赤き力の世界にて

 

 

 

 

 

第18話「修行・・・・・アメリア・ウィル・テスラ・セイルーンの場合」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

俺とアメリアちゃんはゼルより少し離れた場所に移動した。

ちょうど離れすぎず近すぎず・・・・その気になれば互いの修行が見学できる程度に・・・

 

俺とアリスちゃんにその気はないとはいえ、

ゼルとアメリアちゃんが、パートナーが別の異性と共にいる事で修行に身が入らない可能性もあるからだ。

 

いくら鈍いと言われ続けた俺でも、これくらいの気遣いはできるのだ!!

 

 

・・・・・・って、よくよく考えたらあんまり大いばりができることじゃないな・・・・

 

 

 

 

「それじゃあアメリアちゃん。頼まれていたことなんだけど・・・」

「はい!よろしくお願いします」

 

 

アメリアちゃんはそう言って俺に向かって頭を下げる。

こうやって素直に教えを請いに来る人は珍しいかもしれない。

 

 

「早い話が稽古をつけてくれということなんだろ?アメリアちゃん」

「はい!魔術の方はともかく、接近戦の方も鍛えておきたいんです」

「ん〜・・・教えるといっても実戦に近くなってしまうけど?」

「はい。覚悟の上です」

 

 

いや、覚悟の上とは言うものの・・・実際に傷でも付けたらそれこそ一大事だし・・・・

なんとも難しいものだな・・・・これが相手が男だったのならなんの遠慮もなくてすむのだが・・・・

 

アカツキとかガイだったらストレス発散の片手間程度なのだが・・・・

女性・・・・というより、この場合は女の子だが・・・どうにも難しいものだ。

 

 

「とにかく、軽く手合わせをしてみようか?それで問題点など見つけて改善してゆくという方向で・・・・」

「そうですね・・・分かりました!よろしくお願いします」

「じゃあ始めようか」

「はい!!ではいきます・・・・たぁーーー!!」

 

 

アメリアちゃんはかけ声と共に接近し、次々に攻撃を繰り出す。
                         さば
俺はその攻撃を受け止め、捌く。ある時は紙一重で避けたりもした。

 

 

そのスピード、身のこなし・・・動きという点でなら、一流の格闘家といえるほどだった。

 

さすがリナちゃんと共に強敵と戦ってきた仲間だけはある。

 

だが・・・・攻撃が直線的すぎる。フェイントなどの技術云々ではない。

良くも悪くもガイに似ているような攻撃の仕方だ。

 

 

 

 

 

 

始めて十五分くらいしただろうか・・・俺はある程度の癖や疑問を発見し、

一度休憩することにした。

 

 

「そこまで、アメリアちゃん」

「ハァ・・・ハァ・・・・・・・わ、わかりました」

 

 

すでに息があがっているアメリアちゃん。
         フルパワー
最初から 全力 でかかってきたらそんなものだろう。

 

 

「息をととのえながらでいいから聞いててね、アメリアちゃん。

まず・・・身のこなしやスピードについてなんだけど、これはいい線いっていると思うよ。

あくまで世間一般での部類ではね」

 

「世間一般で・・・・ですか・・・」

 

「といってもあくまで俺がこの世界であったことのある人達が基準だからね、

大体・・・この国の騎士団の強さが目安かな?」

 

「この国の騎士団はかなりの精鋭揃いだと聞いたことがありますけど・・・・」

「そうなんだ?よその国の騎士はディルスしか知らないから」

「はあ・・・・」

 

「話は戻すけど、力は・・・・まあその体格と性別からしたら強い方だね。
                      ワ ザ
後は・・・・格闘術などの技術が改善の余地があると思う」

 

「改善って・・・・どのあたりですか?」

 

「まず一つは攻撃自体かな。わかりやすく言うと・・・・アメリアちゃんの攻撃は素直すぎる。

ほぼ最初の動作で攻撃の方法がわかってしまう。短期で決着、そして二度と相対しないのであればいいけど、

もし相手に攻撃パターンがばれてしまったら避けるのはそう苦ではなくなる」

 

「そんなに・・・・」

 

「これはアメリアちゃんが素直な性格をしているからかもしれないけどね。

といっても何も闇討ちとか無理して後ろから攻撃しろとは言って無いからね」

 

