよ」

「それでもかまわん。とにかく要点だけでも教えてくれ。後は我流で何とかする」

 

「ん〜〜・・・要点だけって言ってもねぇ・・・・ムチってのは一朝一夕で何とかなるもんじゃないんだけどね・・・

・・・・・よし決めた!ここはあたいが一肌脱ごうじゃないの!」

 

「は?」

「は?じゃないの!このあたいが特別に教えようっていってるの」

「でもあなたにはお仕事があるのでは?」

 

 

確かにアメリアちゃんの言うとおり。騎士団長なのだから仕事は山のようにあるはずだ。

でもアリスちゃんは笑顔でその言葉をはねのけた・・・・

 

 

「いいのいいの!あれから出来ることはもうしたしね。

後は報告書をまとめるだけなんだから副長がやってくれるって」

 

 

ここにも補佐を泣かせる人が一人・・・・副がつく人は不幸な人が多いのか?

ジュンといいカズシさんといい・・・・それとも上が問題なだけか?

 

 

(もしかして事務仕事が嫌になっただけなんじゃあ・・・・・)

 

「じゃあ話は決まった!早速練習に行こうか!」

「練習って・・・・何処でする気なんだい?アリスちゃん」

「リナ達とルナ姉が修行してるんでしょ?どうせならその近くでいいじゃない」

「それもそうだな」

「そうですね。リナさん達の修行っていうのも興味がありますしね」

 

(修行といえば修行なんだけど・・・・・実戦さながらだからね。とばっちりがこなかったらいいんだけど・・・・・)

 

 

俺はそんな考えを抱いたモノの、アメリアちゃんから頼まれたことにも都合がいいと思い、

黙って三人の後に付いていった。

 

 

 

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

「さて、リナ達はあっちで派手にやってるみたいだけど・・・あたい達は地味にいこうか」

「そうですね」

「同感だ」

 

 

湖の対岸・・・・つまり俺達がいる所から湖をはさんだ反対側では爆音と火柱、

そして赤い閃光や稲妻が飛び交っていた。

 

 

「い、一体どんな修行をしてるんですか?」

「というか・・・・あれが修行か?俺には戦闘にしかみえん・・・・」

「まあ、実戦を想定した修行だからね・・・・」

 

 

実際はルナさんのかなり一方的な闘いになっている。

リナちゃんとガウリイ
 あの二人 もかなり強いことは強いのだが、やはりルナさんには敵わないらしい。

 

 

「ルナ姉の強さは桁が違うからね。さぁ、さっさとはじめようか」

「そうだな。まずはどうすればいい?」

「とりあえず、これ渡しとくよ」

 

 

アリスちゃんが取り出したのは革製のムチ。

丸めているので正確な長さはわからないが大体二メートル半から三メートルくらいはありそうだ。

 

まあ練習用ということなのだろう。

 

 

「で?あんたは鞭の使い方をどれだけ知ってんの?」

「我流で少々な・・・といっても相手の足に絡ませるとかそういった感じしか使ったことはないが・・・・」

「なるほどね・・・じゃあそこからあの木に当ててみて」

「わかった」

 

 

ゼルのいる場所から木までの距離は約二メートル。

ただ振っただけで当たりそうなモノだが・・・・何か考えでもあるのだろうか・・・・

 

 

「ハァッ!」

 

 

ヒュッ―――バシィィッッ!!

 

 

ゼルは見事に木に当てる。なかなかの威力があったのか木の表面が少しめくれている。

 

 

「ふ〜ん・・・・まあその程度ね・・・」

「その程度だと?」

「そ!その程度って言ったの。大体の実力はわかったよ」

「今ので何がわかるというんだ」

「論より証拠!そこで見てるといいよ」

 

 

そう言ったアリスちゃんは袋から別のムチを取り出す。

先程ゼルに渡したムチと同様のモノだろう。

 

それを操りゼルと同じ木にムチを当てる。立っている位置に違いはあるが、距離はほぼ同じ。

距離も使う武器もほぼ同じとなると・・・・結果の差が使い手の技量の差ということになる。

 

 

ヒュゥッッ―――――バシィィィィンンン!!