「それはむろんです!!真正面から正々堂々とうち破ることこそ正義の醍醐味です!!」

 

 

この世界のガイみたいだな・・・まあ、暑苦しくないだけはるかにましだけど・・・

アメリアちゃんがゲキガンガーを見たらどんな感想を抱くのやら・・・・・

 

・・・・・・何だか怖い想像になったので、俺はそれを無理矢理忘れることにした。

 

 

「ま、まあ頑張ってね。要は相手の予想外の行動をとるとか裏をかくこと。

もっとも単純なのは相手の技術を越えることなんだけど・・・・これは努力次第かな」

 

「はい!強敵と戦うための辛い修行!友情や根性、努力によってクリアする課題の数々!!

正に最強へと至る正義の味方!!そして新たに身に着ける必殺技!!燃える展開です!!」

 

 

・・・・前言撤回・・・アメリアちゃんも十分熱い・・・・濃さが無い分だけましと言い換えよう。

 

 

「まあ取り合えず・・・必殺技は置いておくとして。

もう一つの改善点を何とかしようか?」

 

「なんですか?もう一つって?」

 

「二つ目は攻撃の方法かな。

さっきの手合わせでアメリアちゃんはほとんど手業しか使わなかったよね」

 

「ええ、魔族に接近戦を仕掛けるときに使う魔術がそうなってるので。

ヴィスファランクス
霊王結魔弾といって両手に魔力を集中させる術なんです。

                       アストラル・ヴァイン
ゼルガディスさんの使う 魔皇霊斬 の素手版みたいだと考えてくれていいと思います」

 

 

要するに俺が使う発剄と同じようなものか・・・

この場合、氣の代わりに魔力を集中、そして精神にダメージを与える訳か・・・・

 

 

「魔力を足に集束させることは出来ない?」

 

「どうでしょうか・・・・いままで考えたこともありませんし・・・・

術の構成自身に手を加えれば不可能ではないと思うんですが・・・・」

 

「まずはそれを試してみようか?

成功して足技も使えるようになれば戦闘も楽になるし、戦術に幅ができるから・・・・

それに万が一の選択肢を増やしておくことにこしたことはないからね」

 

「はい」

「それに今日から氣の鍛錬もしておこうか」

「氣・・・ですか?」

「うん。武術の心得があるのならなんとなくわかってるんじゃないかな」

「ええ、まあ・・・本当になんとなくですけど」

「それはこれから訓練すればいいことだから。目標は氣を使った身体能力の向上かな?」

「それってかなり高度な技術なのでは?」

 

「そうかもしれないけど・・・まあ目安ということで。できればかなり便利だからね。

それにこういった影の努力も正義の味方の基本だろ?」

 

 

こういった感性の持ち主の操作法はガイでいやと言うほど慣れている。

人の言うことをちゃんと聞いてくれるだけアメリアちゃんの方がはるかにましだが・・・・

 

 

「うっ、それを言われると・・・・・・・・わかりました。

ゼルガディスさんも頑張ってるんです。私も頑張ります!」

 

「うん、頑張って。それと最後に・・・・これは疑問に思ったことなんだけど」

「なんでしょうか?」
     ヴィスファランクス                      アストラル・ヴァイン
「その霊王結魔弾といったかな?ゼルの 魔皇霊斬 と同じくらいって言ったよね」

「ええ。それがなにか?」

 

「威力の方はどうなのかと思ってね。

ゼルは弱いと思ったから強力な武器をシンヤさんに頼んだわけだし・・・」

 

「それは・・・・威力の方も大体同じくらいだと思います・・・」

「じゃあ、なにか手を考えないとね・・・たとえ攻撃が当たったとしても効果がなければ意味がないから」

「そうですね・・・・」

 

 

俺とアメリアちゃんは二人して悩む。

こういった魔術の構成や威力などに関しては俺は素人と大差はないので手伝いは出来ない。

先程のように発想なら出来はするが、今回はどうにもならない。

 

こういったことに詳しそうな人物で手が空いていそうな、もしくは忙しくない人・・・・・

 

リナちゃんは・・・・却下だな。今は修行でいそがしそうだし・・・・

それに、俺はあんな危険な場所にはあまり近づきたくはない。流れ弾で怪我をしそうだしな・・・・・

 

他に誰か・・・・・・いた!忙しいかもしれないが魔術に詳しいエキスパートが!