 

 

アリスちゃんのムチは風を切るような音を残し木に当たり、そして表面をえぐった。

ゼルのように削ったのではなくえぐれている。傷の深さでは優に三倍以上はあるだろう。

 

ゼルは自分よりも力がなさそうな少女が

あれ程の攻撃を繰り出したのを見て渋い顔をしている。

 

 

「まあこういうこと。ついでに言わせてもらえば全力じゃないからね」

「・・・・・・・・・・・・」

「凄いですね・・・・」

 

 

ゼルは何も言えず・・・・アメリアちゃんは感嘆の言葉しかでなかったようだ・・・・

 

 

「ムチってのはね・・・力で振るモノじゃないよ、技で振るんだ。

その理屈はあんたも知ってるんじゃないの?こういったことは剣でも同じだしね」

 

「確かにな・・・・俺に必要なのはその技の要点だ」

「まあ焦らない。まずは基礎からはじめるよ」

 

 

アリスちゃんは袋から握り拳大のボールを数個取り出す。

 

 

「これを鞭ではじいてもらうよ」

「そんな事ぐらい・・・・」

「ただし!上に向かってね」

 

 

なるほど・・・・上に向かってはじく・・・・お手玉みたいなモノか・・・・

しかし口で言うのは簡単だが実際やるとなれば無茶苦茶難しいだろう。

普通にはじけばボールは何処に向かって飛ぶかはわからない・・・・・

 

しかし、一体どこら辺りが基礎なんだろうか?俺には思いっきり上級者用の訓練にしか見えないのだが・・・

 

 

「そんなの無理に決まっているだろうが!」

「やる前に諦めるの?情けないわね・・・・」

「ふざけるな!」

「まあ怒らない怒らない。じゃあ私が手本みせるから・・・・」

 

 

アリスちゃんはそう言った直後、ボールを空高くに放り投げる。

 

 

「しっかりと見てなよ」

 

 

パシィン・・・・パシィン・・・・・パシィン・・パシィンパシィン。

 

 

二、三回ボールをムチではじいた後、アリスちゃんは弾くボールの数を二個、三個と増やしてゆく!

 

 

パシパシパシパシパシ!!パパパパパパパパパパ!!

 

 

時間が経つにつれてボールは数を増やしてゆく!

最終的には五個で落ち着いたがそこまでに至る間、一度もボールを落としてはいない!

 

 

正に達人技・・・・俺は正直にそう思った・・・・・が、

端で見ていれば大道芸に見えてしまうのが難点というか悲しいというか・・・・

 

 

「よっと・・・とまあこんなもんよ。別にここまで仕込むつもりはないけどね」

「誰もそんな隠し芸みたいなことを教えてほしいとも思わん」

「まあ傍目は確かに隠し芸よね・・・でもあんたはその隠し芸にすら勝てないよ?」

「なに!!」

「今のあんたは隠し芸にすら劣るっていったの」

 

 

何やら風向きが怪しくなってきたようだ・・・・・

二人の間に流れる雰囲気が刺々しいものに変わっていくのが見ていてわかる。

 

う〜〜ん・・・・・・これも修羅場っていうのかな?

 

 

「確かにあんたはそこそこ強いみたいだけどね・・・・それはあんた自身の強さじゃない。

あんたの強さはその体に頼ってるだけだよ」

「お前に何がわかる!」

「大体の事情は・・・・この一週間で片手間ついでに調べたからね」

 

 

さすが諜報活動専門。女王の周りにいる人物はそれとなく調べているのだろう。

例えそれが女王自身が信用していても調べるだろう。それが義務であり仕事なのだから。

仕える主に危害が及ばないように・・・・・・

 

 

「・・・・例えの話をするけどさ・・・・あんた元の体に戻れたとしてそれからどうするの?」

「・・・・・・・・・・・・」

 

「普通に暮らす?馬鹿いってんじゃないよ?