 

 

「アメリアちゃん。知り合いに魔法に詳しい人がいるんだ。その人に相談してみたらどうかな?

二人で悩むよりも専門の人に頼ってみるのも手だと思うんだ」

 

「そうですね。ここで頭を抱えるよりはいいかもしれませんね」

「じゃあそういうことで・・・魔導士協会の方に行こうか」

「魔導士協会ですか?研究者かなにかなんですか?」

「違うよ。魔導に関してかなり博識な人でね。リナちゃんの師匠にあたるらしいよ」

 

                                   ドラグ・スレイブ
「リナさんの!まさか・・・・辺り構わず 竜破斬 を連発して山々を消し飛ばしたり

八つ当たりで森林を焦土に変えるような人なのでは!?」

 

 

アメリアちゃんのこの一言でリナちゃんがどのように思われているのかがよく分かるな・・・・

スラスラと言えるあたり過去にリナちゃんがやってきた悪行なのかもしれないが・・・・

 

 

「たぶん違うと思うよ。まあ会ってみるのが一番かな。

アリスちゃん!ちょっといいかな?」

 

「ん?どうかした?」

「アメリアちゃんの特訓の方でね、魔法に関しての問題があったからエルさんに相談しようと思ってるんだ」

 

「エルにね・・・確かにエルなら適任かもね。

確か今日は魔導士協会の方にいるはずだからそっちの方に訪ねてみるといいんじゃない?」

 

「わかった。じゃあ行ってくるけど、夕方頃に家にくるといいよ。

ゼルの特訓に付き合ってもらったお礼に夕飯をご馳走するから」

 

「え、いいの?やったね!アキトの作る料理はうまいとは聞いていたけど食べたことがなかったからね。

いい機会だから遠慮なくご馳走になるよ!」

 

 

そんなに喜んでもらえると誘った方としても料理を作る方としても嬉しくなってくる。

これは失望させないように頑張らないといけないかな?

 

 

「うん、待ってるよ」

 

「あ・・・その・・・・楽しみにしてるから・・・・

(今の笑顔は完全に不意打ちだ!!あたいとしたことが赤面するなんて恥ずかしい!!)」

 

 

アリスちゃんは俺の顔を見て赤くなったと思ったら急にどもりだす。

なにか変なこと言ったかな?

 

俺は不思議に思いつつアメリアちゃんと一緒に街の方に向かって帰った。

 

 

「アキトさん。もしかして意識してやってませんか?」

「??・・・・何が?」

「・・・・・今のでよく分かりました。もういいです。(完全に天然なんですね・・・・)」

 

 

俺は歩きながらアメリアちゃんの質問の意図を考えていたが結局わからなかった。

たまに同じ事を言われるがいつも要領をえない。

 

一体どういう事なのやらさっぱりだ。

 

 

 

 

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

俺とアメリアちゃんは程なく・・・・といってあの場所から結構歩きはしたが、

無事に魔導士協会に着いた。

 

前の広場は壊れている所はあるものの、おおむね片づいており、

そこで戦闘がおこなわれたという痕跡はほとんど残ってはいなかった。

 

        ザナッファー
あの 白銀色の狼 が暴れた後はどうなることかと心配したが・・・・

着々と直っていく町並みを見て俺は安堵の息をついた。

 

町並みが元に戻ってゆくことと・・・・被害請求が俺の元にこなかったことを・・・・

 

アナスタシア女王は

『あの程度の被害に抑えてくれたことを感謝する事はあっても、責める気持ちは全くありません』

と言ってはくれたものの・・・・やはり心配なものは心配だった。

 

 

「どうかしたんですか?アキトさん」

「ちょっとね。街が早く元に戻ればいいなって思ってね」

「そうですね。この国の皆さんが頑張って元に戻しているからすぐに直りますよ」

「うん。立ち止まって悪かったね。行こうか」

「はい」

 

 

俺とアメリアちゃんは魔導士協会の扉をくぐり、

受付と思われるカウンターに近づき、用件を伝えるために中にいる男性に話しかけた。

 

 

「すみません」

「はい。魔導士協会になんのご用でしょうか?」

 

 

年の頃は二十歳前後。おそらくはまだ見習いか何かなのだろう。

青年は笑顔で俺とアメリアちゃんに接してくる。

 

 

「こちらにエルネシアさんが居ると聞いたのですが」

「評議長ですか?アポはお有りですか?」

「いや、とってないんだけど」

 

「ではすみませんが後日改めてということでお願いします。

先日の事件の事で何かと多忙ですので・・・・・」

 

 

こいつはまいったな・・・・忙しいとは思ってはいたが、

まさか最初から会えないとは・・・・・どうしたものかな・・・・

 

 

(とりあえず来たことだけでも伝えておいて、言われたとおり後で出直すとするか・・・・)

 

「ではエルさんに訪ねてきたことだけでも伝えてくれませんか?」

「はぁ・・・・それぐらいなら・・・・って今なんていいました!!」

 

 

青年は何かを驚いたような感じで俺に詰め寄る。

別にやましいことがあるわけではないが、妙にひいてしまう・・・・

 

青年の後ろにいた他の受付の人も信じられないような目つきで俺を見ている。

男性の中にはあからさまな敵意のこもった視線の人までいた。

 

 

「訪ねてきたことを伝えておいてほしいと・・・・・」

「その前です!!」

「??・・・・エルさんに」

「そうそれです!!なんであなたが評議長のことを愛称で呼んでいるんです!!」

 

 

そんなに凄いことなのか?

確かにあの時に愛称で呼ばせるのは十人にも満たないとアリスちゃんに聞いたが・・・・

そこまで大騒ぎすることなのだろうか・・・・・

 

 

ザワザワザワ・・・・・

 

 

何だか周りの人達も騒ぎ始めた・・・・

 

俺には一体何がどうなっているのか、さっっっっぱりわからない。

 

 

 

「あなたの名前は!」

「テンカワ・アキトですけど?」

「と、とにかくそこでお待ちください、すぐに戻りますから!まっててくださいよ!!」

 

 

青年は慌てながら奥の方に走っていった。

 

俺は一体何が起こったのか周りの人に聞こうと見回したが・・・・

 

女性からは憐憫のこもった眼差しを・・・・

男性の半分からは嘲りと非難の視線を・・・・残りは敵意を越えた殺気だったが・・・・・

 

そんな視線を向けられたら聞くことを躊躇ってしまう・・・・・

 

俺は何かとんでもないことをしてしまったのだろうか・・・・・

 

 

「一体何があったんでしょうか?」

「俺の方が聞きたいぐらいだよ・・・・」

 

「何だか名前の呼び方がどうのって言ってましたね・・・・

ところで、相談相手というのはこの国の魔導士協会の長だったんですね」

 

「うん。それと同時に水竜騎士団の長もしている人だよ。

宮廷魔導士・・・だったかな?名前が違うだけであれと役割が同じだって。」

 

「う〜〜ん・・・・・思い出しました!一度しか聞かなかったの事とこの国自体との交流がなかったせいで

詳しい情報がなかったため忘れていましたけど・・・・」

 

「そうなんだ?」

「はい。ここゼフィーリアとセイルーンはかなり離れていまして・・・・」

 

 

なるほど・・・・確かに距離が遠ければそれなりのつき合いしかできなくなるな・・・・

電話もないから話し合いにも手数がかかるし・・・・自然と近隣しか相手にできなくなるという訳か・・・

 

 

「その距離さえなければ・・・・ということか」

「一番の問題はそれですね。他にも色々とあるかもしれませんが・・・・」

「国同士のつき合いは問題の突き合わせみたいなものだからね・・・・エルさんが来たみたいだ」

 

 

俺はエルさんの気配が近づいてくるのを感じた。

といっても、ここの建物に入る大分前から、俺はエルさんの氣を感じ取っていた。

 

 

ガイウスさんに氣の使い方を学んでからこっち、色々と特技が増えたり強化したりした。

今ではその気になれば百メートル以内なら、人の位置から風の流れ、障害物の位置までわかるようになった。

人の気配ということに限定するならかなりの範囲になる。

 

もちろん、それなりに疲れるので普段はそこまではしてはいないが・・・・・

それでも二、三十メートル辺りまでなら無意識の内にすべてを感じ取っている。

 

 

 

そうこう考えているうちに、エルさんが廊下の影から現れた。

後ろには、俺達にここで待っているようにいっていた青年を連れていた。

 

 