                        今までやった
体を元に戻したからって 過去の 罪が消えるわけじゃないんだから」

 

「それは・・・・何とかしてみせるさ」

 

                                    権力
「何とかって?セイルーンの王女様のコネでも使って罪を揉み消す?

確かにセイルーン程の力であれば容易い事だね」

 

「・・・・・・・・・・・・・・」

 

 

ゼルは苦いモノを口にしたかの様な顔をしている。

ゼルとて考えていなかったことではないのだろう・・・・だからといってそう簡単に出る答えではない。

 

 

「ゼルガディスさん・・・・・・・」

 

 

アメリアちゃんもゼルのことを心配しているのだろう・・・・辛そうな顔をしている。

腕輪の力によって感情が通じ合っている分、辛いモノがあるだろう。

 

だがその事がゼルの気持ちを落ち着ける効果にもなっているのだろう。

 

過去、復讐者だった俺の心を理解して心配してくれたラピスのように・・・・・

 

 

 権力
「力で罪を消しても人の感情まではそうはいかない・・・・今でも恨みに思っている人がいるかもしれないしね。

元の体に戻りました。でも一週間後に裏路地で刺されて死にました。じゃあ笑い話にもならないしね」

 

「そんな事には!!」

 

「ならない保証はないよね?今の身体の癖がでるかもよ?

あんなナイフで傷がつくはずはないから衝撃にそなえて全身に力を入れるだけでいい・・・・とか思ったり」

 

「グッ・・・・・・・」

 

 

確かに・・・・長年の癖というのは思っている以上に抜けにくいもの・・・・

いつも直感的にやっていることならなおさらだ・・・・

 

 

「話を元に戻すけど・・・あんたは自分の力を過信する上に限界を勝手に決めている・・・

そんなんだから赤法師のくそ怪しい誘いになんかのるんだよ。

私から言わせてもらえばあんたがそんな身体になったのは自業自得だね」

 

「貴様!!」

 

 

ゼルは最後の一言が頭にきたのか腰に下げてあった剣を抜いた!

 

 

「落ち着いてくださいゼルガディスさん!!

アキトさんも!見ていないで二人を止めてください!

ゼルガディスさん本気で怒ってますよ!!」

 

「大丈夫だよ、アメリアちゃん。アリスちゃんには何か考えがあるみたいだし・・・それに・・・・」

 

 

いまのゼルでは絶対にアリスちゃんには勝てない・・・・・

俺のその言葉を頭の中で呟いた。

 

 

「言って分かんないんだったら身体で分かってもらおうか?」

「望むところだ!!」

 

 

ゼルはその言葉を言ったと同時にアリスちゃんとの間合いをつめようとしたが!

 

 

ヒュッ―――――パァン!!

 

 

「そんな動きじゃあ剣の間合いまで近づくのは無理だね!」

「クソッ!!」

 

 

ゼルの動きをアリスちゃんが手にしたムチで牽制する!

ゼルもムチを避けようとはしているが、アリスちゃんの操るムチの前に攻めあぐねる。

 

ゼルの岩肌には傷はつかないものの衝撃はかなりのもの。

当たり所次第では戦闘不能になりかねないだろう。それだけの腕を持った相手なのだ。

 

アリスちゃんはムチの届く範囲を完全に支配下においている。

正にムチで作りだした結界とも言える領域を・・・・

 

 

「それそれどうした!あんたその程度?」

「なめるな!!全ての力の源よ 輝き燃える赤き・・・・

 

「させると思う?」

 

 

アリスちゃんは瞬時に懐から四本の短剣を取り出し投げる!!