「お待たせして申し訳ありません。アキト様」

 

 

エルさんが俺に対して頭を下げる。

エルさんの丁寧な態度は誰に対してもなのだが・・・・俺はどうしても慣れないでいる。

 

そもそも、俺はエルさんに頭を下げられる理由が全くないし・・・・どうにも困ってしまう。

 

 

「止して下さい、エルさん。俺の方から訪ねてきたのに・・・・

それに俺のことは呼び捨てで構いませんって・・・・」

 

「それは私がそうしたいからしているのです。なにとぞお気にせぬよう、お願いします」

「いや、気にするんですけど・・・・」

 

 

周りにいた人はエルさんの反応を見て驚いているようだ。

口を開けたまま呆然としている人がほとんどだ。

 

男性の中には俺に対して殺気と怒気を視線にこめて送ってくる輩までいる。

 

 

「この様なところで話しもなんですし・・・・どうかこちらの方へ。

セイルーンの王女様も一緒に・・・」

 

「私のことはアメリアで結構です」

 

「はい。ではアメリアさん、アキト様、こちらへどうぞ」

 

 

エルさんは俺達を先導するように来た道を戻り始める。

俺とアメリアちゃんは呆然とする皆をそのままにしてエルさんの後をついていった。

 

俺は背中につきささる男性陣の視線を感じながら・・・・

 

毎度の事ながら俺はなんにも悪くない・・・・はずだ・・・・・たぶん。

 

 

 

入り口付近から歩き始めてすぐに一枚の扉の前についた。

回りのと比べてやや高価で、頑丈そうな感じを受ける扉だった。

 

おそらく、この部屋がエルさんの執務室といったところなのだろう。

 

 

「ここです。どうぞお入り下さい」

 

 

扉の中を見ると、奥の方に大きな机と椅子が見える。

その手前に接客用と思われる机と椅子が並べられている。

 

内装は蒼を基準とした落ち着くような色合いでまとめられていた。

エルさんも、リラックスできるように何かと気を使っているのだろう。

 

 

「そちらにお掛け下さい」

 

 

                                              ソファー
俺とアメリアちゃんは言われるままに勧められた椅子に座った。

クッションが効いていてなかなか座り心地がいい。

 

 

「エルさん、仕事の方はいいんですか?かなり忙しいと聞いたんですけど・・・・」

 

「別に構いません。重要なところはほぼ終わりましたし・・・

すべて私が片づけると言うのも、それはそれで問題がありますしね。

後は副評議長達にお任せしてもいい部分ですので気にしなくてもいいですよ」

 

 

信用してもいいのか悪いのか・・・・少なくとも話通りであれば問題はない・・・・・と思う。

アリスちゃんみたいにイヤになったから押しつけるというのでなければいいが・・・・・

 

 

「で?本日はどういったご用件で来たんですか?

別にご用が無くても私は大歓迎ですが・・・・」

 

「今日はアメリアちゃんの用事で来たんです。

魔法についてはエルさんに相談した方が良いと思って・・・・」

 

「頼りにしていただきありがとうございます。それでどういった事でしょうか?」
                                   ヴィスファランクス
「それは私が直接・・・・実は私が使う 霊王結魔弾 という魔法の強化について相談に乗ってもらおうと・・・」

「初めて聞く魔法ですね・・・・」

「はい。個人で考えて編み出しましたから」

「具体的にはどういったものなのですか?」

「拳にある一定の魔力を蓄積し、魔族に直接攻撃ができるようにするものです」
               アストラル・ヴァイン
「なるほど・・・・ 魔皇霊斬 の拳版というわけですか・・・・」

「早い話がそうです。でも今のままでは下級魔族はともかく、中級になると・・・・」

「威力が頼りない・・・ということですね」

「はい」

「なるほど・・・・」

 

 

エルさんはあらかたの事情を聞くと思案顔になった・・・・・

おそらく頭の中では目まぐるしくあらゆる可能性を考えているのだろう。

 

 

コンコン・・・・・

 

 

「お話中、申し訳ありません。お茶をお持ちしました・・・・」

 

 

誰かがドアをノックする。声から察するに女性みたいだ。

ただ以前に聞いた覚えがあるような気がするが・・・・・思い出せない・・・・

 

 

「入っても構いませんよ」

「はい失礼します」

 

 