魔術師の最大の弱点である詠唱時を狙うのは戦いにおいては非常に有効な手段だ。

 

 

「クッ!!」

 

 

ゼルは剣で飛んできたナイフとたたき落とす。

だがゼルは決定的なものを見過ごしてしまった。アリスちゃんの本当の狙いを・・・

 

 

「勝負あったな・・・・」

「え?どうしてですか?まだ始まったばかりじゃあ・・・」

「見れば分かるよ」

 

「貴様!一体何をした」

 

 

ゼルは剣を薙ぎ払ったままのポーズで固まっていた。

 

 

「落ち着いて自分の影を見てみたら?」

「―――――!!まさか!!」

 

 

そう・・・ゼルの影には極細の長さ二十センチ位の針が立っていた。

 

 

シャドウ・スナップ
「 影縛り か!!」

「正解」

                       ライティング
「こんなものぐらいで・・・明かりよ!!」

 

 

                       ライティング                     シャドウ・スナップ
ゼルは自分が創りだした明かりにより、アリスちゃんの 影縛り の呪縛をうち破る!

だが!!

 

 

「動くな!!ゼル!!」

「何!?どういうことだ・・・・うっ!!」

 

 

どうやらゼルも気がついたようだ・・・自分の首元と四肢にまとわりつく鋼糸を・・・

その鋼糸の先はアリスちゃんの指先・・・・この指先一つでゼルの五体は瞬時にしてバラバラになるだろう。

 

例え岩だろうが鋼だろうが、アリスちゃんにかかれば紙とそう大差はないだろう。

 

 

チェック・メイト
「王 手・・・・かな?」

「・・・・・・・・・・・」

 

ゼルは苦渋の顔をしつつ剣を足下に突き立てる。

それと同時にゼルにまとわりついていた鋼糸もアリスちゃんの元に戻っていった。

 

 

「わかった?今のあんたの腕じゃあまだまだだって・・・・・

でもあたしの見立てじゃあまだまだ伸びるよ・・・・必死に努力さえすればね。

あんたは赤法師に復讐するために呪文を学んだ時には僅かな期間で精霊魔術をマスターしたんでしょ?」

 

「それこそ死にものぐるいでな・・・・」

 

「やれば出来るって証拠さ。だから初めから無理だなんて思わずに死ぬ気で頑張りな。

そこの王女さんを心配させなくてすむぐらいにね・・・・」

 

「・・・・・・・・・・」

 

 

ゼルはアメリアちゃんを横目で見やり・・・・軽くうつむいて溜息をついた・・・・

顔を上げたゼルの目には怒りといった感情は無くなっていた。

 

 

「・・・・・・・・・改めて言う。俺にムチの使い方を教えてくれ」

 

 

その言葉とゼルの目を見たアリスちゃんはニッと笑い、嬉しそうな顔をする。

 

 

「わかってくれた様で助かるよ。説教なんてあたいの柄じゃないからね」

「そいつはすまなかったな・・・処で俺の事はどこまで調べたんだ?」

 

「そこそこ・・・・おおまかな事情までっていうところかな?

その気になったらあんたの初恋の人まで調べられるよ?」

 

「調べるな!そんなもの!!」

「でも王女さんは興味津々みたいだけど?」

「アメリア・・・・・・・」

 

 

確かに・・・・アメリアちゃんは食い入るように聞き耳をたてていたりする。

目を輝かせながら・・・・・

 

 

「え!?あ、あははははは・・・・・」

 

 

気まずくなったのか笑って誤魔化そうとするアメリアちゃん・・・・・

 

どうでもいいけどシリアスぶち壊し・・・

アリスちゃん、途中まで格好良かったんだけどね・・・・

 

 

「はいはいそこまで!その件は頼まれたら調べるということで」

「頼むからやめてくれ・・・・人の過去は静かに埋めといてくれ・・・・」

 

 

ゼル・・・無駄だと思うぞ・・・・・こういったときの男の人権なんて虫けら以下だからな・・・・

 

 

「じゃあ気持ちを切り替えて訓練開始!さっき言ったやつからやってみようか?