お茶を持ってきた女性は中に入り、それぞれの前にお茶とお茶菓子を置いた。

俺はその顔を見て、どこで知り合ったのか思い出した。

 

 

「君はあの時の・・・・」

「え?・・・・あっ!!あなたは!あの時は危ないところをありがとうございました」

 

 

女性は俺に対して顔を真っ赤にして深々と頭を下げた。

この女性はこの前の襲撃の時に助けた女性魔導士だった。

 

 

「気にしなくてもいいよ。危ないときはお互い様だし・・・俺でなくてもきっと助けただろうしね」

「はい。でも・・・・ありがとうございます」

「知り合いだったのですか?」

「はい。一週間前の・・・・・」

 

 

俺はその時のことをかいつまんで話した。

そんなに大したことでもなかったし、隠す必要もないことだ。

 

 

「そうだったのですか・・・・私からも礼を言います」

「構いませんって・・・それよりもアメリアちゃんの方を・・・・」

「そうですね。ここはもういいですからあなたも仕事に戻って下さい」

「はい。それでは失礼します。本当にありがとうございました」

 

 

女性は最後にお礼を言って退室した。

なかなか義理堅い人だな・・・・・

 

 

「随分とおもてになりますね」

「まさか。からかわないで下さい」

「ふふふっ。そういうことにしておきますか」

 

 

エルさんは何やら苦笑しながら俺を見る。

俺の隣にいるアメリアちゃんは呆れているようだったが・・・・

 

そうしておくも何も・・・・そうと決まった訳ではないのにどうしてこういう事になるのか・・・・・

俺は前世で何か女性に対して酷いことでもしたのか?・・・・・俺は真剣に悩んだ。

 

 

「それはさておき・・・・」

 

 

できれば永遠に置いておいてほしい・・・・

 

 

「威力強化について二つほど考えてみました・・・・・」

「はい」

「まず一つは道具に頼ること」

 

 

                                          マジック・アイテム
ゼルがシンヤさんに頼んだように、何らかの 魔術道具 を流用するということか・・・・

これが一番安全で確実ではあるかもしれないな・・・・

 

 

                              マジック・アイテム
「ただ・・・・その為にはそれなりの魔術道具を探し出すことが先決です。

残念ながら我が魔導士協会にはそういった要望に応えることのできるものがありません」

 

 

シンヤさんの所にも・・・・もうないかもしれないな・・・・

魔導に関しては素人の俺でも、ゼルの剣に付けてある宝玉はかなり稀少度が高いとわかる。

 

 

「そして二つ目に・・・構成自身に手を加え、拳に蓄積する魔力を増加させさせる方法。

その場合、手に集束させた魔力を圧縮するなどをすると、より高い効果を得られるでしょう。

この思想は氣を元にしていますので、アキト様にはわかっていただけると思います」

 

「ええ、発剄などのように氣を一点に集中させ威力を高める。ということですね」

「はい。ただ問題なのは、かなりの集中力を使うのではないかと思われることです」

 

「集中力についてはこれからの特訓の課題に取り入れても構わないから大丈夫だと思います」

 

 

リナちゃんのやった事の二番煎じになるが、あの鉄球は何かと使えるだろう。

それにアメリアちゃんならああいった根性がつきそうな特訓は好きそうな気がするし。

 

・・・・・・ガイのお土産にでもするか?あの鉄球・・・・・

 

 

「後者にしておきます。有るか無いかわからない物に頼るよりは確実ですから」

「わかりました。なら、魔力の蓄積量を増やす・・・といった方向でよろしいですね?アメリアさん」

「はい。わざわざありがとうございます。ところで構成の方でも相談に乗ってほしいのですけど」

「私も興味があるので是非聞かせて下さい」

「元々の構成自身は・・・・・・」

「なるほど・・・そうでしたか・・・・ではこうしてはどうでしょうか?」

「それだと・・・・」

「ここをこうすれば・・・・・」

「なるほど!!では・・・・・」

 

 

二人は魔導の構成自身の話に没頭し始めた。

まだ魔導のことについて日が浅い俺には、話の内容は半分もわからない。

ここにガウリイがいたならすでに眠りこけているのは間違いないだろう。

 

 

 

ちなみにこの話については夕方近くまでかかることとなった・・・・

二人とも話に没頭していたらしい・・・・

 

俺はその端で黙って途中まで聞いていたが・・・・途中で脱落。というか最初の十分も持たなかった。

 

待っている間、俺は明日からのアメリアちゃんの修行についてのメニューを考えていたので、

無駄に過ごすことはなかった。

時間がたっぷりあったおかげで、色々と考えることができたので良しとしよう。

 

 

「すみませんエルさん。夕飯の手伝いをしたいのでそろそろ・・・・・」

「あら、もうそんな時間でしたか・・・・」

「よければ夕飯でも食べに来ませんか?アリスちゃんも来ますので」

「いいのですか?」

「いいと思いますよ」

「ではお言葉に甘えることにします」

「はい。では先に失礼します」

「ええ、楽しみにしています」

 

 

 

 

こうして・・・・この日の夕食はいつものメンバーに特訓に付き合ってもらった礼として、

アリスちゃん、そしてエルさんの二人を招くこととなった。

 

二人とも美味しいといって満足してくれた。

料理人にとって満足した笑顔は最高の称賛に思える。

 

 

 

料理のお礼として二人がゼルとアメリアちゃんの修行を手伝ってくれることになった。

アルバイトも休むわけにはいかないので俺としては助かる。

 

 

 

 

・・・・この日から一ヶ月・・・・

魔族からのなんのリアクションもなく、特訓に打ち込める日が続いた。

 

リナちゃん達四人はできる限り修行に打ち込んだ。

そして・・・・・修行により得た力が形となってきたある日の事・・・・

 

ルナさんからの一言により、その修行の成果を試すこととなった。

 

 

 

 

 

 

 

ちなみに・・・・魔導士協会での騒ぎの原因についてなのだが・・・・・

以前になれなれしくつきまとったやつが何人かいたそうだ。(本人の許可なく愛称で呼んでいたらしい)

当時、評議長になったばかりのエルさんとお近づきになろうとした奴等だそうだ。

 

その事で腹を立てたエルさんはアリスちゃんと一緒になって男どもを駆除したらしい。

 

その男どもは現在、神に仕えて第二の人生を送っているらしい・・・・

偶に街角で見かける、『人生って素晴らしい〜〜〜!!』といっている人達がそれらしいが・・・・・・

 

一体何があったのかは・・・・知らない方が幸せなことがあるという、

俺の人生哲学(又は過去の経験ともいう)に基づいて聞かないことにした。

 

 

 

 

 

(第十八話に続く・・・・)

 

 

 

―――――あとがき―――――

 

改めて・・・・読者の皆さま、始めまして。

前回のアリスに続き、あとがきの代役をさせていただくことになったエルネシアです。

 

作者はというと・・・・この話を書いている間に五回もパソコンが止まってしまい、

何回も書き直すはめになってしまったので燃え尽きてしまって・・・・・

 

「まさか!自分たちを出せという電子の妖精のお告げか!?それともピンク色の髪をしたあの方の・・・・・・」

 

                スリーピング
うるさいですね・・・・眠り!!                                       うぉ!!グゥ〜・・・グゥ・・・・

大変お見苦しいものをお見せして失礼いたしました。

と、まあそんな事を言っているので私が代役をしているわけです。

これも、こまめに保存をしない作者が悪いのですが・・・・放っておいて話を進めましょうか。

 

次の話は、ルナ様とリナ達の試合という形になるでしょう。

敵はいつまでも待ってはくれませんからね。精一杯頑張ってもらいましょう。

 

 

では最後に・・・・涼水夢様、ほたて様、シュウ様、Sakana様、イトッチ様、Shuhei様、

PITS様、チャーシュー様、悠久様、12式様、川嶋様、蒼夜様、神威様、Murasima様、

K・O様、森之音様、シヴァ様、わちゃ様、watanuki様、ふなむし様。

 

作者に代わり、ご感想のお礼を申し上げます。どうもありがとうございます。

 

では、第十九話で、あいましょう。たぶん私の出番はある・・・・・・はず。

 

 

代理人の感想

・・・・・まぁ、顔立ちがあれだから助かっていますが・・・・・

もし挿し絵があらいずみるいさんみたいなタッチでなければ

間違いなく暑苦しい女性キャラになっていたでしょう、ええ。

外見は美少女でも中身は熱血努力根性スポコン娘ですから(爆)。