                                         チャレンジ
失敗するのが当たり前なんだから何度でも 練習 あるのみ!」

 

「死ぬ気で頑張れってやつか?いいだろう・・・・一週間で課題をクリアしてやる!!」

「そうそう、その意気!あ、ちょっとそこの王女さん」

「私のことはアメリアで結構です」

「ん、じゃあアメリア。あたいはアキトと少し話があるから私の代わりにこれ頼むよ」

 

 

アリスちゃんはアメリアちゃんに手に持っていた袋を渡す。

アメリアちゃんは袋の中をのぞき込む。俺もその端から一緒に袋をのぞき込んだ。

 

その中には・・・・溢れんばかりに入っているボールの数々・・・・

確かこの袋からムチを二つ出していたんだけど・・・・

一体何処にそんな隙間があったのか・・・・・・謎だ・・・・

 

 

「わかりました。ゼルガディスさんにボールを渡したらいいんですね」

                              プレゼント
「そういうこと。中身は私からの贈り物ということで・・・・全部無くなったら自分で買うか拾うかしてよ」

「は、はぁ・・・・わかりました・・・・」

 

 

アメリアちゃんはそう返事を返すとゼルの方に向かって歩いていった。

ゼルの方は、何とかボールに当てることは出来るようなのだがあてることは出来るのだが、

全然見当違いの方に向かって飛んでいっていた。

 

まあ、あれが本当の姿でもある。できる方が希なのだ。

 

 

「アリスちゃん。結構きつかったね」

「やっぱりそう思う?」

「うん。でも本心から言ってるような気はしなかったよ。少し芝居がかっていたような感じだったし」

「アキトにはさすがにばれてたか・・・・結構自信があったんだけどな〜」

 

 

確かに一般の人や昔の俺なら分からなかっただろうが、

この数年の間、政治のお偉いさんや企業のトップと渡り合う生活をおくればイヤでも分かってくるし、

                                   言 動 や 仕 種 で
五感をほぼ失ったときの経験で人の内面的なものを見るようになったので、

多少の心の動きは分かるようになった・・・・少なくとも人を見た目で判断したりはしなくなった。

 

これスキルはあの苦い過去の経験で、自分のためになったと思えるものの一つだ。

 

 

「自信持つだけはあったよ・・・でもなんであんな事を?

確かに必要なことだったかもしれないけど、何故アリスちゃんが・・・・・」

 

「ルナ姉に頼まれてね。あのゼルガディスっていうんだっけ?

あいつが元に戻れた時のために鍛えてくれって。心身共にね。

今のままじゃ危険だからって・・・これからも生き残れるようにね・・・

いずれ私達四人の内の誰かの所に行くことになるかもしれないから頼むって」

 

「ルナさん・・・そんな事を・・・・」

 

 

おそらく自分の所に来たら自分で言うつもりだったのだろう。

人のことを心配して色々と根回ししている。本当に優しい人だ。

 

 

「だから特訓してくれるように頼んだときにすんなりと受けたわけ?」

 

「まあそれもあるんだけどね・・・ずっと座りっぱなしっていうのは性に合わなくてね

いいタイミングで来てくれたよ。やっぱり体を使っているのが一番だね」

 

 

要するにあの時言っていた言葉は半分くらいは真実だったって事か・・・・

副長さん泣いてるんじゃないのか?

 

 

「四人の中でも大穴だった私の所にくるとはね・・・・ちょっと吃驚したよ」

 

 

確かに・・・剣や魔法なら他の騎士団だったからな・・・・

 

 

「ま、そんな事よりも・・・この前の襲撃のことなんだけど」

 

 

アリスちゃんの目が鋭くなる。思考を仕事に切り替えたんだろう。

感じる気配も鋭敏なものへと変化する。

 

 

「襲撃者達の進入ルートを調べたんだけど全くといって手がかり無し。

ルートというよりも忽然と現れて進入したと考える方が妥当みたいだよ」

 

「やはり人魔とかいう奴の空間移動なのか?」

 

「もしくはルナ姉の所に現れて、誰かから言付けを頼まれたっていう高位魔族か、

もしくはあのニースが連れてきたと考える方が適切かもしれないよ。

リナから人魔のことを聞いてあたいの仲間に調べさせたんだけど・・・

そいつらの能力はそんなに高くないみたいだから」

 

「となるとゼロスとニースの二人か・・・・空間移動がどれほどの難易度か知らないけど・・・・

すぐ後にルナさんとの闘いを控えているニースが負担になることをするとは考えにくい・・・・

やったと考えるのならゼロスという線が濃厚だと俺は思う」

 

「そうかもね・・。そして足取りはそこで途切れてしまうということになる・・・・

さてここからが本題。アキトが考えた内通者の事なんだけど、調べてみたら大当たり」

 

「一体誰がそんな事を?」

「アキトが関わったあの三馬鹿の親達」

「あいつらか・・・・」

 

 

確かに・・・それなりの地位にいたらしいから内部の情報にも詳しいだろうな。

何にしてもこりない奴等だ・・・・

 

 

「襲撃の直前、もしくは直後からおかしな動きをしている者がいないかと思ってね、

目を光らせていたらあの二人が引っ掛かったというわけ。

            いっさいがっさい
地位と家財を一切合財没収したはずなのに急に息子達の羽振りがよくなったから

おかしいと思って調べたら案の定。三馬鹿に感謝だね。

せっかく女王様の恩赦で拷問の生活からおさらばしたってのに・・・・」

 

 

いま、さらっと凄いこといわなかったか?拷問が何だとか・・・・・俺の聞き間違いか!?

俺には確かめる勇気はない。というか聞かない方が精神上によろしいような気がする・・・・

 

 

「その二人がいうには、酒場で酒を飲んでいた時に

頭までスッポリとかぶるような緑のローブを着た男に大金を積まれたらしいんだ。

その上酒に酔った勢いと怪しい薬で何でも口からでたらしいよ」

 

「その緑のローブの男については?」

「さっぱり。洗いざらい調べても全く引っ掛からない」

「八方塞がりという訳か・・・・」

 

 

完全にこちらの後手になっている。

いまだ相手に真意さえ掴めないこの現状。

できることといえば相手が次のリアクションを起こしたときに備えるだけ・・・・

 

 

「いま俺達が出来ることをするしかないな・・・・次に備えて・・・・」

「そうだね・・・空竜のみんなが目を光らせているから何かあったときにはすぐ分かると思う」

「頼むよ」

 

「何か分かり次第すぐに伝えるよ。じゃあ話はそれだけ。

あたいはあいつの特訓に戻るから」

 

「ああ、ゼルのこと頼むよアリスちゃん」

「出来る限りはするよ」

 

 

アリスちゃんはそう言ってゼルの方に向かって歩いていった。

 

 

さて・・・・俺はアメリアちゃんに頼まれたことでもするかな・・・・・・

 

 

 

 

 

 

 

(第十八話に続く・・・・)

 

 

 

 

 

―――――あとがき―――――

 

どうも〜!代理のアリスで〜す☆

ゼルガディスファンからの報復を恐れて悠久のあとがきに逃げた作者の代わりをつとめます!

他にも代理候補はいたんだけど出番が少ないからって無理矢理・・・・もとい、進んで引き受けました!

 

今回の話だけど・・・私の出番が久しぶりに多い!というか、あの四人の中でやっと独り立ちしたって気分です。

今まで出てきた時ってのはあまり目立ってなかったからねぇ・・・作者のせいで。

 

私の戦闘についてはどうだったかな?別にあれで全力ってわけじゃないけど・・・目的が目的だったからね。

きつい言葉は私のせいじゃなくて全部作者の歪んだ心のせいだし・・・

あたしのファンが減ったらどうする!!後で滅殺決定!おぼえておけ作者!!とまあ半分冗談はおいといて・・・

 

次回は私はおやすみ。アメリアとアキトの修行風景などがメインになる予定!

なんて大々的にいっても要するにアメリアのパワーアップ計画なんだってさ。

ゼルガディスだけじゃあ不公平だからって、今現在、作者がない頭を捻って考え中。大丈夫なのかな?

 

とりあえず、お約束の言葉として『こうご期待!』とだけ言っておこうかな?

 

最後に・・・緑麗さん、涼水夢さん、encyclopediaさん、川嶋さん、K・Oさん。

森之音さん、watanukiさん。感想どうもありがと〜!!

 

 

 

 

代理人のツッコミ

・・・・・・・ガ○アンかい。(笑)